線形加速器
【課題】 IH型の共振器構造を有するとともに、荷電粒子の加速に用いられる高周波電場の電場分布を好適に制御可能な線形加速器を提供する。
【解決手段】 加速軸Axを内部に含む加速管10と、加速管10の内壁上の所定位置に加速軸Axの方向に延びるように設けられた第1リッジ部11と、加速管10の内壁上で第1リッジ部11と対向する位置に設けられた第2リッジ部12と、第1リッジ部11に支持された第1ドリフトチューブ21、及び第2リッジ部12に支持された第2ドリフトチューブ22が加速軸Axに沿って複数交互に配列されたドリフトチューブ群20とによってIH型の線形加速器1を構成する。さらに、加速管10内の高周波電場に対し、その電場分布を調整するチューナ30を加速軸Ax方向に複数並べて配置する。
【解決手段】 加速軸Axを内部に含む加速管10と、加速管10の内壁上の所定位置に加速軸Axの方向に延びるように設けられた第1リッジ部11と、加速管10の内壁上で第1リッジ部11と対向する位置に設けられた第2リッジ部12と、第1リッジ部11に支持された第1ドリフトチューブ21、及び第2リッジ部12に支持された第2ドリフトチューブ22が加速軸Axに沿って複数交互に配列されたドリフトチューブ群20とによってIH型の線形加速器1を構成する。さらに、加速管10内の高周波電場に対し、その電場分布を調整するチューナ30を加速軸Ax方向に複数並べて配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速管内に生成される高周波電場を用い、直線状の加速軸に沿って荷電粒子を加速する線形加速器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加速器は、電子や陽子、あるいは重粒子などの荷電粒子を加速して高エネルギーの粒子ビームを生成する装置である。また、加速器のうち、直線状の加速軸に沿って荷電粒子を加速するものは、線形加速器と呼ばれている。線形加速器では、共振器となる加速管内に加速軸に沿ってドリフトチューブと呼ばれる筒状電極を複数配列した構成が用いられる。そして、隣接するドリフトチューブ間のギャップにおいて、高周波電場によって荷電粒子が加速される(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】E. Nolte et al., "The Munich Heavy Ion Postaccelerator", IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol. NS-26, No.3(1979) pp.3724-3726
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
線形加速器の具体的な構造としては、従来、アルバレ型とよばれる共振器構造が用いられている。また、近年、IH(Interdigital H)型と呼ばれる共振器構造の線形加速器が注目されている。ここで、図12は、線形加速器の構成を模式的に示す斜視図であり、図12の構成(a)は、アルバレ型の線形加速器の基本構成を示し、構成(b)は、IH型の線形加速器の基本構成を示している。
【0004】
図12の構成(a)に示すように、アルバレ型の線形加速器8は、加速管80と、ステム81を介して加速管80に支持されたドリフトチューブ86が加速軸Axに沿って複数配列されたドリフトチューブ群85とを備えている。
【0005】
図13は、アルバレ型の線形加速器における荷電粒子の加速原理を示す模式図である。ここでは、ドリフトチューブ群85を構成するドリフトチューブ86として、4個のドリフトチューブ861、862、863、864を示している。ドリフトチューブ86は筒状の中空部88aを有し、加速対象となる荷電粒子Pは、加速軸Axに沿ってドリフトチューブ86の中空部88a、及び隣接するドリフトチューブ86間のギャップ部88bを順に通過しつつ加速される。
【0006】
アルバレ型の線形加速器8では、図13の(a)〜(c)に示すように、加速用の高周波電場は、各ドリフトチューブ間のギャップ部88bにおいて同方向となる。ここで、図13(a)に示すように、ドリフトチューブ861、862間、ドリフトチューブ862、863間、及びドリフトチューブ863、864間のギャップ部88bでの電場がそれぞれ加速方向を向いている状態で、荷電粒子Pがドリフトチューブ861、862間のギャップ部88b内にあるとする。このとき、荷電粒子Pは、加速方向を向いているギャップ部88b内の電場によって加速される。
【0007】
次に、図13(b)に示すように、半周期後には電場は逆方向となり、ドリフトチューブ86間のギャップ部88bでの電場が加速方向とは反対方向を向く。このとき、荷電粒子Pは、ドリフトチューブ862の中空部88aにあるために減速を受けない。さらに、図13(c)に示すように、1周期後には、ドリフトチューブ86間のギャップ部88bでの電場が再び加速方向を向く。このとき、荷電粒子Pは、ドリフトチューブ862、863間のギャップ部88b内にあって再び加速される。
【0008】
一方、図12の構成(b)に示すように、IH型の線形加速器9は、加速管90と、加速管90の内壁上に互いに対向するように設けられた第1リッジ部91及び第2リッジ部92と、ステム93、94を介してそれぞれリッジ部91、92に支持された第1ドリフトチューブ96、第2ドリフトチューブ97が加速軸Axに沿って複数交互に配列されたドリフトチューブ群95とを備えている。
【0009】
図14は、IH型の線形加速器における荷電粒子の加速原理を示す模式図である。ここでは、ドリフトチューブ群95を構成するドリフトチューブ96、97として、4個のドリフトチューブ961、971、962、972を示している。ドリフトチューブ96、97は筒状の中空部98aを有し、加速対象となる荷電粒子Pは、加速軸Axに沿ってドリフトチューブ96、97の中空部98a、及び隣接するドリフトチューブ96、97間のギャップ部98bを順に通過しつつ加速される。
【0010】
IH型の線形加速器9では、図14(a)〜(c)に示すように、加速用の高周波電場は、各ドリフトチューブ間のギャップ部98bにおいて交互に逆方向となる。ここで、図14(a)に示すように、ドリフトチューブ961、971間、及びドリフトチューブ962、972間のギャップ部98bでの電場がそれぞれ加速方向を向いており、ドリフトチューブ971、962間のギャップ部98bでの電場が加速方向とは反対方向を向いている状態で、荷電粒子Pがドリフトチューブ961、971間のギャップ部98b内にあるとする。このとき、荷電粒子Pは、加速方向を向いているギャップ部98b内の電場によって加速される。
【0011】
次に、図14(b)に示すように、半周期後には電場は逆方向となり、ドリフトチューブ961、971間、及び962、972間のギャップ部98bでの電場が加速方向とは反対方向を向き、ドリフトチューブ971、962間のギャップ部98bでの電場が加速方向を向く。このとき、荷電粒子Pは、ドリフトチューブ971、962間のギャップ部98b内にあって、加速方向を向いている電場によって加速される。さらに、図14(c)に示すように、1周期後には、ドリフトチューブ961、971間、及び962、972間のギャップ部98bでの電場が再び加速方向を向き、ドリフトチューブ971、962間のギャップ部98bでの電場が加速方向とは反対方向を向く。このとき、荷電粒子Pは、ドリフトチューブ962、972間のギャップ部98b内にあって、加速方向を向いている電場によって加速される。
【0012】
上記のように、アルバレ型の線形加速器8では、荷電粒子Pは高周波電場の1周期につき1回の加速を受けながら加速軸Axに沿って加速される。一方、IH型の線形加速器9では、荷電粒子Pは高周波電場の1周期につき2回の加速を受けるような共振モードが用いられる。
【0013】
ここで、IH型の共振器構造を用いて線形加速器を構成する場合、上記した共振モードによる荷電粒子の加速を実現するため、その実際の電場分布を設計の電場分布に精度良く合わせることが必要である。しかしながら、リッジ部91、92に支持されたドリフトチューブ96、97が交互に配列されるIH型の構成では、ギャップ電圧を個別に調整する方法がなく、一部の構造を変化させると全体の電場分布に影響が及ぶため、そのような電場分布の制御が難しいという問題がある。
【0014】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、IH型の共振器構造を有するとともに、荷電粒子の加速に用いられる高周波電場の電場分布を好適に制御可能な線形加速器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような目的を達成するために、本発明による線形加速器は、所定の加速軸に沿って荷電粒子を加速する線形加速器であって、(1)直線状に設定された荷電粒子の加速軸を内部に含み、加速軸を長手方向として設けられた加速管と、(2)加速管の内壁上の所定位置に加速軸の方向に延びるように設けられた第1支持部と、(3)加速管の内壁上で第1支持部と対向する位置に加速軸の方向に延びるように設けられた第2支持部と、(4)第1支持部に電気的に接続されて支持された第1ドリフトチューブ、及び第2支持部に電気的に接続されて支持された第2ドリフトチューブが加速軸に沿って複数交互に配列されたドリフトチューブ群と、(5)ドリフトチューブ群によって加速管内で生成されて荷電粒子の加速に用いられる高周波電場に対し、その電場分布を調整可能に構成されるとともに、加速軸に対してそれぞれ異なる位置に設置された複数の電場調整手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
上記した線形加速器においては、その共振器構造として、第1支持部(例えば第1リッジ部)にステム等を介して支持された第1ドリフトチューブと、第2支持部(例えば第2リッジ部)にステム等を介して支持された第2ドリフトチューブとを交互に配列して荷電粒子の加速を行うIH型の構造を用いている。これにより、加速器における荷電粒子の加速効率を向上することができる。また、装置の小型化も可能となる。
【0017】
さらに、このようなIH型の構造に対し、加速管内で電場分布を調整する電場調整手段(チューナ)を加速軸方向に複数並べて配置している。このような複数の電場調整手段を用いることにより、例えば製造された加速器での電場分布が設計の電場分布からずれている場合でも、その共振器の全体として電場分布を細かく制御して、荷電粒子を加速するために好適な電場分布に調整することが可能となる。
【0018】
ここで、電場分布の調整に用いられる複数の電場調整手段は、インダクタンスLを変えることで電場分布を調整する誘導性の調整手段を含むことが好ましい。あるいは、複数の電場調整手段は、静電容量Cを変えることで電場分布を調整する容量性の調整手段を含むことが好ましい。このように、誘導性または容量性の調整手段を用いることにより、荷電粒子を加速するための高周波電場の電場分布を好適に制御することが可能となる。このような構成では、複数の電場調整手段は、その全部が誘導性の調整手段、または容量性の調整手段であっても良く、あるいは、誘導性の調整手段と容量性の調整手段とを併用する構成であっても良い。
【0019】
また、電場調整手段は、加速管と加速軸との間に配置され、ドリフトチューブ群に対する位置関係を変えることが可能に構成された調整部材を有することが好ましい。このような調整部材を用いれば、調整部材のドリフトチューブ群との位置関係を変えることによって高周波電場の電場分布を確実に制御することができる。このような調整部材は、誘導性または容量性の調整手段のいずれに対しても適用が可能である。
【0020】
また、ドリフトチューブ群は、高周波電場の位相を利用するAPF(Alternating Phase Focusing)法によって、荷電粒子の加速ビームを収束させることが可能に構成されていることが好ましい。APF法を用いることにより、加速される荷電粒子ビームを簡単な構成で収束させることができる。また、このようなAPF法では、電場分布を高い精度で設計値に近づける必要があり、上記構成による電場分布の調整が特に有効である。
【0021】
また、加速管は、その直径が加速軸の方向に変化する形状に構成されていることとしても良い。このように、加速軸に沿った電場分布や荷電粒子の加速条件などの諸条件に合わせて加速管の形状を変えていく構成とすることにより、荷電粒子の加速を好適に実現することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の線形加速器によれば、共振器構造としてIH型の構造を用いるとともに、ドリフトチューブ群によって生成されて荷電粒子の加速に用いられる高周波電場に対し、加速管内で電場分布を調整する電場調整手段を加速軸方向に複数並べて配置することにより、共振器の全体として電場分布を細かく制御して、好適な電場分布に調整することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面とともに本発明によるIH型の線形加速器の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0024】
図1は、本発明による線形加速器の一実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。本実施形態の加速器1は、IH(Interdigital H)型の共振器構造を有し、直線状に設定された加速軸Axに沿って荷電粒子を加速する線形加速器である。この線形加速器1は、加速管10と、第1リッジ部11と、第2リッジ部12と、ドリフトチューブ群20とを備えている。
【0025】
加速管10は、その内部に加速対象の荷電粒子を加速するための高周波電場が形成される管状部材であり、加速軸Axを内部に含み、軸Axを長手方向とした筒状形状(図1においては円筒形状)を有している。加速管10の内壁上の所定位置には、加速軸Axの方向に延びる第1リッジ部11が設けられている。また、加速管10の内壁上で第1リッジ部11と対向する位置には、同様に加速軸Axの方向に延びる第2リッジ部12が設けられている。リッジ部11、12は、ドリフトチューブ群20を構成する複数のドリフトチューブを支持するための第1支持部、第2支持部である。図1においては、これらのリッジ部11、12は、加速管10の下側、上側の内壁上にそれぞれ設置されている。
【0026】
ドリフトチューブ群20は、加速管10内において、荷電粒子の加速に用いられる高周波電場を生成するための電極群であり、加速軸Axに沿って配列された複数のドリフトチューブによって構成されている。具体的には、IH型の構成を有するドリフトチューブ群20は、上記した第1リッジ部11、及び第2リッジ部12に対応して、第1ドリフトチューブ21、及び第2ドリフトチューブ22の2種類のドリフトチューブが加速軸Axに沿って複数交互に配列された構成となっている。
【0027】
第1ドリフトチューブ21は、第1支持部であるリッジ部11に対して、ステム13を介して電気的に接続された状態で支持されている。また、第2ドリフトチューブ22は、第2支持部であるリッジ部12に対して、ステム14を介して電気的に接続された状態で支持されている。これらのドリフトチューブ21、22は、それぞれ加速軸Axを中心軸とした中空部を有する円筒状部材から構成されている。このような構成において、加速対象となる荷電粒子は、加速軸Axに沿ってドリフトチューブ21、22の中空部、及び隣接するドリフトチューブ21、22間のギャップ部を順に通過しつつ加速される。
【0028】
図1の構成例においては、第1リッジ部11に対してn個のステム131〜13n及びドリフトチューブ211〜21nが、また、第2リッジ部12に対して同様にn個のステム141〜14n及びドリフトチューブ221〜22nが設けられている。そして、これらのドリフトチューブが、211、221、212、222、…、21n、22nの順で加速軸Axに沿って配列されることにより、ドリフトチューブ群20が構成されている。なお、このようなIH型の構成を有する線形加速器1における荷電粒子の加速原理については、基本的には図14に関して上述したものと同様である。
【0029】
本実施形態の線形加速器1においては、上記構成のドリフトチューブ群20によって加速管10内で生成されて荷電粒子の加速に用いられる高周波電場に対し、チューナ30が設けられている。このチューナ30は、高周波電場の電場分布を調整可能に構成された電場調整手段であり、加速軸Axに対してそれぞれ異なる位置に複数設置されている。図1の構成例においては、m個のチューナ301〜30mが加速軸Ax方向に並ぶように配置されている。
【0030】
上記実施形態による線形加速器1の効果について説明する。
【0031】
図1に示した線形加速器1においては、その共振器構造として、第1リッジ部11にステム13を介して支持された第1ドリフトチューブ21と、第2リッジ部12にステム14を介して支持された第2ドリフトチューブ22とを交互に配列したドリフトチューブ群20によって荷電粒子の加速を行うIH型の構造を用いている。このようなIH型の線形加速器1では、上述したように、荷電粒子が高周波電場の1周期につき2回の加速を受けるような共振モードが用いられる。本構成の線形加速器1によれば、このような共振モードを用いることにより、荷電粒子を好適に加速することができる。また、装置の小型化、製造コストの低減も可能となる。このような線形加速器の小型化は、例えば、加速された荷電粒子ビームを用いたがん治療装置の普及などの実用面において非常に重要である。
【0032】
さらに、上記した線形加速器1においては、IH型の共振器構造に対し、加速管10内で電場分布を調整するチューナ(電場調整手段)30を加速軸Ax方向に複数並べて配置している。このような複数のチューナ301〜30mを加速管10内に設置することにより、その共振器の全体として高周波電場の電場分布を細かく制御して、荷電粒子を加速するために好適な条件の電場分布に調整することが可能となる。これにより、例えば実際に製造された加速器での電場分布が設計の電場分布からずれている場合でも、その電場分布を設計の電場分布に精度良く近づけることができる。また、このような構成では、ギャップ数が比較的多い線形加速器の設計が可能となる。
【0033】
電場分布の調整に用いられる電場調整手段の例としては、図1に模式的に示すように、インダクタンスLを変えることで電場分布を調整する誘導性のチューナを用いることができる。あるいは、電場調整手段としては、静電容量Cを変えることで電場分布を調整する容量性のチューナを用いても良い。
【0034】
ここで、IH型の線形加速器では、その断面構造(後述する図8の断面図を参照)において、円形状の加速管、及びその中心で垂直方向に延びるリッジ部、ステム、及びドリフトチューブによって、高周波電場を生成するためのドリフトチューブに対応した電流路が構成される。これに対して、上記した誘導性または容量性のチューナを用いれば、ドリフトチューブに対する電流路でのインダクタンスLまたは静電容量Cが変わることとなる。これにより、ドリフトチューブ群20によって生成される荷電粒子を加速するための高周波電場の電場分布を好適に制御することが可能となる。なお、このような構成では、複数の電場調整手段は、その全部が誘導性の調整手段、または容量性の調整手段であっても良く、あるいは、誘導性の調整手段と容量性の調整手段とを併用する構成であっても良い。
【0035】
また、電場調整手段の具体的な構成については、加速管10と加速軸Axとの間に配置され、ドリフトチューブ群20に対する位置関係を変えることが可能に構成された調整部材を有する構成とすることが好ましい。このような調整部材を用いれば、調整部材のドリフトチューブ群との位置関係(例えば調整部材からドリフトチューブ群までの距離)を変えることによって電場分布を確実に制御することができる。このような調整部材は、上記した誘導性または容量性の調整手段のいずれに対しても適用が可能である。なお、電場調整手段(チューナ)及び調整部材の構成については、具体的には後述する。
【0036】
また、このような電場分布の調整は、ドリフトチューブ群20がAPF(Alternating Phase Focusing)法によって荷電粒子の加速ビームを収束させることが可能に構成されているような場合に特に有効である。APF法は、加速用の高周波電場の位相のプラス・マイナスによるビームの収束・発散効果を組み合わせることにより、簡単な構成で荷電粒子ビームの収束を実現する方法である。したがって、このような収束方法を用いることにより、簡単な構成で高品質の荷電粒子の加速ビームを得ることができる。また、APF法においては、高周波電場の位相を利用して荷電粒子ビームを収束させるため、その電場分布を高い精度で設計値に近づける必要がある。したがって、上記した複数のチューナ30による電場分布の調整方法を適用すれば、APF法による荷電粒子ビームの収束を好適に実現することができる。
【0037】
また、加速管10は、その直径が加速軸Axの方向に変化する形状に構成されていることとしても良い。このように、加速軸Axに沿った電場分布や荷電粒子の加速条件などの諸条件に合わせて加速管10の形状を変えていく構成とすることにより、荷電粒子の加速を好適に実現することができる。また、加速軸Axに沿った各位置において、高周波電場を生成するための電流路のインダクタンスを適切に設定することが可能となる。
【0038】
上記した複数のチューナ(電場調整手段)を用いた線形加速器における電場分布の調整について、さらに具体的に説明する。
【0039】
図2は、単一のチューナを用いた場合の電場分布の変化について示すグラフである。このグラフにおいて、横軸はドリフトチューブ群でのギャップ番号を示し、縦軸は相対的な電圧値を示している。また、位置A0は単一の誘導性のチューナの設置位置を示し、グラフA1はチューナを用いない初期電圧分布を示し、グラフA2はチューナ使用時の電圧分布を示している。これらのグラフA1、A2に示すように、チューナを用いることで、その設置位置A0及びその近傍の電圧を下げることが可能である。ただし、このような単一のチューナでは、その近傍の電圧を調整できるのみで制御の自由度が低く、共振器の全体として電場分布を制御することはできない。
【0040】
これに対して、複数のチューナを用いた場合の電場分布の変化を図3のグラフに示す。このグラフにおいて、グラフB1はチューナを用いない初期電圧分布を示し、グラフB2はチューナ使用時の電圧分布を示している。これらのグラフB1、B2に示すように、加速軸Axに沿って適切に配置された複数のチューナを用いることにより、共振器の全体として高周波電場の電場分布を高い自由度で細かく制御して、電場分布を任意の形に調整することが可能となる。
【0041】
このような複数のチューナによる効果について、さらに説明する。なお、以下に示す図4及び図5のグラフにおいては、チューナによる電場分布の調整の効果及び自由度についての説明の分かりやすさのため、線形加速器における実際の調整条件からは外れた条件で電場分布の調整を行っている。
【0042】
図4は、複数のチューナのうちで個々のチューナを用いた場合の電場分布の変化について示すグラフである。このグラフにおいて、横軸はドリフトチューブ群でのギャップ番号を示し、縦軸はチューナ使用時の電圧変化率を示している。また、グラフD1〜D4は、それぞれ位置C1〜C4のチューナを使用した場合の電圧変化率分布を示している。
【0043】
これらのグラフD1〜D4に示すように、各位置C1〜C4に設置されたチューナを用いることで、その設置位置及びその近傍で電圧が下がり、それぞれ異なる調整条件で全体の電場分布が調整される。したがって、このようなチューナを加速軸Axの方向に複数配置しておき、それらを組み合わせて電場調整を行うことにより、上記したように高周波電場の電場分布を高い自由度で任意の形に調整することが可能である。図5は、そのような複数のチューナを用いた電場分布の調整の例を示すグラフであり、矢印で示す8個所に配置されたチューナを用いて電場分布を変化させたときの電圧変化率分布を示している。
【0044】
図1に示した線形加速器1の具体的な構成例について説明する。
【0045】
図6は、本発明によるIH型の線形加速器の具体的な構成例を示す側面断面図である。また、図7は、図6に示した線形加速器の上面図である。本構成例による線形加速器1Aは、図1に示した線形加速器1と同様の基本構成を有し、加速管10と、第1リッジ部11と、第2リッジ部12と、ドリフトチューブ群20とを備えている。加速管10は、加速軸Axを含み、その直径が加速軸Axに沿った荷電粒子の加速方向に向かって徐々に大きくなる略円筒形状を有している。
【0046】
また、加速管10の下側、上側の内壁上には、それぞれ第1リッジ部11、第2リッジ部12がほぼ加速管10の全長にわたって設けられている。また、リッジ部11、12の加速方向側の端部(図中の右側の端部)には、それぞれ切り欠き部11a、12aが形成されている。これらの切り欠き部11a、12aは、リッジ部11、12に電流が流れたときに生じる磁束を通すことによって電場分布を調整するものである。
【0047】
ドリフトチューブ群20は、第1リッジ部11に支持された第1ドリフトチューブ21と、第2リッジ部12に支持された第2ドリフトチューブ22とが加速軸Axに沿って複数交互に配列された構成となっている。本構成例においては、第1リッジ部11に対してn個のドリフトチューブ211〜21nが、また、第2リッジ部12に対してn+1個のドリフトチューブ221〜22n+1が設けられている。そして、これらのドリフトチューブが、221、211、222、212、…、21n−1、22n、21n、22n+1の順で加速軸Axに沿って配列されることにより、ドリフトチューブ群20が構成されている。
【0048】
また、本構成例の線形加速器1Aにおいては、電場分布調整用のチューナとして、図7に示すように16個のチューナ301〜308、401〜408が設けられている。これらのチューナのうち、チューナ301〜308は加速方向で向かって右側に配置され、チューナ401〜408は向かって左側に配置されている。また、加速軸Axに沿ったチューナの配列については、チューナ301、401、302、402、…、308、408の順で加速方向に並ぶ配列となっている。
【0049】
図8は、図6に示した線形加速器の加速軸Axに垂直な面での断面図である。この断面図では、加速方向で向かって右側に配置されたチューナ30を含む面での断面構造を示している。また、図9は、チューナ30の具体的な構成例を概略的に示す断面図である。なお、図8では、チューナ30については、電場分布の調整に用いられる調整部材31のみを図示している。
【0050】
図8及び図9に示す断面構造においては、加速管10の右側の所定位置に開口部10aが設けられており、この開口部10aに対して電場分布調整用のチューナ30が設置されている。本構成例では、チューナ30は、調整部材31を有して構成されている。この調整部材31は、加速管10と加速軸Axとの間に配置され、ドリフトチューブ群20に対する位置関係を変えることが可能に構成されている。具体的には、この調整部材31は、円筒形状を有するとともに、加速軸Axに垂直な軸Dxを駆動軸とし、ドリフトチューブ群20との間の距離(加速管10への調整部材31の出し入れ量)によってインダクタンスLを変えることで電場分布を調整する誘導性の調整手段として構成されている。
【0051】
チューナ30は、図9に示すように、上記の調整部材31に加えて、調整部材31を支持するとともに加速管10内の真空を保持可能なように構成された支持部32、及び調整部材31を軸Dxの方向に駆動する駆動部33を有している。また、駆動部33は、調整部材31の後方側に接続され内部にネジ穴を有する駆動部材33aと、駆動部材33aのネジ穴を介して調整部材31を駆動する駆動用ネジ33bとを有している。
【0052】
また、駆動用ネジ33bには駆動ハンドル34が接続されており、このハンドル34によって手動で調整部材31を駆動することが可能な構成となっている。なお、このような調整部材31の駆動構成については、例えば駆動ハンドル34に代えてステッピングモータを駆動用ネジ33bに接続するなど、自動で調整部材31を駆動することが可能な構成としても良い。例えば、図7に示す構成においては、16個のチューナのうちで2個のチューナ302、407が自動駆動の構成、それ以外が手動駆動の構成となっている。
【0053】
ここで、上記した線形加速器1Aの構成において、加速管10の具体的な形状は、例えば加速軸Ax方向の長さが3.5m程度、直径がφ300mm程度である。また、ドリフトチューブ群20の具体的な構成は、例えば加速軸Axを中心としたドリフトチューブの円筒形状の内径がφ14mm程度、外径がφ28〜30mm程度、加速軸Ax方向の長さが位置によって異なるが10〜30mm程度である。また、ドリフトチューブ群の全体でのギャップ数は72程度、高周波電場の周波数は200MHz程度である。また、チューナ30の調整部材31は、例えばその円筒形状がφ100mm程度、軸Dx方向の駆動幅が50mm程度である。なお、図6においては、ドリフトチューブ群20を構成するドリフトチューブ21、22については、両端部近傍に位置するもののみを示し、その間に位置するものについては図示を省略している。また、図9においては、チューナ30の構成を概略的に示しており、支持部32における調整部材31の支持機構、真空保持機構などの具体的な構造については図示を簡略化している。また、上記した各数値は、単に構成の一例を示すものであって、各部の形状、周波数、個数等は、個々の加速器の構成や必要な性能等に応じて適宜設定すれば良い。
【0054】
図10は、線形加速器の他の実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。本実施形態の線形加速器2の構成のうち、加速管10と、リッジ部11、12と、ステム13、14と、ドリフトチューブ21、22からなるドリフトチューブ群20とについては、図1に示した線形加速器1の構成と同様である。本実施形態の線形加速器2においては、電場分布を調整する複数の電場調整手段として、誘電性のチューナ301〜30mに代えて、m個の容量性のチューナ501〜50mが加速軸Ax方向に並ぶように配置されている。
【0055】
図11は、図10に示した線形加速器の加速軸Axに垂直な面での断面図である。図11に示す断面構造においては、加速管10の右側の所定位置に開口部10bが設けられており、この開口部10bに対して電場分布調整用のチューナ50が設置されている。本構成例では、チューナ50は、調整部材51を有して構成されている。具体的には、この調整部材51は、容量板となる板状部材を支持用の棒状部材の先端部に接続した構成を有するとともに、加速軸Axに垂直な軸Dxを駆動軸とし、ドリフトチューブ群20との間の距離によって静電容量Cを変えることで電場分布を調整する容量性の調整手段として構成されている。このように、電場分布を調整するための電場調整手段としては、具体的には様々な構成を用いることが可能である。
【0056】
本発明による線形加速器は、上記した実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、加速管の内壁上に設けられてドリフトチューブを支持する第1支持部、第2支持部として第1リッジ部、第2リッジ部を用いているが、リッジ部以外の構成の支持部を用いても良い。また、複数の電場調整手段の具体的な個数については、個々の加速器において必要とされる電場分布の調整精度などに応じて適宜に設定して良い。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、IH型の共振器構造を有するとともに、荷電粒子の加速に用いられる高周波電場の電場分布を好適に制御可能な線形加速器として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】線形加速器の一実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】単一のチューナを用いた場合の電場分布の変化について示すグラフである。
【図3】複数のチューナを用いた場合の電場分布の変化について示すグラフである。
【図4】複数のチューナのうちで個々のチューナを用いた場合の電場分布の変化について示すグラフである。
【図5】複数のチューナを用いた場合の電場分布の変化について示すグラフである。
【図6】線形加速器の具体的な構成例を示す側面断面図である。
【図7】図6に示した線形加速器の上面図である。
【図8】図6に示した線形加速器の加速軸に垂直な面での断面図である。
【図9】チューナの具体的な構成例を概略的に示す断面図である。
【図10】線形加速器の他の実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。
【図11】図10に示した線形加速器の加速軸に垂直な面での断面図である。
【図12】線形加速器の構成を模式的に示す斜視図である。
【図13】アルバレ型の線形加速器での荷電粒子の加速原理を示す模式図である。
【図14】IH型の線形加速器での荷電粒子の加速原理を示す模式図である。
【符号の説明】
【0059】
1、1A、2…線形加速器、Ax…加速軸、10…加速管、10a、10b…開口部、11…第1リッジ部、12…第2リッジ部、11a、12a…切り欠き部、13、14…ステム、20…ドリフトチューブ群、21…第1ドリフトチューブ、22…第2ドリフトチューブ、30、40、50…チューナ、31、51…調整部材、32…支持部、33…駆動部、33a…駆動部材、33b…駆動用ネジ、34…駆動ハンドル。
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速管内に生成される高周波電場を用い、直線状の加速軸に沿って荷電粒子を加速する線形加速器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加速器は、電子や陽子、あるいは重粒子などの荷電粒子を加速して高エネルギーの粒子ビームを生成する装置である。また、加速器のうち、直線状の加速軸に沿って荷電粒子を加速するものは、線形加速器と呼ばれている。線形加速器では、共振器となる加速管内に加速軸に沿ってドリフトチューブと呼ばれる筒状電極を複数配列した構成が用いられる。そして、隣接するドリフトチューブ間のギャップにおいて、高周波電場によって荷電粒子が加速される(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】E. Nolte et al., "The Munich Heavy Ion Postaccelerator", IEEE Transactions on Nuclear Science, Vol. NS-26, No.3(1979) pp.3724-3726
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
線形加速器の具体的な構造としては、従来、アルバレ型とよばれる共振器構造が用いられている。また、近年、IH(Interdigital H)型と呼ばれる共振器構造の線形加速器が注目されている。ここで、図12は、線形加速器の構成を模式的に示す斜視図であり、図12の構成(a)は、アルバレ型の線形加速器の基本構成を示し、構成(b)は、IH型の線形加速器の基本構成を示している。
【0004】
図12の構成(a)に示すように、アルバレ型の線形加速器8は、加速管80と、ステム81を介して加速管80に支持されたドリフトチューブ86が加速軸Axに沿って複数配列されたドリフトチューブ群85とを備えている。
【0005】
図13は、アルバレ型の線形加速器における荷電粒子の加速原理を示す模式図である。ここでは、ドリフトチューブ群85を構成するドリフトチューブ86として、4個のドリフトチューブ861、862、863、864を示している。ドリフトチューブ86は筒状の中空部88aを有し、加速対象となる荷電粒子Pは、加速軸Axに沿ってドリフトチューブ86の中空部88a、及び隣接するドリフトチューブ86間のギャップ部88bを順に通過しつつ加速される。
【0006】
アルバレ型の線形加速器8では、図13の(a)〜(c)に示すように、加速用の高周波電場は、各ドリフトチューブ間のギャップ部88bにおいて同方向となる。ここで、図13(a)に示すように、ドリフトチューブ861、862間、ドリフトチューブ862、863間、及びドリフトチューブ863、864間のギャップ部88bでの電場がそれぞれ加速方向を向いている状態で、荷電粒子Pがドリフトチューブ861、862間のギャップ部88b内にあるとする。このとき、荷電粒子Pは、加速方向を向いているギャップ部88b内の電場によって加速される。
【0007】
次に、図13(b)に示すように、半周期後には電場は逆方向となり、ドリフトチューブ86間のギャップ部88bでの電場が加速方向とは反対方向を向く。このとき、荷電粒子Pは、ドリフトチューブ862の中空部88aにあるために減速を受けない。さらに、図13(c)に示すように、1周期後には、ドリフトチューブ86間のギャップ部88bでの電場が再び加速方向を向く。このとき、荷電粒子Pは、ドリフトチューブ862、863間のギャップ部88b内にあって再び加速される。
【0008】
一方、図12の構成(b)に示すように、IH型の線形加速器9は、加速管90と、加速管90の内壁上に互いに対向するように設けられた第1リッジ部91及び第2リッジ部92と、ステム93、94を介してそれぞれリッジ部91、92に支持された第1ドリフトチューブ96、第2ドリフトチューブ97が加速軸Axに沿って複数交互に配列されたドリフトチューブ群95とを備えている。
【0009】
図14は、IH型の線形加速器における荷電粒子の加速原理を示す模式図である。ここでは、ドリフトチューブ群95を構成するドリフトチューブ96、97として、4個のドリフトチューブ961、971、962、972を示している。ドリフトチューブ96、97は筒状の中空部98aを有し、加速対象となる荷電粒子Pは、加速軸Axに沿ってドリフトチューブ96、97の中空部98a、及び隣接するドリフトチューブ96、97間のギャップ部98bを順に通過しつつ加速される。
【0010】
IH型の線形加速器9では、図14(a)〜(c)に示すように、加速用の高周波電場は、各ドリフトチューブ間のギャップ部98bにおいて交互に逆方向となる。ここで、図14(a)に示すように、ドリフトチューブ961、971間、及びドリフトチューブ962、972間のギャップ部98bでの電場がそれぞれ加速方向を向いており、ドリフトチューブ971、962間のギャップ部98bでの電場が加速方向とは反対方向を向いている状態で、荷電粒子Pがドリフトチューブ961、971間のギャップ部98b内にあるとする。このとき、荷電粒子Pは、加速方向を向いているギャップ部98b内の電場によって加速される。
【0011】
次に、図14(b)に示すように、半周期後には電場は逆方向となり、ドリフトチューブ961、971間、及び962、972間のギャップ部98bでの電場が加速方向とは反対方向を向き、ドリフトチューブ971、962間のギャップ部98bでの電場が加速方向を向く。このとき、荷電粒子Pは、ドリフトチューブ971、962間のギャップ部98b内にあって、加速方向を向いている電場によって加速される。さらに、図14(c)に示すように、1周期後には、ドリフトチューブ961、971間、及び962、972間のギャップ部98bでの電場が再び加速方向を向き、ドリフトチューブ971、962間のギャップ部98bでの電場が加速方向とは反対方向を向く。このとき、荷電粒子Pは、ドリフトチューブ962、972間のギャップ部98b内にあって、加速方向を向いている電場によって加速される。
【0012】
上記のように、アルバレ型の線形加速器8では、荷電粒子Pは高周波電場の1周期につき1回の加速を受けながら加速軸Axに沿って加速される。一方、IH型の線形加速器9では、荷電粒子Pは高周波電場の1周期につき2回の加速を受けるような共振モードが用いられる。
【0013】
ここで、IH型の共振器構造を用いて線形加速器を構成する場合、上記した共振モードによる荷電粒子の加速を実現するため、その実際の電場分布を設計の電場分布に精度良く合わせることが必要である。しかしながら、リッジ部91、92に支持されたドリフトチューブ96、97が交互に配列されるIH型の構成では、ギャップ電圧を個別に調整する方法がなく、一部の構造を変化させると全体の電場分布に影響が及ぶため、そのような電場分布の制御が難しいという問題がある。
【0014】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、IH型の共振器構造を有するとともに、荷電粒子の加速に用いられる高周波電場の電場分布を好適に制御可能な線形加速器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような目的を達成するために、本発明による線形加速器は、所定の加速軸に沿って荷電粒子を加速する線形加速器であって、(1)直線状に設定された荷電粒子の加速軸を内部に含み、加速軸を長手方向として設けられた加速管と、(2)加速管の内壁上の所定位置に加速軸の方向に延びるように設けられた第1支持部と、(3)加速管の内壁上で第1支持部と対向する位置に加速軸の方向に延びるように設けられた第2支持部と、(4)第1支持部に電気的に接続されて支持された第1ドリフトチューブ、及び第2支持部に電気的に接続されて支持された第2ドリフトチューブが加速軸に沿って複数交互に配列されたドリフトチューブ群と、(5)ドリフトチューブ群によって加速管内で生成されて荷電粒子の加速に用いられる高周波電場に対し、その電場分布を調整可能に構成されるとともに、加速軸に対してそれぞれ異なる位置に設置された複数の電場調整手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
上記した線形加速器においては、その共振器構造として、第1支持部(例えば第1リッジ部)にステム等を介して支持された第1ドリフトチューブと、第2支持部(例えば第2リッジ部)にステム等を介して支持された第2ドリフトチューブとを交互に配列して荷電粒子の加速を行うIH型の構造を用いている。これにより、加速器における荷電粒子の加速効率を向上することができる。また、装置の小型化も可能となる。
【0017】
さらに、このようなIH型の構造に対し、加速管内で電場分布を調整する電場調整手段(チューナ)を加速軸方向に複数並べて配置している。このような複数の電場調整手段を用いることにより、例えば製造された加速器での電場分布が設計の電場分布からずれている場合でも、その共振器の全体として電場分布を細かく制御して、荷電粒子を加速するために好適な電場分布に調整することが可能となる。
【0018】
ここで、電場分布の調整に用いられる複数の電場調整手段は、インダクタンスLを変えることで電場分布を調整する誘導性の調整手段を含むことが好ましい。あるいは、複数の電場調整手段は、静電容量Cを変えることで電場分布を調整する容量性の調整手段を含むことが好ましい。このように、誘導性または容量性の調整手段を用いることにより、荷電粒子を加速するための高周波電場の電場分布を好適に制御することが可能となる。このような構成では、複数の電場調整手段は、その全部が誘導性の調整手段、または容量性の調整手段であっても良く、あるいは、誘導性の調整手段と容量性の調整手段とを併用する構成であっても良い。
【0019】
また、電場調整手段は、加速管と加速軸との間に配置され、ドリフトチューブ群に対する位置関係を変えることが可能に構成された調整部材を有することが好ましい。このような調整部材を用いれば、調整部材のドリフトチューブ群との位置関係を変えることによって高周波電場の電場分布を確実に制御することができる。このような調整部材は、誘導性または容量性の調整手段のいずれに対しても適用が可能である。
【0020】
また、ドリフトチューブ群は、高周波電場の位相を利用するAPF(Alternating Phase Focusing)法によって、荷電粒子の加速ビームを収束させることが可能に構成されていることが好ましい。APF法を用いることにより、加速される荷電粒子ビームを簡単な構成で収束させることができる。また、このようなAPF法では、電場分布を高い精度で設計値に近づける必要があり、上記構成による電場分布の調整が特に有効である。
【0021】
また、加速管は、その直径が加速軸の方向に変化する形状に構成されていることとしても良い。このように、加速軸に沿った電場分布や荷電粒子の加速条件などの諸条件に合わせて加速管の形状を変えていく構成とすることにより、荷電粒子の加速を好適に実現することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の線形加速器によれば、共振器構造としてIH型の構造を用いるとともに、ドリフトチューブ群によって生成されて荷電粒子の加速に用いられる高周波電場に対し、加速管内で電場分布を調整する電場調整手段を加速軸方向に複数並べて配置することにより、共振器の全体として電場分布を細かく制御して、好適な電場分布に調整することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面とともに本発明によるIH型の線形加速器の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0024】
図1は、本発明による線形加速器の一実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。本実施形態の加速器1は、IH(Interdigital H)型の共振器構造を有し、直線状に設定された加速軸Axに沿って荷電粒子を加速する線形加速器である。この線形加速器1は、加速管10と、第1リッジ部11と、第2リッジ部12と、ドリフトチューブ群20とを備えている。
【0025】
加速管10は、その内部に加速対象の荷電粒子を加速するための高周波電場が形成される管状部材であり、加速軸Axを内部に含み、軸Axを長手方向とした筒状形状(図1においては円筒形状)を有している。加速管10の内壁上の所定位置には、加速軸Axの方向に延びる第1リッジ部11が設けられている。また、加速管10の内壁上で第1リッジ部11と対向する位置には、同様に加速軸Axの方向に延びる第2リッジ部12が設けられている。リッジ部11、12は、ドリフトチューブ群20を構成する複数のドリフトチューブを支持するための第1支持部、第2支持部である。図1においては、これらのリッジ部11、12は、加速管10の下側、上側の内壁上にそれぞれ設置されている。
【0026】
ドリフトチューブ群20は、加速管10内において、荷電粒子の加速に用いられる高周波電場を生成するための電極群であり、加速軸Axに沿って配列された複数のドリフトチューブによって構成されている。具体的には、IH型の構成を有するドリフトチューブ群20は、上記した第1リッジ部11、及び第2リッジ部12に対応して、第1ドリフトチューブ21、及び第2ドリフトチューブ22の2種類のドリフトチューブが加速軸Axに沿って複数交互に配列された構成となっている。
【0027】
第1ドリフトチューブ21は、第1支持部であるリッジ部11に対して、ステム13を介して電気的に接続された状態で支持されている。また、第2ドリフトチューブ22は、第2支持部であるリッジ部12に対して、ステム14を介して電気的に接続された状態で支持されている。これらのドリフトチューブ21、22は、それぞれ加速軸Axを中心軸とした中空部を有する円筒状部材から構成されている。このような構成において、加速対象となる荷電粒子は、加速軸Axに沿ってドリフトチューブ21、22の中空部、及び隣接するドリフトチューブ21、22間のギャップ部を順に通過しつつ加速される。
【0028】
図1の構成例においては、第1リッジ部11に対してn個のステム131〜13n及びドリフトチューブ211〜21nが、また、第2リッジ部12に対して同様にn個のステム141〜14n及びドリフトチューブ221〜22nが設けられている。そして、これらのドリフトチューブが、211、221、212、222、…、21n、22nの順で加速軸Axに沿って配列されることにより、ドリフトチューブ群20が構成されている。なお、このようなIH型の構成を有する線形加速器1における荷電粒子の加速原理については、基本的には図14に関して上述したものと同様である。
【0029】
本実施形態の線形加速器1においては、上記構成のドリフトチューブ群20によって加速管10内で生成されて荷電粒子の加速に用いられる高周波電場に対し、チューナ30が設けられている。このチューナ30は、高周波電場の電場分布を調整可能に構成された電場調整手段であり、加速軸Axに対してそれぞれ異なる位置に複数設置されている。図1の構成例においては、m個のチューナ301〜30mが加速軸Ax方向に並ぶように配置されている。
【0030】
上記実施形態による線形加速器1の効果について説明する。
【0031】
図1に示した線形加速器1においては、その共振器構造として、第1リッジ部11にステム13を介して支持された第1ドリフトチューブ21と、第2リッジ部12にステム14を介して支持された第2ドリフトチューブ22とを交互に配列したドリフトチューブ群20によって荷電粒子の加速を行うIH型の構造を用いている。このようなIH型の線形加速器1では、上述したように、荷電粒子が高周波電場の1周期につき2回の加速を受けるような共振モードが用いられる。本構成の線形加速器1によれば、このような共振モードを用いることにより、荷電粒子を好適に加速することができる。また、装置の小型化、製造コストの低減も可能となる。このような線形加速器の小型化は、例えば、加速された荷電粒子ビームを用いたがん治療装置の普及などの実用面において非常に重要である。
【0032】
さらに、上記した線形加速器1においては、IH型の共振器構造に対し、加速管10内で電場分布を調整するチューナ(電場調整手段)30を加速軸Ax方向に複数並べて配置している。このような複数のチューナ301〜30mを加速管10内に設置することにより、その共振器の全体として高周波電場の電場分布を細かく制御して、荷電粒子を加速するために好適な条件の電場分布に調整することが可能となる。これにより、例えば実際に製造された加速器での電場分布が設計の電場分布からずれている場合でも、その電場分布を設計の電場分布に精度良く近づけることができる。また、このような構成では、ギャップ数が比較的多い線形加速器の設計が可能となる。
【0033】
電場分布の調整に用いられる電場調整手段の例としては、図1に模式的に示すように、インダクタンスLを変えることで電場分布を調整する誘導性のチューナを用いることができる。あるいは、電場調整手段としては、静電容量Cを変えることで電場分布を調整する容量性のチューナを用いても良い。
【0034】
ここで、IH型の線形加速器では、その断面構造(後述する図8の断面図を参照)において、円形状の加速管、及びその中心で垂直方向に延びるリッジ部、ステム、及びドリフトチューブによって、高周波電場を生成するためのドリフトチューブに対応した電流路が構成される。これに対して、上記した誘導性または容量性のチューナを用いれば、ドリフトチューブに対する電流路でのインダクタンスLまたは静電容量Cが変わることとなる。これにより、ドリフトチューブ群20によって生成される荷電粒子を加速するための高周波電場の電場分布を好適に制御することが可能となる。なお、このような構成では、複数の電場調整手段は、その全部が誘導性の調整手段、または容量性の調整手段であっても良く、あるいは、誘導性の調整手段と容量性の調整手段とを併用する構成であっても良い。
【0035】
また、電場調整手段の具体的な構成については、加速管10と加速軸Axとの間に配置され、ドリフトチューブ群20に対する位置関係を変えることが可能に構成された調整部材を有する構成とすることが好ましい。このような調整部材を用いれば、調整部材のドリフトチューブ群との位置関係(例えば調整部材からドリフトチューブ群までの距離)を変えることによって電場分布を確実に制御することができる。このような調整部材は、上記した誘導性または容量性の調整手段のいずれに対しても適用が可能である。なお、電場調整手段(チューナ)及び調整部材の構成については、具体的には後述する。
【0036】
また、このような電場分布の調整は、ドリフトチューブ群20がAPF(Alternating Phase Focusing)法によって荷電粒子の加速ビームを収束させることが可能に構成されているような場合に特に有効である。APF法は、加速用の高周波電場の位相のプラス・マイナスによるビームの収束・発散効果を組み合わせることにより、簡単な構成で荷電粒子ビームの収束を実現する方法である。したがって、このような収束方法を用いることにより、簡単な構成で高品質の荷電粒子の加速ビームを得ることができる。また、APF法においては、高周波電場の位相を利用して荷電粒子ビームを収束させるため、その電場分布を高い精度で設計値に近づける必要がある。したがって、上記した複数のチューナ30による電場分布の調整方法を適用すれば、APF法による荷電粒子ビームの収束を好適に実現することができる。
【0037】
また、加速管10は、その直径が加速軸Axの方向に変化する形状に構成されていることとしても良い。このように、加速軸Axに沿った電場分布や荷電粒子の加速条件などの諸条件に合わせて加速管10の形状を変えていく構成とすることにより、荷電粒子の加速を好適に実現することができる。また、加速軸Axに沿った各位置において、高周波電場を生成するための電流路のインダクタンスを適切に設定することが可能となる。
【0038】
上記した複数のチューナ(電場調整手段)を用いた線形加速器における電場分布の調整について、さらに具体的に説明する。
【0039】
図2は、単一のチューナを用いた場合の電場分布の変化について示すグラフである。このグラフにおいて、横軸はドリフトチューブ群でのギャップ番号を示し、縦軸は相対的な電圧値を示している。また、位置A0は単一の誘導性のチューナの設置位置を示し、グラフA1はチューナを用いない初期電圧分布を示し、グラフA2はチューナ使用時の電圧分布を示している。これらのグラフA1、A2に示すように、チューナを用いることで、その設置位置A0及びその近傍の電圧を下げることが可能である。ただし、このような単一のチューナでは、その近傍の電圧を調整できるのみで制御の自由度が低く、共振器の全体として電場分布を制御することはできない。
【0040】
これに対して、複数のチューナを用いた場合の電場分布の変化を図3のグラフに示す。このグラフにおいて、グラフB1はチューナを用いない初期電圧分布を示し、グラフB2はチューナ使用時の電圧分布を示している。これらのグラフB1、B2に示すように、加速軸Axに沿って適切に配置された複数のチューナを用いることにより、共振器の全体として高周波電場の電場分布を高い自由度で細かく制御して、電場分布を任意の形に調整することが可能となる。
【0041】
このような複数のチューナによる効果について、さらに説明する。なお、以下に示す図4及び図5のグラフにおいては、チューナによる電場分布の調整の効果及び自由度についての説明の分かりやすさのため、線形加速器における実際の調整条件からは外れた条件で電場分布の調整を行っている。
【0042】
図4は、複数のチューナのうちで個々のチューナを用いた場合の電場分布の変化について示すグラフである。このグラフにおいて、横軸はドリフトチューブ群でのギャップ番号を示し、縦軸はチューナ使用時の電圧変化率を示している。また、グラフD1〜D4は、それぞれ位置C1〜C4のチューナを使用した場合の電圧変化率分布を示している。
【0043】
これらのグラフD1〜D4に示すように、各位置C1〜C4に設置されたチューナを用いることで、その設置位置及びその近傍で電圧が下がり、それぞれ異なる調整条件で全体の電場分布が調整される。したがって、このようなチューナを加速軸Axの方向に複数配置しておき、それらを組み合わせて電場調整を行うことにより、上記したように高周波電場の電場分布を高い自由度で任意の形に調整することが可能である。図5は、そのような複数のチューナを用いた電場分布の調整の例を示すグラフであり、矢印で示す8個所に配置されたチューナを用いて電場分布を変化させたときの電圧変化率分布を示している。
【0044】
図1に示した線形加速器1の具体的な構成例について説明する。
【0045】
図6は、本発明によるIH型の線形加速器の具体的な構成例を示す側面断面図である。また、図7は、図6に示した線形加速器の上面図である。本構成例による線形加速器1Aは、図1に示した線形加速器1と同様の基本構成を有し、加速管10と、第1リッジ部11と、第2リッジ部12と、ドリフトチューブ群20とを備えている。加速管10は、加速軸Axを含み、その直径が加速軸Axに沿った荷電粒子の加速方向に向かって徐々に大きくなる略円筒形状を有している。
【0046】
また、加速管10の下側、上側の内壁上には、それぞれ第1リッジ部11、第2リッジ部12がほぼ加速管10の全長にわたって設けられている。また、リッジ部11、12の加速方向側の端部(図中の右側の端部)には、それぞれ切り欠き部11a、12aが形成されている。これらの切り欠き部11a、12aは、リッジ部11、12に電流が流れたときに生じる磁束を通すことによって電場分布を調整するものである。
【0047】
ドリフトチューブ群20は、第1リッジ部11に支持された第1ドリフトチューブ21と、第2リッジ部12に支持された第2ドリフトチューブ22とが加速軸Axに沿って複数交互に配列された構成となっている。本構成例においては、第1リッジ部11に対してn個のドリフトチューブ211〜21nが、また、第2リッジ部12に対してn+1個のドリフトチューブ221〜22n+1が設けられている。そして、これらのドリフトチューブが、221、211、222、212、…、21n−1、22n、21n、22n+1の順で加速軸Axに沿って配列されることにより、ドリフトチューブ群20が構成されている。
【0048】
また、本構成例の線形加速器1Aにおいては、電場分布調整用のチューナとして、図7に示すように16個のチューナ301〜308、401〜408が設けられている。これらのチューナのうち、チューナ301〜308は加速方向で向かって右側に配置され、チューナ401〜408は向かって左側に配置されている。また、加速軸Axに沿ったチューナの配列については、チューナ301、401、302、402、…、308、408の順で加速方向に並ぶ配列となっている。
【0049】
図8は、図6に示した線形加速器の加速軸Axに垂直な面での断面図である。この断面図では、加速方向で向かって右側に配置されたチューナ30を含む面での断面構造を示している。また、図9は、チューナ30の具体的な構成例を概略的に示す断面図である。なお、図8では、チューナ30については、電場分布の調整に用いられる調整部材31のみを図示している。
【0050】
図8及び図9に示す断面構造においては、加速管10の右側の所定位置に開口部10aが設けられており、この開口部10aに対して電場分布調整用のチューナ30が設置されている。本構成例では、チューナ30は、調整部材31を有して構成されている。この調整部材31は、加速管10と加速軸Axとの間に配置され、ドリフトチューブ群20に対する位置関係を変えることが可能に構成されている。具体的には、この調整部材31は、円筒形状を有するとともに、加速軸Axに垂直な軸Dxを駆動軸とし、ドリフトチューブ群20との間の距離(加速管10への調整部材31の出し入れ量)によってインダクタンスLを変えることで電場分布を調整する誘導性の調整手段として構成されている。
【0051】
チューナ30は、図9に示すように、上記の調整部材31に加えて、調整部材31を支持するとともに加速管10内の真空を保持可能なように構成された支持部32、及び調整部材31を軸Dxの方向に駆動する駆動部33を有している。また、駆動部33は、調整部材31の後方側に接続され内部にネジ穴を有する駆動部材33aと、駆動部材33aのネジ穴を介して調整部材31を駆動する駆動用ネジ33bとを有している。
【0052】
また、駆動用ネジ33bには駆動ハンドル34が接続されており、このハンドル34によって手動で調整部材31を駆動することが可能な構成となっている。なお、このような調整部材31の駆動構成については、例えば駆動ハンドル34に代えてステッピングモータを駆動用ネジ33bに接続するなど、自動で調整部材31を駆動することが可能な構成としても良い。例えば、図7に示す構成においては、16個のチューナのうちで2個のチューナ302、407が自動駆動の構成、それ以外が手動駆動の構成となっている。
【0053】
ここで、上記した線形加速器1Aの構成において、加速管10の具体的な形状は、例えば加速軸Ax方向の長さが3.5m程度、直径がφ300mm程度である。また、ドリフトチューブ群20の具体的な構成は、例えば加速軸Axを中心としたドリフトチューブの円筒形状の内径がφ14mm程度、外径がφ28〜30mm程度、加速軸Ax方向の長さが位置によって異なるが10〜30mm程度である。また、ドリフトチューブ群の全体でのギャップ数は72程度、高周波電場の周波数は200MHz程度である。また、チューナ30の調整部材31は、例えばその円筒形状がφ100mm程度、軸Dx方向の駆動幅が50mm程度である。なお、図6においては、ドリフトチューブ群20を構成するドリフトチューブ21、22については、両端部近傍に位置するもののみを示し、その間に位置するものについては図示を省略している。また、図9においては、チューナ30の構成を概略的に示しており、支持部32における調整部材31の支持機構、真空保持機構などの具体的な構造については図示を簡略化している。また、上記した各数値は、単に構成の一例を示すものであって、各部の形状、周波数、個数等は、個々の加速器の構成や必要な性能等に応じて適宜設定すれば良い。
【0054】
図10は、線形加速器の他の実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。本実施形態の線形加速器2の構成のうち、加速管10と、リッジ部11、12と、ステム13、14と、ドリフトチューブ21、22からなるドリフトチューブ群20とについては、図1に示した線形加速器1の構成と同様である。本実施形態の線形加速器2においては、電場分布を調整する複数の電場調整手段として、誘電性のチューナ301〜30mに代えて、m個の容量性のチューナ501〜50mが加速軸Ax方向に並ぶように配置されている。
【0055】
図11は、図10に示した線形加速器の加速軸Axに垂直な面での断面図である。図11に示す断面構造においては、加速管10の右側の所定位置に開口部10bが設けられており、この開口部10bに対して電場分布調整用のチューナ50が設置されている。本構成例では、チューナ50は、調整部材51を有して構成されている。具体的には、この調整部材51は、容量板となる板状部材を支持用の棒状部材の先端部に接続した構成を有するとともに、加速軸Axに垂直な軸Dxを駆動軸とし、ドリフトチューブ群20との間の距離によって静電容量Cを変えることで電場分布を調整する容量性の調整手段として構成されている。このように、電場分布を調整するための電場調整手段としては、具体的には様々な構成を用いることが可能である。
【0056】
本発明による線形加速器は、上記した実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では、加速管の内壁上に設けられてドリフトチューブを支持する第1支持部、第2支持部として第1リッジ部、第2リッジ部を用いているが、リッジ部以外の構成の支持部を用いても良い。また、複数の電場調整手段の具体的な個数については、個々の加速器において必要とされる電場分布の調整精度などに応じて適宜に設定して良い。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、IH型の共振器構造を有するとともに、荷電粒子の加速に用いられる高周波電場の電場分布を好適に制御可能な線形加速器として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】線形加速器の一実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】単一のチューナを用いた場合の電場分布の変化について示すグラフである。
【図3】複数のチューナを用いた場合の電場分布の変化について示すグラフである。
【図4】複数のチューナのうちで個々のチューナを用いた場合の電場分布の変化について示すグラフである。
【図5】複数のチューナを用いた場合の電場分布の変化について示すグラフである。
【図6】線形加速器の具体的な構成例を示す側面断面図である。
【図7】図6に示した線形加速器の上面図である。
【図8】図6に示した線形加速器の加速軸に垂直な面での断面図である。
【図9】チューナの具体的な構成例を概略的に示す断面図である。
【図10】線形加速器の他の実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。
【図11】図10に示した線形加速器の加速軸に垂直な面での断面図である。
【図12】線形加速器の構成を模式的に示す斜視図である。
【図13】アルバレ型の線形加速器での荷電粒子の加速原理を示す模式図である。
【図14】IH型の線形加速器での荷電粒子の加速原理を示す模式図である。
【符号の説明】
【0059】
1、1A、2…線形加速器、Ax…加速軸、10…加速管、10a、10b…開口部、11…第1リッジ部、12…第2リッジ部、11a、12a…切り欠き部、13、14…ステム、20…ドリフトチューブ群、21…第1ドリフトチューブ、22…第2ドリフトチューブ、30、40、50…チューナ、31、51…調整部材、32…支持部、33…駆動部、33a…駆動部材、33b…駆動用ネジ、34…駆動ハンドル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の加速軸に沿って荷電粒子を加速する線形加速器であって、
直線状に設定された荷電粒子の加速軸を内部に含み、前記加速軸を長手方向として設けられた加速管と、
前記加速管の内壁上の所定位置に前記加速軸の方向に延びるように設けられた第1支持部と、
前記加速管の内壁上で前記第1支持部と対向する位置に前記加速軸の方向に延びるように設けられた第2支持部と、
前記第1支持部に電気的に接続されて支持された第1ドリフトチューブ、及び前記第2支持部に電気的に接続されて支持された第2ドリフトチューブが前記加速軸に沿って複数交互に配列されたドリフトチューブ群と、
前記ドリフトチューブ群によって前記加速管内で生成されて前記荷電粒子の加速に用いられる高周波電場に対し、その電場分布を調整可能に構成されるとともに、前記加速軸に対してそれぞれ異なる位置に設置された複数の電場調整手段と
を備えることを特徴とする線形加速器。
【請求項2】
前記複数の電場調整手段は、インダクタンスLを変えることで前記電場分布を調整する誘導性の調整手段を含むことを特徴とする請求項1記載の線形加速器。
【請求項3】
前記複数の電場調整手段は、静電容量Cを変えることで前記電場分布を調整する容量性の調整手段を含むことを特徴とする請求項1記載の線形加速器。
【請求項4】
前記電場調整手段は、前記加速管と前記加速軸との間に配置され、前記ドリフトチューブ群に対する位置関係を変えることが可能に構成された調整部材を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の線形加速器。
【請求項5】
前記ドリフトチューブ群は、前記高周波電場の位相を利用するAPF法によって、前記荷電粒子の加速ビームを収束させることが可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の線形加速器。
【請求項6】
前記加速管は、その直径が前記加速軸の方向に変化する形状に構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の線形加速器。
【請求項1】
所定の加速軸に沿って荷電粒子を加速する線形加速器であって、
直線状に設定された荷電粒子の加速軸を内部に含み、前記加速軸を長手方向として設けられた加速管と、
前記加速管の内壁上の所定位置に前記加速軸の方向に延びるように設けられた第1支持部と、
前記加速管の内壁上で前記第1支持部と対向する位置に前記加速軸の方向に延びるように設けられた第2支持部と、
前記第1支持部に電気的に接続されて支持された第1ドリフトチューブ、及び前記第2支持部に電気的に接続されて支持された第2ドリフトチューブが前記加速軸に沿って複数交互に配列されたドリフトチューブ群と、
前記ドリフトチューブ群によって前記加速管内で生成されて前記荷電粒子の加速に用いられる高周波電場に対し、その電場分布を調整可能に構成されるとともに、前記加速軸に対してそれぞれ異なる位置に設置された複数の電場調整手段と
を備えることを特徴とする線形加速器。
【請求項2】
前記複数の電場調整手段は、インダクタンスLを変えることで前記電場分布を調整する誘導性の調整手段を含むことを特徴とする請求項1記載の線形加速器。
【請求項3】
前記複数の電場調整手段は、静電容量Cを変えることで前記電場分布を調整する容量性の調整手段を含むことを特徴とする請求項1記載の線形加速器。
【請求項4】
前記電場調整手段は、前記加速管と前記加速軸との間に配置され、前記ドリフトチューブ群に対する位置関係を変えることが可能に構成された調整部材を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の線形加速器。
【請求項5】
前記ドリフトチューブ群は、前記高周波電場の位相を利用するAPF法によって、前記荷電粒子の加速ビームを収束させることが可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の線形加速器。
【請求項6】
前記加速管は、その直径が前記加速軸の方向に変化する形状に構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の線形加速器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−157400(P2007−157400A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348307(P2005−348307)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【Fターム(参考)】
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