説明

絶縁電線用撚線導体

【課題】屈曲特性の悪化をもたらすことなく、断面形状が円形に近い絶縁電線用撚線導体を提供する。
【解決手段】中心素線、該中心素線の周囲に配置された複数の素線から構成された内層、及び、該内層の周囲に配置された複数の素線から構成された外層から構成された絶縁電線用撚線導体において、前記内層が、前記中心素線の太さと同じかあるいは前記中心素線の太さよりも細い7本以上の第2の素線から構成され、該内層の第2の素線が、それぞれ前記中心素線に接し、かつ、該隣り合う該内層の第2の素線同士が互いに接している絶縁電線用撚線導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線用撚線導体に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線用撚線導体は、同径の心線を7本あるいは19本撚り合わせる形状が一般的であり、そのために導体全体の断面は概ね六角形(図4に心線11、19本からなる導体を備えた被覆電線のモデル断面図を示す)となっている。しかしながら、このような略六角形断面の導体に対して、被覆層12の外周形状は、配線が容易で、かつ、品質特性が安定するために真円形状であることが望まれている。このために、被覆層には、耐久的な絶縁性能を得るのに必要な部分(図4にハッチングを施して示した部分)以外の厚肉部分が形成され、この圧肉部分による絶縁電線の重量増加が生じ、自動車用電線で必須とされる電線の軽量化を阻むとともに、絶縁材料の無駄を生じる高コスト要因となっていた。
【0003】
このような欠点を改良するために特開2007−317477公報(特許文献1)では、図5にその断面をモデル的に示したように、7本の中心素線13からなる内層部の周囲に、中心素線13よりも太い素線(太径素線14)、及び、中心素線13よりも細い素線(細径素線15)の直径の異なる3種類の素線を用いて、撚線導体の断面がほぼ円形になる技術が提案されている。
【0004】
しかしながら、技術では中心素線13よりも太い太径素線14が外層に配されているために特に自動車用電線で屈曲される部位などに配索される場合に屈曲特性が低下してしまうと云う欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−317477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、屈曲特性の悪化をもたらすことなく、断面形状が円形に近い絶縁電線用撚線導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の絶縁電線用撚線導体は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、中心素線、該中心素線の周囲に配置された複数の素線から構成された内層、及び、該内層の周囲に配置された複数の素線から構成された外層から構成された絶縁電線用撚線導体において、前記内層が、前記中心素線の太さと同じかあるいは前記中心素線の太さよりも細い7本以上の第2の素線から構成され、該内層の第2の素線が、それぞれ前記中心素線に接し、かつ、該隣り合う該内層の第2の素線同士が互いに接している絶縁電線用撚線導体である。
【0008】
また、本発明の絶縁電線用撚線導体は請求項2に記載の通り、請求項1に記載の絶縁電線用撚線導体において、前記内層の第2の素線と同数本の第2の素線が、それぞれ前記内層の隣り合う2本の第2の素線に接して前記外層内に配置されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の絶縁電線用撚線導体は請求項3に記載の通り、請求項2に記載の絶縁電線用撚線導体において、前記内層の第2の素線全てに外接する円と前記外層の第2の素線全てに外接する円とに接する第3の素線が、前記外層の隣り合う2本の第2の素線の間に配置されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の絶縁電線用撚線導体は請求項4に記載の通り、請求項1ないし請求項3に記載の絶縁電線用撚線導体において、前記内層の素線と前記外層の素線とが同方向に撚られていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の絶縁電線用撚線導体は請求項5に記載の通り、請求項1ないし請求項4に記載の絶縁電線用撚線導体において、前記第2の素線及び前記第3の素線がともに、前記中心素線よりも細いことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の絶縁電線用撚線導体は請求項6に記載の通り、請求項1ないし請求項5に記載の絶縁電線用撚線導体において、前記外層の第2の素線の数と前記外層の第3の素線の数がともに、前記内層の第2の素線の数と等しいことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の絶縁電線用撚線導体は請求項7に記載の通り、請求項1ないし請求項6に記載の絶縁電線用撚線導体において、前記外層を構成する第2の素線と第3の素線との断面積の和が、前記絶縁電線用撚線導体全体の断面積の50%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の絶縁電線用撚線導体によれば、屈曲特性を低下させることなく、断面形状が円形に近い絶縁電線用撚線導体が得られるために、絶縁層の厚さむらがなく、原料に無駄がなく、経済的で、軽量で、かつ、容量に比して細径の絶縁電線が得られ、自動車用電線分野にも極めて好適に用いることができる被覆電線を得ることができる。
【0015】
また、請求項2に係る絶縁電線用撚線導体によれば、撚線導体の外径を極力小さくでき、かつ、より崩れが起きないようにすることができる。
【0016】
また、請求項3係る絶縁電線用撚線導体によれば、断面全体を概ね円形に保ちながら、素線間の空隙をより少なくすることとできるので、絶縁層の厚さむらをより少なくすることができ、容量に比してより細径の絶縁電線とすることが可能となる。
【0017】
また、請求項4に係る絶縁電線用撚線導体によれば、素線同士の接触が安定し、かつ、素線間の空隙が少なくなるために最大外径も極力小さくすることができる。また、撚り崩れによる形状の不安定化がなくなるために、安定した形状の製品を製造することができる。
【0018】
また、請求項5に係る絶縁電線用撚線導体によれば、耐屈曲性に特に優れた絶縁電線用撚線導体を得ることができる。
【0019】
また、請求項6に係る絶縁電線用撚線導体によれば、内層の素線間に不可避的に生じる間隙に素線を入り込ませることができるので、容量を効果的に向上させることができ、あるいは、外径を細くすることができる。
【0020】
また、請求項7の絶縁電線用撚線導体によれば圧着端子との接触素線本数が増え、接続信頼性が向上する。
【0021】
すなわち、接触抵抗を小さくするための要点は、いかに電気の流れをスムーズにするかである。圧着端子に接触する素線本数が多ければ、電気の流れはスムーズになるが、屈曲性能を向上するために素線本数を増やしていくと、従来に係る技術であると最外層に配置される素線本数は少なくなってしまう。しかし、本発明に係る絶縁電線用撚線導体によれば上述のように圧着端子との接触素線本数が増え、接続信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明に係る絶縁電線用撚線導体Aの断面を示したモデル図である。
【図2】図2は絶縁電線用撚線導体Aの各素線の太さ、配置を説明するための説明図である。
【図3】図3は本発明に係る他の絶縁電線用撚線導体の例を示すモデル断面図である。
【図4】図4は従来技術に係る絶縁電線の例を示すモデル図である。
【図5】図5は従来技術に係る絶縁電線用撚線導体の例を示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の絶縁電線用撚線導体は、上記のように、中心素線、該中心素線よりも細い第2の素線、及び、該第2の素線よりも細い第3の素線の3種類の太さの素線により構成され、前記中心素線の周囲に前記第2の素線7本以上が、それぞれ、該中心素線に接しかつ隣り合う該第2の素線同士が互いに接して構成された内層と、前記内層の周囲に前記第2の素線と前記第3の素線とが交互に配置されて構成された外層と、が形成されており、前記外層の第2の素線が、それぞれ、前記内層の互いに隣り合う2つの第2の素線に接して配置され、かつ、前記外層の第3の素線が、前記内層の第2の素線全てに外接する円と前記外層の第2の素線全てに外接する円とに接して配置されていることを特徴とする絶縁電線用撚線導体である。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の絶縁電線用撚線導体の実施例について図面を用いて具体的に説明する。
【0025】
図1は本発明に係る絶縁電線用撚線導体Aのモデル的に示した断面図である。中央に中心素線1があって、その周囲を7本の第2の素線2aが、それぞれ、中心素線1に接し、かつ、隣り合う第2の素線2a同士が互いに接して内層4が形成されている。
【0026】
そして、これら7本の第2の素線2aから構成された内層4の周囲に、第2の素線2b(内層4を構成する第2の素線2aと同じもの)と第3の素線3とが交互に配置されて構成された外層5が形成されている。
【0027】
この外層5の第2の素線2bは内層の互いに隣り合う第二素線2aに接している。この構成により外層5中の第2の素線2bは内層4の第2の素線2aの数と等しい本数存在し、この例では7本となっている。
【0028】
さらに、外層5中の第2の素線2bの両隣には第3の素線が配置されているがこの第3の素線は前記内層の第2の素線全てに外接する円と前記外層の第2の素線全てに外接する円とに接して配置されている外層5中の両隣の第2の素線2bに接する。
【0029】
また、外層の第3の素線は、内層の第2の素線全てに外接する円(図2中C1)と前記外層の第2の素線全てに外接する円(図2中C2)とに接して配置されている。
【0030】
このように素線を配置したときに、第1素線1の半径をd1、第2の素線2a及び2bの半径をd2、第3の素線3の直径をd3とし、内層の素線数をnとし、θ=180°/nとすると次式(1)が成立する。
【0031】
[数1]
2=(d1+d2)sinθ ……(1)
【0032】
式(1)において、素線数nを7、第1素線1の直径(2d1)を0.37mmとすると、第2の素線2a及び2bの直径(2d2)は0.284mmとなる。
【0033】
また、外層の第2の素線全てに外接する円C2の半径L1は次式(2)で求まる。
【0034】
[数2]
L1=(d1+d2)cosθ+2d2sin60°+d2 ……(2)
【0035】
一方、上記L1は外層の第3の素線全てに外接する円の半径L2、すなわち、d1+2d2+2d2)に等しいので、下記式(3)が成立し、第3の素線の直径(2d3)は0.213mmとなる。
【0036】
[数3]
2d3=(d1+d2)cosθ+2d2sin60°+d2−d1−2d2
……(3)
【0037】
さらに、このとき絶縁電線用撚線導体の太さ2L1(=2L2)は1.36mm、全体の断面積は1.24mm2、外層の断面積は0.691mm2となり、外層を構成する第2の素線と第3の素線との断面積の和が、前記絶縁電線用撚線導体全体の断面積の55.7%となる。
【0038】
このような構成により、絶縁電線用撚線導体Aを構成する素線中、中心素線1より太い素線が内層及び外層になく、さらに、内層の素線よりも太い素線が外層にないために、屈曲特性を低下させることなく、かつ、断面形状が円形に近い絶縁電線用撚線導体が得られる。このために、絶縁層を設けた場合に、厚さむらがなく、原料に無駄がなく、経済的で、軽量で、かつ、容量に比して細径の絶縁電線が得られ、自動車用電線分野にも極めて好適に用いることができる被覆電線を得ることができる。さらにこのような絶縁電線用撚線導体は内層と外層とを同じ方向に撚ることにより、必ず各素線同士が接するように配置されている。このような構造により素線同士の接触が安定し、かつ、素線間の空隙が少なくなるために最大外径も極力小さくすることができる。また、撚り崩れによる形状の不安定化がなくなるために、安定した形状の製品を製造することができる。
【0039】
さらにこの例では外層を構成する第2の素線と第3の素線との断面積の和が、前記絶縁電線用撚線導体全体の断面積の55.7%となるために圧着端子との電気接触が良好である。
【0040】
上記では、内層に7本の第2の素線が配置された例を示したが、図3には、内層に第2の素線が8本配置された例Bを示す。
【0041】
このとき、中心素線の直径を0.37mmとすると、第2の素線の直径は0.229mm、第3の素線の直径は0.175mm、外接円の直径は1.18mm、全体の断面積は0.856mm2、外層の断面積は0.459mm2となり、外層を構成する第2の素線と第3の素線との断面積の和が、前記絶縁電線用撚線導体全体の断面積の53.6%となる。
【0042】
本発明の絶縁電線用撚線導体を構成する素線としては一般には軟銅線が挙げられるが、錫メッキ軟銅線、あるいは、純アルミニウム、あるいは、アルミニウム合金から構成された素線など、導体と用いることができるものであれば良い。
【0043】
また、本発明の絶縁電線用撚線導体は、従来の撚線導体同様、押出し成形等によってその周囲に絶縁層を設けることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 中心素線
2a 第2の素線(内層)
2b 第2の素線(外層)
3 第3の素線
A、B 本発明に係る絶縁電線用撚線導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心素線、該中心素線の周囲に配置された複数の素線から構成された内層、及び、該内層の周囲に配置された複数の素線から構成された外層から構成された絶縁電線用撚線導体において、
前記内層が、前記中心素線の太さと同じかあるいは前記中心素線の太さよりも細い7本以上の第2の素線から構成され、
該内層の第2の素線が、
それぞれ前記中心素線に接し、かつ、
該隣り合う該内層の第2の素線同士が互いに接している
ことを特徴とする絶縁電線用撚線導体。
【請求項2】
前記内層の第2の素線と同数本の第2の素線が、それぞれ前記内層の隣り合う2本の第2の素線に接して前記外層内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線用撚線導体。
【請求項3】
前記内層の第2の素線全てに外接する円と前記外層の第2の素線全てに外接する円とに接する第3の素線が、前記外層の隣り合う2本の第2の素線の間に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の絶縁電線用撚線導体。
【請求項4】
前記内層の素線と前記外層の素線とが同方向に撚られていることを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載の絶縁電線用撚線導体。
【請求項5】
前記第2の素線及び前記第3の素線がともに、前記中心素線よりも細いことを特徴とする請求項1ないし請求項4に記載の絶縁電線用撚線導体。
【請求項6】
前記外層の第2の素線の数と前記外層の第3の素線の数がともに、前記内層の第2の素線の数と等しいことを特徴とする請求項1ないし請求項5に記載の絶縁電線用撚線導体。
【請求項7】
前記外層を構成する第2の素線と第3の素線との断面積の和が、前記絶縁電線用撚線導体全体の断面積の50%以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項6に記載の絶縁電線用撚線導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−119073(P2012−119073A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265021(P2010−265021)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】