説明

絶縁電線

【課題】特別な治具を用いることなく、ヒュージングなどの高温にさらされても発泡現象が起こることのない絶縁電線1を提供する。
【解決手段】銅線などの芯線10に、内層21をポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルアミドイミド樹脂などから形成し、さらにその内層21の外側に、内層21の樹脂の吸湿度よりも低いポリフッ化ビニリデン樹脂から外層22を形成して多層構造の被覆20を有する絶縁電線11とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
銅線などの導体を被覆した絶縁電線として、例えば、特開平5−247374号公報に、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリイミド樹脂などからなる絶縁電線用の潤滑塗料に、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂の微粉末をエタノールやプロパノールなどのアルコールに分散させた組成物が混合された皮膜塗料が最外層に塗布された絶縁電線が開示されている。この絶縁電線は巻線などとして用いられ、自己潤滑性が高められたものである。
【0003】
特開平7−329139号公報には、ポリフッ化ビニリデン系フッ素樹脂と全酢酸ビニル含量が特定範囲にある酢酸ビニルグラフト−エチレン共重合体及びフッ素ゴムからなる樹脂組成物を押出成型され、ゲル分率を一定以上にしたフッ素樹脂押出成型物で被覆された絶縁電線が開示されている。この絶縁電線は、耐熱性と低温特性に優れたものである。
【0004】
特開平6−309938号公報には、機械特性を犠牲することなく、また電気特性の低下を防ぎながら被覆層を薄くする目的で、ポリ四フッ化エチレン樹脂(PTFE)と、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)又は四フッ化エチレンパーフッ化ビニルエーテル共重合体(PFA)を所定範囲の混合比率で混合した樹脂で被覆した絶縁電線が開示されている。
【0005】
特開平11−191325号公報には、耐コロナ性に優れて長寿命であり、耐加工性や耐熱性にも良好な絶縁電線を得る目的で、無機化合物粒子を含有しない内側絶縁層と、無機化合物粒子を含有する中間絶縁層と、無機化合物粒子を含有しないポリアミドイミドよりなる外側絶縁層とで構成される三層構造の絶縁皮膜が形成された絶縁電線が開示されている。このとき、内側絶縁層として耐熱性の観点から、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミドが好ましく使用され、また、中間絶縁層にも好ましくはポリエステルイミドやポリエステルの使用が推奨されている。
【0006】
特開2006−164646号公報には、融点の異なる2種のフッ素樹脂の混合物からなる被覆が形成された絶縁電線である同軸ケーブルが開示されている。これに用いられるフッ素樹脂化合物として、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びポリフッ化ビニルが例示されており、低融点のフッ素樹脂と高融点のフッ素樹脂を混合することにより、高周波帯域での誘電損失を低減している。
【0007】
特開平9−223414号公報には、ワイヤーとの密着性に優れ、かつ極めて耐候性に優れた被覆ワイヤーを提供すべく、ワイヤーに接触する内層にポリアミド樹脂を用い、外界と接触する外層にポリフッ化ビニリデン樹脂を用いて被覆した被覆ワイヤーが開示されている。
【0008】
一方、絶縁電線を端子に接合する方法として、絶縁電線の線端の被覆が剥がれた状態で端子など半田付けする方法やヒュージング(熱カシメ)と言われる方法が知られている。半田付けする方法では、被覆が剥離された芯線を端子に巻き付けるなどの方法で両者を結合し、フラックス処理して半田処理が行われる。また、ヒュージングは、絶縁電線の線端を端子に機械的に係止させた後、上下の電極で端子を加圧し電流を流すことにより行われる。端子に電流が流れると、端子と絶縁電線の線端が発熱する。そして、絶縁電線の皮膜が発熱と加圧により軟化し、線端の皮膜が端子から押し出され、露出した絶縁電線の芯線と端子が導通する。その後、上下の電極に通電する電流を大きくすれば芯線と端子とが溶接される。こうした方法は、例えば特開2000−82560号公報や特開2007−14116号公報、特開2007−128657号公報に開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開平5−247374号公報
【特許文献2】特開平7−329139号公報
【特許文献3】特開平6−309938号公報
【特許文献4】特開平11−191325号公報
【特許文献5】特開2006−164646号公報
【特許文献6】特開平9−223414号公報
【特許文献7】特開2000−82560号公報
【特許文献8】特開2007−14116号公報
【特許文献9】特開2007−128657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、半田付けによる方法では300度程度の高温が端子との結合部に加わる。また、絶縁電線をヒュージングする際にもそれ以上の高温が端子との結合部に加わる。この結果、端子との結合部近傍にある絶縁電線の皮膜が発泡し、発泡した樹脂が樹脂の固まりとなって残存したり、ひどい場合には皮膜が損傷したりして、不良品の発生を招いていた。このような発泡が生じる原因についてはこれまでのところ不明であった。
【0011】
一方、近年では、AIW(ポリアミドイミド銅線)やPIW(ポリイミド銅線)といった耐熱温度の高い皮膜を持った絶縁電線が提供されているが、これらの絶縁電線においても、上記現象を完全に防止することは困難であった。また、特許文献1〜6に開示された絶縁電線は、こうしたヒュージング時の発泡について考慮されておらず、実際に発泡を抑えることができるとは言えなかった。
【0012】
さらに、発泡すると予想される箇所の絶縁電線を治具(図示せず)で覆い、発泡を機械的(物理的)に抑えることも考えられるが、装置が大がかりとなるだけでなく、発泡を完全に抑えることは不可能である。
【0013】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、特別な治具を用いることなく、半田付けやヒュージング時における発泡を抑制できる絶縁電線を提供することにある。
【0014】
そこで本発明者等は、AIWやPIWを多湿化環境下に放置して半田処理を行ったところ、被覆の発泡が激しくなり、その反面、多湿環境下で吸湿させた絶縁電線を乾燥させることにより発泡が抑えられることを見いだし、本願発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の絶縁電線は、複数の皮膜層から構成される絶縁皮膜を有する絶縁電線であって、最外層の皮膜層がそれに接する内層を形成する樹脂の吸湿度よりも低い吸湿度の樹脂から形成された絶縁電線である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると半田付けやヒュージング時における皮膜の発泡が抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。もっとも、以下に示された実施形態は例示であって、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲及びこれと均等に含まれるすべての変更が本発明に含まれることが意図される。
【0018】
図1は本発明の絶縁電線の断面図である。図に示す絶縁電線1は、銅線など導電性を有する芯線(導体)10に内層21と外層22の2層構造を有する絶縁皮膜20が形成されている。外層22は、内層21を構成する樹脂の吸湿性に比べて低い吸湿性を有する樹脂から形成されている。
【0019】
本発明の絶縁電線1は、最外層22の内側に接する内層21を構成する樹脂に比べて、吸湿性の低い樹脂から最外層22が形成されていればよい。従って、内層21や最外層22(図に示す絶縁電線1では外層22に相当する)の樹脂は特に限定されるものではないが、ヒュージングや半田付けを考慮すると、最外層22の内側に接する内層21は、耐熱性に優れたポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルアミドイミド樹脂の何れかの樹脂を用いるのが好ましい。また、これらの樹脂が皮膜に用いられた絶縁電線1の発泡を抑制するのが目的だからである。
【0020】
外層22は、これらの内層21に用いられる樹脂よりも吸湿性が低く、耐熱性のよい樹脂が用いられ、例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)が例示される。
【0021】
本発明は、吸湿度の低い樹脂から最外層22を形成することによって、皮膜の発泡を抑えるものである。発明者らの実験により、発泡は内層21(従来の絶縁電線1において被覆に相当する。)の水分が影響しているものと考えられたためである。従って、最外層22の低い樹脂は絶対的な意味で吸湿度が低い樹脂が好適であると言えるが、少なくとも内層21の樹脂の吸湿度よりも高ければよいと考えられた。なお、吸湿度は両者の樹脂を同じ方法において測定された結果であれば、その方法は問われない。例えば、吸湿度は、温度60℃、湿度95%雰囲気下に24時間放置した時の吸湿率(%)とし、JIS L−1096の「水分率」に準じて測定することができる。ちなみに、ポリアミドイミド樹脂の吸湿率は0.33%であるのに対し、PVDFのそれは0.05%以下である。
【0022】
外層22の膜厚や内層21の膜厚は適宜決められる。内層21の膜厚は単層の皮膜を有する絶縁電線1と同程度の膜厚、具体的には0.01〜0.5mm程度である。外層22の膜厚は、発泡が抑えられば十分であるが、具体的には内層21の膜厚の1/2〜1/10程度、片側膜厚さ0.003mmあれば十分である。もっともこれらは芯線の太さや使用目的などによって適宜変更される。
【0023】
絶縁電線1の製造法も限定されるものではない。例えば、内層21を形成する樹脂を溶媒に分散又は溶解した樹脂ワニスを芯線10に塗布し、焼き付けを行った後、外層22を形成する樹脂を溶媒に分散又は溶解した樹脂ワニスを内層21の上に塗布し、焼き付けを行う方法や内層21を形成する樹脂を溶媒に分散又は溶解した樹脂ワニスを芯線10に塗布して乾燥した後、外層22を形成する樹脂を溶媒に分散又は溶解した樹脂ワニスを内層21の上に塗布し、内層21と外層22を同時に焼き付けする方法が例示される。
【0024】
こうして得られた絶縁電線1は、従来の工程に従って、半田付けやヒュージングによって端子などとの結線が行われる。この結果、皮膜の発泡が減少し、端子への結合不良の発生率が低減する。
【0025】
また、本発明は最外層22が、それに接する内層21の樹脂の吸湿性よりも低い吸湿性の樹脂から形成されていればよく、それに接する内層21が2層構造や3層構造など多層を構成していても差し支えない。
【実施例1】
【0026】
下記実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。
〔吸湿による影響〕
ポリアミドイミド樹脂で被覆された2種類の絶縁電線(試験品1:1SLAIW1.20mm,片側膜厚0.0360mm,芯線1.2mmφと試験品2:1SLAIW1.30mm,片側膜厚0.0365mm,芯線1.3mmφ)を用いて、表1に示す条件下で放置した後、330℃で半田付けを行った。なお、焼付度とは、樹脂ワニスを塗布した後の焼き付け条件を意味する。焼付度が「標準」とは絶縁電線として品質保証がなされた条件で焼き付けが行われたことを意味し、「アンダー」とは標準よりも低い温度で焼き付けが行われたことを、また「オーバー」とは標準よりも高い温度で焼き付けが行われたことを意味している。)。その結果が表1に示されている。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、通常の室温、湿度下で保存された場合には発泡が見られなかったが、温度60度、湿度95%RHで24時間放置した場合には、アンダーの条件、つまり焼き付けが低い温度で行われた場合には発泡の発生率が増大し、約8割の頻度で発泡が見られた。また、標準の焼付けでも試験品2では半数近くに発泡が見られた。一方、温度60℃、湿度95%RHで24時間放置した後に100℃で30分間加熱した場合には、発泡がゼロにまで抑制されることが理解された。この結果、保存中や焼き付けの不具合により皮膜中に残存する水分が多いと発泡する傾向にある。従って、ヒュージングや半田付けにより発泡現象が生じるのは、正常な焼き付け(標準的な焼き付け)が行われていたとしても、保管中に吸湿が生じているためでないかと推測された。
【0029】
このことから、最外層をそれに接する内層を形成する樹脂の吸湿度よりも低い吸湿度の樹脂から形成することによって、半田付けやヒュージング時における発泡現象を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の絶縁電線の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 絶縁電線
10 芯線(導体)
20 絶縁皮膜
21 内層
22 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の皮膜層から構成される絶縁皮膜を有する絶縁電線であって、
最外層の皮膜層が、それに接する内層を形成する樹脂の吸湿度よりも低い吸湿度の樹脂から形成された絶縁電線。
【請求項2】
前記最外層がポリフッ化ビニリデン樹脂から形成された請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
外層に接する内層がポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルアミドイミド樹脂の何れかの樹脂から形成された請求項2に記載の絶縁電線。

【図1】
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【公開番号】特開2010−61862(P2010−61862A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223834(P2008−223834)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(309019534)住友電工ウインテック株式会社 (67)
【Fターム(参考)】