説明

線材用アキュームレータ

【課題】アキュームレータ内において、線材に加わる張力を安定化させること。
【解決手段】線材Wを蓄積可能な線材用アキュームレータ20である。線材用アキュームレータ20は、固定軸部32に回転可能に支持された複数の固定側プーリー30と、固定軸部32に対して遠近移動可能に支持された可動軸部42に回転可能に支持された複数の可動側プーリー40と、線材Wが複数の固定側プーリー30及び複数の可動側プーリー30のいずれか1つから他のものに巻掛けられる途中で、線材Wに引取力を付与する引取機構部50とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電線或は電線の芯線等の線材を蓄積する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電線の製造工程、加工工程等において、電線或は電線の芯線等の線材を途絶えることなく連続的に供給するための装置として、線材用アキュームレータが用いられる。
【0003】
例えば、電線は、ボビン等に巻回された線材を供給する線材供給部から、連続的に供給される線材に対して樹脂被覆等の加工を施す製造加工部を経て、線材をボビン等に巻取る巻取部で巻取られる各工程を経て製造される。線材用アキュームレータは、線材供給部と製造加工部との間、或は、製造加工部と巻取部との間等に配設されている。線材用アキュームレータは、線材供給部と製造加工部との間で線材を蓄線することによって、線材供給部のボビン交換時等に蓄積された線材を製造加工部に向けて供給して線材を途絶えることなく連続的に供給する。また、線材用アキュームレータは、巻取部のボビン交換時等には、製造加工部より供給される線材を蓄線することによって、やはり製造加工部からの連続的な線材供給を可能にしている。
【0004】
上記のようなアキュームレータとして、特許文献1等に開示のものがある。
【0005】
特許文献1に開示のアキュームレータは、移動輪と固定輪とを備えており、移動輪は固定輪から離れる方向への推力を有する。線材は移動輪と固定輪とにわたって掛け回されている。そして、固定輪と移動輪との軸間距離を大きくすることにより、線材が蓄積され、また、固定輪と移動輪との軸間距離を小さくすることにより、蓄積された線材が供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−45866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示のアキュームレータでは、線材の引取速度を加速しようとすると、線材が固定輪及び移動輪に掛け回された部分で、固定輪及び移動輪の慣性力等による抵抗力が線材に作用する。
【0008】
すると、線材がアキュームレータから引出される部分で、線材に大きな張力が加わってしまう。これにより、線材が伸びてしまう等の問題が生じ得る。その一方で、線材がアキュームレータに導かれる部分では、線材に加わる張力が小さくなってしまう。これにより、線材が弛んでしまい、固定輪、移動輪等から脱線してしまう等の問題が生じ得る。また、アキュームレータ内の各部において、線材に作用する張力が安定しないこと、また、経時的にも線材に作用する張力が安定しないこと等が原因で、線材がぶれてしまい易くなる。これによりぶれた線材が、固定輪、移動輪の溝壁、周辺部材等にあたってしまい、線材に傷が付いてしまう恐れもあった。
【0009】
そこで、本発明は、アキュームレータ内において、線材に加わる張力を安定化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、第1の態様は、線材を蓄積可能な線材用アキュームレータであって、固定軸部に回転可能に支持された複数の固定側プーリーと、前記固定軸部に対して遠近移動可能に支持された可動軸部に回転可能に支持された複数の可動側プーリーと、線材が前記複数の固定側プーリー及び前記複数の可動側プーリーのいずれか1つから他のものに巻掛けられる途中で、前記線材に引取力を付与する引取機構部を備える。
【0011】
第2の態様は、第1の態様に係る線材用アキュームレータであって、前記引取機構部は、前記線材を巻掛け可能な引取用プーリーと、前記引取用プーリーを回転駆動する回転駆動部とを有し、前記引取用プーリーが、前記複数の固定側プーリー及び前記複数の可動側プーリーのいずれか1つから他のものに巻掛けられる途中の線材を巻掛け可能な位置に設けられている。
【0012】
第3の態様は、第2の態様に係る線材用アキュームレータであって、前記引取用プーリーが、前記固定側プーリーを挟んで前記可動側プーリーの反対側に設けられている。
【0013】
第4の態様は、第3の態様に係る線材用アキュームレータであって、前記引取用プーリーの直径は、前記固定側プーリーの直径よりも大きい。
【0014】
第5の態様は、第2〜第4のいずれか1つの態様に係る線材用アキュームレータであって、前記引取用プーリーは、前記引取用プーリーに巻掛けられた線材の一方側延出部分が前記複数の固定側プーリーのいずれかにガイドされつつ前記複数の可動側プーリーのいずれかに巻掛けられ、前記引取用プーリーに巻掛けられた線材の他方側延出部分が前記複数の固定側プーリーとの接触を回避しつつ前記前記複数の可動側プーリーいずれかに巻掛けられる位置に設けられている。
【0015】
第6の態様は、第1〜第5のいずれか1つの態様に係る線材用アキュームレータであって、前記引取機構部が複数設けられている。
【0016】
第7の態様は、第6の態様に係る線材用アキュームレータであって、前記複数の引取機構部は、前記可動軸部の移動方向にずらして設けられている。
【0017】
第8の態様は、第6の態様に係る線材用アキュームレータであって、前記複数の引取機構部は、前記固定軸部の軸及び前記可動軸部の移動方向の双方に対して交差する方向にずらして設けられている。
【発明の効果】
【0018】
第1の態様に係る線材用アキュームレータによると、線材が前記複数の固定側プーリー及び前記複数の可動側プーリーのいずれか1つから他のものに巻掛けられる途中で、前記線材に引取力を付与する引取機構部を備えている。このため、線材の外部引取速度を加速しようとする場合に、線材がアキュームレータから引出される部分で、線材に加わる張力を抑制することができ、また、線材がアキュームレータに導かれる部分では、線材に加わる張力を大きくすることができる。これにより、アキュームレータ内において、線材に加わる張力を安定化させることができる。
【0019】
第2の態様によると、線材を途中で引取用プーリーに巻掛けることで、線材に張力を付与することができる。
【0020】
第3の態様に係る線材用アキュームレータによると、前記引取用プーリーが、前記固定側プーリーを挟んで前記可動側プーリーの反対側に設けられているため、細長いスペースに設置することができる。また、引取用プーリーと固定側プーリー或は可動側プーリーとの間に掛渡される線材の長さを比較的短くすることができるため、線材を掛渡す際の作業を容易にできると共に、アキュームレータ動作中における線材のブレも抑制できる。
【0021】
第4の態様によると、前記引取用プーリーの直径は、前記固定側プーリーの直径よりも大きいため、引取用プーリーに巻掛けられた線材を、固定側プーリーとの接触を抑制しつつ、可動側プーリーに巻掛け易い。
【0022】
第5の態様によると、比較的コンパクトな構成で、線材と固定側プーリーとの接触による線材の傷付きを抑制できる。
【0023】
第6の態様によると、線材に加わる張力をより安定化させることができる。
【0024】
第7の態様によると、複数の引取機構部同士の干渉を抑制しつつ、複数の引取機構部を設けることができる。
【0025】
第8の態様によると、複数の引取機構部同士の干渉を抑制しつつ、複数の引取機構部を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態に係る線材用アキュームレータを示す概略斜視図である。
【図2】同上の線材用アキュームレータを示す概略側面図である。
【図3】同上の線材用アキュームレータを示す概略側面図である。
【図4】変形例に係る線材用アキュームレータを示す概略側面図である。
【図5】同上の変形例に係る線材用アキュームレータを示す概略平面図である。
【図6】他の変形例に係る線材用アキュームレータを示す概略側面図である。
【図7】変形例に係る引取機構部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、実施形態に係る線材用アキュームレータについて説明する。図1は線材用アキュームレータ20を示す概略斜視図であり、図2は同線材用アキュームレータ20を示す概略側面図であり、図3は同線材用アキュームレータ20を示す概略側面図である。ここでは、線材用アキュームレータ20が、線材Wとして電線の芯線を蓄積する例で説明する。より具体的には、線材用アキュームレータ20が、ボビン等に巻回収容された芯線を連続的に供給する線材供給部の下流側、或は、連続的に供給される芯線に対して樹脂を押出被覆等する押出被覆装置の下流側で、線材Wとしての芯線を蓄積する例で説明する。もっとも、線材用アキュームレータ20自体は、線材Wとして、電線の芯線の他、電線等各種線材を蓄積する装置としても用いることができる。
【0028】
線材用アキュームレータ20は、複数の固定側プーリー30と、複数の可動側プーリー40と、引取機構部50とを備えている。そして、線材Wが、複数の固定側プーリー30及び複数の可動側プーリー40に巻掛けられることにより、複数の固定側プーリー30と複数の可動側プーリー40との間に蓄積される。また、線材Wが複数の固定側プーリー30及び複数の可動側プーリー40に巻掛けられる途中で、引取機構部50により線材Wに引取力が付与されるようになっている。
【0029】
より具体的には、複数の固定側プーリー30は、固定軸部32に回転可能に支持されていている。固定軸部32は、一定位置に支持された棒状部材に形成されている。固定軸部32は、回転可能に支持されていてもよいし、或は、回転不能に支持されていてもよい。また、固定軸部32がモータ等によって固定側プーリー30の回転方向(線材送り時の回転方向)に向けて回転駆動されていてもよい。固定側プーリー30は、円板状に形成されており、その外周に沿って線材Wを巻掛け可能な環状溝が形成されている。複数の固定側プーリー30は、隣設した状態で、固定軸部32によって支持されている。各固定側プーリー30間には、相互に干渉しない程度の隙間が設けられていることが好ましい。また、それぞれの固定側プーリー30は、転がり軸受、流体軸受等の軸受を介して固定軸部32に回転自在に支持されている。そして、各固定側プーリー30が独立して自由に回転できるようになっている。
【0030】
複数の可動側プーリー40は、可動軸部42に回転可能に支持されていている。可動軸部42は、棒状部材に形成されており、前記固定軸部32に対して遠近移動可能に支持されている。可動軸部42を移動可能に支持する構成としては、例えば、可動軸部42の両端部に一対の軸受を設けると共に、可動軸部42の両端部に固定軸部32に対して直交する方向に沿って一対のレールを設け、前記一対のレールで一対の軸受を移動可能に支持する構成等、各種直線ガイド機構を採用することができる。もちろん、上記固定軸部32と同様に、可動軸部42は、回転可能に支持されていてもよいし、また、回転不能に支持されていてもよい。さらに、可動軸部42がモータ等によって可動側プーリー40の回転方向(線材送り時の回転方向)に向けて回転駆動されていてもよい。
【0031】
また、可動側プーリー40は、円板状に形成されており、その外周に沿って線材Wを巻掛け可能な環状溝が形成されている。ここでは、可動側プーリー40は、固定側プーリー30と同径、同形状とされているが、必ずしもその必要はない。複数の可動側プーリー40は、隣設した状態で、可動軸部42によって支持されている。各可動側プーリー40間には、相互に干渉しない程度の隙間が設けられていることが好ましい。複数の可動側プーリー40のピッチ(線材Wが巻掛けられる間隔)は、複数の固定側プーリー30のピッチと同じにすることが好ましい。また、それぞれの可動側プーリー40は、転がり軸受、流体軸受等の軸受を介して可動軸部42に回転自在に支持されている。そして、各可動側プーリー40が独立して自由に回転できるようになっている。
【0032】
また、上記可動軸部42は、蓄線力付与機構部60によって、固定軸部32から遠ざかる方向に力を加えられている。蓄線力付与機構部60は、上記可動軸部42或は当該可動軸部42と一体となって動く軸受等に対して、固定軸部32から遠ざかる方向の力を作用させるように構成されている。かかる蓄線力付与機構部60としては、例えば、一端が可動軸部42の端部側に連結されると共に、他端が可動軸部42の移動方向に沿って外方の固定箇所に連結されたコイルバネ、或は、適宜プーリー等を介して取り回されたワイヤによって錘と可動軸部42とを連結して、錘の重力や、モータ及びパウダークラッチ等によって可動軸部42を引張る構成等、を採用することができる。そして、線材Wが複数の固定側プーリー30と複数の可動側プーリー40とに交互に巻掛けられた状態で、蓄線力付与機構部60の力によって固定軸部32と可動軸部42との軸間距離が大きくなると、より多くの長さ寸法の線材Wが複数の固定側プーリー30と複数の可動側プーリー40との間に蓄積されるようになる。また、線材Wの外部引取速度が加速されることと等によって、固定軸部32と可動軸部42との軸間距離が小さくなると、複数の固定側プーリー30と複数の可動側プーリー40との間に蓄積されていた線材Wが、外部に送られるようになる。なお、上記固定側プーリー30、可動側プーリー40の軸受にパウダークラッチ等を適用し、線材Wに対する張力を調整できるようにしてもよい。
【0033】
引取機構部50は、線材Wが複数の固定側プーリー30及び複数の可動側プーリー40のなかのいずれか1つから他のものに巻掛けられる途中で、当該線材Wに引取力を付与するように構成されている。
【0034】
ここでは、引取機構部50は、引取用プーリー52と、回転駆動部54とを有している。
【0035】
引取用プーリー52は、円板状に形成されており、その外周に沿って線材Wを巻掛け可能な環状溝が形成されている。この引取用プーリー52は、回転駆動部54によって、固定側プーリー30を挟んで上記可動側プーリー40の反対側の位置で、上記固定側プーリー30及び可動側プーリー40の回転軸と平行な回転軸52X周りに回転可能に支持されている。換言すれば、可動側プーリー40と固定側プーリー30と引取用プーリー52とが回転軸を同じ方向に揃えた状態で直線状に並び、かつ、可動側プーリー40と引取用プーリー52との間に固定側プーリー30が配設されている。そして、線材Wを固定側プーリー30に巻掛ける代りに、引取用プーリー52に巻掛けられるようになっている。
【0036】
なお、可動側プーリー40の移動方向に沿って見て、可動側プーリー40と固定側プーリー30と引取用プーリー52とが重なる程度であれば、引取用プーリー52が可動側プーリー40の移動方向(つまり、可動側プーリー40と固定側プーリー30とを結ぶ方向)に対して直交する方向(例えば、上下方向)にずれて配置されていてもよい。このような配置も、引取用プーリー52が、固定側プーリー30を挟んで上記可動側プーリー40の反対側の位置に設けられている場合含まれる。ここでも、引取用プーリー52がずれて配置された例で説明する。
【0037】
また、引取用プーリー52は、その回転軸52X方向において、複数の固定側プーリー30のうち中央のものと同じ位置に設けられている。例えば、13個の固定側プーリー30と、14個の可動側プーリー40が設けられている場合、線材Wが入ってくる側から数えて、7個目の固定側プーリー30と同じ位置に、引取用プーリー52を設けるとよい。この場合、線材Wは、例えば、7個目の可動側プーリー40に巻掛けられた後、7個目の固定側プーリー30に巻掛けられる代りに引取用プーリー52に巻掛けられ、その後、8個目の可動側プーリー40に巻掛けられる。なお、固定側プーリー30が偶数個である場合には、引取用プーリー52は、その回転軸52X方向において、固定側プーリー30のうち中央にある2つのもののうちいずれか一方と同じ位置に設けられていることが好ましい。
【0038】
また、引取用プーリー52の直径は、固定側プーリー30の直径よりも大きくなるように設定されている。さらに、引取用プーリー52の回転軸52Xが、可動側プーリー40の回転軸42Xと固定側プーリー30の回転軸32Xとを結ぶラインからずれた位置(例えば、上方にずれた位置)に配設されている。そして、引取用プーリー52に巻掛けられた線材Wのうち一方側の延出部分(ここでは下方から延出する部分、図3参照)が、対応する中央の固定側プーリー30にガイドされつつ可動側プーリー40に巻掛けられると共に、引取用プーリー52に巻掛けられた線材Wのうち他方側延出部分(ここでは上方から延出する部分、図3参照)が対応する固定側プーリー30の上方を通って当該固定側プーリー30との接触を回避しつつ可動側プーリー40に巻掛けられるようになっている。これにより、固定側プーリー30の上方では当該固定側プーリー30と線材Wとの接触が回避され、また、固定側プーリー30の下方では線材Wが固定側プーリー30の外周溝に押付けられ、線材Wと外周溝壁との不安定な接触が回避されるようになっている。
【0039】
なお、上記のように、引取用プーリー52の直径を固定側プーリーの直径よりも大きくすること、及び、引取用プーリー52の回転軸52Xをずれた位置に配設することは必須ではない。引取用プーリー52の直径を、固定側プーリーの直径と同じ或はその直径よりも小さくしてもよいし、或は、引取用プーリー52の回転軸52Xを固定軸部32の回転軸32X及び可動軸部42の回転軸42Xを結ぶラインと一致させてもよい。また、例えば、引取用プーリー52の直径を固定側プーリーの直径よりも大きくし、引取用プーリー52の回転軸52Xを、固定軸部32の回転軸32X及び可動軸部42の回転軸42Xを結ぶラインと一致させてもよい。この場合でも、引取用プーリー52の直径が固定側プーリーの直径よりも大きければ、引取用プーリー52に巻掛けられた線材Wの両側の延出部分を、固定側プーリー30に接触させないようにすることができる。また、例えば、引取用プーリー52の直径を固定側プーリーの直径と同じ又は小さくし、引取用プーリー52の回転軸52Xを、固定軸部32の回転軸32X及び可動軸部42の回転軸42Xを結ぶラインからずらして設けてもよい。この場合でも、引取用プーリー52の回転軸52Xをずらして設けることで、引取用プーリー52に巻掛けられた線材Wの両側の延出部分のうちのずらされた側の一方を、固定側プーリー30に接触させないようにすることができる。
【0040】
回転駆動部54は、引取用プーリー52を回転駆動可能に構成されている。ここでは、回転駆動部54は、モータ56を有しており、モータ56の駆動軸部56aが引取用プーリー52の中心に直接連結されている。なお、モータ56としては、トルク一定制御可能なモータ、例えば、サーボモータ等を用いることが好ましく、ここでも、トルク一定制御可能なモータ56を用いた例で説明する。
【0041】
なお、本実施形態では、モータ56の駆動軸部56aが引取用プーリー52に直接連結されているが必ずしもその必要はなく、モータ56の回転運動が、ギヤ、環状ベルト、或はそれらの組合わせ等による伝達機構によって引取用プーリー52に伝達される構成であってもよい。
【0042】
また、回転駆動部54は、制御ユニット58によって動作制御されている。制御ユニット58は、CPU、ROMおよびRAM等を備える一般的なマイクロコンピュータであり、予め格納されたソフトウェアプログラム及び所定の設定値に従ってモータ56の駆動制御を行う。ここでは、制御ユニット58は、線材Wに作用する引取力が一定となるように、モータ56をトルク一定制御する。これにより、外部引取速度の大小等に拘らず、本引取機構部50において線材Wになるべく一定の引取力を付与できるようになっている。なお、目標とする引取力(目標トルク)は、線材Wに破断或は過大な伸びは発生しない範囲で設定することが好ましい。また、トルク一定制御した結果による、本引取機構部50における線材Wの送り速度が外部引取速度に対して大きく異なってしまい、固定側プーリー30或は可動側プーリー40等で線材Wの弛みが発生したりすることが無いように、目標とする引取力(目標トルク)を設定することが好ましい。実際、目標とする引取力(目標トルク)については、線材Wの種類、固定側プーリー30の数、可動側プーリー40の数、想定される外部引取速度等に応じて、理論的、実験的、経験的な考察から得ることができる。
【0043】
なお、制御ユニット58には、下流側(押出被覆装置側或は巻取装置側)の外部引取速度に応じた信号が入力されると共に、モータ56による回転速度に応じた信号が入力される。制御ユニット58は、モータ56の回転速度に応じた線材Wの引取速度が、外部引取速度を基準とする許容範囲内(例えば、外部引取速度±αの範囲内、又は、外部引取速度の±α%等)であるか否かを判定し、線材Wの引取速度が、外部引取速度を基準とする許容範囲内でない場合に、警告信号、或は、停止信号等を出力するようになっている。これにより、作業者が、線材Wの送りを停止し、本装置及び関連装置の確認、製造条件の確認等を行えるようになっている。
【0044】
なお、モータ56は、外部引取速度に応じた速度で線材Wを送出すように速度制御してもよいし、それらの制御を行わなくともよい。つまり、本引取機構部50によって線材Wに引取力を作用させることができればよい。
【0045】
本線材用アキュームレータ20に対して、線材Wは次のように巻掛けられている。すなわち、上流側(線材供給部又は押出被覆装置)より引出された線材Wが、複数の可動側プーリー40の配列方向一方側から他方側に向けて、及び、複数の固定側プーリー30の配列方向一方側から他方側に向けて、複数の固定側プーリー30と複数の可動側プーリー40とに交互に巻掛けられる。また、その途中で、線材Wは、7個目の可動側プーリー40に巻掛けられた後、7個目の固定側プーリー30に巻掛けられる代りに引取用プーリー52に巻掛けら、その後、8個目の可動側プーリー40に巻掛けられる。この際、7個目の固定側プーリー30の下方部分の溝内に線材Wが通される。線材Wは、配列方向他方側の可動側プーリー40又は固定側プーリー30に巻掛けられた後、押出被覆装置或は巻取部等に導かれる。
【0046】
この線材用アキュームレータ20は、線材Wの送給中、次のように動作する。まず、固定側プーリー30に対して可動側プーリー40が離れて位置しそれらの間に線材Wが蓄積されている状態で、線材Wが一定速度で外部に引取られているとする。この状態でも、引取機構部50は複数の固定側プーリー30及び複数の可動側プーリー40の途中で線材Wに引取力を作用させている。この状態から、外部引取速度が加速されると、可動軸部42が固定軸部32側に移動して蓄積された線材Wが引出されると共に、固定側プーリー30及び可動側プーリー40の回転速度が大きくなる。すると、固定側プーリー30及び可動側プーリー40の慣性力等によって、線材Wが固定側プーリー30及び可動側プーリー40に巻掛けられた部分で当該線材Wに抵抗力(例えば、1.11N程度)が作用する。
【0047】
ここで、仮に引取機構部50が無い場合を想定すると、アキュームレータ20から引出される線材Wが力F1(例えば、35N)で引張られているとすると、各固定側プーリー30及び各可動側プーリー40による総抵抗力Fr(例えば、1つあたりの抵抗力が1.11Nで、固定側プーリー30が13個、可動側プーリー40が14個ある場合、1.11N×(13+14)=30N程度)が作用する。すると、アキュームレータ20に導かれる線材Wに作用する力F2は、F1−Fr(例えば、5N程度)となってしまう。このため、線材Wがアキュームレータ20に入る側(以下、入線側という)と、線材Wがアキュームレータ20から出る側(以下、出線側という)との差が大きくなってしまう。これにより、入線側では線材Wの弛みの可能性が生じ、出線側では線材の過引張りによる伸びの可能性が生じてしまう。
【0048】
これに対して、引取機構部50を設けた場合、アキュームレータ20から引出される線材Wが力F1(例えば、25N)で引張られているとすると、出線側と引取機構部50との間では上記総抵抗力Frの半分程度の力が作用すると考えることができる。このため、引取機構部50から出る線材Wには、力M1=F1−Fr/2(例えば、11N程度)が作用する。また、引取機構部50の引取力をM2(例えば、25N)に設定しているとすると、引取機構部50に導かれる線材Wには、力M2が作用する。また、引取機構部50とアキュームレータ20への入線側との間には、上記総抵抗力Frの半分程度の力が作用すると考えることができる。従って、入線側では、線材Wに力F2=M2−Fr/2(例えば、11N程度)が作用する。結局、本アキュームレータ20では、線材Wには、大きくとも力F1、M2(例えば、25N程度)、小さくても力F2、M1(例えば、11N程度)の引張り力が作用することとなる。
【0049】
以上のように構成された線材用アキュームレータ20によると、線材Wが複数の固定側プーリー30及び複数の可動側プーリー40のいずれか1つから他のものに巻掛けられる途中で、線材Wに引取力を付与する引取機構部50を備えている。このため、外部引取速度を加速しようとする場合等に、線材Wに作用する抵抗力の影響を抑制して、線材Wがアキュームレータ20から引出される部分で線材Wに加わる張力を抑制することができる。これにより、引出側で線材Wに加わる張力を小さくすることができ、さらに、線材Wの伸びを抑制することができる。また、引取機構部50による引取力が、より小さい抵抗力を受けつつ、線材Wの入線側に伝わるため、当該入線側で線材Wに加わる張力を比較的大きくすることができる。これにより、線材Wを固定側プーリー30、可動側プーリー40にしっかりと巻掛けた状態を維持することができ、線材Wの脱線等を抑制できる。また、これらの結果、アキュームレータ20内において、線材Wに作用する力の差を小さくして安定化することができ、線材Wを安定的に送給することが可能となる。
【0050】
また、入線側と出線側との張力差を小さくできる結果、当該張力差に起因する蓄線量の制限を抑制することができ、固定側プーリー30及び可動側プーリー40をより多数設けて蓄線可能な量をより多くすることも可能となる。また、本アキュームレータ20によって固定側プーリー30及び可動側プーリー40をより多数設けることによって蓄線可能な量をより多くすることができる結果、可動軸部42の移動距離を短くして、線材Wの送給ライン長を短くすることも可能となる。また、線材Wに作用する力の差を小さくすることができるので、外部引取速度の加速減速を急激に行っても、線材Wの伸び等の問題が生じ難くなり、当該急激な加減速にも対応可能となる。
【0051】
しかも、本アキュームレータ20は、複数の固定側プーリー30と複数の可動側プーリー40とを備えるアキュームレータ20に、引取機構部50を追加することで実現できるため、構成が簡易で、しかも、線材Wのセット作業も比較的容易である。
【0052】
また、引取機構部50は、引取用プーリー52と回転駆動部54とを有する構成であるため、比較的簡易な構成で実現でき、また、線材Wを途中で引取用プーリー52に巻掛けることで、当該線材Wに容易に引取力を付与することができる。
【0053】
また、引取用プーリー52が固定側プーリー30を挟んで可動側プーリー40の反対側に設けられているため、本アキュームレータ20を細長いスペース内に納めて設置することができる。
【0054】
ところで、引取用プーリー52を可動側プーリー40の外側に設ける場合を想定すると、可動側プーリー40が固定側プーリー30から最も離れた位置のさらに外方に引取用プーリー52を設ける必要がある。この場合、線材Wを固定側プーリー30と引取用プーリー52との間に長尺に亘って掛渡す必要が生じるため、線材Wのセット作業の困難化を招くと共に、線材Wが常時長尺に亘って張り渡されるため、線材Wが周囲部材に接触して傷付き易い。これに対して、引取用プーリー52を、固定側プーリー30を挟んで可動側プーリー40の反対側に設けると、引取用プーリー52と可動側プーリー40との距離を、上記の場合よりも小さくすることができる。このため、上記場合と比較して、線材Wのセット作業が容易になるとともに、線材Wの傷付きも抑制される。
【0055】
また、引取用プーリー52の直径が固定側プーリー30の直径よりも大きいため、引取用プーリー52に巻掛けられた線材Wの両側の延出部分のうちの少なくとも一方を、固定側プーリー30に接触させないようにすることができる。これにより、線材Wと固定側プーリー30との不安定な接触による、線材Wの傷付きを抑制できる。
【0056】
また、引取用プーリー52の回転軸52Xを、固定軸部32の回転軸32X及び可動軸部42の回転軸42Xを結ぶラインからずらして設け、引取用プーリー52に巻掛けられた線材Wのうち一方側の延出部分(ここでは下方から延出する部分、図3参照)が、対応する中央の固定側プーリー30にガイドされつつ可動側プーリー40に巻掛けられると共に、引取用プーリー52に巻掛けられた線材Wのうち他方側延出部分(ここでは上方から延出する部分、図3参照)が対応する固定側プーリー30の上方を通って当該固定側プーリー30との接触を回避しつつ可動側プーリー40に巻掛けられるようにしている。これにより、固定側プーリー30の上方では当該固定側プーリー30と線材Wとの不安定な接触が回避され、線材Wの傷付きが抑制される。また、固定側プーリー30の下方でも線材Wが固定側プーリー30の外周溝に押付けられ、線材Wと外周溝壁との不安定な接触が回避され、この部分でも、線材Wの傷付きが抑制される。
【0057】
{変形例}
上記線材用アキュームレータ20の変形例について説明する。
【0058】
まず、上記引取機構部50は複数設けられていてもよい。これにより、線材Wがアキュームレータ20内を走行する途中の複数箇所で、引取力を作用させることができ、線材Wに加わる引張り力の差をより小さくすることができ、線材Wに加わる張力をより安定化させることができる。このように引取機構部50を複数設けた構成は、固定側プーリー30及び可動側プーリー40がより多数設けられる場合に有効となる。
【0059】
引取機構部50を複数設けた場合、モータ56等が相互干渉しないようにする必要がある。そのためには、図4及び図5に示すように、複数の引取機構部50を、可動軸部42の移動方向(つまり、固定軸部32と可動軸部42とを結ぶ方向)に沿ってずらして設けるとよい。これにより、本アキュームレータ20Bを、比較的細長いスペース内に設置することができる。
【0060】
また、図6に示すアキュームレータ20Cのように、複数の引取機構部50を、固定軸部32及び可動軸部42の移動方向の双方に対して交差する方向にずらして(ここでは上下方向にずらして)設けてもよい。この構成によっても、複数の引取機構部50同士の干渉を抑制して、複数の引取機構部50を設けることができる。
【0061】
なお、複数の引取機構部50を設ける場合、引取機構部50の設置数に応じて複数の固定側プーリー30を等分する境界となるものに対応する位置に設けることが好ましい。
【0062】
また、引取機構部50の構成は上記例に限られない。例えば、複数のローラ間に線材を挟込み、当該ローラをモータにより回転駆動させて線材に引取力を付与する構成であってもよい。つまり、引取機構部50は、連続的に送給される線材に対して引取力を付与できる構成であればよい。
【0063】
また、引取機構部50は、上記配設位置に限られず、固定側プーリー30の上方又は下方、固定側プーリー30に対して可動側プーリー40を挟んで反対側等に配設されていてもよい。
【0064】
また、回転軸52Xにおける引取用プーリー52の位置は上記例に限られず、複数の固定側プーリー30及び複数の可動側プーリー40のいずれかに対応する外方位置に設けられていればよい。つまり、引取用プーリー52は、複数の固定側プーリー30及び複数の可動側プーリー40のいずれか1つから他のものに巻掛けられる途中の線材Wを巻掛け可能な位置に設けられていればよい。
【0065】
また、図7に示すように、複数の固定側プーリー130を、軸受200等を介して回転可能に支持する固定軸部132が、モータを含む引取回転駆動部156によって回転駆動されると共に、当該固定軸部132に引取用プーリ−152が固定されていてもよい。引取用プーリー152は複数の固定側プーリー130のいずれかの間に設けられるとよい。そして、複数の固定側プーリー130を線材の走行に伴って回転自在とさせつつ、上記引取回転駆動部156の駆動により引取用プーリ−152を回転させることで当該線材を引取駆動するようにするとよい。モータは、トルク一定制御によって任意のトルクで駆動することが好ましい。この場合、引取回転駆動部156と固定軸部132と引取用プーリー152によって引取機構部が構成される。
【0066】
上記構成は、可動側プーリーに組込んでもよいし、固定側プーリー及び可動側プーリーの双方に組込んでもよい。
【0067】
なお、上記実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組合わせることができる。
【符号の説明】
【0068】
20、20B、20C 線材用アキュームレータ
30 固定側プーリー
32 固定軸部
32X 回転軸
40 可動側プーリー
42 可動軸部
42X 回転軸
50 引取機構部
52 引取用プーリー
52X 回転軸
54 回転駆動部
W 線材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材を蓄積可能な線材用アキュームレータであって、
固定軸部に回転可能に支持された複数の固定側プーリーと、
前記固定軸部に対して遠近移動可能に支持された可動軸部に回転可能に支持された複数の可動側プーリーと、
線材が前記複数の固定側プーリー及び前記複数の可動側プーリーのいずれか1つから他のものに巻掛けられる途中で、前記線材に引取力を付与する引取機構部、
を備える線材用アキュームレータ。
【請求項2】
請求項1記載の線材用アキュームレータであって、
前記引取機構部は、前記線材を巻掛け可能な引取用プーリーと、前記引取用プーリーを回転駆動する回転駆動部とを有し、前記引取用プーリーが、前記複数の固定側プーリー及び前記複数の可動側プーリーのいずれか1つから他のものに巻掛けられる途中の線材を巻掛け可能な位置に設けられている、線材用アキュームレータ。
【請求項3】
請求項2記載の線材用アキュームレータであって、
前記引取用プーリーが、前記固定側プーリーを挟んで前記可動側プーリーの反対側に設けられている、線材用アキュームレータ。
【請求項4】
請求項3記載の線材用アキュームレータであって、
前記引取用プーリーの直径は、前記固定側プーリーの直径よりも大きい、線材用アキュームレータ。
【請求項5】
請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の線材用アキュームレータであって、
前記引取用プーリーは、前記引取用プーリーに巻掛けられた線材の一方側延出部分が前記複数の固定側プーリーのいずれかにガイドされつつ前記複数の可動側プーリーのいずれかに巻掛けられ、前記引取用プーリーに巻掛けられた線材の他方側延出部分が前記複数の固定側プーリーとの接触を回避しつつ前記前記複数の可動側プーリーいずれかに巻掛けられる位置に設けられている、線材用アキュームレータ。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の線材用アキュームレータであって、
前記引取機構部が複数設けられている、線材用アキュームレータ。
【請求項7】
請求項6記載の線材用アキュームレータであって、
前記複数の引取機構部は、前記可動軸部の移動方向にずらして設けられている、線材用アキュームレータ。
【請求項8】
請求項6記載の線材用アキュームレータであって、
前記複数の引取機構部は、前記固定軸部の軸及び前記可動軸部の移動方向の双方に対して交差する方向にずらして設けられている、線材用アキュームレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−82028(P2012−82028A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227298(P2010−227298)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】