説明

線状加熱による金属板の曲げ加工方法及び装置

【課題】 加工途中で金属板が変形しても加熱線に加熱コイルを配置できるようにする。
【解決手段】 加熱方案が策定されると(S1)、加熱線の位置情報によりNC制御される加熱コイルにより加熱線を線状加熱し(S2)、金属板に設けたマーキングの変位から次に線状加熱する加熱線のずれ量を検出して(S4)、許容量と比較し(S5)、ずれ量が許容範囲内の場合は、次の加熱線の線状加熱を行う(S2)。一方、加熱線のずれ量が許容量を超えた場合は、実施した線状加熱により金属板に生じている加熱変形を解析した後(S6)、加熱変形解析が行われた変形状態の金属板の初期形状からの節点変位を抽出し(S8)、抽出された節点変位に基づいて、後で加熱する加熱線の当初設定位置からの加熱線構成点のずれ量を算定して(S9)、変位後の加熱線の位置情報を基に、加熱コイルをNC制御するためのNCデータを修正する(S10)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所要の加熱方案に基づいて金属板に設定される多数の加熱線を、制御が自動化された加熱手段により順次加熱して曲げ加工を行うために用いる線状加熱による金属板の曲げ加工方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の船殻曲がり外板等に用いられる金属板の曲げ加工には、線状加熱による曲げ加工方法が採用されている。
【0003】
上記線状加熱は、金属板を点熱源で線状に局所加熱すると、周囲から拘束を受けて塑性歪を発生して変形する性質を利用し、金属板上の各所に加熱個所を適当に配置することで、金属板を目的曲面形状に曲げ加工する技術である。
【0004】
従来、線状加熱による金属板の曲げ加工は、長い経験を経て修得する技能とされていて、熟練者が勘や技能により加熱位置、方向、加熱条件等を定めて行うようにしていたが、近年では、加熱手段の制御を自動化して線状加熱を機械的に行う方法が提案されてきている。
【0005】
この種の線状加熱を機械的に行う方法としては、有限要素法(FEM)を応用して、金属板の初期形状に対して加熱場所となる加熱線の配置と、該加熱線の加熱条件、すなわち、加熱手段の移動速度とを加熱方案として策定し、該策定された加熱方案にしたがって、制御が自動化された加熱手段として、たとえば、NC制御(CNC制御)される加熱コイルにより、上記金属板に設定された各加熱線に沿って線状加熱を行うことで、該金属板を所定の目的形状に曲げ加工することが考えられている。
【0006】
上記加熱方案の策定方法としては、従来、様々な手法(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)が提案されているが、その基本的な手順の概要は以下のようにしてある。
【0007】
すなわち、図2に示す如く、先ず、所望する曲げ加工の目的形状がFEMモデルとして与えられると、加工対象となる所要の初期形状の金属板、たとえば、平板状の金属板を、上記目的形状に変形するために要求される変形量(ひずみ量)を求める(ステップA1:A1)。
【0008】
一方、予め加熱条件と変形量、より具体的には、NC台車上に搭載された加熱手段としての加熱コイルが高周波誘導加熱を行いながら加熱対象となる金属板上を移動する速度と、その結果得られる変形量との関係の実測値を蓄積してなるデータベースを備えておき(ステップA2)、該データベースを参照して、上記ステップA1で要求される変形量を満足させるための初期形状の金属板に対する加熱線の配置と、該加熱線の加熱条件としての加熱コイルの移動速度とからなる加熱方案を策定する(ステップA3)。
【0009】
その後、上記ステップA3で策定された加熱方案に基づいて、初期形状である展開形状の金属板に上記各加熱線を設定すると仮定した条件(ステップA4)の下で、FEM弾性解析により、上記金属板に設定してある各加熱線を、それぞれ上記加熱方案で設定した加熱条件で線状加熱することによって形成される金属板の形状(計算形状)を計算して求める(ステップA5)。
【0010】
更に、上記FEM弾性解析によって求められた上記加熱方案に基づく金属板の計算形状を、上記目的形状と比較して誤差を求め、該求められた誤差が許容範囲内に収まっているか、否かを判定する(ステップA6)。
【0011】
その後、上記ステップA6において、誤差が許容範囲を超えていると判断された場合は、上記ステップA5で求めた計算形状を、上記目的形状と一致させるために、変形が不足している部分についての不足要求変形量を求めた後(ステップA7)、ステップA1へ戻って、この不足要求変形量を前回のステップA1の要求変形量に加えてなる新たな要求変形量を求めた後、ステップA2のデータベースを参照して、上記新たな要求変形量を満足させるための加熱方案を再び策定することと(ステップA3)、該策定した加熱方案を展開形状の金属板に適用して(ステップA4)から得られる計算形状を求めること(ステップA5)とを再度行った後、ステップA6にて上記求められる計算形状と、目的形状との比較を行い、計算形状の目的形状に対する誤差が許容範囲内であると判断されるようになるまで上記ステップA7を経てステップA1へ戻った後、ステップA2〜A6の手順を繰り返すようにする。
【0012】
しかる後、上記ステップA6にて、上記ステップA3で策定した加熱方案に基づいてステップA4、A5で求めた計算形状の目的形状に対する誤差が、許容範囲内であると判断された場合には、そのとき策定されている加熱方案を実行案として採用するようにしてある。
【0013】
したがって、上述したように実行案となる所要の加熱方案が策定された後は、実加熱工程に移って、上記加熱方案で設定した初期形状の金属板に配置された各加熱線の位置情報と、該各加熱線の加熱条件をNCデータとして与えて、加熱手段としての加熱コイルをNC制御することで、該加熱コイルにより、上記金属板における各加熱線が設定された個所を、設定した加熱条件で線状加熱することで、該金属板を目的形状に曲げ加工するようにしてある。
【0014】
【特許文献1】特開2002−192240号公報
【特許文献2】特開2003−211230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところが、上記した線状加熱による金属板の曲げ加工を行う実加熱工程では、所要の加熱方案により金属板に設定されている各加熱線を、順番に加熱するようにしているため、加熱順序として先に加熱する加熱線を線状加熱することによって金属板が初期形状から変形されると、該変形した金属板における加熱順序として後から加熱する加熱線の位置は、初期形状の金属板にて対応する加熱順序の加熱線が当初設定されていた位置より変位させられるようになる。
【0016】
従来の線状加熱による金属板の曲げ加工は、通常、曲率半径が10m以上となるような緩曲率での曲げ加工を対象としていたため、上記したように実加熱工程で加熱順序として先に加熱する加熱線を線状加熱することに伴って金属板が変形しても、その変形量が比較的小さいものとなっていた。そのために、加熱順序として先に加熱する加熱線を線状加熱することに伴って金属板が変形することに起因して、該金属板に設定されている加熱順序として後から加熱する加熱線の位置が、初期形状の金属板における当初設定位置より変位しても、その変位量が小さく抑えられていたため、上記初期形状の金属板において設定された加熱線の当初設定位置の位置情報を、そのまま実加熱工程で加熱コイルをNC制御するためのNCデータとして用いても、上記金属板の線状加熱による曲げ加工の加工精度に大きな影響を及ぼすことはなかった。
【0017】
しかし、線状加熱により曲率半径が3m〜5m程度となるような大曲率で金属板の板曲げ加工を行おうとすると、加熱順序として先に加熱する加熱線を線状加熱することによって金属板に生じる変形の変形量が大きくなるため、該大きく変形された金属板における加熱順序として後から加熱する加熱線の位置は、初期形状の金属板における当初設定位置から大きくずれるようになる。そのために、上記初期形状の金属板における加熱線の当初設定位置の位置情報を、そのまま加熱コイルをNC制御するためのNCデータとして用いて線状加熱の実加熱工程を実施すると、加熱順序として先に加熱する加熱線の線状加熱に伴い変形量の大きな変形が生じた金属板においては、該変形状態の金属板における加熱順序として後から加熱する加熱線の位置と、上記初期形状の金属板における加熱線の当初設定位置の位置情報をNCデータとしてNC制御される加熱コイルによる実際の加熱位置に、大きな狂いが生じるようになることから、加工精度が悪化する虞が懸念されるというのが実状である。
【0018】
更に、所要の加熱方案によって初期形状の金属板の板端部付近に加熱線が配設されている場合は、上記したように大曲率の金属板の曲げ加工を行う際に、加熱順序として先に加熱する加熱線を線状加熱することによって金属板に変形量の大きな変形が生じて該金属板の平面形状が収縮するようになると、上記初期形状の金属板における加熱線の当初設定位置の位置情報に基づいてNC制御される加熱コイルが、金属板の板端部から脱落してしまう虞も懸念される。
【0019】
そこで、本発明は、所要の加熱方案により金属板に設定した加熱線を、加熱手段により順次線状加熱する実加熱工程の途中で、加熱順序として先に加熱する加熱線を線状加熱することにより金属板に変形が生じて、加熱順序として後から加熱する加熱線の位置が、初期状態の金属板にて設定された対応する加熱線の当初設定位置より変位しても、該変位後の加熱線の位置を加熱手段により正確に線状加熱して金属板を曲げ加工できるようにするための線状加熱による金属板の曲げ加工方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、初期形状の金属板における加熱線の配置と、各加熱線の加熱条件と、各加熱線の加熱順序が定められた加熱方案を基に、初期形状の金属板に設定された各加熱線を、設定された加熱順序に従って、上記各加熱線の位置情報に基づいて自動制御される加熱手段により順次線状加熱するときに、上記金属板に生じる変形に伴う加熱線の変位を検出し、該検出された加熱線の変位後の位置情報に基づいて、上記加熱手段を自動制御するため制御データを順次更新しながら該加熱手段による各加熱線の線状加熱を継続して行って金属板の曲げ加工を行うようにする線状加熱による金属板の曲げ加工方法とする。
【0021】
又、上記構成において、各加熱線を加熱手段により順次線状加熱する際に金属板に変形が生じるときの該金属板の所定個所の変位により、該金属板の変形に伴う加熱線の変位を検出するようにする。
【0022】
更に、上記構成において、金属板の複数個所に設けたマーキングの変位に基づいて、該金属板の変形に伴う加熱線の変位を検出するようにする。
【0023】
上述の各構成において、加熱手段を自動制御するため制御データを更新するための加熱線の変位後の位置情報として、有限要素法により加熱方案に基づいて各加熱線を線状加熱する際に金属板に生じる加熱変形を解析した後、該加熱変形解析された金属板における各加熱線の位置情報を用いるようにする。
【0024】
又、請求項5に対応して、所要の加熱方案により金属板に設定された各加熱線の位置情報を基に、各加熱線の線状加熱を実施するための加熱手段を制御する制御装置と、上記加熱方案により設定された各加熱線の加熱順序に従って上記加熱手段による線状加熱を順次実施するときに、該金属板に生じる変形に伴われて加熱線が変位するときのずれ量を検出するための加熱線ずれ量検出手段と、該加熱線ずれ量検出手段で検出されるずれ量が許容値を上回る加熱線について、該加熱線の金属板の変形に伴う変位後の位置情報を基に、上記制御装置による加熱手段の制御データを修正するための加熱線位置情報修正部とを備えてなる構成を有する線状加熱による金属板の曲げ加工装置とする。
【0025】
更に、上記構成における加熱線ずれ量検出手段を、金属板の複数個所に設けたマーキングと、該マーキングを撮影するための撮影手段と、該撮影手段により撮影されたマーキングの画像を、以前撮影された画像と比較することでマーキングの変位を検出するための画像処理装置とを備えて、該マーキングの変位から加熱線の変位を検出できるようにした構成とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)初期形状の金属板における加熱線の配置と、各加熱線の加熱条件と、各加熱線の加熱順序が定められた加熱方案を基に、初期形状の金属板に設定された各加熱線を、設定された加熱順序に従って、上記各加熱線の位置情報に基づいて自動制御される加熱手段により順次線状加熱するときに、上記金属板に生じる変形に伴う加熱線の変位を検出し、該検出された加熱線の変位後の位置情報に基づいて、上記加熱手段を自動制御するため制御データを順次更新しながら該加熱手段による各加熱線の線状加熱を継続して行って金属板の曲げ加工を行うようにする線状加熱による金属板の曲げ加工方法、及び、所要の加熱方案により金属板に設定された各加熱線の位置情報を基に、各加熱線の線状加熱を実施するための加熱手段を制御する制御装置と、上記加熱方案により設定された各加熱線の加熱順序に従って上記加熱手段による線状加熱を順次実施するときに、該金属板に生じる変形に伴われて加熱線が変位するときのずれ量を検出するための加熱線ずれ量検出手段と、該加熱線ずれ量検出手段で検出されるずれ量が許容値を上回る加熱線について、該加熱線の金属板の変形に伴う変位後の位置情報を基に、上記制御装置による加熱手段の制御データを修正するための加熱線位置情報修正部とを備えてなる構成を有する線状加熱による金属板の曲げ加工装置としてあるので、所要の加熱方案により初期形状の金属板に設定された加熱線を、所定の加熱順序で加熱手段により順次線状加熱する過程で金属板に変形が生じ、その後の加熱順序ごとの加熱線の位置が変位する場合にも、変位後の加熱線の位置を、加熱手段により正確に線状加熱することができる。したがって、線状加熱により金属板を大曲率で曲げ加工を行う場合であっても、金属板の曲げ加工の精度を高めることが可能になる。更に、上記金属板の板端部付近に加熱線が配置されている場合であっても、該加熱線を、上記金属板の板端部より加熱手段が脱落する虞を未然に防止した状態で、確実に線状加熱することができる。
(2)各加熱線を加熱手段により順次線状加熱する際に金属板に変形が生じるときの該金属板の所定個所の変位により、該金属板の変形に伴う加熱線の変位を検出するようにし、たとえば、より具体的には、金属板の複数個所に設けたマーキングの変位に基づいて、該金属板の変形に伴う加熱線の変位を検出するようにすることにより、金属板の変形に伴う加熱線の変位を容易に検出することができる。
(3)加熱手段を自動制御するため制御データを更新するための加熱線の変位後の位置情報として、有限要素法により加熱方案に基づいて各加熱線を線状加熱する際に金属板に生じる加熱変形を解析した後、該加熱変形解析された金属板における各加熱線の位置情報を用いるようにすることにより、線状加熱による曲げ加工の途中にある変形状態の金属板における加熱線の位置を、実測することなく容易に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0028】
図1及び図2は本発明の線状加熱による金属板の曲げ加工方法及び装置の実施の一形態を示すもので、図1は手順のフローを示し、又、図2は装置構成を示してある。
【0029】
ここで、先ず、本発明の線状加熱による金属板の曲げ加工方法を実施するための装置構成について説明すると、本発明の線状加熱による曲げ加工装置は、図2に示す如く、自動制御される加熱手段として、金属板1に設定された加熱線2の位置情報をNCデータとして制御装置4により図示しないNC台車を介してNC制御される加熱コイル3を備えている。
【0030】
更に、上記金属板1に設定されている加熱順序として先に加熱する加熱線2を線状加熱することにより該金属板1が変形するときに、変形した金属板1における加熱線2の位置が、初期形状の金属板1に設定された対応する加熱線2の当初設定位置からずれて変位する量を求めるための加熱線ずれ量検出手段5を備える。
【0031】
上記加熱線ずれ量検出手段5は、具体的には、たとえば、金属板1の表面における加熱線2の加熱の影響を受け難い複数個所に設けたマーキング6と、該マーキング6を撮影するための所要の撮影手段7と、該撮影手段7により撮影された上記マーキング6の配置を画像処理するための画像処理装置8とを備えてなる構成としてある。これにより、上記マーキング6を複数個所に設けてなる金属板1を、上記所要の加熱方案に従って該金属板1に設定してある各加熱線2を上記加熱コイル3により所要の加熱条件で順次線状加熱するごとに、上記各マーキング6を上記撮影手段7によって撮影し、撮影された各マーキング6の画像を、画像処理装置8にて画像処理して以前撮影したマーキング6の画像と比較することで、上記各マーキング6の変位を求めて、求められた該各マーキング6の変位量から、上記金属板1に設定してある各加熱線2のずれ量を、推定して検出できるようにしてある。
【0032】
更に、上記各加熱線2のうち、所要の加熱方案で設定された加熱順序に従って或る加熱線2まで線状加熱した時点で、それ以降の加熱順序に沿う加熱線2について上記加熱線ずれ量検出手段5により上記マーキング6の画像を基に検出されるずれ量が、所定の許容量を超える場合に、その時点で上記金属板1に生じている変形を解析して、該加熱変形解析された状態の金属板1における加熱線2の位置を求めて、この変形した金属板1における加熱線2の位置情報を基に、上記加熱コイル3をNC制御する上記制御装置4のNCデータに修正を加える加熱線位置情報修正部9を備えてなる構成とする。
【0033】
以上の構成としてある線状加熱による金属板の曲げ加工装置を用いて金属板の曲げ加工を行う場合は、図1に示す如く、先ず、金属板1の初期形状に対する加熱線2の配置と、該各加熱線2の加熱条件と、各加熱線2の加熱順序に関する加熱方案を策定する(ステップ1:S1)。この加熱方案を策定するための手法としては、従来提案されているいかなる加熱方案策定手法を用いるようにしてもよい。
【0034】
又、上記金属板1には、予め、上記加熱線ずれ量検出手段5を構成するためのマーキング6を、加熱線2の加熱の影響を受け難い所要の複数個所に配設するようにしておくようにする。
【0035】
次に、上記策定された加熱方案に従って、初期形状の金属板1に設定された各加熱線2の位置情報をNCデータとする上記制御装置4により加熱コイル3をNC制御して、上記金属板1に設定された各加熱線2のうち、上記加熱方案で加熱順序として最初に設定されている加熱線2についての線状加熱を実施する(ステップ2:S2)。
【0036】
次いで、上記ステップ2(S2)で加熱線2の線状加熱を実施することによって金属板1に設定した全加熱線2の線状加熱が終了したか否か、すなわち、線状加熱を実施した加熱線2が、上記加熱方案で加熱順序として最後に設定された加熱線2であるか否かの判断を行い(ステップ3:S3)、加熱順序として最後以外の加熱線2である場合はステップ4(S4)へ進むようにする。
【0037】
その後、上記ステップ4(S4)では、上述した加熱線ずれ量検出手段5により、上記金属板1上のマーキング6の変位から、加熱順序として次に加熱する加熱線2の金属板1における位置が、初期状態の金属板1に設定された対応する加熱線2の当初設定位置からずれたずれ量を検出するようにする。
【0038】
その後、上記ステップ4(S4)で検出された加熱順序として次に加熱する加熱線2の当初設定位置からのずれ量が、許容量を上回っているか否かを判断し(ステップ5:S5)、該ずれ量が許容範囲内であると判断された場合は、上記ステップ2(S2)へ戻って、次に加熱すべき加熱線2について、該加熱線2の初期形状の金属板1において当初設定された位置情報を基にNC制御される加熱コイル3による線状加熱を実施した後、上記ステップ3(S3)〜ステップ5(S5)の手順を繰り返して行うようにする。
【0039】
一方、上記ステップ5(S5)において、ステップ4(S4)で検出された加熱変形後の金属板1における加熱順序として次に加熱する加熱線2の当初設定位置からのずれ量が、許容量を上回っていると判断された場合は、ステップ6(S6)に進む。
【0040】
上記ステップ6(S6)では、上記ステップ1(S1)で策定された加熱方案の各加熱線2のうち、上記ステップ2(S2)において既に線状加熱処理が実施されている加熱順序までの加熱線2についての位置と加熱条件(ステップ7:S7)を基にして、該ステップ6(S6)に進んだ時点で金属板1に生じている加熱変形について解析(計算)するようにする。この際、上記金属板1に生じている加熱変形の解析は、図3のステップA2に示したと同様の加熱条件と変形量(生成固有ひずみ)とのデータベースを用いた弾性解析か、又は、加熱条件を模擬した熱弾塑性解析により行うようにすればよい。
【0041】
更に、上記ステップ6(S6)にて、既に線状加熱処理が実行された加熱線2による加熱変形が解析された変形状態の金属板1について、初期形状からの節点変位を抽出し(ステップ8:S8)、該抽出された節点変位に基づいて、加熱順序として以降のすべての加熱線2について、初期形状の金属板1における対応する各加熱線2の当初設定位置に対する該各加熱線2を構成する複数点(以下、加熱線構成点と云う)のずれ量を算定してから(ステップ9:S9)、該算定されたずれ量を含んだ各加熱線2の位置情報に基づいて、上記加熱線位置情報部9にて、NCデータとして用いる加熱線2の位置情報を修正(更新)した後、上記加熱コイル1をNC制御する上記制御装置4へ与えるようにする(ステップ10:S10)。
【0042】
上記加熱線2の位置情報の修正は、具体的には、該修正を行う時点で上記ステップ2(S2)にて所要の加熱線2の線状加熱が実施された状態の金属板1について、上記ステップ6(S6)で行う加熱変形解析によって得られた節点変位から、加熱線構成点の位置情報を修正することによって行う。
【0043】
上記ステップ10(S10)の後は、再びステップ2(S2)へ戻って、次に加熱すべき加熱線2について、金属板1に生じた変形に起因する加熱線2の変位後の位置情報を基にNC制御する加熱コイル3による線状加熱を実行する。
【0044】
その後は、上記ステップ3(S3)〜ステップ4(S4)までの手順を行った後、上記ステップ5(S5)にて、上記ステップ4(S4)で検出された加熱順序として次に加熱する加熱線2の位置と、上記ステップ10(S10)で修正(更新)された対応する加熱線2の位置情報とを比較して、そのずれ量が許容範囲内であると判断された場合は、ステップ2(S2)に戻って次の加熱順序である加熱線2の線状加熱を実施する処理を繰り返すようにする。一方、上記ステップ5(S5)にて、ステップ4(S4)で検出された加熱順序として次に加熱する加熱線2の位置の上記ステップ10(S10)で修正(更新)された加熱線位置情報からのずれ量が、許容量を上回っていると判断される場合は、上記ステップ6(S6)〜ステップ10(S10)までの手順を行うことで、それ以降の加熱順序の加熱線2についての加熱線位置情報を更に修正(更新)してからステップ2(S2)に戻って、次の加熱順序である加熱線2の線状加熱を実施する処理を行うようにする。
【0045】
しかる後、上記ステップ2(S2)で加熱順序として最後となる加熱線2についての線状加熱処理が実施された後は、ステップ3(S3)に進んだ時点で、上記ステップ2(S2)で線状加熱が実施された加熱線2が、加熱方案にて加熱順序として最後に設定された加熱線2であると判断されるため、この場合は、ステップ11(S11)へ進んで、線状加熱による金属板1の曲げ加工処理を終了するようにする。
【0046】
このように、本発明の線状加熱による曲げ加工方法及び装置によれば、所要の加熱方案により初期形状の金属板1に設定された加熱線2について、加熱方案で定められた所定の加熱順序で順次線状加熱処理を実施する過程で、金属板1に変形が生じて、該変形された金属板1におけるその後の加熱順序の加熱線2の位置が変位するときには、上記金属板1の変形に伴って変位する加熱線2の変位先の位置を、金属板1の加熱変形解析を行うことで求めて、該求められた加熱線2の位置情報を基に、加熱コイル3をNC制御するためのNCデータを順次修正(更新)することができるようにしてあることから、上記金属板1の変形に伴って変位する加熱線2の位置を、加熱コイル3により正確に線状加熱処理することができるようになる。
【0047】
したがって、線状加熱により金属板1を大曲率で曲げ加工を行う場合であっても、所要の加熱方案で金属板1に設定した各加熱線2を、設定した加熱条件でそれぞれ正確に加熱することができるようになるため、金属板1の曲げ加工の精度を高めることが可能になる。
【0048】
更に、加熱順序として先に加熱する加熱線2の線状加熱処理により金属板1に変形が生じても、該金属板1の変形に伴って変位する加熱順序として後から加熱する加熱線2の位置に、加熱コイル3を正しく配置できるため、上記金属板1の板端部付近に加熱線2が配置されている場合であっても、該加熱線2を、上記金属板1の板端部より加熱コイル3が脱落する虞を未然に防止した状態で確実に線状加熱することができる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、上記した金属板の曲げ加工方法及び装置は、線状加熱により金属板1の大曲率の曲げ加工を行う場合に採用するのに好適であるが、金属板を緩曲率で曲げ加工する場合に採用するようにしてもよい。この場合は、曲げ加工の精度をより高める効果が期待できる。
【0050】
図1のステップ5(S5)にて設定してある所要の加熱順序の加熱線2までの線状加熱を実施した状態の金属板2における加熱順序として次に加熱する加熱線2の位置と、初期形状の金属板1における対応する加熱線2の位置のずれ量の許容量、あるいは、図1のステップ10(S10)の処理が行われた後は、該ステップ10(S10)にて修正された対応する加熱線2の位置情報とのずれ量の許容量は、所望する金属板1の曲げ加工精度に応じて適宜設定するようにすればよい。
【0051】
加熱線ずれ量検出手段5は、所要の加熱順序の加熱線2を線状加熱した状態の金属板2における次に加熱する加熱線2の変位を推定して検出できるようにしてあれば、光学的に検出する金属板1の外形の変化から、該金属板1に設定してある加熱線2の変位を推定するようにしたり、所要の3次元計測手段により金属板1の3次元形状を計測して該金属板1における加熱線2の配置を推定する等、上記金属板1上の複数個所に設けたマーキング6と、撮影手段7と、画像処理装置8とからなる構成以外のいかなる手段を採用するようにしてもよい。
【0052】
上記実施の形態では、図1のステップ2(S2)にて、加熱線2を1本ずつ線状加熱するごとに、ステップ3(S3)以降の各処理を行うものとして説明したが、たとえば、10本ずつ等、複数本の加熱線2の線状加熱をまとめて実施するごとに、ステップ3(S3)以降の処理に進むようにしてもよい。
【0053】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の線状加熱による金属板の曲げ加工方法及び装置の実施の一形態として、処理手順のフローを示す図である。
【図2】図1の方法の実施に用いる装置構成を示す概要図である。
【図3】線状加熱の加熱方案を策定するために提案されている従来の手法の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 金属板
2 加熱線
3 加熱コイル(加熱手段)
4 制御装置
5 加熱線ずれ量検出手段
6 マーキング
7 撮影手段
8 画像処理装置
9 加熱線位置上方修正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期形状の金属板における加熱線の配置と、各加熱線の加熱条件と、各加熱線の加熱順序が定められた加熱方案を基に、初期形状の金属板に設定された各加熱線を、設定された加熱順序に従って、上記各加熱線の位置情報に基づいて自動制御される加熱手段により順次線状加熱するときに、上記金属板に生じる変形に伴う加熱線の変位を検出し、該検出された加熱線の変位後の位置情報に基づいて、上記加熱手段を自動制御するため制御データを順次更新しながら該加熱手段による各加熱線の線状加熱を継続して行って金属板の曲げ加工を行うようにすることを特徴とする線状加熱による金属板の曲げ加工方法。
【請求項2】
各加熱線を加熱手段により順次線状加熱する際に金属板に変形が生じるときの該金属板の所定個所の変位により、該金属板の変形に伴う加熱線の変位を検出するようにする請求項1記載の線状加熱による金属板の曲げ加工方法。
【請求項3】
金属板の複数個所に設けたマーキングの変位に基づいて、該金属板の変形に伴う加熱線の変位を検出するようにする請求項2記載の線状加熱による金属板の曲げ加工方法。
【請求項4】
加熱手段を自動制御するため制御データを更新するための加熱線の変位後の位置情報として、有限要素法により加熱方案に基づいて各加熱線を線状加熱する際に金属板に生じる加熱変形を解析した後、該加熱変形解析された金属板における各加熱線の位置情報を用いるようにする請求項1、2又は3記載の線状加熱による金属板の曲げ加工方法。
【請求項5】
所要の加熱方案により金属板に設定された各加熱線の位置情報を基に、各加熱線の線状加熱を実施するための加熱手段を制御する制御装置と、上記加熱方案により設定された各加熱線の加熱順序に従って上記加熱手段による線状加熱を順次実施するときに、該金属板に生じる変形に伴われて加熱線が変位するときのずれ量を検出するための加熱線ずれ量検出手段と、該加熱線ずれ量検出手段で検出されるずれ量が許容値を上回る加熱線について、該加熱線の金属板の変形に伴う変位後の位置情報を基に、上記制御装置による加熱手段の制御データを修正するための加熱線位置情報修正部とを備えてなる構成を有することを特徴とする線状加熱による金属板の曲げ加工装置。
【請求項6】
加熱線ずれ量検出手段を、金属板の複数個所に設けたマーキングと、該マーキングを撮影するための撮影手段と、該撮影手段により撮影されたマーキングの画像を、以前撮影された画像と比較することでマーキングの変位を検出するための画像処理装置とを備えて、該マーキングの変位から加熱線の変位を検出できるようにした請求項5記載の線状加熱による金属板の曲げ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−12058(P2009−12058A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178343(P2007−178343)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)