説明

給水方法

【課題】貯水池から数十km〜数千kmも離れた水源からでも簡単かつ安価に給水することができる給水方法を提供する。
【解決手段】底部が貯水池1に開放した真空塔2と各地の水源8a、8b、8cとをパイプライン3で接続し、真空塔2内に形成した絶対真空部2aにおける真空吸引力を利用して各地の水源8a、8b、8cからパイプライン3を通して水を真空塔内に吸引し、その吸引した水を貯水池1に供給する。そのため、ポンプなどの駆動源を使用しなくても、貯水池1から数十km〜数千kmも離れた水源8,8aからでも簡単かつ安価に給水を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置エネルギーの法則やトリチェリの絶対真空の原理を利用して、各地に散在する複数の水源から貯水池に水を集約させる給水方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
広大な地域において、水を一箇所に集約させたい場合がある。その場合の給水方法として、水を集約させたい貯水池と広範囲に亘って点在する各地の複数の水源とをパイプラインで接続した給水施設が提案される。
【0003】
この給水施設において、貯水池に水を集約させるには、水源に吸引ポンプを設置し、また、パイプラインが長い場合は、その途中に送水ポンプを設置し、これらのポンプの駆動力により、各地の水源の水を貯水池に集約させる必要があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような水源から所定の箇所(貯水池)に水を集約させる場合に、各地の水源に水圧を付与する手段(ポンプ)を設けると、水圧付与手段の設置費用が嵩み、給水施設自体にコストがかかる。特に、水源が貯水池から数十kmも離れている場合、パイプラインの途中に送水ポンプを設置する必要もあり、さらにコスト高となるといった問題点があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、遠距離にある水源からでも簡単かつ安価に水を集約して貯水池に給水することができる給水方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明者は、トリチェリの真空の原理に着目し、そこに形成される絶対真空部の真空吸引力を利用し、この吸引力で遠隔地の水源からでも瞬時に水を吸引することができる給水方法を案出した。
【0007】
トリチェリの真空は、1気圧の下で1m程度の密封した筒に水銀を詰め、水銀で満たした皿の上で筒をひっくり返すと、筒の中の水銀は徐々に下がってきて、高さが760mmになったところで止まる。これは、大気圧と水銀とがつり合ったことにより起こる現象であるが、水銀を詰めた筒は、水銀が下がることによって上の部分が真空状態となる。
【0008】
本発明では、上記トリチェリの真空の原理を利用し、筒に代わるものとして真空塔を、水銀に代わるものとして水を、そして、皿に代わるものとして貯水池を設けたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、貯水池に各地に存在する水源から水を集約したい場合に、底部が貯水池中に開放した真空塔と各地の水源とをパイプラインを介して接続して給水路を構成し、真空塔内に形成した絶対真空部における真空吸引力を利用して各地の水源からパイプラインを通して水を吸引し、吸引した水を貯水池に供給するようにしたことを特徴としている。
【0010】
上記構成においては、今まで実用化については思考の埒外にあったトリチェリの絶対真空の原理を水の吸引手段として利用するもので、現代の高度な建設技術を組合わせて大規模で高度な真空状態を形成し、その吸引力によりグローバルスタンダードで広範囲にわたって大量の水の給配を可能とする。
【0011】
この真空塔内に絶対真空部を形成するには、トリチェリの実験のように、筒に代わる真空塔をひっくり返すことができないので、代わりに真空塔の頂部に頂部弁を設け、この頂部弁の開閉により、内部に水を充填させると共に、真空塔の内部の空気を追い出させ、その後、頂部弁を閉じて大気圧と真空塔内の水柱との釣り合わせることにより、真空塔内の上部に絶対真空部を形成する。
【0012】
別の方法として、一側を開口し他側を閉塞した真空塔を、水平状態にして一側から真空塔内に給水し、真空塔内を満水にした後、真空塔の開放側を下にするように貯水池に垂直に立てる方法もある。この場合、上記の方法と同様に、真空塔内の水が底部から下方に追い出されて水位が下降し、大気圧と真空塔内の水柱とが釣り合った位置で水位が停止し、真空塔内の上部に絶対真空部が形成される。
【0013】
絶対真空部は理論的に圧力がゼロであり、その容積が大きくなるほど強力な吸引力を得ることができるので、真空塔は半径方向および高さ方向で大きければ大きいほどよい。その真空塔の形状は、特に限定されるものではなく、円筒状や球状を例示することができる。
【0014】
ここで、真空塔内に吸引した水は、真空塔の底部から貯水池に供給されるが、貯水池の水面と真空塔内の水柱の高さとの関係は、理論的には常に一定の水位(10m30cm)であるため、貯水池の水面が上昇すれば真空塔内の水柱の水面も上昇することになり、上部に形成されている絶対真空部の容積が小さくなり、水の吸引力が減少することになる。
【0015】
絶対真空部の容積を確保するためには、真空塔内の水柱の高さを調整しなければならない。この水柱の高さの調整は、トリチェリの真空の原理から貯水池の水面を調節することで行うことができる。
【0016】
そこで、本発明では、貯水池の水位を水位調節手段により調節することにより、真空塔内の水位を所定レベルに調節するようにしている。水位調節手段としては、貯水池に設けられた水位調節弁や、貯水池に側壁に形成されたオーバーフロー穴を例示することができる。
【0017】
この水位調節手段により、真空塔内の水柱の高さを所定レベルに調節することができ、絶対真空部の容積を確保して、ポンプなどの駆動源を使用しなくても、常時、グローバルスタンダードで各地の水源から水を自動的に吸引することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のとおり、本発明によると、底部が貯水池中に開放した真空塔と別の水源とをパイプラインを介して接続して給水路を構成し、真空塔内に形成した絶対真空部における真空吸引力を利用して別の水源からパイプラインを通して水を吸引し、吸引した水を貯水池に供給するので、ポンプなどの駆動源を使用しなくても、貯水池から数十km〜数千kmも離れた水源からでも簡単かつ安価に給水を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る給水方法を実施するための給水施設を示す概略図、図2は同じく貯水池と水源とのパイプライン敷設状態を示す概略図、図3に給水設備のパイプラインを網目状に張り巡らせた状態を示す概略図である。
【0020】
図に示すように、給水施設は、水を集約させる貯水池1と、該貯水池に立設した真空塔2と、貯水池1と各地に点在する水源8a,8b,8cとを接続するパイプライン3とを備えている。
【0021】
貯水池1は、水を集約させたい場所に形成する。貯水池1は、上側が大気に開放した天然池あるいは人工池のいずれであってもよい。この貯水池1に隣接して、それよりも低い位置に第2の貯水池7を設置し、さらに、適宜、第2の貯水池7よりも低い位置に第3の貯水池12を設置する。これら各貯水池1,7,12間は、水路9,10によって連通させ、各水路に貯水池1、7の水位を調節するために水位調節弁6を設ける。第2の貯水池7あるいは第3の貯水池12に貯えられた水は、図示しないパイプラインを通して各需要先に配給される。
【0022】
真空塔2は、頂部が半円球状で、本体部が円筒状に形成されており、開放した底部を貯水池1に浸した状態で立設する。この真空塔2は、内部が気密状態となっており、上部に絶対真空部2aを形成し、この絶対真空部2aの真空吸引力を利用して各水源8a,8b,8cから水を真空塔2内に吸引できるようにしている。
【0023】
絶対真空部2aは、トリチェリの真空の原理を利用して形成する。トリチェリの真空は、前述したとおり、1気圧の下で1m程度の密封した筒に水銀を詰め、水銀で満たした皿の上で筒を上下逆転させると、筒の中の水銀は徐々に下がってきて、高さが760mmになったところで止まる。これは、大気圧と水銀とがつり合ったことにより起こる現象であり、水銀を詰めた筒は、水銀が下がることによって上の部分が真空状態となる。この真空部は絶対真空になる。
【0024】
本発明では、上記トリチェリの真空の原理を利用し、筒に代わるものとして真空塔2を、水銀に代わるものとして水を、皿に代わるものとして貯水池1を設けたものである。真空塔2では、筒のように、反転させるのが困難であるので、代わりに頂部弁4を設け、この頂部弁4の開閉により、内部に絶対真空部2aを形成するようにしている。
【0025】
つまり、貯水池1の水を真空塔2内に押し上げて充填する際に頂部弁4を開放し、真空塔2内で押し上ってくる水によって、内部の空気を頂部弁4から外部に逃がし、頂部弁4から外部に水が放出されたならば閉弁して、真空塔2内に水を充填する。そして、頂部弁4の閉鎖により、貯水池の水面を押し大気圧と、真空塔内の圧力(絶対真空部2aの圧力+真空塔下部の水柱の圧力)とが均衡し、貯水池の水面からの水柱の高さ(水位)が一定(理論的には10m33cm)の位置で停止し、その上部に絶対真空部2aを形成する。
【0026】
また、貯水池1には、真空塔2内に水を充填するために揚水ポンプ13が設置される。この揚水ポンプ13は、その吐出側が真空塔2の底部に接続され、揚水ポンプ13によって真空塔2内の頂部まで水を押し上げることができるようになっている。揚水の高さが高く、1個の揚水ポンプでは賄えない場合、複数個の揚水ポンプにより効率的に真空塔内に水を充填するようにすればよい。
【0027】
なお、真空塔2は、基本的に底部が開放した状態となっているが、図1に示すように、閉塞した底部に揚水ポンプ13と接続される位置と、貯水池1に開放する位置とに切換可能な三方弁からなる底部弁5を設けるとよい。
【0028】
また、真空塔2の塔壁には、絶対真空部2aと水源8a,8b,8cとが連通して、水源8a,8b,8cの水を絶対真空部2aに吸引することができるように、パイプライン接続口2bが形成される。この接続口2bには、パイプライン3が接続されると共に、真空塔2内に絶対真空部2aを形成するときにパイプライン3を閉塞する開閉弁3aが設けられる。
【0029】
水源8a,8b,8cは、広範囲な地域に点在する湖沼、溜池、さらには河川を例示することができる。パイプライン3は、図2及び図3に示すように、ほぼ水平線上に配置され、放射状あるいは網目状(ウェブ状)に張り巡らして、各地の水源8a、8b、8cと接続し、真空塔2の接続口2bに集約できるようになっている。
【0030】
上記構成の給水施設において、各水源8a、8b、8cから貯水池1に水を集約するために、真空塔2内に絶対真空部2aを形成し、この絶対真空部2aの真空吸引力を利用して水を吸引する。そのためには、真空塔2内に絶対真空部2aを形成しなければならない。
【0031】
絶対真空部2aを形成するには、トリチェリの真空を真空塔2の上部に形成する。これには、まず、パイプライン3の開閉弁3aを閉じ、頂部弁4を開放し、揚水ポンプ13により貯水池1の水を真空塔2内に充填する。真空塔2内に水を充填する際に、貯水池1の水量では賄えない場合、隣接する第2の貯水池7あるいは第3の貯水池12から水を供給すればよい。
【0032】
真空塔2内に水が充填された時点で揚水ポンプ13を停止して頂部弁4を閉じる。そうすると、真空塔2内の水位が徐々に下がって、上部にいわゆるトリチェリの真空と呼ばれる絶対真空部2aが形成され、また、真空塔2内の水柱15は貯水池1の水面を押す大気圧と釣り合って停止する。この状態で、貯水池1の水面には大気圧が作用し、また、絶対真空部2aは理論的には絶対真空になるので、真空塔2内の水柱15の水位は、貯水池1の水面から10m33cmの高さとなる。
【0033】
一方、絶対真空部2aは、水柱15の上方に形成されることになり、その容積が大きいほど真空吸引力が大きくなり、パイプライン3の開閉弁3aを開放すると、水源8,8aから大量の水を瞬時に吸引することができる。
【0034】
本実施形態における真空塔2を、半径17m、高さ140.33mの円筒状とすると、絶対真空部2aの容積は、
(140.33m−10.33m)×17m×17m×π(円周率)=117,970m
となる。
【0035】
今、絶対真空部2aと水源8a、8b、8cとをパイプライン3で接続すると、絶対真空部2aの圧力(理論的には圧力=0)と水源8a,8b,8cの水面を押す圧力(大気圧)との差により、絶対真空部2a側に水が吸引されることになる。この関係は、パイプライン3の長さに関係しない。そのため、貯水池1から遠隔地にある水源8a、8b、8cからでも貯水池1に水を集約して給水することができる。
【0036】
ここで、パイプライン3は、水平線上に張り巡らす例を示したが、図2に示すように、実際に敷設する場合には多少の高低差がある。水平線上のパイプライン3を基準に考えた場合、水平線よりも高い位置にある水源8bは、その位置エネルギーを利用して水平線上のパイプライン3に送水することができる。
【0037】
水平線よりも低い位置の水源8a、8cは、絶対真空部2aの圧力(理論的には圧力=0)と水源8a,8cの水面を押す圧力(大気圧)との差により、絶対真空部2a側に水が吸引されることになるから、理論的には10m33cmの高低差があったとしても吸引することができる。
【0038】
実際には、絶対真空部2aの吸引力は、水に気泡が混入して絶対真空部2aに供給されることで、絶対真空部2aの圧力が上がることも想定されるので、貯水池1と水源8との高低差は3m程の許容値を持たせて7m以内とするのが理想的である。そして、水源8の位置がこれに満たない場合は、水源8の水をポンプアップするなどして、許容範囲に入るように設定すればよい。
【0039】
例えば、図2に示すように、水深6mの水源8aの場合、その許容値(7m)を考慮したとしても、全量の水を吸引して貯水池に給水することができる。また、水深15mで、水面が水平線よりも3mだけ下側にある水源8cの場合でも、絶対真空部2aの圧力(理論的には圧力=0)と水源8cの水面を押す圧力(大気圧)との差により吸引するので、実用的にも問題なく水源8cの水を貯水池1側に吸引して供給することができる。
【0040】
このように、本発明においては、真空塔2内に絶対真空部2aを形成し、この絶対真空部2aの真空吸引力を利用して各地の水源8a,8b,8cから水を吸引して貯水池1に集約することができる。このとき、絶対真空部2aをトリチェリの真空の原理を利用して真空塔2の上部に一旦形成すれば、その後、何ら動力を用いる必要もなく、各地の水源8a,8b,8cの水を効率よく吸引することができ、コスト面でも大幅に低減することができる。
【0041】
次に、パイプライン3を通って真空塔2の接続口2bから真空塔2内に吸引された水は、真空塔2内の水位を上昇させつつ、一部は貯水池1側に流れることになるが、この場合でも、トリチェリの真空の原理が作用しており、真空塔2内の水柱2の水位Aは常に一定を保とうとする。そのため、貯水池1の水面の上昇に伴い、真空塔2の水柱の絶対水位も上昇することになる。絶対真空部2aの容積は常に一定に確保しておくことが好ましく、その基準としては、接続口2bが水柱15によって閉塞されない程度が好ましい。
【0042】
このような絶対真空部2aの容積を確保するためには、貯水池1の水面高さを調節する必要がある。それには、水源8a、8b、8cから貯水池1に供給された水の増加によって貯水池1の水位が上昇したときに、水位調節弁6を開弁して貯水池1の水を第2の貯水池7側に落水させ、貯水池1の水位を所定のレベルに調節すればよい。
【0043】
このように、底部が貯水池中に開放した真空塔と各地の水源とをパイプラインを介して接続して給水路を構成し、真空塔内に形成した絶対真空部における真空吸引力を利用して水源からパイプラインを通して水を吸引し、吸引した水を貯水池に供給するので、ポンプなどの駆動源を使用しなくても、貯水池から数十km〜数千kmも離れた水源からでも簡単かつ安価に給水を行うことができる。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で多くの修正・変更を加えることができるのは勿論である。例えば、上記実施形態では円筒状の真空塔を例示したが、これに限らず球状の真空塔であってもよい。また、貯水池の水位を調節する手段として水位調節弁を例示したが、貯水池の側壁にオーバーフロー用の穴を形成し、貯水池の水位が一定以上にならないように調節することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上のとおり、本発明に係る給水方法によると、貯水池から数十km〜数千kmも離れた水源からでも簡単かつ安価に給水を行うことができ、その給水方法を灌漑用あるいは砂漠の緑化用として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の給水方法を実施するための給水施設を示す概略図
【図2】貯水池と水源とのパイプライン敷設状態を示す概略側面図
【図3】貯水池と水源とのパイプラインを網目状に張り巡らせた状態を示す平面図
【符号の説明】
【0047】
1 貯水池
2 真空塔
2a 絶対真空部
3 パイプライン
4 頂部弁
5 底部弁
6 水位調節弁
7 第2の貯水池
8a、8b、8c 水源
9、10 水路
A 真空塔内の水位
B 高低差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部が貯水池中に開放した真空塔と各地に存在する水源とをパイプラインを介して接続する給水路を構成し、前記真空塔内に形成した真空部における真空吸引力を利用して前記各地の水源からパイプラインを通して水を吸引し、貯水池に供給することを特徴とする給水方法。
【請求項2】
前記真空塔の頂部に頂部弁を設け、前記頂部弁の開放状態で前記真空塔内に水を充填した後、頂部弁を閉じ、真空塔内と貯水池とを連通することにより、前記真空塔内にトリチェリの真空の原理により絶対真空部を形成することを特徴とする請求項1記載の給水方法。
【請求項3】
前記貯水池の水位を水位調節手段により調節することにより、真空塔内の水位を所定レベルに調節することを特徴とする請求項1又は2記載の給水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−299528(P2006−299528A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118372(P2005−118372)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(300089747)株式会社科学情報システムズ (3)