説明

絶縁油中のスルホキシド型硫黄分の分析方法

【課題】絶縁油中の硫黄成分のうちのスルホキシド型硫黄分を簡便かつ高感度で測定することを可能にする、絶縁油中のスルホキシド型硫黄分の分析方法を提供する。
【解決手段】絶縁油中に含まれる全硫黄分のうちのスルホキシド型硫黄分の分析方法であって、絶縁油の所定量を試料油とし、試料油もしくは当該試料油を無極性溶媒に溶解させた試料をシリカゲルに通し、スルホキシド型硫黄分をシリカゲルに吸着させる工程と、上記シリカゲルに極性溶媒を通し、スルホキシド型硫黄分をシリカゲルから脱着させ、極性溶媒に含有させて回収する工程と、を有し、上記極性溶媒に含有されるスルホキシド型硫黄分を分析することを特徴とするスルホキシド型硫黄分の分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁油中のスルホキシド型硫黄分の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油入変圧器や油入リアクトル等の油入電気機器は、タンク内に鉄心および巻線が収容され、巻線部分は導体表面を絶縁紙等の固体絶縁物で絶縁された構成であり、タンク内には絶縁耐力の確保と巻線、鉄心の冷却を目的とした絶縁物が充填され、タンク内部の発熱源である鉄心および巻線と冷却器との間で強制的に絶縁油を循環させて冷却し、各部の温度が規定の範囲内に抑えられる構成となっている。
【0003】
このような構成の油入電気機器においては、巻線の表面を絶縁油が流れることにより、固体絶縁物と絶縁油との界面に流動帯電現象が発生し、固体絶縁物の表面に負電荷が蓄積し、その部位の直流電位が上昇し、電位が限界を超えると部分放電が発生し、これがトリガとなって、機器内部において交流絶縁破壊に至る危険性がある。このようなことから、油入電気機器においては、流動帯電現象が発生しないように内部を循環する絶縁油の流速を低速に設定して流動帯電現象の発生が抑制された構成となっている。
【0004】
実際の油入電機器器では、停止することが難しいので、停止しなくても流動帯電性が把握できる方法として、絶縁油の帯電度を測定する方法が行われている。しかし、このような試験では、試料となる電気絶縁油は多くの油量を必要とし、評価試験自体にも長時間必要であり、さらに測定環境の影響を受けやすい等の問題点がある。さらに、長期間使用すると絶縁油は劣化されて帯電度が上昇するが、特に変圧器の高経年化が進むなか、絶縁油の酸化・熱劣化による変質が進んでおり、500kV変圧器における絶縁油の高帯電度化が進展し流動帯電現象が顕在化しつつある。
【0005】
このような流動帯電現象対策として、特許文献1には、絶縁油の劣化防止のために、レジン含有量100ppm以下の精製鉱油を用いることが提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、電気絶縁油中に含まれるスルホキシド量を測定し、該スルホキシド量により電気絶縁油の劣化状態を評価する方法が報告されている。
【0007】
一方、油入電気機器に使用される絶縁油は、鉱物油を精製したものであるため、その中には硫黄成分として0.1〜0.5%の硫黄化合物が含まれている。特許文献3には、この硫黄化合物と油の帯電度との関係が報告されており、それによれば、スルフィド類を添加した油を加熱するとスルフィド類の酸化生成物が生成し帯電度が増加する;スルフィドの酸化生成物であるスルホキシド類を添加した油の場合はスルフィドよりも高帯電化しやすい;スルホキシド類の酸化生成物であるスルホン類は加熱試験で高帯電度化現象がみられないことなどが報告されている。
【0008】
他方、スルホキシドの分析について、特許文献2にガスクロマトグラフを活用した手法の記載がある。この手法は、絶縁油をシリカゲル、アルミナ等の吸着剤に通して、絶縁油に含有される硫黄系、窒素系のヘテロ化合物を吸着させ、ヘキサン等の溶剤で吸着剤から油分を除去した後、ジクロロメタンからなる硫黄系化合物分離用溶剤を吸着剤に通し、硫黄系化合物を溶剤と共に回収する。回収液を分析装置で分析して絶縁油中のスルホキシド量を定量する。しかしながら、本手法では、人体や環境に対して懸念の大きいジクロロメタンを使用しており、安全性の点が懸念される。またこの文献には、無極性溶媒であるジクロルメタンを添加して硫黄系化合物を吸着剤から回収した後、さらにメタノールを添加して窒素系化合物を吸着剤から回収することが記載されているだけであり、回収した硫黄系化合物はチオフェン、メルカプタンおよびチオフェノールである。
【特許文献1】特開2000−345177号公報
【特許文献2】特開2001−006946号公報
【特許文献3】特開2005−223104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、絶縁油に含まれている硫黄化合物は、油の加熱劣化にともなって経時的に構造が変化していくが、帯電度は各硫黄化合物が示す帯電量の総和であり、新油中に含まれるスルフィドが起点となって硫黄化合物が酸化され、高帯電化が進展する。さらに酸化が進展すると、高帯電度を示さないスルホンや逆帯電を示すスルホン酸が生成する。図1は、酸素および銅触媒を含む系におけるオクチル系硫黄化合物の加速試験結果をデータで示したものであるが、スルフィドおよびスルホキシドを添加した油は正に帯電し、スルホン酸を添加した油は負に帯電する。
【0010】
実際の油入電気機器では、新しく設置された油入電気機器が実使用状態になると、使用経過とともに絶縁油の帯電度が増加することがわかっており、この要因として、絶縁油に含まれる硫黄系微量成分が想定されている。しかし、絶縁油に含まれている全硫黄量は電量滴定法で定量できるものの、電量滴定法は質量のデータ取得のみである。そのため、絶縁油中の各硫黄化合物を定量分析する有効な手法がなく、分析法の開発が望まれている。
【0011】
図2に示すように、絶縁油中に含有されている有機硫黄分は、スルフィド、スルホキシド、スルホンおよびスルホン酸に大別される。これらの硫黄分は、新油中に含まれているスルフィドが起点となり、酸化により生成するスルホキシドを経由して、あるいはスルフィドから直接、スルホンまたはスルホン酸が生成すると推定される。スルフィド類の合計炭素数は2〜30の範囲にあることから、生成するスルホキシド、スルホンおよびスルホン酸の炭素数は推定で1〜30の範囲にあると考えられる。
【0012】
本発明は、上記のような絶縁油の高帯電度化現象は、絶縁油中のスルフィド型硫黄成分(スルフィド)が変質することにより発生すると考えられ、スルホキシドの定量化を図ることで、高帯電度化の現状の様相把握およびトレンド予測が可能になるとの事情に鑑みてなされたものであり、絶縁油中の硫黄成分のうちのスルホキシド型硫黄分を簡便かつ高感度で測定することを可能にする、絶縁油中のスルホキシド型硫黄分の分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した。そして、絶縁油中のスルホキシドを吸着剤に吸着させ、続いて極性溶媒により固相抽出して脱着させた後、回収した極性溶媒に含有されるスルホキシド型硫黄分を分析することにより、スルホキシド型硫黄分の定量分析が可能になることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、絶縁油中に含まれる全硫黄分のうちのスルホキシド型硫黄分の分析方法であって、絶縁油の所定量を試料油とし、試料油もしくは当該試料油を無極性溶媒に溶解させた試料をシリカゲルに通し、スルホキシド型硫黄分をシリカゲルに吸着させる工程と、上記シリカゲルに極性溶媒を通し、スルホキシド型硫黄分をシリカゲルから脱着させ、極性溶媒に含有させて回収する工程と、を有し、上記極性溶媒に含有されるスルホキシド型硫黄分を分析することを特徴とするスルホキシド型硫黄分の分析方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、絶縁油の高帯電度化要因となっている硫黄成分の定量分析ができ、硫黄成分分析手法の標準化が図れる。さらに、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフ等の分析装置で分析することにより、硫黄成分の分子量分布が把握でき、分子量による重み付け等の評価が可能となり、流動帯電に関する診断手法の高精度化が図れる。
【0016】
なお、本手法の硫黄分析は、変圧器内部の固体絶縁物(プレスボード等)に付着している硫黄成分の分析にも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図3は本発明のスルホキシド型硫黄分(以下、「スルホキシド」と言う。)の分析方法の実施形態の一例であって、標準的な操作工程の流れを示すフローチャートである。本実施形態例の方法は、絶縁油試料(以下、「試料油」と言う。)のスルホキシド吸着工程と、スルホキシド脱着(回収)工程と、を有し、回収した硫黄成分を分析する。
【0018】
先ず、所定量の試料油を無極性溶媒に溶解させ、この溶解液をシリカゲルに通してスルホキシドをシリカゲルに吸着させる。次いで、極性溶媒を用いて固相抽出することにより、吸着したスルホキシドをシリカゲルから脱着させる。次いで、回収した極性溶媒に含有されるスルホキシドを分析することにより、スルホキシドの含有量、分子量および分子量分布を測定する。分析装置としては、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフなどが好適である。なお、スルホンはシリカゲルに吸着するため、スルホキシドには若干のスルホンが含まれる。
以下、これらの工程を順に詳しく説明する。
【0019】
1.スルホキシド吸着工程
本実施形態例の方法では、先ず、試料油を無極性溶媒で希釈して試料を調製する。スルホキシド含有量が少ない試料油の場合には試料油重量を増量させて分析した方が望ましい。試料をシリカゲルに通して、試料油中のスルホキシドをシリカゲルに吸着させる。
(1)シリカゲルをカートリッジに充填し、カートリッジにn−ヘキサンを流してシリカゲルを洗浄する。シリカゲルは使用前に十分乾燥させ、シリカゲルから水分を除去する。カートリッジにn−ヘキサンを流して、シリカゲルを洗浄する。少量のn−ヘキサンをカートリッジに残して、排出コックを閉じる。その状態で10分間放置する。シリカゲルにn−ヘキサンを十分含浸させる。
(2)試料油を秤量し、秤量した試料油をn−ヘキサンと混合させて試料を調製する。
(3)試料をシリカゲルの入ったカートリッジに通液し、スルホキシドをシリカゲルに吸着させる。試料が残留しないよう、n−ヘキサンを用いて十分サンプル容器を洗浄し、洗浄液をカートリッジに通液する。
(4)カートリッジ内を通気し、n−ヘキサンを吸引・蒸発させて除去する。
【0020】
本工程で用いる無極性溶媒としては、試料油との相溶性、吸引・蒸発性が良好である点から、n−ヘキサンが好ましいが、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等でも良い。
【0021】
2.スルホキシド脱着工程
次いで、スルホキシドを吸着させたシリカゲルに極性溶媒を通し、吸着したスルホキシドをシリカゲルから脱着させ、極性溶媒に含有させてガラス容器等に回収する。
【0022】
本工程で用いる極性溶媒としてはプロトン性極性溶媒が好ましく、なかでも吸着させた成分の脱着性、蒸発除去容易性、入手容易性の点からメタノールが好ましいが、エタノール、プロパノール等でも良い。
【0023】
3.硫黄成分の固化濃縮
上記の工程で回収した極性溶媒から極性溶媒だけを除去し、硫黄成分を固化濃縮させる。例えば、回収したメタノールの入ったガラス容器等を濃縮器にセットしてメタノールを除去し、硫黄成分を固化濃縮させる。
【0024】
4.スルホキシドの分析
次いで、ガラス容器等にアセトン等の所望の溶媒を注入し、固化濃縮させた硫黄成分を該溶媒に溶解させ、溶解液をガスクロマトグラフ(GC)、液体クロマトグラフ(LC)等の分析装置に導入し、スルホキシドを定量分析する。ガスクロマトグラフの検出器としては、微量の硫黄化合物、リン化合物に対して高い感度を示すFPD(炎光光度検出器)または電気電導度検出器を用いるのが良い。
注入する溶媒は、目的に応じて適宜選択すれば良い。硫黄成分の溶解性が良く、低沸点でガスクロマトグラムのピークがスルホキシドやスルホンと重ならない点から、ガスクロマトグラフで分析する場合はアセトンが好適である。液体クロマトグラフで分析する場合は、移動相溶媒でも良い。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0026】
(検量線の作成)
硫黄濃度0.1〜1.5ppmに相当するオクチルスルホンのアセトンベース試料を作製する。次の条件で各濃度の試料(1μL)のガスクロマトグラフ分析を行う。
ガスクロマトグラフ分析条件
ガスクロマトグラフ :島津製作所製 GC2014
検出器 :FPD(炎光光度検出器)
データ処理装置 :GCソリューション
オートインジェクター:ACD−201
カラム昇温条件 :100℃→10℃/min→280℃
インジェクション温度;280℃
検出器温度 :300℃
インジェクション管 :GC2014用インサート管
注入ゴム栓 :ローブリードタイプセプタム(島津製作所製)
カラム :RTX−1(0.5μm(膜厚)×0.32mm(カラム内
径)×30m(長さ))
スプリット比 :全量注入
【0027】
得られたクロマトグラムの検出されたピーク面積を40msごとに分割する。分割したピーク面積をルートで割り返し、その結果を合算する(ここでは、線形換算値と言う)。分析および計算結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
線形換算値と硫黄(元素)濃度をプロットし、これらの値を用いて、線形換算値(x)とオクチルスルホン濃度(y)の関係式を求めた結果が図4である。図から、ピーク面積、ピーク高さのどちらを基準にしても直線性が得られることがわかった。以下、この検量線に基づいてスルホキシドを定量した。
【0030】
[実施例1]
本実施例では、標準試料としてオクチルスルホンを用い、既知のスルホキシド濃度と分析で得られるスルホキシド濃度の整合性を比較した。
【0031】
(固層抽出用カートリッジの準備)
シリカゲルを充填した1mL用カートリッジ(バリアン製固相抽出用カートリッジボンドエルート)を準備する。真空ガラステールの差込口にコックの下部を挿入し、計量用ピペットで採取した1mLのn−ヘキサン(特級)をカートリッジに流して、シリカゲルを洗浄する。使用前に十分乾燥させ(70℃×1時間)シリカゲルから水分を除去する。計量用ピペットで採取した1mLのn−ヘキサン(特級)をカートリッジに流して、シリカゲルを洗浄する。少量のn−ヘキサンを残してコックを閉じる。その状態で10分間放置して、n−ヘキサンをシリカゲルに十分含浸させる。
【0032】
(試料油の計量)
硫黄濃度0.1〜1.5ppmに相当するオクチルスルホンのアルキルベンゼン溶液を作製し、各々を試料油とする。スポイトに採取した試料油5mLをガラス容器(5mL)に滴下して100mgを秤量する。計量用ピペットに採取した1mLのn−ヘキサンを上記ガラス容器に注入し、混合液をボルテックスミキサーで1分間撹拌し、試料油とn−ヘキサンとを均一に混合し試料とする。
【0033】
(吸着処理)
上記で準備したカートリッジに上記試料を通液する。上記で使用したガラス容器には試料油が残留しているので、これを回収するため、n−ヘキサンを1mL注入後ボルテックスミキサーで1分間撹拌する。同様に、n−ヘキサンを1mL注入しガラス容器内の壁面に残留している試料を回収するためピペッティングで洗浄する。その後、ボルテックスミキサーで1分間撹拌する。この操作を2回、上記と合せて計4回ガラス容器内を洗浄する。洗浄毎にこの液をカートリッジに流す。その後、n−ヘキサンを直接カートリッジに2回流して洗浄し、十分に吸着させる。洗浄作業時に発生する排出液は、廃溶剤として処置する。シリカゲルにn−ヘキサンが残留すると、後処理で使用するメタノールによるスルホキシド系硫黄化合物の脱着作業の障害となるため、カートリッジ内に20分間程度通気して、n−ヘキサンを吸引・蒸発させて除去する。
【0034】
(脱着処理)
上記カートリッジの下部に1.5mL用ガラス容器を配置する。計量用ピペットに採取した1mLのメタノール(液体クロマト用)をカートリッジに通液する。カートリッジに20分間程度通気し、シリカゲルに含浸されているメタノール混合試料油を押し出し、上記ガラス容器に回収する。
【0035】
(スルホキシドの固化濃縮)
メタノール混合試料油を回収したガラス容器を濃縮器にセットし、乾燥空気(市販のボンベ入り空気あるいは窒素ガス)を供給針から前記ガラス容器内部に吹き付ける。流量はガラス容器内のメタノール混合試料油が吹きこぼれない程度とする。温調は35℃とする。通常、30分程度でメタノールは蒸発するが、蒸発しきれていない場合は空気の供給を継続する。メタノールを除去した後、計量用ピペットに採取した200μLのアセトン(特級)を前記容器に注入する。ボルテックスミキサーにて3分間撹拌し、抽出固化した硫黄成分をアセトンに溶解した後、全量を1mLのインサート管に移す。このアセトン溶液がガスクロマトグラフ分析の試料となる。
【0036】
(ガスクロマトグラフ分析)
分析は、検量線を作成したときの分析条件で行う。検量線の関係式からガスクロマトグラフ試料中の硫黄濃度を求め、その値を用いて、試料油中の硫黄濃度を計算する。分析結果を表2、表3に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
表3の仕込み硫黄濃度と分析値をプロットしたのが図5であり、両者の間には良好な直線関係が得られた。ピーク面積から求めた硫黄濃度とピーク高さから求めた硫黄濃度は、良く一致していた。
【0040】
[実施例2]
本実施例では、実際に使用された絶縁油を試料油として用い、絶縁油中のスルホキシドを分析した。試料油番号Aの試料油原液および、アルキルベンゼンを希釈溶媒として用いた2倍希釈品、3倍希釈品、5倍希釈品の各々を試料油とし、抽出固化した硫黄成分をアセトン800μLで溶解すること以外は、実施例1と同様の方法でスルホキシドの分析を行った。ピーク面積から求めた分析結果を表4、表5に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
上記の分析結果から、試料油番号Aの試料油原液には456ppmのスルホキシド(含スルホン)が含有されていることがわかった。また、相対濃度と分析結果(ピーク面積から求めた値の平均値)をプロットすると、図6に示す結果となり、良好な直線関係が得られたことから、上記の定量方法は広範囲の濃度で適用可能であることがわかる。
【0044】
ガスクロマトグラムを図7に示す(ピークトップはR−SO−Rで表される片側がC8−9のスルホキシドである)。スルホキシドの分子量が大きくなる程、保持時間が長くなるため、ガスクロマトグラムからスルホキシドの分子量分布を把握することが可能となる。
【0045】
以上の実験結果から、絶縁油中のスルホキシド型硫黄分の定量が可能であることが確認できた。
【0046】
上記絶縁油中のスルホキシド型硫黄分の定量法は、簡単な操作および安価な試薬の使用で、微量のスルホキシドの定量測定を可能としており、簡易な装置で定量が可能なこととあいまって、迅速かつ簡便である一方で、高感度のスルホキシド測定ができることから、油入電気機器の絶縁油の流動帯電を把握できる指標として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、高感度でありながら、簡便且つ安価な絶縁油中のスルホキシド型硫黄分の定量法を提供するものであり、現在油入電気機器で課題となっている高帯電度化現象の診断および抑制対策に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】オクチル系硫黄化合物の加速試験結果(酸素有・銅有)を示すグラフである。
【図2】絶縁油中に存在する硫黄化合物の分子構造を示す図である。
【図3】本発明の分析方法の標準的な操作工程の流れを示すフローチャートである。
【図4】検量線作成用標準試料のガスクロマトグラムの線形換算値と硫黄(元素)濃度の関係式を示すグラフである。
【図5】試料油番号Aの絶縁油の仕込み濃度と分析値との関係を示すグラフである。
【図6】試料油番号Aの絶縁油の濃度と分析値との関係を示すグラフである。
【図7】試料油番号Aの絶縁油のガスクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁油中に含まれる全硫黄分のうちのスルホキシド型硫黄分の分析方法であって、
絶縁油の所定量を試料油とし、試料油もしくは当該試料油を無極性溶媒に溶解させた試料をシリカゲルに通し、スルホキシド型硫黄分をシリカゲルに吸着させる工程と、
上記シリカゲルに極性溶媒を通し、スルホキシド型硫黄分をシリカゲルから脱着させ、極性溶媒に含有させて回収する工程と、を有し、
回収した極性溶媒に含有されるスルホキシド型硫黄分を分析することを特徴とするスルホキシド型硫黄分の分析方法。
【請求項2】
極性溶媒がプロトン性極性溶媒であることを特徴とする請求項1に記載のスルホキシド型硫黄分の分析方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate