線維化組織から正常組織を再生するための組成物
【課題】 線維化組織から正常組織を再生するための組成物を提供する。
【解決手段】 コラーゲン低減物質を含む、線維化組織から正常組織を再生するための医薬組成物。本発明により、線維化組織から治療的に正常組織を再生することが可能となる。
【解決手段】 コラーゲン低減物質を含む、線維化組織から正常組織を再生するための医薬組成物。本発明により、線維化組織から治療的に正常組織を再生することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維化組織から正常組織を再生するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織の線維化は、コラーゲンを中心とする細胞外マトリックスが組織に過剰に産生・蓄積されることにより生じる。組織は、酸化ストレス、低酸素状態、炎症、アポトーシスなどの刺激により損傷を受けた場合、損傷組織を細胞外マトリックスで置換して修復を図るが、損傷が重度の場合や、かかる刺激が慢性化した場合などには細胞外マトリックスの蓄積が過剰となり、組織がその機能を十分に果たせなくなる。線維化は、肝、膵、肺、腎、骨髄、心臓などの各種臓器にみられ、筋線維芽細胞等のコラーゲン産生細胞が病態に関与していると考えられている。従来線維化は不可逆的な現象であり、いったん線維化した組織が元に戻ることはないと考えられてきたが、最近では、線維化が可逆的なものであり、上述のような線維化刺激が消失すると、組織に蓄積した細胞外マトリックスが減少することを示唆する報告がいくつかなされている(非特許文献1〜3参照)。
【0003】
しかしながら、病的な細胞外マトリックスの蓄積が減少した後の組織で具体的に何が起っているかについての詳細な報告はなく、かかる線維化組織で正常組織の再生が起こることも、正常組織の再生を起こし得ることもこれまで全く知られていなかった。
また、組織の線維化には、ウイルス感染、飲酒、薬物などに由来する線維症などの、病因が明確で、その除去が可能なものばかりでなく、直接的な病因が不明な線維症、例えば、特発性肝硬変、特発性肺線維症、特発性骨髄線維症など、または、直接的な病因は分かっているが、その病因の原因が不明なものや、除去困難なもの、例えば、原発性胆汁性肝硬変、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)由来の肝線維症、原発性硬化性胆管炎なども含まれる。このような病因の除去が困難な線維化が存在する組織は、絶えず線維化刺激にさらされている状態にあるが、かかる線維化組織において病的な細胞外マトリックスの蓄積を減少させ得ることも、ましてや組織を再生し得ることもこれまで全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Issa et al., Gastroenterology. 2004;126(7):1795-808
【非特許文献2】Iredale, J Clin Invest. 2007;117(3):539-48
【非特許文献3】Sato et al., Nat Biotechnol. 2008;26(4):431-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、線維化が存在する組織において治療的に正常組織を再生するための組成物および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を続ける中で、線維化刺激を継続して受けている線維化組織においても組織に蓄積したコラーゲンを低減させ得ること、さらには、組織に蓄積したコラーゲンを除去し、幹細胞が増殖・分化し得るスペースを確保することにより線維化組織から正常な組織を再生し得ることを見出し、本発明を完成させた。上記のとおり、線維化刺激が消失すると組織に蓄積した細胞外マトリックスが減少し得ることは知られていたが、線維化刺激を継続して受けている線維化組織において組織に蓄積したコラーゲンを低減させ得ることも、組織に蓄積したコラーゲンを積極的に除去することにより、線維化組織から正常組織を再生できることもこれまで全く知られておらず、驚くべき知見である。
【0007】
したがって、本発明は以下に関する。
(1)コラーゲン低減物質を含む、線維化組織から正常組織を再生するための医薬組成物。
(2)コラーゲン低減物質が、コラーゲン産生細胞によるコラーゲン産生を抑制する物質、コラーゲンの分解を促進する物質、およびコラーゲン分解阻害物質を抑制する物質からなる群から選択される、上記(1)に記載の医薬組成物。
(3)線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に対する標的化剤をさらに含む、上記(1)または(2)に記載の医薬組成物。
(4)標的化剤がレチノイドである、上記(3)に記載の医薬組成物。
(5)線維化組織が、線維化刺激を継続的に受けている、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
(6)線維化組織に蓄積されたコラーゲンが低減されて生成される、幹細胞の増殖・分化用のスペースにおいて、線維化組織を再生するための、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0008】
(7)コラーゲン産生細胞によるコラーゲン産生を抑制する物質が、TGFβ阻害物質、HGFまたはその産生促進物質、PPARγリガンド、アンジオテンシン阻害物質、PDGF阻害物質、リラキシンまたはその産生促進物質、細胞外マトリックス成分の産生・分泌を阻害する物質、細胞活性抑制物質、細胞増殖抑制物質、ならびにアポトーシス誘導物質からなる群から選択される、上記(2)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
(8)コラーゲンの分解を促進する物質がコラゲナーゼまたはその産生促進物質である、上記(2)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
(9)コラーゲン分解阻害物質を抑制する物質がTIMP阻害物質である、上記(2)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、これまで正常組織の再生が生じないと考えられていた線維化組織から正常組織を再生できることが明らかとなった。これにより、線維化組織から正常組織を治療的に再生することができるようになり、線維化疾患の新たな再生治療が可能となる。
また、本発明により、線維化刺激に継続的にさらされている線維化組織の治療が可能となり、従来有効な治療法が存在しなかった線維化疾患や、臓器移植しか治療法がなかった線維化疾患を含むあらゆる線維化疾患の内科的治療が実現するため、医療および獣医療に対して多大な貢献が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、被験ラットから採取した肝臓の全体外観とその代表的切片のアザン染色像を示した写真図である。
【図2】図2は、被験ラットから採取した肝臓の代表的切片におけるα−SMAの局在を示した写真図である。
【図3】図3は、肝幹細胞移植部位におけるDAPIおよびGFPの局在を示した蛍光像である。
【図4】図4は、肝幹細胞移植部位の明視野像とGFP蛍光像である。
【図5A】図5Aは、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とGFAP抗体による蛍光染色像とを比較した写真図である(倍率200倍)。
【図5B】図5Bは、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とGFAP抗体による蛍光染色像とを比較した写真図である(倍率400倍)。
【0011】
【図6】図6は、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とα−SMA抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較した写真図である。
【図7】図7は、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とアルブミン抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較した写真図である。
【図8】図8は、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とCK19抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較した写真図である。
【図9A】図9Aは、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とve−CAD抗体による蛍光染色像とを比較した写真図である(倍率200倍)。
【図9B】図9Bは、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とve−CAD抗体による蛍光染色像とを比較した写真図である(倍率400倍)。
【0012】
【図10】図10は、VA−lip siRNAgp46投与群の、肝幹細胞を移植しなかった部位におけるDAPI、GFPの蛍光像とアルブミン抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較した写真図である。
【図11】図11は、ラット膵星細胞における、FAM標識されたsiRNAの細胞内分布を表す蛍光像である。
【図12】図12は、ラット膵星細胞に取り込まれたsiRNAに関するFACS分析の結果を表すグラフである。上から順に、未処理群、Lip siRNAgp46−FAM処理群、VA−lip siRNAgp46−FAM処理群、VA−lip siRNAgp46−FAM+RBP抗体処理群、Lip siRNAgp46−FAM+RBP抗体処理群の結果をそれぞれ表す。
【図13】図13は、siRNAgp46によるラット膵星細胞におけるgp46の発現抑制を示したウェスタンブロット像である。Aは、VA−lip siRNAgp46の濃度による抑制効果の違いを示し、Bは、抑制効果の持続時間を表す。
【0013】
【図14】図14は未処理細胞、ならびにVA−lip siRNAgp46およびVA−lip siRNArandomそれぞれで処理した細胞の、72時間後のコラーゲン産生量を定量したグラフである。
【図15】図15は、DBTC処置ラットにおける膵星細胞へのVA−lip siRNAgp46の特異的送達を示した写真図である。AおよびBは、それぞれVA−lip siRNAgp46−FITCおよびLip siRNAgp46−FITCで1日ごとに3回処置したラットの膵臓切片の、抗α−SMA抗体および抗FITC抗体による免疫染色像である。右側のa〜dの染色像は、左側の染色像における対応する記号で表される領域の拡大像である。Cは、VA−lip siRNAgp46−FITCで1日ごとに3回処置したラットの肝臓切片のアザン−マロリー染色、抗α−SMA抗体染色または抗FITC抗体染色による染色像である。D〜Fは、VA−lip siRNAgp46−FITCを静脈内投与した24時間後のラットの肺、脾臓および網膜を、抗CD68抗体または抗FITC抗体で染色した染色像である。
【0014】
【図16】図16は、DBTC処置後14日目に、VA−lip siRNAgp46(siRNA 0.75mg/kg)を投与したラットの、VA−lip siRNAgp46投与後0、1、2、3および4日目の膵臓におけるgp46タンパク質の発現を示した図である。Aは膵臓細胞破砕物のウェスタンブロッティングの結果を表し、Bは、β−アクチンで標準化した定量的濃度分析の結果を表す。
【図17】図17は、DBTC誘導性膵線維症におけるVA−lip siRNAgp46の効果を示した図である。Aは、VA−lip siRNAgp46、Lip siRNAgp46またはPBSを10回投与したDBTC処置ラットの膵臓切片のアザン−マロリー染色像を表す。BはAのアザン−マロリー染色像において陽性を示した領域を、コンピューター画像分析によって定量したグラフである。データは、各群6匹のラットから無作為抽出した6視野より計算し、平均値±標準偏差で表されている。Cは、膵臓におけるヒドロキシプロリンの含有量を表したグラフである。データは平均値±標準偏差で表されている。
【0015】
【図18】図18は、DBTC誘導性膵線維症におけるVA−lip siRNAgp46の効果を示した図である。Aは、VA−lip siRNAgp46処置後のDBTC処置ラットの膵臓における、α−SMA染色像を表す。Bは、Aにおけるα−SMA陽性領域を、コンピューター画像解析によって定量化したグラフである。データは、各群6匹のラットから無作為抽出した6視野より計算し、平均値±標準偏差で表されている。
【図19】図19は、VA−lip siRNAgp46による線維化膵組織からの正常組織の再生を示した図である。Aは、DBTC処置ラットに、VA−lip siRNAgp46(右)およびLip siRNAgp46(左)を10回投与したのちの膵臓の、ヘマトキシリン−エオシン染色像を表す。下図は、上図のそれぞれaおよびbの領域の拡大図である。Bは、DBTC処置ラットの膵臓重量を表したグラフである。
【図20】図20は、幹細胞周囲のスペースの有無が、幹細胞の分化に与える影響を示したグラフである。縦軸は、アルブミン陽性コロニーの面積を示す。
【図21】図21は、幹細胞周囲のスペースの有無が、幹細胞の増殖に与える影響を示したグラフである。縦軸は、幹細胞の増殖率の指標を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、コラーゲン低減物質を含む、線維化組織から正常組織を再生するための組成物に関する。
本発明において、「コラーゲン低減物質」とは、組織に蓄積したコラーゲンの量を低減し得る任意の物質を意味する。特定の理論にとらわれることを意図するわけではないが、線維化組織におけるコラーゲン蓄積は、コラーゲンの産生と分解とのバランスが産生側に偏ることが一因と考えられているため、コラーゲン低減物質は、コラーゲンの産生を抑制する物質ばかりでなく、コラーゲンの分解を促進する物質や、同物質を阻害する物質を抑制する物質をも含み得る。したがって、コラーゲン低減物質としては、限定することなく、例えば、コラーゲン産生細胞によるコラーゲン産生を抑制する物質、コラーゲンの分解を促進する物質、コラーゲン分解阻害物質を抑制する物質等が挙げられる。本発明におけるコラーゲンは特に限定されないが、線維化に関与するコラーゲン、例えば、I、III、V型コラーゲンなどが好ましく、線維化組織に最も多量に存在するI型コラーゲンが特に好ましい。
【0017】
本発明において、コラーゲン産生細胞は、線維化組織においてコラーゲンを産生する任意の細胞を意味し、限定されずに、例えば、活性化星細胞、筋線維芽細胞等を含む。活性化星細胞および筋線維芽細胞は、線維化組織における主要なコラーゲン産生源と考えられており、α−SMA(α平滑筋アクチン)の発現を特徴としている。したがって、本発明における活性化星細胞および筋線維芽細胞は、検出可能に標識された抗α−SMA抗体を用いた免疫染色などによって同定されるものである。
【0018】
コラーゲン産生細胞によるコラーゲン産生を抑制する物質は、線維化組織におけるコラーゲン蓄積に関係する同細胞の物理的、化学的および/または生理的な作用等を直接または間接に抑制する任意の薬物を含み、限定されずに、例えば、TGFβ(Transforming growth factor-beta)阻害物質、HGF(Hepatocyte growth factor)またはその産生促進物質、PPARγ(Peroxisome proliferator-activated receptor gamma)リガンド、アンジオテンシン阻害物質、PDGF(Platelet-derived growth factor)阻害物質、リラキシンまたはその産生促進物質、細胞外マトリックス成分の産生・分泌を阻害する物質、細胞活性抑制物質、細胞増殖抑制物質、アポトーシス誘導物質等を包含する。
【0019】
TGFβ阻害物質としては、限定することなく、例えば、切断型TGFβII型受容体(Qi et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1999;96(5):2345-9)、可溶性TGFβII型受容体(George et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1999;96(22):12719-24)、抗TGFβ抗体などのTGFβ活性阻害物質や、TGFβに対するRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などのTGFβ産生阻害物質、これらを発現するベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。本発明の一態様において、TGFβ阻害物質は、TGFβ1の活性および/または産生を阻害する。
【0020】
HGFまたはリラキシンの産生促進物質としては、限定することなく、例えば、HGFまたはリラキシンをコードする核酸、これを含む発現構築物、これらを含む発現ベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。
PPARγリガンドとしては、限定することなく、例えば、15−デオキシ−Δ12,14−プロスタグランジンJ2、ニトロリノール酸、酸化LDL(Low density lipoprotein)、長鎖脂肪酸、エイコサノイドといった内因性リガンドや、トログリタゾン、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、バラグリタゾン、リボグリタゾン等のチアゾリジンジオン系薬剤、非ステロイド性抗炎症薬といった外因性リガンドなどが挙げられる。
【0021】
アンジオテンシン阻害物質としては、限定することなく、例えば、テルミサルタン、ロサルタン、バルサルタン、カンデサルタンシレキセチル、オルメサルタンメドキソミル、イルベサルタン等のアンジオテンシン受容体拮抗物質等が挙げられる。アンジオテンシンには、アンジオテンシンI、II、IIIおよびIVが含まれる。また、アンジオテンシン受容体としては、限定することなく、例えば、アンジオテンシン1型受容体(AT1)等が挙げられる。
PDGF阻害物質としては、限定することなく、例えば、抗PDGF抗体などのPDGF活性阻害物質や、PDGFに対するRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などのPDGF産生阻害物質、これらを発現するベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。
【0022】
細胞外マトリックス成分の産生・分泌を阻害する物質としては、限定することなく、例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、テネイシン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、オステオポンチン、オステオネクチン、エラスチン等の細胞外マトリックス成分の発現を抑制する、RNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などの物質、もしくはドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、これらを発現するベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。コラーゲンの産生・分泌を阻害する薬物としては、限定されずに、例えば、様々なタイプのコラーゲンの合成過程で共通する細胞内輸送および分子成熟化に必須のコラーゲン特異的分子シャペロンであるHSP(Heat shock protein)47の阻害物質、例えば、HSP47に対するRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などのHSP47発現阻害物質、もしくはHSP47のドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、これらを発現するベクター、およびこれらで形質転換された細胞等などが挙げられる。
【0023】
細胞増殖抑制物質としては、限定することなく、例えば、アルキル化剤(例えば、イホスファミド、ニムスチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、メルファラン、ラニムスチン等)、抗腫瘍性抗生物質(例えば、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ミトキサントロン、マイトマイシンC等)、代謝拮抗剤(例えば、ゲムシタビン、エノシタビン、シタラビン、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン等)、エトポシド、イリノテカン、ビノレルビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン等のアルカロイド、およびカルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン等の白金錯体、ロバスタチン、シムバスタチン等のスタチンなどが挙げられる。
【0024】
細胞活性抑制物質としては、限定することなく、例えば、ナトリウムチャンネル阻害物質などが挙げられる。
アポトーシス誘導剤としては、限定することなく、例えば、compound 861、グリオトキシン、アトルバスタチンなどが挙げられる。
【0025】
コラーゲンの分解を促進する物質としては、限定することなく、例えば、種々のコラゲナーゼまたはその産生促進物質等が挙げられる。コラゲナーゼの例としては、限定されずに、例えば、MMP(Matrix metalloproteinase)1、2、3、9、13、14等のMMPファミリー等が挙げられる。コラゲナーゼの産生促進物質としては、限定することなく、例えば、コラゲナーゼをコードする核酸、これを含む発現構築物、これらを含む発現ベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。
【0026】
コラーゲンの分解を促進する物質を阻害する物質としては、限定することなく、例えば、TIMP(Tissue inhibitor of metalloproteinase、TIMP1およびTIMP2など)が挙げられる。したがって、同物質を阻害する物質としては、限定することなく、例えば、TIMPに対する抗体などのTIMP活性阻害物質、TIMPに対するRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などのTIMP産生阻害物質、これらを発現するベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。
【0027】
本発明におけるRNAi分子には、siRNA(small interfering RNA)、miRNA(micro RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、ddRNA(DNA-directed RNA)、piRNA(Piwi-interacting RNA)、rasiRNA(repeat associated siRNA)などのRNAおよびこれらの改変体も含まれる。また、本発明における核酸は、RNA、DNA、PNA、またはこれらの複合物を含む。
【0028】
本発明において「線維化組織」とは、コラーゲンを中心とする細胞外マトリックスが正常より多く蓄積された組織を意味する。細胞外マトリックスとしては、コラーゲンのほか、限定することなく、例えば、プロテオグリカン、テネイシン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、オステオポンチン、オステオネクチン、エラスチン等が挙げられる。組織に蓄積したコラーゲンの量は、例えば、組織中のヒドロキシプロリンの量を指標にしたり、組織にコラーゲン染色(例えば、マッソン・トリクローム染色、アザン染色、シリウスレッド染色、エラスチカ・ワンギーソン染色等)を施し、画像解析することなどにより定量化できる。本発明における線維化組織における細胞外マトリックスの量は、正常組織に比べて、5%以上、10%以上、25%以上、50%以上、100%以上、200%以上、300%以上、400%以上、または500%以上であってもよい。組織の線維化には、活性化星細胞および/または筋線維芽細胞によるコラーゲンの産生が寄与していると考えられるため、本発明における線維化組織は、典型的には活性化星細胞および/または筋線維芽細胞を含んでいる。線維化組織は、上記の特徴を有していれば、体内のいずれの組織であってもよく、限定されずに、例えば、肝、膵、肺、腎、骨髄、声帯、喉頭、口腔、心臓、脾臓、縦隔、後腹膜、子宮、皮膚、乳腺、腸管などを含む。
【0029】
したがって、線維化組織は、種々の臓器線維症の患部であってもよい。臓器線維症の例としては、限定することなく、例えば、肝線維症、肝硬変、声帯瘢痕形成、声帯粘膜線維症、喉頭の線維化、肺線維症、膵線維症、骨髄線維症、心筋梗塞、心筋梗塞後の心筋の線維化、心筋線維症、心内膜心筋線維症、脾線維症、縦隔線維症、舌粘膜下線維症、腸管線維化(例えば、炎症性腸疾患に伴うものなど)、後腹膜線維症、子宮線維症、強皮症、乳腺線維症等が挙げられる。
【0030】
本発明における肝線維症および肝硬変は、B型およびC型肝炎ウイルスなどのウイルス感染、飲酒、脂肪肝、寄生虫感染、先天性代謝異常、肝毒性物質などに起因するものばかりでなく、原因が特定されていないものも含む。したがって、本発明における肝硬変は、限定されずに、例えば、シャルコー肝硬変、トッド肝硬変、原発性胆汁性肝硬変、単葉性肝硬変、続発性胆汁性肝硬変、閉塞性肝硬変、胆細管性肝硬変、胆汁性肝硬変、萎縮性肝硬変、栄養性肝硬変、壊死後性肝硬変、肝炎後肝硬変、結節性肝硬変、混合型肝硬変、小結節性肝硬変、代償性肝硬変、大結節性肝硬変、中隔性肝硬変、特発性肝硬変、非代償性肝硬変、門脈周囲性肝硬変、門脈性肝硬変、アルコール性肝硬変などを包含する。
【0031】
本発明において肺線維症は、狭義の肺線維症のみならず、間質性肺炎との併存を含む広義の肺線維症を含む。本発明における肺線維症は、任意の間質性肺炎、例えば、ウイルス性肺炎、真菌性肺炎、マイコプラズマ肺炎などに伴う感染性間質性肺炎、関節リウマチ、全身性強皮症、皮膚筋炎、多発性筋炎、混合性結合組織病(MCTD、Mixed connective tissue disease)などの膠原病に伴う間質性肺炎、放射線被曝に伴う間質性肺炎、ブレオマイシンなどの抗癌剤、小柴胡湯などの漢方薬、インターフェロン、抗生物質、パラコートなどによる薬剤性間質性肺炎、特発性肺線維症、非特異性間質性肺炎、急性間質性肺炎、特発性器質化肺炎、呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患、剥離性間質性肺炎、リンパ球性間質性肺炎などの特発性間質性肺炎などに起因し得、したがって、これらの間質性肺炎が慢性化したものを含む。
【0032】
本発明において骨髄線維症は、原発性骨髄線維症のみならず、二次性骨髄線維症も含む。二次性骨髄線維症は、限定されずに、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症、原発性血小板血症、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、癌腫、全身性エリテマトーデス、全身性進行性硬化症などの疾患や、放射線照射などに続発するものを含む。
【0033】
本発明における腎線維症は、任意の間質性腎炎、例えば、レンサ球菌腎炎、ブドウ球菌腎炎、肺炎球菌腎炎、水痘、B型肝炎、C型肝炎、HIVなどに伴うウイルス性腎炎、マラリアなどの寄生虫感染による腎炎、真菌性腎炎、マイコプラズマ腎炎などに伴う感染性間質性腎炎、全身性エリテマトーデス(ループス腎炎)、全身性強皮症(膠原病腎)、シェーグレン症候群などの膠原病に伴う間質性腎炎、紫斑病性腎炎、多発性動脈炎、急速進行性糸球体腎炎などの血管の免疫疾患に伴う腎炎、放射線被曝に伴う間質性腎炎、金製剤、NSAIDs、ペニシラミン、ブレオマイシンなどの抗癌剤、抗生物質、パラコートなどによる薬剤性間質性腎炎、昆虫の刺し傷、花粉、ウルシ科の植物などによるアレルギー性腎炎、アミロイドーシス腎炎、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、悪性腎硬化症、多発性嚢胞腎症などに伴う腎炎、尿細管間質性腎炎、妊娠中毒症や癌に伴う腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、IgA腎症、混合型クリオグロブリン血症腎炎、グッドパスチャー症候群腎炎、ヴェーゲナー肉芽腫症腎炎、急性間質性腎炎などの特発性間質性腎炎などに起因し得、したがって、これらの間質性腎炎が慢性化したものを含む。
【0034】
本発明の一態様において、線維化組織は、線維化刺激を継続的に受けているものである。本発明において線維化刺激は、線維化を誘導する任意の刺激を意味し、限定されずに、例えば、酸化ストレス、低酸素状態、炎症、アポトーシスなどを含む(Ghiassi-Nejad et al., Expert Rev Gastroenterol Hepatol. 2008;2(6):803-16参照)。かかる組織としては、例えば、慢性炎症を起している線維化組織や、細胞障害性物質に絶えずさらされている組織(例えば、胆管疾患などにより胆汁の鬱滞が起っている肝組織)などが挙げられる。また、かかる組織には、直接的な病因が不明な線維症、例えば、特発性肝硬変、特発性肺線維症、特発性骨髄線維症など、または、直接的な病因は分かっているが、その病因の原因が不明なものや、除去困難なもの、例えば、原発性胆汁性肝硬変、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)由来の肝線維症、原発性硬化性胆管炎、特発性肺線維症、特発性間質性肺炎由来の肺線維症、原発性骨髄線維症、特発性間質性腎炎由来の腎線維症、炎症性腸疾患(例えばクローン病、潰瘍性大腸炎など)、全身性強皮症などに罹患した組織なども含まれる。
【0035】
本発明において「線維化組織から正常組織を再生する」とは、線維化によって変質した組織を、少なくとも線維化がより軽度であった状態に回復させることを意味する。すなわち、線維化が進むにつれ、組織は細胞外マトリックスを中心とした線維組織に置換されていくが、この流れを逆転させ、増生した線維組織を本来の正常組織に置換していくことが、本発明における線維化組織からの正常組織の再生である。したがって、本発明における線維化組織からの正常組織の再生は、線維化組織を完全に元の状態に回復させることばかりでなく、線維化組織を部分的に元の状態に回復させることも含む。正常組織の再生の程度は、生検試料などの組織学的検査により、組織構造の正常化、線維組織が占める領域の縮小、正常組織が占める領域の拡大などに基づいて評価してもよいし、本組成物による処置の前に線維化に起因する生化学的指標の異常が認められている場合には、当該指標の改善などによって評価してもよい。
【0036】
本発明の一態様において、正常組織の再生は、線維化組織に蓄積されたコラーゲンの低減により生成されたスペースにおいて、幹細胞が増殖・分化することにより生じるものであってもよい。したがって、本発明の一態様は、線維化組織に蓄積されたコラーゲンが低減されて生成される、幹細胞の増殖・分化用のスペースにおいて、線維化組織を再生するための上記医薬組成物に関する。ここで、幹細胞には、限定されずに、例えば、線維化した組織に本来存在するもの(肝幹細胞、膵幹細胞、肺幹細胞、腎幹細胞、骨髄幹細胞、心臓幹細胞、脾臓幹細胞、子宮幹細胞、皮膚幹細胞、乳腺幹細胞、腸管幹細胞、間葉系幹細胞など)や、体内の別の場所から移動してきたもの、さらには治療的に投与したもの等が含まれる。また、「スペース」は、組織内の空隙のみならず、細胞が拡大・増殖し得る余地のある空間、例えば、細胞間の圧力が低減された空間や、柔軟性を有する空間などを含む。
【0037】
本発明の組成物は、その一態様において、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に対する標的化剤をさらに含む。標的化剤を含むことにより、コラーゲン産生細胞を標的とするコラーゲン低減物質、例えば、限定されずに、細胞外マトリックス成分の産生・分泌を阻害する物質、HGFまたはその産生促進物質、MMPまたはその産生促進物質、TIMP阻害物質、TGFβ産生阻害物質、リラキシンまたはその産生促進物質などを、標的細胞であるコラーゲン産生細胞に特異的に送達することが可能となり、使用するコラーゲン低減物質の効果を高めることができる。
【0038】
本発明の一態様において、コラーゲン産生細胞に対する標的化剤はレチノイドである。レチノイドによる標的化機構は未だ完全には解明されていないが、例えば、RBP(retinol binding protein)と特異的に結合したレチノイドが、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞の細胞表面上に位置するある種のレセプターを介して同細胞に取り込まれることが考えられる。レチノイドがコラーゲン産生細胞への標的化剤として機能し得ることは、WO 2006/068232、特開2009-221164、特開2010-59124等に記載されている。
【0039】
レチノイドは、4個のイソプレノイド単位がヘッド−トゥー−テイル式に連結した骨格を持つ化合物の群の1員であり(G. P. Moss, “Biochemical Nomenclature and Related Documents,” 2nd Ed. Portland Press, pp. 247-251 (1992)を参照)、ビタミンAは、レチノールの生物学的活性を定性的に示すレチノイドの一般的な記述子である。本発明において用いることができるレチノイドとしては、特に限定されず、例えばレチノール(オールトランスレチノールを含む)、レチナール、レチノイン酸(トレチノインを含む)、レチノールと脂肪酸とのエステル、脂肪族アルコールとレチノイン酸とのエステル、エトレチナート、イソトレチノイン、アダパレン、アシトレチン、タザロテン、パルミチン酸レチノールなどのレチノイド誘導体、およびフェンレチニド(4−HPR)、ベキサロテンなどのビタミンAアナログを挙げることができる。
【0040】
これらのうち、レチノール、レチナール、レチノイン酸、レチノールと脂肪酸とのエステル(例えばレチニルアセテート、レチニルパルミテート、レチニルステアレート、およびレチニルラウレートなど)および脂肪族アルコールとレチノイン酸とのエステル(例えばエチルレチノエートなど)は、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞への特異的な物質の送達の効率の点で好ましい。
レチノイドのシス−トランスを含む異性体全ては、本発明の範囲内に入る。レチノイドはまた1または2以上の置換基で置換されることもある。本発明におけるレチノイドは、単離された状態のものはもちろんのこと、これを溶解または保持することができる媒体に溶解または混合した状態のレチノイドをも含む。
【0041】
本発明の組成物の上記態様は、有効成分としてのコラーゲン産生細胞を標的にしたコラーゲン低減物質および標的化剤としてのレチノイドのみで構成してもよいし、これらとは別の担体構成成分を含んでもよい。本態様における担体構成成分としては、特に限定されずに、医薬および/または薬学の分野で知られる任意のものを用いることができるが、少なくともレチノイドを包含し得るか、または、これと結合し得るものが好ましい。
このような成分としては、脂質、例えば、グリセロリン脂質などのリン脂質、スフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質、コレステロールなどのステロール、大豆油、ケシ油などの植物油、鉱油、卵黄レシチンなどのレシチン類、ポリマー等が挙げられるが、これらに限定されない。このうち、リポソームを構成し得るもの、例えば、レシチンなどの天然リン脂質、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)などの半合成リン脂質、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、コレステロールなどが好ましい。
【0042】
特に好ましい成分としては、細網内皮系による捕捉を回避し得る成分、例えば、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジドデシル−D−グルタメートクロリド(TMAG)、N,N’,N’’,N’’’−テトラメチル−N,N’,N’’,N’’’−テトラパルミチルスペルミン(TMTPS)、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、ジドデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2−ジオレイルオキシ−3−トリメチルアンモニオプロパン(DOTAP)、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)、1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド(DC−6−14)などのカチオン性脂質が挙げられる。
上記担体は、特定の3次元構造を有してもよい。かかる構造としては、限定されずに、直鎖状または分枝状の線状構造、フィルム状構造、球状構造などが挙げられる。したがって、担体は、限定されずに、ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球などの任意の3次元形態を有してもよい。
【0043】
担体へのレチノイドおよび/または有効成分の結合または包含は、化学的および/または物理的な方法によってレチノイドを担体に結合させるかまたは包含させることによっても可能となる。または、担体へのレチノイドおよび/または有効成分の結合または包含は、レチノイドおよび/または有効成分と、担体構成成分とを混合することによっても可能となる。本発明の組成物におけるレチノイドの量は、例えば、0.01〜1000nmol/μl、好ましくは0.1〜100nmol/μlとすることが可能である。また、本発明の組成物における有効成分の量は、例えば、1〜10000ng/μl、好ましくは10〜1000ng/μl、または1〜1000000μg/kg体重、好ましくは10〜100000μg/kg体重とすることが可能である。レチノイドや有効成分の量は、これらの成分の活性や、組成物の投与経路、投与頻度、投与対象などによっては上記範囲外となる場合もあるが、その場合でも以前本発明の範囲に含まれる。担体へのレチノイドおよび/または有効成分の結合または包含は、該担体に有効成分を担持させる前に行ってもよいし、担体構成成分、レチノイドおよび有効成分を同時に混合することなどによって行ってもよいし、または、有効成分を既に担持した状態の担体と、レチノイドとを混合することなどによって行ってもよい。したがって、本発明はまた、既存の任意の薬物結合担体や薬物封入担体、例えば、DaunoXome(R)、Doxil、Caelyx(R)、Myocet(R)などのリポソーム製剤にレチノイドを結合させる工程を含む、線維化組織から正常組織を再生するための医薬組成物の製造方法にも関する。
【0044】
本発明の組成物の形態は、所望の有効成分を、標的とする線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に運搬できればいずれの形態でもよく、例えば、限定されずに、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球などのうちいずれの形態をとることもできる。本発明においては、送達効率の高さ、送達できる物質の選択肢の広さや製剤の容易性等の観点から、これらのうちリポソームの形態が好ましく、中でもカチオン性脂質を含むカチオン性リポソームが特に好ましい。組成物がリポソームの形態である場合、レチノイドと、リポソーム構成脂質とのモル比は、レチノイドの担体への結合または包含の効率性を考慮すると、好ましくは8:1〜1:4、より好ましくは4:1〜1:2である。
【0045】
本発明の組成物は、有効成分を内部に含んでも、有効成分が外部に付着していても、また、有効成分と混合されていてもよい。したがって、本発明の組成物は、リポソームと有効成分との複合体、すなわちリポプレックスの形態をとってもよいし、投与経路や薬物放出様式などに応じて、上記組成物を、適切な材料、例えば、腸溶性のコーティングや、時限崩壊性の材料で被覆してもよく、また、適切な薬物放出システムに組み込んでもよい。
【0046】
レチノイドを標的化剤として含む場合、これは本組成物において、標的化剤として機能する態様で存在している。ここで、標的化剤として機能するとは、レチノイドを含む組成物が、これを含まない組成物よりも迅速かつ/または大量に、標的細胞である線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に到達し、かつ/または取り込まれることを意味し、これは、例えば、標識を付した、または標識を含む組成物を標的細胞の培養物に添加し、所定時間後に標識の存在部位を分析することにより容易に確認することができる。構造的には、例えば、レチノイドが、遅くとも標的細胞に到達するまでに、組成物の外部に少なくとも部分的に露出していれば、上記要件を充足し得る。レチノイドが、組成物の外部に露出しているか否かは、組成物をレチノイドと特異的に結合する物質、例えば、レチノール結合タンパク質(RBP)などと接触させ、組成物への結合を調査することにより評価することができる。
【0047】
レチノイドを、遅くとも標的細胞に到達するまでに、組成物の外部に少なくとも部分的に露出させることは、例えば、レチノイドと担体構成成分との配合比率を調節することなどにより達成することができる。また、担体としてリポソームなどの脂質構造体を利用する場合には、例えば、脂質構造体とレチノイドを複合体化する際に、最初に脂質構造体を水性溶液中に希釈し、次いでこれを、レチノイドと接触、混合するなどの手法を用いることができる。この場合、レチノイドは、溶剤、例えば、DMSOなどの有機溶剤に溶解した状態であってもよい。ここで、脂質構造体とは、任意の3次元構造、例えば、線状、フィルム状、球状などの形状を有する、脂質を構成成分として含む構造体を意味し、限定されずに、リポソーム、ミセル、脂質微小球、脂質ナノ小球、脂質エマルジョンなどを包含する。リポソームを標的化したのと同じ標的化剤を他の薬物担体にも適用できることは、例えばZhao and Lee, Adv Drug Deliv Rev. 2004;56(8):1193-204、Temming et al., Drug Resist Updat. 2005;8(6):381-402などに記載されている。
【0048】
本発明の組成物は、コラーゲン低減物質以外に、線維化刺激を低減する物質を有効成分としてさらに含んでもよいし、かかる物質と併用してもよい。線維化刺激を低減する物質としては、限定することなく、例えば、抗酸化剤、血行促進剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗生剤、抗寄生虫剤、肝庇護剤、利胆剤、アポトーシス抑制物質などが挙げられる。これらの物質は、対象となる組織や病態に応じて適宜選択することができる。
【0049】
本発明の組成物は、標識を含んでいてもよい。標識化により、標的細胞への送達の成否や、標的細胞の増減などをモニタリングすることが可能となり、試験・研究レベルのみならず、臨床レベルにおいても有用である。標識は、当業者に公知な任意のもの、例えば、任意の放射性同位体、磁性体、標識化物質に結合する物質(例えば抗体)、蛍光物質、フルオロフォア、化学発光物質、および酵素などから選択することができる。標識は、本発明の組成物の構成成分の少なくとも1つ、例えば、レチノイドを標的化剤として含む場合は、有効成分、レチノイドおよび担体構成成分の1または2以上に付してもよいし、これらとは別の成分として組成物に含めてもよい。
【0050】
本発明において「線維化組織におけるコラーゲン産生細胞用」または「線維化組織におけるコラーゲン産生細胞送達用」とは、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞を標的細胞として使用するのに適することを意味し、これは例えば、同細胞に、他の細胞、例えば正常細胞よりも迅速、高効率かつ/または大量に物質を送達できることを含む。例えば、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞用の担体または線維化組織におけるコラーゲン産生細胞送達用の担体は、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に、他の細胞に比べ、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、さらには3倍以上の速度および/または効率で有効成分を送達することができる。本発明の組成物は、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に対する標的化剤を含むことにより、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞用または線維化組織におけるコラーゲン産生細胞送達用の組成物とすることができる。
【0051】
本発明の組成物は医薬として使用することができ(すなわち医薬組成物)、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、限定することなく、経口、経腸、静脈内、筋肉内、皮下、局所、肝内、胆管内、肺内、気道内、気管内、気管支内、経鼻、直腸内、動脈内、門脈内、心室内、骨髄内、リンパ節内、リンパ管内、脳内、髄液腔内、脳室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内および子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形および製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる(例えば、標準薬剤学、渡辺喜照ら編、南江堂、2003年などを参照)。
例えば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤などが挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤などの注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であることができる。
【0052】
本発明の組成物は、いずれの形態で供給されてもよいが、保存安定性の観点から、用時調製可能な形態、例えば、医療の現場あるいはその近傍において、医師および/または薬剤師、看護士、もしくはその他のパラメディカルなどによって調製され得る形態で提供することができる。この場合、本発明の組成物は、これらに必須の構成要素の少なくとも1つを含む1個または2個以上の容器として提供され、使用の前、例えば、24時間前以内、好ましくは3時間前以内、そしてより好ましくは使用の直前に調製される。調製に際しては、調製する場所において通常入手可能な試薬、溶媒、調剤器具などを適宜使用することができる。
【0053】
したがって、本発明はまた、有効成分、および/または任意に標的化剤や担体構成物質を、単独でもしくは組み合わせて含む1個または2個以上の容器を含む組成物の調製キット、ならびに、そのようなキットの形で提供される組成物の必要構成要素にも関する。本発明のキットは、上記のほか、本発明の組成物の調製方法や投与方法などに関する説明書や、CD、DVD等の電子記録媒体などを含んでいてもよい。また、本発明のキットは、本発明の組成物を完成するための構成要素の全てを含んでいてもよいが、必ずしも全ての構成要素を含んでいなくてもよい。したがって、本発明のキットは、医療現場や、実験施設などで通常入手可能な試薬や溶媒、例えば、無菌水や、生理食塩水、ブドウ糖溶液などを含んでいなくてもよい。
【0054】
本発明はさらに、本発明の組成物またはコラーゲン低減物質の有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、線維化組織から正常組織を再生するための方法に関する。ここで、有効量とは、例えば、線維化組織におけるコラーゲンなどの細胞外マトリックスの量の増大を抑制する量、好ましくは、細胞外マトリックスの量を低減する量、さらに好ましくは線維化組織において正常組織の再生をもたらす量である。
【0055】
細胞外マトリックスの量は、種々の手法、例えば、限定されずに、細胞外マトリックスの特殊染色像の画像解析や、細胞外マトリックスマーカーの測定などにより定量することができる。例えば、コラーゲンは、ヒドロキシプロリンなどのコラーゲンマーカーの量を測定したり、組織にコラーゲン染色(例えば、マッソン・トリクローム染色、アザン染色、シリウスレッド染色、エラスチカ・ワンギーソン染色等)を施し、画像解析することなどにより定量することができる。線維化組織における細胞外マトリックスの減少率は、本発明の組成物を投与しなかった場合に比べて、例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、さらには75%以上であってもよい。ここで、本発明の組成物を投与しなかった場合には、投与自体を行なわなかった場合のみならず、ビヒクルのみ、有効成分を含まない以外は本発明の組成物に相当する組成物、本発明の組成物が標的化剤を含む場合には、標的化剤を含まない以外は本発明の組成物に相当する組成物などを投与した場合(いわゆる陰性対照)を含む。また、正常組織の再生は、組織学的所見や、標識した幹細胞を線維化組織に投与し、これを追跡調査することなどにより評価することができる。
【0056】
上記有効量は、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、本発明の方法に用いる薬物の用量は当業者に公知であるか、または、上記の試験等により適宜決定することができる。線維化のモデル動物としては、四塩化炭素(CCl4)、ブタ血清、ジメチルニトロサミン(DMN)、メチオニン-コリン欠乏食(MCDD)、コンカナバリンA(Con A)、胆管結紮などによる肝硬変モデル、ブレオマイシン(BLM)などによる肺線維症モデル、二塩化ジブチルスズなどによる膵線維症モデル、トロンボポイエチン(TPO)トランスジェニックマウス(Leukemia Research 29: 761-769, 2005)などの骨髄線維症モデルなどの種々のものが利用できる。
【0057】
本発明の方法において投与する組成物またはコラーゲン低減物質の具体的な用量は、処置を要する対象に関する種々の条件、例えば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。
投与経路としては、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、経口、経腸、静脈内、筋肉内、皮下、局所、肝内、胆管内、肺内、気道内、気管内、気管支内、経鼻、直腸内、動脈内、門脈内、心室内、骨髄内、リンパ節内、リンパ管内、脳内、髄液腔内、脳室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内および子宮内等の経路が含まれる。
投与頻度は、用いる組成物の性状や、上記のような対象の条件によって異なるが、例えば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回または5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎など)、1週間に数回(例えば、1週間に2、3、4回など)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎など)であってもよい。
【0058】
本発明の方法において、用語「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、典型的には線維化組織を有するか、組織が線維化するリスクを有する対象を意味する。かかる対象としては、例えば、限定することなく、上記の臓器線維症に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象、組織が線維化刺激を受けているか、受けるリスクのある対象などが挙げられる。
【0059】
本発明はさらに、線維化組織におけるコラーゲンを低減する工程および/または線維化組織において細胞増殖・分化用のスペースを生成する工程を含む、線維化組織から正常組織を再生するための方法に関する。
本方法において、線維化組織におけるコラーゲンの低減および細胞増殖・分化用のスペースの生成は、本発明の組成物または上述のコラーゲン低減物質を線維化組織に投与することにより行うことができる。
【実施例】
【0060】
本発明を以下の例でさらに詳細に説明するが、これらは例示に過ぎず、本発明を決して限定するものではない。以下の例において、データは平均値(±標準偏差)として示した。コントロール群および他の群との複数比較は、ダネット検定によって行った。
【0061】
例1.VA−lip siRNAの調製
(1)siRNAの調製
コラーゲン(I〜IV型)の共通分子シャペロンであるヒトHSP47のラットホモログ、gp46(GenBank Accession No. M69246)の塩基配列を標的とするsiRNA(北海道システム・サイエンス, Sapporo, Japan)のセンス鎖およびアンチセンス鎖は以下のものを用いた。
A:GUUCCACCAUAAGAUGGUAGACAACAG(gp46の塩基配列上の第757塩基から始まるセンス鎖siRNA、配列番号1)
B:GUUGUCUACCAUCUUAUGGUGGAACAU(アンチセンス鎖siRNA、配列番号2)
【0062】
siRNArandom(siRNAscrambleと称することもある)として以下のものを用いた。
C:CGAUUCGCUAGACCGGCUUCAUUGCAG(センス鎖siRNA、配列番号3)
D:GCAAUGAAGCCGGUCUAGCGAAUCGAU(アンチセンス鎖siRNA、配列番号4)
【0063】
いくつかの実験において、6’−カルボキシフルオレセイン(6−FAM)またはフルオレセインイソチオシアネート(FITC)が5’末端に結合したセンス鎖を用いた。これらの配列はBLAST検索において、知られた他のラットmRNAと相同性を有さないことを確認した。
【0064】
(2)VA−lip siRNAの調製
カチオン性脂質として、O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロライド(DC−6−14)、コレステロールおよびジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)を4:3:3のモル比で含むカチオン性リポソーム(Lipotrust)を北海道システム・サイエンス(Sapporo, Japan)から購入した。リポソームは、使用前に、凍結乾燥した脂質混合物に攪拌条件下で再蒸留水(DDW)を添加することによって、1mM(DC−6−14)の濃度で調製した。VA結合リポソームを調製するため、DMSOに溶解した200nmolのビタミンA(レチノール、Sigma, USA)をリポソーム懸濁液(DC−6−14として100nmol)と、1.5mlチューブ中で攪拌しながら25℃で混合した。siRNAgp46を担持するVA結合リポソーム(VA−lip−siRNAgp46)を調製するため、siRNAgp46溶液(DDW中に580pmol/ml)を、レチノール結合リポソーム溶液に攪拌しながら室温下で添加した。siRNAとDC−6−14とのモル比は1:11であった。in vitroでの使用に望ましい用量を得るため、VA−lip siRNAをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で再構成した。
【0065】
例2.肝線維化モデルラットでの再生治療実験
(1)肝線維化モデルラットの作製
肝線維化モデルラットは、雄SDラット(体重150〜200g)(Slc Japan, Shizuoka, Japan)に対して総胆管結紮を施して作製し、結紮後28日目の個体を本実験に供した。本モデルラットにおいては、総胆管結紮により胆汁の鬱滞が生じ、肝組織が線維化刺激に継続的にさらされた状態となる。
【0066】
(2)GFP標識ラット肝幹細胞の調製
GFP標識ラット肝幹細胞は、4週齢のGFP遺伝子導入ラット(Slc Japan)の肝臓より採取した。まず、GFP遺伝子導入ラットにEGTA溶液およびコラゲナーゼ溶液を灌流した後、肝臓を採取し、採取した肝臓を細切した後、セルストレーナー(孔径100μm)で濾過した。得られた細胞懸濁液にハンクス平衡塩液(HBSS)+0.25%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液を加えて、4℃、500rpmで2分間遠心した。上清を採取して、4℃、1300rpmで5分間遠心を行った。上清を除去した後、沈殿に対してMACS(R)(Magnetic Activating Cell Sorting)バッファ(Miltenyi Biotec, Auburn, CA, USA)を加えて混合した。細胞数を数えた後、FITC結合マウス抗CD45抗体(BD Pharmingen)、ウサギポリクローナル抗CD133抗体(Abcam)およびマウスモノクローナル抗EpCAM抗体(Santa Cruz)を用いてMACS(R)を行い、CD133陽性、EpCAM陽性、CD45陰性細胞を採取し、ラット肝幹細胞として本実験に用いた。
【0067】
(3)肝線維化モデルラットの処置
(1)で作製した肝線維化モデルラットに、(2)で調製したGFP標識肝幹細胞を、200μlのDME/F12培地中に2×106個の濃度で局所移植した。
肝幹細胞の移植後24時間目から、ビタミンA結合リポソーム内包siRNAgp46(VA−lip siRNAgp46)またはmockとしてVA−lip siRNAscrambleを1日おきに、合計12回尾静脈投与した。投与したsiRNAの濃度は、ラット体重に対して0.75mg/kgで使用した。ビタミンAおよびリポソーム(LipoTrust、北海道システム・サイエンス、Sapporo、Japan)およびsiRNAのモル比は11.5:11.5:1とした。
【0068】
(4)組織染色
(3)で12回目のVA−lip siRNAgp46投与が終了した24時間後(すなわち総胆管結紮後52日目)に、GFP発現肝幹細胞を移植した総胆管結紮ラットの肝臓を採取した。採取した肝臓をOCTコンパウンドを用いて封埋した後、凍結切片を作製した。肝臓切片を4%パラホルムアルデヒドで固定した。切片の一部は、常法により、アザン染色に供した。切片の別の一部は5%ヤギ血清入りPBSでブロッキングを施し、PBSで洗浄した後、マウスモノクローナル抗α平滑筋アクチン(α−SMA)抗体(Sigma)、マウスモノクローナル抗グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)抗体(Sigma)ウサギポリクローナル抗アルブミン抗体 (MP Biomedicals)、マウスモノクローナル抗CK19抗体(Novocastra)もしくはマウスモノクローナル抗血管内皮カドヘリン(ve−CAD、Vascular Endothelial Cadherin)抗体(Santa cruz)を用いて、4℃で一晩反応させた。PBSで洗浄した後、Alexa555標識ヤギ抗マウスIgG抗体もしくはAlexa555標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(いずれもInvitrogen)を室温で60分間反応させた。PBSで洗浄した後、ProLong(R) Gold with DAPI(Invitrogen)を用いて封入して、蛍光顕微鏡で観察を行った。切片の一部は、α−SMA抗体(Dako)と反応させた後、ヤギ抗ウサギ抗体との反応に代えて、ジアミノベンジジン(DAB)で発色させ、さらにヘマトキシリンで核染色を行った。
【0069】
結果
図1は、被験ラットから採取した肝臓の外観とそのその代表的切片のアザン染色像を表す。VA−lip siRNAscrambleを投与した群では、肝臓は萎縮し、表面が不整であり、組織中にアザン染色像において青色に染色された細胞外マトリックスの蓄積が広範囲にみられ、肝小葉構造も乱れていた。これに対し、VA−lip siRNAgp46を投与した群においては、外観的な萎縮が認められず、表面はなめらかであり、組織中に細胞外マトリックスの蓄積はほとんどみられず、VA−lip siRNAscramble投与群に比べ線維化領域の明らかな縮小がみられた。また、中心静脈から放射状に類洞が走行する正常な肝小葉構造が回復していることが明確に認められた。
図2は、α−SMA抗体のDAB染色像である。青色の部分はヘマトキシリンで染色された核を表し、濃い茶色の部分がα−SMA陽性領域である。α−SMAは活性化星細胞のマーカーとして知られており、α−SMA陽性領域には活性化星細胞が存在すると考えられる。VA−lip siRNAgp46投与群において、VA−lip siRNAscrambleと比較して顕著な活性化星細胞の減少が見られた。
【0070】
図3は、GFP標識肝幹細胞移植部位におけるDAPIおよびGFPの蛍光像である。VA−lip siRNAgp46投与群においては約80%の領域でGFPの発色が見られたのに対し、VA−lip siRNAscramble投与群においてはほとんど観察されなかった。
図4は、GFP標識肝幹細胞移植部位の明視野像とGFP蛍光像である。VA−lip siRNAscramble投与群では、特に血管周囲などにおいて細胞外マトリックスの沈着のために細胞の形状がぼやけ、類洞も乱雑に走行しているのに対し、VA−lip siRNAgp46投与群では、はっきりした細胞形状と、中心静脈から放射状に走行する類洞構造が見られた。またVA−lip siRNAscramble投与群ではGFPの発色が見られなかったのに対し、VA−lip siRNAgp46投与群では、組織全体に渡ってGFPの発色が見られた。
【0071】
図5は、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とGFAP抗体による蛍光染色像とを比較したものである(図5Aは倍率200倍、図5Bは倍率400倍)。GFAPは休止状態の肝星細胞のマーカーとして知られているタンパク質である。GFAPを発現している細胞は、GFPを発現していなかった。
図6は、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とα−SMA抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較したものである。α−SMAを発現している細胞は、GFPを発現していなかった。図5および6の結果は、肝星細胞が肝幹細胞に由来するものではないことを示唆するものである。
【0072】
図7はVA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とアルブミン抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較したものである。アルブミンは肝実質細胞のマーカーであるが、GFPを発現している細胞の多くが、アルブミンを発現していた。
図8はVA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とCK19抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較したものである。CK19は胆管上皮細胞のマーカーであるが、胆管を構成するCK19陽性細胞は、GFPを発現していた。
【0073】
図9は、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とve−CAD抗体による蛍光染色像とを比較したものである(図9Aは倍率200倍、図9Bは倍率400倍)。ve−CADは血管上皮細胞のマーカーとして知られており、GFPを発現している細胞の一部において、ve−CADを発現する細胞が観察された。
図10は、VA−lip siRNAgp46投与群の細胞移植しなかった部位におけるDAPI、GFPの蛍光像とアルブミン抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較したものである。細胞移植しなかった部位においては、GFP発現細胞は観察されなかった。
【0074】
考察
GFPを発現する細胞は、移植した肝幹細胞由来の細胞であることから、VA−lip siRNAgp46の投与により、細胞移植部位において、線維化領域の縮小とともに肝幹細胞が肝実質細胞、胆管上皮細胞および血管上皮細胞へ分化することにより、正常な肝臓組織が再生されることが示された。すなわち、VA−lip siRNAgp46投与による治療は、肝線維症の治癒のみならず、肝再生をも誘起することが明らかとなった。また、VA−lip siRNAscramble投与群で肝幹細胞が検出できなかったこと(図3)は、VA−lip siRNAgp46による線維化領域の縮小が、肝幹細胞の増殖・分化に深く関与していることを示唆している。
【0075】
例3.VAによる星細胞特異的な送達
(1)ラット膵星細胞(PSC)の単離
ラット膵星細胞(PSC)を、既報(Apte et al. Gut 1998;43:128-133)に従い、濃度勾配遠心分離法を用いて単離した。純度は顕微鏡観察、内在性VAの自己蛍光、および筋アクチン架橋タンパク質であるデスミンに対するモノクローナル抗体(1:25、Dako)を用いた免疫細胞化学法でアッセイした。細胞のバイアビリティはトリパンブルー排出でアッセイした。細胞純度およびバイアビリティは共に95%を上回っていた。細胞は、10%のウシ胎児血清(FBS)を添加したイスコーブ改変ダルベッコ培地(Iscove’s modified Dulbecco’s medium:IMDM)中で、37℃、95%大気/5%CO2の加湿環境下で培養した。
【0076】
(2)VA−lip siRNAgp46−FAMの細胞内分布分析
ラットpPSC(初代膵星細胞、primary PSC)を、Lab-Tekチャンバーカバーガラスに、チャンバー当たり1×104個となるように播種した。VA−lip siRNAgp46−FAMまたはLip siRNAgp46−FAMを、最終siRNA濃度が50nMとなるように細胞に添加した。細胞を、10%FBS含有DMEMで30分間培養し、培地を新鮮な培地に交換した。処理後30分および2時間において、細胞をPBSで3回洗浄し、4%のパラホルムアルデヒドで、25℃で15分間処理して固定した。固定後、細胞をPBSで3回洗浄し、ProLong(R) Gold with DAPI(Invitrogen)に1分間曝露して核染色した。FAM標識siRNAgp46の細胞内局在を蛍光顕微鏡(Keyence, BZ-8000)を用いてアッセイした。
【0077】
(3)VA−lip siRNAgp46−FAMのFACS分析
ラットpPSC(1×104個)を、10%FBSの存在下、VA−lip siRNAgp46−FAM(50nMのsiRNA)で処理し、30分間培養した。ブロッキングアッセイのため、VA−lip siRNAgp46−FAMの添加前に、1×104個の細胞をマウス抗RBP抗体(10μg/ml、BD Pharmingen)またはネガティブコントロールであるマウスIgG1(10μg/ml、Dako)で30分間処理した。VA−lip siRNAgp46−FAM処理細胞の平均蛍光強度(MFI)をFACScalibur with CellQuest software(Becton Dickinson)を用いてアッセイした。
【0078】
(4)ウェスタンブロッティング
siRNAgp46のノックダウン効果を評価するため、ウェスタンブロッティング実験を行った。具体的には、VA−lip siRNAgp46(1nM、5nM、50nM)、VA−lip−siRNArandom(50nM)およびLip−siRNAgp46(50nM)でそれぞれ30分処理したPSCのタンパク質抽出物を4/20 SDS−ポリアクリルアミドゲルで分離し、ニトロセルロース膜上に転写し、HSP47(gp46)に対する抗体(Stressgen)またはβ−アクチンに対する抗体(Cell Signaling)でプローブした後、ペルオキシダーゼ結合抗体(Oncogene Research Product, Boston, MA)を二次抗体として標識した。最終的に、細胞をECLウェスタンブロッティング検出システム(Amersham Life Science, Arlington Heights, IL)で可視化した。
【0079】
また、gp46の発現抑制の持続時間を確認するため、PSCをVA−lip siRNAgp46(50nM)で30分処理後、24時間、48時間、72時間および96時間培養した後においてタンパク質を抽出し、VA−lip−siRNArandom(50nM)で処理後30分のものとともに、上記と同様にウェスタンブロッティング実験を行った。
【0080】
(5)コラーゲン産生の定量
ラットpPSCを6ウェル組織培養プレートに、10%FBS含有DMEM中5×104個/ウェルの密度で播種した。24時間の培養後、ラットpPSCをVA−lip siRNAgp46(50nMのsiRNA)またはVA−lip siRNArandom(50nMのsiRNA)で処理した。細胞を10%FBS含有DMEM中で30分間培養し、その後培地を新鮮な培地と交換した。処理の72時間後、細胞をPBSで3回洗浄し、ウェルに沈着したコラーゲンを、既報(Williams et al. Gut 2001;49:577-583)に従ってシリウスレッド(Biocolor, Belfast, UK)で染色した。結合しなかった染料を洗浄して除去し、結合複合体を0.5%の水酸化ナトリウムに溶解した。コラーゲンを540nmの吸光光度分析で定量し、結果を未処理コントロールに対するパーセンテージで表した。
【0081】
結果
図11は、FAM標識されたsiRNAの細胞内分布を表す蛍光像である。左の2つはVA−lip siRNAgp46−FAMで処理したPSCの蛍光像であり、右の2つはLip siRNAgp46−FAMで処理したPSCの蛍光像である。上の2つはそれぞれにおける処理後30分後の像であり、下の2つは処理後2時間後の像である。VA−lip siRNAgp46−FAMでは、処理後30分で細胞質内にぼんやりした顆粒状パターンのFAMの緑色蛍光が観察され、処理後2時間でより濃い顆粒状パターンが核周辺領域に観察された。それに比べ、Lip siRNAgp46−FAM処理群においては、処理後30分では緑色蛍光が観察されず、処理後2時間における核周辺の蛍光はぼんやりしたものであった。
【0082】
図12は、FACS分析の結果を表すグラフである。上から順に、未処理群、Lip siRNAgp46−FAM処理群、VA−lip siRNAgp46−FAM処理群、VA−lip siRNAgp46−FAM+RBP抗体処理群、Lip siRNAgp46−FAM+RBP抗体処理群の結果をそれぞれ表す。FACS分析の結果、VA−lip siRNAgp46−FAM+RBP抗体処理群では、VA−lip siRNAgp46−FAM処理群と比較して、蛍光強度がLip siRNAgp46−FAM処理群と同レベルまで抑制されており、このことはVA−lip siRNAgp46のPSCへの取り込みが、RBPレセプター媒介性であることを示唆する。
【0083】
図13Aは、抑制効果の濃度による違いを表すウェスタンブロッティングの結果を表す。VA−lip siRNAgp46処理された細胞では、VA−lip siRNAgp46の濃度依存的にgp46の発現抑制が観察され、50nMにおいてはほぼ完全に発現が抑制されたのに対し、VA−lip siRNArandomおよびLip siRNAgp46では発現抑制は観察されなかった。
図13Bは、抑制効果の持続時間を確認するウェスタンブロッティングの結果を表す。VA−lip siRNAgp46で処理した場合、処理後72時間培養した細胞まではgp46の顕著な抑制が観察された。従って、処理後少なくとも72時間までは、gp46の発現抑制効果が持続することが確認できた。
【0084】
図14は未処理細胞、ならびにVA−lip siRNAgp46およびVA−lip siRNArandomそれぞれで処理した細胞の、72時間後のコラーゲン産生量を定量したグラフである。VA−lip siRNAgp46で処理した場合に、未処理細胞およびVA−lip siRNArandomで処理した細胞と比較して、顕著なコラーゲン産生抑制が確認できた。
【0085】
考察
上記の結果から、in vitroにおいて、VA−lip siRNAgp46は、RBPレセプター媒介性の取り込みによってPSCに特異的に取り込まれてgp46の発現を抑制し、その結果コラーゲンの産生を顕著に抑制することがわかる。これは、VA−lip siRNAgp46が膵線維症に冒された膵臓において、コラーゲンを低減し得ることを示唆するものである。
【0086】
例4.膵臓線維化モデルラットでの再生治療実験
(1)膵臓線維化モデルラットの作製
体重が150〜200gの雄Lewisラット(Charles River)を用いた。既報(Inoue et al. Pancreas 2002;25:e64-70)に従って、二塩化ジブチルスズ(Dibutyltin dichloride、DBTC)を1部のエタノールに溶かしたのち、2部のグリセロールおよび2部のジメチルスルホキシド(DMSO)と混合した溶液(DBTC溶液)を調製し、5mg(DBTC)/kg(体重)に相当する量を、ラット右頸動脈よりシリンジを用いて投与した。
【0087】
(2)ラット膵臓および他の組織におけるVA−lip siRNAgp46−FITCのin vivo局在
DBTC投与開始から43日後、重篤な膵臓の線維化が観察された時点で、DBTC処置ラットに1μl/g体重のVA−lip siRNAgp46−FITCまたはLip siRNAgp46−FITCを尾静脈より投与した。投与は常圧下で行われ、1回当たり0.75mg/kgのsiRNAを1日おきに3回投与した。最後の投与の24時間後、ラットを生理食塩水の灌流により殺処理し、膵臓および他の臓器(肝臓、肺、脾臓および網膜)を採取した。臓器標本を10%のパラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋切片をアザン−マロリー染色を用いて染色した。モノクローナル抗α−SMA抗体(1:1000、Sigma)、抗CD68抗体(1:500、Dako)および抗FITC抗体(1:500、Abcam)をそれぞれ用いたデキストランポリマー法、およびEnvision Kit(Dako)によって免疫組織染色を行い、続いてDAB(和光純薬工業、Osaka, Japan)による発色およびギルへマトキシリン液(和光純薬工業)による核染色を行った。
【0088】
(3)ウェスタンブロッティング
in vivoにおけるsiRNAgp46による発現抑制の持続時間を評価するため、VA−lip siRNAgp46の静脈内投与後0、1、2、3、4日後における膵臓からのタンパク質抽出物について、例3.(4)と同様にウェスタンブロッティングを行った。
【0089】
(4)in vivoにおけるsiRNAgp46処置
3群のラット(1群当たりn=6)を組織学的評価に用いた。DBTC投与の43日後、各群をそれぞれPBS、VA−lip siRNArandomおよびVA−lip siRNAgp46の10回投与(0.75mg/kgのsiRNA、1日おきに3回投与)で処置した。全ての投与は尾静脈より常圧下で、1μl/g体重の量で行った。膵臓を10%のパラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋後、切片をアザン−マロリー染色およびヘマトキシリン−エオシン染色を用いて染色した。免疫組織染色は、モノクローナル抗α−SMA抗体(1:1000、Sigma)を用いたデキストランポリマー法、およびEnvision Kit(Dako)によって行い、続いてDAB(和光純薬工業、Osaka, Japan)による発色およびギルへマトキシリン液(和光純薬工業)による核染色を行った。アザン−マロリー、ヘマトキシリン−エオシンおよびα−SMAによる染色領域の正確な定量のため、各ラットの膵臓切片ごとに6つの低倍率視野(×100)を無作為に選択し、顕微鏡(Axioplan 2; Carl Zeiss, Inc)で観察した。デジタル画像を、デジタルTVカメラシステム(Axiocam High Resolution color, Carl Zeiss, Inc.)を用いたビデオ記録システムによって撮像した。自動ソフトウェア分析プログラム(KS400, Carl Zeiss, Inc.)を用いて、デジタル顕微鏡写真中の、アザン−マロリーおよびα−SMAによって染色された領域の割合を決定した。
【0090】
(5)ヒドロキシプロリンアッセイ
ヒドロキシプロリン含有量は、既報(Weidenbach et al. Digestion 1997;58:50-57)に従い、Weidenbach法によって決定した。簡潔には、膵臓の細胞破砕物を3000rpmで15分間遠心し、ペレットを6NのHCl中で16時間、96℃で完全に加水分解し、pHを6.5〜7.5に調節した後、再度遠心(3000rpmで15分間)した。25μlのアリコートを60℃で乾燥させ、沈殿物を1.2mlの50%イソプロパノールに溶解し、200mlの0.56% chloramine T Solution(Sigma)入り酢酸・クエン酸緩衝液pH6.0中でインキュベートした。25℃で10分間インキュベートした後、1mlのエールリッヒ試薬を加え、混合物を50℃で90分間インキュベートした。冷却後、560nmの波長の吸収を計測した。
【0091】
(6)膵臓の細胞破砕物におけるコラーゲナーゼ活性
コラーゲナーゼ活性の計測は、既報(Iredale et al. J.Clin.Invest. 1998;102:538-549)の変法により行った。簡潔には、野生型ラットおよび膵臓線維化モデルラットから採取し、液体窒素冷凍された膵臓を、セリン−およびチオール−プロテアーゼ阻害剤(PMSF 0.1mM、ロイペプチン10μM、ペプスタチンA 10μM、アプロチニン25μg/ml、ヨードアセトアミド0.1mM)を含むサンプルバッファ(50mM Tris、pH7.6、0.25%Triton X−100、0.15M NaCl、10mM CaCl2)中で、氷上で破砕した。細胞破砕物を4℃、14000gで30分間遠心して細胞残屑およびタンパク質凝集体を取り除いた。膵臓の細胞破砕物中のコラーゲナーゼ活性を、EnzCheck Collagenase Assay Collagen Conjugate kit (Molecular Probes)を用いて、取扱説明書に従って決定した。平行して適切なネガティブコントロールおよびポジティブコントロール(細菌性コラーゲナーゼ)を用いて分析し、結果をタンパク質のmgごとの分解コラーゲンの蛍光(血清アルブミン標準と比較した280nmの光学濃度によって決定)によって表した。
【0092】
結果
膵臓の各連続セクションにおいて活性化星細胞およびsiRNAgp46−FITCを免疫染色した結果、VA−lip siRNAgp46−FITC投与群においては、活性化星細胞(α−SMA陽性の細胞)が集まっている領域において、FITC陽性の細胞が同定されたのに対し、Lip siRNAgp46−FITC投与群においては、α−SMA陽性の領域において同定されたFITC陽性細胞はごく僅かであった(図15AおよびB)。
α−SMA陽性領域におけるFITC陽性細胞は、肝臓標本においても観察された(図15C)。この結果は、DBTCによって膵線維化のみならず肝硬変も誘導されるという知見と合致する。肺および脾臓を含むラットの他の臓器においては、マクロファージが浸潤している領域(CD68陽性細胞)においてFITC染色された細胞はわずかであったことから(図15DおよびE)、マクロファージによるsiRNAgp46−FITCの非特異的取り込みが示唆される。網膜はFITC染色に陰性であり(図15F)、このことは肝硬変におけるVA−lip siRNAgp46−FAMを用いた知見と合致する。おそらく、血液網膜関門の透過性の低さにより、眼球は独立した系を構築しているためと考えられる。
【0093】
ウェスタンブロッティングの結果、in vivoにおいても、siRNAgp46によるgp46の発現抑制の効果が少なくとも3日間持続することが確認された(図16AおよびB)。
【0094】
VA−lip siRNAgp46の10回投与を行ったDBTC処置ラットを、アザン−マロリー染色で評価した(図17A)。コンピューター画像分析によって決定された線維化領域は、コントロール標本に対してVA−lip siRNAgp46投与群の標本において、顕著に減少していた(P<0.01)(図17B)。この結果は、VA−lip siRNAgp46投与群の膵臓におけるヒドロキシプロリンの明らかな抑制を示すデータ(図17C)と合致する。
【0095】
VA−lip siRNAgp46処置後のラット膵臓における星細胞の変化を評価するため、VA−lip siRNAgp46処置後ラットの膵臓標本のα−SMA染色を行った結果、Lip siRNAgp46処置およびPBS処置したラットと比較して、α−SMA陽性の細胞数が顕著に減少していた(図18AおよびB)。
【0096】
VA−lip siRNAgp46投与によって、PSCからの新たなコラーゲンの分泌を抑制することに続く線維化の改善には、炎症性細胞およびPSC自身に由来するコラーゲナーゼが関与しているのではないかという推測に基づき、野生型ラットおよびVA−lip siRNAgp46処置したDBTC処置ラットの膵臓細胞破砕物におけるコラーゲナーゼ活性を計測した結果を下表に示す。
【0097】
【表1】
表に示した通り、DBTC処置ラットにおけるコラーゲナーゼ活性は、野生型ラットのものとほぼ同等であった。
【0098】
VA−lip siRNAgp46処置およびLip siRNAgp46処置したDBTC処置ラットの65日目における膵臓標本のヘマトキシリン−エオシン染色像を比較してみると、VA−lip siRNAgp46処置ラットにおいて、完全ではないにせよ明らかな膵臓組織の正常化が観察されたのに対し、Lip siRNAgp46処置ラットにおいては組織正常化が見られなかった(図19A)。このことは、VA−lip siRNAgp46処置したDBTC処置ラットの膵臓重量が正常化したこと(図19B)とも合致する。
【0099】
考察
上記の結果に鑑みると、VA−lip siRNAgp46による処置により、siRNAgp46が活性化膵星細胞(aPSC)に特異的に取り込まれてgp46の発現を抑制し、その結果aPSCからのからのコラーゲン分泌を抑制することで膵線維化の改善に顕著な効果を発揮することがわかる。さらに、おそらくコラーゲン分泌の減少に起因してaPSCの顕著な減少が観察された。そして特筆すべきことに、VA−lip siRNAgp46による処置は、膵線維化の改善のみならず、膵臓組織の再生も誘導することが証明された。上記例2における結果と合わせ考えれば、これらの結果は、線維化組織において蓄積したコラーゲンを低減することにより、組織非特異的に線維化組織から正常組織を再生し得ることを示すものである。
【0100】
例5.幹細胞の増殖・分化用スペースの重要性
活性化肝星細胞(aHSC)を、種々の密度の肝前駆細胞と共培養し、肝前駆細胞の分化に細胞周囲のスペースの有無が与える影響を検討した。肝前駆細胞としては、上記例2(2)で得たGFP標識ラット肝幹細胞を、aHSCとしては、SDラットから採取したHSCを培養し、1回継代したものをそれぞれ用いた。aHSCは以下のように採取・培養した。まず、SDラットにEGTA溶液およびコラゲナーゼ溶液を灌流した後、肝臓を採取し、採取した肝臓を細切した後、セルストレーナー(孔径100μm)で濾過した。得られた細胞懸濁液にHBSS+0.25%BSA溶液を加えて、4℃、500rpmで2分間遠心した。上清を採取して、4℃、1300rpmで5分間遠心を行った。上清を除去した後、HBSS+0.25%BSA溶液を加え、Nycodenzの濃度が13.2%になるように28.7% Nycodenz溶液(Axis Shield, Oslo, Norway)を加えて混合した。HBSS+0.25%BSA溶液を重層した後、4℃、1400×gで20分間遠心した。遠心終了後、中間層を採取して、Dulbecco’s Modified Eagle's medium(DMEM)+10%ウシ胎児血清(FBS)培地を用いて、5日間培養した。培養5日目に継代を行い、その細胞を本実験に用いた。
【0101】
セルカルチャーインサート(孔径0.4μm、BD Falcon, Franklin Lakes, NJ, USA)上にaHSCを5×104個/ウェルの密度で播種し、インキュベーター内で37℃、5%CO2にて、DMEM+10%FBSを用いて48時間培養した。aHSC播種の2日後に、肝前駆細胞をI型コラーゲンでコートされたカバーガラス(IWAKI, Tokyo, Japan)を入れた24穴プレート(BD Falcon)に1×104個/ウェル(低密度)または5×105個/ウェル(コンフルエント)の密度で播種した。次いで、aHSCを含む上記セルカルチャーインサートを24穴プレートのウェルに挿入し、インキュベーター内で37℃、5%CO2にて10日間共培養した(培地として、DME/F12(Dulbecco's Modified Eagle's Medium/Nutrient F-12 Ham)+10%FBS+ITS(10mg/lインスリン、5.5mg/lトランスフェリン、0.67μg/lセレン)+0.1μMデキサメサゾン+10mMニコチンアミド+50μg/mlβ−メルカプトエタノール+2mM L−グルタミン+5mM Hepesを使用)。
【0102】
共培養10日目に、抗アルブミン抗体(ウサギポリクローナル、MP Biomedicals)で免疫染色を行い、倒立顕微鏡(Nikon)を用いて100倍の倍率でアルブミン陽性コロニーを撮影し、得られた画像をもとにアルブミン陽性コロニーの面積をNIS-Elements software(Nikon)を用いて算出した。結果を図20に示す。
別な実験では、共培養10日目に、Premix WST-1 Cell Proliferation Assay System (Takara, Tokyo, Japan)を使用して、マイクロプレートリーダー(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)を用いて細胞増殖の測定を行った。結果を図21に示す。
【0103】
図20に示す結果から、aHSCを、低密度で播種した肝前駆細胞と共培養すると、肝前駆細胞は多数のアルブミン陽性の肝実質細胞に分化するが、肝前駆細胞がコンフルエントであると、ごく少数しか肝実質細胞に分化しないことが明らかとなった。なお、肝前駆細胞を単独培養した場合には、アルブミン陽性の肝実質細胞に分化しなかった。また、図21に示すとおり、肝前駆細胞を上記と同様の密度で播種した場合、その増殖能は、低密度条件よりもコンフルエント条件の方が低くなることも明らかとなった。
以上の結果から、活性化星細胞が幹細胞の増殖・分化を誘導すること、および、幹細胞の増殖・分化に幹細胞周囲の物理的スペースの有無が重要な影響を及すことが判明した。これは、上記各例の結果と合わせ考えると、コラーゲン低減物質によって線維化組織における線維組織が縮小し、幹細胞の周囲にスペースが生じた結果、幹細胞が増殖・分化し、正常組織が再生することを示すものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維化組織から正常組織を再生するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織の線維化は、コラーゲンを中心とする細胞外マトリックスが組織に過剰に産生・蓄積されることにより生じる。組織は、酸化ストレス、低酸素状態、炎症、アポトーシスなどの刺激により損傷を受けた場合、損傷組織を細胞外マトリックスで置換して修復を図るが、損傷が重度の場合や、かかる刺激が慢性化した場合などには細胞外マトリックスの蓄積が過剰となり、組織がその機能を十分に果たせなくなる。線維化は、肝、膵、肺、腎、骨髄、心臓などの各種臓器にみられ、筋線維芽細胞等のコラーゲン産生細胞が病態に関与していると考えられている。従来線維化は不可逆的な現象であり、いったん線維化した組織が元に戻ることはないと考えられてきたが、最近では、線維化が可逆的なものであり、上述のような線維化刺激が消失すると、組織に蓄積した細胞外マトリックスが減少することを示唆する報告がいくつかなされている(非特許文献1〜3参照)。
【0003】
しかしながら、病的な細胞外マトリックスの蓄積が減少した後の組織で具体的に何が起っているかについての詳細な報告はなく、かかる線維化組織で正常組織の再生が起こることも、正常組織の再生を起こし得ることもこれまで全く知られていなかった。
また、組織の線維化には、ウイルス感染、飲酒、薬物などに由来する線維症などの、病因が明確で、その除去が可能なものばかりでなく、直接的な病因が不明な線維症、例えば、特発性肝硬変、特発性肺線維症、特発性骨髄線維症など、または、直接的な病因は分かっているが、その病因の原因が不明なものや、除去困難なもの、例えば、原発性胆汁性肝硬変、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)由来の肝線維症、原発性硬化性胆管炎なども含まれる。このような病因の除去が困難な線維化が存在する組織は、絶えず線維化刺激にさらされている状態にあるが、かかる線維化組織において病的な細胞外マトリックスの蓄積を減少させ得ることも、ましてや組織を再生し得ることもこれまで全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Issa et al., Gastroenterology. 2004;126(7):1795-808
【非特許文献2】Iredale, J Clin Invest. 2007;117(3):539-48
【非特許文献3】Sato et al., Nat Biotechnol. 2008;26(4):431-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、線維化が存在する組織において治療的に正常組織を再生するための組成物および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を続ける中で、線維化刺激を継続して受けている線維化組織においても組織に蓄積したコラーゲンを低減させ得ること、さらには、組織に蓄積したコラーゲンを除去し、幹細胞が増殖・分化し得るスペースを確保することにより線維化組織から正常な組織を再生し得ることを見出し、本発明を完成させた。上記のとおり、線維化刺激が消失すると組織に蓄積した細胞外マトリックスが減少し得ることは知られていたが、線維化刺激を継続して受けている線維化組織において組織に蓄積したコラーゲンを低減させ得ることも、組織に蓄積したコラーゲンを積極的に除去することにより、線維化組織から正常組織を再生できることもこれまで全く知られておらず、驚くべき知見である。
【0007】
したがって、本発明は以下に関する。
(1)コラーゲン低減物質を含む、線維化組織から正常組織を再生するための医薬組成物。
(2)コラーゲン低減物質が、コラーゲン産生細胞によるコラーゲン産生を抑制する物質、コラーゲンの分解を促進する物質、およびコラーゲン分解阻害物質を抑制する物質からなる群から選択される、上記(1)に記載の医薬組成物。
(3)線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に対する標的化剤をさらに含む、上記(1)または(2)に記載の医薬組成物。
(4)標的化剤がレチノイドである、上記(3)に記載の医薬組成物。
(5)線維化組織が、線維化刺激を継続的に受けている、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
(6)線維化組織に蓄積されたコラーゲンが低減されて生成される、幹細胞の増殖・分化用のスペースにおいて、線維化組織を再生するための、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0008】
(7)コラーゲン産生細胞によるコラーゲン産生を抑制する物質が、TGFβ阻害物質、HGFまたはその産生促進物質、PPARγリガンド、アンジオテンシン阻害物質、PDGF阻害物質、リラキシンまたはその産生促進物質、細胞外マトリックス成分の産生・分泌を阻害する物質、細胞活性抑制物質、細胞増殖抑制物質、ならびにアポトーシス誘導物質からなる群から選択される、上記(2)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
(8)コラーゲンの分解を促進する物質がコラゲナーゼまたはその産生促進物質である、上記(2)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
(9)コラーゲン分解阻害物質を抑制する物質がTIMP阻害物質である、上記(2)〜(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、これまで正常組織の再生が生じないと考えられていた線維化組織から正常組織を再生できることが明らかとなった。これにより、線維化組織から正常組織を治療的に再生することができるようになり、線維化疾患の新たな再生治療が可能となる。
また、本発明により、線維化刺激に継続的にさらされている線維化組織の治療が可能となり、従来有効な治療法が存在しなかった線維化疾患や、臓器移植しか治療法がなかった線維化疾患を含むあらゆる線維化疾患の内科的治療が実現するため、医療および獣医療に対して多大な貢献が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、被験ラットから採取した肝臓の全体外観とその代表的切片のアザン染色像を示した写真図である。
【図2】図2は、被験ラットから採取した肝臓の代表的切片におけるα−SMAの局在を示した写真図である。
【図3】図3は、肝幹細胞移植部位におけるDAPIおよびGFPの局在を示した蛍光像である。
【図4】図4は、肝幹細胞移植部位の明視野像とGFP蛍光像である。
【図5A】図5Aは、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とGFAP抗体による蛍光染色像とを比較した写真図である(倍率200倍)。
【図5B】図5Bは、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とGFAP抗体による蛍光染色像とを比較した写真図である(倍率400倍)。
【0011】
【図6】図6は、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とα−SMA抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較した写真図である。
【図7】図7は、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とアルブミン抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較した写真図である。
【図8】図8は、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とCK19抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較した写真図である。
【図9A】図9Aは、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とve−CAD抗体による蛍光染色像とを比較した写真図である(倍率200倍)。
【図9B】図9Bは、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とve−CAD抗体による蛍光染色像とを比較した写真図である(倍率400倍)。
【0012】
【図10】図10は、VA−lip siRNAgp46投与群の、肝幹細胞を移植しなかった部位におけるDAPI、GFPの蛍光像とアルブミン抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較した写真図である。
【図11】図11は、ラット膵星細胞における、FAM標識されたsiRNAの細胞内分布を表す蛍光像である。
【図12】図12は、ラット膵星細胞に取り込まれたsiRNAに関するFACS分析の結果を表すグラフである。上から順に、未処理群、Lip siRNAgp46−FAM処理群、VA−lip siRNAgp46−FAM処理群、VA−lip siRNAgp46−FAM+RBP抗体処理群、Lip siRNAgp46−FAM+RBP抗体処理群の結果をそれぞれ表す。
【図13】図13は、siRNAgp46によるラット膵星細胞におけるgp46の発現抑制を示したウェスタンブロット像である。Aは、VA−lip siRNAgp46の濃度による抑制効果の違いを示し、Bは、抑制効果の持続時間を表す。
【0013】
【図14】図14は未処理細胞、ならびにVA−lip siRNAgp46およびVA−lip siRNArandomそれぞれで処理した細胞の、72時間後のコラーゲン産生量を定量したグラフである。
【図15】図15は、DBTC処置ラットにおける膵星細胞へのVA−lip siRNAgp46の特異的送達を示した写真図である。AおよびBは、それぞれVA−lip siRNAgp46−FITCおよびLip siRNAgp46−FITCで1日ごとに3回処置したラットの膵臓切片の、抗α−SMA抗体および抗FITC抗体による免疫染色像である。右側のa〜dの染色像は、左側の染色像における対応する記号で表される領域の拡大像である。Cは、VA−lip siRNAgp46−FITCで1日ごとに3回処置したラットの肝臓切片のアザン−マロリー染色、抗α−SMA抗体染色または抗FITC抗体染色による染色像である。D〜Fは、VA−lip siRNAgp46−FITCを静脈内投与した24時間後のラットの肺、脾臓および網膜を、抗CD68抗体または抗FITC抗体で染色した染色像である。
【0014】
【図16】図16は、DBTC処置後14日目に、VA−lip siRNAgp46(siRNA 0.75mg/kg)を投与したラットの、VA−lip siRNAgp46投与後0、1、2、3および4日目の膵臓におけるgp46タンパク質の発現を示した図である。Aは膵臓細胞破砕物のウェスタンブロッティングの結果を表し、Bは、β−アクチンで標準化した定量的濃度分析の結果を表す。
【図17】図17は、DBTC誘導性膵線維症におけるVA−lip siRNAgp46の効果を示した図である。Aは、VA−lip siRNAgp46、Lip siRNAgp46またはPBSを10回投与したDBTC処置ラットの膵臓切片のアザン−マロリー染色像を表す。BはAのアザン−マロリー染色像において陽性を示した領域を、コンピューター画像分析によって定量したグラフである。データは、各群6匹のラットから無作為抽出した6視野より計算し、平均値±標準偏差で表されている。Cは、膵臓におけるヒドロキシプロリンの含有量を表したグラフである。データは平均値±標準偏差で表されている。
【0015】
【図18】図18は、DBTC誘導性膵線維症におけるVA−lip siRNAgp46の効果を示した図である。Aは、VA−lip siRNAgp46処置後のDBTC処置ラットの膵臓における、α−SMA染色像を表す。Bは、Aにおけるα−SMA陽性領域を、コンピューター画像解析によって定量化したグラフである。データは、各群6匹のラットから無作為抽出した6視野より計算し、平均値±標準偏差で表されている。
【図19】図19は、VA−lip siRNAgp46による線維化膵組織からの正常組織の再生を示した図である。Aは、DBTC処置ラットに、VA−lip siRNAgp46(右)およびLip siRNAgp46(左)を10回投与したのちの膵臓の、ヘマトキシリン−エオシン染色像を表す。下図は、上図のそれぞれaおよびbの領域の拡大図である。Bは、DBTC処置ラットの膵臓重量を表したグラフである。
【図20】図20は、幹細胞周囲のスペースの有無が、幹細胞の分化に与える影響を示したグラフである。縦軸は、アルブミン陽性コロニーの面積を示す。
【図21】図21は、幹細胞周囲のスペースの有無が、幹細胞の増殖に与える影響を示したグラフである。縦軸は、幹細胞の増殖率の指標を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、コラーゲン低減物質を含む、線維化組織から正常組織を再生するための組成物に関する。
本発明において、「コラーゲン低減物質」とは、組織に蓄積したコラーゲンの量を低減し得る任意の物質を意味する。特定の理論にとらわれることを意図するわけではないが、線維化組織におけるコラーゲン蓄積は、コラーゲンの産生と分解とのバランスが産生側に偏ることが一因と考えられているため、コラーゲン低減物質は、コラーゲンの産生を抑制する物質ばかりでなく、コラーゲンの分解を促進する物質や、同物質を阻害する物質を抑制する物質をも含み得る。したがって、コラーゲン低減物質としては、限定することなく、例えば、コラーゲン産生細胞によるコラーゲン産生を抑制する物質、コラーゲンの分解を促進する物質、コラーゲン分解阻害物質を抑制する物質等が挙げられる。本発明におけるコラーゲンは特に限定されないが、線維化に関与するコラーゲン、例えば、I、III、V型コラーゲンなどが好ましく、線維化組織に最も多量に存在するI型コラーゲンが特に好ましい。
【0017】
本発明において、コラーゲン産生細胞は、線維化組織においてコラーゲンを産生する任意の細胞を意味し、限定されずに、例えば、活性化星細胞、筋線維芽細胞等を含む。活性化星細胞および筋線維芽細胞は、線維化組織における主要なコラーゲン産生源と考えられており、α−SMA(α平滑筋アクチン)の発現を特徴としている。したがって、本発明における活性化星細胞および筋線維芽細胞は、検出可能に標識された抗α−SMA抗体を用いた免疫染色などによって同定されるものである。
【0018】
コラーゲン産生細胞によるコラーゲン産生を抑制する物質は、線維化組織におけるコラーゲン蓄積に関係する同細胞の物理的、化学的および/または生理的な作用等を直接または間接に抑制する任意の薬物を含み、限定されずに、例えば、TGFβ(Transforming growth factor-beta)阻害物質、HGF(Hepatocyte growth factor)またはその産生促進物質、PPARγ(Peroxisome proliferator-activated receptor gamma)リガンド、アンジオテンシン阻害物質、PDGF(Platelet-derived growth factor)阻害物質、リラキシンまたはその産生促進物質、細胞外マトリックス成分の産生・分泌を阻害する物質、細胞活性抑制物質、細胞増殖抑制物質、アポトーシス誘導物質等を包含する。
【0019】
TGFβ阻害物質としては、限定することなく、例えば、切断型TGFβII型受容体(Qi et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1999;96(5):2345-9)、可溶性TGFβII型受容体(George et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1999;96(22):12719-24)、抗TGFβ抗体などのTGFβ活性阻害物質や、TGFβに対するRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などのTGFβ産生阻害物質、これらを発現するベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。本発明の一態様において、TGFβ阻害物質は、TGFβ1の活性および/または産生を阻害する。
【0020】
HGFまたはリラキシンの産生促進物質としては、限定することなく、例えば、HGFまたはリラキシンをコードする核酸、これを含む発現構築物、これらを含む発現ベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。
PPARγリガンドとしては、限定することなく、例えば、15−デオキシ−Δ12,14−プロスタグランジンJ2、ニトロリノール酸、酸化LDL(Low density lipoprotein)、長鎖脂肪酸、エイコサノイドといった内因性リガンドや、トログリタゾン、ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、バラグリタゾン、リボグリタゾン等のチアゾリジンジオン系薬剤、非ステロイド性抗炎症薬といった外因性リガンドなどが挙げられる。
【0021】
アンジオテンシン阻害物質としては、限定することなく、例えば、テルミサルタン、ロサルタン、バルサルタン、カンデサルタンシレキセチル、オルメサルタンメドキソミル、イルベサルタン等のアンジオテンシン受容体拮抗物質等が挙げられる。アンジオテンシンには、アンジオテンシンI、II、IIIおよびIVが含まれる。また、アンジオテンシン受容体としては、限定することなく、例えば、アンジオテンシン1型受容体(AT1)等が挙げられる。
PDGF阻害物質としては、限定することなく、例えば、抗PDGF抗体などのPDGF活性阻害物質や、PDGFに対するRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などのPDGF産生阻害物質、これらを発現するベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。
【0022】
細胞外マトリックス成分の産生・分泌を阻害する物質としては、限定することなく、例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、テネイシン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、オステオポンチン、オステオネクチン、エラスチン等の細胞外マトリックス成分の発現を抑制する、RNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などの物質、もしくはドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、これらを発現するベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。コラーゲンの産生・分泌を阻害する薬物としては、限定されずに、例えば、様々なタイプのコラーゲンの合成過程で共通する細胞内輸送および分子成熟化に必須のコラーゲン特異的分子シャペロンであるHSP(Heat shock protein)47の阻害物質、例えば、HSP47に対するRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などのHSP47発現阻害物質、もしくはHSP47のドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、これらを発現するベクター、およびこれらで形質転換された細胞等などが挙げられる。
【0023】
細胞増殖抑制物質としては、限定することなく、例えば、アルキル化剤(例えば、イホスファミド、ニムスチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、メルファラン、ラニムスチン等)、抗腫瘍性抗生物質(例えば、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ミトキサントロン、マイトマイシンC等)、代謝拮抗剤(例えば、ゲムシタビン、エノシタビン、シタラビン、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン等)、エトポシド、イリノテカン、ビノレルビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン等のアルカロイド、およびカルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン等の白金錯体、ロバスタチン、シムバスタチン等のスタチンなどが挙げられる。
【0024】
細胞活性抑制物質としては、限定することなく、例えば、ナトリウムチャンネル阻害物質などが挙げられる。
アポトーシス誘導剤としては、限定することなく、例えば、compound 861、グリオトキシン、アトルバスタチンなどが挙げられる。
【0025】
コラーゲンの分解を促進する物質としては、限定することなく、例えば、種々のコラゲナーゼまたはその産生促進物質等が挙げられる。コラゲナーゼの例としては、限定されずに、例えば、MMP(Matrix metalloproteinase)1、2、3、9、13、14等のMMPファミリー等が挙げられる。コラゲナーゼの産生促進物質としては、限定することなく、例えば、コラゲナーゼをコードする核酸、これを含む発現構築物、これらを含む発現ベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。
【0026】
コラーゲンの分解を促進する物質を阻害する物質としては、限定することなく、例えば、TIMP(Tissue inhibitor of metalloproteinase、TIMP1およびTIMP2など)が挙げられる。したがって、同物質を阻害する物質としては、限定することなく、例えば、TIMPに対する抗体などのTIMP活性阻害物質、TIMPに対するRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸などのTIMP産生阻害物質、これらを発現するベクター、およびこれらで形質転換された細胞等が挙げられる。
【0027】
本発明におけるRNAi分子には、siRNA(small interfering RNA)、miRNA(micro RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、ddRNA(DNA-directed RNA)、piRNA(Piwi-interacting RNA)、rasiRNA(repeat associated siRNA)などのRNAおよびこれらの改変体も含まれる。また、本発明における核酸は、RNA、DNA、PNA、またはこれらの複合物を含む。
【0028】
本発明において「線維化組織」とは、コラーゲンを中心とする細胞外マトリックスが正常より多く蓄積された組織を意味する。細胞外マトリックスとしては、コラーゲンのほか、限定することなく、例えば、プロテオグリカン、テネイシン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、オステオポンチン、オステオネクチン、エラスチン等が挙げられる。組織に蓄積したコラーゲンの量は、例えば、組織中のヒドロキシプロリンの量を指標にしたり、組織にコラーゲン染色(例えば、マッソン・トリクローム染色、アザン染色、シリウスレッド染色、エラスチカ・ワンギーソン染色等)を施し、画像解析することなどにより定量化できる。本発明における線維化組織における細胞外マトリックスの量は、正常組織に比べて、5%以上、10%以上、25%以上、50%以上、100%以上、200%以上、300%以上、400%以上、または500%以上であってもよい。組織の線維化には、活性化星細胞および/または筋線維芽細胞によるコラーゲンの産生が寄与していると考えられるため、本発明における線維化組織は、典型的には活性化星細胞および/または筋線維芽細胞を含んでいる。線維化組織は、上記の特徴を有していれば、体内のいずれの組織であってもよく、限定されずに、例えば、肝、膵、肺、腎、骨髄、声帯、喉頭、口腔、心臓、脾臓、縦隔、後腹膜、子宮、皮膚、乳腺、腸管などを含む。
【0029】
したがって、線維化組織は、種々の臓器線維症の患部であってもよい。臓器線維症の例としては、限定することなく、例えば、肝線維症、肝硬変、声帯瘢痕形成、声帯粘膜線維症、喉頭の線維化、肺線維症、膵線維症、骨髄線維症、心筋梗塞、心筋梗塞後の心筋の線維化、心筋線維症、心内膜心筋線維症、脾線維症、縦隔線維症、舌粘膜下線維症、腸管線維化(例えば、炎症性腸疾患に伴うものなど)、後腹膜線維症、子宮線維症、強皮症、乳腺線維症等が挙げられる。
【0030】
本発明における肝線維症および肝硬変は、B型およびC型肝炎ウイルスなどのウイルス感染、飲酒、脂肪肝、寄生虫感染、先天性代謝異常、肝毒性物質などに起因するものばかりでなく、原因が特定されていないものも含む。したがって、本発明における肝硬変は、限定されずに、例えば、シャルコー肝硬変、トッド肝硬変、原発性胆汁性肝硬変、単葉性肝硬変、続発性胆汁性肝硬変、閉塞性肝硬変、胆細管性肝硬変、胆汁性肝硬変、萎縮性肝硬変、栄養性肝硬変、壊死後性肝硬変、肝炎後肝硬変、結節性肝硬変、混合型肝硬変、小結節性肝硬変、代償性肝硬変、大結節性肝硬変、中隔性肝硬変、特発性肝硬変、非代償性肝硬変、門脈周囲性肝硬変、門脈性肝硬変、アルコール性肝硬変などを包含する。
【0031】
本発明において肺線維症は、狭義の肺線維症のみならず、間質性肺炎との併存を含む広義の肺線維症を含む。本発明における肺線維症は、任意の間質性肺炎、例えば、ウイルス性肺炎、真菌性肺炎、マイコプラズマ肺炎などに伴う感染性間質性肺炎、関節リウマチ、全身性強皮症、皮膚筋炎、多発性筋炎、混合性結合組織病(MCTD、Mixed connective tissue disease)などの膠原病に伴う間質性肺炎、放射線被曝に伴う間質性肺炎、ブレオマイシンなどの抗癌剤、小柴胡湯などの漢方薬、インターフェロン、抗生物質、パラコートなどによる薬剤性間質性肺炎、特発性肺線維症、非特異性間質性肺炎、急性間質性肺炎、特発性器質化肺炎、呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患、剥離性間質性肺炎、リンパ球性間質性肺炎などの特発性間質性肺炎などに起因し得、したがって、これらの間質性肺炎が慢性化したものを含む。
【0032】
本発明において骨髄線維症は、原発性骨髄線維症のみならず、二次性骨髄線維症も含む。二次性骨髄線維症は、限定されずに、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症、原発性血小板血症、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、癌腫、全身性エリテマトーデス、全身性進行性硬化症などの疾患や、放射線照射などに続発するものを含む。
【0033】
本発明における腎線維症は、任意の間質性腎炎、例えば、レンサ球菌腎炎、ブドウ球菌腎炎、肺炎球菌腎炎、水痘、B型肝炎、C型肝炎、HIVなどに伴うウイルス性腎炎、マラリアなどの寄生虫感染による腎炎、真菌性腎炎、マイコプラズマ腎炎などに伴う感染性間質性腎炎、全身性エリテマトーデス(ループス腎炎)、全身性強皮症(膠原病腎)、シェーグレン症候群などの膠原病に伴う間質性腎炎、紫斑病性腎炎、多発性動脈炎、急速進行性糸球体腎炎などの血管の免疫疾患に伴う腎炎、放射線被曝に伴う間質性腎炎、金製剤、NSAIDs、ペニシラミン、ブレオマイシンなどの抗癌剤、抗生物質、パラコートなどによる薬剤性間質性腎炎、昆虫の刺し傷、花粉、ウルシ科の植物などによるアレルギー性腎炎、アミロイドーシス腎炎、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、悪性腎硬化症、多発性嚢胞腎症などに伴う腎炎、尿細管間質性腎炎、妊娠中毒症や癌に伴う腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、IgA腎症、混合型クリオグロブリン血症腎炎、グッドパスチャー症候群腎炎、ヴェーゲナー肉芽腫症腎炎、急性間質性腎炎などの特発性間質性腎炎などに起因し得、したがって、これらの間質性腎炎が慢性化したものを含む。
【0034】
本発明の一態様において、線維化組織は、線維化刺激を継続的に受けているものである。本発明において線維化刺激は、線維化を誘導する任意の刺激を意味し、限定されずに、例えば、酸化ストレス、低酸素状態、炎症、アポトーシスなどを含む(Ghiassi-Nejad et al., Expert Rev Gastroenterol Hepatol. 2008;2(6):803-16参照)。かかる組織としては、例えば、慢性炎症を起している線維化組織や、細胞障害性物質に絶えずさらされている組織(例えば、胆管疾患などにより胆汁の鬱滞が起っている肝組織)などが挙げられる。また、かかる組織には、直接的な病因が不明な線維症、例えば、特発性肝硬変、特発性肺線維症、特発性骨髄線維症など、または、直接的な病因は分かっているが、その病因の原因が不明なものや、除去困難なもの、例えば、原発性胆汁性肝硬変、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)由来の肝線維症、原発性硬化性胆管炎、特発性肺線維症、特発性間質性肺炎由来の肺線維症、原発性骨髄線維症、特発性間質性腎炎由来の腎線維症、炎症性腸疾患(例えばクローン病、潰瘍性大腸炎など)、全身性強皮症などに罹患した組織なども含まれる。
【0035】
本発明において「線維化組織から正常組織を再生する」とは、線維化によって変質した組織を、少なくとも線維化がより軽度であった状態に回復させることを意味する。すなわち、線維化が進むにつれ、組織は細胞外マトリックスを中心とした線維組織に置換されていくが、この流れを逆転させ、増生した線維組織を本来の正常組織に置換していくことが、本発明における線維化組織からの正常組織の再生である。したがって、本発明における線維化組織からの正常組織の再生は、線維化組織を完全に元の状態に回復させることばかりでなく、線維化組織を部分的に元の状態に回復させることも含む。正常組織の再生の程度は、生検試料などの組織学的検査により、組織構造の正常化、線維組織が占める領域の縮小、正常組織が占める領域の拡大などに基づいて評価してもよいし、本組成物による処置の前に線維化に起因する生化学的指標の異常が認められている場合には、当該指標の改善などによって評価してもよい。
【0036】
本発明の一態様において、正常組織の再生は、線維化組織に蓄積されたコラーゲンの低減により生成されたスペースにおいて、幹細胞が増殖・分化することにより生じるものであってもよい。したがって、本発明の一態様は、線維化組織に蓄積されたコラーゲンが低減されて生成される、幹細胞の増殖・分化用のスペースにおいて、線維化組織を再生するための上記医薬組成物に関する。ここで、幹細胞には、限定されずに、例えば、線維化した組織に本来存在するもの(肝幹細胞、膵幹細胞、肺幹細胞、腎幹細胞、骨髄幹細胞、心臓幹細胞、脾臓幹細胞、子宮幹細胞、皮膚幹細胞、乳腺幹細胞、腸管幹細胞、間葉系幹細胞など)や、体内の別の場所から移動してきたもの、さらには治療的に投与したもの等が含まれる。また、「スペース」は、組織内の空隙のみならず、細胞が拡大・増殖し得る余地のある空間、例えば、細胞間の圧力が低減された空間や、柔軟性を有する空間などを含む。
【0037】
本発明の組成物は、その一態様において、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に対する標的化剤をさらに含む。標的化剤を含むことにより、コラーゲン産生細胞を標的とするコラーゲン低減物質、例えば、限定されずに、細胞外マトリックス成分の産生・分泌を阻害する物質、HGFまたはその産生促進物質、MMPまたはその産生促進物質、TIMP阻害物質、TGFβ産生阻害物質、リラキシンまたはその産生促進物質などを、標的細胞であるコラーゲン産生細胞に特異的に送達することが可能となり、使用するコラーゲン低減物質の効果を高めることができる。
【0038】
本発明の一態様において、コラーゲン産生細胞に対する標的化剤はレチノイドである。レチノイドによる標的化機構は未だ完全には解明されていないが、例えば、RBP(retinol binding protein)と特異的に結合したレチノイドが、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞の細胞表面上に位置するある種のレセプターを介して同細胞に取り込まれることが考えられる。レチノイドがコラーゲン産生細胞への標的化剤として機能し得ることは、WO 2006/068232、特開2009-221164、特開2010-59124等に記載されている。
【0039】
レチノイドは、4個のイソプレノイド単位がヘッド−トゥー−テイル式に連結した骨格を持つ化合物の群の1員であり(G. P. Moss, “Biochemical Nomenclature and Related Documents,” 2nd Ed. Portland Press, pp. 247-251 (1992)を参照)、ビタミンAは、レチノールの生物学的活性を定性的に示すレチノイドの一般的な記述子である。本発明において用いることができるレチノイドとしては、特に限定されず、例えばレチノール(オールトランスレチノールを含む)、レチナール、レチノイン酸(トレチノインを含む)、レチノールと脂肪酸とのエステル、脂肪族アルコールとレチノイン酸とのエステル、エトレチナート、イソトレチノイン、アダパレン、アシトレチン、タザロテン、パルミチン酸レチノールなどのレチノイド誘導体、およびフェンレチニド(4−HPR)、ベキサロテンなどのビタミンAアナログを挙げることができる。
【0040】
これらのうち、レチノール、レチナール、レチノイン酸、レチノールと脂肪酸とのエステル(例えばレチニルアセテート、レチニルパルミテート、レチニルステアレート、およびレチニルラウレートなど)および脂肪族アルコールとレチノイン酸とのエステル(例えばエチルレチノエートなど)は、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞への特異的な物質の送達の効率の点で好ましい。
レチノイドのシス−トランスを含む異性体全ては、本発明の範囲内に入る。レチノイドはまた1または2以上の置換基で置換されることもある。本発明におけるレチノイドは、単離された状態のものはもちろんのこと、これを溶解または保持することができる媒体に溶解または混合した状態のレチノイドをも含む。
【0041】
本発明の組成物の上記態様は、有効成分としてのコラーゲン産生細胞を標的にしたコラーゲン低減物質および標的化剤としてのレチノイドのみで構成してもよいし、これらとは別の担体構成成分を含んでもよい。本態様における担体構成成分としては、特に限定されずに、医薬および/または薬学の分野で知られる任意のものを用いることができるが、少なくともレチノイドを包含し得るか、または、これと結合し得るものが好ましい。
このような成分としては、脂質、例えば、グリセロリン脂質などのリン脂質、スフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質、コレステロールなどのステロール、大豆油、ケシ油などの植物油、鉱油、卵黄レシチンなどのレシチン類、ポリマー等が挙げられるが、これらに限定されない。このうち、リポソームを構成し得るもの、例えば、レシチンなどの天然リン脂質、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)などの半合成リン脂質、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、コレステロールなどが好ましい。
【0042】
特に好ましい成分としては、細網内皮系による捕捉を回避し得る成分、例えば、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジドデシル−D−グルタメートクロリド(TMAG)、N,N’,N’’,N’’’−テトラメチル−N,N’,N’’,N’’’−テトラパルミチルスペルミン(TMTPS)、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、ジドデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2−ジオレイルオキシ−3−トリメチルアンモニオプロパン(DOTAP)、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)、1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド(DC−6−14)などのカチオン性脂質が挙げられる。
上記担体は、特定の3次元構造を有してもよい。かかる構造としては、限定されずに、直鎖状または分枝状の線状構造、フィルム状構造、球状構造などが挙げられる。したがって、担体は、限定されずに、ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球などの任意の3次元形態を有してもよい。
【0043】
担体へのレチノイドおよび/または有効成分の結合または包含は、化学的および/または物理的な方法によってレチノイドを担体に結合させるかまたは包含させることによっても可能となる。または、担体へのレチノイドおよび/または有効成分の結合または包含は、レチノイドおよび/または有効成分と、担体構成成分とを混合することによっても可能となる。本発明の組成物におけるレチノイドの量は、例えば、0.01〜1000nmol/μl、好ましくは0.1〜100nmol/μlとすることが可能である。また、本発明の組成物における有効成分の量は、例えば、1〜10000ng/μl、好ましくは10〜1000ng/μl、または1〜1000000μg/kg体重、好ましくは10〜100000μg/kg体重とすることが可能である。レチノイドや有効成分の量は、これらの成分の活性や、組成物の投与経路、投与頻度、投与対象などによっては上記範囲外となる場合もあるが、その場合でも以前本発明の範囲に含まれる。担体へのレチノイドおよび/または有効成分の結合または包含は、該担体に有効成分を担持させる前に行ってもよいし、担体構成成分、レチノイドおよび有効成分を同時に混合することなどによって行ってもよいし、または、有効成分を既に担持した状態の担体と、レチノイドとを混合することなどによって行ってもよい。したがって、本発明はまた、既存の任意の薬物結合担体や薬物封入担体、例えば、DaunoXome(R)、Doxil、Caelyx(R)、Myocet(R)などのリポソーム製剤にレチノイドを結合させる工程を含む、線維化組織から正常組織を再生するための医薬組成物の製造方法にも関する。
【0044】
本発明の組成物の形態は、所望の有効成分を、標的とする線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に運搬できればいずれの形態でもよく、例えば、限定されずに、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球などのうちいずれの形態をとることもできる。本発明においては、送達効率の高さ、送達できる物質の選択肢の広さや製剤の容易性等の観点から、これらのうちリポソームの形態が好ましく、中でもカチオン性脂質を含むカチオン性リポソームが特に好ましい。組成物がリポソームの形態である場合、レチノイドと、リポソーム構成脂質とのモル比は、レチノイドの担体への結合または包含の効率性を考慮すると、好ましくは8:1〜1:4、より好ましくは4:1〜1:2である。
【0045】
本発明の組成物は、有効成分を内部に含んでも、有効成分が外部に付着していても、また、有効成分と混合されていてもよい。したがって、本発明の組成物は、リポソームと有効成分との複合体、すなわちリポプレックスの形態をとってもよいし、投与経路や薬物放出様式などに応じて、上記組成物を、適切な材料、例えば、腸溶性のコーティングや、時限崩壊性の材料で被覆してもよく、また、適切な薬物放出システムに組み込んでもよい。
【0046】
レチノイドを標的化剤として含む場合、これは本組成物において、標的化剤として機能する態様で存在している。ここで、標的化剤として機能するとは、レチノイドを含む組成物が、これを含まない組成物よりも迅速かつ/または大量に、標的細胞である線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に到達し、かつ/または取り込まれることを意味し、これは、例えば、標識を付した、または標識を含む組成物を標的細胞の培養物に添加し、所定時間後に標識の存在部位を分析することにより容易に確認することができる。構造的には、例えば、レチノイドが、遅くとも標的細胞に到達するまでに、組成物の外部に少なくとも部分的に露出していれば、上記要件を充足し得る。レチノイドが、組成物の外部に露出しているか否かは、組成物をレチノイドと特異的に結合する物質、例えば、レチノール結合タンパク質(RBP)などと接触させ、組成物への結合を調査することにより評価することができる。
【0047】
レチノイドを、遅くとも標的細胞に到達するまでに、組成物の外部に少なくとも部分的に露出させることは、例えば、レチノイドと担体構成成分との配合比率を調節することなどにより達成することができる。また、担体としてリポソームなどの脂質構造体を利用する場合には、例えば、脂質構造体とレチノイドを複合体化する際に、最初に脂質構造体を水性溶液中に希釈し、次いでこれを、レチノイドと接触、混合するなどの手法を用いることができる。この場合、レチノイドは、溶剤、例えば、DMSOなどの有機溶剤に溶解した状態であってもよい。ここで、脂質構造体とは、任意の3次元構造、例えば、線状、フィルム状、球状などの形状を有する、脂質を構成成分として含む構造体を意味し、限定されずに、リポソーム、ミセル、脂質微小球、脂質ナノ小球、脂質エマルジョンなどを包含する。リポソームを標的化したのと同じ標的化剤を他の薬物担体にも適用できることは、例えばZhao and Lee, Adv Drug Deliv Rev. 2004;56(8):1193-204、Temming et al., Drug Resist Updat. 2005;8(6):381-402などに記載されている。
【0048】
本発明の組成物は、コラーゲン低減物質以外に、線維化刺激を低減する物質を有効成分としてさらに含んでもよいし、かかる物質と併用してもよい。線維化刺激を低減する物質としては、限定することなく、例えば、抗酸化剤、血行促進剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗生剤、抗寄生虫剤、肝庇護剤、利胆剤、アポトーシス抑制物質などが挙げられる。これらの物質は、対象となる組織や病態に応じて適宜選択することができる。
【0049】
本発明の組成物は、標識を含んでいてもよい。標識化により、標的細胞への送達の成否や、標的細胞の増減などをモニタリングすることが可能となり、試験・研究レベルのみならず、臨床レベルにおいても有用である。標識は、当業者に公知な任意のもの、例えば、任意の放射性同位体、磁性体、標識化物質に結合する物質(例えば抗体)、蛍光物質、フルオロフォア、化学発光物質、および酵素などから選択することができる。標識は、本発明の組成物の構成成分の少なくとも1つ、例えば、レチノイドを標的化剤として含む場合は、有効成分、レチノイドおよび担体構成成分の1または2以上に付してもよいし、これらとは別の成分として組成物に含めてもよい。
【0050】
本発明において「線維化組織におけるコラーゲン産生細胞用」または「線維化組織におけるコラーゲン産生細胞送達用」とは、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞を標的細胞として使用するのに適することを意味し、これは例えば、同細胞に、他の細胞、例えば正常細胞よりも迅速、高効率かつ/または大量に物質を送達できることを含む。例えば、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞用の担体または線維化組織におけるコラーゲン産生細胞送達用の担体は、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に、他の細胞に比べ、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、さらには3倍以上の速度および/または効率で有効成分を送達することができる。本発明の組成物は、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に対する標的化剤を含むことにより、線維化組織におけるコラーゲン産生細胞用または線維化組織におけるコラーゲン産生細胞送達用の組成物とすることができる。
【0051】
本発明の組成物は医薬として使用することができ(すなわち医薬組成物)、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、限定することなく、経口、経腸、静脈内、筋肉内、皮下、局所、肝内、胆管内、肺内、気道内、気管内、気管支内、経鼻、直腸内、動脈内、門脈内、心室内、骨髄内、リンパ節内、リンパ管内、脳内、髄液腔内、脳室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内および子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形および製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる(例えば、標準薬剤学、渡辺喜照ら編、南江堂、2003年などを参照)。
例えば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤などが挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤などの注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であることができる。
【0052】
本発明の組成物は、いずれの形態で供給されてもよいが、保存安定性の観点から、用時調製可能な形態、例えば、医療の現場あるいはその近傍において、医師および/または薬剤師、看護士、もしくはその他のパラメディカルなどによって調製され得る形態で提供することができる。この場合、本発明の組成物は、これらに必須の構成要素の少なくとも1つを含む1個または2個以上の容器として提供され、使用の前、例えば、24時間前以内、好ましくは3時間前以内、そしてより好ましくは使用の直前に調製される。調製に際しては、調製する場所において通常入手可能な試薬、溶媒、調剤器具などを適宜使用することができる。
【0053】
したがって、本発明はまた、有効成分、および/または任意に標的化剤や担体構成物質を、単独でもしくは組み合わせて含む1個または2個以上の容器を含む組成物の調製キット、ならびに、そのようなキットの形で提供される組成物の必要構成要素にも関する。本発明のキットは、上記のほか、本発明の組成物の調製方法や投与方法などに関する説明書や、CD、DVD等の電子記録媒体などを含んでいてもよい。また、本発明のキットは、本発明の組成物を完成するための構成要素の全てを含んでいてもよいが、必ずしも全ての構成要素を含んでいなくてもよい。したがって、本発明のキットは、医療現場や、実験施設などで通常入手可能な試薬や溶媒、例えば、無菌水や、生理食塩水、ブドウ糖溶液などを含んでいなくてもよい。
【0054】
本発明はさらに、本発明の組成物またはコラーゲン低減物質の有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、線維化組織から正常組織を再生するための方法に関する。ここで、有効量とは、例えば、線維化組織におけるコラーゲンなどの細胞外マトリックスの量の増大を抑制する量、好ましくは、細胞外マトリックスの量を低減する量、さらに好ましくは線維化組織において正常組織の再生をもたらす量である。
【0055】
細胞外マトリックスの量は、種々の手法、例えば、限定されずに、細胞外マトリックスの特殊染色像の画像解析や、細胞外マトリックスマーカーの測定などにより定量することができる。例えば、コラーゲンは、ヒドロキシプロリンなどのコラーゲンマーカーの量を測定したり、組織にコラーゲン染色(例えば、マッソン・トリクローム染色、アザン染色、シリウスレッド染色、エラスチカ・ワンギーソン染色等)を施し、画像解析することなどにより定量することができる。線維化組織における細胞外マトリックスの減少率は、本発明の組成物を投与しなかった場合に比べて、例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、さらには75%以上であってもよい。ここで、本発明の組成物を投与しなかった場合には、投与自体を行なわなかった場合のみならず、ビヒクルのみ、有効成分を含まない以外は本発明の組成物に相当する組成物、本発明の組成物が標的化剤を含む場合には、標的化剤を含まない以外は本発明の組成物に相当する組成物などを投与した場合(いわゆる陰性対照)を含む。また、正常組織の再生は、組織学的所見や、標識した幹細胞を線維化組織に投与し、これを追跡調査することなどにより評価することができる。
【0056】
上記有効量は、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、本発明の方法に用いる薬物の用量は当業者に公知であるか、または、上記の試験等により適宜決定することができる。線維化のモデル動物としては、四塩化炭素(CCl4)、ブタ血清、ジメチルニトロサミン(DMN)、メチオニン-コリン欠乏食(MCDD)、コンカナバリンA(Con A)、胆管結紮などによる肝硬変モデル、ブレオマイシン(BLM)などによる肺線維症モデル、二塩化ジブチルスズなどによる膵線維症モデル、トロンボポイエチン(TPO)トランスジェニックマウス(Leukemia Research 29: 761-769, 2005)などの骨髄線維症モデルなどの種々のものが利用できる。
【0057】
本発明の方法において投与する組成物またはコラーゲン低減物質の具体的な用量は、処置を要する対象に関する種々の条件、例えば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。
投与経路としては、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、経口、経腸、静脈内、筋肉内、皮下、局所、肝内、胆管内、肺内、気道内、気管内、気管支内、経鼻、直腸内、動脈内、門脈内、心室内、骨髄内、リンパ節内、リンパ管内、脳内、髄液腔内、脳室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内および子宮内等の経路が含まれる。
投与頻度は、用いる組成物の性状や、上記のような対象の条件によって異なるが、例えば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回または5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎など)、1週間に数回(例えば、1週間に2、3、4回など)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎など)であってもよい。
【0058】
本発明の方法において、用語「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、典型的には線維化組織を有するか、組織が線維化するリスクを有する対象を意味する。かかる対象としては、例えば、限定することなく、上記の臓器線維症に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象、組織が線維化刺激を受けているか、受けるリスクのある対象などが挙げられる。
【0059】
本発明はさらに、線維化組織におけるコラーゲンを低減する工程および/または線維化組織において細胞増殖・分化用のスペースを生成する工程を含む、線維化組織から正常組織を再生するための方法に関する。
本方法において、線維化組織におけるコラーゲンの低減および細胞増殖・分化用のスペースの生成は、本発明の組成物または上述のコラーゲン低減物質を線維化組織に投与することにより行うことができる。
【実施例】
【0060】
本発明を以下の例でさらに詳細に説明するが、これらは例示に過ぎず、本発明を決して限定するものではない。以下の例において、データは平均値(±標準偏差)として示した。コントロール群および他の群との複数比較は、ダネット検定によって行った。
【0061】
例1.VA−lip siRNAの調製
(1)siRNAの調製
コラーゲン(I〜IV型)の共通分子シャペロンであるヒトHSP47のラットホモログ、gp46(GenBank Accession No. M69246)の塩基配列を標的とするsiRNA(北海道システム・サイエンス, Sapporo, Japan)のセンス鎖およびアンチセンス鎖は以下のものを用いた。
A:GUUCCACCAUAAGAUGGUAGACAACAG(gp46の塩基配列上の第757塩基から始まるセンス鎖siRNA、配列番号1)
B:GUUGUCUACCAUCUUAUGGUGGAACAU(アンチセンス鎖siRNA、配列番号2)
【0062】
siRNArandom(siRNAscrambleと称することもある)として以下のものを用いた。
C:CGAUUCGCUAGACCGGCUUCAUUGCAG(センス鎖siRNA、配列番号3)
D:GCAAUGAAGCCGGUCUAGCGAAUCGAU(アンチセンス鎖siRNA、配列番号4)
【0063】
いくつかの実験において、6’−カルボキシフルオレセイン(6−FAM)またはフルオレセインイソチオシアネート(FITC)が5’末端に結合したセンス鎖を用いた。これらの配列はBLAST検索において、知られた他のラットmRNAと相同性を有さないことを確認した。
【0064】
(2)VA−lip siRNAの調製
カチオン性脂質として、O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロライド(DC−6−14)、コレステロールおよびジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)を4:3:3のモル比で含むカチオン性リポソーム(Lipotrust)を北海道システム・サイエンス(Sapporo, Japan)から購入した。リポソームは、使用前に、凍結乾燥した脂質混合物に攪拌条件下で再蒸留水(DDW)を添加することによって、1mM(DC−6−14)の濃度で調製した。VA結合リポソームを調製するため、DMSOに溶解した200nmolのビタミンA(レチノール、Sigma, USA)をリポソーム懸濁液(DC−6−14として100nmol)と、1.5mlチューブ中で攪拌しながら25℃で混合した。siRNAgp46を担持するVA結合リポソーム(VA−lip−siRNAgp46)を調製するため、siRNAgp46溶液(DDW中に580pmol/ml)を、レチノール結合リポソーム溶液に攪拌しながら室温下で添加した。siRNAとDC−6−14とのモル比は1:11であった。in vitroでの使用に望ましい用量を得るため、VA−lip siRNAをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で再構成した。
【0065】
例2.肝線維化モデルラットでの再生治療実験
(1)肝線維化モデルラットの作製
肝線維化モデルラットは、雄SDラット(体重150〜200g)(Slc Japan, Shizuoka, Japan)に対して総胆管結紮を施して作製し、結紮後28日目の個体を本実験に供した。本モデルラットにおいては、総胆管結紮により胆汁の鬱滞が生じ、肝組織が線維化刺激に継続的にさらされた状態となる。
【0066】
(2)GFP標識ラット肝幹細胞の調製
GFP標識ラット肝幹細胞は、4週齢のGFP遺伝子導入ラット(Slc Japan)の肝臓より採取した。まず、GFP遺伝子導入ラットにEGTA溶液およびコラゲナーゼ溶液を灌流した後、肝臓を採取し、採取した肝臓を細切した後、セルストレーナー(孔径100μm)で濾過した。得られた細胞懸濁液にハンクス平衡塩液(HBSS)+0.25%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液を加えて、4℃、500rpmで2分間遠心した。上清を採取して、4℃、1300rpmで5分間遠心を行った。上清を除去した後、沈殿に対してMACS(R)(Magnetic Activating Cell Sorting)バッファ(Miltenyi Biotec, Auburn, CA, USA)を加えて混合した。細胞数を数えた後、FITC結合マウス抗CD45抗体(BD Pharmingen)、ウサギポリクローナル抗CD133抗体(Abcam)およびマウスモノクローナル抗EpCAM抗体(Santa Cruz)を用いてMACS(R)を行い、CD133陽性、EpCAM陽性、CD45陰性細胞を採取し、ラット肝幹細胞として本実験に用いた。
【0067】
(3)肝線維化モデルラットの処置
(1)で作製した肝線維化モデルラットに、(2)で調製したGFP標識肝幹細胞を、200μlのDME/F12培地中に2×106個の濃度で局所移植した。
肝幹細胞の移植後24時間目から、ビタミンA結合リポソーム内包siRNAgp46(VA−lip siRNAgp46)またはmockとしてVA−lip siRNAscrambleを1日おきに、合計12回尾静脈投与した。投与したsiRNAの濃度は、ラット体重に対して0.75mg/kgで使用した。ビタミンAおよびリポソーム(LipoTrust、北海道システム・サイエンス、Sapporo、Japan)およびsiRNAのモル比は11.5:11.5:1とした。
【0068】
(4)組織染色
(3)で12回目のVA−lip siRNAgp46投与が終了した24時間後(すなわち総胆管結紮後52日目)に、GFP発現肝幹細胞を移植した総胆管結紮ラットの肝臓を採取した。採取した肝臓をOCTコンパウンドを用いて封埋した後、凍結切片を作製した。肝臓切片を4%パラホルムアルデヒドで固定した。切片の一部は、常法により、アザン染色に供した。切片の別の一部は5%ヤギ血清入りPBSでブロッキングを施し、PBSで洗浄した後、マウスモノクローナル抗α平滑筋アクチン(α−SMA)抗体(Sigma)、マウスモノクローナル抗グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)抗体(Sigma)ウサギポリクローナル抗アルブミン抗体 (MP Biomedicals)、マウスモノクローナル抗CK19抗体(Novocastra)もしくはマウスモノクローナル抗血管内皮カドヘリン(ve−CAD、Vascular Endothelial Cadherin)抗体(Santa cruz)を用いて、4℃で一晩反応させた。PBSで洗浄した後、Alexa555標識ヤギ抗マウスIgG抗体もしくはAlexa555標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(いずれもInvitrogen)を室温で60分間反応させた。PBSで洗浄した後、ProLong(R) Gold with DAPI(Invitrogen)を用いて封入して、蛍光顕微鏡で観察を行った。切片の一部は、α−SMA抗体(Dako)と反応させた後、ヤギ抗ウサギ抗体との反応に代えて、ジアミノベンジジン(DAB)で発色させ、さらにヘマトキシリンで核染色を行った。
【0069】
結果
図1は、被験ラットから採取した肝臓の外観とそのその代表的切片のアザン染色像を表す。VA−lip siRNAscrambleを投与した群では、肝臓は萎縮し、表面が不整であり、組織中にアザン染色像において青色に染色された細胞外マトリックスの蓄積が広範囲にみられ、肝小葉構造も乱れていた。これに対し、VA−lip siRNAgp46を投与した群においては、外観的な萎縮が認められず、表面はなめらかであり、組織中に細胞外マトリックスの蓄積はほとんどみられず、VA−lip siRNAscramble投与群に比べ線維化領域の明らかな縮小がみられた。また、中心静脈から放射状に類洞が走行する正常な肝小葉構造が回復していることが明確に認められた。
図2は、α−SMA抗体のDAB染色像である。青色の部分はヘマトキシリンで染色された核を表し、濃い茶色の部分がα−SMA陽性領域である。α−SMAは活性化星細胞のマーカーとして知られており、α−SMA陽性領域には活性化星細胞が存在すると考えられる。VA−lip siRNAgp46投与群において、VA−lip siRNAscrambleと比較して顕著な活性化星細胞の減少が見られた。
【0070】
図3は、GFP標識肝幹細胞移植部位におけるDAPIおよびGFPの蛍光像である。VA−lip siRNAgp46投与群においては約80%の領域でGFPの発色が見られたのに対し、VA−lip siRNAscramble投与群においてはほとんど観察されなかった。
図4は、GFP標識肝幹細胞移植部位の明視野像とGFP蛍光像である。VA−lip siRNAscramble投与群では、特に血管周囲などにおいて細胞外マトリックスの沈着のために細胞の形状がぼやけ、類洞も乱雑に走行しているのに対し、VA−lip siRNAgp46投与群では、はっきりした細胞形状と、中心静脈から放射状に走行する類洞構造が見られた。またVA−lip siRNAscramble投与群ではGFPの発色が見られなかったのに対し、VA−lip siRNAgp46投与群では、組織全体に渡ってGFPの発色が見られた。
【0071】
図5は、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とGFAP抗体による蛍光染色像とを比較したものである(図5Aは倍率200倍、図5Bは倍率400倍)。GFAPは休止状態の肝星細胞のマーカーとして知られているタンパク質である。GFAPを発現している細胞は、GFPを発現していなかった。
図6は、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とα−SMA抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較したものである。α−SMAを発現している細胞は、GFPを発現していなかった。図5および6の結果は、肝星細胞が肝幹細胞に由来するものではないことを示唆するものである。
【0072】
図7はVA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とアルブミン抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較したものである。アルブミンは肝実質細胞のマーカーであるが、GFPを発現している細胞の多くが、アルブミンを発現していた。
図8はVA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とCK19抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較したものである。CK19は胆管上皮細胞のマーカーであるが、胆管を構成するCK19陽性細胞は、GFPを発現していた。
【0073】
図9は、VA−lip siRNAgp46投与群におけるDAPI、GFPの蛍光像とve−CAD抗体による蛍光染色像とを比較したものである(図9Aは倍率200倍、図9Bは倍率400倍)。ve−CADは血管上皮細胞のマーカーとして知られており、GFPを発現している細胞の一部において、ve−CADを発現する細胞が観察された。
図10は、VA−lip siRNAgp46投与群の細胞移植しなかった部位におけるDAPI、GFPの蛍光像とアルブミン抗体による蛍光染色像を倍率200倍で比較したものである。細胞移植しなかった部位においては、GFP発現細胞は観察されなかった。
【0074】
考察
GFPを発現する細胞は、移植した肝幹細胞由来の細胞であることから、VA−lip siRNAgp46の投与により、細胞移植部位において、線維化領域の縮小とともに肝幹細胞が肝実質細胞、胆管上皮細胞および血管上皮細胞へ分化することにより、正常な肝臓組織が再生されることが示された。すなわち、VA−lip siRNAgp46投与による治療は、肝線維症の治癒のみならず、肝再生をも誘起することが明らかとなった。また、VA−lip siRNAscramble投与群で肝幹細胞が検出できなかったこと(図3)は、VA−lip siRNAgp46による線維化領域の縮小が、肝幹細胞の増殖・分化に深く関与していることを示唆している。
【0075】
例3.VAによる星細胞特異的な送達
(1)ラット膵星細胞(PSC)の単離
ラット膵星細胞(PSC)を、既報(Apte et al. Gut 1998;43:128-133)に従い、濃度勾配遠心分離法を用いて単離した。純度は顕微鏡観察、内在性VAの自己蛍光、および筋アクチン架橋タンパク質であるデスミンに対するモノクローナル抗体(1:25、Dako)を用いた免疫細胞化学法でアッセイした。細胞のバイアビリティはトリパンブルー排出でアッセイした。細胞純度およびバイアビリティは共に95%を上回っていた。細胞は、10%のウシ胎児血清(FBS)を添加したイスコーブ改変ダルベッコ培地(Iscove’s modified Dulbecco’s medium:IMDM)中で、37℃、95%大気/5%CO2の加湿環境下で培養した。
【0076】
(2)VA−lip siRNAgp46−FAMの細胞内分布分析
ラットpPSC(初代膵星細胞、primary PSC)を、Lab-Tekチャンバーカバーガラスに、チャンバー当たり1×104個となるように播種した。VA−lip siRNAgp46−FAMまたはLip siRNAgp46−FAMを、最終siRNA濃度が50nMとなるように細胞に添加した。細胞を、10%FBS含有DMEMで30分間培養し、培地を新鮮な培地に交換した。処理後30分および2時間において、細胞をPBSで3回洗浄し、4%のパラホルムアルデヒドで、25℃で15分間処理して固定した。固定後、細胞をPBSで3回洗浄し、ProLong(R) Gold with DAPI(Invitrogen)に1分間曝露して核染色した。FAM標識siRNAgp46の細胞内局在を蛍光顕微鏡(Keyence, BZ-8000)を用いてアッセイした。
【0077】
(3)VA−lip siRNAgp46−FAMのFACS分析
ラットpPSC(1×104個)を、10%FBSの存在下、VA−lip siRNAgp46−FAM(50nMのsiRNA)で処理し、30分間培養した。ブロッキングアッセイのため、VA−lip siRNAgp46−FAMの添加前に、1×104個の細胞をマウス抗RBP抗体(10μg/ml、BD Pharmingen)またはネガティブコントロールであるマウスIgG1(10μg/ml、Dako)で30分間処理した。VA−lip siRNAgp46−FAM処理細胞の平均蛍光強度(MFI)をFACScalibur with CellQuest software(Becton Dickinson)を用いてアッセイした。
【0078】
(4)ウェスタンブロッティング
siRNAgp46のノックダウン効果を評価するため、ウェスタンブロッティング実験を行った。具体的には、VA−lip siRNAgp46(1nM、5nM、50nM)、VA−lip−siRNArandom(50nM)およびLip−siRNAgp46(50nM)でそれぞれ30分処理したPSCのタンパク質抽出物を4/20 SDS−ポリアクリルアミドゲルで分離し、ニトロセルロース膜上に転写し、HSP47(gp46)に対する抗体(Stressgen)またはβ−アクチンに対する抗体(Cell Signaling)でプローブした後、ペルオキシダーゼ結合抗体(Oncogene Research Product, Boston, MA)を二次抗体として標識した。最終的に、細胞をECLウェスタンブロッティング検出システム(Amersham Life Science, Arlington Heights, IL)で可視化した。
【0079】
また、gp46の発現抑制の持続時間を確認するため、PSCをVA−lip siRNAgp46(50nM)で30分処理後、24時間、48時間、72時間および96時間培養した後においてタンパク質を抽出し、VA−lip−siRNArandom(50nM)で処理後30分のものとともに、上記と同様にウェスタンブロッティング実験を行った。
【0080】
(5)コラーゲン産生の定量
ラットpPSCを6ウェル組織培養プレートに、10%FBS含有DMEM中5×104個/ウェルの密度で播種した。24時間の培養後、ラットpPSCをVA−lip siRNAgp46(50nMのsiRNA)またはVA−lip siRNArandom(50nMのsiRNA)で処理した。細胞を10%FBS含有DMEM中で30分間培養し、その後培地を新鮮な培地と交換した。処理の72時間後、細胞をPBSで3回洗浄し、ウェルに沈着したコラーゲンを、既報(Williams et al. Gut 2001;49:577-583)に従ってシリウスレッド(Biocolor, Belfast, UK)で染色した。結合しなかった染料を洗浄して除去し、結合複合体を0.5%の水酸化ナトリウムに溶解した。コラーゲンを540nmの吸光光度分析で定量し、結果を未処理コントロールに対するパーセンテージで表した。
【0081】
結果
図11は、FAM標識されたsiRNAの細胞内分布を表す蛍光像である。左の2つはVA−lip siRNAgp46−FAMで処理したPSCの蛍光像であり、右の2つはLip siRNAgp46−FAMで処理したPSCの蛍光像である。上の2つはそれぞれにおける処理後30分後の像であり、下の2つは処理後2時間後の像である。VA−lip siRNAgp46−FAMでは、処理後30分で細胞質内にぼんやりした顆粒状パターンのFAMの緑色蛍光が観察され、処理後2時間でより濃い顆粒状パターンが核周辺領域に観察された。それに比べ、Lip siRNAgp46−FAM処理群においては、処理後30分では緑色蛍光が観察されず、処理後2時間における核周辺の蛍光はぼんやりしたものであった。
【0082】
図12は、FACS分析の結果を表すグラフである。上から順に、未処理群、Lip siRNAgp46−FAM処理群、VA−lip siRNAgp46−FAM処理群、VA−lip siRNAgp46−FAM+RBP抗体処理群、Lip siRNAgp46−FAM+RBP抗体処理群の結果をそれぞれ表す。FACS分析の結果、VA−lip siRNAgp46−FAM+RBP抗体処理群では、VA−lip siRNAgp46−FAM処理群と比較して、蛍光強度がLip siRNAgp46−FAM処理群と同レベルまで抑制されており、このことはVA−lip siRNAgp46のPSCへの取り込みが、RBPレセプター媒介性であることを示唆する。
【0083】
図13Aは、抑制効果の濃度による違いを表すウェスタンブロッティングの結果を表す。VA−lip siRNAgp46処理された細胞では、VA−lip siRNAgp46の濃度依存的にgp46の発現抑制が観察され、50nMにおいてはほぼ完全に発現が抑制されたのに対し、VA−lip siRNArandomおよびLip siRNAgp46では発現抑制は観察されなかった。
図13Bは、抑制効果の持続時間を確認するウェスタンブロッティングの結果を表す。VA−lip siRNAgp46で処理した場合、処理後72時間培養した細胞まではgp46の顕著な抑制が観察された。従って、処理後少なくとも72時間までは、gp46の発現抑制効果が持続することが確認できた。
【0084】
図14は未処理細胞、ならびにVA−lip siRNAgp46およびVA−lip siRNArandomそれぞれで処理した細胞の、72時間後のコラーゲン産生量を定量したグラフである。VA−lip siRNAgp46で処理した場合に、未処理細胞およびVA−lip siRNArandomで処理した細胞と比較して、顕著なコラーゲン産生抑制が確認できた。
【0085】
考察
上記の結果から、in vitroにおいて、VA−lip siRNAgp46は、RBPレセプター媒介性の取り込みによってPSCに特異的に取り込まれてgp46の発現を抑制し、その結果コラーゲンの産生を顕著に抑制することがわかる。これは、VA−lip siRNAgp46が膵線維症に冒された膵臓において、コラーゲンを低減し得ることを示唆するものである。
【0086】
例4.膵臓線維化モデルラットでの再生治療実験
(1)膵臓線維化モデルラットの作製
体重が150〜200gの雄Lewisラット(Charles River)を用いた。既報(Inoue et al. Pancreas 2002;25:e64-70)に従って、二塩化ジブチルスズ(Dibutyltin dichloride、DBTC)を1部のエタノールに溶かしたのち、2部のグリセロールおよび2部のジメチルスルホキシド(DMSO)と混合した溶液(DBTC溶液)を調製し、5mg(DBTC)/kg(体重)に相当する量を、ラット右頸動脈よりシリンジを用いて投与した。
【0087】
(2)ラット膵臓および他の組織におけるVA−lip siRNAgp46−FITCのin vivo局在
DBTC投与開始から43日後、重篤な膵臓の線維化が観察された時点で、DBTC処置ラットに1μl/g体重のVA−lip siRNAgp46−FITCまたはLip siRNAgp46−FITCを尾静脈より投与した。投与は常圧下で行われ、1回当たり0.75mg/kgのsiRNAを1日おきに3回投与した。最後の投与の24時間後、ラットを生理食塩水の灌流により殺処理し、膵臓および他の臓器(肝臓、肺、脾臓および網膜)を採取した。臓器標本を10%のパラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋切片をアザン−マロリー染色を用いて染色した。モノクローナル抗α−SMA抗体(1:1000、Sigma)、抗CD68抗体(1:500、Dako)および抗FITC抗体(1:500、Abcam)をそれぞれ用いたデキストランポリマー法、およびEnvision Kit(Dako)によって免疫組織染色を行い、続いてDAB(和光純薬工業、Osaka, Japan)による発色およびギルへマトキシリン液(和光純薬工業)による核染色を行った。
【0088】
(3)ウェスタンブロッティング
in vivoにおけるsiRNAgp46による発現抑制の持続時間を評価するため、VA−lip siRNAgp46の静脈内投与後0、1、2、3、4日後における膵臓からのタンパク質抽出物について、例3.(4)と同様にウェスタンブロッティングを行った。
【0089】
(4)in vivoにおけるsiRNAgp46処置
3群のラット(1群当たりn=6)を組織学的評価に用いた。DBTC投与の43日後、各群をそれぞれPBS、VA−lip siRNArandomおよびVA−lip siRNAgp46の10回投与(0.75mg/kgのsiRNA、1日おきに3回投与)で処置した。全ての投与は尾静脈より常圧下で、1μl/g体重の量で行った。膵臓を10%のパラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋後、切片をアザン−マロリー染色およびヘマトキシリン−エオシン染色を用いて染色した。免疫組織染色は、モノクローナル抗α−SMA抗体(1:1000、Sigma)を用いたデキストランポリマー法、およびEnvision Kit(Dako)によって行い、続いてDAB(和光純薬工業、Osaka, Japan)による発色およびギルへマトキシリン液(和光純薬工業)による核染色を行った。アザン−マロリー、ヘマトキシリン−エオシンおよびα−SMAによる染色領域の正確な定量のため、各ラットの膵臓切片ごとに6つの低倍率視野(×100)を無作為に選択し、顕微鏡(Axioplan 2; Carl Zeiss, Inc)で観察した。デジタル画像を、デジタルTVカメラシステム(Axiocam High Resolution color, Carl Zeiss, Inc.)を用いたビデオ記録システムによって撮像した。自動ソフトウェア分析プログラム(KS400, Carl Zeiss, Inc.)を用いて、デジタル顕微鏡写真中の、アザン−マロリーおよびα−SMAによって染色された領域の割合を決定した。
【0090】
(5)ヒドロキシプロリンアッセイ
ヒドロキシプロリン含有量は、既報(Weidenbach et al. Digestion 1997;58:50-57)に従い、Weidenbach法によって決定した。簡潔には、膵臓の細胞破砕物を3000rpmで15分間遠心し、ペレットを6NのHCl中で16時間、96℃で完全に加水分解し、pHを6.5〜7.5に調節した後、再度遠心(3000rpmで15分間)した。25μlのアリコートを60℃で乾燥させ、沈殿物を1.2mlの50%イソプロパノールに溶解し、200mlの0.56% chloramine T Solution(Sigma)入り酢酸・クエン酸緩衝液pH6.0中でインキュベートした。25℃で10分間インキュベートした後、1mlのエールリッヒ試薬を加え、混合物を50℃で90分間インキュベートした。冷却後、560nmの波長の吸収を計測した。
【0091】
(6)膵臓の細胞破砕物におけるコラーゲナーゼ活性
コラーゲナーゼ活性の計測は、既報(Iredale et al. J.Clin.Invest. 1998;102:538-549)の変法により行った。簡潔には、野生型ラットおよび膵臓線維化モデルラットから採取し、液体窒素冷凍された膵臓を、セリン−およびチオール−プロテアーゼ阻害剤(PMSF 0.1mM、ロイペプチン10μM、ペプスタチンA 10μM、アプロチニン25μg/ml、ヨードアセトアミド0.1mM)を含むサンプルバッファ(50mM Tris、pH7.6、0.25%Triton X−100、0.15M NaCl、10mM CaCl2)中で、氷上で破砕した。細胞破砕物を4℃、14000gで30分間遠心して細胞残屑およびタンパク質凝集体を取り除いた。膵臓の細胞破砕物中のコラーゲナーゼ活性を、EnzCheck Collagenase Assay Collagen Conjugate kit (Molecular Probes)を用いて、取扱説明書に従って決定した。平行して適切なネガティブコントロールおよびポジティブコントロール(細菌性コラーゲナーゼ)を用いて分析し、結果をタンパク質のmgごとの分解コラーゲンの蛍光(血清アルブミン標準と比較した280nmの光学濃度によって決定)によって表した。
【0092】
結果
膵臓の各連続セクションにおいて活性化星細胞およびsiRNAgp46−FITCを免疫染色した結果、VA−lip siRNAgp46−FITC投与群においては、活性化星細胞(α−SMA陽性の細胞)が集まっている領域において、FITC陽性の細胞が同定されたのに対し、Lip siRNAgp46−FITC投与群においては、α−SMA陽性の領域において同定されたFITC陽性細胞はごく僅かであった(図15AおよびB)。
α−SMA陽性領域におけるFITC陽性細胞は、肝臓標本においても観察された(図15C)。この結果は、DBTCによって膵線維化のみならず肝硬変も誘導されるという知見と合致する。肺および脾臓を含むラットの他の臓器においては、マクロファージが浸潤している領域(CD68陽性細胞)においてFITC染色された細胞はわずかであったことから(図15DおよびE)、マクロファージによるsiRNAgp46−FITCの非特異的取り込みが示唆される。網膜はFITC染色に陰性であり(図15F)、このことは肝硬変におけるVA−lip siRNAgp46−FAMを用いた知見と合致する。おそらく、血液網膜関門の透過性の低さにより、眼球は独立した系を構築しているためと考えられる。
【0093】
ウェスタンブロッティングの結果、in vivoにおいても、siRNAgp46によるgp46の発現抑制の効果が少なくとも3日間持続することが確認された(図16AおよびB)。
【0094】
VA−lip siRNAgp46の10回投与を行ったDBTC処置ラットを、アザン−マロリー染色で評価した(図17A)。コンピューター画像分析によって決定された線維化領域は、コントロール標本に対してVA−lip siRNAgp46投与群の標本において、顕著に減少していた(P<0.01)(図17B)。この結果は、VA−lip siRNAgp46投与群の膵臓におけるヒドロキシプロリンの明らかな抑制を示すデータ(図17C)と合致する。
【0095】
VA−lip siRNAgp46処置後のラット膵臓における星細胞の変化を評価するため、VA−lip siRNAgp46処置後ラットの膵臓標本のα−SMA染色を行った結果、Lip siRNAgp46処置およびPBS処置したラットと比較して、α−SMA陽性の細胞数が顕著に減少していた(図18AおよびB)。
【0096】
VA−lip siRNAgp46投与によって、PSCからの新たなコラーゲンの分泌を抑制することに続く線維化の改善には、炎症性細胞およびPSC自身に由来するコラーゲナーゼが関与しているのではないかという推測に基づき、野生型ラットおよびVA−lip siRNAgp46処置したDBTC処置ラットの膵臓細胞破砕物におけるコラーゲナーゼ活性を計測した結果を下表に示す。
【0097】
【表1】
表に示した通り、DBTC処置ラットにおけるコラーゲナーゼ活性は、野生型ラットのものとほぼ同等であった。
【0098】
VA−lip siRNAgp46処置およびLip siRNAgp46処置したDBTC処置ラットの65日目における膵臓標本のヘマトキシリン−エオシン染色像を比較してみると、VA−lip siRNAgp46処置ラットにおいて、完全ではないにせよ明らかな膵臓組織の正常化が観察されたのに対し、Lip siRNAgp46処置ラットにおいては組織正常化が見られなかった(図19A)。このことは、VA−lip siRNAgp46処置したDBTC処置ラットの膵臓重量が正常化したこと(図19B)とも合致する。
【0099】
考察
上記の結果に鑑みると、VA−lip siRNAgp46による処置により、siRNAgp46が活性化膵星細胞(aPSC)に特異的に取り込まれてgp46の発現を抑制し、その結果aPSCからのからのコラーゲン分泌を抑制することで膵線維化の改善に顕著な効果を発揮することがわかる。さらに、おそらくコラーゲン分泌の減少に起因してaPSCの顕著な減少が観察された。そして特筆すべきことに、VA−lip siRNAgp46による処置は、膵線維化の改善のみならず、膵臓組織の再生も誘導することが証明された。上記例2における結果と合わせ考えれば、これらの結果は、線維化組織において蓄積したコラーゲンを低減することにより、組織非特異的に線維化組織から正常組織を再生し得ることを示すものである。
【0100】
例5.幹細胞の増殖・分化用スペースの重要性
活性化肝星細胞(aHSC)を、種々の密度の肝前駆細胞と共培養し、肝前駆細胞の分化に細胞周囲のスペースの有無が与える影響を検討した。肝前駆細胞としては、上記例2(2)で得たGFP標識ラット肝幹細胞を、aHSCとしては、SDラットから採取したHSCを培養し、1回継代したものをそれぞれ用いた。aHSCは以下のように採取・培養した。まず、SDラットにEGTA溶液およびコラゲナーゼ溶液を灌流した後、肝臓を採取し、採取した肝臓を細切した後、セルストレーナー(孔径100μm)で濾過した。得られた細胞懸濁液にHBSS+0.25%BSA溶液を加えて、4℃、500rpmで2分間遠心した。上清を採取して、4℃、1300rpmで5分間遠心を行った。上清を除去した後、HBSS+0.25%BSA溶液を加え、Nycodenzの濃度が13.2%になるように28.7% Nycodenz溶液(Axis Shield, Oslo, Norway)を加えて混合した。HBSS+0.25%BSA溶液を重層した後、4℃、1400×gで20分間遠心した。遠心終了後、中間層を採取して、Dulbecco’s Modified Eagle's medium(DMEM)+10%ウシ胎児血清(FBS)培地を用いて、5日間培養した。培養5日目に継代を行い、その細胞を本実験に用いた。
【0101】
セルカルチャーインサート(孔径0.4μm、BD Falcon, Franklin Lakes, NJ, USA)上にaHSCを5×104個/ウェルの密度で播種し、インキュベーター内で37℃、5%CO2にて、DMEM+10%FBSを用いて48時間培養した。aHSC播種の2日後に、肝前駆細胞をI型コラーゲンでコートされたカバーガラス(IWAKI, Tokyo, Japan)を入れた24穴プレート(BD Falcon)に1×104個/ウェル(低密度)または5×105個/ウェル(コンフルエント)の密度で播種した。次いで、aHSCを含む上記セルカルチャーインサートを24穴プレートのウェルに挿入し、インキュベーター内で37℃、5%CO2にて10日間共培養した(培地として、DME/F12(Dulbecco's Modified Eagle's Medium/Nutrient F-12 Ham)+10%FBS+ITS(10mg/lインスリン、5.5mg/lトランスフェリン、0.67μg/lセレン)+0.1μMデキサメサゾン+10mMニコチンアミド+50μg/mlβ−メルカプトエタノール+2mM L−グルタミン+5mM Hepesを使用)。
【0102】
共培養10日目に、抗アルブミン抗体(ウサギポリクローナル、MP Biomedicals)で免疫染色を行い、倒立顕微鏡(Nikon)を用いて100倍の倍率でアルブミン陽性コロニーを撮影し、得られた画像をもとにアルブミン陽性コロニーの面積をNIS-Elements software(Nikon)を用いて算出した。結果を図20に示す。
別な実験では、共培養10日目に、Premix WST-1 Cell Proliferation Assay System (Takara, Tokyo, Japan)を使用して、マイクロプレートリーダー(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)を用いて細胞増殖の測定を行った。結果を図21に示す。
【0103】
図20に示す結果から、aHSCを、低密度で播種した肝前駆細胞と共培養すると、肝前駆細胞は多数のアルブミン陽性の肝実質細胞に分化するが、肝前駆細胞がコンフルエントであると、ごく少数しか肝実質細胞に分化しないことが明らかとなった。なお、肝前駆細胞を単独培養した場合には、アルブミン陽性の肝実質細胞に分化しなかった。また、図21に示すとおり、肝前駆細胞を上記と同様の密度で播種した場合、その増殖能は、低密度条件よりもコンフルエント条件の方が低くなることも明らかとなった。
以上の結果から、活性化星細胞が幹細胞の増殖・分化を誘導すること、および、幹細胞の増殖・分化に幹細胞周囲の物理的スペースの有無が重要な影響を及すことが判明した。これは、上記各例の結果と合わせ考えると、コラーゲン低減物質によって線維化組織における線維組織が縮小し、幹細胞の周囲にスペースが生じた結果、幹細胞が増殖・分化し、正常組織が再生することを示すものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲン低減物質を含む、線維化組織から正常組織を再生するための医薬組成物。
【請求項2】
コラーゲン低減物質が、コラーゲン産生細胞によるコラーゲン産生を抑制する物質、コラーゲンの分解を促進する物質、およびコラーゲン分解阻害物質を抑制する物質からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に対する標的化剤をさらに含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
標的化剤がレチノイドである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
線維化組織が、線維化刺激を継続的に受けている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
線維化組織に蓄積されたコラーゲンが低減されて生成される、幹細胞の増殖・分化用のスペースにおいて、線維化組織を再生するための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
コラーゲン産生細胞によるコラーゲン産生を抑制する物質が、TGFβ阻害物質、HGFまたはその産生促進物質、PPARγリガンド、アンジオテンシン阻害物質、PDGF阻害物質、リラキシンまたはその産生促進物質、細胞外マトリックス成分の産生・分泌を阻害する物質、細胞活性抑制物質、細胞増殖抑制物質、ならびにアポトーシス誘導物質からなる群から選択される、請求項2〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
コラーゲンの分解を促進する物質がコラゲナーゼまたはその産生促進物質である、請求項2〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
コラーゲン分解阻害物質を抑制する物質がTIMP阻害物質である、請求項2〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項1】
コラーゲン低減物質を含む、線維化組織から正常組織を再生するための医薬組成物。
【請求項2】
コラーゲン低減物質が、コラーゲン産生細胞によるコラーゲン産生を抑制する物質、コラーゲンの分解を促進する物質、およびコラーゲン分解阻害物質を抑制する物質からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
線維化組織におけるコラーゲン産生細胞に対する標的化剤をさらに含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
標的化剤がレチノイドである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
線維化組織が、線維化刺激を継続的に受けている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
線維化組織に蓄積されたコラーゲンが低減されて生成される、幹細胞の増殖・分化用のスペースにおいて、線維化組織を再生するための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
コラーゲン産生細胞によるコラーゲン産生を抑制する物質が、TGFβ阻害物質、HGFまたはその産生促進物質、PPARγリガンド、アンジオテンシン阻害物質、PDGF阻害物質、リラキシンまたはその産生促進物質、細胞外マトリックス成分の産生・分泌を阻害する物質、細胞活性抑制物質、細胞増殖抑制物質、ならびにアポトーシス誘導物質からなる群から選択される、請求項2〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
コラーゲンの分解を促進する物質がコラゲナーゼまたはその産生促進物質である、請求項2〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
コラーゲン分解阻害物質を抑制する物質がTIMP阻害物質である、請求項2〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−51868(P2012−51868A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230020(P2010−230020)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
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