説明

経食道心エコー用超音波プローブ

【課題】アングルチューブの欠陥の発生を検出できて、且つアングルチューブの交換を容易にできる経食道心エコー用超音波プローブを提供すること。
【解決手段】本発明一例の経食道心エコー用超音波プローブは、超音波を送受信する先端部と、先端部を食道に導く導中部と、前記先端部と前記導中部とに接続され、前記先端部と前記導中部の接続角度を変化させて屈曲させることができる屈曲部とを有し、前記屈曲部は複数層のチューブで被覆され、この最外層のチューブは絶縁性を有し、かつそれ以外の内層のチューブは導電性を有する材料で構成されて成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に用いる経食道心エコー用超音波プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
経食道心エコー用超音波(transesophageal echocardiography:TEE)プローブは、経口的に食道に挿入し、食道壁や胃壁を通して心臓を診断するための超音波プローブである。TEEプローブは、超音波を送受信する先端部、食道に挿入するための導中管、導中管と先端部とを接続しその屈曲角度が操作可能な屈曲部、屈曲部の屈曲角度を操作する操作部、および超音波診断装置本体に接続するためのコネクタ部から構成される。通常屈曲部は、消化器用内視鏡と同様にリンク機構により複数連なった金属性の屈曲機構をアングルチューブで被覆し、アングルチューブの弾性により屈曲部の曲がり易さの度合いを決めている。
【0003】
このアングルチューブは、一般にフッ素ゴムやシリコーンゴムといった耐久性や生体適合性に優れたゴム材料が用いられる。また、外部の電源から意図しない電流が患者に流れることを防止するため、患者に接触する導中管、屈曲部、および先端部は電気的にフローティングとなるF型装着部とする必要があることから、アングルチューブも絶縁性である必要がある。
【0004】
消化器用内視鏡においては、胃や十二指腸における操作性向上のため出来るだけ柔軟に屈曲できる屈曲部が要求されるが、TEEプローブでは通常光学系を持たないため、プローブの挿入や操作の仕方によっては咽喉頭、食道、胃粘膜などを損傷する恐れがある。そのためTEEプローブの挿入時や操作時には先端部の急激な折れ曲がりを防止する必要があり、屈曲部が安易に屈曲してしまわないような耐屈曲特性が要求される。
【0005】
このような耐屈曲特性を実現するには主に2つの方法がある。一つは屈曲部に使用するアングルチューブの弾性定数を変えることで屈曲部自体の耐屈曲特性を高める方法であり、もう一つは屈曲部を操作する操作ノブに屈曲部が安易に屈曲しないような機構を付加する方法である。
【0006】
前者のアングルチューブの弾性定数を変えて耐屈曲特性を向上する方法では、初めから伸びの少ないゴム材料を選択して使用するか、ゴムの厚みを大きくすることで復元力や反発力を高めることが可能である。しかし、TEEプローブのアングルゴムを厚くするとゴムが伸びなくなるため、組立時や修理交換時にアングルチューブを導中管よりも大きな径を持つ先端部を通せなくなる。このため、アングルチューブの伸び量によっては先端部の径を制限することとなる。
【0007】
先端部を更に小型化することは体腔内でのスムーズな移動を可能にするので、患者にとっては挿入時の肉体的負担を減らせるが、超音波振動子の口径が小さくなるため画質が悪化するという問題がある。よってアングルゴムに同じ弾性定数を持たせながら、しかもアングルチューブの交換を容易にするために、例えば、半分の厚さのアングルチューブを二重にすることにより、それぞれのアングルチューブを伸びやすくし交換を容易にする方法が考えられる。屈曲部のアングルチューブを二重にする例は、アングルチューブの交換を容易にする目的ではないが、内視鏡においてはアングルチューブの欠陥の発生を検出する目的で知られている(参考文献1参照)。
【0008】
また、屈曲部が安易に屈曲しないような機構としては、摩擦機構や回転クリック機構により、容易には操作ノブが回転しないようにすることが可能である。しかし長期にわたる安定性に問題が生じたり、機構が複雑化してコストアップの原因になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−211432号公報 (図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アングルチューブは、使用しているうちに患者に噛まれたり、取扱時の外力、経年変化により破損してしまうことがある。アングルチューブが破損して穴が生じた場合に、プローブ内部に液体が侵入して内部機構に影響を与えたり、穴に細菌が繁殖して感染源となったりする問題が生じる可能性がある。
【0011】
特許文献1に開示された内視鏡は、二重のアングルチューブのゴム部材の間に気体を注入できる構造を有しており、アングルチューブの破れを簡単に検出することができる。
【0012】
一方、気体を注入できる構造を持たないTEEプローブでは、使用前の点検で先端部を水没させ、先端部周囲の水とプローブ内部の金属との絶縁を測定して穴が発生したかどうかを検出できるような仕組みがある。このようなTEEプローブでは、絶縁性のアングルチューブを二重にした場合、外層のゴムに穴があいても絶縁性が保たれるため、欠陥の発生を検出することができない。そうすると外層ゴムの穴から細菌等が内層のゴムとの間に侵入し患者間で感染の危険性がある。
【0013】
そこで本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、アングルチューブの欠陥の発生を検出でき、しかもアングルチューブを容易に交換できる経食道心エコー用超音波プローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、超音波を送受信する先端部と、先端部を食道に導く導中部と、前記先端部と前記導中部とに接続され、前記先端部と前記導中部の接続角度を変化させて屈曲させることができる屈曲部とを有し、前記屈曲部は複数層のチューブで被覆され、この最外層のチューブは絶縁性を有し、かつそれ以外の内層のチューブは導電性を有する材料で構成されて成ることを特徴とする経食道心エコー用超音波プローブを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アングルチューブの欠陥の発生を検出でき、アングルチューブの交換が容易でしかも屈曲部の屈曲特性を向上させた経食道心エコー用超音波プローブが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る経食道心エコー用超音波プローブの概観図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る経食道心エコー用超音波プローブの屈曲部の内部構造を示した図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る経食道心エコー用超音波プローブの屈曲部の断面構造を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る経食道心エコー用超音波プローブの概観図である。超音波を送受信する先端部11、食道に挿入するための導中管12、この導中管12と先端部11とを接続し、その屈曲角度が操作可能な屈曲部13から構成され、ここでは図示しないがさらに、屈曲部13の屈曲角度を操作できる操作部、超音波診断装置本体に接続するためのコネクタ部を有する。先端部11は、超音波振動子14が内蔵しており、ここで超音波の送受信を行う。また、屈曲部13は、後述するアングルリンクの周囲にアングルチューブが被覆されている。
【0018】
図2は、本発明の一実施形態に係る経食道心エコー用超音波プローブの屈曲部の内部構造を示した図であり、図1の状態からアングルチューブの一部を除去し、屈曲部13の内部構造がわかるように示している。図3は、屈曲部13の断面構造を示す。
【0019】
図2および図3に示すように、屈曲部13ではアングルリンク21の外周上に2つのアングルチューブ22、23が被覆されている。内側のアングルチューブ22は導電性であり、外側のアングルチューブ23は絶縁性である。
【0020】
屈曲部13は複数のアングルリンク21で導中管12および先端部11を接続している。アングルリンクは各々の節輪24で軸接続されており、この軸を中心に各々決まった角度まで回転できるようになっている。このような構成をとることで、先端部11は曲線を描きながら導中管12に対して角度を有して配置することが可能となる。さらに隣り合う90度回転した位置にも節輪24が配置されているので、前記軸と直交する方向軸に対しても角度を有して配置することが可能である。このアングルリンク21を覆うようにアングルチューブ22、23が被せられアングルチューブ22、23の両端を導中管12および先端部11にそれぞれ固定具25a、25bで固定する。これにより、内部の気密性を確保し、体液などの液体が機構内部に浸入しないようにすることできる。さらにこのアングルチューブ22、23は柔軟性を有しているので、アングルリンク21のワイヤ動作に伴って屈曲部13を曲がった状態にすることができる。屈曲部13を曲げる手段については内視鏡の一般的な技術であるので詳細を示さないが、節輪24に接続された図示しないワイヤを導中管12および屈曲部13内部に配置し、このワイヤを操作することにより任意の方向へ曲げることができる。
【0021】
TEEプローブは、使用しているうちに患者に噛まれたり、取扱時の外力、経年変化によりアングルチューブが破損してしまうことがある。アングルチューブが破損して穴が生じた場合に、内部に液体が浸入して内部機構に影響を与えたり、穴に細菌が繁殖して感染源となったりする問題が生じる可能性がある。そのため、使用前の点検で先端部11と屈曲部13を水没させ、先端部11の周囲の水とプローブ内部の金属との絶縁を検出できるような仕組みがある。
【0022】
アングルチューブに穴が開いている状態になった場合は、アングルチューブの交換を行う必要がある。TEEプローブは内視鏡と異なり、良好な超音波画像を得るために超音波を放射する面が広く確保され先端部11が導中管12よりも大きい径となることが多い。これは超音波放射面の広い方が信号対雑音比(Signal to Noise Ratio;S/N)が良く、フォーカスを絞ることができるため超音波画像の分解能の点で有利となるからである。アングルチューブは導中管12とほぼ同径であり、交換するためには径の大きい先端部11を乗り越えて取り付ける必要がある。アングルチューブは屈曲に必要な伸縮性を有するものの、材質としてフッ素ゴムが使用されることが多く伸縮には限界がある。そのためアングルチューブの厚みを大きくすると全体の伸び量が少なくなり、先端部11を乗り越えて交換することができない場合が生ずる。
【0023】
光学系を持たないTEEプローブでは、挿入時に咽喉や食道内で急に折れ曲がらないように耐屈曲特性が求められるため、アングルチューブに使用するゴムの弾性定数から最適な厚みが計算される。しかし交換時の伸縮性の問題からアングルチューブの厚みを最適な厚みにすることができず、超音波画像の性能と耐屈曲特性との間にはトレードオフの関係がある。
【0024】
そこで本実施形態では、屈曲部13をアングルチューブ22、23で2重に被覆する構成としている。このようにすれば、各々のアングルチューブとしては伸びやすくなり、交換が容易になる。そして2つのゴム全体ではゴムの弾性定数は耐屈曲特性の最適値とすることが可能である。さらに外側のアングルチューブ23(最外層)は従来のTEEプローブ同様フッ素樹脂などの非導電性ゴムを使用するが、内側のアングルチューブ22(内層)は導電性を有する構成とする。
【0025】
導電性を持つアングルチューブ材料としてはシリコーンゴムをベースに導電フィラーを混合したものが挙げられる。シリコーンゴムは生体適合性に優れる材料であり、生体安全性を確保しつつ伸縮性にも富む材料であるためアングルチューブ22の材料として適している。導電性を持つ内側のアングルチューブ22とアングルリンク21とが電気的に接続されることによって外側のアングルチューブ23に穴が生じた場合、従来同様の検査で外側のアングルチューブが破損したことを検出することが可能である。
【0026】
尚、アングルチューブの破損程度がひどく、内側のアングルチューブ22にまで穴が到達する場合についても、同様の検査でアングルチューブが破損していることが検出できる。ただし、外側のアングルチューブ22だけの破損なのか、両方のアングルチューブ22、23の破損かは区別して検出できないため、アングルチューブの破損が検出された場合には、アングルチューブ22、23の両方を交換する。
【0027】
以上述べたように、本実施形態ではアングルゴムを最外層と内層の2重構造とすることで、アングルチューブ全体の厚みを最適な耐屈曲特性を持つ厚みとすることが可能であり、耐屈曲特性を向上させることが可能となる。また、各々のチューブ厚みは従来より薄くできるので、先端部の大きさを変更することなくアングルチューブの交換が可能である。そのため超音波画像を犠牲にすることなく良好に保つことができる。
【0028】
尚、本実施形態では、内層が1層、すなわち2層構造のアングルチューブを有する場合について説明したが、内層を1層より大きくした方が設計上有利になる場合が多い。すなわち、超音波画像の性能を決定する先端部11の大きさと、最適な耐屈曲特性を持つように屈曲部13のアングルチューブ全体の厚さとを独立に設計した後、先端部11を乗り越えて交換できる厚さになるようにアングルチューブの層数を決定する。この場合は、最外層のアングルチューブを絶縁性とし、それ以外の内層を導電性とする。これによりTEEプローブをF型装着部にすることができる。
【0029】
本発明による経食道心エコー用超音波プローブによれば、アングルチューブの検査が従前と同様な方法で行うことが可能であり、さらに従来サイズの先端部を使用することができるので画質を犠牲にすることがない。また機構部の耐久性やコストに影響を与えずに屈曲部の耐屈曲特性の向上が可能である。
【0030】
また、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い。本発明の技術思想を用いる限りこれらの変形例も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
11…先端部、12…導中管、13…屈曲部、14…超音波振動子、21…アングルリンク、22,23…アングルチューブ、24…節輪、25a、25b…固定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する先端部と、
先端部を食道に導く導中部と、
前記先端部と前記導中部とに接続され、前記先端部と前記導中部の接続角度を変化させて屈曲させることができる屈曲部とを有し、
前記屈曲部は複数層のチューブで被覆され、この最外層のチューブは絶縁性を有し、かつそれ以外の内層のチューブは導電性を有する材料で構成されて成ることを特徴とする経食道心エコー用超音波プローブ。
【請求項2】
前記内層のチューブは、導電フィラーを混合したシリコーンゴムで構成されて成ることを特徴とする請求項1記載の経食道心エコー用超音波プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−55901(P2011−55901A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206095(P2009−206095)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】