説明

絶縁電線およびワイヤーハーネス

【課題】繰り返し屈曲が加えられても素線の断線を抑制することができる絶縁電線を提供すること。また、他の課題は、この絶縁電線を用いたワイヤーハーネスを提供すること。
【解決手段】絶縁電線は、複数本の素線を一括に撚り合わせた一括撚り線、または、複数本の素線を撚り合わせた子撚り線をさらに複数本、全子撚り線の撚り方向と同方向に撚り合わせた集合撚り線よりなる導体と、絶縁体とから構成される。そして、この絶縁電線をワイヤーハーネスの電線束中に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、導体の外周に絶縁体が設けられた絶縁電線は、自動車などの車両や、電気・電子機器などの配線に幅広く用いられている。この導体には、複数本の金属素線が撚り合わされた撚り線が用いられる場合がある。そして、例えば、この撚り線を有する絶縁電線を電力線として用いる場合、電流量などに応じて、素線の本数が多くなることがある。このように素線の本数が多い場合、従来、予め所定の本数の素線を撚った子撚り線をさらに集合して撚り合わせた集合撚り線を導体として用いることがある。このとき、導体の形状を整いやすくするために、子撚り線の撚り方向と集合撚り線の撚り方向とをそれぞれ逆にするのが一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数本の素線を撚り合わせた子撚り線を、子撚り線の撚り方向と逆方向に複層撚り合わせてなる絶縁電線用の導体が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−249926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、自動車の車体とドアとの間など、繰り返し屈曲が加わる場所に絶縁電線が配線されることがある。しかしながら、特許文献1の絶縁電線では、絶縁電線に繰り返し屈曲が加わると、素線同士で応力干渉し合い、素線に金属疲労が生じて断線し易くなるといった問題があった。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、繰り返し屈曲が加えられても素線の断線を抑制することができる絶縁電線を提供することにある。また、他の課題は、この絶縁電線を用いたワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る絶縁電線は、導体と、上記導体の外周に被覆された絶縁体とを有する絶縁電線であって、上記導体は複数本の素線を一括に撚り合わせた一括撚り線、または、複数本の素線を撚り合わせた子撚り線をさらに複数本、全子撚り線の撚り方向と同方向に撚り合わせた集合撚り線よりなることを要旨とするものである。
【0008】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を有しているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る絶縁電線によれば、複数本の素線を一括に撚り合わせた一括撚り線、または、複数本の素線を撚り合わせた子撚り線をさらに複数本、全子撚り線の撚り方向と同方向に撚り合わせた集合撚り線よりなる導体を有している。そのため、屈曲が加わった際に、素線同士や子撚り線同士でお互いの動きを抑制し合うことが少なくなるため、素線同士や子撚り線同士の応力干渉が抑えられ、金属疲労を低減することができる。したがって、素線の断線を抑制することができ、耐屈曲性に優れる。
【0010】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を電線束中に含んでいるので、耐屈曲性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
本発明に係る絶縁電線は、導体と、この導体の外周に被覆された絶縁体とを有している。そして、導体は、複数本の素線をすべて同じ方向に撚り合わされてなる。
【0013】
図1は本発明の一実施形態を示した図であり、絶縁電線を長手方向に対して垂直に切断したときの断面模式図である。絶縁電線10は、複数本の素線12を右撚り(図中矢印方向)に撚り合わせた子撚り線14をさらに複数本撚り合わせて形成された集合撚り線16からなる導体を有している。また、集合撚り線16は、全ての子撚り線14の撚り方向と同方向の右撚りに撚り合わされている。そしてこの導体の外周に、絶縁体18が被覆されている。
【0014】
このように、全ての子撚り線の撚り方向を揃え、さらに子撚り線の撚り方向と集合撚り線の撚り方向を揃えることにより、絶縁電線10が屈曲された際に、素線12同士や子撚り線14同士でお互いの動きを抑制し合うことが少なくなるため、金属疲労を抑えることができる。
【0015】
また、図2は、本発明の他の実施形態を示した図である。複数本の素線12を右撚りに撚り合わせた子撚り線14を、複数本右撚りして集合撚り線16を形成し、さらにこの集合撚り線16を複数本右撚りしてなる導体を有している。このように、集合撚り線をさらに複数本、子撚り線および集合撚り線と同じ撚り方向に撚り合わせることにより、素線本数が多く径の太い絶縁電線においても耐屈曲性を向上させることができる。
【0016】
さらに、導体は複数本の素線を一括に撚り合わせた一括撚り線(図示しない)からなるものであっても良い。導体に一括撚り線を用いれば、導体を容易に製造することができるとともに、耐屈曲性により優れる。
【0017】
導体の形状は、要求される導体径の大きさなどに応じて適宜定めることができる。
【0018】
導体に用いられる素線の材質としては、例えば、軟銅、錫メッキ軟銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などを例示することができるが、特にこれに限定されない。また、導体は、素線同士の応力干渉を抑制する観点より、同じ剛性を有する1種の素線から撚られていることが望ましい。
【0019】
また、素線径、素線本数、撚りピッチは、特に限定されるものではなく、要求される導体の断面積の大きさなどに応じて適宜変更することができる。
【0020】
上記導体の外周に設けられる絶縁体の材料としては、例えば、ポリ塩化ビニルなどの塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレンーエチレン共重合体などのオレフィン系樹脂、エチレン−プロピレンゴムやブタジエンゴムなどの樹脂に、金属水和物(水酸化マグネシウムなど)などのノンハロゲン系難燃剤や各種添加剤を添加してなる組成物を例示することができるが、特にこれに限定されない。
【0021】
また、絶縁体の厚さは、特に限定されるものではなく、導体の断面積の大きさなどを考慮して、適宜定めることができる。
【0022】
次に、絶縁電線の製造方法の一例について説明する。
【0023】
まず、導体として用いる一括撚り線または、集合撚り線を準備する。一括撚り線の場合、例えば、素線が巻収されたボビンを所定の個数用意し、送出機構にセットする。そして、各ボビンの回転と移動により、素線をボビンから繰り出しながら撚り合わせていき、一括撚り線を形成することができる。形成した一括撚り線の外層に更に同方向に素線を必要数撚って、太い一括撚り線を形成しても良い。
【0024】
集合撚り線の場合は、例えば、まず素線が巻収されたボビンを所定個数用意して送出機構にセットし、各ボビンの回転と移動により、素線をボビンから繰り出しながら撚り合わせていき、子撚り線を形成し、これをボビンに巻収する。そして、この子撚り線が巻収されたボビンをさらに所定個数用意して送出機構にセットし、各ボビンの回転と移動により、子撚り線をボビンから繰り出しながら撚り合わせていき、集合撚り線を形成することができる。
【0025】
そして、一括撚り線または集合撚り線よりなる導体の外周に、押出成形機などを用いて絶縁体を押出被覆する。また、この絶縁体の外周には、必要に応じて、編組や金属箔などのシールドを設けても良い。以上の工程により、絶縁電線を製造することができる。
【0026】
次に、本発明に係るワイヤーハーネスについて説明する。
【0027】
本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を含んでなるものである。ワイヤーハーネスを構成する絶縁電線は、上記絶縁電線のみが複数本組み合わされたものでも良いし、上記絶縁電線と、本発明によらない絶縁電線とが組み合わされたものでも良い。電線束に含まれる各電線の本数は、任意に定めることができ、特に限定されるものではない。
【0028】
ワイヤーハーネス保護材は、複数本の絶縁電線が束ねられた電線束の外周を覆い、内部の電線束を外部環境などから保護する役割を主に有するものである。よって、複数の絶縁電線をひとまとまりに束ねて電線束とするものであれば良く、テープ状、チューブ状またはシート状などの種々の形状からなるものを適用できる。このとき、テープ状に形成された基材の少なくとも一方の面に粘着剤が塗布されたものや、チューブ状、シート状などに形成された基材を有するものなどを、用途に応じて適宜選択して用いることができる。このワイヤーハーネス保護材を構成する基材は、特に限定されるものではなく、上記に挙げた絶縁体の材料と同様のものを用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0030】
(実施例)
本実施例では、素線に径0.08mmの銅合金を用いた。まず、素線48本を右撚りして子撚り線を形成した後、さらにこの子撚り線19本を右撚りして集合撚り線を形成し、これを導体とした。そして、この導体の外周に、絶縁体を0.8mm被覆した。さらに、この絶縁体の外周を、径0.14mmの銅合金素線を打ち数24本、持ち数6本、ピッチ20mmで構成された編組で覆い、この外周に絶縁体を0.8mm被覆し、外径7.5mmの絶縁電線を製造した。
【0031】
(比較例)
素線に径0.08mmの銅合金を用いた。そして、素線を20本左撚りして子撚り線を形成した後、この子撚り線を7本右撚りして集合撚り線を形成し、さらにこの集合撚り線を7本右撚りしたものを導体とした。そして、この導体の外周に、絶縁体を0.8mm被覆した。さらに、この絶縁体の外周を、径0.14mmの銅合金素線を打ち数24本、持ち数6本、ピッチ20mmで構成された編組で覆い、この外周に絶縁体を0.8mm被覆し、外径7.5mmの絶縁電線を製造した。
【0032】
上述のようにして製造した実施例および比較例の絶縁電線について、屈曲試験を行い、両者を相対比較した。
【0033】
(屈曲試験)
屈曲試験は、所定の長さの絶縁電線を真っ直ぐに伸ばした状態から、一方向へ曲げ半径30mmまで曲げ、これを繰り返し、導体の素線が一本でも断線したときの回数を測定し評価した。
【0034】
屈曲試験の結果、比較例では40万回で導体の素線が断線したのに対し、実施例では250万回屈曲させても素線の断線はみられず、耐屈曲性を大幅に向上させることができることを確認できた。
【0035】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る絶縁電線は、自動車などの車両用の電力線に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る絶縁電線を表す断面模式図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る絶縁電線を表す断面模式図である。
【符号の説明】
【0038】
10 絶縁電線
12 素線
14 子撚り線
16 集合撚り線
18 絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周に被覆された絶縁体とを有する絶縁電線であって、前記導体は複数本の素線を一括に撚り合わせた一括撚り線、または、複数本の素線を撚り合わせた子撚り線をさらに複数本、全子撚り線の撚り方向と同方向に撚り合わせた集合撚り線よりなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁電線を含むことを特徴とするワイヤーハーネス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−129405(P2010−129405A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303469(P2008−303469)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】