説明

締結部品の締付管理システム

【課題】航空機の組立工程において、作業者一人でも信頼性の高い締結部品の締付作業を実現し、航空機の組立コストの低廉化を確実に図る。
【解決手段】航空機の組立工程で航空機の構成部品を締め付けるネジなどの締結部品の締め付け状態を管理する締結部品の締付管理システム1であって、締付トルクを作用させながら締結部品を設定トルクまで締め付け且つその締結部品に作用する締付トルク情報を検知して送信する手動式トルクレンチ2と、手動式トルクレンチ2による締付作業が終了した締結部品にマーキングを施し且つそのマーキングの際の筆圧を検知してマーキング完了情報を送信するマーキングペン3と、締付トルク情報およびマーキング完了情報に基づいて締結部品の締め付け状態を判断する情報処理装置5と、情報処理装置5による判断結果を作業者に報知する携帯情報端末4とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の組立工程で、航空機の構成部品を締め付けるネジなどの締結部品の締め付け状態を管理する締結部品の締付管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の組立工程では、例えば、特許文献1に開示されているようなプリセット型の手動式トルクレンチを使用して、航空機の各構成部品をネジによって締め付けるネジの締付作業が組立工程の大部分を占める。当該ネジの締付作業は、作業者と指揮監督者の二人一組で行われるのが通例とされている。
【0003】
このように航空機の組立工程に含まれるネジの締付作業が、自動車の組立工程に含まれるネジの締付作業のように作業者一人で行われずに、作業者と指揮監督者との二人一組で行われるのは、次の理由による。
【0004】
すなわち、自動車の組立工程では、自動車を流れ作業により組み立てていくため、作業者がネジの締付作業を行う範囲は極狭い範囲に限られている。そのため、ネジの締付作業には、狭い範囲での使用が想定されている電動式トルクレンチが使用される。この電動式トルクレンチは、天井に吊り下げられた状態で昇降可能に保持されており、有線で電力が供給されて自動でネジを締め付けるようになっている。その結果、作業者一人でも比較的簡単にネジの締付作業を適正に行うことができる。これに対し、航空機の組立工程では、大型の航空機を流れ作業で組み立てることが実質的に不可能であるため、予め決められた場所で最初から最後まで組立作業が行われる。そのため、一人の作業者がネジの締付作業を行う範囲は、自動車の組立工程の場合に比べて、遥かに広範囲に亘ることになる。また、航空機の組立工程は、天井が非常に高い場所で行われるのが通例である。したがって、航空機の組立工程においては、電動式トルクレンチを天井から吊り下げることが困難となるばかりでなく、仮に天井から吊り下げたとしても使用可能範囲が極狭い範囲に限られる電動式トルクレンチではネジの締付作業を効率的に行うことができない。そこで、自動車の組立工程とは全く状況が異なる航空機の組立工程では、作業範囲が制限されない手動式トルクレンチを使用し、作業者と指揮監督者との二人一組で同一の作業を二重に確認することで、締め付け不足による緩みや、締め過ぎを防止して、ネジの締付作業の信頼性を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−246661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、航空機は、ネジ以外にも、ボルトやナットなどの締結部品による締付作業を要する構成部品が多数存在し、その組立作業にも多くの人員を要することから、作業者と指揮監督者との二人一組でネジの締付作業を行うようにすれば、作業者一人だけで締結部品の締付作業を行う場合に比して、人件費が倍増して航空機の組立コストが高騰するという問題がある。
【0007】
そこで、作業者一人だけで信頼性の高いネジの締付作業を行うことが望まれているが、航空機の組立工程においては、上述のような自動車分野との相違に起因して、作業者一人では信頼性の高い締結部品の締付作業を実現するのが困難とされているのが実情である。
【0008】
以上の実情に鑑み、本発明は、航空機の組立工程において、作業者一人でも信頼性の高い締結部品の締付作業を実現し、航空機の組立コストの低廉化を確実に図ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために創案された本発明は、航空機の組立工程で航空機の構成部品を締め付ける締結部品の締め付け状態を管理する締結部品の締付管理システムであって、締付トルクを作用させながら締結部品を設定トルクまで締め付け且つその締結部品に作用する締付トルク情報を検知して送信する手動式トルクレンチと、該手動式トルクレンチによる締付作業が終了した締結部品にマーキングを施し且つそのマーキング行為を検知してマーキング完了情報を送信するマーキングペンと、前記締付トルク情報および前記マーキング完了情報に基づいて締結部品の締付状態を判断する情報処理装置と、該情報処理装置による判断結果を作業者に報知する情報端末とを備えていることに特徴づけられる。なお、ここでいう航空機の組立工程には、航空機の製造時の組立工程のみならず、製造された航空機を点検する際の組立工程も含まれる。また、締結部品に作用する締付トルク情報とは、締付トルクの値と一定の関係(例えば、トルクレンチに作用する歪みの値)があれば、締付トルクそのものの値を示すものでなくてもよい。
【0010】
このような構成によれば、作業者が手動式トルクレンチを使用して、締結部品の締付作業を行うと、当該トルクレンチから締結部品に作用する締付トルク情報が送信される。また、締付作業が終了した締結部品を目視によって確認できるように、作業者が締付作業の終了した締結部品にマーキングペンでマーキングを施すと、マーキングペンからマーキング完了情報が送信される。そして、これら締付トルク情報及びマーキング完了情報に基づいて締結部品の締付状態が判断される。すなわち、締付トルク情報に基づいて適正な締付トルクまで締結部品が締め付けられているか否かを判断することができると共に、マーキング完了情報に基づいて締付作業が適正に終了した締結部品にマーキングが施されたことを確認することができる。そして、このような情報処理装置の判断結果は、情報端末を通じて作業者に報知されるので、作業者一人でも、締結部品の締め忘れを防止しつつ、適正な締付トルクまで締結部品を確実に締め付けることが可能となる。
【0011】
上記の構成において、前記締付トルク情報と前記マーキング完了情報の少なくとも一方が、前記情報端末を中継して前記情報処理装置に送信されるように構成されていてもよい。
【0012】
このようにすれば、手動式トルクレンチや、マーキングペンの送信可能範囲を短くすることができるので、それぞれの送信部の小型化及び軽量化を図ることができる。よって、締付部品の締付作業や、マーキングペンによるマーキング作業の作業性を向上させることができる。
【0013】
上記の構成において、前記情報端末が、前記情報処理装置に送信した前記締付トルク情報および前記マーキング完了情報のうち、前記情報処理装置に送信した情報を記憶する記憶手段を備えていることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、情報端末の記憶手段に締付トルク情報や、マーキング完了情報が記憶されるので、情報端末と情報処理装置の間の通信状態が一旦悪くなっても、両者の間の通信状態が改善されてから記憶手段に記憶された締付トルク情報や、マーキング完了情報を送信することができるので、これらの該当情報を確実に情報処理装置に送信することができる。なお、情報端末、トルクレンチ、及びマーキングペンは、作業者が携帯するものであるので、これらの間での通信状態が悪化するという事態は、情報端末と情報処理装置との通信状態が悪化するという事態に比べて生じ難いので、締付トルク情報や、マーキング完了情報を、情報端末を中継して送信するようにしている。なお、締結部品の締め付け状態をより確実に管理するという観点からは、締付トルク情報及びマーキング完了情報の双方を、情報端末を中継して情報処理装置に送信すると共に、これら双方の情報を情報端末の記憶手段に記憶するようにすることが好ましい。
【0015】
上記の構成において、前記情報端末が、締付部品の締付作業に関する識別情報を入力するための情報入力手段を備え、前記識別情報を前記情報処理装置に送信するようにしてもよい。
【0016】
このようにすれば、作業者が実際に行っている作業を正確に把握しながら、締結部品の締め付け状態を管理することができる。
【0017】
この場合、前記情報処理装置が、締付部品の締付作業の作業手順情報を記憶する記憶手段と、前記識別情報と前記作業手順情報とを比較して締付作業の適否を判断する判断手段とを備えていてもよい。
【0018】
このようにすれば、作業者の実際に行っている作業手順に誤りがないかを判断することができるので、作業者に適正な作業手順で締結部品の締付作業を実行させることが可能となる。すなわち、航空機では、多数の構成部品が存在するので、個々の構成部品の締付作業が適正であっても、その組立手順に誤りがある場合には、最後まで正しく組み立てることができない場合があるので、これを防止するために、上述の構成のように作業者による作業手順と照合しながら締結部品の締付作業を管理することは非常に有効となる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように本発明によれば、航空機の組立工程において、作業者一人でも信頼性の高い締結部品の締付作業を実現することが可能となるので、航空機の組立コストの低廉化を確実に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る締結部品の締付管理システムを示す概念図である。
【図2】本実施形態に係る締結部品の締付管理システムによる締結部品の締付作業の管理手順を示すフローチャートである。
【図3】本実施形態に係る締結部品の締付管理システムを適用した航空機の組立工程の作業状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る締結部品の締付管理システムの概略構成を示す図である。同図に示すように、この締結部品の締付管理システム1は、手動式トルクレンチ2と、マーキングペン3と、情報端末としての携帯情報端末(PDA)4と、情報処理装置5とを主たる構成として備えている。なお、手動式トルクレンチ2、マーキングペン3、及び携帯情報端末4は、図3に示すように締結部品の締付作業を行う作業者6が携帯するものである。また、締結部品としては、例えば、ネジ・ボルト・ナットなどが挙げられるが、以下では締結部品がネジの場合を例によって説明する。
【0023】
手動式トルクレンチ2は、設定トルクを調整可能なプリセット型トルクレンチで構成される。このトルクレンチ2は、ネジの締付作業を行う際に、ネジに作用する締付トルク情報を検知するトルク検知手段2aを備えており、このトルク検知手段2aで検知された締付トルク情報を無線送信するようになっている。なお、この実施形態では、歪ゲージ等によりトルクレンチ2に作用する歪の値が検知され、当該歪の値又はその歪の値をトルクの値に変換したものが、締付トルク情報として利用されている。
【0024】
マーキングペン3は、ネジにマーキングする際にペン先に生じる筆圧を検知する筆圧検知手段3aを備えており、この筆圧検知手段3aで筆圧が検知されたときに、マーキング完了情報を無線送信するようになっている。なお、筆圧検知手段3aとしては、例えば、ペン先に筆圧が加わった場合に生じるペン先の歪みを検知するものや、ペン先に筆圧が加わった場合にペン先が本体内に僅かに没入するように構成し、そのペン先の移動を検知するものなどが挙げられる。
【0025】
携帯情報端末4は、トルクレンチ2から送信される締付トルク情報と、マーキングペン3から送信されるマーキング完了情報とを受信するようになっている。そして、携帯情報端末4は、記憶手段としてのメモリ4aを備えており、このメモリ4aに受信した締付トルク情報とマーキング完了情報とを記憶した後、これらの情報を無線送信するようになっている。すなわち、締付トルク情報とマーキング完了情報は、携帯情報端末4を中継して送信されるようになっている。なお、この実施形態では、携帯情報端末4は、所定の情報を表示する表示部4bと、2次元バーコード(QRコード)などで記載された各種識別情報を入力するための情報入力手段としてのカメラ4cとを備えている。なお、この実施形態では、後述するように、携帯情報端末4のカメラ4cによって、ネジの締付作業に関する識別情報として、(1)機体識別情報、(2)各々の作業工程ごとに付された作業識別情報、(3)部品識別情報、及び(4)トルクレンチ識別情報が読み取られる。
【0026】
情報処理装置5は、携帯情報端末4から送信される締付トルク情報とマーキング完了情報とを受信するようになっている。また、情報処理装置5は、受信した締付トルク情報およびマーキング完了情報に基づいてネジの締付作業の状態を判断する判断手段5aと、各種情報が記憶されたデータベース5bとを備えている。この判断手段5aによる判断結果は、携帯情報端末4に送信されると共に、携帯情報端末4の表示部4bに表示され、作業者6に報知される。なお、判断手段5aの判断結果は、携帯情報端末4から作業者6に音声(表示部4bへの表示を併用する場合を含む。)で報知するようにしてもよい。
【0027】
次に、以上のように構成された締結部品の締付管理システムによる締結部品の締付作業の管理手順を説明する。
【0028】
図2に示すように、この締結部品の締付管理システム1では、まず、最初のステップS1で、作業者6が、自己の名札等に付された作業者識別情報を携帯情報端末4のカメラ4cで読み取る。この読み取られた作業者識別情報は、携帯情報端末4から情報処理装置5に送信される。そして、情報処理装置5は、この作業者識別情報に基づいて、その作業者6に割り当てられた作業の詳細情報(作業手順情報)をデータベース5bから読み出す。
【0029】
次に、ステップS2で、作業者6が、携帯情報端末4からの指示に従って、作業指示書に記載された航空機の機体識別情報を携帯情報端末4のカメラ4cで読み取る。この読み取られた機体識別情報は、携帯情報端末4から情報処理装置5に送信される。その後、ステップS3に移行し、情報処理装置5の判断手段5aでは、機体識別情報とステップS1で読み出した作業の詳細情報とを照合し、両者が一致するか否かを判断する。その結果、両者が一致して、読み取られた航空機の機体識別情報が適正であると判断された場合には、情報処理装置5から携帯情報端末4に適正である旨の情報が送信され、作業者6に対して次のステップS4に進む旨の指示が報知される。なお、携帯情報端末4から作業者6に対する報知方法は、携帯情報端末4の表示部4bに表示する以外にも、当該表示と音声を併用したり、或いは音声のみを使用したりしてもよい。また、このような報知方法の選択は、以下に示す携帯情報端末4から作業者6に対する各種報知についても同様に当てはまる。一方、情報処理装置5の判断手段5aで、読み取られた機体識別情報が不適正と判断された場合には、ステップS5に移行して、情報処理装置5から携帯情報端末4に機体識別情報が不適正である旨の情報が送信され、携帯情報端末4から作業者6に対してエラー情報が報知される。なお、このようにステップS3からステップS5に移行した場合、作業者6は、次のステップS4に進むために、正しい航空機の機体識別情報を読み取る必要がある。
【0030】
ステップS4では、作業者6が、携帯情報端末4からの指示に従って、作業指示書に記載された各々の作業工程毎に付された作業識別情報を携帯情報端末4のカメラ4cで読み取る。この読み取られた作業識別情報は、携帯情報端末4から情報処理装置5に送信される。その後、ステップS6に移行して、情報処理装置5の判断手段5aでは、この作業識別情報とステップS1で読み出した作業の詳細情報とを照合し、両者が一致するか否かを判断する。その結果、両者が一致して、読み取られた作業識別情報が適正であると判断された場合には、情報処理装置5から携帯情報端末4に適正である旨の情報が送信され、携帯情報端末4から作業者6に対して次のステップS7に進む旨の指示が報知される。一方、情報処理装置5の判断手段5aで、読み取られた作業識別情報が不適正と判断された場合には、ステップS8に移行して、情報処理装置5から携帯情報端末4に作業識別情報が不適正である旨の情報が送信され、携帯情報端末4から作業者6に対してエラー情報が報知される。なお、このようにステップS6からステップS8に移行した場合、作業者6は、次のステップS7に進むために、正しい作業識別情報を読み取る必要がある。
【0031】
ステップS7では、作業者6が、携帯情報端末4からの指示に従って、航空機の構成部品に付された部品識別情報を携帯情報端末4のカメラ4cで読み取る。この読み取られた部品識別情報は、携帯情報端末4から情報処理装置5に送信される。その後、ステップS9として、情報処理装置5の判断手段5aでは、この部品識別情報とステップS1で読み出した作業の詳細情報とを照合し、両者が一致するか否かを判断する。その結果、両者が一致して、読み取られた部品識別情報が適正であると判断された場合には、情報処理装置5から携帯情報端末4に適正である旨の情報が送信され、携帯情報端末4から作業者6に対して次のステップS10に進む旨の指示が報知される。一方、情報処理装置5の判断手段5aで、読み取られた部品識別情報が不適正と判断された場合には、ステップS11に移行して、情報処理装置5から携帯情報端末4に部品識別情報が不適正である旨の情報が送信され、携帯情報端末4から作業者6に対してエラー情報が報知される。なお、このようにステップS9からステップS11に移行した場合、作業者6は、次のステップS10に進むために、正しい部品識別情報を読み取る必要がある。
【0032】
ステップS10では、情報処理装置5から携帯情報端末4にその構成部品に対応したトルクレンチ2の設定トルク情報が送信され、携帯情報端末4から作業者6に対してトルクレンチ2に設定すべき設定トルクの値が報知される。これと共に、ステップS12に移行して、携帯情報端末4から作業者6に対してトルクレンチ2を選択する旨の指示が報知され、作業者6は、数種類のトルクレンチ2の中から適切なトルクレンチ2を選択すると共に、そのトルクレンチ2に付されたトルクレンチ識別情報を携帯情報端末4のカメラ4cで読み取る。この読み取られたトルクレンチ識別情報は、携帯情報端末4から情報処理装置5に送信される。
【0033】
ステップS13では、情報処理装置5の判断手段5aにより、このトルクレンチ識別情報とステップS1で読み出した作業の詳細情報とを照合し、両者が一致するか否かを判断する。詳述すると、情報処理装置5のデータベース5bには、各トルクレンチ2の締付トルクの付与可能範囲(設定トルクの設定可能範囲)と、検定期限とを含む情報が記録されている。そして、読み取られたトルクレンチ識別情報が示すトルクレンチ2の締付トルクの付与可能範囲に報知した設定トルクの値が含まれ、且つ、検定期限が経過していない場合に、トルクレンチ識別情報とステップS1で読み出した作業の詳細情報とが一致すると判断する。その結果、両者が一致して、読み取られたトルクレンチ識別情報が適正であると判断された場合には、情報処理装置5から携帯情報端末4に適正である旨の情報が送信され、携帯情報端末4から作業者6に対して次のステップS14に進む旨の指示が報知される。一方、情報処理装置5の判断手段5aで、読み取られたトルクレンチ識別情報が不適正と判断された場合には、ステップS15に移行し、情報処理装置5から携帯情報端末4にトルクレンチ識別情報が不適正である旨の情報が送信され、携帯情報端末4から作業者6に対してエラー情報が報知される。なお、このようにステップS13からステップS15に移行した場合、作業者6は、次のステップS14に進むために、正しいトルクレンチ識別情報を読み取る必要がある。
【0034】
ステップS14では、携帯情報端末4から作業者6に対してトルクレンチ2に設定トルクを設定し且つそのトルクレンチ2でネジの締付作業を実行する旨の指示が報知され、作業者6が、その指示に従ってネジの締付作業を実行する。この際、締付箇所などの情報も携帯情報端末4を通じて作業者6に指示される。この締付作業を実行している間、図1に示したように、トルクレンチ2のトルク検知手段2aによってネジに作用する締付トルク情報が検知され、この締付トルク情報が携帯情報端末4を中継して情報処理装置5に順次送信される。
【0035】
ステップS16では、情報処理装置5の判断手段5aにより、締付トルク情報に基づいて作業者6に報知した設定トルクの値までネジが締め付けられているか否かを判断し、ネジの締付作業の適否を判断する。その結果、ネジの締付作業が適正に終了したと判断された場合には、情報処理装置5から携帯情報端末4に適正である旨の情報が送信され、携帯情報端末4から作業者6に対して次のステップS17に進む旨の指示が報知される。一方、情報処理装置5の判断手段5aで、締付トルク情報に基づいてネジの締付作業が不適正と判断された場合(例えば、オバートルク又はアンダートルクの場合)には、ステップS18に移行し、情報処理装置5から携帯情報端末4にネジの締付作業が不適正である旨の情報が送信され、携帯情報端末4から作業者6に対してエラー情報が報知される。なお、このようにステップS16からステップS18に移行した場合、作業者6は、次のステップS17に進むために、ネジの締付作業を再度やり直して、ネジを適正な設定トルクで締め付ける必要がある。
【0036】
ステップS17では、携帯情報端末4から作業者6に対して締付作業が適正に終了したネジにマーキングペン3でマーキングする旨の指示が報知され、作業者6が、その指示に従って該当するネジにマーキングする。このとき、図1に示したように、マーキングペン3の筆圧検知手段3aでペン先に加わる筆圧が検知され、マーキングペン3からマーキング完了情報が送信される。このマーキング完了情報は、携帯情報端末4を中継して情報処理装置5に送信される。
【0037】
ステップS19では、携帯情報端末4の判断手段5aにより、このマーキング完了情報の受信の有無を判断する。その結果、マーキング完了情報が情報処理装置5で適正に受信されていると判断された場合には、ステップS20に移行し、情報処理装置5の判断手段5aで、その作業者6に次の作業があるか否かが判断される。一方、ネジの締付作業が適正に終了したと判断してからマーキング完了情報を受信するまでの間に、新たな締付トルク情報を受信した場合には、ステップS21に移行して、情報処理装置5から携帯情報端末4にマーキング完了情報が受信されていない旨の情報が送信され、携帯情報端末4から作業者6に対してエラー情報が報知される。なお、このようにステップS19からステップS21に移行した場合、作業者6は、次のステップS20に進むために、締付作業が適正に終了したネジに適正にマーキングペン3でマーキングする必要がある。
【0038】
ステップS20では、上述のように、情報処理装置5の判断手段5aによって、その作業者6に次の作業があるか否かが判断される。その結果、次の作業がないと判断された場合には、ステップ22に移行して、携帯情報端末4を通じて作業者6に全作業工程が終了した旨が報知される。一方、次の作業があると判断された場合には、さらに、ステップ23に移行し、情報処理装置5の判断手段5aによって、作業指示書に記載された一つの作業工程に含まれる作業が全て完了したか否かが判断される。その結果、1つの作業工程に含まれる全ての作業が完了していると判断された場合には、新たな別の作業工程を作業者6に指示すべく、ステップS4に戻る。一方、1つの作業工程に含まれる全ての作業が完了していないと判断された場合には、同一の作業工程に含まれる別の作業を作業者6に指示すべく、ステップS10に戻る。そして、最終的にステップS20で、作業者6の作業が全て終了したと判断されるまで、上記の手順を繰り返す。
【0039】
なお、図3に示すように、実際の航空機7の組立工程に本実施形態に係る締結部品の締付管理システム1を適用する場合には、複数の作業者6によりネジの締付作業が同時に並行して行われる。そして、各作業者6は、トルクレンチ2と、携帯情報端末4と、マーキングペン3と、図示しない作業指示書を携帯する。また、情報処理装置5は、組立工程の現場近傍(図示例では2階)に設けられた管理室8の内部に収容されており、各作業者6が携帯する携帯情報端末4との間で電波を用いて通信(無線通信)するようになっている。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る締結部品の締付管理システム1によれば、作業者6がトルクレンチ2を使用して、ネジの締付作業を行うと、トルクレンチ2から締付トルク情報が送信される。また、締付作業が終了したネジを目視によって確認できるように、作業者6が締付作業の終了したネジにマーキングペン3でマーキングを施すと、マーキングペン3からマーキング完了情報が送信される。そして、これら締付トルク情報及びマーキング完了情報に基づいてネジの締付状態が判断される。すなわち、締付トルク情報に基づいて適正な締付トルクまでネジが締め付けられているか否かを判断することができると共に、マーキング完了信号に基づいて締付作業が適正に終了したネジにマーキングが施されたことを確実に確認することができる。そして、このような情報処理装置5の判断結果は、携帯情報端末4を通じて作業者6に逐次報知されるので、作業者6一人でも、ネジの締め忘れも防止しつつ、適正な締付トルクまでネジを締め付けることが可能となる。したがって、航空機7の組立工程において、作業者6一人でも信頼性の高いネジの締付作業を実現し、航空機7の組立コストの低廉化を確実に図ることができる。
【0041】
また、締付トルク情報およびマーキング完了情報は、携帯情報端末4のメモリ4aに記憶されるので、携帯情報端末4と情報処理装置5の間の通信状態が一旦悪くなっても、両者4,5の間の通信状態が改善されてからメモリ4aに記憶された締付トルク情報およびマーキング完了情報を再送信することができるので、両情報を確実に情報処理装置5に送信することができる。したがって、作業者6の作業状況を情報処理装置5でより確実に管理することが可能となることから、ネジの締付作業の信頼性を向上させる上でも非常に有利となる。
【0042】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の形態で実施することができる。例えば、上記の実施形態では、トルクレンチ2で検知される締付トルク情報と、マーキングペン3で検知されるマーキング完了情報とが、携帯情報端末4を中継して情報処理装置5に送信させる場合を説明したが、これらの情報が、携帯情報端末4を中継することなく、トルクレンチ2およびマーキングペン3から情報処理装置5に直接送信されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 締付管理システム
2 手動式トルクレンチ
2a トルク検知手段
3 マーキングペン
3a 筆圧検知手段
4 携帯情報端末
4a メモリ
4b 表示部
4c カメラ
5 情報処理装置
5a 判断手段
5b データベース
6 作業者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の組立工程で航空機の構成部品を締め付ける締結部品の締め付け状態を管理する締結部品の締付管理システムであって、
締付トルクを作用させながら締結部品を設定トルクまで締め付け且つその締結部品に作用する締付トルク情報を検知して送信する手動式トルクレンチと、
該手動式トルクレンチによる締付作業が終了した締結部品にマーキングを施し且つそのマーキング行為を検知してマーキング完了情報を送信するマーキングペンと、
前記締付トルク情報および前記マーキング完了情報に基づいて締結部品の締め付け状態を判断する情報処理装置と、
該情報処理装置による判断結果を作業者に報知する情報端末とを備えていることを特徴とする締結部品の締付管理システム。
【請求項2】
前記締付トルク情報と前記マーキング完了情報の少なくとも一方が、前記情報端末を中継して前記情報処理装置に送信されるように構成されている請求項1に記載の締付部材の締付管理システム。
【請求項3】
前記情報端末が、前記情報処理装置に送信した前記締付トルク情報および前記マーキング完了情報のうち、前記情報処理装置に送信した情報を記憶する記憶手段を備えている請求項2に記載の締付部品の締付管理システム。
【請求項4】
前記情報端末が、締付部品の締付作業に関する識別情報を入力するための情報入力手段を備え、前記識別情報を前記情報処理装置に送信する請求項1〜3のいずれか1項に記載の締付部品の締付管理システム。
【請求項5】
前記情報処理装置が、締付部品の締付作業の作業手順情報を記憶する記憶手段と、前記識別情報と前記作業手順情報とを比較して締付作業の適否を判断する判断手段とを備えている請求項4に記載の締付部品の締付管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−35356(P2012−35356A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176350(P2010−176350)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000177128)三洋機工株式会社 (35)
【Fターム(参考)】