説明

結晶成長装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、宇宙空間や人為的に形成した微小重力環境において、汚染のない比較的大きな結晶を短時間のうちにかつまたより確実に成長させるのに利用される結晶成長装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の結晶成長装置としては、例えば、種結晶を収容した容器と結晶成長用溶液を収容した容器とを配管で接続し、配管の途中に設けたバルブを開いて結晶成長用溶液を種結晶側の容器に移送することにより種結晶に結晶成長用溶液を接触させて結晶成長させるようにした溶液移送型のものや、容器に隔壁を設けて容器内部を仕切り、一方の容器内部に種結晶を収容すると共に他方の容器内部に結晶成長用溶液を収容し、隔壁を移動させて仕切りを開くことにより種結晶に結晶成長用溶液を接触させて結晶成長させるようにした隔壁移動型のものや、結晶成長用溶液を収容する結晶成長容器をそなえると共に種結晶を結晶成長用溶液から隔離する種結晶収納部をそなえ、種結晶保持体を移動させて種結晶を結晶成長用溶液中に移すことにより結晶成長用溶液に種結晶を接触させて結晶成長させるようにした種結晶移送型のものなどがあった。
【0003】図6は種結晶移送型の結晶成長装置の基本構成を示すものであって、この結晶成長装置51は、図6R>6の(A)に示すように、結晶成長用溶液52を収容した結晶成長容器53をそなえると共に、種結晶54を前記結晶成長用溶液52から隔離する種結晶収納部55をそなえ、種結晶54は前記種結晶収納部55内で種結晶保持体56により保持された構造をなすものである。
【0004】そして、結晶成長を行わせる場合には、図6R>6の(B)に示すように、種結晶54を保持した種結晶保持体56を移動させて種結晶54を種結晶収納部55から結晶成長用溶液52中に移して結晶成長用溶液52に種結晶54を接触させることにより結晶成長を開始させる。
【0005】そして、この結晶成長の観察は、種結晶54の側面方向において側面系光軸をもつ光学ビーム57により光学的に行うと同時に種結晶54の正面方向において正面系光軸をもつ光学ビーム58により光学的に行うようにしていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】このような結晶成長装置51を用いて結晶成長を行わせる場合には、結晶成長を行わせる前に例えば結晶成長装置51の製作工場やロケット射場において光学系の焦点調整を行う必要があるが、結晶成長容器53内に種結晶54がない場合には確実な焦点調整を行うことができない。
【0007】そこで、より実際に近い状態で光学系の焦点調整を行うために、種結晶54を結晶成長用溶液52に接触させて焦点調整を行えば、焦点調整それ自体は精度の良いものとすることが可能であるものの、焦点調整を行った後種結晶54を再度種結晶収納部55に戻した際に、種結晶収納部55において、種結晶54に付着した結晶成長用溶液52によって種結晶54の溶解を生じたり、地上重力下で結晶成長が開始されたりしたときには、微小重力環境に移ったあとでの正確な結晶成長を行わせることができなくなるという問題点があり、また、結晶成長用溶液52を収容する前に光学系の焦点調整を行ったときには、結晶成長の段階で結晶成長用溶液52の存在によって焦点ずれを生じて結像させることができないという問題点を有し、これらの問題点を解決することが課題となっていた。
【0008】
【発明の目的】本発明は、上記した従来の課題にかんがみてなされたもので、種結晶を結晶成長用溶液に接触させることなくして、結晶成長用溶液が存在する実際に近い状態で光学系の焦点調整を行うことができ、微小重力下における結晶成長の観察を高い解像度で、より正確に行うことができるようにすることを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は、結晶成長用溶液を収容する結晶成長容器をそなえると共に、種結晶を前記結晶成長用溶液から隔離する種結晶収納部をそなえ、前記種結晶を保持した種結晶保持体を移動させて前記種結晶を前記種結晶収納部から前記結晶成長用溶液内で且つ観察位置に移送して、前記種結晶を前記結晶成長用溶液に接触させて結晶成長を開始させると共に、前記結晶成長を前記観察位置で観察する結晶成長装置において、前記種結晶保持体は、前記種結晶収納部で種結晶を保持すると共に前記結晶成長用溶液内で且つ結晶成長の観察位置で前記種結晶の等価体であるダミー用種結晶を保持する構成としたことを特徴としており、上記した結晶成長装置に係わる発明の構成をもって前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0010】
【発明の作用】本発明は、種結晶を結晶成長用溶液中に移して結晶成長を開始させる種結晶移送型の結晶成長装置において、種結晶保持体は、結晶成長用溶液とは隔離した種結晶収納部で種結晶を保持すると共に、結晶成長用溶液内で且つ結晶成長の観察位置で前記種結晶の等価体であるダミー用種結晶を保持する構成としているので、結晶成長装置を製造した工場やロケット射場などにおいて光学系の焦点調整を行う場合に、結晶成長用溶液内に位置する種結晶と等価のダミー用種結晶を用いて行うことによって、実際の結晶成長の観察に近い状態で光学系の焦点調整が行われるようになり、その後に微小重力下において実施される結晶成長の観察を高い解像度でなしうるようになる。
【0011】
【実施例】図1ないし図5は本発明の一実施例を示すものである。
【0012】図1は結晶成長装置の正面方向の縦断面説明図、図2は側面方向の縦断面説明図であって、図に示す結晶成長装置1は、中央に結晶成長用溶液2を収容する結晶成長容器3を備え、上部寄りの四方には、図1に示すように側面系光軸をもつ光学ビーム4を通過させる光学観察窓5a,5bと、図2に示すように正面系光軸をもつ光学ビーム6を通過させる光学観察窓7a,7bをそなえている。
【0013】また、結晶成長容器3の上部には、種結晶保持体支持部材11が設けてあり、種結晶保持体12を摺動可能に保持していると共に、排気通路13aを介して減圧可能とした種結晶収納部13をそなえている。
【0014】そして、種結晶保持体12は、図3にも示すように、前記種結晶収納部13で種結晶座14を設けていてこの種結晶座14において種結晶15を保持していると共に、結晶成長用溶液2内で且つ前記光学ビーム4,6が交差する結晶成長の観察位置でダミー用種結晶座16を設けていてこのダミー用種結晶座16においてダミー用種結晶17を保持している。
【0015】さらに、結晶成長容器3の下部側には、片面側で結晶成長用溶液2に接触すると共に他面側で外気連通室21に面するダイヤフラム22をそなえた液圧調整機構を有するものとなっている。
【0016】そして、この結晶成長装置1において、製造工場であるいはロケット射場で光学系の焦点調整を行うに際しては、結晶成長容器3内に結晶成長用溶液2を収容し、そしてまたダミー用種結晶17を種結晶保持体12のダミー用種結晶座16の表面で且つ光学ビーム4,6が交差する結晶成長の観察位置に固定した状態で行う。
【0017】このとき、図5に示すように、ダミー用種結晶17として矩形のものを用い、ダミー用種結晶17の角が光路中に位置する状態にしてダミー用種結晶座16上に固定するようにしてこれをターゲットとすることにより光学系の焦点調整を行う。
【0018】また、その他のダミー用種結晶としては、ダミー用種結晶座相当サイズのダミー用種結晶を用い、表面にターゲットマークを刻んだものを使用することもでき、このようなダミー用種結晶では視野サイズが確認できると共に焦点調整がより容易なものとなり、分解能の確認も行えるものとなる。
【0019】そこで、宇宙空間ないしは人工的に形成された微小重力下で結晶成長の実験を行うに際して、図示しない駆動機構によって種結晶保持体12を結晶成長容器3の方向に移動させ、種結晶15を結晶成長用溶液2内で且つ光学ビーム4,6が交差する観察位置で停止させて、種結晶15が結晶成長用溶液2に接触することによる結晶成長を開始させると共に、光学観察窓5a,5b,7a,7bを介して光学ビーム4,6により結晶成長の観察を行う。
【0020】このとき、光学系の焦点調整は、ダミー用種結晶17を用いてあらかじめ結晶成長用溶液2内で実際に近い状態で行ってあるので、種結晶15を用いた結晶成長の観察は、光学系の焦点調整が良好になされたものとなっていることから、高解像度で行うことが可能となる。
【0021】
【発明の効果】本発明に係わる結晶成長装置によれば、種結晶を結晶成長用溶液内に移して結晶成長を開始させる種結晶移送型の結晶成長装置において、種結晶保持体は、結晶成長用溶液とは隔離した種結晶収納部で種結晶を保持すると共に、結晶成長用溶液内で且つ結晶成長の観察位置で前記種結晶の等価体であるダミー用種結晶を保持する構成としているので、結晶成長装置を製造した工場やロケット射場で光学系の焦点調整を行う場合には、結晶成長用の種結晶を用いることなく、種結晶と等価のダミー用種結晶を用いて行うこととなるので、光学系の焦点調整時に実験用の種結晶が結晶成長用溶液に接触して溶解したり、地上重力下で結晶成長が開始されたりするという不具合を伴うことなく、光学系の焦点調整を実際の結晶成長の観察に近い状態で行うことが可能となり、結晶成長を精度良く行うことが可能になると共に結晶成長の観察を高解像度で行うことが可能になるという著しく優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる結晶成長装置の一実施例を示す正面方向の縦断面説明図である。
【図2】本発明に係わる結晶成長装置の一実施例を示す側面方向の縦断面説明図である。
【図3】種結晶保持体の正面説明図(図3の(A))および側面部分説明図(図3の(B))である。
【図4】種結晶保持体の種結晶保持部分を拡大して示す説明図である。
【図5】種結晶保持体のダミー用種結晶保持部分を拡大して示す説明図である。
【図6】従来の種結晶移送型の結晶成長装置の基本構成を示す結晶成長開始前(図6の(A))および結晶成長開始後(図6の(B))の状態を示す断面説明図である。
【符号の説明】
1 結晶成長装置
2 結晶成長用溶液
3 結晶成長容器
4 側面方向の光学ビーム
6 正面方向の光学ビーム
12 種結晶保持体
13 種結晶収納部
15 種結晶
17 ダミー用種結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】 結晶成長用溶液を収容する結晶成長容器をそなえると共に、種結晶を前記結晶成長用溶液から隔離する種結晶収納部をそなえ、前記種結晶を保持した種結晶保持体を移動させて前記種結晶を前記種結晶収納部から前記結晶成長用溶液内で且つ観察位置に移送して、前記種結晶を前記結晶成長用溶液に接触させて結晶成長を開始させると共に、前記結晶成長を前記観察位置で観察する結晶成長装置において、前記種結晶保持体は、前記種結晶収納部で種結晶を保持すると共に前記結晶成長用溶液内で且つ結晶成長の観察位置で前記種結晶の等価体であるダミー用種結晶を保持することを特徴とする結晶成長装置。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【特許番号】第2772168号
【登録日】平成10年(1998)4月17日
【発行日】平成10年(1998)7月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−188825
【出願日】平成3年(1991)7月29日
【公開番号】特開平5−32499
【公開日】平成5年(1993)2月9日
【審査請求日】平成8年(1996)6月21日
【出願人】(000119933)宇宙開発事業団 (1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【参考文献】
【文献】特開 平4−104998(JP,A)
【文献】特開 平4−104997(JP,A)
【文献】特開 平4−55400(JP,A)