説明

縫い糸原糸の巻取方法、それから得られるパッケージ

【課題】 解ジョ時の張力変動が小さく解ジョ糸切れが減少し、また、梱包、開梱、輸送、糸立て準備等の取り扱い中の衝撃によって崩れが発生しても、一定量糸条を剥ぎ取るだけで復帰でき製品ロスを極小化可能であるパッケージを提供する。
【解決手段】 縫い糸原糸をテーパー上部、ストレート部、テーパー下部を有するパーンパッケージに巻き取るに際し、下式(1)を満足するトラバース幅で、巻き始めから巻き終わりまでトラバース幅一定かつトラバース折り返し部を一定量で移送させることを特徴とする縫い糸原糸の巻取方法。
(1)パッケージ最大巻幅/3<トラバース幅<パッケージ最大巻幅

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は産業用分野の縫い糸原糸の巻上げたパーンが振動によって崩れるのを防止、またパーンの解ジョ崩れによる製品剥ぎ取り量を極小化するための巻取方法とそれから得られるパッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リング撚糸巻取機によって、ボビンに糸条をパーン状に巻取方法として種々検討されており、従来で最も主流となっているのが、トラバース幅を中心は固定して時間と共に徐々に減少させるパラレルワインド方式(ワープワインド方式)である。
【0003】
例えば、パラレルワインド方式の解ジョは糸条パッケージ軸を巻取時のボビン上端部側へ延長した方向に糸条を引き取ることが通常である。従って、解ジョ時に引き出された糸条のバルーニングがテーパー上部側に接触し崩れやツレコミ等を誘発する場合がある。更に内層側の巻幅が広いため解ジョ張力の変動が大きく内層側の糸切れが多発傾向にある(特許文献1)。特許文献1では図1に示すとおりトラバース折り返し部分にバリエーションBを形成することによりパッケージ両端面の耳立ちを抑制し解ジョ糸切れを減少させる巻取方法を提唱しているが、梱包、開梱、輸送、糸立て準備等の取り扱い中の衝撃によって崩れが発生する。その崩れを取り除くことが困難であり、製品は全て屑となる。
【特許文献1】特開平03−192072号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は、パーンの解ジョ時に引き出された糸条のバルーニングがテーパー上部側に接触する崩れや、梱包、開梱、輸送、糸立て準備等の取り扱い中の衝撃によって崩れを抑制し、崩れが発生した場合でも剥ぎ取り量を極少化するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明の課題は、縫い糸原糸をテーパー上部、ストレート部、テーパー下部を有するパーンパッケージに巻き取るに際し、下式(1)を満足するトラバース幅で、巻き始めから巻き終わりまでトラバース幅一定かつトラバース折り返し部を一定量で移送させることを特徴とする縫い糸原糸の巻取方法によって解消される。
(1)パッケージ最大巻幅/3<トラバース幅<パッケージ最大巻幅
また、本願発明の巻取方法により解ジョ時の張力変動が小さく解ジョ糸切れが減少し、また、梱包、開梱、輸送、糸立て準備等の取り扱い中の衝撃によって崩れが発生しても、一定量糸条を剥ぎ取るだけで復帰でき製品ロスを極小化可能であるパッケージを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本願発明で巻き取ったパーンは、従来技術の巻取方法であるパラレルワインド方式で巻取ったパーンに比べて、崩れが発生した場合の製品の剥ぎ取り量が低減可能である。従来技術のパラレルワインド方式はパーン1本分の製品全てが屑になるのに対して、本願発明の巻取方法は、一定(トラバースの折り返し部が上端または下端の1サイクル分の糸長)の剥ぎ取り量で済む。また、巻硬度を高めることにより振動による崩れ軽減が可能である。従来技術は、巻硬度を高くすると、巻締まり応力がテーパー部分へかかり、それによりパッケージ両端面の糸質が変化し易いことと、巻取り最中に巻崩れ易い。それに対して、本願発明は従来技術対比巻硬度アップ可能で、巻締まり応力が分散されるため折り返し部両端面の糸質が変化しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本願発明の縫い糸原糸は、汎用性の面からポリエステルであり、ポリエステルとはテレフタル酸を主たる酸成分として、少なくとも1種のグリコール好ましくはエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ばれたアルキレングリコールを主たるグリコール成分とするものをいい、中でもポリエチレンテレフタレート系ポリエステルが好ましい。
【0008】
本願発明におけるトラバース幅は次式(1)を満たす。
(1)パッケージ最大巻幅/3<トラバース幅<パッケージ最大巻幅
好ましくは、崩れ発生時の剥ぎ取り量を極小化するため、パッケージ最大巻幅×0.9未満である。
【0009】
また、巻き始めから巻き終わりまでトラバース幅一定かつトラバース折り返し部を一定量で移送(上下にズラす)してパーン形状を形成する。例えば、最初にトラバース折り返し部で一定量下方にズラして、トラバース折り返し部が巻位置の最下端まで達したら、次ぎにはトラバース折り返し部で一定量上方にズラして、トラバース折り返し部を巻位置の最上段まで移送する。この際の一定量の移送量(ズラシ量)は5mm未満が、パッケージ満管付近における巻取張力の安定化、糸切れ防止に好ましい。
【0010】
本願発明で得られたパッケージの巻硬度は、テーパー上部とストレート部とテーパー下部の平均巻硬度が87.0〜100である。また、(2)ストレート部硬度×0.97≦ テーパー部硬度 ≦ ストレート部硬度×1.03を満足する縫い糸原糸のパッケージである。平均巻硬度、各硬度絶対値は、落下等の振動によるパッケージの崩れを防止するためである。
【0011】
本願発明で得られたパッケージの縫い糸原糸の乾収は3.0%以下が好ましい。パッケージの内層と表層との収縮特性差を抑制できる。
【0012】
本願発明における縫い糸原糸の総繊度は40〜300dtexが好ましい。パッケージ満管付近における巻取張力の安定化、テーパー部での糸層ズレを防止するので好ましい。
【0013】
本願発明のパッケージのテーパー部角度は15〜25°が好ましい。パッケージの形状安定化、巻崩れ防止ができる。
【実施例】
【0014】
以下実施例を挙げて具体的に説明する。実施例に及び比較例における測定値は、次の方法である。
(1)崩れ発生時の製品剥ぎ取り量
定回転ローラーを使用し解ジョした。剥取り量が製品巻量の1/9以下の場合は○、1/5以下の場合は△、1/5超過の場合は×とした。
(2)パーン巻量
パーン巻量が3.0kg以上の場合は○、2.8kg以上の場合は△、2.8kg未満の場合は×とした。
(3)パーン落下テスト
パーンをカートンケースに梱包し、カートンケース下端から床面までの距離を50cmとして水平落下させた。パーンの崩れが20回以上で発生した場合は○、10回以上で発生した場合は△、10回未満で発生した場合は×とした。
(4)パーン層別での乾収差(乾収変動率)
パーンの表層部分と内層部分(50g)でそれぞれ乾収値を測定し変動率を確認した。変動率が25%以下の場合は○、50%以下の場合は△、50%超過の場合は×とした。尚、乾収変動率は次式で算出した。
乾収変動率(%)=
{|表層部分の乾収値−内層部分の乾収値(50g)|/表層部分と内層部分の平均値}×100
乾収測定は一定荷重のもと熱処理前後(160°×30分)での試料長から算出した。乾収値は次式で算出した。
乾収値(%)={(原長−処理後長)/原長}×100
実施例1
ポリエステルからなる縫い糸原糸を、パーン形状に巻取る際のトラバース幅が最大巻幅×(2/3)で、巻き始めから巻終わりまでトラバース幅一定かつズラシ量3mm一定でトラバース折り返し部を移送させた。
【0015】
パッケージの平均巻硬度は90であり、各硬度は、ストレート部硬度×0.97≦テーパー部硬度≦ストレート部硬度×1.03を満足している。縫い糸原糸の総繊度は200dtexで、内層部(50g)の乾収値は2.0%である。
【0016】
得られたパッケージは3.0kg巻きが可能で、パーン落下テストにおいて20回で崩れ発生のパーンが無かった。また、テーパー部分の微小な崩れが発生したパーンの剥ぎ取りをしたところ剥取り量が製品巻量の1/9と良好であった。乾収変動率については10%と良好であった。
【0017】
比較例1
ポリエステルからなる縫い糸原糸を、パーン形状に巻取る際のトラバース幅が最大巻幅×(1/5)で、巻き始めから巻終わりまでトラバース幅一定かつズラシ量3mm一定でトラバース折り返し部を移送させた。
【0018】
パッケージの平均巻硬度は75であり、各硬度は、ストレート部硬度×0.97≦テーパー部硬度≦ストレート部硬度×1.03を満足している。縫い糸原糸の総繊度は200dtexで、内層部(50g)の乾収値は2.0%である。
【0019】
得られたパッケージは2.8kg巻きで、パーン落下テストにおいて5回で崩れ発生のパーンが発生した。また、テーパー部の崩れが発生したパーンの剥ぎ取りをしたところ剥取り量が製品巻量の1/9であった。乾収変動率については10%であった。
【0020】
実施例2
ポリエステルからなる縫い糸原糸を、パーン形状に巻取る際のトラバース幅が最大巻幅×(9/10)で、巻き始めから巻終わりまでトラバース幅一定かつズラシ量3mm一定でトラバース折り返し部を移送させた。
【0021】
パッケージの平均巻硬度は95であり、各硬度は、ストレート部硬度×0.97≦テーパー部硬度≦ストレート部硬度×1.03を満足している。縫い糸原糸の総繊度は200dtexで、内層部(50g)の乾収値は2.0%である。
【0022】
得られたパッケージは3.0kg巻きが可能で、パーン落下テストにおいて20回で崩れ発生のパーンが無かった。また、テーパー部分の微小な崩れが発生したパーンの剥ぎ取りをしたところ剥取り量が製品巻量の1/8であった。乾収変動率については20%と良好であった。
【0023】
実施例3
ポリエステルからなる縫い糸原糸を、パーン形状に巻取る際のトラバース幅が最大巻幅×(1/3)で、巻き始めから巻終わりまでトラバース幅一定かつズラシ量3mm一定でトラバース折り返し部を移送させた。
【0024】
パッケージの平均巻硬度は87であり、各硬度は、ストレート部硬度×0.97≦テーパー部硬度≦ストレート部硬度×1.03を満足している。縫い糸原糸の総繊度は200dtexで、内層部(50g)の乾収値は2.0%である。
【0025】
得られたパッケージは3.0kg巻きで、パーン落下テストにおいて12回で崩れ発生のパーンが発生した。また、テーパー部分の微小な崩れが発生したパーンの剥ぎ取りをしたところ剥取り量が製品巻量の1/9であった。乾収変動率については10%と良好であった。
【0026】
実施例4
ポリエステルからなる縫い糸原糸を、パーン形状に巻取る際のトラバース幅が最大巻幅×(2/3)で、巻き始めから巻終わりまでトラバース幅一定かつズラシ量3mm一定でトラバース折り返し部を移送させた。
【0027】
パッケージの平均巻硬度は93であり、各硬度は、ストレート部硬度×0.97≦テーパー部硬度≦ストレート部硬度×1.03を満足している。縫い糸原糸の総繊度は200dtexで、内層部(50g)の乾収値は6.0%である。
【0028】
得られたパッケージは3.0kg巻きが可能で、パーン落下テストにおいて20回で崩れ発生のパーンが無かった。また、テーパー部分の微小な崩れが発生したパーンの剥ぎ取りをしたところ剥取り量が製品巻量の1/9と良好であった。乾収変動率については50%であった。
【0029】
実施例5
ポリエステルからなる縫い糸原糸を、パーン形状に巻取る際のトラバース幅が最大巻幅×(2/3)で、巻き始めから巻終わりまでトラバース幅一定かつズラシ量3mm一定でトラバース折り返し部を移送させた。
【0030】
パッケージの平均巻硬度は90であり、各硬度は、ストレート部硬度×0.97≦テーパー部硬度≦ストレート部硬度×1.03を満足している。縫い糸原糸の総繊度は40dtexで、内層部(50g)の乾収値は2.0%である。
【0031】
得られたパッケージは2.8kg巻きが可能で、パーン落下テストにおいて20回で崩れ発生のパーンが無かった。また、テーパー部分の微小な崩れが発生したパーンの剥ぎ取りをしたところ剥取り量が製品巻量の1/9と良好であった。乾収変動率については10%と良好であった。
【0032】
実施例6
ポリエステルからなる縫い糸原糸を、パーン形状に巻取る際のトラバース幅が最大巻幅×(2/3)で、巻き始めから巻終わりまでトラバース幅一定かつズラシ量3mm一定でトラバース折り返し部を移送させた。
【0033】
パッケージの平均巻硬度は90であり、各硬度は、ストレート部硬度×0.97≦テーパー部硬度≦ストレート部硬度×1.03を満足している。縫い糸原糸の総繊度は300dtexで、内層部(50g)の乾収値は2.0%である。
【0034】
得られたパッケージは2.8kg巻きが可能で、パーン落下テストにおいて20回で崩れ発生のパーンが無かった。また、テーパー部分の微小な崩れが発生したパーンの剥ぎ取りをしたところ剥取り量が製品巻量の1/9と良好であった。乾収変動率については10%と良好であった。
【0035】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】引用文献1の特開平03−192072号公報記載のトラバース軌跡
【図2】本願発明のトラバース軌跡を説明する模式図
【図3】本願発明のパッケージを説明する模式図
【符号の説明】
【0037】
A;トラバース軌跡
B;トラバースバリエーション
C;ズラシ量
D;トラバース折り返し部
E;トラバース幅
F;テーパー上部
G;ストレート部
H;テーパー下部
I;最大巻幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫い糸原糸をテーパー上部、ストレート部、テーパー下部を有するパーンパッケージに巻き取るに際し、下式(1)を満足するトラバース幅で、巻き始めから巻き終わりまでトラバース幅一定かつトラバース折り返し部を一定量で移送させることを特徴とする縫い糸原糸の巻取方法。
(1)パッケージ最大巻幅/3<トラバース幅<パッケージ最大巻幅
【請求項2】
請求項1記載の巻取方法で得られた縫い糸原糸のパッケージであって、下式(2)を満足する巻硬度かつテーパー上部、ストレート部、テーパー下部の平均巻硬度が87.0〜100で、縫い糸原糸の乾収が3.0%以下であるパッケージ。
(2)ストレート部硬度×0.97≦テーパー部硬度≦ストレート部硬度×1.03
【請求項3】
縫い糸原糸の総繊度が40〜300dtexである請求項2記載のパッケージ。
【請求項4】
パッケージ重量が3.0kg以下である請求項2または3記載のパッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−56431(P2008−56431A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235719(P2006−235719)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】