説明

給紙搬送用ゴム部材

【課題】 安定した摩擦係数で、耐熱性に優れた給紙搬送用ゴム部材を提供する。
【解決手段】 アクリロニトリル含有量が20wt%以上で且つ水素化率が90%以上である水素化アクリロニトリルブタジエンゴムを主体とするゴム基材100質量部に対し、充填剤としてホワイトカーボンを10〜30質量部含むゴム組成物を加硫・成形したゴム状弾性層からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタやレーザープリンタなどの各種プリンター、複写機、ファクシミリ(FAX)、等の各種OA機器などの給紙装置に用いられる給紙搬送用ゴム部材に関し、特に、給紙装置の高温となりやすい部位に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンタやコピー機内部では、印刷用紙を各機構へ送り出す際に給紙搬送用ロールが用いられている。従来、給紙搬送用ロールは、安定した摩擦係数で搬送力があり、耐摩耗性に優れることが求められている。このような理由から、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)が、機械的強度に優れ、高い摩擦係数を有するロールの素材として用いられている。
【0003】
一方、高耐久機向けに、耐摩耗性の面で優れるウレタン素材が給紙搬送用ロールの素材として検討されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、静電気による紙粉の付着が抑制され、経時的な摩擦係数の低下が小さい給紙搬送用ロールが提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、近年のOA機器の高速化に伴い、従来の給紙搬送用ロールでは不具合が発生することが問題となっている。これは、定着部で加熱されたトナー転写済み用紙が十分に冷却される前に給紙搬送ロールへ送り出されるためであると考えられている。
【0006】
給紙搬送用ロールは、耐熱性にも優れ、給紙搬送性能が安定したものが要求されている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−206375号公報
【特許文献2】特開平10−45952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、安定した摩擦係数で、耐熱性に優れた給紙搬送用ゴム部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、アクリロニトリル含有量が20wt%以上で且つ水素化率が90%以上である水素化アクリロニトリルブタジエンゴムを主体とするゴム基材100質量部に対し、充填剤としてホワイトカーボンを10〜30質量部含むゴム組成物を加硫・成形したゴム状弾性層からなることを特徴とする給紙搬送用ゴム部材にある。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の給紙搬送用ゴム部材において、前記給紙搬送用ゴム部材は、摩擦帯電電位の絶対値が100V以下であることを特徴とする給紙搬送用ゴム部材にある。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の給紙搬送用ゴム部材において、前記給紙搬送用ゴム部材は、130℃に1ヶ月放置後のゴム硬度が放置前のゴム硬度との差がJIS Aで5°以内であることを特徴とする給紙搬送用ゴム部材にある。
【0012】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様に記載の給紙搬送用ゴム部材がロール形状又はベルト形状であることを特徴とする給紙搬送用ゴム部材にある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、摩擦による帯電電位が低く、耐熱性に優れた給紙搬送用ゴム部材を提供することができる。摩擦による帯電電位が低くなることにより、紙粉の付着が抑制されて摩擦係数が安定し、また、耐熱性に優れることにより、高温となりやすい部位においても好適に使用することができるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の給紙搬送用ゴム部材は、アクリロニトリル含有量が20wt%以上で且つ水素化率が90%以上である水素化アクリロニトリルブタジエンゴムを主体とするゴム基材100質量部に対し、充填剤としてホワイトカーボンを10〜30質量部含むゴム組成物を加硫・成形したゴム状弾性層からなるものであり、摩擦による帯電電位が低く、耐熱性に優れた給紙搬送用ゴム部材を実現するというものである。所定の水素化アクリロニトリルブタジエンゴムを用いることにより、摩擦による帯電電位が低くなり、紙粉の付着を抑制することができ、耐熱性に非常に優れたものとすることができる。また、所定量の充填剤を含むことにより、給紙搬送性に好適な機械的特性を有するものとすることができる。本発明の給紙搬送用ゴム部材は、耐熱性に非常に優れたものであるため、高温下においても硬度や外径が著しく変化することがなく、安定した給紙搬送性を維持することができ、高温となる部位に好適に用いることができる。
【0015】
ゴム基材は、アクリロニトリル含有量が20wt%以上で且つ水素化率が90%以上である水素化アクリロニトリルブタジエンゴムを主体とするものである。水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)は、ニトリルゴム(NBR)のポリマー主鎖にあるブタジエンに含まれる残存二重結合を水素化したものである。かかる水素化アクリロニトリルブタジエンゴムは、アクリロニトリル含有量(結合AN量)が20wt%以上で且つ水素化率が90%以上であり、アクリロニトリル含有量は好ましくは、20〜45wt%である。これにより、機械的強度に優れると共に、耐熱性に非常に優れたものとすることができる。また、摩擦による帯電電位が低いものとすることができる。言い換えれば、イオン導電剤やカーボンブラック等の導電性付与材を用いることなく、摩擦の際に発生する静電気を抑制する程度の導電性を有するものとすることができる。摩擦による帯電電位が低くなることにより、長期使用でも紙粉が付着することがなく、摩擦係数の低下がほとんどないものとなる。なお、アクリロニトリル含有量が20wt%未満となると、耐熱性が低下し、十分な耐摩耗性も得られなくなる。また、水素化率が90%未満となると、機械的強度が低下したり、摩擦による帯電電位が高くなり給紙搬送性能が低いものとなったりする。
【0016】
ゴム基材は、上記水素化アクリロニトリルブタジエンゴムを主体とするものであればよく、適宜、他のゴム材料をブレンドしてもよい。ブレンドできるゴム基材としては、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エピクロルヒドリンゴム、ポリウレタン、クロロプレンゴム(CR)、スチレンゴム(SBR)等を挙げることができる。
【0017】
ゴム組成物は、ゴム基材100質量部に対し、充填剤としてホワイトカーボンを10〜30質量部含むものである。ゴム基材に所定量のホワイトカーボンを配合することにより、所望の硬度の給紙搬送用ゴム部材とすることができ、紙を汚す虞もない。すなわち、給紙搬送する紙等に影響を及ぼすことなく、所望の給紙搬送性能を有するものとすることができる。ホワイトカーボンの添加量が10質量部未満となると、硬度が低下して所望の機械的特性も得られなくなってしまい、30質量部より多くなると、硬度が高くなりすぎて搬送性が低下してしまう。
【0018】
ホワイトカーボン(シリカ系充填剤)としては、乾式シリカ、湿式シリカのいずれを用いてもよく、特に限定されないが、湿式シリカが好ましい。湿式シリカは、ゴム基材に対する分散性に優れ、さらに給紙搬送用ゴム部材の耐摩耗性も向上させることができる。
【0019】
また、ゴム組成物は、シラン系カップリング剤を含んでいてもよい。シラン系カップリング剤は、アルコキシシリル基、及びゴム基材と反応し得る官能基で置換されたアルキル基を有するものが好ましい。ホワイトカーボンとシラン系カップリング剤のシラノール基が反応することによりホワイトカーボンにシラン系カップリング剤が固定化されると共に、官能基とゴム基材とが反応し、強固な骨格構造が形成される。これにより、補強性が付与される。また、シラン系カップリング剤を配合することにより、ホワイトカーボンのゴム基材に対する分散性が向上する。なお、シラン系カップリング材を用いる場合は、ホワイトカーボンとして湿式シリカを用いるのが好ましい。シラン系カップリング剤は、湿式シリカとの反応性に優れるためである。
【0020】
シラン系カップリング剤としては、具体的には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ポリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ポリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ポリスルフィドが挙げられる。特に、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドやビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドなどが挙げられる。なお、市販品としては、信越化学社のKBM−846や、デグサ社のSi−69、Si−75などが挙げられる。
【0021】
上述したゴム組成物の加硫は、過酸化物加硫及び硫黄加硫のいずれでもよいが、水素化アクリロニトリルブタジエンゴムの水素化率が95%以上の場合は、過酸化物加硫を行うのが好ましい。
【0022】
過酸化物加硫の場合は、過酸化物加硫剤をゴム基材に対して3質量%〜10質量%配合するのが好ましい。過酸化物加硫剤が少なすぎると必要な機械的強度が得られなくなり、多すぎると耐久性が劣るようになるためである。過酸化物架橋剤としては、ジブチルパーオキサイド、第三ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジヘキシン−3、1,3−ビス(第三ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(第三ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(第三ブチルパーオキシ)バレレート、第三ブチルパーオキシベンゾエート、第三ブチルパーオキシイソプロピルカルボナート、ジクミルパーオキサイドなどが挙げられる。なお、市販品としては、日本油脂社のパークミルD−40や、化薬アクゾ社のカヤクミルD40C、三井化学ファインのDCPなどを使用することができる。
【0023】
水素化アクリロニトリルブタジエンゴムの水素化率が90〜95%では、硫黄加硫を好適に行うことができるが、硫黄加硫の場合は、硫黄及び加硫促進剤を用いて加硫するのが好ましい。硫黄は、ゴム基材に対して0.3〜5質量%配合するのが好ましく、特に好ましくは0.5〜1.5質量%である。硫黄の配合量を少なくすることにより、機械的強度及び耐久性に優れたものとすることができるためである。
【0024】
上述したゴム基材、充填剤、及び加硫剤に、適宜、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収材、顔料、染料などの各種添加剤を配合してもよい。これらを混合したゴム組成物を所定温度で加硫・成形することにより、ゴム状弾性層が得られる。
【0025】
給紙搬送用ゴム部材は、摩擦帯電電位の絶対値が100V以下であるのが好ましい。ここでいう摩擦帯電電位とは、印刷用紙を介してゴム弾性体からなる相手部材に当接させて使用した際、摩擦により給紙搬送ロール表面に帯電する静電気量である。摩擦帯電電位の絶対値は、120秒間使用した際の最大値(代表値)が100V以下であることが好ましい。摩擦帯電電位の絶対値が100V以下であることにより、紙粉の付着が抑制されて、摩擦係数の低下が抑制される。これにより、給紙搬送性能を長期間に亘って維持することができる。
【0026】
また、給紙搬送用ゴム部材は、130℃に1ヶ月放置後のゴム硬度が放置前のゴム硬度との差がJIS Aで5°以内であることが好ましい。耐熱性に非常に優れたものとなるためである。給紙搬送用ゴム部材は、硬度がJIS Aで50〜80°であるのが好ましい。
【0027】
本発明の給紙搬送用ゴム部材は、上述したゴム状弾性層からなるものであるが、内部に他の層を有していてもよい。
【0028】
本発明にかかる給紙搬送用ゴム部材は、例えば、給紙ロールや搬送ロール、給紙搬送ベルト等に用いて好適なものである。
【0029】
以下本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
水素化NBR(1)(アクリロニトリル含有量44wt%、水素化率91%)100質量部に、ホワイトカーボン(UltrasilVN3:デグサジャパン社製)20質量部、酸化チタン5質量部、ステアリン酸1質量部、酸化亜鉛5質量部、FEFカーボン0.5質量部、チウラム系促進剤0.5質量部、硫黄1質量部、チアゾール系促進剤0.5質量部を添加してゴム練りし、170℃で15分加熱し、実施例1の試験片を得た。なお、試験片は、JIS K6262に準拠したものである。
【0031】
(実施例2)
ホワイトカーボンを10質量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例2の試験片を得た。
【0032】
(実施例3)
ホワイトカーボンを30質量部とした以外は実施例1と同様にして、実施例3の試験片を得た。
【0033】
(実施例4)
水素化NBR(1)の代わりに水素化NBR(2)(アクリロニトリル含有量25wt%、水素化率90%)100質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4の試験片を得た。
【0034】
(実施例5)
水素化NBR(1)の代わりに水素化NBR(3)(アクリロニトリル含有量49.2wt%、水素化率90%)100質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5の試験片を得た。
【0035】
(実施例6)
水素化NBR(4)(アクリロニトリル含有量43wt%、水素化率99%)100質量部に、ホワイトカーボン20質量部、酸化チタン5質量部、ステアリン酸1質量部、酸化亜鉛5質量部、FEFカーボン0.5質量部、有機過酸化物架橋剤7質量部を添加してゴム練りし、実施例1と同様にして実施例6の試験片を得た。
【0036】
(実施例7)
水素化NBR(4)の代わりに水素化NBR(5)(アクリロニトリル含有量20wt%、水素化率95%)100質量部を用いた以外は実施例6と同様にして、実施例7の試験片を得た。
【0037】
(比較例1)
水素化NBR(3)の代わりに水素化NBR(6)(アクリロニトリル含有量17wt%、水素化率96%)100質量部を用いた以外は実施例5と同様にして、比較例1の試験片を得た。
【0038】
(比較例2)
水素化NBR(1)の代わりに水素化NBR(7)(アクリロニトリル含有量17wt%、水素化率90%)100質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例2の試験片を得た。
【0039】
(比較例3)
水素化NBR(1)の代わりに水素化NBR(8)(アクリロニトリル含有量36wt%、水素化率83%)100質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例3の試験片を得た。
【0040】
(比較例4)
水素化NBR(1)の代わりにEPDM100質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例4の試験片を得た。
【0041】
(比較例5)
ポリカプロラクトンジオール(PCL)100質量部に、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)38質量部、鎖延長剤7.3質量部を添加し、100℃で3時間加熱して硬化反応させて、比較例5の試験片を得た。なお、試験片は、JIS K6262に準拠したものである。
【0042】
(比較例6)
ホワイトカーボンを5質量部に変えた以外は実施例1と同様にして、比較例6の試験片を得た。
【0043】
(比較例7)
ホワイトカーボンを40質量部に変えた以外は実施例1と同様にして、比較例7の試験片を得た。
【0044】
(試験例1)
各実施例及び各比較例の試験片について、25℃でのゴム硬度(JIS A)をJIS K6301に準拠して測定した。結果を表1、表2に示す。
【0045】
(試験例2)耐熱性試験
各実施例および各比較例の試験片を130℃に保持したオーブン内で放置し、ゴム硬度(JIS A)をJIS K6301に準拠して測定した。ゴム硬度の経時変化を図1及び図2に示す。
【0046】
また、1ヶ月放置した後のゴム硬度と、試験例1で測定したゴム硬度との差が±5°以内であった場合は○、±5°より大きかった場合は×と判定した。なお、試験例1で測定したゴム硬度との差が±5°以内であっても、表面が劣化している場合は×と判定した。結果を表1、表2に示す。
【0047】
(試験例3)湿熱性試験
各実施例及び各比較例の試験片を60℃の飽和水蒸気の恒温恒湿層で放置し、ゴム硬度(JIS A)をJIS K6301に準拠して測定した。ゴム硬度の経時変化を図3及び図4に示す。
【0048】
また、1ヶ月放置した後のゴム硬度と、試験例1で測定したゴム硬度との差が±5°以内であった場合は○、±5°より大きかった場合は×と判定した。なお、試験例1で測定したゴム硬度との差が±5°以内であっても、表面が劣化している場合は×と判定した。結果を表1、表2に示す。
【0049】
(試験例4)摩擦帯電試験
各実施例及び各比較例において外径24mm×内径15mm×長さ24mmの給紙搬送ロールを製造した。製造した給紙搬送ロールにフリーロールを対向するように配置した。給紙搬送ロールとゴム弾性体からなるフリーロールとの間に試験用紙(タイプ6200[64g/m2];株式会社リコー社製)を配置し、23℃、55%の室内環境下において給紙搬送ロールを50rpmの回転速度で回転させた。このとき、給紙搬送ロール表面に発生する静電気量(摩擦帯電電位)を高精度静電気センサ(SK−200;キーエンス社製)で測定した。なお、測定時間は120秒とした。判定基準として、120秒間の摩擦帯電電位の代表値が100V以下であった場合は○、101V〜1kVであった場合は△、1kVより大きい場合及び測定値が不安定であった場合は×と判定した。結果を表1、表2、図5〜図8に示す。
【0050】
(試験例5)摩擦係数測定
各実施例及び各比較例において外径24mm×内径15mm×長さ24mmの給紙搬送ロールを製造した。製造した給紙搬送ロールをクラッチで固定し、これに対向するようにフリーロールを配置した。給紙搬送ロールとフリーロールとの間に試験用紙(タイプ6200[64g/m2];株式会社リコー社製)を配置し、試験用紙の一端を一定速度(50mm/秒)で移動するロードセルに取り付けて、給紙搬送ロールと試験用紙との間に働く静止摩擦係数(初期静止摩擦係数)を測定した。
【0051】
同様にして、試験例4の試験後の各実施例及び各比較例の給紙搬送用ロールの静止摩擦係数(電位測定後静止摩擦係数)を測定した。初期静止摩擦係数を基準としたときの電位測定後摩擦係数の変化率を求め、変化率が10.0%未満であった場合を○、10.0%以上であった場合を×と判定した。結果を表1、表2及び図9に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
(結果のまとめ)
実施例1〜7の試験片は、いずれも高温、多湿においてもゴム硬度の変化が小さく、耐熱性及び湿熱性に優れるものであった。
【0055】
これに対し、アクリロニトリル含有量が17wt%の水素化NBRを用いた比較例1の試験片は、高温環境での硬度変化は小さいが表面に粘着性が確認され、劣化していることがわかった。また、アクリロニトリル含有量が17wt%の水素化NBRを用いた比較例2の試験片及び水素化率が83%の水素化NBRを用いた比較例3の試験片は、高温における硬度変化が大きく、耐熱性が低いものであることがわかった。また、比較例2の試験片は、湿熱性試験においても硬度変化が大きく、湿熱性も低いものであった。ポリウレタンからなる比較例5の試験片は、耐熱性及び湿熱性の低いものであった。ホワイトカーボンの添加量が少ない比較例6の試験片は、高温における硬度変化が大きく、耐熱性が低いものであった。
【0056】
実施例1〜7の試験片は、摩擦帯電試験において摩擦帯電電位が125秒後も100V以下であった。これより、実施例1〜7の試験片は、摩擦による帯電電位が低く抑えられており、帯電特性に優れることから、使用時に紙粉の付着が防止されるものであることがわかった。
【0057】
これに対し、アクリロニトリル含有量が低い水素化NBRを用いた比較例1及び比較例2の試験片は、実施例1〜7の試験片に比べて摩擦帯電電位が大きかった。また、EPDMを用いた比較例4の試験片は、摩擦帯電電位が非常に大きく、電荷がたまりやすく紙粉が付着しやすいものであった。
【0058】
また、比較例7の試験片は、120秒間の摩擦帯電電位は代表値が−750Vと大きかった。さらに、60秒〜120秒間に、摩擦帯電電位は、−230V〜−750Vの間で大きく変動しており、非常に不安定であった。さらに、10℃、15%の低温低湿環境下において摩擦帯電電位を測定したところ、比較例7の試験片は1kVを超える摩擦帯電電位が発生した。これより、低温低湿時では電荷が溜まりやすく紙粉が付着しやすいことが判った。
【0059】
また、実施例1〜7の試験片は、摩擦係数の変化率が小さく、安定して所定の摩擦係数が得られることがわかった。
【0060】
これに対し、比較例1の試験片は、粘着性が強く発現し、紙粉が大量に付着したため摩擦係数が大幅に低下した。また、比較例4ならびに比較例6の試験片はロール表面に帯電した静電気の作用により紙粉がロール表面に付着し、摩擦係数が低下していた。
【0061】
以上より、本発明の給紙搬送用ゴム部材は、耐熱性及び湿熱性に優れるものであり、高温環境下や、多湿環境下においても好適に使用できるものであることがわかった。また、摩擦帯電電位が低く抑えられたものであり、長期使用においても摩擦係数が安定したものであることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】試験例2における実施例のゴム硬度の経時変化を示すグラフである。
【図2】試験例2における比較例のゴム硬度の経時変化を示すグラフである。
【図3】試験例3における実施例のゴム硬度の経時変化を示すグラフである。
【図4】試験例3における比較例のゴム硬度の経時変化を示すグラフである。
【図5】試験例4における実施例の摩擦帯電電位の経時変化を示すグラフである。
【図6】試験例4における比較例の摩擦帯電電位の経時変化を示すグラフである。
【図7】試験例4における実施例の摩擦帯電電位の経時変化を示すグラフを拡大したものである。
【図8】試験例4における比較例の摩擦帯電電位の経時変化を示すグラフを拡大したものである。
【図9】試験例5の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル含有量が20wt%以上で且つ水素化率が90%以上である水素化アクリロニトリルブタジエンゴムを主体とするゴム基材100質量部に対し、充填剤としてホワイトカーボンを10〜30質量部含むゴム組成物を加硫・成形したゴム状弾性層からなることを特徴とする給紙搬送用ゴム部材。
【請求項2】
請求項1に記載の給紙搬送用ゴム部材において、前記給紙搬送用ゴム部材は、摩擦帯電電位の絶対値が100V以下であることを特徴とする給紙搬送用ゴム部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の給紙搬送用ゴム部材において、前記給紙搬送用ゴム部材は、130℃に1ヶ月放置後のゴム硬度が放置前のゴム硬度との差がJIS Aで5°以内であることを特徴とする給紙搬送用ゴム部材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の給紙搬送用ゴム部材がロール形状又はベルト形状であることを特徴とする給紙搬送用ゴム部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−132393(P2010−132393A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309148(P2008−309148)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】