説明

結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法

【課題】結晶性乱層構造窒化硼素粉末を安価に製造する方法を提供すること。
【解決手段】無水硼酸と尿素の混合物を硼酸アルカリと共に/又はなしで密閉ないし準密閉反応容器中に入れ、非酸化性の1気圧より高い圧力雰囲気に保持して順次温度を上げ、850〜950℃までの温度に加熱反応させて実質的に非晶質の窒化硼素を合成し(一次工程)、次いで反応生成物を1200〜1400℃で加熱してt−BNへと結晶化し、生成物を水性洗浄液で洗浄して精製して、結晶性乱層構造窒化硼素粉末を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼結性に優れ、特に高純度でかつ安価に量産できる窒化硼素粉末、特に乱層構造を有する窒化硼素粉末の(特に量産可能な)製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化硼素には六方晶系の窒化硼素(以下h−BNという)、菱面体晶系の窒化硼素(以下「r−BN」)、非晶質の窒化硼素(以下a−BNという)、乱層構造(turbostratic)の窒化硼素(以下t−BNという)及び高圧相であるZinc Blend型のc−BNとW urtzite型のw−BNが知られている。a−BNは、たとえば900℃以下の比較的低温で窒化硼素を合成すると生成し、高温で窒化硼素を合成したり、低温で合成されたa−BNを高温で熱処理すると、結晶化が進んで安定な六方晶系のh−BNに転化することが知られている。h−BN粉末の一次粒子は通常六角板状である。
【0003】
h−BN粉末の粉末X線回折図には(図1に示すように)[002]、[100]、[101]、[102]及び[004]の回折線が顕著である。これに対しa−BNである窒化硼素粉末のX線回折図は、一般に、図8に示すようにh−BN粉末の粉末X線回折図の[002]回折線と、[100]回折線及び[101]回折線に相当する位置に[100]回折線と[101]回折線とが合体したいずれもブロード(半価幅が大きい)な回折線を示す(以下、説明の便宜上h−BN以外の結晶構造を有する窒化硼素結晶の粉末X線回折における回折線をh−BN粉末の粉末X線回折による回折線の呼称で呼ぶ)。h−BNは硼素と窒素の六角形の網目層がaa’aa’・・・・のパターンで積層した結晶構造を有するが、硼素と窒素からなる六角形の網目層の積層形態が変われば六方晶系でない結晶系の窒化硼素結晶になり、積層形態(即ち積層層間の相互関係)に規則性のない窒化硼素が一般的に乱層構造窒化硼素と呼ばれる。
【0004】
この極く広義の一般的な意味では、a−BNも一種の乱層構造を有する窒化硼素であり、たとえば非特許文献1に説明があるように、a−BNを乱層構造窒化硼素とする分類方法もあるが、これは非晶質窒化硼素と称すべきものであり、本発明では結晶が相当発達してその粉末X線回折図の[004]回折線を始めとする回折線がある程度顕著に現われたものをt−BNと呼ぶものとする。(さらに本発明においては、後述の通り、[004]回折線の2θの半価幅が所定値以下の結晶であって、かつ積層形態(パターン)に規則性のない窒化硼素を特に結晶性t−BNとして意図するものである。)
【0005】
窒化硼素は黒鉛と類似の層状結晶構造を有していることによって、電気的に優れた絶縁体である点を除くと、黒鉛と類似の性質を有している。たとえば、層間の結合が弱く鱗片状に劈開しやすい、固体潤滑性がある、非酸化性雰囲気中では高温まで安定である、難焼結性である、焼結体は容易に機械加工できる、加えて酸化温度が黒鉛に比べて約500℃程高い(約1000℃)等である。窒化硼素には材料として魅力的な性質があるので、もし焼結性に優れた或いは高純度な窒化硼素粉末を安価に製造でき、安価に焼結体を提供できれば経済的に成立しなかった多くの新用途を実現できることになる。
【0006】
窒化硼素の製造方法としては、次のような方法が知られている。
(1)硼砂と尿素の混合物をアンモニア雰囲気中で加熱する(特許文献1)。
(2)硼酸や硼酸アンモニウムを含窒素化合物(尿素、アンモニア、メラミン、ジシアンジアミド等)とともに加熱する(特許文献2、特許文献3、特許文献4、非特許文献2)。
(3)硼素粉末を窒素とアンモニアの雰囲気中で加熱する(特許文献5)。
(4)BCl3とNH3を減圧下で気相反応させて合成する(特許文献6)。
(5)ボラジン又はボラジン誘導体を熱分解する(特許文献7)。
(6)非特許文献2には、尿素と硼酸をアンモニア中で500〜950℃で加熱反応して合成された窒化硼素粉末が乱層構造炭素と同様の乱層構造を有すると報告されている。
【0007】
【特許文献1】特公昭38−1610号公報
【特許文献2】特公昭48−14559号公報
【特許文献3】特公昭5−47483号公報
【特許文献4】特開平7−172806号公報
【特許文献5】特公平7−53610号公報
【特許文献6】特開平2−296706号公報
【特許文献7】特公平4−4966号公報
【非特許文献1】資源・素材学会誌Vol.105(1989)No.2,p201
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.vol.84 p4619−4622,1963
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明に至る開発経過において従来技術について以下のような問題に直面することが分かった。
(1)の方法による合成粉末は低温で反応させたものはa−BNであり、高温で反応するとh−BNになるとされており、反応で生成した合成粉末中にはかなり多くのNa成分が含まれていて、そのままでは電気絶縁性が必要な用途には適さない。(2)の方法では、1000℃未満の低温で合成するとa−BN粉末が得られ、高温で合成すれば硼酸がh−BNの結晶化を促進してh−BNになるとされている。これは、本発明の観点からすると、合成されたa−BN粉末は硼酸以外の不純物を含まないが、硼酸があるためh−BNが生成しやすいという問題がある。
【0009】
(3)と(5)の方法では、原料である硼素粉末やボラジン、ボラジン誘導体が高価であり、結果的に製造する窒化硼素も高価になる。(4)の方法は生産性が劣り、反応で生成する塩酸ガス等に腐食性があって刺激臭もあるので、作業環境上の問題及び塩酸ガスの吸収除去装置を必要とするため設備費が高くつくという問題がある。また、これらの報告中には、いずれについても結晶性のよいt−BN粉末が得られたという記載は見当たらない。
【0010】
他方、(6)の方法では、本発明の観点からするとこの窒化硼素はその粉末X線回折図の[002]回折線に相当する位置及び、[100]回折線と[101]回折線に相当する個所にそれぞれブロード(半価幅が大きい)な回折線[002],[10]を示し、[004]回折線も認められないような非晶質窒化硼素粉末について説明しているに過ぎない(Fig.1A)。そしてさらに高温にした場合約1450℃で乱層構造から六方晶系への変態が開始し、1850℃で完了するとされると共に、結晶化が進むと部分的三次元規則化が生じ(Fig.1B、C)最終的に六方晶系の完全な三次元規則化に到達すると報告している。なお、この場合も酸化硼素の残留が不可避である。
【0011】
以上のとおり、従来知られたいずれの方法においても、乱層構造窒化硼素(特により結晶化の進んだ結晶性乱層構造窒化硼素)を標的に量産可能な方法は知られていない。また、そのように量産可能な性質の結晶性乱層構造窒化硼素も従来知られていない。
本発明の基本目的は、新規な結晶性乱層構造窒化硼素の製造方法を提供することにある。より詳しくは、本発明は上記問題点を解決して焼結性に優れ、かつ安価な乱層構造窒化硼素粉末、特に結晶性乱層構造窒化硼素の量産可能な製造方法を提供することを具体的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の視点において、実質的に非晶質の窒化硼素をフラックス剤としての有効量の溶融硼酸アルカリの存在下に非酸化性雰囲気中(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)において結晶性乱層構造窒化硼素(結晶性t−BN)へと結晶化させる工程(t−BN結晶化工程ないし二次工程)を含むことを特徴とする結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法が提供される。
【0013】
ここに、BNの結晶化とは、一般には三次元的規則配列を持ったBNへの移行を指すが、ここで言うt−BN結晶化とは、BNの層が次第に発達し、層面内回転に関しては不規則ながら層間相互の平行性が増し、層間間隔が揃って行く過程、即ち結晶性のt−BN化について言うものとする。
【0014】
前記t−BN結晶化工程は、約1500℃以下で実質的に結晶性t−BNに達するまでの所定時間行うことが好ましく、さらに1200〜1400℃の温度で行なうことが好ましい。なお、第1の視点においてこの二次工程の出発物質は好ましくは、第2の視点以下に示すがこれに限定されず、任意の非晶質窒化硼素を用いることも可能である。また、部分的に乱層構造の結晶化の進行した中間段階のものを用いることも、結晶性のt−BNの種を用いることもできる。
【0015】
本発明の第2の視点において、硼素源をなす硼素酸化物ないし加熱により硼素酸化物を生ずる物質と窒素源にフラックス剤としての有効量の硼酸アルカリを含む混合物を非酸化性の雰囲気(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)に保持して加熱反応させて実質的に非晶質の窒化硼素を合成する工程(一次工程ないしBN合成工程)を含むことを特徴とする結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法が提供される。
【0016】
前記窒素源として尿素を用いることが好ましい。硼酸アルカリはその水和物として用いることができ、硼酸ナトリウム及び/又はその水和物を用いることができる。前記一次工程は、1200℃未満で少なくともフラックス剤の溶融温度以上まで加熱して行うことが好ましい。さらに、前記反応を850〜950℃までの温度に加熱して行なうことが好ましい。
【0017】
本発明の第3の視点において、硼素源と窒素源を含有する混合物を大気圧ないし加圧条件下(密閉ないし準密閉容器中を含む)に加熱反応させて実質的に非晶質の窒化硼素を合成する工程(一次工程ないBN合成工程)を含むことを特徴とする結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法が提供される。加熱時の圧力を大気圧以上に保つことにより、反応が促進され、高純度を目指す場合、硼酸アルカリの量は極く少量とするか、又は全くなくてもよい。その反応生成物は洗浄を施すことなく、t−BN結晶化処理を行うことができる。加熱反応は1200℃未満、好ましくは950℃以下まで加熱して行うことができる。
【0018】
第2、第3の視点において、前記一次工程における非酸化性雰囲気は出発混合物の加熱分解ガス成分から主として成ることができる。前記一次工程を反応容器中において生成ガスの吸引排気をすることなく行うことができ、非酸化性雰囲気が大気圧ないし微加圧を含む大気圧より高い圧力にできる。
また、第2、第3の視点において混合物中の硼素源としての硼素と窒素源としての窒素のN/B比を窒素過剰とすることができ、N/B比は1.01以上、さらに1.5以上、さらに2以上とすることが好ましい。例えば尿素/無水硼酸の重量比は1.5以上、さらに2以上が好ましく、約6/4〜9/4の範囲(N/B比1.75〜2.6)が最も好ましい。
【0019】
さらに、前記t−BN結晶化工程(二次工程)において、窒素源をさらに添加(さらに加熱)することもできる。これは窒素雰囲気の生成、さらには未反応硼素源の反応の完遂に資する。
混合物中の硼酸アルカリの量を0.01重量%以上、20重量%以下(さらに0.1〜15重量%(ないし1〜10重量%)とすることが反応促進上好ましいが、高純度化のためには、硼酸アルカリを用いないことがより好ましい。但し、その場合、圧力等の反応条件及び仕込み混合物のN/B比を最適化して調節する。
【0020】
前記一次工程の反応生成物を非酸化性雰囲気中(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)で1500℃以下、さらに1450℃以下、特に1200〜1400℃に保持して結晶性乱層構造窒化硼素(t−BN)へと結晶化させる工程(t−BN結晶化工程ないし二次工程)を含むことが好ましい。本発明の利点は、このt−BN結晶化工程を、一次工程の反応生成物の洗浄ないし精製を行うことなしに行うことができることであり、またそうすることがある意味では好ましいことである。
さらに前記一次工程の反応生成物を粉砕する工程をt−BN結晶化工程(二次工程)の前に含むことが好ましいが、前記一次工程に引続き二次工程を連続して行うこともできる。
【0021】
前記結晶化させた結晶性乱層構造窒化硼素を溶媒(水性洗浄液、特に酸性水)で洗浄して硼酸アルカリ等の残留介在物ないし不純物を除去することができる。水洗で高純度に洗浄できることは、大きな利点である。
前記一次工程を前記反応容器を密閉ないし準密閉容器とし徐々に及び/又は段階的に温度を上げて行なうことが好ましい。このようにして昇温過程においても反応を進行させることができる。
t−BN微粉末を種結晶として少量添加して硼素源、窒素源及びフラックス剤を含む混合物を加熱反応させる工程(通例は一次工程において)を含むことが出来る。これにより、反応効率ないし収率の増大が達成される。
【0022】
本願の第4の視点として、硼酸アルカリを含有する被覆層(好ましくは主として硼酸アルカリから成る被覆層)を有する被覆窒化硼素粉末粒子を含有する非晶質の窒化硼素が得られる。これは、一次工程の結果物(又は二次工程の出発物質として)中間製品の形で得られる。このような状態の被覆粒子は、t−BN結晶化に最適である。この被覆窒化硼素としては、実質的に非晶質でよいが、実質的結晶性t−BNを含有することも有用である(特に種結晶としての役割)。種(ないし核)は実質的に結晶性t−BNであればよく完全な結晶性は必ずしも要しない。
【0023】
本発明の第5の視点において、第1〜第4の視点のいずれかの方法により製造されることを特徴とする結晶性乱層構造窒化硼素粉末が提供される。
本発明の第5の視点の一例において硼素源としての硼素酸化物ないし加熱により硼素酸化物を生ずる物質と、尿素を含む窒素源と、有効量の硼酸アルカリとを含む混合物を非酸化性雰囲気中(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)で加熱反応させて結晶性乱層構造窒化硼素の前駆体を生成させる工程(一次工程)、及び該反応生成物を非酸化性雰囲気中で加熱して結晶性乱層構造窒化硼素へと結晶化させる工程(二次工程)を含む方法により製造される結晶性乱層構造窒化硼素粉末が提供される。
【0024】
第5の視点の他の変形例として、一次工程を上記出発混合物を硼酸アルカリを含むことなく、大気圧ないし加圧下条件下(密閉ないし準密閉容器中を含む)に加熱反応させて結晶性乱層構造窒化硼素の前駆体を生成する工程を含み、さらに上記の二次工程を含む方法により製造される高純度結晶性乱層構造窒化硼素粉末が提供される。
【0025】
第6の視点において、本発明において結晶性乱層構造窒化硼素粉末とは、CuKα線によるX線回折図における六方晶系窒化硼素の[004]の回折線に対応する回折線の2θの半価幅が0.6°以下(さらに0.5°以下ないし0.47°以下)であり、該X線回折図中の六方晶系窒化硼素の[100]、[101]及び[102]の回折線に対応する各回折線の占める面積(回折線の強度を意味する)S100、S101及びS102の間にS102/(S100+S101)≦ 0.02の関係がある(これは実質的にh−BNを含まないことを意味する)結晶性乱層構造窒化硼素粉末のことをいう。この結晶性乱層構造窒化硼素粉末としては、さらに、該X線回折図において六方晶系窒化硼素に相当する[002]回折ピーク、[004]回折ピーク及び[100]回折ピークを有し、[101]回折ピークに代わり実質的に非晶質の乱層構造窒化構造窒化硼素に現れる[10]回折ピークを[100]回折ピークの大角側に連接下り勾配として有すると共に、六方晶系窒化硼素の[102]相当回折ピークを実質的に明確に示さないことを特徴とするものが得られる。また、典型的には、CuKα線による粉末X線回折図における六方晶系窒化硼素の[004]の回折線に相当する2θの回折線が55°±0.3°にある結晶性乱層構造窒化硼素粉末が得られる。これらは、高純度の結晶性t−BNに対応するものである。純度としては通例99%以上、99.5%以上、さらには99.8%以上のものが得られる。
【0026】
本発明の第7の視点において、均一な一次粒子径の結晶性乱層構造窒化硼素粉末が提供される。典型的にはその一次粒子の粒径が3μm以下、一次粒子の平均粒径が1μm以下とできる。また、一次粒子の大部分が略球状及び/又は略円板形状の粒形を有するものである。粒子形状は小さいものは略球状、結晶が発達すると略円板形状になる。
さらに、結晶性乱層構造窒化硼素粉末の一次粒子の平均粒径が0.1μm以下のものが得られる。
典型的には、一次粒子の平均粒径をXμmとするとき、一次粒子の90%以上が1/2X〜2Xμmの範囲内に存する均一粒度分布のものが容易に得られる。
吸着法で測定される結晶性乱層構造窒化硼素粉末の比表面積は20m2/g以上のもの得られる。
本発明の結晶性乱層構造窒化硼素粉末は、X線回折上実質的には、酸化硼素を含まないものが容易に得られる。
【0027】
また、前記結晶性乱層構造窒化硼素のCuKα線による粉末X線回折図に六方晶系窒化硼素の[102]回折線に相当する回折線ピークが認められない結晶性乱層構造窒化硼素粉末が得られる。
より好ましくは、前記結晶性乱層構造窒化硼素粉末のCuKα線による粉末X線回折図の六方晶系窒化硼素の[100]及び[101]に相当する回折線が合わさった[10]回折線に[101]回折線に相当する回折線がピークとして実質上に認められないものが得られる。
【0028】
本発明の第8の視点において、CuKα線による合成窒化硼素粉末のX線回折図における六方晶系窒化硼素の[004]の回折線に対応する回折線が明確な尖鋭なピークとしての形を有さない鈍い山形状である実質的に非晶質の窒化硼素粉末を含む粉末組成物が提供される。これは、同粉末を非酸化性雰囲気中において1200〜1400℃で加熱してt−BNへの結晶化処理をするとき、CuKα線による合成窒化硼素粉末のX線回折図における六方晶系窒化硼素の[004]の回折線に対応する回折線の2θの半価幅が0.6°以下であり、該X線回折図中の六方晶系窒化硼素の[100]、[101]及び[102]の回折線に対応する各回折線の占める面積(回折線の強度を意味する)S100、S101及びS102の間にS102/(S100+S101)≦ 0.02の関係がある結晶性乱層構造窒化硼素粉末に転化する特性を有する結晶性乱層窒化硼素前駆体を含有することを特徴とする非晶質窒化硼素粉末含有粉末組成物として得られる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、非晶質ではなく、t−BN結晶化が進んだ、純度の高い、特に単相の、t−BN微粉末を工業的に量産、即ち安価に提供できる。本発明により得られる結晶性t−BN微粉末は工業的に量産可能な唯一の製品であり、そのt−BN自体として、またその焼結体さらに他のセラミック材料の出発材料等として有用である。また、成形体としたときの嵩比重が大きく、焼結性にも優れているので、このt−BN粉末を原料として焼結すれば、相対密度の大きい、したがって強度の大きい窒化硼素焼結体が得られる。また、残留不純物(B2O3ないし酸素含有量)を、任意に制御(低下)できるので目的に応じた用途開発が可能である。このt−BN粉末は安く製造できるので、経済的な理由で従来使用できなかった用途にも独自に用いることができると共に、優れた特性を有する窒化硼素焼結体を使用することが可能なり、本発明によるt−BN粉末は産業上の利用価値が大きい。本発明は、かかる窒化硼素の工業的製造方法としての実用的価値も甚大である。
【0030】
また本発明の一次工程により窒化硼素(特にt−BN)の前駆体としての実質的に非晶質の窒化硼素が含有組成物が効率よく製造される。一次工程は、特に、ガス雰囲気を大気圧以上とすることで高効率に実現される。これは従来の減圧合成方法に比べ、飛躍的なブレークスルーを提供する。また、この組成物は、次段の二次工程(加熱t−BN結晶化)により、高効率で乱層構造窒化硼素(特に、特定のt−BN)に転化しうる特性を有するものである。この一次工程の産物はそれ自体としても有用であり、さらに結晶性t−BNその他のBN(h−BNなど)の出発材料とすることもできる上に、他の複合セラミックス材の出発材料としても、今後広範な利用の基礎が与えられる。
【0031】
なお、フラックスとしての硼酸アルカリの使用は、主として、酸化防止の働きを行うと期待されるが、粒成長を阻止することによってt−BNへの(微細結晶化)の触媒ないし助成を行なうと考えられる。換言すれば、h−BNへの転化の阻止を行なう。さらに、水洗を容易にし高純度化にも資する。しかし、本発明によれば、フラックス剤を使用せずに、一層の高純度化、微細化を特に均一一次粒径を保った上で、達成できることは、全く驚くべきことでもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の第1、第2の視点において、結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法は、硼素源としての硼酸(ないし無水硼酸)と窒素源(特に尿素)に硼酸アルカリ(フラックス剤)を加えた混合物を蓋付きの反応容器中に入れ、非酸化性の(特に大気圧ないし大気圧より高い圧力)雰囲気に保持して加熱反応させて窒化硼素を合成する工程を含むことが好ましい。反応は特に、950℃までの温度で(特にフラックス剤を含む場合フラックス剤の溶融温度まで、好ましくは850〜950℃まで)行ない実質的に非晶質の窒化硼素を(特に結晶性乱層構造窒化硼素の前駆体として)生成することが好ましい。窒素源としては窒素と炭素、水素、酸素等の1以上の元素との化合物があり、尿素の如く、加熱温度下において液状となるものが反応効率の上で好ましい。硼素源としては、硼素と酸素の化合物が反応性及び安価かつ安全性の観点から好ましい。いずれもさらに水和物であってよい。
【0033】
硼酸は天然の硼酸塩(主に硼砂)に硫酸を加え、硼酸の水に対する溶解度が小さいことを利用して溶液から析出させて製造される。無水硼酸は硼酸を加熱して脱水すれば得られるのでやはり安価な原料であり、無水硼酸の融点は460℃とされている。また、尿素はアンモニアと炭酸ガスから直接合成されるので高純度化が容易であり、肥料としても使用されていることから分かるように安価であり、その融点は135℃である。
【0034】
本発明では、硼酸はBが水化して生ずる硼素酸を総称しており、加熱して脱水すれば無水硼酸(酸化硼素)に変わる。したがって、硼素源としては無水硼酸の代わりに硼酸を使用することもでき加熱時には同様な反応を行なうことになる。原料に使用できるフラックス剤たる硼酸アルカリとしては、硼酸リチウム、硼酸ナトリウム、硼酸カリウムがある。これらの硼酸アルカリの内、安価で水洗によって容易に除去できることから硼酸ナトリウムを使用するのが好ましい。硼酸アルカリは通常硼砂のように結晶水を含んでいる場合が多いが、加熱すると結晶水が取れて無水物になり、比較的低温で溶けてガラス化する。混合物中に硼酸アルカリが混在すると、t−BNに転化しやすいa−BNを生成し、さらに結晶性t−BNへの転化を促進する働きがある。
【0035】
硼酸アルカリ、たとえば硼砂(四硼酸ナトリウム、Na・10HO)は200℃以上350〜400℃で脱水して無水物になり、741〜878℃で溶融する。窒素源、硼素源のいずれの化合物も溶融温度が比較的低いものを用いることができるので、加熱時には原料の混合物がまず溶融した状態となり、次いで温度上昇に伴いバサバサの状態になるが、反応時の溶融物ないし反応中間物(反応系)から水蒸気、炭酸ガス等が放出される。このとき放出される反応生成物及び放出物には毒性がなく、不燃性のものとできるので、その場合、製造装置は簡単に構成できる。反応時の反応容器は放出される水蒸気、炭酸ガス等の反応生成ガスによって充満置換され、密閉(ないし準密閉)して大気(酸素)の流入を防ぐようにしておけば加熱により自然に圧力が上昇する。容器の安全性及び耐圧容器のコスト等を勘案すると、圧力が上り過ぎないように圧力逃がし弁を設けて適切な正圧ないし微加圧(例えば、1.01気圧以上)に保つのが好ましい。しかし、圧力は、目的に応じ、所定の反応を達成するに適した圧力にさらに調節することができる。圧力の上限は特にないが、反応容器の耐圧力、製作費等を考慮し、一例として2.5kg/cm2以下でよい。特にフラックス剤を用いない場合には、できるだけ反応促進のため、高圧下に反応させることが好ましい。
【0036】
一次工程における反応加熱(加熱)は、BN合成反応の進行のため450℃以上、さらに500〜600℃以上かつ1200℃未満、好ましくは1050℃以下或いは1000℃以下(さらに好ましくは800〜950℃、さらに好ましくは880〜920℃、最も好ましくは約900℃)の温度で行なうことができる。しかし、950℃以下で十分反応が進行してBNが合成されるので一次工程は、この程度の温度以下でかつ、フラックス剤の溶融温度以上に加熱することが好ましい。フラックス剤の溶融温度以上の加熱により、溶融したフラックス剤は生成した窒化硼素粒子の周りに(その量に応じ一様に)被覆される(或いは、フラックス剤が十分存在する場合、生成BN粒子が溶融フラックス剤のマトリックス中に分散して存在する)。
【0037】
一次工程の反応生成物即ち、一次工程産物(結晶性乱層構造窒化硼素前駆体)はさらに結晶性のt−BN化するために(好ましくは窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気中で)t−BN結晶化温度で処理される。このt−BN結晶化温度は約1500℃以下で実質的にh−BNが生成しない条件(時間、雰囲気及び周囲状態)で行うものとし、1450℃以下さらには、通常の非酸化性雰囲気(特に窒素雰囲気)中では、特に1200〜1400℃(好ましくは1250〜1380℃、さらに1300〜1350℃)(好ましくは密閉ないし準密閉状態の容器中で)所定のt−BN構造の結晶化(さらに所定の結晶粒径)を達成するまでの時間処理することができる。この際介在する当初の出発材料(混合物)成分の残分がh−BN化を防ぎ効率的にt−BN化を提供する。その詳しい理由は、未解明な点も多いが、硼酸アルカリ成分の存在が有効であることが判っている。硼酸アルカリを用いない場合には、十分にBN合成及びt−BN結晶化を進めることが好ましく、また洗浄を十分に行うことが高純度化に資する。洗浄は、水洗のみならず、酸性洗浄水を用いて行い、特に揮発性の酸(HClなど)を用いることが好ましい。残留酸化硼素を除去するため、洗浄液は加熱する。最後は熱水ですすぐ。t−BNへの結晶化工程終了後、反応生成物ないし結晶化生成物は、水洗され、アルカリ成分等の残留物を除去し、精製t−BN粉末を得る。その際、酸化硼素の未反応残分も容易に除去されるので、残留硼素(ないし硼素酸化物)を低く制御できる。
【0038】
本発明の第5の視点の一例として、硼酸(ないし無水硼酸)、尿素を含み、さらに硼酸アルカリを含む(又は含まない)混合物を大気圧より高い圧力雰囲気の反応容器中(特に密閉状態又は準密閉状態の容器中)で加熱反応させる工程、及び反応生成物を窒素雰囲気中で加熱して結晶性乱層構造窒化硼素へと結晶化させる工程を含む方法により、製造される特定の結晶性乱層構造窒化硼素粉末が提供できる。このCuKα線による合成窒化硼素粉末のX線回折図における六方晶系窒化硼素の[004]の回折線に対応する回折線の2θの半価幅は好ましくは0.6°以下(さらに0.5°以下、典型的には約0.47°以下)であり、この点でもt−BNでも非晶質に近いもの(a−BN)ないし、結晶性の低いものとは異なる。a−BNでは[004]回折線は、尖鋭なピークとして現れず、なだらかな山形ないし丘状カーブを示し、結晶性の低いt−BNでは[004]相当回折線の半価幅は0.7°以上(1°,1.5°等)のものが知られている。即ち、所定回折線の2θの半価幅が小さいということは、相当結晶化が進んでいる(或いは結晶粒子が成長している)ことを意味する。また、該X線回折図中の六方晶系窒化硼素の[100]、[101]及び[102]の回折線に対応する各回折線の占める面積(回折線の強度を意味する)S100、S101及びS102の間にS102/(S100+S101)≦ 0.02の関係があるものが得られる。S102/( S100+S101)≦ 0.02の関係は一般的にはh−BNが含まれないか含まれていても極少ない(実質的に含まれない)ことを意味する。このようにかなりの結晶性を有するが積層形態には完全な規則性のないt−BNではh−BNの[102]に相当する回折線が基本的には全く現れないはずであり、[102]の回折線が現れる場合にはt−BNでないh−BN等の結晶が混在していることを一般には意味すると考えられる。しかし、この場合、h−BNに特徴的な他の回折線が現れない場合には、部分的に擬h−BN構造の変形t−BNが生成している場合も考えられる。
【0039】
本発明の第7の視点において、均一で狭い(揃った)一次粒子径の結晶性t−BNが得られる。一次粒子径は、純度及び二次工程(t−BN結晶化工程)の熱処理温度(さらに処理時間)によって主として制御できる。サブミクロン域ではSEMで測定しないと正確に制御できないが、1300℃未満で平均0.1μm以下;1300℃で平均0.2〜0.3μmのもの、1350℃で平均1μm以下のもの、最小では0.01〜0.02μm、0.05μm以下とか0.07〜0.08μmのものも可能であり、大きい方では3〜4μmのもの(1400℃)も可能である。さらに温度を上げるとh−BNの気配が生ずるが、主体としてはt−BNとなるよう制御できるところに本発明の特徴がある。なお、一次粒子径は上記の範囲内の任意の平均粒子径に制御することができる。
【0040】
二次工程は、典型的には、Nなどの非酸化性雰囲気中で(常圧でよい)1200〜1400℃に約2時間保持することにより行うことができる。一例としては一次工程の後常温から約10時間かけて所定保持温度(例えば1300℃)まで昇温する。保持温度は温度及び所望粒径、結晶化の程度等にもよるが通例10分以上、好ましくは30分〜1時間以上〜さらに2時間以上ともできる。この際に尿素などの窒素源を加えて加熱することにより、窒素雰囲気と共に残留酸化硼素のBN化も併せて達成し、収率及び純度を改善できる。もちろん、一次工程と二次工程は続けて行うこともできるが、一次工程の後反応生成物をほぐし或いは粉砕(軽く解砕する程度でも可)することが均一化のために好ましい。
【0041】
本発明の第4の視点において、既述の通り、結晶性t−BNの前駆体たる非晶質t−BN粉末含有粉末組成物が得られる。これは硼酸アルカリを含むものとして、一次工程の生成物(中間生成物)として得られるが、非晶質t−BN粒子は硼酸アルカリのフラックス剤に少なくとも部分的に被覆され、或いは囲まれて分散した形をなす。なお、本願において、数値範囲は、上限、下限値の間に含まれる(またはそれ以下又は以上)の任意の数字を代表するものとし、少なくとも全範囲の10分の1スケールの任意数を含むものとする。記載の簡略化のため、中間値の記載を省くに過ぎない。
【0042】
混合物中に配合する硼酸アルカリの配合量は、硼素成分の一部が窒化硼素の原料になり、a−BNのt−BNへの結晶化を促進する働きをするので、この働きを充分発揮できるように結晶水を除いた混合物中の配合量で計算して混合物中0.01(さらに0.1,0.5)重量%以上とするのが好ましい。しかし余り多く配合してもこの結晶化を促進する働きはある程度以上増えず、水洗して精製するとき多くの時間と多くの純水を消費することになる。硼酸アルカリの配合量は、さらに好ましくは20(さらに15、10、5)重量%以下とでき、その配合量は上述の範囲内で任意の数値に調節可能である。
しかし、特に高純度のt−BNを目指す場合、硼酸アルカリは加えることなく、所望のt−BNを製造できる。なお、一次工程にのみ硼酸アルカリを用い、その後洗浄して二次工程を行うこともできるが、洗浄による残留未反応物(不純物)の除去ロスを考慮すると、一次工程から硼酸アルカリを用いないでBNの合成を行うことが有利である。その場合、既述の通り、反応条件を調節し、反応促進を図る。反応促進は、一次工程の上限温度及び時間、さらにより大きくは、反応雰囲気の圧力増大によって達成できる。
なお、二次工程は温度に注意すれば硼酸アルカリの不存在下でも十分均一な結晶性t−BNが得られる。さらに、加熱洗浄水、特に酸性洗浄水による洗浄の併用によって、最終的に高純度の結晶性t−BNが得られる。
【0043】
反応容器は反応温度と反応圧力に耐え、腐食されないものであればよく、950℃までの反応容器には安価な鋼製又はステンレス鋼製の反応容器を使用できる。非酸化性雰囲気とは酸素の供給を断った状態であればよく、反応容器の加熱時の微加圧(水蒸気の気化成分が噴出するる状態)にあればよい。大気圧より高い圧力雰囲気というのは、空気中の酸素が反応容器中に全く侵入しない圧力をいうが、完全に酸素を断った状態として合成反応を促進できることから、好ましくは1.01〜2.5気圧、さらに好ましくは1.05〜2.0気圧とすることができる。2.5気圧より容器内の圧力を高くしなくても十分に反応が進むので、好ましい圧力を2.5気圧以下とするが、より高い圧力を用いることも、当然可能である。この反応容器中で起きる主な反応は、
+CO(NH→2BN+CO+2HOであると考えられる。硼酸アルカリは大部分は残留すると考えられる。
【0044】
反応容器に仕込んだ混合物中の硼素成分を効率よく窒化硼素に転化にさせるには、反応容器中の混合物の窒素:硼素の原子比(N/B比)を窒素過剰に(好ましくはかなり大過剰に)することが好ましい。このN/B比は1.1以上とするのが好ましい。尿素/無水硼酸の重量比では6/4〜9/4(N/B比1.75〜2.6)とすることができる。なお、通例尿素(出発仕込み量)に対し約10%(wt)の尿素が残る状態であれば一応十分と考えられるが、この比は、硼酸アルカリを用いず、かつ高純度を図るほど、高めとすることが好ましく、N/B比2以上、さらに2.3以上、より好ましくは2.6±0.2程度である。
【0045】
第一次工程(好ましくは950℃まで)の合成反応後に反応容器から取り出される反応物は、アルカリ硼酸塩(さらに反応残留物)ないしは硼酸アルカリを含まない反応残留物で覆われた状態のa−BNであり、一例としてナトリウム塩で覆われた状態のa−BNはフレーク状ないしカルメ焼き状になっていて嵩張るので、t−BN結晶に結晶化するための第2段結晶化工程に入る前に粉砕ないし解砕(ほぐす処理)して多くの粉末を充填できるようにするのが好ましい。目安としては1mmパスの粒度程度でよい。この段階で粉砕してあれば、最後に行なう洗浄によるt−BNの精製も容易になる。
【0046】
次いでa−BNを主体としアルカリ塩を含む(又は含まない)一次工程の反応生成物をt−BN結晶化促進温度、かつh−BN化しない温度・条件にて加熱する二次工程を実施し、a−BNをt−BN結晶に転化する。この加熱温度は約1500℃以下でh−BNが実質上生じないようにし、好ましくは1200〜1400℃以下とし、より好ましくは、1250〜1350℃とする。この温度は残留硼素酸化物(ないし酸素)の許容量、目的純度、粒径等に応じて可変である(一般には所定温度で10分ないし1時間単位での制御でよい)。通例昇温・加熱時間は少なくとも1時間以上とすることが好ましいが、10時間以上でよく、12〜13時間、さらには16時間程度かけての昇温・加熱でt−BN結晶化が十分に完了するまで行なう。なお、h−BNの発生する気配のありうる1450〜1500℃では処理時間に十分注意することが好ましい(場合により分単位で制御する)。
【0047】
このとき反応生成物を入れる容器には熱処理温度に耐える材質のもの、耐熱性スチールやたとえば、アルミナないしムライト製あるいはコージライト製等の耐火セラミックス製容器等を使用するのが好ましいが一般にサヤと称するものでもよい。雰囲気は非酸化性雰囲気即ち、酸素の流入を断った状態であればよい。そのため容器は加熱時に窒化硼素が酸素を取り込まないようにするのが好ましく、空気中に酸素の侵入を防げるように密閉状態又は準密閉状態としておくのが好ましい。このため、容器には容器と同じく耐熱材料の蓋を設けるのが好ましい。a−BNをt−BN結晶に転化する温度は、より好ましくは1280〜1350℃である。加熱温度は、特定t−BN結晶の結晶化が実用的な時間内で完結するように、1200℃以上とするが、加熱温度を高くし過ぎるとh−BNが同時に生成するのでh−BNの混在を防ぐには1450℃、特に1400℃以下とすることが好ましい。さらに好ましくは1300±10℃である。
【0048】
t−BN結晶への転化は、t−BN粉末中の酸素の含有量(B残分)を少なくできるようにa−BNが空気中の酸素と接触しない窒素等の雰囲気中で行なうことが好ましいが、a−BNが硼酸ナトリウム塩等のアルカリ塩で覆われた状態になっている場合は、蓋付きの容器を使用し、密閉状態又は準密閉状態として、少なくとも空気中の酸素の侵入をある程度防げる状態で加熱すれば酸素(B残分)の含有量の少ないt−BN結晶に転化できる。蓋付きの容器に入れた反応物は、容器もろとも電気炉等の加熱結晶化炉に収容して所定の温度に昇温し所定時間加熱するのが好ましい。この加熱時間が短ければt−BN結晶への転化が完結せず、加熱時間は一般的に10時間程度で十分であるが、結晶化温度との関係で、適宜可変調節されうる。通例、10時間以上12〜13時間、16時間程度をかけての昇温・加熱は十分なt−BN結晶化をもたらす。その際、最高設定温度には所定時間保持する(一般に10分以上、好ましくは30分以上、さらに1〜2時間)。二次工程の加熱時に、未反応硼素源をさらに反応させるため、昇温を段階的ないし徐々に(例えば10時間かけて)所定t−BN結晶化温度に昇温することが好ましい。
【0049】
t−BN結晶への転化が完結した反応物は、不純物として未反応残留物及び場合によりナトリウム塩等のアルカリ塩を含んでいるので、水性洗浄液で洗浄して精製するのが好ましい。従来、これら不純物の除去に際しては、窒化硼素では水と反応して窒化硼素中に酸素が取り込まれないようにエタノール等のアルコールで洗浄していたが、充分にt−BNへの結晶化が進んだ状態の本発明によるt−BN粉末では水洗で精製しても酸素の取り込みが僅かであり、安価な水洗によるt−BNの精製が可能である。使用する洗浄水の純度は、精製後の窒化硼素粉末の純度に影響するので、蒸留水又はイオン交換された純水或いは脱酸素処理水を使用するのが好ましい。この洗浄がどの程度進んだかは洗浄水のpH値を調べれば分かる。洗浄水の温度を上げれば、硼素酸化物及びナトリウム塩等の水への溶解度が高まり、洗浄を速やかに行なえるので、合成されたt−BNに悪影響を及ぼさない範囲で温水(通例80〜85℃で十分)を使用するのが好ましい。洗浄液には酸性のものを用いることができ、残留痕跡の少ない揮発性ないし熱分解性の酸(HClとか有機酸)を用いることが好ましい。このようにして、高純度のt−BNが得られる。
【0050】
上記により水で洗浄して精製された結晶性乱層構造窒化硼素粉末は純度が高いt−BN粉末であり、一次粒子は、非常に細く、好ましくは実質的にすべて、3〜4μm以下のものができる。t−BN粉末の一次粒子は、良好な成形性と焼結性を併せて保有するように好ましくは平均粒径が1μm以下、0.5μm以下、0.3μm以下、0.2μm以下などさらに0.1μm以下のものができる。得られたt−BN粉末は一次粒子の大きさが細かく、通常二次粒子を形成しているので沈降式の粒度分布測定装置では測定が難しい。このため、液中で分散させたt−BN粉末は電子顕微鏡で写真撮影し、例えばプリントした写真画面に基づいて調べることができる。一例として図4にHORIBA製LA−700粒径アナライザーによる測定値を示すが、メジアン径0.3μm、累積粒子径1μm以下で95.2%、90%粒子径=0.75μmの値が得られた。しかし、これはなお、かなりの二次凝集を含んでいると考えられるので、実際の一次粒子径はこれよりもさらに細い。
t−BN粉末の平均粒径は、粉末X線回折図の半価幅からScherrer式(J.Am.Chem.Soc.vol.84 p4620、1963参照)によっても求めることができ、a軸方向の結晶子のサイズLaとc軸方向の結晶子の サイズLcとして求められる。この結晶子サイズは電子顕微鏡の写真から求められる値とほぼ一致する。本発明の製造方法によって得られるt−BNの一次粒子の粒度分布は、図4に示す粒度分布グラフ及び図3、5、6に示すSEM顕微鏡写真で観察されるように非常にシャープで、その粒径が狭い粒度範囲に揃ったものを合成できる。t−BN粉末は、各種のレベルの狭い粒度分布として得られ、例えばt−BNの一次粒子の95%以上が0.3〜1μmのもの、さらに、0.1μm以下のもの、0.02〜0.07μmのもの、0.2〜0.6μmのもの、その他の範囲のものが得られる。
【0051】
本発明のt−BN粉末の製造方法の好ましい態様では、反応容器中での窒化硼素合成反応(第1次工程を、3段階以上に分けて)段階的に温度を上げて行なう。たとえば、バッチ方式の反応容器中(特にポット式の容器)に原料の混合物を入れ、反応容器を加熱装置から次の加熱装置へと移動させながら順次温度を上げる方法を採用すれば、a−BN粉末を能率よく半連続的に合成でき、例えば多ステーションの流れ工程などが可能である。この方法で合成されたa−BN粉末は容易に目的とする本発明のt−BN粉末に転化させることができる。
【0052】
本発明のt−BN粉末の製造方法において、一次工程(或いは二次工程の)出発原料の混合物には種結晶として、少量のt−BN粉末を添加するのが好ましい。少量の種結晶を添加しておくと、t−BN結晶への転化が促進され、純度の高いt−BN粉末を速やかに合成でき、収率の改善を図ることができる。添加する種結晶の量は少な過ぎると効果が小さいので、水分を除いた混合物中に好ましくは0.1重量%以上とし、多くしても効果に差が出ないので3重量%以下とし、さらに好ましくは0.2〜1重量%とする。この種結晶は完全なものでなくてもよく、中間体でもよい。従って、二次工程の反応生成物(場合によっては一次工程の反応生成物)をそのままあるいは粉砕して或いは場合により水洗して、一次及び/又は二次工程にリサイクリングすることも収率の増大に資する。
【0053】
本発明によるt−BN粉末をCuKα線の粉末X線回折で調べると、六方晶系窒化硼素の[004]回折線に相当する回折線の強度が相当強く、結晶化が進んでおり、その2θの半価幅が0.6°以下(典型的には0.47°以下)と小さいにもかかわらず、[102]回折線が認められないか、たとえ認められても非常に小さく、純度の高いt−BN粉末である。
【0054】
CuKα線による粉末X線回折図における六方晶系窒化硼素の[002]の回折線に対応する回折線の2θの半価幅が0.6°以下であるt−BN粉末というのは、結晶が相当発達していることを意味する。また、h−BN粉末では粉末の一次粒子が六角板状を呈するが、好ましいt−BN粉末では乱層構造を有しているため結晶のa軸方向に方向性が現れず、図3から分かるようにt−BNの一次粒子は円板状(大きい場合)、又は図3、5、6に示すようにより小径の場合略球状である。本発明によるt−BN粉末のCuKα線による[002]回折線の2θの半価幅は、好ましくは0.5°以下である。しかし、本発明の一次工程、二次工程の組合せ、条件の設定により、この値はさらに小さくも、大きくも可変制御できる点に、本発明の製造方法の利点が存する。
【0055】
本発明によるt−BN粉末において、粉末X線回折図の六方晶系窒化硼素の[100]、[101]及び[102]の回折線に対応する各回折線の占める面積S100、S101、S102の間にS102/(S100+S101)≦0.02の関係があるものが得られる。これは、[102]の回折線が六角網目の積み重なりに規則性があるときに現れる回折線であるので、六角網目層の積み重なり方に全く規則性がない又は殆ど規則性がない(層と層の間の角度・位置の整列規則性がない)乱層構造のt−BNであることを意味する。
【0056】
面積S100、S101、S102の求め方は、プラニメーターによって測定してもよ いが、記録紙に記録さ れたX線回折図から[100]、[101]及び[10 2]の回折線の部分(ベースラインの上側)をそれぞれはさみで切り取り、切り取った各紙片を精密天秤で秤量して各紙片の重量をそれぞれS100、S101、S102としてもよい。S102/(S100+ S101)の値は、さらに好ましくは0.01 以下である。S102が非常に小さければh−BNの[102]に対応する回折線 が 粉末X線回折図中に認められないことになる。(図2、図7参照)
【0057】
本発明のt−BN粉末では、t−BN粉末中に含まれる酸素の含有量(従って不純物量)を少なくできるという特徴があり、少なくともX線回折上はBのピークが認められないものが得られる。窒化硼素粉末の純度99重量%以上、さらに好ましくは99.5ないし99.8重量%以上ないしさらに99.9重量%以上とすることができる。酸化硼素(酸素)の含有量が少ないt−BN粉末は焼結反応性が高く、さらにまた加圧成形などで圧密化した時に成形体の嵩比重を大きくでき、これによって焼結しやすく、焼結時の収縮を小さくでき、寸法精度のよい焼結体を作りやすいという利点がある。また、別の観点から、高純度の単相t−BNは、その本来の特性を十分に発揮した種々の応用を考える上で、魅力的である。
【0058】
また、ガス吸着法で測定されるt−BN粉末の比表面積は、好ましくは20m2/g以上、さらに好ましくは23〜25m2/g以上のものが得られる。
【0059】
さらに、本発明の第8の視点において、特定の実質的に非晶質窒化硼素粉末(ないし、組成物)が提供される。この無定形窒化硼素粉末は、1200〜1400℃でt−BN結晶化処理を施したとき、所定の結晶性t−BNに高収率、高効率で転化する特性を有することで特徴づけられる。
この組成物は、典型的には一次工程の結果物として得られ、所定無定形窒化硼素粉末を有意量含有することを特徴とする。直接的には、反応残留物及び場合によりアルカリ硼素化合物塩の残留物を介在するが、洗浄により精製した中間体を得ることも当然可能である。これは特別の視点として、一次工程自体の独自の有用性を示すものでもある。リサイクル(種添加)等によって一次工程を繰り返すことも当然収率の改善に資するし、粒径の調節にも資する。
なお、付言すること、第1次工程の反応生成物は、それ自体乱層構造窒化硼素の前駆体として有用であるが、それ自体として用いる場合、或いはt−BNを初めとし、h−BNなどのその他の(結晶状態の)窒化硼素、或いは、他の複合化合物(ないし焼結体)、複合セラミックの合成ないし出発原料としても当然有用である。
【0060】
以下本発明の実施例を具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の一例であって本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例1】
【0061】
無水硼酸(B)3.5kg、尿素((NHCO)5.3kg、硼砂(Na・10HO)0.63kgからなる混合物を出発材料とし、この混合物を直径530mmの蓋付きのステンレス鋼製反応容器に入れ、この反応容器を炉内に入れて250〜500℃;500〜600℃、600〜700℃、700〜800℃、800〜900℃の多段階に各10分かけて昇温し、900±10℃で10分間保持して反応させた(合計1時間)。約100℃で水蒸気が噴出し初め、200℃で部分的に成分が溶融し始め反応が進みぶくぶくと泡だってガスの放出が続いた。さらに350〜400℃まで水蒸気を主として放出し、900℃に10分間保持したところ生成ガスの放出が減少した。この状態で放冷して反応容器の蓋を開けて反応物を反応容器から取り出した。このとき、反応容器中の反応物はBがほぼ反応完了したことを示す乾燥したバサバサのカルメラ焼き状になっていた。反応容器中で反応物を解砕し、真空吸引により取り出し、さらに粉砕機(クラッシャー)にかけて粉砕し、1mmパスの粉末を得た(以上、一次工程)。この生成粉末を、以下二次工程の出発材料とする。
【0062】
セラミック(アルミナ)耐火物製の蓋付き容器(蓋は軽く閉止)に移し、蓋付き容器ごと電気炉に装入した。電気炉にN又はCOを導入して非酸化性雰囲気とし温度を常温から1300℃に10時間かけて上げ、最後に約1300℃に2時間保持し、放冷した。
【0063】
蓋付き容器から取り出した粉末を80〜85℃のイオン中和し交換水(熱水)で十分に撹拌粉砕しつつ洗浄してアルカリ成分を除き、最後に酸(HCl)で洗い中和し、さらに水洗しその後乾燥した。二次工程の出発原料10kg当たり、洗浄後に約0.6〜0.65kgのt−BNが得られた。これは一次工程の出発硼素重量に対し約28.5%以上の結晶性t−BNとなり収率は70%以上の高率であり、しかも高純度であった。なお、一次工程産物から二次工程の熱処理まで10〜20%の重量ロスが認められた。
【実施例2】
【0064】
実施例1とは別のサンプルであるが、実施例とほぼ同様にして得た結晶性t−BN粉末をCuKα線による粉末X線回折で調べた。得られた合成粉末のX線回折図を図2に示す。図1に示す公知のh−BNのX線回折図形と、図2の粉末X線回折図を比べると、図2の粉末X線回折図の窒化硼素は相当t−BN結晶化が進んでいて図1のh−BNの[002]の回折線及び[004]回折線に対応する位置にシャープな回折線が夫々約26.6°、約55°に認められる。しかし、h−BNの[102]回折線に対応する位置に回折線が認められないことが分かる。また、h−BNの[100]回折線に対応する位置(41.55°)にかなりシャープな回折線がある。この[100]回折線はh−BNのシャープな[101]回折線のある高角度側で低い[101]回折線とすそで重なっており、、[101]回折線は高角度側ですそを引いてやや高まったバックグラウンドを描いている。この[101]回折線はシャープな突起として存在していない。このことはこの合成窒化硼素粉末が結晶化が進んだ純度の高いt−BN粉末であることを意味する。図2の粉末は本発明にいうところの結晶性t−BN粉末の一例である。
【0065】
図2の粉末X線回折図の各回折線の2θの位置と半価幅を調べたところ、[002]回折線は26.58°にあり、[004]回折線は55.0°にあり半価幅が0.47°であった。
【実施例3】
【0066】
実施例1と同様にして得た結晶性t−BN微粉末のSEMによる拡大写真(×20000倍及び×10,000倍)を図3に示す。図3のSEM写真から、このt−BN合成粉末の一次粒子の平均粒径は約0.45μmであり、一次粒子の粒径は実質的に0.3〜0.75μmの範囲内に存在することが分かる。また、この一次粒子はh−BNの一次粒子に見られる六方晶系に特有の六角板状の結晶粒子形状を示さず、結晶性t−BN結晶に特有と考えられる円板状(大きなもの)ないし略球状(小さなもの)であることを認めた。
【実施例4】
【0067】
実施例1と同様な方法で合成し、分散した一次粒子を多く含む結晶性t−BN粉末を種結晶として外掛けで原料中に1重量%添加した以外は実施例1と同様にして結晶性t−BN粉末を合成した。この実施例では、一次反応の進行も早くなり、最終生成t−BNの収率に一層の改善が認められた。なお、仕込み無水硼酸に対する生成BNの収率は最高80%以上にも達する。
【実施例5】
【0068】
実施例1と同様な条件で作成した結晶性t−BN粉の分散体を作成し粒度分布測定を行い、その結果を図4に示す。測定はHORIBA LA−700粒径アナライザを用いて行った。その結果メデジアン径0.30μm、粒子径1μm以下の累積95.2%、90%粒子径は0.75μmであった。なおこの測定では、完全な一次粒子とは言えない(かなり凝集したまま測定される)点を留歩すると平均0.3μm以下であることは確実である。なお、その比表面積は23.4m/cmであった。なお、同様にして得た別のサンプルのSEM写真を図5に示す。粒子は略円板状ないし略球状をしており、平均一次粒子径は約0.3μmであり、一次粒子の粒径は実質的に0.2〜0.45μmのごく狭い範囲内にあることが分かる。
【実施例6】
【0069】
無水硼酸と尿素の混合比を4:9(重量比)に変え、硼砂を用いることなく、一次工程加熱を1.5時間とし、最終温度を920〜950℃で15分間保持し、かつ密閉容器のガス抜き孔を十分にしぼって内部を加圧状態にした以外は実施例1と同様にしてBNを合成した。二次工程は実施例1とほぼ同様の条件で行い、洗浄も同様に行った。極めて高純度の結晶性t−BNが得られた。そのSEM写真を図6に示す。形状は略球形であり、平均一次粒子径は約0.25μmであり、一次粒子径は大部分が0.2〜0.3μmで実質的に0.15〜0.38μm(即ち凡そ0.1〜0.4μm)の範囲にあることが分かる。なお、無水硼酸と尿素の混合比(重量比)は4:6〜4:9が好ましいが4:9が最良の結果を与えた。
【実施例7】
【0070】
実施例6と同様な条件で作成したサンプル結晶性t−BNのX線回折図を図7に示す。
図7と図1の粉末X線回折図を比べると、図7の粉末X線回折図の窒化硼素は相当t−BN結晶化が進んでいて図1のh−BNの[002]の回折線及び[100]回折線に対応する位置にシャープな回折線が夫々26.7°、41.8°に認められる。しかし、[002]の回折線の位置はh−BNの対応回折線位置と比べて若干高角度側にずれており、h−BNの[102]回折線に対応する位置(50°)に回折線が全く認められないことが分かる。また、h−BNの[100]回折線に対応する位置(41.8°)に余り高くないがシャープな回折線がある。この回折線はh−BNの[101]回折線のある高角度側に肩部を経てやや長いすそを引いている(以下(10)回折線という)が[101]回折線は明確な突起として存在しない。このことはこの合成窒化硼素粉末がt−BNとしての結晶化が進んだ純度の高い単相t−BN粉末であることを意味する。図7の粉末は本発明にいうところの高純度結晶性t−BN粉末の一例である(特に0.2〜0.3μmオーダーの超サブミクロンのもの)。バックグランドの低さから高純度であること、t−BN単相であることが十分うかがえる。即ち、図2、図7の回折線共Bを示すピークは全く現れていない点が注目されよう。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】従来のh−BNの公知のX線回折図の一例を示す。
【図2】本発明の結晶性t−BN粉末の一例の粉末X線回折図である。[]内にh−BN対応ピーク、()内に結晶性t−BN対応ピークを指数付けて示す。
【図3】本発明による一実施例の結晶性t−BN粉末の結晶構造を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真(×20,000、×10,000、表示倍率×2/3)である。
【図4】本発明の一実施例の結晶性t−BN粉末の粒度分布グラフである。
【図5】本発明の一実施例の結晶性t−BN粉末の結晶構造を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真(×20,000、×10,000、表示倍率×2/3)である。
【図6】本発明の他の実施例(フラックス剤なし)の結晶性t−BN粉末の結晶構造を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真(×20,000、×10,000、表示倍率2/3)である。
【図7】本発明の他の実施例のX線回折図である。[]内にh−BN対応ピーク、()内に結晶性t−BN対応ピークを指数付けて示す。
【図8】非晶質BN(a−BN)のX線回折図の一例(従来法)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼結性に優れ、特に高純度でかつ安価に量産できる窒化硼素粉末、特に乱層構造を有する窒化硼素粉末の(特に量産可能な)製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化硼素には六方晶系の窒化硼素(以下h−BNという)、菱面体晶系の窒化硼素(以下「r−BN」)、非晶質の窒化硼素(以下a−BNという)、乱層構造(turbostratic)の窒化硼素(以下t−BNという)及び高圧相であるZinc Blend型のc−BNとW urtzite型のw−BNが知られている。a−BNは、たとえば900℃以下の比較的低温で窒化硼素を合成すると生成し、高温で窒化硼素を合成したり、低温で合成されたa−BNを高温で熱処理すると、結晶化が進んで安定な六方晶系のh−BNに転化することが知られている。h−BN粉末の一次粒子は通常六角板状である。
【0003】
h−BN粉末の粉末X線回折図には(図1に示すように)[002]、[100]、[101]、[102]及び[004]の回折線が顕著である。これに対しa−BNである窒化硼素粉末のX線回折図は、一般に、図8に示すようにh−BN粉末の粉末X線回折図の[002]回折線と、[100]回折線及び[101]回折線に相当する位置に[100]回折線と[101]回折線とが合体したいずれもブロード(半価幅が大きい)な回折線を示す(以下、説明の便宜上h−BN以外の結晶構造を有する窒化硼素結晶の粉末X線回折における回折線をh−BN粉末の粉末X線回折による回折線の呼称で呼ぶ)。h−BNは硼素と窒素の六角形の網目層がaa’aa’・・・・のパターンで積層した結晶構造を有するが、硼素と窒素からなる六角形の網目層の積層形態が変われば六方晶系でない結晶系の窒化硼素結晶になり、積層形態(即ち積層層間の相互関係)に規則性のない窒化硼素が一般的に乱層構造窒化硼素と呼ばれる。
【0004】
この極く広義の一般的な意味では、a−BNも一種の乱層構造を有する窒化硼素であり、たとえば非特許文献1に説明があるように、a−BNを乱層構造窒化硼素とする分類方法もあるが、これは非晶質窒化硼素と称すべきものであり、本発明では結晶が相当発達してその粉末X線回折図の[004]回折線を始めとする回折線がある程度顕著に現われたものをt−BNと呼ぶものとする。(さらに本発明においては、後述の通り、[004]回折線の2θの半価幅が所定値以下の結晶であって、かつ積層形態(パターン)に規則性のない窒化硼素を特に結晶性t−BNとして意図するものである。)
【0005】
窒化硼素は黒鉛と類似の層状結晶構造を有していることによって、電気的に優れた絶縁体である点を除くと、黒鉛と類似の性質を有している。たとえば、層間の結合が弱く鱗片状に劈開しやすい、固体潤滑性がある、非酸化性雰囲気中では高温まで安定である、難焼結性である、焼結体は容易に機械加工できる、加えて酸化温度が黒鉛に比べて約500℃程高い(約1000℃)等である。窒化硼素には材料として魅力的な性質があるので、もし焼結性に優れた或いは高純度な窒化硼素粉末を安価に製造でき、安価に焼結体を提供できれば経済的に成立しなかった多くの新用途を実現できることになる。
【0006】
窒化硼素の製造方法としては、次のような方法が知られている。
(1)硼砂と尿素の混合物をアンモニア雰囲気中で加熱する(特許文献1)。
(2)硼酸や硼酸アンモニウムを含窒素化合物(尿素、アンモニア、メラミン、ジシアンジアミド等)とともに加熱する(特許文献2、特許文献3、特許文献4、非特許文献2)。
(3)硼素粉末を窒素とアンモニアの雰囲気中で加熱する(特許文献5)。
(4)BCl3とNH3を減圧下で気相反応させて合成する(特許文献6)。
(5)ボラジン又はボラジン誘導体を熱分解する(特許文献7)。
(6)非特許文献2には、尿素と硼酸をアンモニア中で500〜950℃で加熱反応して合成された窒化硼素粉末が乱層構造炭素と同様の乱層構造を有すると報告されている。
【0007】
【特許文献1】特公昭38−1610号公報
【特許文献2】特公昭48−14559号公報
【特許文献3】特公昭5−47483号公報
【特許文献4】特開平7−172806号公報
【特許文献5】特公平7−53610号公報
【特許文献6】特開平2−296706号公報
【特許文献7】特公平4−4966号公報
【非特許文献1】資源・素材学会誌Vol.105(1989)No.2,p201
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.vol.84 p4619−4622,1963
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明に至る開発経過において従来技術について以下のような問題に直面することが分かった。
(1)の方法による合成粉末は低温で反応させたものはa−BNであり、高温で反応するとh−BNになるとされており、反応で生成した合成粉末中にはかなり多くのNa成分が含まれていて、そのままでは電気絶縁性が必要な用途には適さない。(2)の方法では、1000℃未満の低温で合成するとa−BN粉末が得られ、高温で合成すれば硼酸がh−BNの結晶化を促進してh−BNになるとされている。これは、本発明の観点からすると、合成されたa−BN粉末は硼酸以外の不純物を含まないが、硼酸があるためh−BNが生成しやすいという問題がある。
【0009】
(3)と(5)の方法では、原料である硼素粉末やボラジン、ボラジン誘導体が高価であり、結果的に製造する窒化硼素も高価になる。(4)の方法は生産性が劣り、反応で生成する塩酸ガス等に腐食性があって刺激臭もあるので、作業環境上の問題及び塩酸ガスの吸収除去装置を必要とするため設備費が高くつくという問題がある。また、これらの報告中には、いずれについても結晶性のよいt−BN粉末が得られたという記載は見当たらない。
【0010】
他方、(6)の方法では、本発明の観点からするとこの窒化硼素はその粉末X線回折図の[002]回折線に相当する位置及び、[100]回折線と[101]回折線に相当する個所にそれぞれブロード(半価幅が大きい)な回折線[002],[10]を示し、[004]回折線も認められないような非晶質窒化硼素粉末について説明しているに過ぎない(Fig.1A)。そしてさらに高温にした場合約1450℃で乱層構造から六方晶系への変態が開始し、1850℃で完了するとされると共に、結晶化が進むと部分的三次元規則化が生じ(Fig.1B、C)最終的に六方晶系の完全な三次元規則化に到達すると報告している。なお、この場合も酸化硼素の残留が不可避である。
【0011】
以上のとおり、従来知られたいずれの方法においても、乱層構造窒化硼素(特により結晶化の進んだ結晶性乱層構造窒化硼素)を標的に量産可能な方法は知られていない。また、そのように量産可能な性質の結晶性乱層構造窒化硼素も従来知られていない。
本発明の基本目的は、新規な結晶性乱層構造窒化硼素の製造方法を提供することにある。より詳しくは、本発明は上記問題点を解決して焼結性に優れ、かつ安価な乱層構造窒化硼素粉末、特に結晶性乱層構造窒化硼素の量産可能な製造方法を提供することを具体的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の視点において、実質的に非晶質の窒化硼素をフラックス剤としての有効量の溶融硼酸アルカリの存在下に非酸化性雰囲気中(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)において結晶性乱層構造窒化硼素(結晶性t−BN)へと結晶化させる工程(結晶性t−BN結晶化工程ないし二次工程)を含むことを特徴とする結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法が提供される。
【0013】
ここに、BNの結晶化とは、一般には三次元的規則配列を持ったBNへの移行を指すが、ここで言う結晶性t−BN結晶化とは、BNの層が次第に発達し、層面内回転に関しては不規則ながら層間相互の平行性が増し、層間間隔が揃って行く過程、即ち結晶性のt−BN化について言うものとする。
【0014】
前記結晶性t−BN結晶化工程は、1500℃以下で実質的に結晶性t−BNに達するまで行うことが好ましく、さらに1200〜1400℃の温度で行なうことが好ましい。なお、第1の視点においてこの二次工程の出発物質は好ましくは、第2の視点以下に示すがこれに限定されず、任意の非晶質窒化硼素を用いることも可能である。また、部分的に乱層構造の結晶化の進行した中間段階のものを用いることも、結晶性のt−BNの種を用いることもできる。
【0015】
本発明の第2の視点において、硼素源をなす硼素酸化物ないし加熱により硼素酸化物を生ずる物質と窒素源にフラックス剤としての有効量の硼酸アルカリを含む混合物を非酸化性の雰囲気(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)に保持して加熱反応させて実質的に非晶質の窒化硼素を合成する工程(一次工程ないしBN合成工程)を含むことを特徴とする結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法が提供される。
【0016】
前記窒素源として尿素を用いることが好ましい。硼酸アルカリはその水和物として用いることができ、硼酸ナトリウム及び/又はその水和物を用いることができる。前記一次工程は、1200℃未満で少なくともフラックス剤の溶融温度以上まで加熱して行うことが好ましい。さらに、前記反応を850〜950℃までの温度に加熱して行なうことが好ましい。
【0017】
本発明の第3の視点において、硼素源と窒素源を含有する混合物を大気圧ないし加圧条件下(密閉ないし準密閉容器中を含む)に加熱反応させて実質的に非晶質の窒化硼素を合成する工程(一次工程ないBN合成工程)を含むことを特徴とする結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法が提供される。加熱時の圧力を大気圧以上に保つことにより、反応が促進される。加熱反応は1200℃未満、好ましくは950℃以下まで加熱して行うことができる。
【0018】
第2、第3の視点において、前記一次工程における非酸化性雰囲気は出発混合物の加熱分解ガス成分から主として成ることができる。前記一次工程を反応容器中において生成ガスの吸引排気をすることなく行うことができ、非酸化性雰囲気が大気圧ないし微加圧を含む大気圧より高い圧力にできる。
また、第2、第3の視点において混合物中の硼素源としての硼素と窒素源としての窒素のN/B比を窒素過剰とすることができ、N/B比は1.01以上、さらに1.5以上、さらに2以上とすることが好ましい。例えば尿素/無水硼酸の重量比は1.5以上、さらに2以上が好ましく、約6/4〜9/4の範囲(N/B比1.75〜2.6)が最も好ましい。
【0019】
混合物中の硼酸アルカリの量を0.01重量%以上、20重量%以下(さらに0.1〜15重量%(ないし1〜10重量%)とすることが反応促進上好ましい。
【0020】
前記一次工程の反応生成物を非酸化性雰囲気中(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)で1500℃以下、さらに1450℃以下、特に1200〜1400℃に保持して結晶性乱層構造窒化硼素(結晶性t−BN)へと結晶化させる工程(結晶性t−BN結晶化工程ないし二次工程)を含むことが好ましい。本発明の利点は、この結晶性t−BN結晶化工程を、一次工程の反応生成物の洗浄ないし精製を行うことなしに行うことができることであり、またそうすることがある意味では好ましいことである。
さらに前記一次工程の反応生成物を粉砕する工程を結晶性t−BN結晶化工程(二次工程)の前に含むことが好ましいが、前記一次工程に引続き二次工程を連続して行うこともできる。
【0021】
さらに、前記結晶性t−BN結晶化工程(二次工程)において、窒素源をさらに添加(さらに加熱)することもできる。これは窒素雰囲気の生成、さらには未反応硼素源の反応の完遂に資する。
【0022】
前記結晶化させた結晶性乱層構造窒化硼素を溶媒(水性洗浄液、特に酸性水)で洗浄して硼酸アルカリ等の残留介在物ないし不純物を除去することができる。水洗で高純度に洗浄できることは、大きな利点である。
前記一次工程を前記反応容器を密閉ないし準密閉容器とし徐々に及び/又は段階的に温度を上げて行なうことが好ましい。このようにして昇温過程においても反応を進行させることができる。
結晶性t−BN微粉末を種結晶として少量添加して硼素源、窒素源及びフラックス剤を含む混合物を加熱反応させる工程(通例は一次工程において)を含むことが出来る。これにより、反応効率ないし収率の増大が達成される。
【0023】
本願の第4の視点として、硼酸アルカリを含有する被覆層(好ましくは主として硼酸アルカリから成る被覆層)を有する被覆窒化硼素粉末粒子を含有する非晶質の窒化硼素が得られる。これは、一次工程の結果物(又は二次工程の出発物質として)中間製品の形で得られる。このような状態の被覆粒子は、結晶性t−BN結晶化に最適である。この被覆窒化硼素としては、実質的に非晶質でよいが、実質的結晶性t−BNを含有することも有用である(特に種結晶としての役割)。種(ないし核)は実質的に結晶性t−BNであればよく完全な結晶性は必ずしも要しない。
【0024】
本発明の第5の視点において、第1〜第4の視点のいずれかの方法により製造されることを特徴とする結晶性乱層構造窒化硼素粉末が提供される。
本発明の第5の視点の一例において硼素源としての硼素酸化物ないし加熱により硼素酸化物を生ずる物質と、尿素を含む窒素源と、有効量の硼酸アルカリとを含む混合物を非酸化性雰囲気中(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)で加熱反応させて結晶性乱層構造窒化硼素の前駆体を生成させる工程(一次工程)、及び該反応生成物を非酸化性雰囲気中で加熱して結晶性乱層構造窒化硼素へと結晶化させる工程(二次工程)を含む方法により製造される結晶性乱層構造窒化硼素粉末が提供される。
【0025】
第5の視点の他の変形例として、一次工程を上記出発混合物を硼酸アルカリを含むことなく、大気圧ないし加圧下条件下(密閉ないし準密閉容器中を含む)に加熱反応させて結晶性乱層構造窒化硼素の前駆体を生成する工程を含み、さらに上記の二次工程を含む方法により製造される高純度結晶性乱層構造窒化硼素粉末が提供される。
【0026】
第6の視点において、本発明において結晶性乱層構造窒化硼素粉末とは、CuKα線によるX線回折図における六方晶系窒化硼素の[004]の回折線に対応する回折線の2θの半価幅が0.6°以下(さらに0.5°以下ないし0.47°以下)であり、該X線回折図中の六方晶系窒化硼素の[100]、[101]及び[102]の回折線に対応する各回折線の占める面積(回折線の強度を意味する)S100、S101及びS102の間にS102/(S100+S101)≦ 0.02の関係がある(これは実質的にh−BNを含まないことを意味する)結晶性乱層構造窒化硼素粉末のことをいう。この結晶性乱層構造窒化硼素粉末としては、さらに、該X線回折図において六方晶系窒化硼素に相当する[002]回折ピーク、[004]回折ピーク及び[100]回折ピークを有し、[101]回折ピークに代わり実質的に非晶質の乱層構造窒化構造窒化硼素に現れる[10]回折ピークを[100]回折ピークの大角側に連接下り勾配として有すると共に、六方晶系窒化硼素の[102]相当回折ピークを実質的に明確に示さないことを特徴とするものが得られる。また、典型的には、CuKα線による粉末X線回折図における六方晶系窒化硼素の[004]の回折線に相当する2θの回折線が55°±0.3°にある結晶性乱層構造窒化硼素粉末が得られる。これらは、高純度の結晶性t−BNに対応するものである。純度としては通例99%以上、99.5%以上、さらには99.8%以上のものが得られる。
【0027】
本発明の第7の視点において、均一な一次粒子径の結晶性乱層構造窒化硼素粉末が提供される。典型的にはその一次粒子の粒径が3μm以下、一次粒子の平均粒径が1μm以下とできる。また、一次粒子の大部分が略球状及び/又は略円板形状の粒形を有するものである。粒子形状は小さいものは略球状、結晶が発達すると略円板形状になる。
さらに、結晶性乱層構造窒化硼素粉末の一次粒子の平均粒径が0.1μm以下のものが得られる。
典型的には、一次粒子の平均粒径をXμmとするとき、一次粒子の90%以上が1/2X〜2Xμmの範囲内に存する均一粒度分布のものが容易に得られる。
吸着法で測定される結晶性乱層構造窒化硼素粉末の比表面積は20m2/g以上のもの得られる。
本発明の結晶性乱層構造窒化硼素粉末は、X線回折上実質的には、酸化硼素を含まないものが容易に得られる。
【0028】
また、前記結晶性乱層構造窒化硼素のCuKα線による粉末X線回折図に六方晶系窒化硼素の[102]回折線に相当する回折線ピークが認められない結晶性乱層構造窒化硼素粉末が得られる。
より好ましくは、前記結晶性乱層構造窒化硼素粉末のCuKα線による粉末X線回折図の六方晶系窒化硼素の[100]及び[101]に相当する回折線が合わさった[10]回折線に[101]回折線に相当する回折線がピークとして実質上に認められないものが得られる。
【0029】
本発明の第8の視点において、CuKα線による合成窒化硼素粉末のX線回折図における六方晶系窒化硼素の[004]の回折線に対応する回折線が明確な尖鋭なピークとしての形を有さない鈍い山形状である実質的に非晶質の窒化硼素粉末を含む粉末組成物が提供される。これは、同粉末を非酸化性雰囲気中において1200〜1400℃で加熱して結晶性t−BNへの結晶化処理をするとき、CuKα線による合成窒化硼素粉末のX線回折図における六方晶系窒化硼素の[004]の回折線に対応する回折線の2θの半価幅が0.6°以下であり、該X線回折図中の六方晶系窒化硼素の[100]、[101]及び[102]の回折線に対応する各回折線の占める面積(回折線の強度を意味する)S100、S101及びS102の間にS102/(S100+S101)≦ 0.02の関係がある結晶性乱層構造窒化硼素粉末に転化する特性を有する結晶性乱層窒化硼素前駆体を含有することを特徴とする非晶質窒化硼素粉末含有粉末組成物として得られる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、非晶質ではなく、結晶性t−BN結晶化が進んだ、純度の高い、特に単相の、結晶性t−BN微粉末を工業的に量産、即ち安価に提供できる。本発明により得られる結晶性t−BN微粉末は工業的に量産可能な唯一の製品であり、その結晶性t−BN自体として、またその焼結体さらに他のセラミック材料の出発材料等として有用である。また、成形体としたときの嵩比重が大きく、焼結性にも優れているので、この結晶性t−BN粉末を原料として焼結すれば、相対密度の大きい、したがって強度の大きい窒化硼素焼結体が得られる。また、残留不純物(ないし酸素含有量)を、任意に制御(低下)できるので目的に応じた用途開発が可能である。この結晶性t−BN粉末は安く製造できるので、経済的な理由で従来使用できなかった用途にも独自に用いることができると共に、優れた特性を有する窒化硼素焼結体を使用することが可能なり、本発明による結晶性t−BN粉末は産業上の利用価値が大きい。本発明は、かかる窒化硼素の工業的製造方法としての実用的価値も甚大である。
【0031】
また本発明の一次工程により窒化硼素(特に結晶性t−BN)の前駆体としての実質的に非晶質の窒化硼素が含有組成物が効率よく製造される。一次工程は、特に、ガス雰囲気を大気圧以上とすることで高効率に実現される。これは従来の減圧合成方法に比べ、飛躍的なブレークスルーを提供する。また、この組成物は、次段の二次工程(加熱結晶性t−BN結晶化)により、高効率で乱層構造窒化硼素(特に、特定のt−BN)に転化しうる特性を有するものである。この一次工程の産物はそれ自体としても有用であり、さらに結晶性t−BNその他のBN(h−BNなど)の出発材料とすることもできる上に、他の複合セラミックス材の出発材料としても、今後広範な利用の基礎が与えられる。
【0032】
なお、フラックスとしての硼酸アルカリの使用は、主として、酸化防止の働きを行うと期待されるが、粒成長を阻止することによって結晶性t−BNへの(微細結晶化)の触媒ないし助成を行なうと考えられる。換言すれば、h−BNへの転化の阻止を行なう。さらに、水洗を容易にし高純度化にも資する。しかし、本発明によれば、フラックス剤を使用せずに、一層の高純度化、微細化を特に均一一次粒径を保った上で、達成できることは、全く驚くべきことでもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の第1、第2の視点において、結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法は、硼素源としての硼酸(ないし無水硼酸)と窒素源(特に尿素)に硼酸アルカリ(フラックス剤)を加えた混合物を蓋付きの反応容器中に入れ、非酸化性の(特に大気圧ないし大気圧より高い圧力)雰囲気に保持して加熱反応させて窒化硼素を合成する工程を含むことが好ましい。反応は特に、950℃までの温度で(特にフラックス剤を含む場合フラックス剤の溶融温度まで、好ましくは850〜950℃まで)行ない実質的に非晶質の窒化硼素を(特に結晶性乱層構造窒化硼素の前駆体として)生成することが好ましい。窒素源としては窒素と炭素、水素、酸素等の1以上の元素との化合物があり、尿素の如く、加熱温度下において液状となるものが反応効率の上で好ましい。硼素源としては、硼素と酸素の化合物が反応性及び安価かつ安全性の観点から好ましい。いずれもさらに水和物であってよい。
【0034】
硼酸は天然の硼酸塩(主に硼砂)に硫酸を加え、硼酸の水に対する溶解度が小さいことを利用して溶液から析出させて製造される。無水硼酸は硼酸を加熱して脱水すれば得られるのでやはり安価な原料であり、無水硼酸の融点は460℃とされている。また、尿素はアンモニアと炭酸ガスから直接合成されるので高純度化が容易であり、肥料としても使用されていることから分かるように安価であり、その融点は135℃である。
【0035】
本発明では、硼酸はBが水化して生ずる硼素酸を総称しており、加熱して脱水すれば無水硼酸(酸化硼素)に変わる。したがって、硼素源としては無水硼酸の代わりに硼酸を使用することもでき加熱時には同様な反応を行なうことになる。原料に使用できるフラックス剤たる硼酸アルカリとしては、硼酸リチウム、硼酸ナトリウム、硼酸カリウムがある。これらの硼酸アルカリの内、安価で水洗によって容易に除去できることから硼酸ナトリウムを使用するのが好ましい。硼酸アルカリは通常硼砂のように結晶水を含んでいる場合が多いが、加熱すると結晶水が取れて無水物になり、比較的低温で溶けてガラス化する。混合物中に硼酸アルカリが混在すると、t−BNに転化しやすいa−BNを生成し、さらに結晶性t−BNへの転化を促進する働きがある。
【0036】
硼酸アルカリ、たとえば硼砂(四硼酸ナトリウム、Na・10HO)は200℃以上350〜400℃で脱水して無水物になり、741〜878℃で溶融する。窒素源、硼素源のいずれの化合物も溶融温度が比較的低いものを用いることができるので、加熱時には原料の混合物がまず溶融した状態となり、次いで温度上昇に伴いバサバサの状態になるが、反応時の溶融物ないし反応中間物(反応系)から水蒸気、炭酸ガス等が放出される。このとき放出される反応生成物及び放出物には毒性がなく、不燃性のものとできるので、その場合、製造装置は簡単に構成できる。反応時の反応容器は放出される水蒸気、炭酸ガス等の反応生成ガスによって充満置換され、密閉(ないし準密閉)して大気(酸素)の流入を防ぐようにしておけば加熱により自然に圧力が上昇する。容器の安全性及び耐圧容器のコスト等を勘案すると、圧力が上り過ぎないように圧力逃がし弁を設けて適切な正圧ないし微加圧(例えば、1.01気圧以上)に保つのが好ましい。しかし、圧力は、目的に応じ、所定の反応を達成するに適した圧力にさらに調節することができる。圧力の上限は特にないが、反応容器の耐圧力、製作費等を考慮し、一例として2.5kg/cm2以下でよい。特にフラックス剤を用いない場合には、できるだけ反応促進のため、高圧下に反応させることが好ましい。
【0037】
一次工程における反応加熱(加熱)は、BN合成反応の進行のため450℃以上、さらに500〜600℃以上かつ1200℃未満、好ましくは1050℃以下或いは1000℃以下(さらに好ましくは800〜950℃、さらに好ましくは880〜920℃、最も好ましくは約900℃)の温度で行なうことができる。しかし、950℃以下で十分反応が進行してBNが合成されるので一次工程は、この程度の温度以下でかつ、フラックス剤の溶融温度以上に加熱することが好ましい。フラックス剤の溶融温度以上の加熱により、溶融したフラックス剤は生成した窒化硼素粒子の周りに(その量に応じ一様に)被覆される(或いは、フラックス剤が十分存在する場合、生成BN粒子が溶融フラックス剤のマトリックス中に分散して存在する)。
【0038】
一次工程の反応生成物即ち、一次工程産物(結晶性乱層構造窒化硼素前駆体)はさらに結晶性のt−BN化するために(好ましくは窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気中で)結晶性t−BN結晶化温度で処理される。この結晶性t−BN結晶化温度は約1500℃以下で実質的にh−BNが生成しない条件(時間、雰囲気及び周囲状態)で行うものとし、1450℃以下さらには、通常の非酸化性雰囲気(特に窒素雰囲気)中では、特に1200〜1400℃(好ましくは1250〜1380℃、さらに1300〜1350℃)(好ましくは密閉ないし準密閉状態の容器中で)所定の結晶性t−BN構造の結晶化(さらに所定の結晶粒径)を達成するまでの時間処理することができる。この際介在する当初の出発材料(混合物)成分の残分がh−BN化を防ぎ効率的に結晶性t−BN化を提供する。その詳しい理由は、未解明な点も多いが、硼酸アルカリ成分の存在が有効であることが判っている。硼酸アルカリを用いない場合には、十分にBN合成及び結晶性t−BN結晶化を進めることが好ましく、また洗浄を十分に行うことが高純度化に資する。洗浄は、水洗のみならず、酸性洗浄水を用いて行い、特に揮発性の酸(HClなど)を用いることが好ましい。残留酸化硼素を除去するため、洗浄液は加熱する。最後は熱水ですすぐ。結晶性t−BNへの結晶化工程終了後、反応生成物ないし結晶化生成物は、水洗され、アルカリ成分等の残留物を除去し、精製結晶性t−BN粉末を得る。その際、酸化硼素の未反応残分も容易に除去されるので、残留硼素(ないし硼素酸化物)を低く制御できる。
【0039】
本発明の第5の視点の一例として、硼酸(ないし無水硼酸)、尿素を含み、さらに硼酸アルカリを含む(又は含まない)混合物を大気圧より高い圧力雰囲気の反応容器中(特に密閉状態又は準密閉状態の容器中)で加熱反応させる工程、及び反応生成物を窒素雰囲気中で加熱して結晶性乱層構造窒化硼素へと結晶化させる工程を含む方法により、製造される特定の結晶性乱層構造窒化硼素粉末が提供できる。このCuKα線による合成窒化硼素粉末のX線回折図における六方晶系窒化硼素の[004]の回折線に対応する回折線の2θの半価幅は好ましくは0.6°以下(さらに0.5°以下、典型的には約0.47°以下)であり、この点でもt−BNでも非晶質に近いもの(a−BN)ないし、結晶性の低いものとは異なる。a−BNでは[004]回折線は、尖鋭なピークとして現れず、なだらかな山形ないし丘状カーブを示し、結晶性の低いt−BNでは[004]相当回折線の半価幅は0.7°以上(1°,1.5°等)のものが知られている。即ち、所定回折線の2θの半価幅が小さいということは、相当結晶化が進んでいる(或いは結晶粒子が成長している)ことを意味する。また、該X線回折図中の六方晶系窒化硼素の[100]、[101]及び[102]の回折線に対応する各回折線の占める面積(回折線の強度を意味する)S100、S101及びS102の間にS102/(S100+S101)≦ 0.02の関係があるものが得られる。S102/( S100+S101)≦ 0.02の関係は一般的にはh−BNが含まれないか含まれていても極少ない(実質的に含まれない)ことを意味する。このようにかなりの結晶性を有するが積層形態には完全な規則性のないt−BNではh−BNの[102]に相当する回折線が基本的には全く現れないはずであり、[102]の回折線が現れる場合にはt−BNでないh−BN等の結晶が混在していることを一般には意味すると考えられる。しかし、この場合、h−BNに特徴的な他の回折線が現れない場合には、部分的に擬h−BN構造の変形t−BNが生成している場合も考えられる。
【0040】
本発明の第7の視点において、均一で狭い(揃った)一次粒子径の結晶性t−BNが得られる。一次粒子径は、純度及び二次工程(結晶性t−BN結晶化工程)の熱処理温度(さらに処理時間)によって主として制御できる。サブミクロン域ではSEMで測定しないと正確に制御できないが、1300℃未満で平均0.1μm以下;1300℃で平均0.2〜0.3μmのもの、1350℃で平均1μm以下のもの、最小では0.01〜0.02μm、0.05μm以下とか0.07〜0.08μmのものも可能であり、大きい方では3〜4μmのもの(1400℃)も可能である。さらに温度を上げるとh−BNの気配が生ずるが、主体としては結晶性t−BNとなるよう制御できるところに本発明の特徴がある。なお、一次粒子径は上記の範囲内の任意の平均粒子径に制御することができる。
【0041】
二次工程は、典型的には、Nなどの非酸化性雰囲気中で(常圧でよい)1200〜1400℃に約2時間保持することにより行うことができる。一例としては一次工程の後常温から約10時間かけて所定保持温度(例えば1300℃)まで昇温する。保持温度は温度及び所望粒径、結晶化の程度等にもよるが通例10分以上、好ましくは30分〜1時間以上〜さらに2時間以上ともできる。この際に尿素などの窒素源を加えて加熱することにより、窒素雰囲気と共に残留酸化硼素のBN化も併せて達成し、収率及び純度を改善できる。もちろん、一次工程と二次工程は続けて行うこともできるが、一次工程の後反応生成物をほぐし或いは粉砕(軽く解砕する程度でも可)することが均一化のために好ましい。
【0042】
本発明の第4の視点において、既述の通り、結晶性t−BNの前駆体たる非晶質粉末含有粉末組成物が得られる。これは硼酸アルカリを含むものとして、一次工程の生成物(中間生成物)として得られるが、非晶質粒子は硼酸アルカリのフラックス剤に少なくとも部分的に被覆され、或いは囲まれて分散した形をなす。なお、本願において、数値範囲は、上限、下限値の間に含まれる(またはそれ以下又は以上)の任意の数字を代表するものとし、少なくとも全範囲の10分の1スケールの任意数を含むものとする。記載の簡略化のため、中間値の記載を省くに過ぎない。
【0043】
混合物中に配合する硼酸アルカリの配合量は、硼素成分の一部が窒化硼素の原料になり、a−BNの結晶性t−BNへの結晶化を促進する働きをするので、この働きを充分発揮できるように結晶水を除いた混合物中の配合量で計算して混合物中0.01(さらに0.1,0.5)重量%以上とするのが好ましい。しかし余り多く配合してもこの結晶化を促進する働きはある程度以上増えず、水洗して精製するとき多くの時間と多くの純水を消費することになる。硼酸アルカリの配合量は、さらに好ましくは20(さらに15、10、5)重量%以下とでき、その配合量は上述の範囲内で任意の数値に調節可能である。
しかし、特に高純度の結晶性t−BNを目指す場合、硼酸アルカリは加えることなく、所望の結晶性t−BNを製造できる。なお、一次工程にのみ硼酸アルカリを用い、その後洗浄して二次工程を行うこともできるが、洗浄による残留未反応物(不純物)の除去ロスを考慮すると、一次工程から硼酸アルカリを用いないでBNの合成を行うことが有利である。その場合、既述の通り、反応条件を調節し、反応促進を図る。反応促進は、一次工程の上限温度及び時間、さらにより大きくは、反応雰囲気の圧力増大によって達成できる。
なお、二次工程は温度に注意すれば硼酸アルカリの不存在下でも十分均一な結晶性t−BNが得られる。さらに、加熱洗浄水、特に酸性洗浄水による洗浄の併用によって、最終的に高純度の結晶性t−BNが得られる。
【0044】
反応容器は反応温度と反応圧力に耐え、腐食されないものであればよく、950℃までの反応容器には安価な鋼製又はステンレス鋼製の反応容器を使用できる。非酸化性雰囲気とは酸素の供給を断った状態であればよく、反応容器の加熱時の微加圧(水蒸気の気化成分が噴出するる状態)にあればよい。大気圧より高い圧力雰囲気というのは、空気中の酸素が反応容器中に全く侵入しない圧力をいうが、完全に酸素を断った状態として合成反応を促進できることから、好ましくは1.01〜2.5気圧、さらに好ましくは1.05〜2.0気圧とすることができる。2.5気圧より容器内の圧力を高くしなくても十分に反応が進むので、好ましい圧力を2.5気圧以下とするが、より高い圧力を用いることも、当然可能である。この反応容器中で起きる主な反応は、
+CO(NH→2BN+CO+2HOであると考えられる。硼酸アルカリは大部分は残留すると考えられる。
【0045】
反応容器に仕込んだ混合物中の硼素成分を効率よく窒化硼素に転化にさせるには、反応容器中の混合物の窒素:硼素の原子比(N/B比)を窒素過剰に(好ましくはかなり大過剰に)することが好ましい。このN/B比は1.1以上とするのが好ましい。尿素/無水硼酸の重量比では6/4〜9/4(N/B比1.75〜2.6)とすることができる。なお、通例尿素(出発仕込み量)に対し約10%(wt)の尿素が残る状態であれば一応十分と考えられるが、この比は、硼酸アルカリを用いず、かつ高純度を図るほど、高めとすることが好ましく、N/B比2以上、さらに2.3以上、より好ましくは2.6±0.2程度である。
【0046】
第一次工程(好ましくは950℃まで)の合成反応後に反応容器から取り出される反応物は、アルカリ硼酸塩(さらに反応残留物)ないしは硼酸アルカリを含まない反応残留物で覆われた状態のa−BNであり、一例としてナトリウム塩で覆われた状態のa−BNはフレーク状ないしカルメ焼き状になっていて嵩張るので、結晶性t−BN結晶に結晶化するための第2段結晶化工程に入る前に粉砕ないし解砕(ほぐす処理)して多くの粉末を充填できるようにするのが好ましい。目安としては1mmパスの粒度程度でよい。この段階で粉砕してあれば、最後に行なう洗浄による結晶性t−BNの精製も容易になる。
【0047】
次いでa−BNを主体としアルカリ塩を含む(又は含まない)一次工程の反応生成物を結晶性t−BN結晶化促進温度、かつh−BN化しない温度・条件にて加熱する二次工程を実施し、a−BNを結晶性t−BN結晶に転化する。この加熱温度は約1500℃以下でh−BNが実質上生じないようにし、好ましくは1200〜1400℃以下とし、より好ましくは、1250〜1350℃とする。この温度は残留硼素酸化物(ないし酸素)の許容量、目的純度、粒径等に応じて可変である(一般には所定温度で10分ないし1時間単位での制御でよい)。通例昇温・加熱時間は少なくとも1時間以上とすることが好ましいが、10時間以上でよく、12〜13時間、さらには16時間程度かけての昇温・加熱で結晶性t−BN結晶化が十分に完了するまで行なう。なお、h−BNの発生する気配のありうる1450〜1500℃では処理時間に十分注意することが好ましい(場合により分単位で制御する)。
【0048】
このとき反応生成物を入れる容器には熱処理温度に耐える材質のもの、耐熱性スチールやたとえば、アルミナないしムライト製あるいはコージライト製等の耐火セラミックス製容器等を使用するのが好ましいが一般にサヤと称するものでもよい。雰囲気は非酸化性雰囲気即ち、酸素の流入を断った状態であればよい。そのため容器は加熱時に窒化硼素が酸素を取り込まないようにするのが好ましく、空気中に酸素の侵入を防げるように密閉状態又は準密閉状態としておくのが好ましい。このため、容器には容器と同じく耐熱材料の蓋を設けるのが好ましい。a−BNを結晶性t−BN結晶に転化する温度は、より好ましくは1280〜1350℃である。加熱温度は、特定t−BN結晶の結晶化が実用的な時間内で完結するように、1200℃以上とするが、加熱温度を高くし過ぎるとh−BNが同時に生成するのでh−BNの混在を防ぐには1450℃、特に1400℃以下とすることが好ましい。さらに好ましくは1300±10℃である。
【0049】
結晶性t−BN結晶への転化は、結晶性t−BN粉末中の酸素の含有量(B残分)を少なくできるようにa−BNが空気中の酸素と接触しない窒素等の雰囲気中で行なうことが好ましいが、a−BNが硼酸ナトリウム塩等のアルカリ塩で覆われた状態になっている場合は、蓋付きの容器を使用し、密閉状態又は準密閉状態として、少なくとも空気中の酸素の侵入をある程度防げる状態で加熱すれば酸素(B残分)の含有量の少ない結晶性t−BN結晶に転化できる。蓋付きの容器に入れた反応物は、容器もろとも電気炉等の加熱結晶化炉に収容して所定の温度に昇温し所定時間加熱するのが好ましい。この加熱時間が短ければ結晶性t−BN結晶への転化が完結せず、加熱時間は一般的に10時間程度で十分であるが、結晶化温度との関係で、適宜可変調節されうる。通例、10時間以上12〜13時間、16時間程度をかけての昇温・加熱は十分な結晶性t−BN結晶化をもたらす。その際、最高設定温度には所定時間保持する(一般に10分以上、好ましくは30分以上、さらに1〜2時間)。二次工程の加熱時に、未反応硼素源をさらに反応させるため、昇温を段階的ないし徐々に(例えば10時間かけて)所定結晶性t−BN結晶化温度に昇温することが好ましい。
【0050】
結晶性t−BN結晶への転化が完結した反応物は、不純物として未反応残留物及び場合によりナトリウム塩等のアルカリ塩を含んでいるので、水性洗浄液で洗浄して精製するのが好ましい。従来、これら不純物の除去に際しては、窒化硼素では水と反応して窒化硼素中に酸素が取り込まれないようにエタノール等のアルコールで洗浄していたが、充分に結晶性t−BNへの結晶化が進んだ状態の本発明による結晶性t−BN粉末では水洗で精製しても酸素の取り込みが僅かであり、安価な水洗による結晶性t−BNの精製が可能である。使用する洗浄水の純度は、精製後の窒化硼素粉末の純度に影響するので、蒸留水又はイオン交換された純水或いは脱酸素処理水を使用するのが好ましい。この洗浄がどの程度進んだかは洗浄水のpH値を調べれば分かる。洗浄水の温度を上げれば、硼素酸化物及びナトリウム塩等の水への溶解度が高まり、洗浄を速やかに行なえるので、合成された結晶性t−BNに悪影響を及ぼさない範囲で温水(通例80〜85℃で十分)を使用するのが好ましい。洗浄液には酸性のものを用いることができ、残留痕跡の少ない揮発性ないし熱分解性の酸(HClとか有機酸)を用いることが好ましい。このようにして、高純度の結晶性t−BNが得られる。
【0051】
上記により水で洗浄して精製された結晶性乱層構造窒化硼素粉末は純度が高いt−BN粉末であり、一次粒子は、非常に細く、好ましくは実質的にすべて、3〜4μm以下のものができる。結晶性t−BN粉末の一次粒子は、良好な成形性と焼結性を併せて保有するように好ましくは平均粒径が1μm以下、0.5μm以下、0.3μm以下、0.2μm以下などさらに0.1μm以下のものができる。得られた結晶性t−BN粉末は一次粒子の大きさが細かく、通常二次粒子を形成しているので沈降式の粒度分布測定装置では測定が難しい。このため、液中で分散させた結晶性t−BN粉末は電子顕微鏡で写真撮影し、例えばプリントした写真画面に基づいて調べることができる。一例として図4にHORIBA製LA−700粒径アナライザーによる測定値を示すが、メジアン径0.3μm、累積粒子径1μm以下で95.2%、90%粒子径=0.75μmの値が得られた。しかし、これはなお、かなりの二次凝集を含んでいると考えられるので、実際の一次粒子径はこれよりもさらに細い。
結晶性t−BN粉末の平均粒径は、粉末X線回折図の半価幅からScherrer式(J.Am.Chem.Soc.vol.84 p4620、1963参照)によっても求めることができ、a軸方向の結晶子のサイズLaとc軸方向の結晶子の サイズLcとして求められる。この結晶子サイズは電子顕微鏡の写真から求められる値とほぼ一致する。本発明の製造方法によって得られる結晶性t−BNの一次粒子の粒度分布は、図4に示す粒度分布グラフ及び図3、5、6に示すSEM顕微鏡写真で観察されるように非常にシャープで、その粒径が狭い粒度範囲に揃ったものを合成できる。結晶性t−BN粉末は、各種のレベルの狭い粒度分布として得られ、例えば結晶性t−BNの一次粒子の95%以上が0.3〜1μmのもの、さらに、0.1μm以下のもの、0.02〜0.07μmのもの、0.2〜0.6μmのもの、その他の範囲のものが得られる。
【0052】
本発明の結晶性t−BN粉末の製造方法の好ましい態様では、反応容器中での窒化硼素合成反応(第1次工程を、3段階以上に分けて)段階的に温度を上げて行なう。たとえば、バッチ方式の反応容器中(特にポット式の容器)に原料の混合物を入れ、反応容器を加熱装置から次の加熱装置へと移動させながら順次温度を上げる方法を採用すれば、a−BN粉末を能率よく半連続的に合成でき、例えば多ステーションの流れ工程などが可能である。この方法で合成されたa−BN粉末は容易に目的とする本発明の結晶性t−BN粉末に転化させることができる。
【0053】
本発明の結晶性t−BN粉末の製造方法において、一次工程(或いは二次工程の)出発原料の混合物には種結晶として、少量の結晶性t−BN粉末を添加するのが好ましい。少量の種結晶を添加しておくと、結晶性t−BN結晶への転化が促進され、純度の高い結晶性t−BN粉末を速やかに合成でき、収率の改善を図ることができる。添加する種結晶の量は少な過ぎると効果が小さいので、水分を除いた混合物中に好ましくは0.1重量%以上とし、多くしても効果に差が出ないので3重量%以下とし、さらに好ましくは0.2〜1重量%とする。この種結晶は完全なものでなくてもよく、中間体でもよい。従って、二次工程の反応生成物(場合によっては一次工程の反応生成物)をそのままあるいは粉砕して或いは場合により水洗して、一次及び/又は二次工程にリサイクリングすることも収率の増大に資する。
【0054】
本発明による結晶性t−BN粉末をCuKα線の粉末X線回折で調べると、六方晶系窒化硼素の[004]回折線に相当する回折線の強度が相当強く、結晶化が進んでおり、その2θの半価幅が0.6°以下(典型的には0.47°以下)と小さいにもかかわらず、[102]回折線が認められないか、たとえ認められても非常に小さく、純度の高い結晶性t−BN粉末である。
【0055】
CuKα線による粉末X線回折図における六方晶系窒化硼素の[002]の回折線に対応する回折線の2θの半価幅が0.6°以下であるt−BN粉末というのは、結晶が相当発達していることを意味する。また、h−BN粉末では粉末の一次粒子が六角板状を呈するが、好ましい結晶性t−BN粉末では乱層構造を有しているため結晶のa軸方向に方向性が現れず、図3から分かるように結晶性t−BNの一次粒子は円板状(大きい場合)、又は図3、5、6に示すようにより小径の場合略球状である。本発明による結晶性t−BN粉末のCuKα線による[002]回折線の2θの半価幅は、好ましくは0.5°以下である。しかし、本発明の一次工程、二次工程の組合せ、条件の設定により、この値はさらに小さくも、大きくも可変制御できる点に、本発明の製造方法の利点が存する。
【0056】
本発明による結晶性t−BN粉末において、粉末X線回折図の六方晶系窒化硼素の[100]、[101]及び[102]の回折線に対応する各回折線の占める面積S100、S101、S102の間にS102/(S100+S101)≦0.02の関係があるものが得られる。これは、[102]の回折線が六角網目の積み重なりに規則性があるときに現れる回折線であるので、六角網目層の積み重なり方に全く規則性がない又は殆ど規則性がない(層と層の間の角度・位置の整列規則性がない)乱層構造の結晶性t−BNであることを意味する。
【0057】
面積S100、S101、S102の求め方は、プラニメーターによって測定してもよ いが、記録紙に記録さ れたX線回折図から[100]、[101]及び[10 2]の回折線の部分(ベースラインの上側)をそれぞれはさみで切り取り、切り取った各紙片を精密天秤で秤量して各紙片の重量をそれぞれS100、S101、S102としてもよい。S102/(S100+ S101)の値は、さらに好ましくは0.01 以下である。S102が非常に小さければh−BNの[102]に対応する回折線 が 粉末X線回折図中に認められないことになる。(図2、図7参照)
【0058】
本発明の結晶性t−BN粉末では、結晶性t−BN粉末中に含まれる酸素の含有量(従って不純物量)を少なくできるという特徴があり、少なくともX線回折上はBのピークが認められないものが得られる。窒化硼素粉末の純度99重量%以上、さらに好ましくは99.5ないし99.8重量%以上ないしさらに99.9重量%以上とすることができる。酸化硼素(酸素)の含有量が少ない結晶性t−BN粉末は焼結反応性が高く、さらにまた加圧成形などで圧密化した時に成形体の嵩比重を大きくでき、これによって焼結しやすく、焼結時の収縮を小さくでき、寸法精度のよい焼結体を作りやすいという利点がある。また、別の観点から、高純度の単相結晶性t−BNは、その本来の特性を十分に発揮した種々の応用を考える上で、魅力的である。
【0059】
また、ガス吸着法で測定される結晶性t−BN粉末の比表面積は、好ましくは20m2/g以上、さらに好ましくは23〜25m/g以上のものが得られる。
【0060】
さらに、本発明の第8の視点において、特定の実質的に非晶質窒化硼素粉末(ないし、組成物)が提供される。この無定形窒化硼素粉末は、1200〜1400℃で結晶性t−BN結晶化処理を施したとき、所定の結晶性t−BNに高収率、高効率で転化する特性を有することで特徴づけられる。
この組成物は、典型的には一次工程の結果物として得られ、所定無定形窒化硼素粉末を有意量含有することを特徴とする。直接的には、反応残留物及び場合によりアルカリ硼素化合物塩の残留物を介在するが、洗浄により精製した中間体を得ることも当然可能である。これは特別の視点として、一次工程自体の独自の有用性を示すものでもある。リサイクル(種添加)等によって一次工程を繰り返すことも当然収率の改善に資するし、粒径の調節にも資する。
なお、付言すること、第1次工程の反応生成物は、それ自体乱層構造窒化硼素の前駆体として有用であるが、それ自体として用いる場合、或いは結晶性t−BNを初めとし、h−BNなどのその他の(結晶状態の)窒化硼素、或いは、他の複合化合物(ないし焼結体)、複合セラミックの合成ないし出発原料としても当然有用である。
【0061】
以下本発明の実施例を具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の一例であって本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例1】
【0062】
無水硼酸(B)3.5kg、尿素((NHCO)5.3kg、硼砂(Na・10HO)0.63kgからなる混合物を出発材料とし、この混合物を直径530mmの蓋付きのステンレス鋼製反応容器に入れ、この反応容器を炉内に入れて250〜500℃;500〜600℃、600〜700℃、700〜800℃、800〜900℃の多段階に各10分かけて昇温し、900±10℃で10分間保持して反応させた(合計1時間)。約100℃で水蒸気が噴出し初め、200℃で部分的に成分が溶融し始め反応が進みぶくぶくと泡だってガスの放出が続いた。さらに350〜400℃まで水蒸気を主として放出し、900℃に10分間保持したところ生成ガスの放出が減少した。この状態で放冷して反応容器の蓋を開けて反応物を反応容器から取り出した。このとき、反応容器中の反応物はBがほぼ反応完了したことを示す乾燥したバサバサのカルメラ焼き状になっていた。反応容器中で反応物を解砕し、真空吸引により取り出し、さらに粉砕機(クラッシャー)にかけて粉砕し、1mmパスの粉末を得た(以上、一次工程)。この生成粉末を、以下二次工程の出発材料とする。
【0063】
セラミック(アルミナ)耐火物製の蓋付き容器(蓋は軽く閉止)に移し、蓋付き容器ごと電気炉に装入した。電気炉にN又はCOを導入して非酸化性雰囲気とし温度を常温から1300℃に10時間かけて上げ、最後に約1300℃に2時間保持し、放冷した。
【0064】
蓋付き容器から取り出した粉末を80〜85℃のイオン中和し交換水(熱水)で十分に撹拌粉砕しつつ洗浄してアルカリ成分を除き、最後に酸(HCl)で洗い中和し、さらに水洗しその後乾燥した。二次工程の出発原料10kg当たり、洗浄後に約0.6〜0.65kgの結晶性t−BNが得られた。これは一次工程の出発硼素重量に対し約28.5%以上の結晶性t−BNとなり収率は70%以上の高率であり、しかも高純度であった。なお、一次工程産物から二次工程の熱処理まで10〜20%の重量ロスが認められた。
【実施例2】
【0065】
実施例1とは別のサンプルであるが、実施例とほぼ同様にして得た結晶性t−BN粉末をCuKα線による粉末X線回折で調べた。得られた合成粉末のX線回折図を図2に示す。図1に示す公知のh−BNのX線回折図形と、図2の粉末X線回折図を比べると、図2の粉末X線回折図の窒化硼素は相当結晶性t−BN結晶化が進んでいて図1のh−BNの[002]の回折線及び[004]回折線に対応する位置にシャープな回折線が夫々約26.6°、約55°に認められる。しかし、h−BNの[102]回折線に対応する位置に回折線が認められないことが分かる。また、h−BNの[100]回折線に対応する位置(41.55°)にかなりシャープな回折線がある。この[100]回折線はh−BNのシャープな[101]回折線のある高角度側で低い[101]回折線とすそで重なっており、、[101]回折線は高角度側ですそを引いてやや高まったバックグラウンドを描いている。この[101]回折線はシャープな突起として存在していない。このことはこの合成窒化硼素粉末が結晶化が進んだ純度の高い結晶性t−BN粉末であることを意味する。図2の粉末は本発明にいうところの結晶性t−BN粉末の一例である。
【0066】
図2の粉末X線回折図の各回折線の2θの位置と半価幅を調べたところ、[002]回折線は26.58°にあり、[004]回折線は55.0°にあり半価幅が0.47°であった。
【実施例3】
【0067】
実施例1と同様にして得た結晶性t−BN微粉末のSEMによる拡大写真(×20000倍及び×10,000倍)を図3に示す。図3のSEM写真から、この結晶性t−BN合成粉末の一次粒子の平均粒径は約0.45μmであり、一次粒子の粒径は実質的に0.3〜0.75μmの範囲内に存在することが分かる。また、この一次粒子はh−BNの一次粒子に見られる六方晶系に特有の六角板状の結晶粒子形状を示さず、結晶性t−BN結晶に特有と考えられる円板状(大きなもの)ないし略球状(小さなもの)であることを認めた。
【実施例4】
【0068】
実施例1と同様な方法で合成し、分散した一次粒子を多く含む結晶性t−BN粉末を種結晶として外掛けで原料中に1重量%添加した以外は実施例1と同様にして結晶性t−BN粉末を合成した。この実施例では、一次反応の進行も早くなり、最終生成結晶性t−BNの収率に一層の改善が認められた。なお、仕込み無水硼酸に対する生成BNの収率は最高80%以上にも達する。
【実施例5】
【0069】
実施例1と同様な条件で作成した結晶性t−BN粉の分散体を作成し粒度分布測定を行い、その結果を図4に示す。測定はHORIBA LA−700粒径アナライザを用いて行った。その結果メデジアン径0.30μm、粒子径1μm以下の累積95.2%、90%粒子径は0.75μmであった。なおこの測定では、完全な一次粒子とは言えない(かなり凝集したまま測定される)点を留歩すると平均0.3μm以下であることは確実である。なお、その比表面積は23.4m/cmであった。なお、同様にして得た別のサンプルのSEM写真を図5に示す。粒子は略円板状ないし略球状をしており、平均一次粒子径は約0.3μmであり、一次粒子の粒径は実質的に0.2〜0.45μmのごく狭い範囲内にあることが分かる。
【実施例6】
【0070】
[参考例1]
無水硼酸と尿素の混合比を4:9(重量比)に変え、硼砂を用いることなく、一次工程加熱を1.5時間とし、最終温度を920〜950℃で15分間保持し、かつ密閉容器のガス抜き孔を十分にしぼって内部を加圧状態にした以外は実施例1と同様にしてBNを合成した。二次工程は実施例1とほぼ同様の条件で行い、洗浄も同様に行った。極めて高純度の結晶性t−BNが得られた。そのSEM写真を図6に示す。形状は略球形であり、平均一次粒子径は約0.25μmであり、一次粒子径は大部分が0.2〜0.3μmで実質的に0.15〜0.38μm(即ち凡そ0.1〜0.4μm)の範囲にあることが分かる。なお、無水硼酸と尿素の混合比(重量比)は4:6〜4:9が好ましいが4:9が最良の結果を与えた。
【実施例7】
【0071】
[参考例2]
実施例6と同様な条件で作成したサンプル結晶性t−BNのX線回折図を図7に示す。
図7と図1の粉末X線回折図を比べると、図7の粉末X線回折図の窒化硼素は相当結晶性t−BN結晶化が進んでいて図1のh−BNの[002]の回折線及び[100]回折線に対応する位置にシャープな回折線が夫々26.7°、41.8°に認められる。しかし、[002]の回折線の位置はh−BNの対応回折線位置と比べて若干高角度側にずれており、h−BNの[102]回折線に対応する位置(50°)に回折線が全く認められないことが分かる。また、h−BNの[100]回折線に対応する位置(41.8°)に余り高くないがシャープな回折線がある。この回折線はh−BNの[101]回折線のある高角度側に肩部を経てやや長いすそを引いている(以下(10)回折線という)が[101]回折線は明確な突起として存在しない。このことはこの合成窒化硼素粉末がt−BNとしての結晶化が進んだ純度の高い単相結晶性t−BN粉末であることを意味する。図7の粉末は本発明にいうところの高純度結晶性t−BN粉末の一例である(特に0.2〜0.3μmオーダーの超サブミクロンのもの)。バックグランドの低さから高純度であること、結晶性t−BN単相であることが十分うかがえる。即ち、図2、図7の回折線共Bを示すピークは全く現れていない点が注目されよう。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】従来のh−BNの公知のX線回折図の一例を示す。
【図2】本発明の結晶性t−BN粉末の一例の粉末X線回折図である。[]内にh−BN対応ピーク、()内に結晶性t−BN対応ピークを指数付けて示す。
【図3】本発明による一実施例の結晶性t−BN粉末の結晶構造を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真(×20,000、×10,000、表示倍率×2/3)である。
【図4】本発明の一実施例の結晶性t−BN粉末の粒度分布グラフである。
【図5】本発明の一実施例の結晶性t−BN粉末の結晶構造を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真(×20,000、×10,000、表示倍率×2/3)である。
【図6】本発明の実施例6(フラックス剤なし)の結晶性t−BN粉末の結晶構造を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真(×20,000、×10,000、表示倍率2/3)である。
【図7】本発明の実施例7のX線回折図である。[]内にh−BN対応ピーク、()内に結晶性t−BN対応ピークを指数付けて示す。
【図8】非晶質BN(a−BN)のX線回折図の一例(従来法)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質の窒化硼素をフラックス剤としての0.01重量%以上の溶融硼酸アルカリの存在下に非酸化性雰囲気中(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)において結晶性乱層構造窒化硼素(結晶性t−BN)へと結晶化させる工程(結晶性t−BN結晶化工程ないし二次工程)を含むことを特徴とする結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項2】
前記t−BN結晶化工程は、約1500℃以下で結晶性t−BNに達するまでの所定時間行う請求項1記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項3】
前記結晶化は1200〜1400℃の温度で行う請求項1又は2記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項4】
硼素源をなす硼素酸化物ないし加熱により硼素酸化物を生ずる物質と窒素源にフラックス剤としての0.01重量%以上の硼酸アルカリを含む混合物を非酸化性の雰囲気(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)に保持して加熱反応させて非晶質の窒化硼素を合成する工程(一次工程ないしBN合成工程)を含むことを特徴とする結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項5】
前記窒素源として尿素を用いる請求項4に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項6】
前記一次工程は、1200℃未満の温度まで加熱して行う請求項4又は5に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項7】
前記一次工程は少なくともフラックス剤の溶融温度以上まで加熱して行う請求項4〜6のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項8】
前記反応を850〜950℃までの温度に加熱して行い非晶質の窒化硼素を生成することを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項9】
前記硼酸アルカリが硼酸ナトリウム及び/又はその水和物である請求項1〜8のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項10】
前記一次工程における雰囲気が出発混合物の加熱分解ガス成分から主として成る請求項4〜9のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項11】
前記一次工程を反応容器中において生成ガスの吸引排気をすることなく行う請求項4〜10のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項12】
前記一次工程における雰囲気が大気圧ないし微加圧を含む大気圧より高い圧力である請求項4〜11のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項13】
混合物中の硼素源としての硼素と窒素源としての窒素の比を窒素過剰とする請求項4〜12のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項14】
前記t−BN結晶化工程において、窒素源をさらに添加する請求項1〜13のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項15】
混合物中の硼酸アルカリの量を0.01〜20重量%とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項16】
前記一次工程の反応生成物を非酸化性雰囲気中(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)で1200〜1400℃に保持して結晶性乱層構造窒化硼素(t−BN)へと結晶化させる工程(t−BN結晶化工程ないし二次工程)を含む請求項4〜15のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項17】
さらに前記一次工程の反応生成物を粉砕する工程をBN結晶化工程(二次工程)の前に含む請求項4〜16のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項18】
前記一次工程に引続き二次工程を連続して行う請求項4〜17のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項19】
前記乱層構造窒化硼素を結晶化工程の後で水性洗浄液で洗浄して不純物を除去する請求項1〜18のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項20】
前記一次工程を徐々に及び/又は段階的に温度を上げて行う請求項4〜19のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項21】
t−BN微粉末を種結晶として少量添加して硼素源、窒素源及びフラックス剤を含む混合物を加熱反応させる工程を含む請求項1〜20のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項22】
前記非晶質の窒化硼素は、硼酸アルカリを含有する被覆層を有する被覆窒化硼素粉末粒子を含有する請求項1〜21のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項23】
前記被覆窒化硼素粉末粒子は、結晶性乱層構造窒化硼素を含有する請求項1〜22のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質の窒化硼素をフラックス剤としての0.01重量%以上の溶融硼酸アルカリの存在下非酸化性雰囲気中(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)において結晶性乱層構造窒化硼素(結晶性t−BN)へと結晶化させる工程(結晶性t−BN結晶化工程)を含むことを特徴とする結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項2】
前記結晶性t−BN結晶化工程は、1500℃以下で結晶性t−BNに達するまで行う請求項1記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項3】
前記結晶性t−BN結晶化工程は1200〜1400℃の温度で行う請求項1又は2記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項4】
硼素源をなす硼素酸化物ないし加熱により硼素酸化物を生ずる物質と窒素源にフラックス剤としての0.01重量%以上の硼酸アルカリを含む混合物を非酸化性の雰囲気(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)に保持して加熱反応させて非晶質の窒化硼素を合成する工程(BN合成工程)を含むことを特徴とする結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項5】
前記窒素源として尿素を用いる請求項4に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項6】
前記BN合成工程は、1200℃未満の温度まで加熱して行う請求項4又は5に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項7】
前記BN合成工程は少なくともフラックス剤の溶融温度以上まで加熱して行う請求項4〜6のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項8】
前記反応を850〜950℃までの温度に加熱して行い非晶質の窒化硼素を生成することを特徴とする請求項4〜7のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項9】
前記硼酸アルカリが硼酸ナトリウム及び/又はその水和物である請求項〜8のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項10】
前記BN合成工程における雰囲気が出発混合物の加熱分解ガス成分から主として成る請求項4〜9のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項11】
前記BN合成工程を反応容器中において生成ガスの吸引排気をすることなく行う請求項4〜10のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項12】
前記BN合成工程における雰囲気が大気圧ないし微加圧を含む大気圧より高い圧力である請求項4〜11のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項13】
混合物中の硼素源としての硼素と窒素源としての窒素の比を窒素過剰とする請求項4〜12のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項14】
混合物中の硼酸アルカリの量を0.01〜20重量%とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項15】
前記BN合成工程の反応生成物を非酸化性雰囲気中(密閉状態又は準密閉状態の容器中雰囲気を含む)で1200〜1400℃に保持して結晶性乱層構造窒化硼素(結晶性t−BN)へと結晶化させる工程(結晶性t−BN結晶化工程)を含む請求項4〜14のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項16】
さらに前記BN合成工程の反応生成物を粉砕する工程を前記結晶性t−BN結晶化工程の前に含む請求項15に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項17】
前記BN合成工程に引続き前記結晶性t−BN結晶化工程を連続して行う請求項15又は16のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項18】
前記結晶性t−BN結晶化工程において、窒素源をさらに添加する請求項15〜17のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項19】
前記結晶性t−BN結晶性t−BN結晶化工程の後で水性洗浄液で洗浄して不純物を除去する請求項1〜3及び15〜18のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項20】
前記BN合成工程を徐々に及び/又は段階的に温度を上げて行う請求項4〜19のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項21】
結晶性t−BN微粉末を種結晶として少量添加して硼素源、窒素源及びフラックス剤を含む混合物を加熱反応させる工程を含む請求項1〜20のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項22】
前記非晶質の窒化硼素は、硼酸アルカリを含有する被覆層を有する被覆窒化硼素粉末粒子を含有する請求項1〜21のいずれか一項に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。
【請求項23】
前記被覆窒化硼素粉末粒子は、結晶性乱層構造窒化硼素を含有する請求項22に記載の結晶性乱層構造窒化硼素粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−232668(P2006−232668A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106751(P2006−106751)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【分割の表示】特願平9−21052の分割
【原出願日】平成9年1月20日(1997.1.20)
【出願人】(594060048)
【出願人】(594066110)株式会社冨士エンタープライズ (5)
【出願人】(597096459)
【出願人】(597096460)