説明

緊急用押しボタン装置

【課題】押しボタンが不用意にまたは誤って押されることを確実に防止しつつ、必要時には迅速に且つ面倒な前操作を要することなく押しボタンを押すことのできる緊急用押しボタン装置を提供する。
【解決手段】手の指を関節部にて折り曲げつつ挿入することができる湾曲孔と、該湾曲孔の終端部に設けられ該湾曲孔に挿入された指の指先にて押される押しボタンとを備える緊急用押しボタン装置。押しボタンは、湾曲孔に挿入された指の指先を手前に引き、指先の腹部にて押されるか、湾曲孔に挿入された指の挿入深さを増すことにより指先の先端にて押される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急時に人が指先で押して緊急指令を発動せしめる緊急用押しボタン装置に係る。
【背景技術】
【0002】
緊急時に人が指先で押しボタンを押して緊急指令を発信せしめる緊急用押しボタン装置は随所に設けられている。かかる緊急用押しボタン装置の押しボタンは、緊急指令を発信するときにのみ押されるべきものであり、そうでないときに不用意にまたは誤って押されてはならないものである。緊急用押しボタン装置の押しボタンが不用意にまたは誤って押されることを防止するために、緊急用押しボタン装置に押しボタンを覆うカバーを設け、押しボタンを押すには先ず明確なる操作意図をもってカバーを開けなければならないようにすることが古くから行われている。
【0003】
上記のように緊急用押しボタン装置の押しボタンをカバーにて覆い、カバーを開けてからでなくては押しボタンが押せないようになっていれば、押しボタンが不用意にまたは誤って押されることは確実に防げるが、これには、緊急時下にあってできるだけ早く押しボタンを押す要があるときにカバーを開けるという前操作に時間をとるという欠点が伴うだけでなく、緊急用押しボタン装置が、車輌の運転中に体調不良を起こした運転者が車輌を緊急停車させるために用意されている緊急用押しボタン装置であるような場合には、体調不良を起こした運転者にとってカバーを開けるという前操作が大きな負担となり、折角の緊急用押しボタン装置が有効に作動されなくなる虞れもある。
【0004】
押しボタンをカバーにて覆うことなく、押しボタン装置の押しボタンが不用意にまたは誤って押されにくくする技術として、下記の特許文献1に、操作パネルに配置された制御スイッチとして、制御スイッチの押しボタン押し下げ部の周囲を操作パネル表面から所定の距離押しボタンの押し下げ方向に後退したへこみ部として形成し、押し下げ部表面をへこみ部表面とほぼ同一面となし、押し下げ部は操作者の指腹部を操作パネル表面とほぼ平行に位置させて押し下げたときは制御スイッチの作動距離の押し下げを制限し、操作者の指先を操作パネル表面とほぼ直交する方向から押し下げたときは制御スイッチの作動距離の押し下げを許容する大きさとした制御スイッチが提案されている。また下記の特許文献2には、椅子の形状に模して配列された複数個のタクトスイッチと、該タクトスイッチの全体を覆い表面が凹状に形成された被覆体と、該被覆体の内側に前記タクトスイッチに対応して突出された押圧子とを具備した椅子制御用スイッチ装置が提案されている。また下記の特許文献3には、車輌の異常時には車輌の走行中であっても停止スイッチを押すことによりエンジンを緊急停止させる構成に於いて、停止スイッチが所定時間以上操作状態に保持されたときエンジンを停止させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-25383号公報
【特許文献2】特開平10-262770号公報
【特許文献3】特開2007-263020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り緊急用押しボタン装置の押しボタンがカバーにて覆われ、カバーを開けてからでなくては押しボタンが押せない構造では、押しボタンが不用意にまたは誤って押されることは確実に防げるが、車輌の運転中に体調不良を起こした運転者が車輌を緊急停車させるために用意されている緊急用押しボタン装置のような場合には、体調不良を起こした運転者にとってカバーを開けるという前操作が大きな負担となるという問題がある。しかし、上記の特許文献1や2に於いて提案されている如く、押しボタンの押す部分がその周縁の押しボタンを囲む壁部よりへこんだ位置にある程度では、押しボタンが不用意にまたは誤って押されることを確実に防ぐことはできないと思われ、押しボタン装置が運転者の体調不良時に車輌を緊急停車させるような緊急用押しボタン装置であるときには、押しボタンが不用意にまたは誤って押されることにより生ずる弊害の方が、そのような緊急用押しボタン装置を設けておくことによる利益を相殺して尚余りあるものとなる恐れがある。また上記の特許文献3に於いて提案されている如く、押しボタンが所定時間以上にわたって押されたとき初めて作動するような押しボタン装置では、緊急用押しボタン装置として用をなさない恐れがある。
【0007】
本発明は、緊急用押しボタン装置に係る上記の如き問題に対処し、押しボタンが不用意にまたは誤って押されることを確実に防止しつつ、必要時には迅速に且つ面倒な前操作を要することなく押しボタンを押すことのできる緊急用押しボタン装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、手の指を関節部にて折り曲げつつ挿入することができる湾曲孔と、該湾曲孔の終端部に設けられ該湾曲孔に挿入された指の指先にて押される押しボタンとを備えることを特徴とする緊急用押しボタン装置を提案するものである。
【0009】
前記押しボタンは、関節部にて折り曲げつつ前記湾曲孔に挿入された指の指先を手前に引くように指を更に湾曲させることにより指先の腹部にて押されるようになっていてよい。
【0010】
或いはまた、前記押しボタンは、関節部にて折り曲げつつ前記湾曲孔に挿入された指の挿入深さを増すことにより指先の先端にて押されるようになっていてよい。
【0011】
いずれにしても、上記の如き緊急用押しボタン装置は、前記湾曲孔の入口部に直線状に連なり該湾曲孔の途中から分岐して延在する直線状副孔をも備えていてよい。
【発明の効果】
【0012】
上記の如く、緊急用押しボタン装置が、手の指を関節部にて折り曲げつつ挿入することができる湾曲孔と、該湾曲孔の終端部に設けられ該湾曲孔に挿入された指の指先にて押される押しボタンとを備えていれば、手の指を関節部にて折り曲げつつ湾曲孔に挿入する手の動きは、無意識のうちに生ずることは絶対にあり得ず、また手の指を関節部にて折り曲げつつ挿入することができるように形成された湾曲孔の入口からその湾曲した通路の奥にある先端に達する動きは、手の指のようにそれ自身に折れ曲がる機能を備えた棒状体にしかできない動きであることから、何らかの剛固な棒状体は勿論のこと、何らかの柔軟で折り曲げようとすれば折れ曲がるような棒状体であっても、ただそれが湾曲孔の入り口から不用意に差し込まれただけでは、上記の押しボタンが押されることにはならない。一方、上記のような湾曲孔に手の指を関節部にて折り曲げつつ挿入することは、カバーを外すような前操作を何ら必要とすることなく、所望であれば直ちに実行できる。従って、かかる緊急用押しボタン装置の構成によれば、押しボタンが不用意にまたは誤って押されることを確実に防止しつつ、必要時には迅速に且つ面倒な前操作を要することなく押しボタンを押すことができる。
【0013】
特に前記押しボタンが、関節部にて折り曲げつつ前記湾曲孔に挿入された指の指先を手前に引くように指を更に湾曲させることにより指先の腹部にて押されるようになっていれば、押しボタンを押す作用は、手の指のそれ自身にて折れ曲がる機能により初めて達成されるので、運転者の押しボタンを押す意思が極めて明確に確認され、押しボタンが不用意に或いは誤って押されることが確実に防止される。
【0014】
これと比較して、前記押しボタンが、関節部にて折り曲げつつ前記湾曲孔に挿入された指の挿入深さを増すことにより指先の先端にて押されるようになっていれば、手の指でなくても何らかの柔軟で折り曲げようとすれば折れ曲がるような棒状体が前記湾曲孔に挿入されたときには、押しボタンが不用意に或いは誤って押されることも起こり得るが、折れ曲がりに対しては柔軟であって延在方向に沿っての圧縮に対しては非圧縮性であり、折れ曲がりつつ押圧力を伝達することができるような棒状体は普通に散在しているものではないので、その虞れは先ず皆無に等しい。一方、前記押しボタンが、関節部にて折り曲げつつ湾曲孔に挿入された指の挿入深さを増すことにより指先の先端にて押されるようになっていれば、押しボタンを押す操作は、関節部にて折り曲げつつ湾曲孔に挿入された指の指先を手前に引くように指を更に湾曲させることにより指先の腹部にて押しボタンを押す操作に比してより楽であり、体調不良を起こした運転者がやっとの思いで押しボタンを押すような場合にはより有効である。
【0015】
以上のいずれの構造に対しても、上記の如き湾曲孔に加えて、該湾曲孔の入口部に直線状に連なり該湾曲孔の途中から分岐して延在する直線状副孔が設けられていれば、何らかの柔軟で折り曲げようとすれば折れ曲がるような棒状体が不用意に湾曲孔内に挿入されても、手の指のようにそれ自身に折れ曲がる機能を備えた棒状体でなければ、それは湾曲孔の入口より上記の直線状副孔内へ入り込み、その先端が湾曲孔の奥に達することはないので、それによって湾曲孔の奥にある押しボタンが押されることはより一層確実に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による緊急用押しボタン装置が、自動車等の車輌に於いて、運転者が体調不良時等に車輌を緊急停車させる緊急用押しボタン装置として、運転者の手の指により操作される位置に設けられる態様の一例を示す自動車のフロントパネル部の部分図。
【図2】図1に示す緊急用押しボタン装置の一つの実施例を示す正面図(図A)および縦断面図(図B)。
【図3】図2に示す緊急用押しボタン装置に直線状副孔を追加した一つの実施例を示す縦断面図。
【図4】図1に示す緊急用押しボタン装置の他の一つの実施例を示す縦断面図。
【図5】図4に示す緊急用押しボタン装置に直線状副孔を追加した一つの実施例を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記の如く、図1には、本発明による緊急用押しボタン装置が、自動車等の車輌に於いて、運転者が体調不良時等に車輌を緊急停車させる緊急用押しボタン装置10として作動するよう、フロントパネル部のステアリングホイールの近傍にあって運転者が緊急時に手の指(特に人指し指)を差し込みやすい位置に設けられている。
【0018】
押しボタン装置10は、それを正面図および縦断面図でみれば、図2の図AおよびBに示すような構造のものであり、手の指を関節部にて折り曲げつつ挿入することができる湾曲孔12と、該湾曲孔の終端部に設けられ該湾曲孔に挿入された指の指先にて押される押しボタン14とを備えるものである。
【0019】
図2に示す実施例に於いては、押しボタン14は、関節部にて折り曲げつつ湾曲孔12に挿入された指の指先を手前に引くように指を更に湾曲させることにより指先の腹部にて押されるようになっている。即ち、図2の図Bでみれば、押しボタン14は図にて水平方向に右方へ押されることにより作動されるようになっている。
【0020】
図3は、図2に示す緊急用押しボタン装置10の湾曲孔12の入口部に直線状に連なり該湾曲孔の途中から分岐して延在する直線状副孔16を追加した緊急用押しボタン装置10aを図2の図Bと同様の縦断面図にて示している。図3に於いて、その他の構造は図2に示す構造と同じであり、図2に於けると同じ符号により示されている。
【0021】
図4は、図2に示す緊急用押しボタン装置10に於ける湾曲孔12および押しボタン14とほぼ同じ湾曲孔112および押しボタン114を備えているが、押しボタン114は、関節部にて折り曲げつつ湾曲孔112に挿入された指の挿入深さを増すことにより指先の先端にて押されるようになっている緊急用押しボタン装置110を示す図2の図Bと同様の縦断面図である。即ち、図4でみれば、押しボタン114は図にて垂直方向に下方へ押されることにより作動されるようになっている。
【0022】
図5は、図4に示す緊急用押しボタン装置110の湾曲孔112の入口部に直線状に連なり該湾曲孔の途中から分岐して延在する直線状副孔116を追加した緊急用押しボタン装置110aを図4と同様の縦断面図にて示している。図5に於いて、その他の構造は図4に示す構造と同じであり、図4に於けると同じ符号により示されている。
【0023】
以上に於いては、本発明をいくつかの実施の形態ついて詳細に説明したが、これらの実施の形態ついて本発明の範囲内にて種々の変更が可能であることは当業者とって明らかであろう。
【符号の説明】
【0024】
10,10a…緊急用押しボタン装置、12…湾曲孔、14…押しボタン、16…直線状副孔、110,110a…緊急用押しボタン装置、112…湾曲孔、114…押しボタン、116…直線状副孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手の指を関節部にて折り曲げつつ挿入することができる湾曲孔と、該湾曲孔の終端部に設けられ該湾曲孔に挿入された指の指先にて押される押しボタンとを備えることを特徴とする緊急用押しボタン装置。
【請求項2】
前記押しボタンは、関節部にて折り曲げつつ前記湾曲孔に挿入された指の指先を手前に引くように指を更に湾曲させることにより指先の腹部にて押されるようになっていることを特徴とする請求項1に記載の緊急用押しボタン装置。
【請求項3】
前記押しボタンは、関節部にて折り曲げつつ前記湾曲孔に挿入された指の挿入深さを増すことにより指先の先端にて押されるようになっていることを特徴とする請求項1に記載の緊急用押しボタン装置。
【請求項4】
前記湾曲孔の入口部に直線状に連なり該湾曲孔の途中から分岐して延在する直線状副孔をも備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の緊急用押しボタン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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