説明

絶縁診断装置および絶縁診断方法

【課題】絶縁診断装置は、商用同期の高周波を部分放電と判断したり、広帯域外部ノイズ等には判断時間が長くかかるという課題があった。
【解決手段】部分放電を検出するための部分放電検出センサと接続し、部分放電検出センサからの検出信号を受信する受信部と、受信部の受信信号から、複数の診断対象周波数毎に信号レベルをサンプリングし、かつ、商用電圧ピーク時と判断した信号レベルと、商用電圧非同期と判断した信号レベルを診断対象周波数毎に比較することで、部分放電を判断する絶縁診断部とを備えて絶縁診断装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁機器や電力用トランスなどの電力用電気機器、または電力ケーブルの絶縁状態を監視する絶縁診断装置および絶縁診断方法に関し、特に、電気機器内部に発生する部分放電による電磁波を検出することにより絶縁診断を行う絶縁診断装置および絶縁診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁機器や電力用トランスなどの電力用電気機器においては、絶縁異常時に部分放電が発生し、この部分放電により二次的に電磁波が発生する。電気機器の絶縁破壊による重大事故を未然に防ぐために、部分放電の段階における電磁波を検出することにより、運転中の電気機器の内部に絶縁異常が発生しているか否かを診断する絶縁診断装置が提案されている。
【0003】
このような絶縁診断装置においては、部分放電により発生する電磁波は、部分放電検出アンテナにより検出される。また、部分放電検出アンテナは、電気機器内部からの電磁波だけではなく、他の電磁波も外部ノイズとして拾うため、この外部ノイズによる誤判定を排除する必要がある。
【0004】
この外部ノイズによる誤判定を排除するため、部分放電による電磁波と、外部ノイズとを分けて、部分放電を検出するために、部分放電検出アンテナと、外部ノイズのみを検出するノイズアンテナを有し、その2つのアンテナからの信号を差動演算することで、外部ノイズを除去し、この差動演算したデータから周期的ピーク点と、商用電圧の周期の1/4サイクル点を算出し比較することにより部分放電を検出する絶縁診断装置が開示されている(特許文献1および特許文献2)。
【0005】
また、部分放電検出アンテナと、外部ノイズ検出信号のスペクトラムの時間変化を追跡してノイズを判断し、部分放電を検出する絶縁診断装置が開示されている。この装置およびこの方法では、診断対象帯域の全帯域において、スペクトラムの時間変化を追跡しており、外部ノイズレベルを示す規定値を超えた周波数が検出された場合、ある周波数幅ずらして、その規定値以下になるまで追跡繰り返すことで、突発性の電磁波を判断する(特許文献3および特許文献4)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−249156号公報
【特許文献2】特開2001−249157号公報
【特許文献3】特開平7−333288号公報
【特許文献4】特許第3707161号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、差動演算したデータから周期的ピーク点と、商用電圧の周期の1/4サイクル点を算出し比較する方法では、フィルタ後の帯域内周波数を一括検波した信号の商用同期性により部分放電判定をしているため、商用周波数あるいはそのn倍の周波数で変調された単一周波数(高周波)でも部分放電の発生と判断してしまう。
【0008】
また、外部ノイズ検出信号のスペクトラムの時間変化を追跡する方法では、外部ノイズレベルを示す規定値を超えた周波数が検出された場合、ある周波数幅ずらして規定値以下になるまで追跡を繰り返すため、エンジンなどの内燃機関によるノイズや放電ノイズ、スパイクノイズなどの広帯域で長時間にわたり発生する電磁波に対しても、部分放電と判断し、さらに、その電磁波の広帯域にわたりスペクトラム解析を行うため、部分放電判定までに時間を要してしまう。
【0009】
さらに、上述したいずれの方法も、外部ノイズ検出用のノイズセンサと、部分放電用の部分放電センサをそれぞれ有するものであり、そのため、両センサの構造や、設置場所により受信帯域感度の相違、および、サンプリング周期の同期性の維持が困難等の信頼性の問題がある。
【0010】
また、2つのセンサが必要となると、センサ入力回路も2系統必要となり、信頼性欠如のための対処として、回路のさらなる2重化などが必要となり、その結果、絶縁診断装置が大きく、コスト的にも問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による絶縁診断装置は、部分放電を検出するための部分放電検出センサと接続し、部分放電検出センサからの検出信号を受信する受信部と、受信部の受信信号から、複数の診断対象周波数毎に信号レベルをサンプリングし、かつ、商用電圧ピーク時と判断した信号レベルと、商用電圧非同期と判断した信号レベルを診断対象周波数毎に比較することで、部分放電を判断する絶縁診断部と、を有する絶縁診断装置を提供する。
【0012】
上記商用電圧非同期の信号レベルは、商用電圧ピーク時から1/4サイクルずれた時の信号レベルであっても良い。また、上記絶縁診断部は、商用電圧非同期の信号レベルは、相対的に高い信号レベルの場合に、当信号レベルの診断対象周波数については、比較対象の周波数から除外しても良い。
【0013】
絶縁診断部の部分放電判断は、商用電圧ピーク時の信号レベルから商用電圧非同期の信号レベルを減算することで判断しても良い。
【0014】
本発明による絶縁診断方法は、部分放電を検出するための部分放電検出センサと接続し、かつ、部分放電検出センサからの検出信号を受信する受信部、および、絶縁診断部を有する絶縁診断装置における絶縁診断方法であって、絶縁診断部は、受信部の受信信号から、複数の診断対象周波数毎に信号レベルをサンプリングするステップと、商用電圧ピーク時と判断した信号レベルと、商用電圧非同期と判断した信号レベルを診断対象周波数毎に比較することで、部分放電を判断するステップと、を有する絶縁診断方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明による絶縁診断装置によれば、部分放電を検出するための部分放電検出センサと接続し、部分放電検出センサからの検出信号を受信する受信部と、受信部の受信信号から、複数の診断対象周波数毎に信号レベルをサンプリングし、かつ、商用電圧ピーク時と判断した信号レベルと、商用電圧非同期と判断した信号レベルを診断対象周波数毎に比較することで、部分放電を判断する絶縁診断部と、を有するようにしたので、診断対象周波数を、商用周波あるいはそのn倍の周波数以外から選択することで、商用電圧同期の高周波を分別できる。
【0016】
また、商用電圧非同期と判断した信号レベルは、商用電圧ピーク時と判断した信号レベルのサンプリング時から1/4サイクルずれた時の信号レベルとすることができるので、商用電圧ピーク時の信号レベルを判別し、その信号レベルと、1/4サイクル前の信号レベルを比較することで、絶縁診断が可能であるため、部分放電判定時間は極めて短い。
【0017】
さらに、本発明による絶縁診断装置によれば、接続される検出センサは1つであり、複数センサを有することによる、センサの構造や、設置場所により受信帯域感度の相違、および、サンプリング周期の同期性の維持が困難等の信頼性の問題は無く、センサ入力回路も2重化する必要は無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0019】
図1に、本発明の一実施形態による絶縁診断装置の機能構成図を示す。絶縁診断装置10は、入力アンプ回路20、A/D変換器12、CPU14を有し、部分放電用センサ1に接続される。以下にその各機能について説明する。
【0020】
部分放電センサ1は、部分放電により発生する物理現象を検出するためのセンサであり、電磁波センサ、振動センサ、電流センサ、超音波センサなどが利用できる。電磁波センサが部分放電センサ1として適用される場合、絶縁診断時には、電気機器のブッシング部や絶縁スペーサにように、電気機器を構成する密閉容器内部で生じた部分放電に伴い発生する電磁波が放射され易い場所に設置される。
【0021】
入力アンプ回路20は、部分放電センサ1からの検出信号を受信し、その検出信号を、CPU14からの制御信号にしたがった特定の周波数であり、かつ、A/D変換器12のための適切な信号レベル(電圧)のアナログ信号に変換して、出力する回路である。その入力アンプ回路20は、BPF(バンドパスフィルタ)21、プリアンプ22、PLL(位相同期回路)シンセサイザ23、発信器24、ミキサ25、中間周波フィルタ26、ログアンプ27から構成される。
【0022】
BPF21は、部分放電により検出された信号から特定の周波数帯域を通過させるフィルタ回路である。なお、本実施例においては、実験により、部分放電が確認し易い帯域として、300MHz〜800MHzを通過帯域としている。しかしながら、この帯域に特定するものではなく、通過帯域は、部分放電センサ1の設置条件等により、部分放電が確認し易い帯域を設定するのが好ましい。
【0023】
プリアンプ22は、BPF21を通過した信号を、ミキサ25の入力信号として適切な電圧に増幅する増幅器である。PLLシンセサイザ23は、CPU14から受信する制御信号にしたがって、発信器24からの周波数を可変して周波数信号fAを出力する回路である。ミキサ25は、プリアンプ22からの周波数fxの信号と、PLLシンセサイザ23からの周波数fAの信号を受信し、インピーダンス整合が乱れないように、それらを合成して1つの信号として出力する回路である。中間周波フィルタ26は、ミキサ25からの入力信号から中間周波数fBの信号成分を取り出すフィルタ回路である。ログアンプ27は、中間周波フィルタ26からの入力信号の電圧を、A/D変換器12への適切な電圧に出力する増幅器であり、例えば、プリアンプ22からの出力信号の電圧に相当する電圧のアナログ信号を出力する。
【0024】
このように、入力アンプ回路20は、部分放電センサ1からの検出信号を受信し、その検出信号からCPU14からの制御信号にしたがった特定の周波数fBであり、かつ、A/D変換器12のための電圧のアナログ信号を出力する。
【0025】
したがって、本発明による絶縁診断装置10は、特定周波数fBから、商用周波数あるいはそのn倍の周波数で変調された単一周波数(高周波)を部分放電判断から除外することにより、商用のn倍の周波数性により部分放電判定をすることは無い。
【0026】
A/D変換器12は、ログアンプ27から受信したアナログ信号を、デジタル信号に変換する回路である。CPU14は、特定のサンプリングタイミングにおける計測対象周波数fBの信号レベルを、A/D変換器12から取得するために、そのサンプリングタイミングで、周波数fBを示す制御信号を、PLLシンセサイザ23に出力する。CPU14は、A/D変換器12から上述のサンプリングタイミングにおける周波数fBの信号レベルを取得すると、その信号レベルを、周波数fBとサンプリング時間毎に、CPU14内のキャッシュメモリ、または、図示しない絶縁診断装置10内のメモリに記憶する。
【0027】
電気機器の部分放電信号は、絶縁劣化、又は異物混入により発生し、商用電圧位相のピーク付近で、サイクルごとに、或いは間欠的に発生する。したがって、絶縁診断対象周波数帯域の設定周波数毎に1サイクルずつデータの取得を行えば、データのサンプリング開始時点が商用周波数のゼロクロスと一致していなくても、設定周波数をパラメータとした場合の各データは、1サイクル毎に商用電圧位相に対して同じ位置(同一位相)となる。したがって、上記サンプリングタイミングは、設定周波数毎に1サイクルずつ(例えば、50Hzの場合、1サイクル100ポイント=200μs間隔でデータサンプリングを行う)データの取得を行うことで、同じ電圧位相でのサンプリングデータを得る。すなわち、診断対象周波数帯域の1つの設定周波数に対して、1サイクル分(例えば100ポイント)連続でデータを取得し、次にデータサンプリング時間以内に設定周波数をCPU14の制御信号により変更し、引き続いて1サイクル分連続でデータ取得をする。このとき、サンプリング時間以内に周波数設定などが間に合わない場合は、商用1サイクルの間をあけてその間に周波数設定を行い、次の1サイクルでデータ取得を行っても良い。
【0028】
CPU14は、上述の設定周波数をパラメータとする受信データ群(設定周波数に対してそれぞれデータサンプリングポイント分の受信データ配列)を、データサンプリングポイントをパラメータとする周波数データの配列(商用電圧に対し同一位相となるサンプリングポイントにおける周波数に対する受信レベル)に並べ替える。次に、全ての或いは複数のデータサンプリングタイミングをパラメータとした周波数データの配列に対し、一定レベル以上の信号が同一周波数付近に定常的に存在する場合は、商用に同期しない通信など外部ノイズとして判断し、部分放電判定においてこの周波数を除外する。また、一定レベル以上の信号がランダムに存在している周波数も突発的な商用に非同期の外部ノイズが発生しているものと判断し、部分放電判定はおいてこの周波数も除外する。
【0029】
次にデータサンプリングポイントをパラメータとする周波数データの配列において、上述のように外部ノイズと判断した周波数以外の周波数におけるデータの全て或いは一定数以上が、一定レベル以上である場合には、このデータ配列は、商用電圧周波に同期しているものと判断し、部分放電発生の疑いありと判断する。この商用電圧周波に同期していると判断したデータ配列において商用電圧同期と判断するために用いた一定レベル以上のデータの平均からバックグラウンドノイズ(以下、「BGN」と言う。)を減算した値が規定レベルを超えている場合に部分放電発生と判定する。
【0030】
上述のように商用に同期しているものと判断し、部分放電と判断したデータ配列は、商用電圧位相のピーク付近で発生していると仮定し、この商用電圧周波に同期していると判断した配列に対して1/4サイクルずれたデータ配列が商用電圧位相のゼロクロス点付近で発生したと考えられる。したがって、BGNは、この商用電圧周波に同期していると判断した配列に対して1/4サイクルずれたデータ配列から算出する。具体的には、1/4サイクルずれたデータ配列において、外部ノイズと判断した周波数以外の周波数におけるデータの平均値や最小値、最大値をBGNとする。
【0031】
なお、このとき算出したBGNレベルの値を参考に判定結果が有効であるか否かを判断しても良い。例えば、BGNレベルがある値より大きい場合は「過大ノイズのため判定結果は参考値である」などと判断しても良い。
【0032】
これにより、部分放電と同じ周波数に生じる外部ノイズの影響を受けずに、部分放電を判別することが可能である。したがって、従来技術では、外部ノイズ用センサと、部分放電ノイズ用センサと2つ有していたが、本発明による絶縁診断装置10は、1つの部分放電センサにより、部分放電を判別することが可能であり、2センサ方式による信頼性の問題、アンプ回路の2重化、装置の複雑化などの問題を解決している。
【0033】
上述したように、一定以上の信号レベルを有する周波数データを検出した場合、そのデータは、外部ノイズではなく、商用電圧ピーク時の部分放電と判断できるため、その検出時間から1/4サイクル(50Hzの場合、5ms)前はゼロクロス時と推定できる。そのため、商用電圧波形との同期化は、一定以上の信号レベルを有する周波数データ検出時をピーク時と判断することにより可能であり、そのピーク時判断後、1/4サイクル前後の検出データの取得により、上述した部分放電の判断を実行可能である。したがって、本発明による絶縁診断装置10は、予め決められた設定周波数のデータのサンプリング後速やかに部分放電判断処理を開始できる。
【0034】
そのため、従来技術において、エンジンなどの内燃機関などの広帯域で、かつ、発生時間の長い電磁波は、周波数をずらして検出を繰り返したため、それに伴い長い検出時間を要することになるが、本発明による絶縁診断装置10は、予め決められた設定周波数毎に検出したデータを1/4サイクル前後のデータと比較することで部分放電判断を行うことができるため、部分放電判定時間は極めて短い。
【0035】
上述したCPU14は、DSP(Digital Signal Processor)を用いることが可能である。DSPは、音声や画像などの処理に特化したマイクロプロセッサであり、一般的なCPUと比べて低コストであり、かつ、複雑なデジタル処理を効率よく行う機能を有するため、本発明によるCPU14に適している。また、CPU14は、RISCマイコン等の高速CPUも適用可能である。
【0036】
図2を用いて、診断対象周波数毎に検出されるサンプリングデータの計時変化を説明する。データサンプリング処理は、BPF21で設定された診断周波数帯域にわたり行う。たとえば、診断対象周波数帯域は、300MHz〜800MHzとなる。このとき、診断対象周波数fxは、周波数分割数をmとすると、f1=300MHz、fm=800MHzと定義される。なお、このとき、商用周波数に同期したノイズを、部分放電と判断しないために、診断対象周波数fxから、商用周波数のn倍の周波数は取り除かれる。
【0037】
図2(A)は、商用電圧波形で、(B)は、商用電圧波形に同期してピーク区間で大きな信号レベルを示す、周波数faにおける検出波形で、(C)は、商用電圧波形に非同期で大きな信号レベルを示す周波数fbにおける検出波形で、(D)は、商用電圧波形に非同期で小さな信号レベルを示す周波数fcにおける検出波形である。なお、診断対象周波数fa、fb、fcは、いずれも診断対象周波数fxに含まれる。
【0038】
(A)に示される商用電圧波形は、50Hzの周波数波形であり、1サイクル20msである。図2においては、例示のために、20msを時間t1〜t80で区切り、ピーク区間1が時間t18〜t22で示され、ゼロクロス区間がt38〜t42で示され、ピーク区間2がt58〜t62で示される。
【0039】
図2(B)に示す周波数faにおける検出波形は、ピーク区間1とピーク区間2で大きな信号レベルを示すが、ゼロクロス区間では、大きな信号レベルを示さないため、商用周波数に同期した部分放電と判断可能である。
【0040】
また、図2(C)に示す周波数fbにおける検出波形は、ピーク区間1及び2、ゼロクロス区間でも同じく高い信号レベルを示すが、商用周波数に非同期のため、高い信号レベルを示す外部ノイズと判断可能である。
【0041】
また、図2(D)に示す周波数fcにおける検出波形は、ピーク区間1及び2、ゼロクロス区間でも同じく低い信号レベルを示し、商用周波数に非同期のため、低い信号レベルを示す外部ノイズと判断可能である。
【0042】
また、検出データの信号レベルは、サンプリング時間と、周波数毎に検出されるため、CPU14内のキャッシュメモリに、データ配列として記憶しても良い。例えば、キャッシュメモリのデータ配列のアドレスを、mを診断対象周波数帯域の周波数分割数、nを総サンプリング時間とするデータ配列Dとして定義可能である。例えば、周波数f1のサンプリング時間t1〜tnの検出データが格納されるデータ配列のアドレスは、D11〜D1nのように定義され、周波数fmのサンプリング時間t1〜tnの検出データが格納されるデータ配列のアドレスは、Dm1〜Dmnのように、定義することができる。また、この信号レベルは、図2に示すように、ピーク区間やゼロクロス区間で複数検出されたサンプルデータの平均値や、ある標準偏差内のサンプルデータの平均値等、統計的手法により信頼性を高めた信号レベルとすることもできる。
【0043】
また、検出データは、商用電圧位相に対応した信号レベルとなるため、商用電圧1サイクル毎にデータを上記データ配列Dに、旧データの削除と、新規データの記録を行っても良い。
【0044】
図3を用いて、本発明による絶縁診断装置で検出された診断対象周波数毎の信号レベルを説明する。図3(A)は、1サイクル区間のある時点(商用における同一位相点)における信号レベルと周波数を示し、(B)は1サイクル区間の(A)に示すある時点と異なる時点における信号レベルと周波数を示し、(C)は1サイクル区間のある時点における信号レベルと周波数を示す。なお、本図は、例示のため診断対象周波数の数は少ないが、実際は、30以上の周波数を診断対象としても良い。
【0045】
図3(A)において、診断対象周波数fbは、無効周波数判断用の閾値である信号レベルL1より高い信号レベルを示す。ここで信号レベルL1は、商用電圧に非同期で、かつ、部分放電に該当しない低信号レベルの設定周波数を、部分放電判断において無効とするために設定する閾値である。この信号レベルL1により、部分放電の判断対象としない周波数を決定することができる。これにより、本発明による絶縁診断装置は、非同期信号の高信号レベル周波数により、部分放電と誤判断することは無い。
【0046】
図3(B)において、診断対象周波数feは、突発性の高信号レベルの外部ノイズである。診断対象周波数feは、(A)においては検出されないため突発的に生じる外部ノイズである。このような外部ノイズも、L1以上の高信号レベルを示すため、部分放電の判断対象としない周波数とすることができる。一方、周波数fbは、定常波であるため(B)においても、検出される。
【0047】
図3(C)に示すように、部分放電が生ずると、周波数fb、周波数fe以外の周波数も高い信号レベルを示す。部分放電判断用の商用周波数同期周波数を判断するための閾値である信号レベルL2を設定し、このL2を超える周波数信号の個数等で部分放電を判断する。したがって、周波数feは、図3(B)に表われるため、突発的であるため、部分放電周波数から除外される。周波数fbは、図3(A)、(B)及び(C)に定常的に出現するため、定常波とみなされ、部分放電判断対象の周波数から除外され、その他の周波数は、図3(C)においてのみ信号レベルL2を越えるため商用周波に同期する電磁波とみなされ部分放電判断対象の周波数となる。なお、信号レベルL2は、信号レベルL1を超えた周波数データの中から、定常的又は突発的外部ノイズではない商用周波数同期信号レベルを選出するための信号レベルである。したがって、L2は少なくともL1と同じか(その場合は、L1又はL2のどちらかの信号レベルのみが必要となる)、L1以上に設定する必要がある。
【0048】
図4は、本発明による絶縁診断装置の無効周波数判断処理のフローチャートである。この無効周波数判断処理は、部分放電判断を行う場合に、判断対象としない周波数を決定するためのである。そのため、基本的に部分放電判断処理中またはその前処理として行うものであり、部分放電と判断した時点から1/4サイクルずれた時点で行っても良い。
【0049】
ステップS101では、診断対象の最小周波数から順に開始し、次にステップS102に進む。
【0050】
ステップS102では、特定の診断対象周波数fxについて、1サイクル区間のDデータ配列を検索し、周波数fxの時間毎の信号レベルを取得して、ステップS103に進む。
【0051】
ステップS103では、周波数fxの信号レベルが、無効周波数判断用の閾値L1以上かどうか判断する。L1以上の場合は、ステップS104に進み、L1未満の場合は、ステップS105に進む。
【0052】
ステップS104では、ステップS103で判断した周波数fxを、部分放電判断においては無効周波数データとし、ステップS106に進む。
【0053】
ステップS105では、ステップS103で判断した周波数fxを、部分放電判断においては有効周波数データとし、ステップS106に進む。
【0054】
ステップS106では、周波数fxは、診断対象周波数の中で最大周波数fmか否かを判断する。周波数fxが最大周波数fmの場合は、処理を終了し、最大周波数fmではない場合は、ステップS102に戻る。
【0055】
このようにして、無効周波数判断処理において無効周波数と判断された周波数は、定常波もしくは突発性の電磁波として、商用電圧に非同期に存在するため、無効周波数は、次に述べる部分放電判断では、判断対象から除外される。
【0056】
図5は、本発明による絶縁診断装置の部分放電判断処理のフローチャートである。この処理は、常時行っても良いし、1時間に1度、あるいは、人間による絶縁診断時など、間欠的に行っても良い。
【0057】
ステップS201では、1サイクル区間に相当するある時間間隔内に、部分放電判断用の閾値である信号レベルL2以上の周波数データがあるか否かを、データ配列Dを検索して判断し、その数を数える。なお、この判断処理においては、外部ノイズを部分放電と誤判断しないために、図4で説明された無効周波数判断処理において、無効判断された周波数については、L2以上の周波数データとして数えない。そして、そのL2以上のデータ数が、1サイクル間隔内にある閾値以上ある場合は、ステップS202に進み、その閾値以下の場合はステップS201に戻り、同じ処理を繰り返す。
【0058】
ステップS202では、ステップS201で検索されたL2以上の周波数データの検出時間から、1/4サイクル前のデータを取得し、L2以上の周波数データの信号レベルから、1/4サイクル前の相当する周波数データの信号レベルをバックグラウンドノイズ(BGN)として減算する。このバックグラウンドノイズの信号レベルは、その周波数データの平均値、最小値、最大値又はその他の統計処理を加えたデータとすることもできる。
【0059】
ステップS203では、減算後の数値の周波数平均が、ある閾値を越える場合は、部分放電発生と判断し、ステップS204に進み、その閾値を超えない場合は、ステップS201に戻る。
【0060】
ステップS204では、部分放電発生が判断されるため、必要な異常警告を出力したり、異常処理を実施したりして、部分放電判断処理を終了する。この異常処理において、上述のバックグラウンドノイズがある値より大きい場合は、「過大ノイズのため判定結果は、参考値である」などと、絶縁診断装置に接続された図示しない表示手段に表示しても良い。
【0061】
また、本発明による絶縁診断装置10の健全性の確認方法としては、例えば、定期的にあらかじめ設定したテレビ、ラジオなどの周波数を受信し、その受信強度を確認しても良い。この放送波周波数は、アナログ放送波であってもデジタル放送波であっても良い。
【0062】
さらに、本発明による絶縁診断装置10の入力アンプ回路20のバンドパスフィルタ処理、診断対象周波数fBのフィルタ処理などは、CPU14でも代替的に実行可能である。例えば、その場合、本発明による絶縁診断装置10は、センサ1からの検出信号をプリアンプ22で増幅し、そしてそのアナログ信号を、A/D変換器12でデジタル化して、CPU14に送信し、CPU14で、バンドパスフィルタ処理、診断対象周波数fBのフィルタ処理を行うこともできる。
【0063】
以上説明したように、本発明によれば、診断対象周波数を選択することで、商用同期した電磁波を分別でき、また、診断対象周波数毎に信号レベルを検出し、1/4サイクル前の信号レベルと比較し、部分放電を判断することで、外部ノイズを除外して部分放電を判別可能であり、さらに、リアルタイムに部分放電判断処理を実行することが可能である。
【0064】
このように、絶縁診断装置のような電気設備に広範囲に適用される装置に、本発明のような高い部分放電判断性能と判断速度の向上をもたらす装置が適用されれば、電力産業界において多大な利益をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態による絶縁診断装置の機能構成図である。
【図2】本発明による絶縁診断装置で検出されたサンプリングデータの時間変化を示す図である。
【図3】本発明による絶縁診断装置で検出された診断対象周波数毎の信号レベルを示す図である。
【図4】本発明による絶縁診断装置の無効周波数判断処理のフローチャートである。
【図5】本発明による絶縁診断装置の部分放電判断処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0066】
1 センサ
10 絶縁診断装置
12 A/D変換器
14 CPU
20 入力アンプ回路
21 BPF
22 プリアンプ
23 PLLシンセサイザ
24 発信器
25 ミキサ
26 中間周波フィルタ
27 ログアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分放電を検出するための部分放電検出センサと接続し、該部分放電検出センサからの検出信号を受信する受信部と、
前記受信部の受信信号から、複数の診断対象周波数毎に信号レベルをサンプリングし、かつ、商用電圧ピーク時と判断した該信号レベルと、商用電圧非同期と判断した該信号レベルを該診断対象周波数毎に比較することで、部分放電を判断する絶縁診断部と、
を有することを特徴とする絶縁診断装置。
【請求項2】
前記絶縁診断部の前記比較は、前記商用電圧に非同期と判断される、かつ、他の前記信号レベルより相対的に高い前記信号レベルが複数のサンプリングタイムにおいて定常的又は突発的にある場合、当該信号レベルの前記診断対象周波数については、前記診断対象周波数としない請求項1に記載の絶縁診断装置。
【請求項3】
前記信号レベルを前記商用電圧ピーク時とする前記判断は、他の前記信号レベルより相対的に高い、かつ、複数のサンプリングタイムにおいて所定回数存在する信号レベルを、前記商用電圧ピーク時の信号レベルとする判断である請求項1又は2に記載の絶縁診断装置。
【請求項4】
前記絶縁診断部の前記比較は、商用電圧ピーク時と判断した前記信号レベルから前記商用電圧非同期と判断した前記信号レベルを減算した値に基づいて行う請求項1〜3のいずれか一項に記載の絶縁診断装置。
【請求項5】
前記商用電圧非同期と判断した前記信号レベルは、前記商用電圧ピーク時と判断した前記信号レベルのサンプリング時から1/4サイクルずれた時の信号レベルである請求項1〜4のいずれか一項に記載の絶縁診断装置。
【請求項6】
部分放電を検出するための部分放電検出センサと接続し、かつ、該部分放電検出センサからの検出信号を受信する受信部、および、絶縁診断部を有する絶縁診断装置における絶縁診断方法であって、
前記絶縁診断部は、前記受信部の受信信号から、複数の診断対象周波数毎に信号レベルをサンプリングするステップと、
前記絶縁診断部は、商用電圧ピーク時と判断した前記信号レベルと、商用電圧非同期と判断した前記信号レベルを前記診断対象周波数毎に比較することで、部分放電を判断するステップと、
を有することを特徴とする絶縁診断方法。
【請求項7】
部分放電を検出するための部分放電検出センサに接続されたコンピュータで実行する絶縁診断プログラムであって、
前記部分放電検出センサの検出信号から、複数の診断対象周波数毎に信号レベルをサンプリングするステップと、
商用電圧ピーク時と判断した前記信号レベルと、商用電圧非同期と判断した前記信号レベルを前記診断対象周波数毎に比較することで、部分放電を判断するステップと、
を、前記コンピュータに実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−45977(P2008−45977A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221205(P2006−221205)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】