説明

絶縁スペーサ

【課題】シールド電極と絶縁部材との間に挟む導電材料の密着強度が弱い場合、シールド電極と絶縁部材との剥離を抑制できない。仮にこの導電材料に過剰な応力が加わると、シールド電極と絶縁部材との間で剥離が発生し、部分放電により、絶縁スペーサの絶縁性能が低下する可能性がある。
【解決手段】絶縁スペーサ6を構成する金属電極2は、導電性材料層3および接着材料層4を介して、その外周部を覆うように形成された固体絶縁体1と接続(接着)されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁スペーサに関するものであり、より特定的には、金属電極と、その表面上(外周部)に存在する固体絶縁体との密着性を向上させた絶縁スペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
系統を切り替える装置として用いられるガス絶縁開閉装置のタンクの内部には、電力の経路となる高圧導体(母線)を支持し、かつ、高圧導体と周囲とを電気的に絶縁させる役割を有する絶縁スペーサと呼ばれる部材が設置されている。
【0003】
近年、ガス絶縁開閉装置などの電力機器のコンパクト化の要求が高まってきている。絶縁スペーサのコンパクト化にともない、高圧導体を機械的に支持しうる強度を保ち、絶縁スペーサの絶縁体としての機能を向上することが重要である。このためには、たとえば絶縁スペーサを構成する金属電極と、金属電極を内部に埋め込むように一体注型された固体絶縁体とを接続させる接続層とが剥離を起こさないよう、強固に密着させる必要がある。絶縁スペーサがもつ、高圧導体を支持する機械的強度と、高圧導体とタンクとの間の電気的な絶縁を保つという機能は、絶縁スペーサを構成する、埋め込まれた金属電極と固体絶縁体との密着性に大きく依存する。
【0004】
たとえば絶縁スペーサを形成するために注型を行なう際に、金属電極と固体絶縁体との熱膨張係数が異なるため、金属電極と、一体注型される固体絶縁体との間に、熱膨張係数の差に起因する応力が発生する。この応力が原因で、金属電極と固体絶縁体とが密着されている界面近傍にて剥離が生じる可能性がある。絶縁スペーサを構成する一部に剥離が存在すると、絶縁スペーサに電圧を印加させた際に剥離が発生した部分を起点とした部分放電が発生し、時間の経過とともに放電が進展して最終的に絶縁破壊を起こす可能性がある。
【0005】
このため従来より、たとえば特開平8−322119号公報(以下、「特許文献1」)に開示されているように、絶縁スペーサを構成する導電性材料からなるシールド電極と、固体絶縁体としての絶縁部材とを、可とう性の導電材料を介して接続させることにより、シールド電極と絶縁部材との密着性を向上させる方法が用いられている。
【特許文献1】特開平8−322119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される従来の絶縁スペーサの形成方法においては、シールド電極と絶縁部材との間に可とう性があり、シールド電極と絶縁部材との熱膨張係数の差の影響を緩和するための導電材料を挟んでいる。このことにより、熱膨張係数の差に起因する応力による剥離を抑制している。しかし、この可とう性の導電材料の密着強度については記載されておらず、仮に可とう性の導電材料の密着強度が弱い場合、シールド電極と絶縁部材との剥離を抑制できないという問題点があった。具体的には、仮にこの導電材料に体積収縮力を超える過剰な応力が加わると導電材料と絶縁部材、すなわちシールド電極と絶縁部材との間で剥離が発生する可能性がある。すると、たとえば剥離している箇所を起点とする部分放電により、絶縁スペーサの絶縁性能が著しく低下することがある。なお、ここでいう(あるいは定義する)体積収縮力とは、たとえば可とう性を有する導電材料に外部から加える応力のうち、当該可とう性導電材料が伸縮するのみでたとえば剥離や破損を起こさない限界の応力のことである。
【0007】
また、内部に埋め込む金属電極の加工を行なう際に、加工不良により、形成した金属電極の表面にバリなどの突起物が発生することがある。金属電極の表面に突起物を発生させた状態で一体注型を行ない、形成された絶縁スペーサに電圧を印加すると、突起物の先端部を起点とした部分放電が発生し、最終的に絶縁破壊を起こす可能性がある。
【0008】
特許文献1に開示される、金属電極の表面上に可とう性の導電材料を塗布、またはコーティングにより供給する方法を用いると、特に可とう性の導電材料の膜厚が薄い場合には金属電極の表面上の突起の長さが可とう性の導電材料の膜より突出してしまうため、導電材料の塗布後にも突起形状が残る。その結果、通常の、導電材料がコーティングされていない金属電極である裸電極と同様に突起物を起点として部分放電を起こし、最終的に絶縁破壊を起こす可能性がある。
【0009】
本発明は、上述した各問題に鑑みなされたものであり、その目的は、金属電極と、その表面上(外周部)に存在する固体絶縁体との密着性を向上させることにより、金属電極と固体絶縁体との界面近傍における剥離を抑制させた絶縁スペーサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の絶縁スペーサは、金属電極と、金属電極の表面上に配置された導電性材料層と、導電性材料層の表面上に配置された接着材料層を介して上記金属電極と接続された固体絶縁体とを備える、絶縁スペーサである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の絶縁スペーサは、金属電極と、その表面上(外周部)に存在する固体絶縁体との密着性が向上されており、金属電極と固体絶縁体との界面近傍における剥離を抑制させている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態が説明される。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす部位には同一の参照符号が付されており、その説明は、特に必要がなければ、繰り返さない。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態における絶縁スペーサの構成を示す概略図である。図2は、図1中の線分II−IIにおける、絶縁スペーサの断面模式図である。図3は、図1の絶縁スペーサの図2による断面模式図を含む、ガス絶縁開閉装置の内部の断面模式図である。さらに図4は、本発明の実施の形態1における絶縁スペーサの図3中に丸点線で囲んだ「IV」の領域の拡大断面図である。
【0014】
図1に示すように、本発明の実施の形態1における絶縁スペーサ6は、中央部分にたとえば底面が円形で、ある一定の厚み(対向する1対の円形を有する表面の距離)を持つ円柱形の金属電極2を備えている。金属電極2の表面上、すなわち図1および図2に示すように円柱形の金属電極2の長軸方向の表面上(外周部)に配置された導電性材料層3を備えている。また、導電性材料層3の表面上、すなわちたとえば円筒形に配置された導電性材料層3の長軸方向の表面の外周部に配置された接着材料層4を介して金属電極2および導電性材料層3と接続された固体絶縁体1とを備えている。本発明の実施の形態1における絶縁スペーサ6を構成する金属電極2は、導電性材料層3および接着材料層4を介して、固体絶縁体1と接続(接着)されている。なお、図1に示すように、導電性材料層3は、金属電極2の表面上(外周部)の全面に配置されていてもよいし、同様に接着材料層4は、導電性材料層3の表面上(外周部)の全面に配置されていてもよい。
【0015】
金属電極2は、たとえばアルミニウムから形成されており、図3に示すように、絶縁スペーサ6を、たとえばガス絶縁開閉装置のタンク10の内部に備わる、電力の経路としての高圧導体5と接続するための電極である。ここで、金属電極2と高圧導体5とは、たとえば図示しないボルトにより固定されている。絶縁スペーサ6の固体絶縁体1は、たとえばエポキシ樹脂から形成され、たとえば金属製のタンク10に対して絶縁を保ちながら固定し、高圧導体5をタンク10に対して支持する役割を有する。
【0016】
固体絶縁体1については、図1の断面図である図2、および図3中において、タンク10の内周表面に対して、たとえば45°など斜め方向を向いた構成となっている。この場合、固体絶縁体1は、円すい状の形状を有している。このように固体絶縁体1をタンク10に対して斜め方向を向かせることにより、金属電極2からタンク10までの、固体絶縁体1を介する距離(固体絶縁体1の表面に沿った距離)が見かけ上大きくなる。このような構成にすることにより、固体絶縁体1の表面の導電性材料層3(接着材料層4)からタンク10までの沿面長を見かけ上大きくすることができる。したがって、固体絶縁体1の絶縁性能を向上することができる。
【0017】
図1および図2に示す絶縁スペーサ6は、図3に示すように、ガス絶縁開閉装置のタンク10の内部に接続される。具体的には、複数本の高圧導体5が、高圧導体5の長手方向(図3における左右方向)に一定間隔ごとに設置された絶縁スペーサ6の金属電極2を介して接続されている。このように高圧導体5と絶縁スペーサ6とが接続されることにより、絶縁スペーサ6は高圧導体5を機械的に支持し、かつ高圧導体5と周囲とを電気的に絶縁する役割を果たす。
【0018】
上述したように、絶縁スペーサ6を構成する金属電極2は、高圧導体5に接続されている。このため、金属電極2には高圧導体5と同様に高い電圧が加えられる。したがって、絶縁スペーサ6においては、金属電極2と固体絶縁体1との間で非常に高い電界が印加される。また、金属電極2と高圧導体5には数千アンペアの電流が流れるため、金属電極2の温度が上昇することがある。すると、金属電極2と固体絶縁体1との熱膨張係数の差に起因する応力が発生することがある。この応力が原因となって、金属電極2と固体絶縁体1との間に剥離などの欠陥が発生することがある。
【0019】
この部位にたとえば金属電極2と固体絶縁体1とが密着せず剥離しているなどの欠陥が存在すると、たとえば剥離している箇所を起点とする部分放電により、絶縁スペーサ6の絶縁性能が著しく低下することが知られている。そのため、この欠陥の発生を抑制するために、金属電極2の表面上(外周部)を導電性材料層3にて覆っている。この導電性材料層3は、可とう性を有する、たとえばウレタンゴムやEPTゴムなどを用い、たとえばここへカーボンを添加させて導電性を持たせたものである。このような可とう性を有する導電性材料層3が、金属電極2の表面上(外周部)に備えられていることにより、金属電極2と固体絶縁体1との熱膨張係数の差に起因する応力を吸収により緩和させ、たとえば剥離などの欠陥の発生を抑制させることができる。また、たとえばカーボンを添加させて導電性を持たせることにより、導電性の材料が、金属電極2と導電性材料層3との間の電位差を小さくするため、電界緩和効果を発揮する。したがって、金属電極2と導電性材料層3との間で発生した剥離における部分放電を抑制させることができる。
【0020】
また、導電性材料層3を形成するウレタンゴムやEPTゴムが、金属電極2の表面上(外周部)に備えられたときの、金属電極2と固体絶縁体1との密着強度を向上させるために、図1に示すように、導電性材料層3の表面上(外周部)には、接着材料層4が配置されている。この接着材料層4が、金属電極2、導電性材料層3および固体絶縁体1の互いの密着強度を強化させている。導電性材料層3が、上述したように可とう性により熱膨張係数の差に起因する応力を緩和させるが、仮にこの導電性材料層3に体積収縮力を超える過剰な応力が加わっても、接着材料層4の接着力により、図1および図4の導電性材料層3と固体絶縁体1との間で剥離の発生を抑制することができる。そのため、たとえ剥離が発生したとしても、金属電極2と導電性材料層3との間の領域に留まる。このため、部分放電を抑制することができ、絶縁スペーサ6の絶縁性能を確保することができる。
【0021】
以上より、図1、図2、および図4に示すように、金属電極2と固体絶縁体1とは、導電性材料層3および接着材料層4で接続されている。接着材料層4は、非常に高い電界が印加される金属電極2と固体絶縁体1との間の領域に配置される。このため、電界を緩和させるために、接着材料層4には導電性を有する材料を添加させることが好ましい。このようにすれば、たとえば接着材料層4を配置する際に接着材料層4の内部に混入する欠陥や巻き込みボイドなどが発生しても、導電性の材料が、金属電極2と接着材料層4との間の電位差を小さくするため、電界緩和効果を発揮する。したがって、発生した欠陥(ボイド)の内部における部分放電を抑制させることができる。
【0022】
ここで、接着材料層4の内部には、導電性材料層3中に添加されている導電材料と同一である第1の導電材料、たとえばカーボンを添加させることにより、電界緩和効果をもたらす構成としてもよい。また、導電性材料層3中に添加されている導電材料と異なる第2の導電材料、たとえば銀、銅などの金属微粒子を添加させることにより、同様の効果をもたらす構成としてもよい。
【0023】
後述するように、注型により絶縁スペーサ6全体を形成し、その際の硬化により接着材料層4が形成される。すなわち当初の接着材料層4を形成する材料はたとえばペースト状である。したがって、接着材料層4の(添加する導電材料を除く)本体の材料としては、このペーストを直接供給する固体絶縁体1および導電性材料層3との密着性の良好な材料を用いることが好ましい。また、接着材料層4のペーストを配置(塗布)する際に、ペーストの内部におけるボイドや欠陥の発生を抑制するために、接着材料層4のペーストの粘度が低い材料を用いることが好ましい。
【0024】
ここで絶縁スペーサ6の形成方法について説明する。まず、図1および図2に示すように、金属電極2の表面上(外周部)を覆うように、導電性材料層3として、たとえば粘土状のウレタンゴムやEPTゴムにカーボンを添加させて導電性を持たせたものを供給(塗布)する。この供給した導電性材料層3は、たとえば成形用の金型を用いて所望の形状となるよう成形する。この状態で、金属電極2に導電性材料層3を供給したものを加熱成形する。次に、図1に示すように、導電性材料層3の表面上(外周部)に、上述した接着材料層4のペーストを供給する。ここでも同様に、たとえば成形用の金型を用いて所望の形状となるよう成形する。さらに、たとえば所望の形状となるよう形成できる成形用の金型を用いて、接着材料層4のペーストの表面上(外周部)に固体絶縁体1を配置させるために、たとえば液体状もしくはゲル状のエポキシ樹脂を供給し、図1または図4に示す状態となるように準備する。この状態でたとえば加熱により材料を硬化させると、図1、図3、または図4に示す状態を有する絶縁スペーサ6が形成される。以上に述べた一体注型により、固体絶縁体1、導電性材料層3および接着材料層4を、金属電極2に接続、固着させることができる。
【0025】
以上の手順により、絶縁スペーサ6が形成される。したがって、形成時に材料を硬化させるときにもたとえば固体絶縁体1を形成するエポキシ樹脂が硬化収縮したり、過剰な応力が加わることがある。このため、たとえば仮にこの導電性材料層3が硬化するときに体積収縮力を超える過剰な応力が加わっても、接着材料層4の接着力により、図1および図4の導電性材料層3と固体絶縁体1との間で剥離の発生を抑制することができる。そのため、たとえば剥離している箇所を起点とする部分放電を抑制し、絶縁スペーサ6の絶縁性能を確保することができる。
【0026】
なお、接着材料層4は、導電性材料層3および固体絶縁体1との密着性をさらに良好にするため、導電性材料層3および固体絶縁体1の表面のうち、接着材料層4と密着する領域の面積が大きいことがさらに好ましい。したがって、導電性材料層3および固体絶縁体1の表面のうち、接着材料層4と密着する領域の面粗度が大きいことがさらに好ましい。具体的には、上述した面粗度は3μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。このため、たとえば金属電極2に導電性材料層3を供給したものを加熱成形した後、導電性材料層3の表面(接着材料層4を供給する表面)の面粗度を大きくする加工を施してもよい。
【0027】
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2における絶縁スペーサの図3中に丸点線で囲んだ「IV」の領域の拡大断面図である。図5に示すように、本発明の実施の形態1における導電性材料層3が複数の導電層からなり、複数の導電層は互いに異なる材料により構成されていてもよい。
【0028】
図5に示す、本発明の実施の形態1における導電性材料層としての導電層8a、8b、8c、8dは、比誘電率が異なるコーティング材料が複数の層として多層コーティングされたものである。ここで、複数の導電層8a、8b、8c、8dそれぞれの比誘電率は金属電極2の比誘電率より小さく、固体絶縁体1の比誘電率より大きいことが好ましい。なお、ここでは金属電極2を比誘電率の非常に高い誘電体と仮定している。また、導電層8a、8b、8c、8dは、金属電極2側から固体絶縁体1側へ向かうにつれて比誘電率が段階的に小さくなるように積層されていることが好ましい。以上より、比誘電率が段階的に、金属電極2>導電層8a>導電層8b>導電層8c>導電層8d>固体絶縁体1となることが好ましい。なお、金属電極2>導電層8a>導電層8b>導電層8c>導電層8d>接着材料層4>固体絶縁体1となることがさらに好ましい。
【0029】
図6は、本発明の実施の形態2における絶縁スペーサの、金属電極2の表面上に突起状の欠陥が存在する場合における導電層の積層状態を示す断面図である。金属電極2の加工不良あるいは異物の混入などにより、金属電極2の表面上に図6に示す、鋭利な先端を持つ突起状欠陥7が存在すると、その突起状欠陥7を起点として、金属電極2と固体絶縁体1との間に電界集中が発生する。突起状欠陥7の先端部の電界は、仮に突起が存在しない場合の10倍以上となることがある。このため、突起状欠陥7により容易に部分放電が発生する。
【0030】
そこで、図5に示すように金属電極2側から固体絶縁体1側に向かうにつれて比誘電率を段階的に小さくする。この場合において、図6に示すように金属電極2の表面上に突起状欠陥7が存在したとする。すると、図6に示す突起状欠陥7を有する絶縁スペーサ6に、AC電圧や雷インパルス、開閉サージなどの高電圧が印加されたとしても、突起状欠陥7の先端部の電界が容量分圧により緩和され、部分放電を抑制できる。この結果、絶縁スペーサ6の絶縁性能の低下を抑制することができる。
【0031】
上述したように、金属電極2の加工不良あるいは異物の混入などにより、金属電極2の表面上にたとえば図6に示す、鋭利な先端を持つ突起状欠陥7が存在すると仮定する。すると、通常の、導電層がコーティングされていない金属電極2である裸電極を埋め込んで上述した一体注型により形成された絶縁スペーサ6は、たとえば金属電極2に高電圧が印加されると、突起状欠陥7の鋭利な先端から部分放電が発生する。しかし、突起状欠陥7が存在する金属電極2の表面上に導電層8a、8b、8c、8dが多層コーティングされたものを埋め込んで形成された絶縁スペーサ6は、たとえば金属電極2に高電圧が印加された場合、突起状欠陥7の先端における電界が低下する。
【0032】
図7は、金属電極に存在する突起状欠陥の先端からの距離と、電界強度との関係を示すグラフである。図7において、横軸はたとえば図6に示す突起状欠陥7の先端からの距離を示す。ここで距離とは、突起状欠陥7の先端から、金属電極2の表面にほぼ直交する方向に引いた第1の直線上における、突起状欠陥7の先端からの距離のことである。また、縦軸は第1の直線上において、突起状欠陥7の先端からの距離に対する電界強度を示したものである。このように突起状欠陥7の先端からの距離に対する電界強度を、突起状欠陥7が裸電極の表面上に存在する絶縁スペーサ6と、突起状欠陥7がたとえば図5に示す多層コーティングされた金属電極2の表面上に存在する絶縁スペーサ6についてプロットすると、図7のようになる。
【0033】
図7より、突起状欠陥7の先端において電界強度は最大となっており、先端からの距離が大きくなるにつれて、電界強度が小さくなっている。このことから、突起状欠陥7の先端を起点とした電界集中が発生していることがわかる。ただし、金属電極2の表面上に多層コーティングを施すことにより比誘電率を段階的に変化させた絶縁スペーサ6の方が、裸電極の絶縁スペーサ6よりも、突起状欠陥7の先端における電界強度は小さくなっている。したがって、多層コーティングにより比誘電率を段階的に変化させた金属電極2を用いた方が、電界集中を抑制することができる。このため、多層コーティングにより比誘電率を段階的に変化させた金属電極2を用いた方が、部分放電を抑制することができる。
【0034】
また、図7において、金属電極2の表面上に多層コーティングを施すことにより比誘電率を段階的に変化させた絶縁スペーサ6の方が、裸電極の絶縁スペーサ6よりも、突起状欠陥7の先端から離れた場所においては電界強度が小さくなっている。なお、突起状欠陥7の先端からの距離がさらに大きくなった場所については、いずれの場合も電界強度はほぼ同じになっているが、これは突起状欠陥7の先端部の高い電界強度の影響が、先端部のごく近傍の領域だけであることを示している。すなわち、突起状欠陥7の先端部からある程度の距離だけ離れれば、突起状欠陥7による電界集中の影響が十分小さくなり、突起状欠陥7のない場合の電界値に近づく。
【0035】
さらに、図7より、金属電極2の表面上に多層コーティングを施すことにより比誘電率を段階的に変化させた絶縁スペーサ6の方が、裸電極の絶縁スペーサ6よりも、電界強度のグラフが示す傾きが小さくなっている。すなわち、距離に対する電界強度の変化率(電界勾配)が小さくなっている。距離に対する電界勾配は、金属電極2側から固体絶縁体1側へ向かうときの比誘電率の変化率に比例する。
【0036】
構成を形成するための、導電性材料層としての導電層は、図5および図6においては導電層8a、8b、8c、8dの4層の多層コーティングとしている。しかし、導電層の層数は必ずしも4層である必要はなく、2層以上5層以下であることが好ましい。金属電極2から固体絶縁体1(接着材料層4)に向かうにつれて段階的に比誘電率が変化するようにするため、導電層の層数は2層以上で多いほど好ましい。しかし、生産効率や経済性も勘案の上、2層以上5層以下であることがさらに好ましい。
【0037】
以上のように多層コーティングにより比誘電率を段階的に変化させた複数の導電層8a、8b、8c、8dからなる導電性材料層3と、接着材料層4とを備えた金属電極2を備える絶縁スペーサ6を用いることにより、上述したように部分放電を抑制することができる。さらに、複数の導電層と金属電極2の表面との間の領域に剥離やボイドが発生したとしても、部分放電が発生する電圧の下限値を高くすることができる。その結果、絶縁スペーサ6の絶縁性能の低下を抑制することができる。
【0038】
以上においては突起状欠陥7が存在している金属電極2の表面上に多層コーティングを施した場合の効果について主に説明している。しかし、突起状欠陥7が存在しない金属電極2の表面上に同様の多層コーティングを施した場合においても同様に、金属電極2の表面上に多層コーティングを施すことにより比誘電率を段階的に変化させた絶縁スペーサ6の方が、裸電極の絶縁スペーサ6よりも、部分放電の発生を抑制させることができる。
【0039】
本発明の実施の形態2は、本発明の実施の形態1の構成や条件、工程、手法、効果にさらに、上述した構成や効果などが加わったものである。すなわち、本発明の実施の形態2において、上述しなかった構成や条件、工程、手法、効果などは、全て本発明の実施の形態1に準ずる。
【0040】
(実施の形態3)
図8は、本発明の実施の形態3における絶縁スペーサの図3中に丸点線で囲んだ「IV」の領域の拡大断面図である。図8に示すように、本発明の実施の形態3における導電性材料層も、先述した本発明の実施の形態2における導電性材料層と同様に、複数の導電層からなり、複数の導電層は互いに異なる材料により構成されている。
【0041】
図8に示す、本発明の実施の形態1における導電性材料層としての導電層9a、9b、9c、9dは、電気抵抗率が異なるコーティング材料が複数の層として多層コーティングされたものである。ここで、複数の導電層9a、9b、9c、9dそれぞれの電気抵抗率は金属電極2の電気抵抗率より大きく、固体絶縁体1の電気抵抗率より小さいことが好ましい。また、導電層9a、9b、9c、9dは、金属電極2側から固体絶縁体1側へ向かうにつれて電気抵抗率が段階的に大きくなるように積層されていることが好ましい。以上より、電気抵抗率が段階的に、金属電極2<導電層9a<導電層9b<導電層9c<導電層9d<固体絶縁体1となることが好ましい。なお、金属電極2<導電層9a<導電層9b<導電層9c<導電層9d<接着材料層4<固体絶縁体1となることがさらに好ましい。なお、導電層9a、9b、9c、9dの電気抵抗率は、10Ωcm以上1014Ωcm以下であることがさらに好ましい。電気抵抗率を上述した範囲内となるよう設定すれば、電気抵抗率の変化により段階的に耐電圧値を変化させることができる。
【0042】
図9は、本発明の実施の形態3における絶縁スペーサの、金属電極2の表面上に突起状の欠陥が存在する場合における導電層の積層状態を示す断面図である。たとえば図9に示す突起状欠陥7を有する金属電極2の表面上に、図6に示す導電層8a、8b、8c、8dの代わりに、図9に示す導電層9a、9b、9c、9dを多層コーティングさせた場合も、先述した本発明の実施の形態2における多層コーティングと全く同様の効果を奏する。すなわち、図8に示すように金属電極2側から固体絶縁体1側に向かうにつれて電気抵抗率を段階的に大きくする。この場合において、図9に示すように金属電極2の表面上に突起状欠陥7が存在したとする。すると、図9に示す突起状欠陥7を有する絶縁スペーサ6に高電圧が印加されたとしても、突起状欠陥7の先端部の電界が抵抗分圧により緩和され、部分放電を抑制できる。この結果、絶縁スペーサ6の絶縁性能の低下を抑制することができる。
【0043】
また、金属電極2の表面上に多層コーティングを施すことにより電気抵抗率を段階的に変化させた絶縁スペーサ6についても、先述した比誘電率を段階的に変化させた絶縁スペーサ6と同様に、図7に示すように、裸電極の絶縁スペーサ6に比べて、突起状欠陥7の先端における電界強度、突起状欠陥7の先端から離れた場所における電界強度は小さくなる。したがって、電気抵抗率を段階的に小さくした絶縁スペーサ6を用いると、電界集中を抑制することができる。
【0044】
本発明の実施の形態3において、上述しなかった構成や条件、工程、手法、効果などは、全て本発明の実施の形態2に準ずる。
【0045】
(実施の形態4)
以上に述べた本発明の実施の形態1〜3における絶縁スペーサに用いる導電性材料層3は、たとえば実施の形態1のように単層であっても、たとえば実施の形態2または3のように多層コーティングにより形成されたものであっても、その厚みは100μm以上500μm以下であることがさらに好ましい。ここで、たとえば実施の形態2または3のように多層コーティングされている場合には、多層コーティングされている複数の導電層の厚みの合計が100μm以上500μm以下であることがさらに好ましい。このような構成にすることにより、さらに電界集中を抑制することができる。
【0046】
高さが100μm以上ある突起状欠陥7(図6、8参照)が存在する金属電極2は、これを絶縁スペーサ6を形成するために使用した場合、絶縁スペーサ6の絶縁性能の低下を招く部分放電などの原因となる可能性がある。なお、ここで高さとは、金属電極2の表面にほぼ直交する方向における2点間の距離を表わす高さであり、導電性材料層3の厚みと同一方向を意味する。
【0047】
たとえば突起状欠陥7の高さが100μmである場合、その上に厚みが100μm以上の導電性材料層3を形成すれば、導電性材料層3に添加させている導電材料が突起状欠陥7の周囲をマスクする効果により、突起状欠陥7による電界集中を抑制することができる。したがって、導電性材料層3の厚みは100μm以上であり、厚いほど突起状欠陥7の周囲をマスクする効果が増大されるためさらに好ましい。しかし、たとえば突起状欠陥7の高さが500μm以上であれば、金属電極2を加工した段階で目視により突起状欠陥7の存在が確認できるため、突起状欠陥7の修正が可能である。したがって、品質管理上は、高さが100μm以上500μm以下の突起状欠陥7に対して電界集中を抑制させるための構成を備えることが好ましい。目視で確認できない、高さが500μm以下の突起状欠陥7に対して電界集中を抑制させるためには、500μm以下の厚みを持つ導電性材料層3を用いればよい。
【0048】
したがって、実施の形態1〜3において、欠陥管理のレベルに合わせて100μm以上500μm以下の厚みの導電性材料層3を用いることにより、突起状欠陥7の、たとえば電界集中による部分放電の発生をさらに抑制することができる。すなわち、絶縁スペーサ6の絶縁機能の低下をさらに抑制することができる。
【0049】
本発明の実施の形態4において、上述しなかった構成や条件、工程、手法、効果などは、全て本発明の実施の形態1〜3に準ずる。
【0050】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の絶縁スペーサは、金属電極と固体絶縁体との密着性を向上させ、電界集中を抑制させることにより、絶縁性能の低下を抑制させた絶縁スペーサとして特に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態における絶縁スペーサの構成を示す概略図である。
【図2】図1中の線分II−IIにおける、絶縁スペーサの断面模式図である。
【図3】図1の絶縁スペーサの図2による断面模式図を含む、ガス絶縁開閉装置の内部の断面模式図である。
【図4】本発明の実施の形態1における絶縁スペーサの図3中に丸点線で囲んだ「IV」の領域の拡大断面図である。
【図5】本発明の実施の形態2における絶縁スペーサの図3中に丸点線で囲んだ「IV」の領域の拡大断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2における絶縁スペーサの、金属電極2の表面上に突起状の欠陥が存在する場合における導電層の積層状態を示す断面図である。
【図7】金属電極に存在する突起状欠陥の先端からの距離と、電界強度との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態3における絶縁スペーサの図3中に丸点線で囲んだ「IV」の領域の拡大断面図である。
【図9】本発明の実施の形態3における絶縁スペーサの、金属電極2の表面上に突起状の欠陥が存在する場合における導電層の積層状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 固体絶縁体、2 金属電極、3 導電性材料層、4 接着材料層、5 高圧導体、6 絶縁スペーサ、7 突起状欠陥、8a 導電層、8b 導電層、8c 導電層、8d 導電層、9a 導電層、9b 導電層、9c 導電層、9d 導電層、10 タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属電極と、
前記金属電極の表面上に配置された導電性材料層と、
前記導電性材料層の表面上に配置された接着材料層を介して前記金属電極と接続された固体絶縁体とを備える、絶縁スペーサ。
【請求項2】
前記導電性材料層および前記接着材料層は、前記金属電極の軸方向の表面と前記固体絶縁体の端部とが相対する面の間に配置される、請求項1に記載の絶縁スペーサ。
【請求項3】
前記接着材料層には前記導電性材料層中に添加されている導電材料と同一である第1の導電材料または前記導電性材料層中に添加されている導電材料とは異なる第2の導電材料を添加させている、請求項1ないし請求項2に記載の絶縁スペーサ。
【請求項4】
前記導電性材料層は、複数の導電層からなり、
前記複数の導電層は互いに異なる材料により構成され、
前記複数の導電層の比誘電率は前記固体絶縁体の比誘電率より大きく、
前記複数の導電層は、前記金属電極側から前記固体絶縁体側へ向かうにつれて比誘電率が段階的に小さくなるように積層されている、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の絶縁スペーサ。
【請求項5】
前記導電性材料層は、複数の導電層からなり、
前記複数の導電層は互いに異なる材料により構成され、
前記複数の導電層の電気抵抗率は前記金属電極の電気抵抗率より大きく、前記固体絶縁体の電気抵抗率より小さく、
前記複数の導電層は、前記金属電極側から前記固体絶縁体側へ向かうにつれて電気抵抗率が段階的に大きくなるように積層されている、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の絶縁スペーサ。
【請求項6】
前記複数の導電層の電気抵抗率は10Ωcm以上1014Ωcm以下である、請求項5に記載の絶縁スペーサ。
【請求項7】
前記導電性材料の厚みは100μm以上500μm以下である、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の絶縁スペーサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−93873(P2010−93873A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258553(P2008−258553)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】