説明

網状接触体要素の製造方法および回転円形網状接触体

【課題】強度に優れ、長期間の排水処理に適用可能な網状接触体要素の製造方法を提供すること。
【解決手段】合成繊維糸を立体網状になるように構成し、繊維糸の交点を接着剤により接着してなる合成樹脂繊維ブロックを切断・加工して回転円形網状接触体要素4を製造する方法において、前記合成樹脂繊維ブロックを、円盤状体を半径方向に等分割した扇形形状をなすように切断して網状接触体要素前躯体を作製する工程と、前記扇形形状の網状接触体要素前躯体に、スペーサーを挿通させるための貫通孔20を形成する工程と、前記網状接触体要素前躯体の外周21及び前記貫通孔20の周囲を熱プレス機により圧縮して圧縮部25を形成する工程と、前記網状接触体要素前躯体の外周21及び前記貫通孔20の周囲以外の全面22を熱プレス機により、90℃〜140℃の温度下で空間率が90%以上98%以下になるように熱加圧処理する工程と、前記熱加圧処理工程後に、5日間以上の静止期間を設けて前記熱圧着された合成繊維の結晶化を促進する工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接触式の生物排水処理に用いられる網状接触体要素の製造方法および回転円形網状接触体に関し、詳しくは、強度に優れ、長期間の排水処理に適用可能な網状接触体要素の製造方法および回転円形網状接触体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生物膜を利用して有機排水を処理する技術の一つとして、樹脂繊維糸を網状に形成した回転円形網状接触体を接触槽の主軸に取付け、該接触槽内の液中に該回転円形網状接触体の一部を浸漬して回転させ、樹脂繊維糸表面に微生物を付着し増殖させて排水中の有機物を処理する装置が知られている(特許文献1、2、3参照)。
【0003】
かかる特殊な回転円形網状接触体を用いることによって、微生物に十分酸素を供給し、かつ栄養源を供給することが可能になり、生物と有機物との接触面積が増加し、高負荷処理が可能になった。
【0004】
特許文献4には、特殊な回転円形網状接触体を形成するために、円盤を6分割した扇形形状の網状接触体要素を製造する技術が開示されており、スペーサーや補強杆を貫通させるための貫通孔を形成したり、外周や貫通孔の周囲を圧縮して圧縮部を形成する方法が開示されている。
【特許文献1】実公平1−23594号
【特許文献2】実公平1−13600号
【特許文献3】実公平1−16559号
【特許文献4】登録実用新案第3064723号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献4に記載の方法では、扇形形状のブロックの外周や貫通孔の周囲を圧縮することは開示されているが、熱プレス機の温度条件に関しては全く開示されていない。
【0006】
本発明者は、特許文献4で開示した製法について更に改良すべく、鋭意検討した結果、扇形形状のブロック(本発明では網状接触体要素前駆体と称する)の外周及び前記貫通孔の周囲のみの熱プレスでは、最終的に製造された回転円形網状接触体を排水処理に用いた場合に、強度的に未だ不十分であり、排水処理に適用した場合に長期運転を可能にする上で改良すべき余地が残されていることがわかった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、強度に優れ、長期間の排水処理に適用可能な網状接触体要素の製造方法および回転円形網状接触体を提供することを課題とする。
【0008】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0010】
(請求項1)
合成繊維糸を立体網状になるように構成し、繊維糸の交点を接着剤により接着してなる合成樹脂繊維ブロックを切断・加工して回転円形網状接触体要素を製造する方法において、
前記合成樹脂繊維ブロックを、円盤状体を半径方向に等分割した扇形形状をなすように切断して網状接触体要素前躯体を作製する工程と、
前記扇形形状の網状接触体要素前躯体に、スペーサーを挿通させるための貫通孔を形成する工程と、
前記網状接触体要素前躯体の外周及び前記貫通孔の周囲を熱プレス機により圧縮して圧縮部を形成する工程と、
前記網状接触体要素前躯体の外周及び前記貫通孔の周囲以外の全面を熱プレス機により、90℃〜140℃の温度下で空間率が90%以上98%以下になるように熱加圧処理する工程と、
前記熱加圧処理工程後に、5日間以上の静止期間を設けて前記熱圧着された合成繊維の結晶化を促進する工程と、
を有することを特徴とする網状接触体要素の製造方法。
【0011】
(請求項2)
前記網状接触体要素前躯体の全面を熱プレス機により熱加圧処理する工程で、熱プレス機の温度を100℃〜140℃に調整することを特徴とする請求項1記載の網状接触体要素の製造方法。
【0012】
(請求項3)
前記網状接触体要素前躯体の全面を熱プレス機により熱加圧処理する工程で、熱プレス機の温度を120℃〜140℃に調整することを特徴とする請求項1記載の網状接触体要素の製造方法。
【0013】
(請求項4)
前記網状接触体要素の糸重量Fと接着剤の重量Lの比が、50〜60:50〜40の範囲であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の網状接触体要素の製造方法。
【0014】
(請求項5)
前記静止期間を8日間以上10日間以下とすることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の網状接触体要素の製造方法。
【0015】
(請求項6)
請求項1〜5の何れかに記載の網状接触体要素の製造方法によって製造された網状接触体要素を複数組み合わせて円形に構成されたことを特徴とする回転円形網状接触体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、網状接触体要素前駆体の外周及び前記貫通孔の周囲以外の全面を熱プレス機により、90℃〜140℃の温度下で空間率が90%以上98%以下になるように熱加圧処理する工程を採用したので、繊維糸が解れたりすることがなく、強度的に優れ、長期間の排水処理に適用可能な網状接触体要素の製造方法及び回転円形網状接触体を提供できる。
【0017】
また熱加圧処理工程後に、5日間以上の静止期間を設けて前記熱圧着された合成繊維の結晶化を促進する工程を採用しているので、更に樹脂糸の結晶化が進み、強度が増加する効果がある。従来は、熱プレスした後に2〜3日後に出荷し、網状接触体要素前躯体を輸送していたが(納期が決まっているので)、結晶化が完全に進む前に輸送過程で揺り動かされると、糸が解れたりするなどの問題があるが、これらを全て解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は合成樹脂繊維ブロックの要部斜視図であり、同図に示すように、合成樹脂繊維ブロック1は合成繊維糸を立体網状になるように構成されている。この合成樹脂繊維ブロック1は、本発明の回転円形網状接触体を製造する上での原反であり、繊維糸の交点は接着剤により接着されている。
【0020】
合成繊維糸の材質としては、特に限定されるわけではないが、熱可塑性樹脂が好ましく、より好ましくは塩化ビニリデン樹脂である。塩化ビニリデン樹脂を用いる場合、3800〜4200デニールの範囲の太さの繊維糸を用いることが好ましく、より好ましくは3900〜4100デニールの範囲である。
【0021】
接着剤は、一般的にはラテックスなどを用いることができるが、塩化ビニリデン樹脂繊維糸の接着に好ましいのは塩化ビニリデン系樹脂接着剤が挙げられる。
【0022】
本発明の最初の工程は、前記合成樹脂繊維ブロック1を、切断加工して図2に示す網状接触体要素前躯体2を作製する工程である。網状接触体要素前躯体2は円盤を半径方向に等分割した扇形形状をなすように形成される。図示の例は6分割したものであるが、格別限定されない。
【0023】
この切断加工工程において、同時にあるいはその後、その扇形形状の網状接触体要素前躯体2に、貫通孔20を形成する。貫通孔20の形状は円形である必要はなく、方形状でもよく、またその数も図示に限定されない。貫通孔20は後述するようにスペーサー装着用の孔として機能する。
【0024】
次いで、図3及び図4に基づき本発明に係る網状接触体要素の製法の特徴を説明する。先ず図4示すように、前記網状接触体要素前躯体2の外周21及び前記貫通孔20の周囲を熱プレス機により圧縮して圧縮部25を形成し、圧扁溶着された形態にする。
【0025】
圧縮部25を形成すると同時に、あるいはその工程後に、前記網状接触体要素前躯体2の外周21及び前記貫通孔20の周囲以外の全面22を熱プレス機(図3参照)により、熱加圧処理して、網状接触体要素4を得る。
【0026】
前記網状接触体要素前躯体2の外周21及び前記貫通孔20の周囲を熱プレス機3により圧縮して圧縮部を形成する工程は、特許文献4でも採用されていることであり、本発明で特徴とするのは、図3に示すように、前記網状接触体要素前躯体2の外周21及び前記貫通孔20の周囲以外の全面22に熱プレス機3で熱加圧処理することである。このような工程の採用により、繊維糸が解れたりすることがなく、網状接触体要素4から得られる回転網状接触体は強度的に優れる効果がある。
【0027】
本発明において、熱プレス機の温度(樹脂糸との接触温度)は、90℃〜140℃の範囲に調整されることが好ましく、より好ましくは100℃〜140℃の範囲に調製されることであり、更に好ましくは120℃〜140℃の範囲に調整されることである。90℃未満では引張強度が低下し好ましくなく、140℃を超えると繊維糸が溶融するおそれがあるので好ましくない。
【0028】
熱プレス後の網状接触体要素の空間率は、好ましくは90%以上98%以下であり、より好ましくは92%〜97%であり、更に好ましくは93%〜96%である。接触体の接触表面積は理論的には大きいほどよいのであるが、それに伴い空間率が低下し、微生物処理における酸素供給能力、汚泥の閉塞の問題が発生するので、微生物の保持量と処理効率と強度との関係から上記空間率の範囲を見出したものである。
【0029】
次いで、本発明では、上記の熱加圧処理工程後に、5日間以上の静止期間を設けて前記熱圧着された合成繊維の結晶化を促進する工程を備える。前記静止期間は8日間以上10日間以下とすることが好ましい。
【0030】
静止期間は、熱圧着された合成繊維糸の結晶化を促進するものであり、結晶化(アニリーング)が完全に進む日数だけ静止させることが、製品としての回転円形網状接触体の強度を向上させる上で好ましいことを見出した。
【0031】
本発明で、静止というのは、出荷のような搬送による移動以外に、製品を移動する行為を広く含む。静止期間が5日未満では完全壌着せず、引張強度が劣る。
【0032】
本発明において、前記網状接触体要素の糸重量Fと接着剤の重量Lの比は、50〜60:50〜40の範囲であることが好ましい。網状接触体要素の強度の向上(特に引張強度の向上)に寄与する効果がある。
【0033】
次に、回転円形網状接触体およびそれを用いた回転円形網状接触体処理装置について説明する。
【0034】
図5は、本発明の回転円形網状接触体を用いた回転円形網状接触体処理装置の一例を示す要部切欠概略側面図であり、図6は同上のVI−VI線概略断面図である。
【0035】
本発明の回転円形網状接触体は、上記のようにして得られた網状接触体要素2を複数組み合わせて円形に構成することにより得られる。図6に示す例では6枚の網状接触体要素2が組み合わされて円形の回転円形網状接触体30が構成されている。
【0036】
同図において、50は接触槽であり、該接触槽50は一定の液面が形成され、複数枚の回転円形網状接触体30の下方が液面下に浸漬されている。
【0037】
接触槽50の底部には、回転円形網状接触体30の各々に空気を供給するための散気管51が設けられている。散気管51は図示しない例えばブロワー等に連設されている。接触槽50の上部には、カバー52が設けられ、カバー52には点検口53が設けられていてもよい。54は架台である。回転円形網状接触体30の貫通孔20にはスペーサー55が挿入され、スペーサー55の両端は主軸56に直角に取り付けられた支持板57に固定されている。これによって個々の回転円形網状接触体30はスペーサー55によって所定間隔に保たれ、複数の回転円形網状接触体30によるモジュールが形成される。回転円形網状接触体の主軸56は駆動源58に連設されている。駆動源58の構成は特に限定されるわけではないが、例えば減速機付きモーター59、動力伝達機構60、軸受61を有している。
【0038】
上記の装置は図6のように接触槽内の液中に回転円形網状接触体30の一部を浸漬して回転しているので、該回転円形網状接触体30の糸表面に微生物を付着した状態にあると、かかる微生物によって有機物を分解し、有機物の微生物転換に応じて微生物は増殖し、糸表面に付着する微生物は増量し、排水中の有機物を連続的に処理できる。処理の具体例については、特開2001−79581号を援用できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明の効果を例証する。
【0040】
実施例1−4
厚み50mm、幅1000mm、長さ2000mmの合成樹脂繊維ブロックを切断加工して図2に示すような網状接触体要素前躯体を作成し、6個の貫通孔を設けた。
【0041】
貫通孔の周囲及び網状接触体要素前躯体の周囲、ならびに網状接触体要素前躯体の全面を熱プレス機で加熱圧着(プレス)した。加熱温度は140℃に設定した。
【0042】
得られた網状接触体要素について、静止期間を0時間、17時間、41時間、137時間としたときの引張強度及び伸度をJIS(L)1096に基づいて測定した。また嵩比重も測定した。その結果を表1に示す。なお、表中の値は3つのサンプル(n=3)の平均値をとったものである。
【0043】
参考例1、2
実施例1において、網状接触体要素前躯体の全面を熱プレスしない以外は、同様にして網状接触体要素を作成し、静止期間を0時間、137時間としたときの引張強度及び伸度を測定した。また嵩比重も測定した。その結果を表1に示す。なお、表中の値は3つのサンプル(n=3)の平均値をとったものである。
【0044】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】合成樹脂繊維ブロックの要部斜視図
【図2】網状接触体要素前躯体の一例を示す斜視図
【図3】熱プレス機による熱プレスの状態を示す図
【図4】網状接触体の一例を示す斜視図
【図5】本発明の回転円形網状接触体を用いた回転円形網状接触体処理装置の一例を示す要部切欠概略側面図
【図6】同上のVI−VI線概略断面図
【符号の説明】
【0046】
1:合成樹脂繊維ブロック
2:網状接触体要素前躯体
20:貫通孔
21:外周
22:貫通孔の周囲以外の全面
25:圧縮部
3:熱プレス機
4:網状接触体要素
30:回転円形網状接触体
50:接触槽
51:散気管
52:カバー
53:点検口
54:架台
55:スペーサー
56:主軸
57:支持板
58:駆動源
59:モーター
60:動力伝達機構
61:軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維糸を立体網状になるように構成し、繊維糸の交点を接着剤により接着してなる合成樹脂繊維ブロックを切断・加工して回転円形網状接触体要素を製造する方法において、
前記合成樹脂繊維ブロックを、円盤状体を半径方向に等分割した扇形形状をなすように切断して網状接触体要素前躯体を作製する工程と、
前記扇形形状の網状接触体要素前躯体に、スペーサーを挿通させるための貫通孔を形成する工程と、
前記網状接触体要素前躯体の外周及び前記貫通孔の周囲を熱プレス機により圧縮して圧縮部を形成する工程と、
前記網状接触体要素前躯体の外周及び前記貫通孔の周囲以外の全面を熱プレス機により、90℃〜140℃の温度下で空間率が90%以上98%以下になるように熱加圧処理する工程と、
前記熱加圧処理工程後に、5日間以上の静止期間を設けて前記熱圧着された合成繊維の結晶化を促進する工程と、
を有することを特徴とする網状接触体要素の製造方法。
【請求項2】
前記網状接触体要素前躯体の全面を熱プレス機により熱加圧処理する工程で、熱プレス機の温度を100℃〜140℃に調整することを特徴とする請求項1記載の網状接触体要素の製造方法。
【請求項3】
前記網状接触体要素前躯体の全面を熱プレス機により熱加圧処理する工程で、熱プレス機の温度を120℃〜140℃に調整することを特徴とする請求項1記載の網状接触体要素の製造方法。
【請求項4】
前記網状接触体要素の糸重量Fと接着剤の重量Lの比が、50〜60:50〜40の範囲であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の網状接触体要素の製造方法。
【請求項5】
前記静止期間を8日間以上10日間以下とすることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の網状接触体要素の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の網状接触体要素の製造方法によって製造された網状接触体要素を複数組み合わせて円形に構成されたことを特徴とする回転円形網状接触体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−301511(P2007−301511A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134463(P2006−134463)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(598135599)
【Fターム(参考)】