説明

線間止水方法

【課題】芯線間への浸透性に劣る高粘度の止水材であっても芯線間へ確実に浸透させることができる線間止水方法を提供すること。
【解決手段】ワイヤハーネス90を構成する被覆電線92の露出させた芯線93に止水材100を浸透させる線間止水方法は、被覆電線92の露出した芯線93を含む一部を加圧する加圧ステップと、芯線93の露出部分に装着した筒状型101内に止水材100を注入する注入ステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスの被覆電線の芯線間の止水を行なうのに用いる線間止水方法に関する(尚、本発明の説明における『止水』は、水の浸入を阻止することに限らず、水、油、アルコール、等を含む液体全般に有効に作用することを意味するが、ここでは一般的に名称として広く用いられている『止水』を用いて説明する)。
【背景技術】
【0002】
従来の線間止水方法の一例として、止水材の供給中または供給後にエア(即ち、空気)を吸引して減圧することで止水材を絶縁被覆の内側に浸透させるようにしたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
図3に示すように、上記特許文献1に開示された線間止水方法に用いられる被覆電線(アース電線)51は、その芯線(導体)53の周囲に絶縁被覆(被覆材)54を有し、その端末部の一方に端子(アース接続端子)52が圧着される(即ち、加締められる)。
【0004】
被覆電線51への端子52の圧着は、絶縁被覆54が除去されて芯線53が露出されている被覆電線51の端末部を端子52のバレル55間にセットし、そしてバレル55を加締めて閉じ、これにより芯線53および絶縁被覆54を端子52に圧着固定する。
【0005】
このような端子52付の被覆電線51の芯線53間の止水を行なうのに用いられる線間止水方法では、被覆電線51の端末部の一方から絶縁被覆54の内側のエア(空気)を吸引する減圧工程を実行したまま、被覆電線51の端末部の他方に対し矢印方向60に流動性のある止水材を供給し、止水材を絶縁被覆54の内側に浸透させるようにしている。
【0006】
上記線間止水方法では、エア吸引して減圧する真空減圧方式を採用しているので、最大でも大気圧(1kgf/cm)以上の圧力差を得ることはできない。そのため、被覆電線の細径化や軽量化等に伴う芯線間の隙間の減少により、止水材を浸透させるのに要する時間が長くなるという問題があった。
【0007】
また、複数の被覆電線の芯線が集合して接続された該複数の被覆電線の端末部の一方や中間ジョイント部においては、複数の端末部の他方から複数の絶縁被覆の内側のエアを吸引するために大きな設備を必要とすることから、広い作業スペースを必要とするだけでなく、多大な設備投資を伴う。
【0008】
また、芯線への止水材を浸透させても、止水材が硬化しない状態では、低粘度の浸透材が芯線の露出部分から流出してしまうことがある。このため、止水材が硬化するまで次工程へ移すことが困難であった。
【0009】
【特許文献1】特開2004−355851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記問題を解決できる線間止水方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために、本発明に係る線間止水方法は、下記(1)〜(3)を特徴としている。
(1) ワイヤハーネスを構成する被覆電線の露出させた芯線に止水材を浸透させる線間止水方法であって、
前記被覆電線の露出した芯線を含む一部を加圧する加圧ステップと、
前記芯線の露出部分に装着した筒状型内に止水材を注入する注入ステップと、
を含むこと。
(2) 上記(1)の線間止水方法であって、
前記筒状型内の止水材の残量を検出し、その検出結果に基づいて前記加圧ステップの時間を制御すること。
(3) 上記(1)または(2)の線間止水方法であって、
前記被覆電線の前記芯線の露出部分に、予め端子を圧着しておくこと。
【0012】
上記(1)の線間止水方法によれば、真空減圧方式ではなく、気体加圧方式により各被覆電線の芯線間の小さな隙間へ止水材を確実に浸透させることができる。また、芯線の露出部分に装着した筒状型内に止水材を注入するので、筒状型内に注入した止水材の量を検出することにより、極めて容易に被覆電線の芯線への止水材の浸透量を調整することができる。更に、止水材を筒状型によって所定位置に保持しながら加圧して芯線に浸透させるので、特に、高粘度の止水材を芯線の露出部分にて確実に芯線間に浸透させることができる。
これにより、止水材が完全に硬化する前であっても次工程に移行することができ、生産性の向上を図ることができる。
上記(2)の線間止水方法によれば、筒状型内の止水材の残量を検出し、その検出結果に基づいて加圧の時間を制御することにより、芯線への止水材の浸透量を的確に管理することができる。
上記(3)の線間止水方法によれば、被覆電線の芯線間に、端子を圧着させた芯線の露出部分から止水材を確実に浸透させることができ、良好な止水効果が得られたワイヤハーネスとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の線間止水方法によれば、真空減圧方式ではなく、気体加圧方式により各被覆電線の芯線間の小さな隙間へ止水材を確実に浸透させることができる。これにより、芯線間への浸透性に劣る高粘度の止水材であっても芯線間へ確実に浸透させることができる。
更に、本発明の線間止水方法によれば、芯線の露出部分に装着した筒状型内に止水材を注入するので、筒状型内に注入した止水材の量を検出することにより、極めて容易に被覆電線の芯線への止水材の浸透量を調整することができる。更に、止水材を筒状型によって所定位置に保持しながら加圧して芯線に浸透させるので、特に、高粘度の止水材を芯線の露出部分にて確実に芯線間に浸透させることができる。
これにより、止水材が完全に硬化する前であっても次工程に移行することができ、生産性の向上を図ることができる。
また、被覆電線の芯線間に、端子を圧着させた芯線の露出部分から止水材を確実に浸透させることができ、良好な止水効果が得られたワイヤハーネスとすることができる。
【0014】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
ここでは、複数の芯線および当該芯線の束の周囲に沿って形成された絶縁被覆を有する一つの被覆電線と、該被覆電線の一端部で露出された芯線の束の露出部分に圧着された端子と、を備えたワイヤハーネスを例に挙げて、その芯線の束の露出部分から絶縁被覆内に亘って芯線の間に止水材を強制的に浸透させる本発明の線間止水方法を説明する。
【0017】
本発明に係る線間止水方法の実施形態について図1と図2を参照しながら説明する。図1は本発明に係る線間止水方法が適用可能な線間止水装置の概略構成を示す断面図である。本発明に係る線間止水方法では、止水材として、高粘度液状材料用いる。
【0018】
図1に示すように、被覆電線92には、その芯線93の露出部分に1つの端子95が圧着されて、ワイヤハーネス90とされている。
【0019】
線間止水装置10は、被覆電線92の絶縁被覆97から部分的に露出された芯線93の露出部分を含む被覆電線92の一部分を収容し且つ密封する加圧室11と、加圧室11に接続され且つ、加圧室11内と加圧室11外とに圧力差が生じるように加圧室11外から加圧室11内に加圧気体を送り込む空気送出装置12と、芯線93の露出部分の上に設けられ、この露出部分に止水材100を滴下するための止水材滴下装置13と、排気手段14と、を備える。
【0020】
空気送出装置12は、例えば一般的な工場に通常設けられているエア(空気)噴射供給装置であり、その空気供給管18が加圧室11の内部に連通接続されている。空気送出装置12は、予め定められた圧力の空気(即ち、加圧気体)を、空気供給管18を通じて加圧室11内に導入して加圧室11の外部に対して大きな圧力差を生じさせる。
【0021】
この線間止水装置10では、芯線93の露出部分に滴下された止水材100が芯線93の露出部分から芯線93の間に浸透するように、空気送出装置12により加圧室11内に送り込まれた加圧気体が絶縁被覆97内へ送り込まれる。
【0022】
加圧室11に接続された排気手段14は、加圧室11外よりも圧力が高められた加圧室11内の圧力を下げるための開閉弁20付き排気路21を有する。この排気路21の開閉弁20を開くことにより加圧室11内が減圧される。
【0023】
ここで、止水材100(即ち、液状の止水材100または固体状から液状にした止水材100)として、例えば、水分硬化性シリコーンなどの高粘度材料を用い、この止水材100を、端子95を水平に配置した状態にて設置した被覆電線92の芯線93の露出部分に設置した筒状型101内に止水材滴下装置13から滴下して注入する。止水材滴下装置13は、加圧室11の内部で開口する止水材送給管16を有しており、この止水材送給管16の先端から止水材100が滴下される。
【0024】
尚、筒状型101内へ止水材100を滴下する止水材滴下装置13には、筒状型101内に注入した止水材100の上面位置を検出する不図示のセンサが設けられており、このセンサからの検出信号に基づいて止水材滴下装置13の中央処理装置(不図示)が止水材送給管16に連設された滴下量調整装置(不図示)を制御することで、筒状型101内への止水材100の注入量が調整される。
【0025】
次に、ワイヤハーネス90に止水処理を施す場合について説明する。
【0026】
まず、端子95が一端部に既に接続されている被覆電線92の一端部を、密閉された加圧室11内に収容し、不図示の適宜な固定部材により端子95を水平に配置した状態にて所定位置に位置決めして固定するとともに、被覆電線92の芯線93の露出部分に筒状型101を設置する。この状態では、空気送出装置12は駆動されておらず、排気手段14の開閉弁20が開かれており、そして止水材滴下装置13は駆動されていない。
【0027】
次に、排気手段14の開閉弁20を閉じて空気送出装置12を駆動することで、加圧室11内と加圧室11外とに圧力差が生じるように加圧室11外から加圧室11内に加圧気体を送り込む。
【0028】
この状態にて、加圧室11内に固定された被覆電線92の芯線93の露出部分に設置した筒状型101内に止水材滴下装置13から所定量の止水材100を滴下する。
【0029】
尚、筒状型101内に止水材滴下装置13から止水材100を滴下した後に、空気送出装置12を駆動して加圧室11内と加圧室11外とに圧力差を生じさせてもよい。
【0030】
いずれの場合においても、筒状型101内の高粘度の止水材100は、加圧室11内と加圧室11外との圧力差によって芯線93の露出部分から強制的に図1中に示す矢印方向に被覆電線92の他端部へ向かって芯線93間に送り込まれる。また、止水材100は、加締部94内の芯線93間にも浸透する。
【0031】
ここで、止水材滴下装置13に設けたセンサからの検出信号に基づいて、止水材滴下装置13の中央処理装置(不図示)は筒状型101内に注入した止水材100の注入量を容易に把握し、その注入量を制御して所定の量の止水材100を精度良く芯線93に浸透させることができる。
【0032】
図2に示すように、筒状型101内に注入した所定量の止水材100が被覆電線92の芯線93に浸透されたら、止水材100の浸透処理を終了する。
【0033】
具体的には、止水材滴下装置13の中央処理装置(不図示)は、止水材送給管16からの止水材100の滴下を停止するとともに加圧室11外よりも圧力が高められた加圧室11内の圧力を下げるための排気路21の開閉弁20を開くように排気手段14の制御部への信号出力により働きかけ、これにより加圧室11内の空気が排出されて減圧される。
【0034】
このように、上記線間止水方法によれば、真空減圧方式ではなく、気体加圧方式により各被覆電線92の芯線93間の小さな隙間へ止水材100を確実に浸透させることができる。また、芯線93の露出部分に装着した筒状型101内に止水材100を注入するので、筒状型101内に注入した止水材100の量を検出することにより、極めて容易に被覆電線92の芯線93への止水材100の浸透量を調整することができる。更に、止水材100を筒状型101によって所定位置に保持しながら加圧して芯線93に浸透させるので、特に、高粘度の止水材100を芯線93の露出部分にて確実に芯線93間に浸透させることができる。
【0035】
そして、被覆電線92の芯線93間に、端子95を圧着させた芯線93の露出部分から止水材100を確実に浸透させることができるので、良好な止水効果が得られたワイヤハーネス90とすることができる。
【0036】
これにより、止水材100が完全に硬化する前であっても次工程に移行することができ、生産性の向上を図ることができる。
【0037】
また、筒状型101内の止水材100の残量を検出し、その検出結果に基づいて加圧の時間を制御することにより、芯線93への止水材100の浸透量を的確に管理することができる。
【0038】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る線間止水方法に用いる線間止水装置の断面図である。
【図2】ワイヤハーネスに対する止水処理を説明する線間止水装置の断面図である。
【図3】従来の線間止水方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0040】
90:ワイヤハーネス
95:端子
92:被覆電線
93:芯線
100:止水材
101:筒状型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤハーネスを構成する被覆電線の露出させた芯線に止水材を浸透させる線間止水方法であって、
前記被覆電線の露出した芯線を含む一部を加圧する加圧ステップと、
前記芯線の露出部分に装着した筒状型内に止水材を注入する注入ステップと、
を含むことを特徴とする線間止水方法。
【請求項2】
前記筒状型内の止水材の残量を検出し、その検出結果に基づいて前記加圧ステップの時間を制御することを特徴とする請求項1に記載した線間止水方法。
【請求項3】
前記被覆電線の前記芯線の露出部分に、予め端子を圧着しておくことを特徴とする請求項1または請求項2に記載した線間止水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−54406(P2009−54406A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219885(P2007−219885)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】