説明

結合部材の分離方法

【課題】結合部材を容易かつ安全に分離する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】凹部11cが設けられ、Wを含有する合金からなる錘11と、凹部11cに嵌合保持された軸12とからなる結合部材10の分離方法であって、結合部材10を2μg/30ml以上のFeイオンを含む過酸化水素水に浸漬して、結合部材10を軸12と錘11とに分離する結合部材の分離方法を用いることによって前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結合部材の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球上の資源不足が明らかになっている。そのため、完成品を分解し、材料ごとに選別した部品を材料ごとに再資源化・再利用するリサイクル技術が脚光を浴びている。
【0003】
金属を含む家電廃棄物、特にモーターには、銅、鉄、タングステンなど貴重な金属材料が多く用いられている。そのため、従来、モーターは人手によって分解され、金属材料ごとに分離回収されていた。
しかし、人手による分離回収では、回収効率を上げることが困難であり、また、小型モーターのような小さな部材になると、人手により分離回収することがより困難であった。例えば、携帯電話機や小型家電等のバイブレーターのモーターの偏芯振動機は1cm以下のものが多く、人手により分離回収することが困難であった。
タングステン(W)は比重が大きいため、携帯電話機や小型家電等のバイブレーターのモーターの偏芯振動機のおもりに多く用いられている。
【0004】
この分離回収工程を、人手をなるべくかけずに行う方法が検討されている。
例えば、特許文献1には、モーター屑などから、2価の銅アンミンを浸出剤とする浸出液によって銅のみを選択的に溶出させ、銅・鉄等を分離回収する方法が開示されている。しかし、この方法では、タングステンのみを分離回収することが困難であった。
【0005】
なお、特許文献2には、非鉄金属付着プラスチックから非鉄金属のみを分離回収する方法が開示されている。この構成によれば、不要電子機器から非鉄金属類を濃縮分離して回収できる。しかし、金属類を金属の種類ごとに分離回収することが困難であるという問題がある。
【0006】
また、特許文献3は、金属アルミニウムの回収装置およびアルミドロスのリサイクルシステムに関するものであり、アルミ含有物を物理的に分離した後、ふるいにかけて金属アルミニウムを回収する方法が開示されている。しかし、タングステンの回収については記載されていない。
【0007】
タングステンは、通常、他の製品とともに乾式製錬で溶解処理されるか、または、アルカリ性溶液に長時間浸漬して全量溶解処理をした後、回収されていたので、再利用効率は低かった。
そのため、携帯電話機や小型家電等からタングステンのみを現状に近い形で回収できれば、かなりまとまった量のタングステンが入手でき、材料のリサイクル技術に大いに役に立つ。
【0008】
偏芯振動機からタングステンを回収する試みは様々なされている。例えば、過酸化水素水に偏芯振動機を浸すことにより、タングステンの表面を酸化して溶出することにより、分離することができる。
しかし、よく知られているように、タングステン粉末は過酸化水素水と激しく反応する。そのため、タングステン粉末を過酸化水素水に反応させる場合、注意が必要だった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−240373号公報
【特許文献2】特開平9−324222号公報
【特許文献3】特開2007−98243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
容易にかつ安全に、結合部材を分離する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の結合部材の分離方法は、凹部が設けられ、Wを含有する合金からなる錘と、前記凹部に嵌合保持された軸とからなる結合部材の分離方法であって、前記結合部材を2μg/30ml以上のFeイオンを含む過酸化水素水に浸漬して、前記結合部材を前記軸と前記錘とに分離することを特徴とする。
【0012】
本発明の結合部材の分離方法は、前記過酸化水素水の温度を0℃〜45℃の温度範囲とすることを特徴とする。
【0013】
本発明の結合部材の分離方法は、前記結合部材に超音波振動を印加することを特徴とする。
【0014】
本発明の結合部材の分離方法は、前記結合部材が振動モーターに取り付けられている偏芯振動器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の結合部材の分離方法は、凹部が設けられ、Wを含有する合金からなる錘と、前記凹部に嵌合保持された軸とからなる結合部材の分離方法であって、前記結合部材を2μg/30ml以上のFeイオンを含む30%過酸化水素水に浸漬して、前記結合部材を前記軸と前記錘とに分離する構成なので、容易にかつ安全に、結合部材を分離する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】結合部材の一例を示す図であって、図1(a)は斜視図であり、図1(b)は平面図であり、図1(c)は側面図である。
【図2】振動モーターの一例を示す図である。
【図3】実施例1で用いた振動モーターを示す写真である。
【図4】実施例1と比較例1の放置後の過酸化水素水の鉄とタングステンの量の結果を示すグラフである。
【図5】鉄イオンを0〜20μg添加した溶液に分離した錘を浸漬して20℃で一時間放置した時のタングステンの溶解量の結果を示すグラフである。
【図6】振動モーターと、その分離された状態を示す写真である。
【図7】各実験条件の分離時点の過酸化水素水へのWの溶解量を示すグラフである。
【図8】各種振動モーター及びその分離された状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本発明の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の結合部材の分離方法を説明する。
図1は、結合部材の一例を示す図であって、図1(a)は斜視図であり、図1(b)は平面図であり、図1(c)は側面図である。
図1に示すように、結合部材10は、軸12と錘11とから概略構成されている。
【0018】
軸12は、円柱状の部材であり、振動モーターに要求される程度以上の剛性を有していればよく、材質は特に限定されない。例えば、金属材料又はセラミックス材料などを用いることができる。
【0019】
錘11は、Wを含有する合金からなる略半円柱形の部材であって、振動モーターの錘として用いられるものである。
錘11には略半円柱状にくり抜かれた凹部11cが設けられており、凹部11cに軸12が嵌合保持されている。錘11と軸12の接合部分は長さlとされている。
【0020】
凹部11cに嵌合された軸12の長さlは、一端12a側から1/3以下とされている。振動モーターの錘としての機能を効率よく発現させて用いるためである。
軸12の一端側の側面が50%以上覆われるように凹部11cに嵌合されている。振動モーターの錘として、容易には外れないように用いられるためである。
【0021】
本発明の実施形態である結合部材の分離方法は、結合部材10を2μg/30ml以上のFeイオンを含む過酸化水素水に浸漬して、結合部材10を軸12と錘11とに分離する方法である。
前記過酸化水素水の濃度は、30m/m%〜35.5m/m%が好ましく、30m/m%がより好ましい。この濃度の過酸化水素水を用いることにより、所定の電位差を与えて、タングステンを溶解することができる。
所定の電位差とは、1V以上2V以下の電位差である。1V以上とすれば、タングステンを溶解することが可能であり、2V以下とすれば、ニッケルや鉄を溶解させることがない。これにより、結合部材10に含まれるニッケルや鉄を溶解させず、結合部材10の形状を保持したままで、タングステンのみを溶解して、凹部11cから嵌合保持された軸を分離することができる。
【0022】
結合部材10を、液槽に満たしたFeイオンを含む過酸化水素水に浸漬する。これにより、錘11の凹部11cに過酸化水素水を入り込ませることができる。凹部11cのタングステンを部分的に、かつ、集中的に溶解させることにより、容易にかつ安全に、軸12からWを含有する錘11を、ほぼ現状の形状で取り外すことができる。
なお、軸12と錘11は、メッシュ等を用いて、容易に回収できる。
【0023】
過酸化水素水におけるFeイオン濃度は、2μg/30ml以上とすることが好ましい。これにより、Wの溶解度を向上させることができる。2μg/30ml未満の場合、例えば、Feイオン未添加の場合は、Wの溶解度を向上させることができず、結合部材の分離を容易に行うことはできない。
【0024】
過酸化水素水の温度を0℃〜45℃の温度範囲とすることがより好ましい。これにより、酸化反応を活発にでき、Wの溶解度をより向上させることができる。50℃超とすると、過酸化水素の分解や飛散が発生するので好ましくない。0℃未満とすると、過酸化水素水が凍ってしまい好ましくない。
【0025】
結合部材10に超音波振動を印加することがより好ましい。これにより、軸12と錘11の間の間隙を広げることができ、前記間隙に過酸化水素水をより多く入りこませて、凹部11cのWの溶解度をより向上させることができる。
【0026】
図2は、振動モーターの一例を示す斜視図である。
図2に示すように、振動モーター50は、マグネット31、ブラシホルダー32、整流子33、ブラシ34、給電端子35、偏芯振動器40を有して構成されている。
偏芯振動器40は、結合部材10と、マグネット31とからなる。
【0027】
振動モーター50を、液槽に満たしたFeイオンを含む過酸化水素水に浸漬する。これにより、錘11の凹部11cに過酸化水素水を入り込ませることができる。凹部11cのタングステンを部分的に、かつ、集中的に溶解させることにより、容易にかつ安全に、軸12からWを含有する錘11を、ほぼ現状の形状で取り外すことができる。
なお、軸12と錘11は、メッシュ等を用いて、容易に回収できる。
【0028】
本発明の実施形態である結合部材の分離方法は、凹部11cが設けられ、Wを含有する合金からなる錘11と、凹部11cに嵌合保持された軸12とからなる結合部材10の分離方法であって、結合部材10を2μg/30ml以上のFeイオンを含む過酸化水素水に浸漬して、結合部材10を軸12と錘11とに分離する構成なので、容易にかつ安全に、結合部材10を分離する方法を提供することができる。
記結合部材を2μg/30ml以上のFeイオンを含む過酸化水素水に浸漬して、前記結合部材を前記軸と前記錘とに分離する
【0029】
本発明の実施形態である結合部材の分離方法は、前記過酸化水素水の温度を0℃〜45℃の温度範囲とする構成なので、過酸化水素の分解や飛散が発生させることなく、かつ、過酸化水素水を凍らせることなく、容易にかつ安全に、結合部材10を分離する方法を提供することができる。
【0030】
本発明の実施形態である結合部材の分離方法は、結合部材10に超音波振動を印加する構成なので、容易にかつ安全に、結合部材10を分離する方法を提供することができる。
【0031】
本発明の実施形態である結合部材の分離方法は、結合部材10が振動モーターに取り付けられている偏芯振動器である構成なので、容易にかつ安全に、偏芯振動器40の結合部材10を分離する方法を提供することができる。
なお、本発明の実施形態である結合部材の分離方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
まず、結合部材として、図3の写真左に示す振動モーターを用意した。この振動モーターは、実際の携帯電話から回収したものであり、軸の一端側に分銅が取り付けられ、軸の他端側に、希土類マグネット、ブラシホルダー、給電端子、貴金属ブラシ、整流子などが取り付けられたものである。
【0033】
次に、市販の30%の過酸化水素水30mlを液槽に満たし、鉄を2μg添加してから、振動モーターを浸漬した。
20℃の室温で約24時間放置した。
その結果、図3の写真右に示すように錘を分離する事が出来た。
【0034】
(比較例1)
鉄を添加しなかった他は実施例1と同様にして、市販の30%の過酸化水素水30mlに振動モーターを浸漬して、20℃の室温で約24時間放置した。
錘を分離する事が出来なかった。
【0035】
実施例1と比較例1の放置後の過酸化水素水の鉄とタングステンの量を調べた。図4がその結果を示すグラフである。
鉄を2μg添加した過酸化水素水で、溶解度が向上したことが分かった。
【0036】
(実施例2)
鉄イオンを0〜20μg添加した溶液に分離した錘(約0.5g)を浸漬して20℃で一時間放置した時のタングステンの溶解量を調べた。
図5にその結果を示す。鉄量が増えるほど溶解するタングステンの量も増加した。タングステンの溶解度の増加は、鉄による触媒作用と考えた。
【0037】
(実施例3)
図6(a)に示す振動モーターを用い、図6(b)に示すように分離するまでの時間を、過酸化水素水の温度を20℃にした場合、40℃にした場合及び超音波振動を加えた場合について調べた。
錘の分離までは、20℃の室温では約24時間、40℃に加熱した場合は約4時間を要した。また、超音波洗浄器を用いて、超音波振動を加えた場合は約1時間で分離が可能であった。なお、超音波洗浄器の場合は時間により温度が上昇したために約45℃であった。
【0038】
図7は、実施例3の各条件の分離時点の過酸化水素水へのWの溶解量を示すグラフである。
錘の分離には物理的要素である超音波振動が加わると分離までの時間は短くなった。また、それにより溶解するタングステンの量も少なくなることが分かった。これは、物理的作用で軸と錘部分溶液の接触が良くなり、時間短縮による錘全体の溶解が抑えられるためと考えた。
【0039】
(実施例4)
携帯電話に使用される振動モーターは機種や製造時期により様々なものが用いられている。そこで、錘の大きさが異なる振動モーター、具体的には、錘と軸の接合部分の長さlが異なる振動モーターについて検討を行った。図8は、本実施例の各種振動モーター及びその分離された状態を示す写真である。実施例1と同様にして、いずれのものも20℃で24時間以内に分離する事が出来た。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の結合部材の分離方法は、容易にかつ安全に、結合部材を分離することができ、材料をリサイクルする産業に利用可能性がある。
【符号の説明】
【0041】
10…結合部材、11…錘、11c…凹部、12…軸、12a…一端、12b…他端、31…マグネット、32…ブラシホルダー、33…整流子、34…ブラシ、35…給電端子、40…偏芯振動器、50…振動モーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部が設けられ、Wを含有する合金からなる錘と、前記凹部に嵌合保持された軸とからなる結合部材の分離方法であって、
前記結合部材を2μg/30ml以上のFeイオンを含む過酸化水素水に浸漬して、前記結合部材を前記軸と前記錘とに分離することを特徴とする結合部材の分離方法。
【請求項2】
前記過酸化水素水の温度を0℃〜45℃の温度範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の結合部材の分離方法。
【請求項3】
前記結合部材に超音波振動を印加することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の結合部材の分離方法。
【請求項4】
前記結合部材が振動モーターに取り付けられている偏芯振動器であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の結合部材の分離方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−35154(P2012−35154A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174945(P2010−174945)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】