説明

絵画表示物

【課題】この発明は、絵画表示物に関し、絵画や写真などを、額縁に収納することなく、額縁に収納した場合以上の立体的効果を伴って表示することを目的とする。
【解決手段】表面の露出部に絵画又は写真のイメージが描かれた平板からなる第1層を設ける。第1層の一部に重ねて、表面の露出部に絵画又は写真のイメージが描かれた第2層を設ける。第2層は、そこに描かれる絵画又は写真に含まれる対象物の外形と重なる外形を有し、周縁部が透明である透明な平板で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絵画表示物に係り、特に、写真や絵画に立体感を加えるうえで好適な絵画表示物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絵画や写真などから受ける印象を強めるものとして額縁が知られている。優れた額縁は、絵画や写真の立体感、バランス感、色彩効果などを増強する。例えば、特許文献1には、写真や絵画とともに、それらに関連する装飾物を収納することのできる額縁が開示されている。この様な額縁によれば、写真や絵画が単独で表示される場合に比して、表示物の装飾的効果を高めることができる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−313507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、額縁を用いる場合は、表示物の形状に制限が生ずる。また、表示物を額縁に収納した場合、その表示物に手で触れるといった楽しみも制限されることになる。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、絵画や写真などを、額縁に収納することなく、額縁に収納した場合以上の立体的効果を伴って表示することのできる絵画表示物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、絵画表示物であって、
透明で平行した2層または3層の平面を有した層からなり、各層の厚さが2mm以上で、上層の一部が削られていて、それと隣接する下層との間で立体構造を有し、絵画や写真などのイメージが各層の表面に印刷された絵画表示物、もしくは印刷されたシートを貼り付けたことを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、絵画表示物であって、
表面の露出部に絵画又は写真のイメージが描かれた平板からなる第1層と、
前記第1層の一部に重ねて配置され、表面の露出部に絵画又は写真のイメージが描かれ、かつ、当該絵画又は写真に含まれる対象物の外形と少なくとも一部が重なる外形を有し、周縁部が透明である透明平板状からなる第2層と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第2の発明において、前記第2層の一部に重ねて配置され、表面の露出部に絵画又は写真のイメージが描かれ、かつ、当該絵画又は写真に含まれる対象物の外形と少なくとも一部が重なる外形を有し、周縁部が透明である平板からなる第3層を備えることを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第2又は第3の発明において、前記第1層は、周縁部が透明である透明平板からなることを特徴とする。
【0010】
また、第5の発明は、第2乃至第4の発明の何れかにおいて、各層の厚さが2mm以上5mm以下であることを特徴とする。
【0011】
また、第6の発明は、第2乃至第5の発明の何れかにおいて、
各層に描かれるイメージが全体として統一された構図を形成し、
前記統一構図中、遠くに描かれるべき対象物が下層側の層に描かれ、近くに描かれるべき対象物が上層側に描かれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、額縁が無くても額縁以上の効果を有した展示を可能とする。これにより額縁による限られた展示だけでなく、自由な形状で、見るだけではなく手で触れるなど、絵画や写真などの表現を広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。本実施形態の絵画表示物は、厚さ3mmの透明アクリル板を3層重ねた多層構造を有している。各層の表面には、絵画又は写真のイメージが描かれている。より具体的には、各層の外形は、個々の層に描かれるイメージの対象物の外形に合わせてカットされている。そして、各層には、それらの外形と同じ外形を有する対象物のイメージが描かれている。
【0014】
より具体的には、図1に示す絵画表示物は、円形の平板で構成された第1層10を備えている。第1層10の表面には、丸い夕日のイメージが描かれている。第1層は、透明なアクリル板で構成されているため、その周縁部12は透明である。
【0015】
第1層10の上層には、第2層14が貼付されている。第2層14には、2人の子供が描かれている。第2層14は、それらの子供の外形に沿った形状にカットされている。第2層14は、第1層10と同様に、厚さ3mmの透明なアクリル平板で構成されている。このため、第2層14の表面は、透明な周縁部16を境界として、第1層10の表面に対して3mmだけ浮き上がった状態となっている。
【0016】
第2層14の上層には、第3層18が貼付されている。第3層18には犬が描かれている。第3層の外形は、その犬の外形に沿ってカットされている。第3層18も、第1層10及び第2層14と同様に、厚さ3mmの透明なアクリル平板で構成されている。このため、第3層18の周縁部20も透明である。また、第3層18の表面は、第2層14の表面に対して3mmだけ浮き上がった状態となっている。
【0017】
第1乃至第3層10,14,18に描かれたイメージは、全体として、「夕日を背景に寄り沿う子供達とその足下で戯れる犬」の構図として統一されている。ここで、第1層10と第2層14の段差(夕日と子供たちの段差)は、その構図中、上部に偏った位置に形成されている。他方、第2層14と第3層の段差(子供たちと犬の段差)は、その構図の下部に偏った位置に形成されている。
【0018】
図1では、各層に描かれたイメージの詳細が省略されているが、現実には、第1乃至第3層10,14,18には、夕日、子供たち、犬がそれぞれ詳細に描かれている。より具体的には、例えば、第2層14及び第3層18には、それぞれ、空間的に平らな面上に、子供たち及び犬が、遠近感を伴う手法で、細部に渡って描かれている。
【0019】
本実施形態の絵画表示物は、2枚のスタンド板22を備えている。スタンド板22は、第2層14の下端を挟み込むように固定されている。絵画表示物は、それらのスタンド板22に支持された状態で自立することができる。
【0020】
[平面な絵画等との比較]
図2は、図1に示す絵画表示物に描かれるイメージを、平面的に表した絵画又は写真24を示す。図2に示すような平面的な絵画又は写真24を、額縁を用いずに展示すると、平面的で存在感の薄いものとして感じられる。例えば、平面的な絵画や写真を透明なアクリル板に貼り付けて額縁のない状態で展示すると、展示物は、淡泊で物足りないものになり易い。
【0021】
この様な平面的な絵画や写真が額縁に納められると、立体感が生まれ、また、安定した存在感が出てくる。以下、額縁による上記の効果について説明する。人間の脳は、並列処理をしていることが知られている(参考文献1:Unuma, H. & Tozawa, J. 1994 Perception of illusory contour and spatio-temporal integration in the visual system, Japanese Psychological Research, 36, 3, 188-194)。また、バインディング(参考文献1)として扱われている様に、並列処理されているそれぞれの部分の特性が結びつけられるにはかなりの処理時間を要する。
【0022】
絵画の展示を観賞する際の並列処理において、額縁が立体構造であるという計算結果は、平面的な絵画のイメージを情報として処理するのに必要な時間に比して短時間で得られる。すなわち、絵画に用いられる陰影等の処理は、何段ものパターン認識を経て行われる。これに対して、実際に段差のある額縁の構造は、両眼視差などの脳の特殊な機能で処理され、立体であることが素早く認識される。
【0023】
並列処理の実行中、素早く行われた処理の結果は、他の処理を行っている脳の部位に送られ、その部位の活性化を促進する。つまり、額縁が立体構造であるという情報は、短時間で認識されるため、絵画自体の情報に比して、相対的に長い時間、絵画に関する情報として扱われる。その結果、額縁は、提示物のイメージの存在感を増大させ、或いは、記憶やそれに伴う感情を強く呼び起こすといった効果を生み出す。額縁の効果はこれだけではないが、これが大きな効果のひとつである。
【0024】
図2に示す絵画又は写真24を、額縁に収納して展示すれば、それ自体を単体で展示する場合に比して、展示物の存在感を高め、その印象を強めることが可能である。しかしながら、この様な展示の手法では、絵画や写真に強い立体感を与えることはできない。また、展示物を額縁に収納する以上は、展示物の大きさや外形にも制限が生ずる。
【0025】
絵画や写真の立体感を高める手法としては、額縁を用いる他、例えば、それらに描かれる対象物を、ミニチュアやフィギュア等の立体構造とすることが考えられる。つまり、曲面や、層の積み重ねを用いて立体構造を表現することが考えられる。このような構造によれば、絵画や写真のイメージ自体が立体構造であることは容易に理解できるが、元になる絵画や写真とは印象が異なるものとなってしまう。
【0026】
[本実施形態の特徴]
本実施形態の絵画表示物は、絵画や写真のイメージの一部にのみ単純な立体構造を有している。具体的には、第1層10と第2層14との段差部分、及び、第2層14と第3層18との段差部分にのみ立体構造を有している。この場合、それらの段差部分については、両眼視差などの機能により短時間で立体構造が認識される。そして、その認識が、平面的に描かれた他の部分にも立体感を与え、統一された構図を持つ絵画や写真の全体に強い立体感を与える。
【0027】
より詳細には、図1に示す絵画表示物において、第1乃至第3層10,14,18は、立体を認識するうえで十分な厚さ(3mm)を有し、かつ、単純な立体構造を形成するように重ね合わされている。このため、各層の重ね合わせ部分では、素早く立体構造が認識される。他方、各層に描かれた子供達や犬などのイメージは、平面的に描かれているものの、そのイメージを情報として処理する際には何段ものパターン認識を経ることが必要である。このため、本実施形態の絵画表示物を観賞する際、各層に平面的に描かれたイメージの認識処理が進む過程では、多くの情報が脳内で立体として処理される。その結果、構図全体の立体感が増し、呼び出される記憶や印象が増すといった効果が生ずる。
【0028】
また、本実施形態の絵画表示物においては、各層の外形が、それぞれの層に描かれる対象物の外形と同じ形状を有している。更に、各層の周縁部、特に第2層14及び第3層18の周縁部は、段差部分が構図内で強い印象を与えないように透明になっている。そして、空間的に手前に位置する層には、統一構図において、手前に位置するべき対象物(夕日の前に子供達、子供達の前に犬)が描かれている。
【0029】
このような構成によれば、各層の段差は、絵画や写真に含まれる個々の対象物の外形や、個々の対象物の空間的な位置関係と整合する情報を鑑賞者に与える。この点においても、本実施形態の絵画表示物は、鑑賞者に対して、強い立体感を与えることができる。
【0030】
以上説明した通り、本実施形態の絵画表示物は、統一された構図を持つ絵画や写真の一部について、立体認識の処理を短時間で行わせ、その立体構造の情報が他の部分の処理に利用される時間を増やすことを目指している。この目的を達成するためには、各層を構成する平面間に深い段差が作られ、その段差以外には、立体構造が排除されていることが望ましい。
【0031】
本実施形態の絵画表示物では、各層間に3mmの段差が確保されており、鑑賞者に、短時間で立体構造を認識させることができる。そして、この絵画表示物によれば、夕日に対して子供達が浮き出て感じられるだけでなく、全体に、空間的広がりと時間的広がりを感じさせることができる。
【0032】
また、第1層10と第2層14との段差が構図内の上部に偏っていることを考慮して、構図内の下部に偏った位置に第2層14と第3層18との段差を設けることとしている。この構成によれば、最初の視点が絵画の上部に向かった場合には、夕日(第1層10)と子供達(第2層14)の立体感を早期に鑑賞者に感じさせることができ、最初の視点が絵画の下部に向かった場合には、それとは別の感覚(子供達と犬の立体感)を鑑賞者に早期に感じさせることができる。
【0033】
ところで、上述した実施の形態1では、最下層となる第1層10の周縁部も、他の層の周縁部と同様に透明に構成することとしているが、その構成はこれに限定されるものではない。すなわち、第1層10の周縁部は、絵画や写真のイメージに与えるインパクトが小さいため、必ずしも透明で無くても良い。
【0034】
また、上述した実施の形態1では、第1乃至第3層10,14,18のそれぞれが、3mmの厚さを有することとしているが、それらの厚さはこれに限定されるものではない。すなわち、第1層10については、必要な剛性が確保できる範囲で任意の厚さとしてもよい。また、第2及び第3層14,18については、2mm以上5mm以下の任意の厚さに設定することができる。
【0035】
また、上述した実施の形態1では、第1乃至第3層10,14,18に、それぞれ絵画や写真のイメージを描くこととしているが、その手法は、第1乃至第3層10,14,18にイメージを直接印刷する手法に限られるものではない。すなわち、第1乃至第3層10,14,18に、それぞれの外形に合わせてカットされた印刷済みのシートを貼り付けることとしてもよい。
【0036】
また、上述した実施の形態1では、第1乃至第3層10,14,18に、全体として統一された構図を有し、かつ、遠近感を伴う手法で描かれたイメージを描くこととしているが、遠近感を伴う手法で描かれていることは、必ずしも必須ではない。すなわち、第1乃至第3層10,14,18には、全体として統一感のある構図を持つイメージが描かれていればよい。
【0037】
また、上述した実施の形態1では、各層の外形を、個々の層に描かれる対象物の外形と同様にカットすることとしているが、この発明は、これに限定されるものではない。すなわち、各層の外形は、少なくとも一部において、そこに描かれる対象物の外形と重なっていればよく、外形の全周が対象物の形状と完全に重なっていることは必須ではない。
【0038】
実施の形態2.
次に、図3を参照して本発明の実施の形態2について説明する。本実施形態の絵画表示物は、第1層30と第2層32を備えている。第1層30及び第2層32は、それぞれ、3mmの厚さを有する透明なアクリル平板で構成されている。第1層30の周縁部及び第2層30の周縁部は、実施の形態1の場合と同様、透明である。
【0039】
第1層30には、絵画又は写真の背景となる景色のイメージ、ここでは、帆船が点在する海のイメージが、遠近感を伴う手法で描かれている。第2層32には、杖を持った老人、子供、犬、それらの下に広がる地面、更には老人達の手前に広がる家並みのイメージが、遠近感を伴う手法で描かれている。第1層30及び第2層32は、2枚のスタンド板34に支持されることにより自立することができる。
【0040】
本実施形態の絵画表示物においても、実施の形態1の場合と同様に、第1層30と第2層には、立体を認識するうえで十分な3mmの厚さが与えられている。このため、鑑賞者は、第1層30と第2層32の段差を、容易に立体構造として認識することができる。
【0041】
また、背景の海や帆船、老人達の手前に広がる家並み等は、更なる段差で立体的に表すのではなく、敢えて第1層30と第2層32のみに段差を与えることとしている。この場合、更なる立体構造部分を設ける場合に比して、第1層30と第2層32の段差を、脳内の並列処理の過程でより早く認識することができる。
【0042】
これにより、本実施形態の絵画表示物は、全体として広い空間を感じさせることができ、また、老人が、子供と犬と一緒に遠くの海を見ている様子に、強い立体感を与えることができる。
【0043】
ところで、第1層30の周縁部が透明でなくてもよい点、第1層30及び第2層32の膜厚が3mmに限定されない点、各層のイメージをシートの貼付で付与し得る点、各層のイメージが遠近感を伴わなくてもよい点、及び、各層の外形が対象物の外形と全周において重なっている必要はない点については、本実施形態においても、上述した実施の形態1の場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
写真や一部の絵画などに適用することにより、額縁に飾るだけではなく、卓上での自由な形状での展示を可能とし、その写真や絵画の有する印象の強化、喚起される記憶の増強、癒しなどの効果増大を可能としている。特に、ノーマン・ロックウェルに代表される写実派の絵画は、イメージのデフォルメなどの絵画手法が強くないため、本発明により非常に大きな効果を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1の絵画表示物の構成を示す図である。
【図2】図1に示す絵画表示物に描かれるイメージを平面的に表した図である。
【図3】本発明の実施の形態2の絵画表示物の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
10;30 第1層
12,16,20 周縁部
14;32 第2層
18 第3層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明で平行した2層または3層の平面を有した層からなり、各層の厚さが2mm以上で、上層の一部が削られていて、それと隣接する下層との間で立体構造を有し、絵画や写真などのイメージが各層の表面に印刷された絵画表示物、もしくは印刷されたシートを貼り付けた絵画表示物。
【請求項2】
表面の露出部に絵画又は写真のイメージが描かれた平板からなる第1層と、
前記第1層の一部に重ねて配置され、表面の露出部に絵画又は写真のイメージが描かれ、かつ、当該絵画又は写真に含まれる対象物の外形と少なくとも一部が重なる外形を有し、周縁部が透明である透明平板状からなる第2層と、
を備えることを特徴とする絵画表示物。
【請求項3】
前記第2層の一部に重ねて配置され、表面の露出部に絵画又は写真のイメージが描かれ、かつ、当該絵画又は写真に含まれる対象物の外形と少なくとも一部が重なる外形を有し、周縁部が透明である平板からなる第3層を備えることを特徴とする請求項2記載の絵画表示物。
【請求項4】
前記第1層は、周縁部が透明である透明平板からなることを特徴とする請求項2又は3記載の絵画表示物。
【請求項5】
各層の厚さが2mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項記載の絵画表示物。
【請求項6】
各層に描かれるイメージが全体として統一された構図を形成し、
前記統一構図中、遠くに描かれるべき対象物が下層側の層に描かれ、近くに描かれるべき対象物が上層側に描かれることを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項記載の絵画表示物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−165800(P2009−165800A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64854(P2008−64854)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(507247313)
【Fターム(参考)】