説明

線源容器、及びその線源カプセルの密封性延命方法

【課題】線源カプセルの延命使用が容易に可能な線源カプセルを収納する線源容器、及びその線源カプセルの密封性延命方法を提供することを目的とする。
【解決手段】線源カプセル1と、線源カプセルの放射口Aから放射される放射線を一方向に放射する開口部Bを有し、開口部以外から放射線が漏洩しないように遮蔽するとともに、線源カプセルを着脱困難に固定する線源ホルダー4と、線源ホルダーを収納し、開口部から放射される放射線を透過させる照射窓Cを有する容器7と、線源カプセルの放射口と照射窓との間に設けられ、照射する放射線量を予め減衰させておく減衰板3と、減衰板と照射窓との間に設けられ、照射する放射線を遮蔽するシャッター6とから成り、線源カプセルの密封性の推奨使用期間が切れたとき、減衰板を取り去るとともに、線源カプセルの放射口部を減衰板と同じ材質、同じ厚さで、再密封するカプセルカバーを備える線源容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線源を密封した線源カプセルを収納する線源容器、及びその線源カプセルの密封性延命方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を計測して厚さ、レベル、密度、水分などを測定する放射線応用計測器が知られている。また、これらの放射線を応用した各種の装置は、その放射線源の密封性に関してJIS Z4821にその安全規格が、また、密封線源を収納する線源容器の安全性の基準がJIS Z4614に、夫々定められている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
このような規格に基づくγ線を放射線源とする従来の線源容器について図4を参照して説明する。図4(a)は、従来の線源容器100の上部方向から容器蓋7bを取り去った状態の平面図で、図4(b)は、図4(a)の破線矢印Xa−Xb方向から見た断面図である。
【0004】
図4において、線源容器100は、ステンレス等の金属で密封されたγ線を放射する線源カプセル1と、線源カプセル1を収納し、線源カプセル1の上部中央部にある放射口Aから放射されるγ線を一方向に放射する開口部Bを有し、当該開口部B以外からγ線が漏洩しないように遮蔽するとともに、当該線源カプセル1を着脱困難に固定する線源ホルダー4と、線源ホルダー4を収納する容器7とから成る。
【0005】
この容器7は、γ線が透過し易いアルミなどの金属板で成形される窓板7b1を備える照射窓Cを有する容器蓋7bと、この容器蓋7bの容器本体7aとから成り、γ線はこの照射窓Cから照射される。
【0006】
さらに、容器7の内部にあって、線源カプセル1の放射口Aと照射窓Cとの間に設けられ、照射窓Cから照射されるγ線の遮蔽を手動で操作する手動シャッター5と、外部からの制御信号で操作する電動シャッター6とから成る。
【0007】
詳細には、線源ホルダー4は、線源カプセル1を当該線源ホルダー4の内部に固定する蓋2a1と座2a2とから成るカプセル固定部材2aと、開口部B以外からγ線が漏洩しないように鉛板を貼り付けたホルダー側板4aとホルダー基板4bとから成る。
【0008】
また、手動シャッター5は、線源容器100を保管したり運搬したりする場合に、鉛板やタングステン板から成る遮蔽板5aを手動にて操作し、開口部Bから放射されるγ線が漏洩しないように遮蔽する。
【0009】
電動シャッター6は、放射線応用計測器に線源容器10を組み込んだ場合に、放射線応用計測器を構成する他の制御装置から放射線の照射/遮蔽を制御するもので、鉛板やタングステン板から成る遮蔽板6dを取付け台6c上に備え、回転ソレノイド6bで回転ソレノイド6bの回転軸に取り付けられた取付け台6cを回転させ、開口部Bから放射されたγ線を遮蔽板6dで開閉して、γ線が照射窓Cから容器7外に照射されることを制御する。
【0010】
このように構成された線源容器100に収納され線源カプセル1は、通常、ステンレス製のカプセルで溶接密封されているが、線源カプセル1のメーカは、この溶接密封の推奨使用期間を15年程度とし、これを超えて使用する場合には、線源カプセル1の交換を推奨している。
【0011】
また、このようなγ線を利用したレベル計については、この性能を向上させた技術の開示がある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3063488号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】“技術解説、放射線応用計器”、[online]、2007年、財団法人日本電気計測器工業会、[平成21年1月29日検索]、インターネット〈URL:http://www.jemima.or.jp/〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、241Am(放射線源)の場合、その半減期は432年であり、137Cs(放射線源)の場合でも30年であり、放射線源の半減期からは、溶接密封の推奨使用期間以上にもっと長く使用することが可能で、溶接密封の推奨使用期間で線源カプセルを交換したのでは、大量使用されている装置毎の交換作業だけでなく、無駄な線源カプセルの廃棄処分が発生する問題がある。
【0015】
このため、線源カプセル全体を再溶接密封して密封性の推奨使用期間を改善し、放射線源をより長く使用することが考えられるが、2重のカプセルとする場合、放射線量は減少し、当初の放射線量が得られなくなる問題があるとともに、その密封性の保障が不確定で信頼性の低いものとなる問題がある。
【0016】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、線源カプセルの溶接密封の推奨使用期間に基づいて線源カプセル交換することなく、線源カプセルの延命使用が容易に可能な線源カプセルを収納する線源容器、及びその線源カプセルの密封性延命方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明による請求項1に係る線源容器は、放射線源を密封した線源カプセルを収納する線源容器であって、前記線源カプセルと、前記線源カプセルの放射口から放射される放射線を一方向に放射する開口部を有し、当該開口部以外から前記放射線が漏洩しないように遮蔽するとともに、当該線源カプセルを着脱困難に固定する線源ホルダーと、前記線源ホルダーを収納し、前記開口部から放射される放射線を透過させる照射窓を有する容器と、前記線源カプセルの放射口と前記照射窓との間に設けられ、前記照射窓から照射される放射線量を予め減衰させておく前記減衰板と前記減衰板と前記照射窓との間に設けられ、前記照射窓から照射される放射線を遮蔽するシャッターとから成り、前記線源カプセルの密封性の推奨使用期間が切れたとき、前記減衰板を取り去るとともに、前記線源カプセルの放射口部を前記減衰板と同じ材質、同じ厚さで、当該線源カプセル全体を再密封するカプセルカバーを備えるようにしたことを特徴とする。
【0018】
上記目的を達成するために、本発明による請求項4に係る線源容器の線源カプセルの密封性延命方法は、線源容器に収納した放射線源を密封する線源カプセルの密封性延命方法であって、前記線源容器の照射窓から照射される放射線量が前記線源カプセルの密封性の推奨使用期間に減衰する量に相当する値になるように予め減衰させる前記減衰板を設けるステップと、前記線源カプセルの密封性の推奨使用期間が切れたとき、前記減衰板を取り去るとともに、前記線源カプセルの放射口部を前記減衰板と同じ材質、同じ厚さで、当該線源カプセル全体を再密封するステップとから成る。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、線源カプセルの溶接密封の推奨使用期間に基づいて線源カプセルを交換することなく、線源カプセルの延命使用が容易に可能な線源カプセルを収納する線源容器、及びその線源カプセルの密封性延命方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の線源容器の構成図。
【図2】本発明の原理説明図。
【図3】本発明の動作を説明する図。
【図4】従来の線源容器の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【実施例】
【0022】
図1乃至図3を参照して、本発明の線源容器10について説明する。この図1に示す実施例の各部について、図4に示す実施例と同じ部分は同一符号で示しその説明を省略する。
【0023】
この図1に示す実施例が、図4に示す従来構成と異なる点は、線源容器10が最初に使用される段階において、放射線を通す開口部Bに、予め設定された放射線量に減衰させる減衰板3を備え、所定の線源カプセル1の密封溶接の推奨使用期間が切れる交換時期となった段階では、カプセル固定部材2aとこの減衰板3とを取り去り、線源カプセル1を再溶接密封するカプセルカバー2bに収納して、線源ホルダー4に再収納するようにしたことにある。
【0024】
次の、本発明の原理について図2及び図3を参照して説明する。図2は、線源容器10のモデル図を示し、図3は、この時の線源カプセル1からの放射線量の経時減衰特性の例を図示したものである。線源カプセル1の放射口と線源容器の照射窓との間に、予め所定の厚さthの減衰板3を設けた場合、線源容器から照射される放射線量Iは、下記(1)式で示される。
【0025】
I=I・e−μΔt1・e−λt ・・・(1)
ここで、
:図2(a)の減衰板3が無い場合の放射線量
λ:密封放射線源の崩壊定数
t:時間
Δth:減衰板の厚さ、
μ :減衰板の線吸収系数、
とする。
【0026】
図3に示すようにように密封線源の半減期Tが密封性が保たれる推奨使用期間qより十分長い場合は、当初の放射線量Iが推奨使用期間qが経過する時点での減衰量は無視できるが、密封放射線源の半減期Tが密封性が保たれる推奨使用期間qより十分長くない場合は、この推奨使用期間qの時間経過における減衰量Bが無視できない。
【0027】
例えば、この密封線源から放射される必要な放射線量をIa、推奨使用期間qに対して2倍の延命期間を確保する場合、
t2=I・e−μΔth・e−λt2≧Ia ・・・(2)
を満足する必要がある。
【0028】
また、厚さΔthの減衰板3による放射線の減衰量Bに設定すると、Bは、
B=I・e−μ・Δth ・・・(3)
となる。
【0029】
したがって、2qの期間(t2−t0)経過したt2時点で、必要な放射線量を確保する場合には、時刻t0における初期値の放射線量Ioは、
≧Ia+3B ・・・(4)
を確保する必要がある。
【0030】
そこで、(3)式を満足する放射線量の線源カプセル1を設け、この密封溶接の推奨使用期間qとなる時刻t1時点で、減衰板3を取り去り減衰板3と同じ厚さΔt1、同じ材質のカプセルカバー2bで再密封すれば、時刻t2の時点での放射線量は
t2=I−2Bとなり、再密封したカプセルカバー2bの密封溶接の推奨使用期間qが前と同等以上であれば、さらにこの線源カプセル1の推奨使用期間qを2倍まで延長して使用することが出来る。
【0031】
このカプセルカバー2bは、重ねて製作することになるので、再密封回数分、予め線源ホルダー4の線源カプセル1の収納スペースを大きくしておく必要がある。
【0032】
このように、予め必要な放射線量を必要な期間見込んだ密封放射線を選定し、密封溶接の推奨使用期間qと同等の仕様で密封することで、密封溶接の長期寿命を新たに評価する手間を省き、実績のある確実な線源カプセル1の延命化を図ることができる。
【0033】
以上は、1枚の減衰板を設ける場合であるが、さらに、密封放射線源を延命する場合には、この減衰板3を2枚設けるようにして、密封性の推奨使用期間qとなる時点で1枚の減衰板を取り去り、新規のカプセルカバー2b−1で再密封し、さらに、次の密封性の推奨使用期間qと成る時点で2枚目の減衰板3を取り去り、新規のカプセルカバー2b−2で再密封する。
【0034】
以上説明した発明原理の基づき構成されるカプセルカバー2bと減衰板3について説明する。トップカプセルカバー2b1とボトムカプセルカバー2b2とで構成されるカプセルカバー2bは、相互が容易に嵌合しやすい構造としておき、線源カプセル1を重ねて収納した時、密封溶接作業がし易いようにしておく。
【0035】
また、ステンレスの密封溶接で保証される線源カプセル1は、その材質、厚さは予め知られ、実使用されている環境での長期寿命が放射線応用機器ごとに予めデータベースとして確認されているので、これと同じ厚さ、同じ材質の材料のカプセルカバー2bで密封溶接し、さらに、減衰板3も同様の材質、厚さのものを使用することで、信頼性の高い確実は延命化が可能となる。
【0036】
以上説明したように、本発明によれば、予め照射する放射線量に基づく減衰板を設けて置き、この減衰板と同じ材質、同じ厚さのカプセルカバーを重ねて再密封することで、線源カプセルの延命化を容易に行うことが出来る。
【0037】
本発明は、上述したような実施例に何ら限定されるものではなく、減衰板とカプセルカバーは、線源容器の照射窓と密封放射線源の放射口との間に設けられ、同じ材質、同じ厚さのものを選定すれば良く、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で、密封放射線源の製作仕様に合せ、適宜その形状、材質を種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 線源カプセル
2a カプセル固定部材
2a1 蓋
2a2 座
2b、2b−1、2b−2 カプセルカバー
2b1 トップカプセルカバー
2b2 ボトムカプセルカバー
3 減衰板
4 線源ホルダー
4a ホルダー側板
4b ホルダー基板
5 手動シャッター
5a、6d 遮蔽板
6 電動シャッター
6a 遮蔽板
6b 回転ソレノイド
6c 取付け台
7 容器
7a 容器本体
7b 容器蓋
7b1 窓板
A 放射口
B 開口部
C 照射窓
10 線源容器
100 線源容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線源を密封した線源カプセルを収納する線源容器であって、
前記線源カプセルと、
前記線源カプセルの放射口から放射される放射線を一方向に放射する開口部を有し、当該開口部以外から前記放射線が漏洩しないように遮蔽するとともに、当該線源カプセルを着脱困難に固定する線源ホルダーと、
前記線源ホルダーを収納し、前記開口部から放射される放射線を透過させる照射窓を有する容器と、
前記線源カプセルの放射口と前記照射窓との間に設けられ、前記照射窓から照射される放射線量を予め減衰させておく前記減衰板と
前記減衰板と前記照射窓との間に設けられ、前記照射窓から照射される放射線を遮蔽するシャッターと
から成り、
前記線源カプセルの密封性の推奨使用期間が切れたとき、前記減衰板を取り去るとともに、前記線源カプセルの放射口部を前記減衰板と同じ材質、同じ厚さで、当該線源カプセル全体を再密封するカプセルカバーを備えるようにしたことを特徴とする線源容器。
【請求項2】
前記減衰板は、前記線源ホルダーに設け、当該減衰板の厚さ、材質は、前記線源カプセルの密封溶接材と同等とした請求項1に記載の線源容器。
【請求項3】
前記減衰板は、複数枚の金属板で構成し、前記線源カプセルの密封性の推奨使用期間が切れたとき、前記金属板の1枚を取り去るとともに、前記線源カプセルの放射口部を取り去った1枚の前記金属板と同じ材質、同じ厚さで、当該線源カプセル全体を再密封する第1のカプセルカバーと、さらに、当該第1のカプセルカバーの密封性の保証寿命が切れたとき、さらに、前記金属板の他の1枚を取り去り、取り去った当該他の1枚の前記金属板と同じ材質、同じ厚さで、前記第1のカプセルカバーの全体を再密封する第2のカプセルカバーとを備え、
前記線源カプセル全体を複数回重ねて行うようにした線源容器。
【請求項4】
線源容器に収納した放射線源を密封する線源カプセルの密封性延命方法であって、
前記線源容器の照射窓から照射される放射線量が前記線源カプセルの密封性の推奨使用期間に減衰する量に相当する値になるように予め減衰させる前記減衰板を設けるステップと、
前記線源カプセルの密封性の推奨使用期間が切れたとき、前記減衰板を取り去るとともに、前記線源カプセルの放射口部を前記減衰板と同じ材質、同じ厚さで、当該線源カプセル全体を再密封するステップと
から成る線源容器の線源カプセルの密封性延命方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−204049(P2010−204049A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52614(P2009−52614)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)