説明

結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法および製造装置

【課題】機械的特性、耐熱性、透明性等の特性が優れた結晶性樹脂フィルムまたはシートを大量にかつ連続的に製造するための製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法は、溶融状態のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂Bを一対の挟持ロール50a,50bに挟んで圧延する方法であり、挟持ロール50a,50bに供給するフィルム状またはシート状の結晶性樹脂Bの厚みを、得られるフィルムまたはシートCの厚みの1.3〜8.0倍に、圧延時のシート状の結晶性樹脂の温度を結晶化温度以上融点以下に、ロール速度を、下記式(1)で表されるZが0.09以下になるように調整する。式(1) Z=[(挟持ロール50a,50bの半径[mm]×得られるフィルムまたはシートCの厚み[mm])1/2]/ロール速度[m/分]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性、耐熱性、透明性等の特性が優れ、例えば包装材、建材や工業用途等に使用される結晶性樹脂フィルムまたはシートを製造するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン(以下「PE」という)やポリプロピレン(以下「PP」という)やポリスチレン(以下「PS」という)やポリ塩化ビニル(以下「PVC」という)等をはじめとする、いわゆる「汎用プラスチック」は、非常に安価であるだけではなく、成形が容易で、金具およびシェラーミックスに比べて重さが数分の一と軽量であるゆえに、袋や各種包装、各種容器、シート類等の多様な生活用品材料や自動車、電気などの工業部品や日用品、雑貨用等の材料として、よく利用されている。
【0003】
しかしながら、当該汎用プラスチックは、機械的強度が不十分で耐熱性が低い等の欠点を有している。そのため、自動車等の機械製品や、電気・電子・情報製品をはじめとする各種工業製品に用いられる材料に対して要求される十分な特性を上記汎用プラスチックは有していないために、その適用範囲が制限されているというのが現状である。例えばPEの場合、軟化温度が通常90℃で程度である。また比較的耐熱性が高いとされるPPであっても、通常130℃以下で軟化してしまう。またPPは、ポリカーボネート(以下「PC」という)、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という)やPSなどに比して透明性が不十分であるので、光学用材料やボトルや透明容器としては使用できないという欠点を有している。
【0004】
一方、PET、PC、フッ素樹脂(テフロン(登録商標)等)やナイロン、ポリメチルペンテン、ポリオキシメチレン、アクリル樹脂等のいわゆる「エンジニアリングプラスチック」は、機械的特性と耐熱性や透明性等に優れており、通常150℃では軟化しない。よって、エンジニアリングプラスチックは、自動車や機械製品および電気製品をはじめとする高性能が要求される各種工業製品用材や光学用材料として利用されている。
しかしエンジニアリングプラスチックは、比較的比重が大きく、高価であり、ライフサイクルアセスメントにおける二酸化炭素排出量が多く、しかもモノマーリサイクルが困難または不可能なために環境負荷が大変大きいこと等の重大な欠点を有している。
【0005】
したがって、汎用プラスチックの機械的特性、耐熱性、および透明性等の材料特性を大幅に改善することによって、当該汎用プラスチックがエンジニアリングプラスチックの代替、さらには金属材料の代替として利用可能となれば、高分子製や金属製の各種工業製品や生活用品のコストを大幅に削減し、軽量化により大幅に省エネルギーし操作性を向上させることが可能になると期待できる。例えば、PETは現在、清涼飲料水をはじめとする飲料等のボトルとして利用されているが、かかるPETをPPに置き換えることが可能になれば、大幅にボトルのコストを削減することが可能となる。また、PETはモノマーリサイクルが可能ではあるが容易ではないために、使用済みのPETボトルは裁断された後に、衣料用繊維等やフィルム等の低品質な用途に1、2度再利用された後に廃棄されている。一方、PPはモノマーリサイクルが容易なため、完全なリサイクルが実現可能となり、石油などの化石燃料の消費および二酸化炭素(CO)の発生を抑えることができるというメリットもある。
【0006】
上記のように、汎用プラスチックの機械的特性、耐熱性、および透明性等の特性を向上させてエンジニアリングプラスチックや金属の代替として汎用プラスチックを利用するためには、PPやPEにおける結晶の割合(結晶化度)を著しく高める、より好ましくはPPやPEの非晶質を殆ど含まない結晶だけからなる結晶体を作製することが求められる。
【0007】
ここで高分子の結晶性を向上させる方法としては、高分子の融液の冷却速度を低下させる方法が知られている(非特許文献1参照)。しかし当該方法では、結晶化度の増加が全く不十分なばかりでなく、製品の生産性が著しく低下したり、結晶粒径が粗大化して機械的特性が低下したりするという欠点がある。またその他の方法としては、高分子の融液を高圧下で冷却して結晶化度を増大させるという方法が提案されている(非特許文献1参照)。しかし、当該方法は、高分子の融液を数百気圧以上に加圧する必要があり、理論的には可能であるが、工業規模生産では製造装置の設計が困難な上に、生産コストが高くなってしまう。よって、上記方法の実現は、現実的には困難である。また、高分子の結晶性を向上させるその他の方法としては、核剤を高分子融液に添加する方法が知られている(非特許文献2参照)。しかし現行の当該方法では、(a)不純物である核剤の混入を避けることができない、(b)結晶化度の増加が十分でなく、核剤が樹脂よりも著しく高価なのでコストアップしてしまう等の欠点がある。したがって、汎用プラスチック等の高分子において結晶化度を飛躍的に向上させる方法、および高分子の結晶体を生産する方法は、これまでに完成されていなかった。
【0008】
ところで、これまでの多くの研究により、融液中の分子鎖が無秩序な形態(例えば、糸鞠状(ランダムコイル))で存在する高分子の融液(「等方融液」という)を、せん断流動場において結晶化させることによって、流れに沿って配向した太さ数μmの細い繊維状の特徴的な結晶形態(shish)と、それに串刺しにされた十nm厚の薄板状結晶と非品とがサンドイッチ状に積層した形態(kebab)とが、融液中にまばらに生成することが明らかにされている(非特許文献3参照)。上記の状態は、「shish−kebab (シシ−ケバブ=焼き鳥の“串”と“肉”との意)」と称される。
【0009】
shish−kebab生成初期にはshishのみがまばらに生成する。shishの構造は分子鎖が伸び切って結晶化した「伸びきり鎖結晶(Extended chain crystal:ECC)」であり(非特許文献4参照)、kebabの結晶部分の構造は、分子鎖が薄板状結晶の表面で折りたたんでいる「折りたたみ鎖結晶(Folded chain crystal:FCC)」であると考えられている。shish−kebabの分子論的生成メカニズムは、速度論的研究に基づく研究例が無く、明らかではなかった。折りたたみ鎖結晶は、高分子結晶で最も広く見られる薄板状結晶(ラメラ結晶という)である。また、金型へ射出成形した場合に、表面に“skin”と呼ばれる数百μm厚の薄い結晶性皮膜と、その内部にcoreと呼ばれる折りたたみ鎖結晶と非晶との「積層構造(積層ラメラ構造という)」の集合体とが形成されることは良く知られている(非特許文献5参照)。skinはshish kebabからなっていると考えられているが、shishはまばらにしか存在していないことが確認されている。
【0010】
本発明者らは、shishの生成メカニズムを初めて速度論的に研究し、融液中の一部の分子鎖が、異物界面において、界面との「トポロジー的相互作用」のために伸長して互いに液晶的に配向秩序を持った融液(「配向融液」または「Oriented melt」という)になるために、shishが融液の一部に生成する、というメカニズムを明らかにした(例えば非特許文献6および7参照)。ここで、「トポロジー的相互作用」とは「1次元のトポロジー(数学の位相幾何学)で特徴付けられるひも状の高分子鎖は、互いに絡まり合っているために、流動場において高分子鎖がお互いに引っ張り合ったり滑り合ったりする」効果のことであり、高分子固有の相互作用として公知のことである。本発明者らは、高分子のトポロジー的結晶化メカニズム理論を初めて提唱し、伸びきり鎖結晶と折りたたみ鎖結晶の起源を解明した。この理論は「滑り拡散理論」と呼ばれ、世界的に認められている(非特許文献8参照)。
【0011】
また本発明者らは、高分子の低せん断ひずみ速度=0.01〜0.1s−1のせん断流動結晶化において発見した、「渦巻き結晶(spiralite)」の生成メカニズム解明から、せん断結晶化において、異物界面において分子鎖が伸長されて配向融液が発生していることを実験的に初めて検証し、核生成および成長速度が著しく加速される、という普遍的メカニズムを提唱した(非特許文献9参照)。
【0012】
よって、高分子融液全体を配向融液にすることができれば、高分子の結晶化が著しく起こり易くなり、結晶化度を高めることができるといえる。ここで高分子融液全体が配向融液となったものを「バルクの配向融液」という。さらに高分子融液全体を配向融液の状態のままで結晶化することができれば、高分子の大部分の分子鎖が配向した構造を有する結晶体(これをバルクの「高分子配向結晶体」と呼ぶ)を生産し得ることが期待される。この場合にはさらに核生成が著しく促進され、核剤を添加せずとも分子鎖間で核生成が無数に起こる「均一核生成」へと激変するため、不純物の混入を回避することができるとともに、結晶サイズをナノメートルオーダーにすることが可能となり、高い透明性を有し、飛躍的に機械的特性と耐熱性が増大した高分子を得ることができるということも期待される。ここで「均一核生成」とは、よく知られた古典的核生成理論において、核剤等の異物の助けを借りずに自発的に核生成する場合を指す(非特許文献10参照)。これに対して、核剤などの異物の助けを借りて異物表面に核生成する場合は「不均一核生成」と呼ばれる。従来は、全ての物質において、バルクの融液からの結晶化は「不均一核生成」であった。
【0013】
特許文献1には、結晶化温度にしたロッド状のポリプロピレンを高速で押しつぶして、結晶体を得る方法が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、ロッド内の歪み速度のばらつきが生じ、均一性が低い上に、高分子の結晶体を大量にかつ連続的に製造することは困難であり、工業的ではなかった。
特許文献2には、高い結晶性の高分子結晶体について記載されている。しかしながら、特許文献2に記載の高分子結晶体は、核剤を含んでいるため、融液と結晶化温度の差が小さくなり、成形条件が狭くなるという欠点を有していた。
【0014】
ところで、特許文献3には、超高分子量粉末ポリプロピレンを連続的にロールで狭窄移送してシートを得る方法が記載されている。しかしながら、特許文献3に記載の方法では、昇温時に得られる、融解を示すDSC曲線ピークの温度以上ではあるが、結晶融点よりも低い温度で加工しており、結晶融点以上に加熱しないため、完全に融解していない結晶が存在していた(ここで、結晶融点とは、DSC曲線にて結晶が完全に融解したピーク高温側の裾の温度、すなわち融解終了温度を示している。)。そのため、プロセシングスピードに制限が生じ生産性が低く、また、上記「バルクの配向融液」を生成できず、不均一核生成を生じるため、充分な透明性および剛性を発現することは困難であった。
特許文献4には、スメチカ構造のポリプロピレンを形成し、その後、圧延して、透明なシートを製造する方法が記載されている。すなわち、特許文献4に記載の方法では、スメチカ構造のシートを得る工程と、圧延する工程との少なくとも2つの工程を有するが、スメチカ構造のシートを得る工程では、ポリプロピレンのエチレン共重合体を使用し、石油樹脂を添加し、急冷する必要があった。このような工程を経て最終的に得られたシートでは高い剛性を発現することは困難であった。
特許文献5では、ポリプロピレンの原反シートを一対のロールで挟んで圧延する方法が記載されている。しかしながら、ポリプロピレンの原反シートを得る際および圧延する際に、バルクの配向融液から均一核生成を発生させることは困難であった。したがって、高い透明性および剛性を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Leo Mandelkern著、中島章夫ら訳、「高分子の結晶化」、化学同人、1966年、p.191−193
【非特許文献2】エドワード・P・ムーア・Jr.著、保田哲男ら訳、「ポリプロピレンハンドブック」、工業調査会、p.222−223
【非特許文献3】A.Keller, M.J.Machin, J.Macromol.Sci, Phys., B2, 501 (1968)
【非特許文献4】B. Wunderlich, T. Arakawa, J. Polym. Sci., 2, 3697-3706(1964)
【非特許文献5】藤山光美、「ポリプロピレン射出成形物のスキン層の構造」、高分子論文集、32(7),PP411−417(1975)
【非特許文献6】S. Yamazaki, M.Hikosaka et a1, Polymer, 46, 2005, 1675-1684.
【非特許文献7】S. Yamazaki, M.Hikosaka et a1, Polymer, 46, 2005, 1685-1692.
【非特許文献8】M.Hikosaka, Polymer 1987 28 1257-1264
【非特許文献9】K.Watanabe et a1, Macromolecules 39(4), 2006, 1515-1524.
【非特許文献10】W.B.Hillig, Acta Metallurgica, 14, 1966, 1868-1869
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開WO2008/108251明細書
【特許文献2】特開2008−248039号公報
【特許文献3】特開平5−104620号公報
【特許文献4】特開昭55−27203号公報
【特許文献5】特開昭56−33924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記のとおり、現時点では、汎用プラスチック等の高分子において結晶化度が飛躍的に向上された結晶体を大量にかつ連続的に製造する方法が知られていなかった。
そこで、本発明は、機械的特性、耐熱性、透明性等の特性が優れた結晶性樹脂フィルムまたはシートを大量にかつ連続的に製造するための製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者が、結晶性樹脂の分子鎖を大量にかつ高い配向性で配向させる方法について検討した結果、結晶性樹脂の溶融物を、大きな歪み速度で変形するように特定の温度にて挟持ロールで圧延し、引き取ると、分子鎖が高い配向性で一方向に配向して結晶性が高くなることを見出した。そして、歪み速度が大きくなる条件について検討して、以下の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法および製造装置を発明した。
【0019】
すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
[1] 溶融状態のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂を一対の挟持ロールに挟んで圧延する結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法であって、
挟持ロールに供給するフィルム状またはシート状の結晶性樹脂の厚みを、得られるフィルムまたはシートの厚みの1.3〜8.0倍に、圧延時のシート状の結晶性樹脂の温度を結晶化温度以上融点以下に、ロール速度を、下記式(1)で表されるZが0.09以下になるように調整することを特徴とする結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法。
式(1) Z=[(挟持ロールの半径[mm]×得られるフィルムまたはシートの厚み[mm])1/2]/ロール速度[m/分]
ここで、ロール速度とは、回転によって生じるロール表面の移動速度を意味する。
[2] 溶融状態のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂は、溶融させた結晶性樹脂を、スリット状の開口部を有するダイから吐出させて得ることを特徴とする[1]に記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法。
[3] 圧延後のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂を挟持ロールから剥離させ、圧延後のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂が挟持ロールから離れる部分に向けて気体を噴射することを特徴とする[1]または[2]に記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法。
[4] 各挟持ロールの周面をあらかじめ離型処理することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法。
[5] 圧延時のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂の温度をT、結晶化温度をT、融点をTとした際に、下記式(2)で求められるXの値の範囲を0.05〜0.90にするように結晶性樹脂の温度Tを調整することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法。
式(2) X=(T−T)/(T−T
【0020】
[6] 結晶性樹脂を溶融しながら供給する押出機と、
該押出機より下流側に設けられたギアポンプと、
該ギアポンプより下流側に設けられた、スリット状の開口部を有するダイと、
該ダイから吐出された溶融状態のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂を、結晶化温度以上融点以下に冷却する冷却手段と、
該冷却手段を通過したフィルム状またはシート状の結晶性樹脂を挟んで圧延する一対の挟持ロールとを具備し、
前記一対の挟持ロールは、冷却手段を通過したフィルム状またはシート状の結晶性樹脂の厚みが得られるフィルムまたはシートの厚みの1.3〜8.0倍になるように配置されていることを特徴とする結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造装置。
[7] 下記式(1)で表されるZが0.09以下であることを特徴とする[6]に記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造装置。
式(1) Z=[(挟持ロールの半径[mm]×得られるフィルムまたはシートの厚み[mm])1/2]/ロール速度[m/分]
[8] 一対の挟持ロールの下流側に、圧延したフィルムまたはシートを引き取る引き取り手段を具備することを特徴とする[6]または[7]に記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造装置。
[9] 圧延後のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂が挟持ロールから離れる部分に向けて気体を噴射させる巻き付き防止手段を具備することを特徴とする[8]に記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造装置。
[10] 各挟持ロールの周面が離型処理されていることを特徴とする[6]〜[9]のいずれかに記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法および製造装置によれば、結晶性樹脂の分子鎖を大量にかつ連続的に高い配向性で配向させることができ、機械的特性、耐熱性および透明性に優れた結晶性樹脂フィルムまたはシートを工業的に製造できる
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造装置の一実施形態例を示す模式図である。
【図2】シート状の結晶性樹脂を圧延している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(結晶性樹脂シートの製造装置)
本発明の結晶性樹脂シートの製造装置(以下、製造装置と略す。)の一実施形態例について説明する。
本実施形態例の製造装置1は、溶融状態のシート状の結晶性樹脂を圧延して結晶性樹脂シートを得るための製造装置であって、押出機10と、押出機10より下流側に設けられたギアポンプ20と、ギアポンプ20より下流側に設けられたスリットダイ30と、スリットダイ30から吐出されたシート状の結晶性樹脂Aを冷却する冷却手段40と、冷却手段40を通過した結晶性樹脂シートBを挟んで圧延する一対の挟持ロール50a,50bと、挟持ロール50a,50bから移送されたシート状の結晶性樹脂Cの移送方向を屈曲させるガイドロール60と、ガイドロール60から移送されたシート状の結晶性樹脂Dを引き取る引き取りロール70と、一方の挟持ロール50aの周面と圧延後のシート状の結晶性樹脂Cとの間に配置された巻き付き防止手段80とを具備する。
【0024】
押出機10は、結晶性樹脂を溶融しながら供給するものであり、加熱可能で水平に配置されたシリンダー11と、シリンダー11内に設けられたスクリュー12と、スクリュー12を駆動させるモータ13と、シリンダー11の上流側に結晶性樹脂を供給するためのホッパ14とを備える。
【0025】
シリンダー11は、複数のブロックに分割されていてもよい。シリンダー11が複数のブロックに分割されていれば、ブロック毎に温度調節できる。
スクリュー12は1本であってもよいし、2本であってもよい。スクリュー12が1本(すなわち単軸押出機)である場合には、スクリュー12として、例えば、フルフライト型、ダルメージ型などを用いることができる。
【0026】
ギアポンプ20は、スリットダイ30への溶融状態の結晶性樹脂の供給量を一定にするものである。本実施形態例におけるギアポンプ20は、加熱可能なハウジング21内に収容されている。
ギアポンプ20としては、外接型であってもよいし、内接型であってもよい。外接型のギアポンプの場合、ギアの数は2個であってもよいし、3個以上であってもよい。
【0027】
スリットダイ30は、スリット状の幅広の開口部を有するダイであり、例えば、Tダイと称されるものが使用される。本実施形態例では、開口部を下方に向けて配置されている。開口部のリップ開度は、例えば、0.3〜3.0mmである。
【0028】
冷却手段40は、溶融状態のシート状の結晶性樹脂Bを結晶化温度以上融点以下に冷却するものである。
溶融状態のシート状の結晶性樹脂Bを結晶化温度以上融点以下に冷却するためには、冷却手段40の冷却能力が高くなければならない。本実施形態例における冷却手段40は、シート状の結晶性樹脂Bの入口および出口を有するチャンバ41と、チャンバ41に冷却ガスを供給するための冷却ガス供給管42と、チャンバ41内のガスを排出するための排出管43とを備える。
冷却ガスの温度は0℃以下であることが好ましく、−50℃以下であることがより好ましい。
また、チャンバ41が直方体の箱状である場合、冷却ガスの流速は、7/L(Lは結晶性樹脂Bの流れ方向におけるチャンバ41の長さ[m]である。)[m/秒]以上であることが好ましく、10/L[m/秒]以上であることがより好ましい。また、冷却ガスの流速は、20/L[m/秒]以下であることが好ましい。ガス流速が7/L[m/秒]以上であれば、充分な冷却能力が得られ、20/L[m/秒]以下であれば、結晶性樹脂Bをチャンバ41内で安定に走行させることができる。
冷却ガスとしては、例えば、液体窒素を気化させた窒素ガス、または液体窒素を気化させた窒素ガスを含む空気などが挙げられる。
冷却ガスの供給量は、シート状の結晶性樹脂Bの温度が結晶化温度以上融点以下になるように調節される。
【0029】
挟持ロール50a,50bは、冷却手段40を通過したシート状の結晶性樹脂Bの厚みが挟持ロール50a,50b同士の間隔の1.3〜8.0倍になるように配置されている。
挟持ロール50a,50bの材質としては特に制限はないが、溶融状態のシート状の結晶性樹脂Bを確実に圧延できることから、金属が好ましい。
また、挟持ロール50a,50bの周面は、高速回転させた際でも圧延後のシート状の結晶性樹脂Cを挟持ロール50a,50bから容易に剥離させることが可能になるため、あらかじめ離型処理されていることが好ましい。
離型処理としては、例えば、シリコーンやフッ素樹脂等の離型剤を挟持ロール50a,50bの周面に塗布または噴霧する方法などが挙げられる。
挟持ロール50a,50bは、例えば、エアシリンダなどが用いられて固定されている。エアシリンダの圧力は、シート状の結晶性樹脂を高速で供給した場合でも挟持ロール50a,50bの間隔の変動が小さくなるように高くされていることが好ましい。
【0030】
巻き付き防止手段80は、圧延後のシート状の結晶性樹脂Cが挟持ロール50aから離れる部分に向けて気体を噴射させるものである。本発明では、後述するように、挟持ロール50a,50bを高速で回転させるため、シート状の結晶性樹脂Cが挟持ロール50aに巻き付きやすい状態になる。しかし、本実施形態例では、巻き付き防止手段80から噴射した気体によって、挟持ロール50aからのシート状の結晶性樹脂Cの剥離を補助するため、シート状の結晶性樹脂Cの巻き付きを防止できる。
【0031】
また、製造装置1では、ギアポンプ20からスリットダイ30までの溶融状態の結晶性樹脂の圧力を圧力計測器により測定し、測定した圧力が所定の圧力で一定になるように押出機10のモータ13の回転数を制御することが好ましい。
また、ギアポンプ20の回転数に応じて、挟持ロール50a,50bの回転数を制御することが好ましい。
このような押出機10および挟持ロール50a,50bの制御によれば、安定して連続的に結晶性樹脂シートを製造できる。
【0032】
上記製造装置1では、ギアポンプ20で溶融状態の結晶性樹脂を一定量供給して溶融状態のシート状の結晶性樹脂Aを形成し、そのシート状の結晶性樹脂Aを冷却することにより、挟持ロール50a,50bに供給するシート状の結晶性樹脂Bを結晶化温度以上融点以下にできる。そして、そのような温度に調整したシート状の結晶性樹脂を一対の挟持ロール50a,50bに挟んで圧延し、引き取ることによって、結晶性樹脂の分子鎖に大きな歪みを与えることができる。これにより、分子鎖を高い配向性で配向させることができるため、得られる樹脂シートは結晶化度が高くなる。得られた結晶性樹脂シートは、結晶化度が高いため、機械的特性、耐熱性、透明性に優れる。
【0033】
(結晶性樹脂シートの製造方法)
上記製造装置1を用いた結晶性樹脂シートの製造方法について説明する。
本実施形態例の製造方法では、まず、シリンダー11を加熱し、モータ13を駆動させてスクリュー12を回転させ、ホッパ14から結晶性樹脂のペレットを供給する。これにより、シリンダー11内に供給された結晶性樹脂を溶融しながら、スクリュー12によってギアポンプ20に向けて供給する。
次いで、溶融した結晶性樹脂をギアポンプ20に通して、結晶性樹脂の供給量を一定化する。
次いで、結晶性樹脂をスリットダイ30から吐出させて、溶融状態のシート状の結晶性樹脂Aを形成させる。
次いで、溶融状態のシート状の結晶性樹脂Aを冷却手段40のチャンバ41内の冷却ガスにより冷却し、図2に示すように、冷却したシート状の結晶性樹脂Bを一対の挟持ロール50a,50bに挟んで圧延する。
次いで、圧延後のシート状の結晶性樹脂Cを挟持ロール50aに約1/3周掛け回してから、圧延後のシート状の結晶性樹脂Cを挟持ロール50aから剥離し、ガイドロール60に移送し、ガイドロール60にて移送方向を屈曲させて引き取りロール70に移送する。そして、引き取りロール70によりシート状の結晶性樹脂Dを引き取って結晶性樹脂シートを得る。
【0034】
上記製造方法では、冷却手段40により冷却されて挟持ロール50a,50bに供給されるシート状の結晶性樹脂Bの厚みを、挟持ロール50a,50b同士の間隔の1.3〜8.0倍に、好ましくは1.3〜5.0倍に、より好ましくは1.4〜3.5倍に調整する。
シート状の結晶性樹脂Bの厚みを挟持ロール50a,50b同士の間隔の1.3倍未満にすると、圧延時に大きな歪みが生じないため、結晶性樹脂の分子鎖を配向させることができず、8.0倍より大きくすると、供給したシート状の結晶性樹脂Bの全てを挟持ロール50a,50bの間に通すことが困難になり、目的の圧延ができなくなる。
シート状の結晶性樹脂Bの厚みを調整するためには、スリットダイ30のリップ開度、ギアポンプ20による結晶性樹脂の供給量、挟持ロール50a,50bの間隔等を適宜調整すればよい。
【0035】
また、上記製造方法では、圧延時のシート状の結晶性樹脂Bの温度を、結晶化温度以上融点以下に、好ましくは(結晶化温度+5℃)以上(融点−5℃)以下、より好ましくは(結晶化温度+10℃)以上(融点−10℃)以下に調整する。このような温度条件の結晶性樹脂Bは過冷却状態になっている。
圧延時のシート状の結晶性樹脂Bの温度を前記下限値未満に調整すると、シートの成形が困難になり、前記上限値を超えるように調整すると、分子鎖を配向させることが困難になる。
圧延時のシート状の結晶性樹脂Bの温度を調整するためには、冷却手段40により溶融状態のシート状の結晶性樹脂Aの冷却の程度を適宜調整すればよい。
【0036】
また、圧延時のシート状の結晶性樹脂Bは、下記式(2)で求められるXの値の範囲が0.05〜0.90になるように樹脂温度Tを調整することが好ましい。Xの上限は0.70であることがより好ましく、0.50であることが特に好ましい。ここで、式(2)におけるTは、挟持ロール50a,50bで圧延する際の結晶性樹脂の温度、TはDSCで実測した結晶性樹脂の結晶化温度、TはDSCで実測した結晶性樹脂の融点である。Xの値が0.05以上であれば、配向メルトが緩和しにくく、充分な核生成速度が得られ、透明性および剛性の高いシートをより容易に得ることができる。一方、Xの値が0.90以下であれば、シートの成形の安定性が向上する。
式(2) X=(T−T)/(T−T
【0037】
また、上記製造方法では、引き取りロール70のロール速度を、下記式(1)で表されるZが0.09以下になるように調整する。
式(1) Z=[(挟持ロールの半径[mm]×得られるシートの厚み[mm])1/2]/ロール速度[m/分]
ロール速度を、Zが0.09を超えるように調整すると、結晶性樹脂シートは得られない。
また、引き取りロール70のロール速度は、実用的に製造できる点では、式(1)で表されるZが 0.017以上になるように調整することが好ましい。
【0038】
また、上記製造方法では、挟持ロール50aへのシート状の結晶性樹脂Cの巻き付きを防止するために、圧延後のシート状の結晶性樹脂Cが挟持ロール50aから離れる部分に向けて、巻き付き防止手段80より気体を噴射する。
噴射速度は50〜200m/分であることが好ましい。噴射速度が50m/分以上であれば、確実にシート状の結晶性樹脂Cを剥離でき、200m/分以下であれば、過度の気体の噴射によるシート状の結晶性樹脂Cの損傷を防止できる。
【0039】
また、上記製造方法では、挟持ロール50a,50bに供給するシート状の結晶性樹脂Bの厚みを適宜測定することが好ましい。シート状の結晶性樹脂Bの厚さの測定方法としては、例えば、レーザー光を当てて透過した光をCMOSカメラで撮像し、得られた画像から測定する方法、長焦点顕微鏡(例えば、インフニティ社製K2等)を用いて測定する方法、CCDレーザー変位計(例えば、「キーエンス社製LK−Gシリーズ等)。を用いて測定する方法などが挙げられる。
【0040】
上記製造方法が適用される結晶性樹脂としては、例えば、ポリアルキレン、ポリアミド、ポリエーテル、液晶ポリマー等が挙げられる。具体的には、ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4メチルペンテン等のポリオレフィン類あるいは結晶性エチレン・プロピレン共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド類、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類、シンジオタクチックポリスチレン、アイソタクチックポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオロライド等のフッ素樹脂、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリエーテルニトリル等が挙げられる。ただし、これらの樹脂に限定されるものではない。
これらの結晶性高分子は単独で使用してもよいし、同種のもので分子量が異なるものを組み合わせて使用してもよいし、非晶性の高分子と組み合わせて使用してもよい。同種または異種の結晶性樹脂を組み合わせる場合には、各結晶性樹脂について上記式(2)の関係を満足する範囲で成形する。
アイソタクティックポリプロピレンを使用する場合には、より高い剛性が得られる点では、mmmmによる立体規則性が95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましい。
【0041】
以上説明した製造方法では、溶融状態のシート状の結晶性樹脂を特定の条件下で一対の挟持ロール50a,50bに挟んで圧延し、引き取るため、圧延時に結晶性樹脂の分子鎖に大きな歪みを与えることができる。その大きな歪みによって分子鎖を高い配向性で配向させることができるため、得られる樹脂シートは結晶化度が高くなる。得られた結晶性樹脂シートは、結晶化度が高いため、機械的特性、耐熱性、透明性に優れる。
また、この製造方法によれば、大量にかつ連続的に結晶性樹脂シートが得られ、工業的に有用である。
【0042】
得られる結晶性樹脂シートの厚みLは10μm〜3mmであることが好ましく、20〜300μmであることがより好ましい。厚みLが10μm以上の結晶性樹脂シートは容易に成形できる。また、厚みLが3mm以下であれば、結晶性樹脂の分子鎖が配向した結晶性樹脂シートを容易に製造できる。
また、得られる結晶性樹脂シートの実用性を考慮すると、シートの幅は0.3〜2.0mであることが好ましい。
【0043】
なお、結晶性樹脂シートは、結晶性樹脂のみならず非晶質(アモルファス)の樹脂が含まれていてもよい。
また、本発明における結晶性樹脂シートは、特に不純物である核剤等を含まない態様が好ましい。結晶性樹脂シートは、均一核生成が起こっているために、核剤を含まなくても優れた機械的特性を有する。核剤を含まないことで、結晶性樹脂よりも著しく高価な核剤を用いることによるコストアップを回避できる。ここで、「核剤」とは結晶形成の核となる物質のことを意味し、結晶化度の増加を目的として添加される物質の総称である。
【0044】
上記結晶性樹脂シートは、貯蔵弾性率E’が好ましくは2.5GPa以上、より好ましくは3.0GPa以上である。
E’は、測定機として、東洋ボールドウィン製バイブロン(RHEOVIBRON DDV−II−EA)を用い、測定試験片として、長さ30mm、幅2mm(長さ方向がシートの引き取り方向)のものを用いる。そして、周波数110Hz、位振幅0.025mm、測定温度25℃で測定する。
【0045】
結晶性樹脂がポリプロピレンである場合、耐熱温度は、好ましくは135℃以上、より好ましくは145℃以上、特に好ましくは150℃以上である。
耐熱温度は、測定機として、東洋ボールドウィン製バイブロン(RHEOVIBRON DDV−II−EA)を用い、測定試験片として、長さ30mm、幅2mm(長さ方向がシートの引き取り方向)のものを用いる。そして、周波数110Hz、位振幅0.025mmで、測定温度25℃から張力5gfを試験片にかけながら、昇温速度2℃/分で昇温させ、伸び率を測定する。そして、伸び率が1%になったときの温度を耐熱温度とする。
ここで、伸び率とは、{[(測定時の長さ)−(加熱前の長さ)]/(加熱前の長さ)}×100(%)のことである。
【0046】
上記製造方法により得られた結晶性樹脂シートは、自動車、航空機、ロケット、電車、船舶、バイク、および自転車など乗り物の内装・外装材、または工作機械用の部品や機械部材として利用が可能である。
また、結晶性樹脂シートは、高剛性・軽量を活かしてスピーカーやマイク用振動板として利用が可能である。
また、結晶性樹脂シートは、高透明性を活かしてPCの代替としてCDやDVDとして利用が可能である。
また、結晶性樹脂シートは、高透明性を活かして液晶やプラズマディスプレイ用マスクなどとして利用が可能である。
また、結晶性樹脂シートは、高透明性を活かしてディスポーザブル注射器、点滴用器具、薬品容器などの医療用品または機器として利用が可能である。
また、結晶性樹脂シートは、高透明性を活かしてガラスの代替として各種瓶、グラス、家庭用小型水槽、業務用大型水槽として利用が可能である。
また、結晶性樹脂シートは、高透明性を活かしてコンタクトレンズ、めがね用レンズ、各種光学レンズとして利用が可能である。
また、結晶性樹脂シートは、高透明性を活かしてビル用・住宅用ガラスとして利用が可能である。
また、結晶性樹脂シートは、高剛性や高靭性や軽量を活かしてスキー靴、スキー板、ボード、ラケット、各種ネット、テント、リュックサックなどの広範なスポーツ用品として利用が可能である。
また、結晶性樹脂シートは、高剛性や高靭性や軽量を活かして、針、はさみ、ミシンなどの手芸用品や装飾用品として利用が可能である。
また、結晶性樹脂シートは、ショーウィンドウやディスプレイ部品などの商業用品として利用が可能である。
また、結晶性樹脂シートは、ブランコ、シーソー、ジェットコースターなどの公園、遊園地、テーマパーク用器具または設備として利用が可能である。
さらには、結晶性樹脂シートは、電気・電子・情報機器、または時計等精密機器の部品の構造材や箱材;ファイル、フォルダ、筆箱、筆記用具、はさみなどの文房具;包丁、ボール、などの料理用具;食品、お菓子、タバコなどの包装材;食品容器、食器、割り箸、楊枝;家庭用家具、オフィス家具などの家具;ビルや住宅用の建材、内装材、および外装材;道路または橋梁用の材料;玩具用の材料;超強力繊維や糸;漁業用漁具、漁網、つり用具;農業用具、無業用品;レジ袋、ゴミ袋;各種パイプ;園芸用品;および運輸用コンテナ、パレット、箱;等として利用が可能である。
本発明の結晶性樹脂シートの適用範囲は上記の用途に限定されるものではない。
【0047】
なお、本発明は、上記実施形態例に限定されない。本発明における結晶性樹脂の過冷却温度(結晶化温度以上融点以下)に冷却する方法は図1に記載の方法に限定されない。
また、特許文献5に記載の方法で得た固体状の樹脂シートを、連続的に、加熱トンネル等を用いて融点以上に加熱した後、結晶化温度以下に冷却し、その冷却したものを、式(1)の条件で一対の挟持ロールで圧延してよい。この方法によっても、上記実施形態例と同様の物性の結晶性樹脂シートを得ることができる。
【0048】
また、上記の実施形態例では、結晶性樹脂シートの製造について説明したが、結晶性樹脂フィルムの製造も同様の製造装置および製造方法を適用できる。結晶性樹脂フィルムの用途は結晶性樹脂シートの用途と同様である。
【実施例】
【0049】
以下の例で用いた結晶性樹脂の融点および結晶化温度は以下のようにして測定した。
測定装置:パーキンエルマー製ダイヤモンドDSC
試料の質量:約5mg
測定温度パターン:(1)230℃、5分保持、(2)10℃/分で冷却して、結晶化温度を測定。(3)30℃で10分保持、(4)10℃/分で昇温して、融点を測定、(5)ピークの頂点を測定。
また、ポリプロピレン系重合体の立体規則性の指標である、分子鎖中のメチル基のペンタッド単位でのアイソタクチック分率mmmmを、NMR(日本電子(株)製JNM−GSX400(13C核共鳴周波数100MHz)の測定から求めた。
NMRの測定条件は下記の通りである。
測定モード:プロトンデカップリング法、パルス幅:8.0μ秒、パルス繰り返し時間:3.0μ秒、積算回数:20000回、溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン(75容量%)/重ベンゼン(25容量%)の混合溶媒、内部標準:ヘキサメチルジシロキサン試料濃度:300mg/3.0ml溶媒、測定温度:120℃
なお、各シグナルは、A.Zambelliら、Macromolecules,13,267,1980年、の記載に基づいて帰属した。
【0050】
(実施例1)
図1に示す製造装置1を用いて(ただし、ガイドロール60および引き取りロール70は用いていない。)結晶性樹脂シートを得た。なお、製造装置1における押出機10としては、シリンダー11の口径が40mm、スクリュー12がフルフライト型、L/D=30の単軸押出機(クリエイトプラスチックス(株)製)を用いた。また、スリットダイ30としては、幅10mm、リップ開度0.5mmのものを用いた。また、挟持ロール50a,50bとしては、直径200mmのものを用いた。
また、結晶性樹脂としては、サンアロマー(株)製サンアロマーPM802A(ホモポリプロピレン、MFR:20g/10分、融点:162.4℃、結晶化温度:116.0℃、立体規則性mmmm:98.3%)を用いた。
【0051】
具体的な製造方法では、まず、シリンダー11を200℃に、ギアポンプ20とスリットダイ30を190℃に加熱し、モータ13を駆動させてスクリュー12を回転させ、ホッパ14からポリプロピレンのペレットを供給した。これにより、ポリプロピレンを溶融しながらギアポンプ20に向けて供給した。
次いで、溶融したポリプロピレンをギアポンプ20に通して、吐出量330g/時間で供給した。
次いで、ポリプロピレンをスリットダイ30から吐出させて、溶融状態のシート状の結晶性樹脂Aを形成させた。
次いで、挟持ロール50a,50bを120℃に調整し、シートを挟む際の挟持ロール50a,50b同士の間隔が100μmになるように調整した。次いで、挟持ロール50a,50bの間隔を50mmに広げ、溶融状態のシート状結晶性樹脂B(長さ約60cm)を挟持ロール50aの周面に巻き付け、樹脂温度を測定した。溶融状態のシート状結晶性樹脂Bを挟持ロール50aの周面に巻き付けてから5秒後にロール速度を50m/分とした。次いで、挟持ロール50a,50bを閉じ、挟持ロール50a,50bの間隔を100μmとし、溶融状態のシート状結晶性樹脂B(厚み500μm)を圧延した。本実施例では、挟持ロール50a,50bの表面温度が圧延時のシート状結晶性樹脂Bの樹脂温度とほぼ同じになる。
次いで、挟持ロール50a,50bの間隔を50mmに広げ、圧延されて得られた結晶性樹脂シートCを挟持ロール50a表面から剥がし取った。得られた結晶性樹脂シートCの厚みは155μmであった。
なお、シートの厚さはISO4591に従って測定した。
【0052】
得られたシートの耐熱温度、貯蔵弾性率E’を下記のようにして測定した。測定結果を表1に示す。
[耐熱温度]測定機として、東洋ボールドウィン製バイブロン(RHEOVIBRON DDV−II−EA)を用い、測定試験片として、長さ30mm、幅2mm、厚み約0.3mm(長さ方向がシートの引き取り方向)のものを用いた。そして、周波数110Hz、位振幅0.025mmで、測定温度23℃から張力5gfを試験片にかけながら、昇温速度2℃/分で昇温させ、伸び率を測定した。そして、伸び率が1%になったときの温度を耐熱温度とした。
[貯蔵弾性率E’]測定機として、東洋ボールドウィン製バイブロン(RHEOVIBRON DDV−II−EA)を用い、測定試験片として、長さ30mm、幅2mm、厚み約0.3mm(長さ方向がシートの引き取り方向であり、シートの幅方向の中心から切り取った)のものを用いた。そして、周波数110Hz、位振幅0.025mm、昇温速度2℃/分の条件で、25℃、120℃、180℃の貯蔵弾性率E’を測定した。
【0053】
(実施例2〜4)
製造条件を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にしてシートを得た。得られたシートについて実施例1と同様にして、耐熱温度および貯蔵弾性率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0054】
(比較例1)
ロール速度を16m/分としたこと以外は実施例1と同様の製造条件としたところ、挟持ロール50a,50bを閉じると同時に、ロール回転の遠心力により結晶性樹脂が吹き飛び、固化したシートが得られなかった。
【0055】
(比較例2)
ロール表面温度を165℃としたこと以外は実施例1と同様の製造条件としたところ、挟持ロール50a,50bを閉じると同時に、ロール回転の遠心力により結晶性樹脂が吹き飛び、固化したシートが得られなかった。
【0056】
(比較例3)
ロール表面温度を110℃としたこと以外は実施例1と同様の製造条件としたところ、挟持ロール50aに重ねると直ちに溶融状態のシート状結晶性樹脂βの固化が始まり、結晶性樹脂は得られなかった。
【0057】
(比較例4)
シリンダーの口径が25mmの単軸押出機、300mm幅のTダイを備えたキャストフィルム成形機を用い、220℃で実施例1と同様のポリプロピレンを押出成形し、キャストロールとエアナイフを用いた一般的なキャストフィルム成形を行った。その際、キャストロールの温度は30℃とした。
これにより得られたシートの厚さは356μmであった。得られたシートについて実施例1と同様にして、耐熱温度および貯蔵弾性率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0058】
(比較例5,6)
比較例1のようにロール温度が低く、Zが大きい場合には、圧延時に固化しないため、ロール表面温度を低くし、溶融樹脂を冷却しつつ連続的に成形を行った。
具体的には、実施例1と同様に、図1に示す製造装置1を用い、実施例1と同様のポリプロピレンをスリットダイ30から吐出させて、溶融状態のシート状の結晶性樹脂Aを形成させた。次いで、溶融状態のシート状の結晶性樹脂Aを冷却手段40のチャンバ41内の冷却ガス(液体窒素中を通した空気)により冷却し、冷却したシート状の結晶性樹脂Bを一対の挟持ロール50a,50b(表面温度40℃)に挟んで圧延した。
次いで、圧延後のシート状の結晶性樹脂Cを挟持ロール50aから剥離し、ガイドロール60に移送し、ガイドロール60にて移送方向を屈曲させて、引き取りロール70に移送した。そして、引き取りロール70によりシート状の結晶性樹脂Dを引き取った。
赤外線温度センサーにより、挟持ロール50a,50bに挟まれる前の樹脂温度を測定したところ、150℃であった。
得られたシートについて実施例1と同様にして、耐熱温度および貯蔵弾性率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
挟持ロール50a,50bに供給するシート状の結晶性樹脂Bの厚みを、得られるシートの厚みの1.3〜8.0倍に、圧延時のシート状の結晶性樹脂の温度を結晶化温度以上融点以下に、ロール速度を式(1)の範囲に調整した実施例1〜4の製造方法では、得られたシートの耐熱温度および貯蔵弾性率E’が高かった。
具体的には、得られたシートの貯蔵弾性率は、25℃においては、比較例4に示すような一般的な製造方法により得られたシートの2〜3倍であった。また、貯蔵弾性率の低下により、用途によっては実用性を失う120℃においても、充分な貯蔵弾性率を示した。
また、貯蔵弾性率は応力を付与しながら測定するため、一般的には融点を超える温度では測定困難であるが、実施例1〜4で得られたシートでは180℃においても形状を維持することができ、高い弾性率を示した。1%を超える伸び率を示したのは融点を超えた200℃付近であり、高い耐熱性を有することが判明した。
【0061】
これに対し、比較例1の製造方法では、ロール速度が遅く、Zの値が大きくなり、結晶性樹脂は固化しないため、シートは得られなかった。挟持ロール50a,50bの間隔からZの値を見積もると0.198となり、Zが0.09以下になっていないと思われる。
比較例2の製造方法では、ロール表面温度が高すぎて、圧延時のシート状の結晶性樹脂の温度が融点を超えていたため、ロール速度が速くても固化できなかった。
比較例3の製造方法では、ロール表面温度が低すぎて、圧延前のシート状の結晶性樹脂Bの温度が結晶化温度以下であったため、挟持ロール50a周面に重ねた直後に固化してしまい、シートが得られなかった。
溶融した結晶性樹脂をロールにより冷却して固化させる一般的なシート成形方法である比較例4の製造方法では、得られたシートの耐熱温度および貯蔵弾性率が共に低かった。
比較例5,6の製造方法では、挟持ロール50a,50bにより圧延したが、ロール速度が充分に速くなく、Zが大きいため、得られたシートの耐熱温度および貯蔵弾性率が共に低かった。
【符号の説明】
【0062】
1 製造装置
10 押出機
11 シリンダー
12 スクリュー
13 モータ
14 ホッパ
20 ギアポンプ
21 ハウジング
30 スリットダイ
40 冷却手段
41 チャンバ
42 冷却ガス供給管
43 排出管
50a,50b 挟持ロール
60 ガイドロール
70 引き取りロール
80 巻き付き防止手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂を一対の挟持ロールに挟んで圧延する結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法であって、
挟持ロールに供給するフィルム状またはシート状の結晶性樹脂の厚みを、得られるフィルムまたはシートの厚みの1.3〜8.0倍に、圧延時のシート状の結晶性樹脂の温度を結晶化温度以上融点以下に、ロール速度を、下記式(1)で表されるZが0.09以下になるように調整することを特徴とする結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法。
式(1) Z=[(挟持ロールの半径[mm]×得られるフィルムまたはシートの厚み[mm])1/2]/ロール速度[m/分]
【請求項2】
溶融状態のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂は、溶融させた結晶性樹脂を、スリット状の開口部を有するダイから吐出させて得ることを特徴とする請求項1に記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法。
【請求項3】
圧延後のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂を挟持ロールから剥離させ、圧延後のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂が挟持ロールから離れる部分に向けて気体を噴射することを特徴とする請求項1または2に記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法。
【請求項4】
各挟持ロールの周面をあらかじめ離型処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法。
【請求項5】
圧延時のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂の温度をT、結晶化温度をT、融点をTとした際に、下記式(2)で求められるXの値の範囲を0.05〜0.90にするように結晶性樹脂の温度Tを調整することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造方法。
式(2) X=(T−T)/(T−T
【請求項6】
結晶性樹脂を溶融しながら供給する押出機と、
該押出機より下流側に設けられたギアポンプと、
該ギアポンプより下流側に設けられた、スリット状の開口部を有するダイと、
該ダイから吐出された溶融状態のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂を、結晶化温度以上融点以下に冷却する冷却手段と、
該冷却手段を通過したフィルム状またはシート状の結晶性樹脂を挟んで圧延する一対の挟持ロールとを具備し、
前記一対の挟持ロールは、冷却手段を通過したフィルム状またはシート状の結晶性樹脂の厚みが得られるフィルムまたはシートの厚みの1.3〜8.0倍になるように配置されていることを特徴とする結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造装置。
【請求項7】
下記式(1)で表されるZが0.09以下であることを特徴とする請求項6に記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造装置。
式(1) Z=[(挟持ロールの半径[mm]×得られるフィルムまたはシートの厚み[mm])1/2]/ロール速度[m/分]
【請求項8】
一対の挟持ロールの下流側に、圧延したフィルムまたはシートを引き取る引き取り手段を具備することを特徴とする請求項6または7に記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造装置。
【請求項9】
圧延後のフィルム状またはシート状の結晶性樹脂が挟持ロールから離れる部分に向けて気体を噴射させる巻き付き防止手段を具備することを特徴とする請求項8に記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造装置。
【請求項10】
各挟持ロールの周面が離型処理されていることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の結晶性樹脂フィルムまたはシートの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−168485(P2010−168485A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13295(P2009−13295)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(597021842)サンアロマー株式会社 (27)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】