説明

縫製手袋及びその製造方法

【課題】 縫製手袋において、指先から縫合部をなくした手袋及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 シームレスの手袋基体11表面に樹脂皮膜3が形成された手袋の手甲側に、少なくとも爪の先端を含む五指の先端部をそれぞれ挿入する袋状部10を残して切除して形成された切除部4を有する手掌部材1と、少なくとも上記切除部4を補填すべく切除部4に配置された手甲部材2を備えている。
手掌部材1と手甲部材2は縫合してあり、手掌部材1と手甲部材2の縫合によって形成される縫合部5のうち指先部分の縫合部51は、袋状部10の手甲側の端縁側に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は縫製手袋及びその製造方法にかかり、更に詳しくは、縫合部を指先からなくした縫製手袋及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
縫製手袋は、シート状の手掌部材と手甲部材を縫い合わせて縫製し手袋に仕上げたものである。手袋によっては手掌部材と手甲部材との間に襠を介在させることもある。素材には皮や布など各種のものが使用され、機能的にも各種素材を組み合わせることによって各種の機能を発揮し各分野で使用されている。
例えば、スポーツ用の手袋の場合は、手掌側に各種のスポーツに要求される機能を付与した手掌部材を使用し、手甲側には通気性を有する手甲部材を組み合わせることによって、各種のスポーツに要求される機能と通気性とを併せ持つ手袋が提供できる。
【0003】
縫製手袋は、手掌部材と手甲部材とを縫い合わせることによって形成されることから、縫製手袋には両者の縫合端が隆起した、縫い代を含む縫い目が形成される。この縫い目は手袋の表側に設けることもあるが、一般的には手掌部材と手甲部材とをミシンで縫い合わせた後に裏返して内側に設けられる。
なお、本明細書および特許請求の範囲においては、縫い代を含む縫い目を「縫合部」と称する。
【0004】
ところで、人間の手は立体的であり、指先は上下左右の各方向に湾曲した球面状をなしている。これに対して従来の縫製手袋の材料は、平面的なシート状であるために人間の手に適合する立体的な手袋を縫製することには困難を伴う。殊に手袋の指先部分を平面的なシート状の材料で球面のような立体形状に形成することは、不可能か或いは極めて困難である。
このために縫製手袋は、指先の位置で手掌部材と手甲部材を縫い合わせることによって立体的な指先の形状に合うように縫製されている。この場合に縫合部は指先に位置することになる。
【0005】
このように、従来の縫製手袋の指先には縫合部が位置することは避けられない。このような縫製手袋を作業用に使用する場合、指先の縫合部が邪魔をして細かな作業に困難を来すばかりか、縫合部が指先に当たり、装着時に違和感がある。
それを、解決するものとして、特許文献1に記載された手袋が提案されている。
【0006】
特許文献1に記載された手袋は、甲部側と掌部側の繊維生地を互いに引張伸度又は乾燥収縮度の異なる生地とし、これら繊維生地を縫合して縫製原手を作成し、該縫製原手を立体的な手袋型に装着した状態で、その表面所定箇所に、ゴム又は樹脂のコーティング材を被着させ、少なくとも指先の縫合部が爪先対応位置よりも甲側にずれた位置に固定させるというものである。
【0007】
【特許文献1】特開2006−207093
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の手袋は、引張伸度又は乾燥収縮度の異なる生地を使用するとしても平面的なシート状の甲部側と掌部側の繊維生地を縫合するのであるから、縫合部の位置を甲側へずらすことができるとしても、僅かである。この手袋の場合は、手袋が手に密着してずれない場合はともかくとして、指を動かすことによって僅かでもずれると縫合部が指先に位置し、作業の妨げとなる。
【0009】
ところで、手袋には、縫製手袋の他に軍手に代表されるシームレス手袋がある。シームレス手袋は、一本または二本以上の糸を自動手袋編み機で編んだものであり、縫製手袋のように縫合部がなく、指先にも縫合部はない。従って、作業用手袋としては好適である。
本発明者は、このシームレス手袋に着目し、縫製手袋の上記課題をシームレス手袋によって解決できないか鋭意研究を重ね本発明を完成するに至った。
【0010】
(本発明の目的)
本発明の目的は、縫製手袋において、指先から縫合部をなくした手袋及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、縫製手袋において、滑り止め効果を奏する手袋を提供することにある。
更にまた、本発明の目的は、全ての縫合部が手甲側に位置する手袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
本発明は、
手掌部材と手甲部材を縫い合わせて作られている手袋であって、
シームレスの手袋基体表面に樹脂皮膜が形成されている手袋の手甲側に、欠除部または切除部を有する手掌部材と、少なくとも当該欠除部または切除部を補填すべく前記欠除部または切除部に配置されている手甲部材と、を備え、前記手掌部材の指先部分には、挿入される五指の指先の形状に合わせた袋状部を有しており、前記手掌部材と手甲部材の縫い合わせによって形成される縫合部のうち指先部分の縫合部は、爪の先端よりも手甲側に位置している、縫製手袋である。
【0012】
本発明は、
手掌部材と手甲部材を縫い合わせて作られている手袋であって、
シームレスの手袋基体表面に樹脂皮膜が形成されている手袋の手甲側に、欠除部または切除部を有する手掌部材と、少なくとも当該欠除部または切除部を補填すべく前記欠除部または切除部に配置されている手甲部材と、を備え、前記手掌部材の指先部分には、挿入される五指の指先の形状に合わせた袋状部を有しており、前記手掌部材と手甲部材の縫い合わせによって形成される縫合部のうち少なくとも指部分の縫合部は、指先部分の縫合部を含めて手甲側に位置している、縫製手袋である。
【0013】
縫製手袋は、全ての縫合部が手甲側に位置させることができる。また、縫合部は一般的には裏面に有することが多いが、表面に有しても良い。
【0014】
また、縫製手袋は、樹脂皮膜の表面に、同一の凹状部を有するか又は異なる大きさの凹状部が混在しており、前記凹状部は、樹脂皮膜表面に一部又は全部が食い込むようにして付着していた粒状又は/及び粉末状の付着体を除いた後の痕跡によって形成されるようにすることができる。
【0015】
本発明は、
手掌部材と手甲部材を縫い合わせて作られる手袋の製造方法であって、
シームレスの手袋基体表面に樹脂皮膜が形成されている手袋の手甲側を切除して手甲側に切除部を有する手掌部材を形成し、該切除部を補填する形状に形成された手甲部材を切除部に配置して手掌部材と手甲部材を縫い合わせ、手掌部材と手甲部材の縫い合わせによって形成される縫合部のうち少なくとも指部分の縫合部は、指先部分の縫合部を含めて手甲側に位置するよう形成される、縫製手袋の製造方法である。
【0016】
本発明は、
手掌部材と手甲部材を縫い合わせて作られる手袋の製造方法であって、
シームレスの手袋基体表面に樹脂皮膜が形成された手袋の手甲側を、爪の先端を含む五指の指先をそれぞれ挿入する袋状部が残るように切除して手甲側に切除部を有する手掌部材を形成し、該切除部を補填する形状に形成された手甲部材を切除部に配置して手掌部材と手甲部材を縫い合わせ、手掌部材と手甲部材の縫い合わせによって形成される縫合部のうち少なくとも指先部分の縫合部は、爪の先端よりも手甲側に位置するよう形成される、縫製手袋の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
(1)本発明では、手掌部材の手袋基体として、指先に縫合部がないシームレスの手袋基体を使用し、手掌部材の指先部分には、挿入される五指の指先の形状に合わせた袋状部を有しており、手掌部材と手甲部材の縫い合わせによって形成される縫合部のうち指先部分の縫合部は、爪の先端よりも手甲側に位置している。
このように本発明によれば、手掌部材と手甲部材とを縫いつけることによって形成される縫合部は、指先を避けて設けることができる。従って、縫製手袋を作業用に使用するにあたって、指先の縫合部が邪魔をして細かな作業に困難を来すのを避けることができるだけでなく、装着時に縫合部が指先に当たることもなく違和感も生じない。
【0018】
(2)全ての縫合部が手甲側に位置している縫製手袋は、上記効果に加えて縫い合わせ部分からの液体、例えば水の浸入を防止することができる。このため、縫製手袋でありながら、液体が付着したようなものを扱う情況でも使用できる。
【0019】
(3)樹脂皮膜の表面に、同一の凹状部を有するか又は異なる大きさの凹状部が混在しており、上記凹状部は、樹脂皮膜表面に一部又は全部が食い込むようにして付着していた粒状又は/及び粉末状の付着体を除いた後の痕跡によって形成されているものは、前記凹状部によって滑り止め効果が発揮できる。
また、付着体の大きさによって凹状部の大きさを変えることができるので、それに伴う滑り止め効果の大小を変えることができる。
【0020】
(4)本発明方法によれば、手掌部材と手甲部材に、各種素材を適宜組み合わせることによって、各種の機能を付与できると共に、縫合部を指先から排除することによって装着感、使用感に優れた縫製手袋が提供できる。
【0021】
手掌部材は、シームレスの手袋基体の表面に形成された樹脂皮膜によって、補強と共に各種の樹脂皮膜が有する機能性が付与される。また、手袋基体と樹脂皮膜の接合によってシームレス手袋のルーズな動きが制限されるばかりでなく、手袋基体があることによって縫製ミシンとの接触箇所が滑りやすくなり、そのため縫合作業がしやすくなる。
【0022】
手掌部材の樹脂皮膜は、手甲部材を縫い合わせる切除部を除いて形成されているのが好ましい。
その一例として、手掌側に樹脂皮膜を形成し、手甲側の手甲の一部と指の一部を含む中央部分に、大体において手の形と相似した樹脂皮膜を形成していない、いわゆる背抜き手袋と称される手袋をあげることができる。この手袋の場合は、手甲側の樹脂皮膜の縁部を切除目標線として、該縁部に沿って切除すればよいので、切除予定線を設ける工程を必ずしも必要とせず、その分作業効率を上げることができる。
【0023】
手甲部材は通気性を有するのが好ましい。そのための素材としては、例えばメッシュ生地を使用することができる。また、作業用手袋の場合、手甲部材は手掌部材と異なり作業性能に関与する割合が小さいか、或いは殆どないので、作業機能以外の機能、例えば通気性、或いは保温性、更には意匠を考慮した色々な素材を採用することができる。
【0024】
樹脂皮膜の表面に、同一の凹状部を有するか又は異なる大きさの凹状部が混在しており、上記凹状部は、樹脂皮膜表面に一部又は全部が食い込むようにして付着していた粒状又は/及び粉末状の付着体を除いた後の痕跡によって形成されているのが好ましい。
前記凹状部によって滑り止め効果が発揮できるばかりでなく、凹状部の大きさを変えることができるので、それに伴う付着体の大きさによって滑り止め効果の大小を変えることができる。
【0025】
凹状部は、樹脂皮膜の表面全体に設けてもよいし、部分的に設けてもよい。凹状部を形成する付着体は、水溶性を有するのが好ましく、塩化ナトリウムの如く潮解性とゲル化促進機能を有するものが更に好ましい。
なお、この明細書では、塩化ナトリウムの用語は、所謂食塩と称されるものを含む意味で使用している。
【0026】
縫製手袋は、全ての縫合部を手甲側に位置させることができる。この場合は指先部分に縫合部が無いこと、これによって作業性の向上が図れることの効果に加えて、縫い合わせ部分からの液体、例えば水の浸入を防止することができる。このため、縫製手袋でありながら、液体が付着したようなものを扱う情況でも手袋を取り替えることなく使用できる。
【0027】
手袋基体の素材は、特に限定されるものではなく、天然繊維や合成繊維等公知の各種素材を用いることができる。樹脂皮膜を形成する樹脂組成物としては、ゴムラテックスや樹脂エマルジョンを挙げることができる。ゴムラテックスとして、天然ゴム(NR)のゴムラテックスを挙げることができる。また樹脂エマルジョンとして、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0028】
熱硬化性樹脂として、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等が挙げられ、これらを単独で、又は組み合わせて使用することもできる。熱可塑性樹脂として、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)等が挙げられる。
【0029】
樹脂皮膜の厚みは、0.05〜2mmが好ましい。樹脂皮膜が厚くなるほどその部分が硬くなる傾向がある。
樹脂皮膜の厚みを薄くするほど柔軟性を有するので、フィット性、手へのしっくり感が良好になる。しかし、手袋の強度が低下してしまうため、重作業に使用する手袋の場合は、ある程度の厚みが必要である。
【0030】
樹脂組成物の配合剤として、安定剤、架橋剤、架橋促進剤、架橋促進助剤、老化防止剤、増粘剤、可塑剤、消泡剤等を使用することができ、手袋の使用用途に応じて適宜調整が可能である。
【0031】
付着体としては、例えば塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等を挙げることができる。使用する付着体の粒径によって、凹状部の内径をコントロールすることができる。凹状部の内径は、例えば10μm〜1mmであり、好ましくは100μm〜500μmである。
【0032】
例えば塩化ナトリウムのように、付着体が水などの溶媒に溶解するものは、溶媒で溶解させて付着体を除去することができる。
【0033】
またナフタリン、樟脳、沃素、P−ジクロルベンゼン、ドライアイス等の昇華性を有する物質や、炭酸アンモニア等の熱分解しやすい物質を付着体として使用することもでき、その場合は、付着体を気化させて除去することができる。
更に、ガラスビーズ、プラスチックビーズ、砂等を付着体として使用することもでき、その場合は、例えば付着体を風で物理的に吹き飛ばすことで除去することができる。
【0034】
(作用)
本発明に係る縫製手袋の作用を説明する。なお、ここでは、説明で使用する各構成要件に、後述する実施の形態において各部に付与した符号を対応させて付与するが、この符号は、特許請求の範囲の各請求項に記載した符号と同様に、あくまで内容の理解を容易にするためであって、各構成要件の意味を上記各部に限定するものではない。
【0035】
本発明に係る縫製手袋は、手掌部材(1)と手甲部材(2)を縫い合わせて作られる。
手掌部材(1)には、シームレスの手袋基体(11)表面に樹脂皮膜(3)が形成されている手袋が使用される。この手袋の手甲側を切除して切除部(4)を有する手掌部材(1)を形成するが、手掌部材(1)の形成に当たっては、指先部分に、挿入される五指の指先の形状に合わせた袋状部(10)を残して手甲側を切除する。これによって袋状部(10)は、少なくとも爪の先端を含む五指の先端部が挿入できる形状に形成される。その一例としては、切除部(4)先端が爪の基部或いはその近傍に位置するように切除する。
【0036】
手甲部材(2)は、少なくとも切除部(4)を補填すべく切除部(4)に配置されている。
そして手掌部材(1)と手甲部材(2)を例えばミシンによって縫い合わせて表面に縫合部を有する手袋を得る。また、裏返して裏面に縫合部を有する手袋を得る。
手掌部材(1)と手甲部材(2)の縫い合わせによって形成される縫合部(5)のうち指先部分の縫合部(51)は、袋状部(10)の手甲側の端縁側に形成されている。
縫合部(5)のうち少なくとも指部分の縫合部(53)は、指先部分の縫合部(51)を含めて手甲側に位置させることができる。また、全ての縫合部(5)を手甲側に位置させてもよい。
【0037】
このように、手掌部材(1)の手袋基体(11)に、指先に縫合部がないシームレスの手袋基体を使用することにより、手掌部材(1)と手甲部材(2)とを縫い合わせることによって形成される縫合部(5)を、指先を避けて設けることができる。従って、縫製手袋を作業用に使用するにあたって、指先の縫合部(5)が邪魔をして細かな作業に困難を来すのを避けることができるだけでなく、縫合部(5)が指先に当たることもなく違和感も生じない。
【0038】
[樹脂皮膜の凹状部の形成について]
次に、樹脂皮膜の凹状部の形成について説明する。
(1)未固化状態の樹脂組成物の表面に粒状又は/及び粉末状の付着体を付着させると、それらの付着体が樹脂組成物の中に食い込み、その樹脂組成物が固化してから、樹脂組成物が溶解しない溶液、例えばエマルジョンラテックスの樹脂皮膜に対しては水を用いて、水に溶解する塩(金属又は陽性の塩基性基と陰性の酸基とからなる化合物)や糖の粉粒物を洗浄除去するとき、それらの粒状又は/及び粉末状の付着体が食い込んだ痕跡としての凹部が、粒状又は/及び粉末状の付着体の形状に応じて細かく樹脂皮膜表面に形成される。
【0039】
(2)特に、塩化ナトリウムのように潮解性とゲル化促進機能を有するものでは、エマルジョンラテックス中の水分を吸収するように樹脂組成物の表面に食い込んで溶解し、そこに水滴のような粒状溶液として細かく介在し、その接する周囲の樹脂組成物を他の部分に先がけて固化し、その後、樹脂組成物全体が固化するとき、その食い込んだ塩化ナトリウムの痕跡は凹部となる。そうして、それが付着すると同時に周囲の固化を促すから樹脂組成物の内部へと余り深くは食い込まず、表面に凹凸を有する滑り難い手袋が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明を図面に示した実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0041】
図1〜図6は本発明の実施例1を示したもので、
図1は、手袋の手甲側から見た斜視説明図、
図2は、手袋の手掌側から見た斜視説明図、
図3は、手袋を図1のA−A線の箇所で切断した端面説明図、
図4は、手袋を図1のA−A線の箇所で切断した断面説明図、
図5は、 手袋を構成する手掌部材と手甲部材および緊締部材を分離した状態を手甲側からみた分解斜視説明図、
図6は、手掌部材の一部を断面し拡大した一部拡大断面説明図である。
【0042】
図1に示すように、縫製手袋は、手掌部材1と手甲部材2をミシンで縫い合わせた後に、更に裏返して作られている。表面に縫合部5を表したい場合には、裏返さなくても良い。
なお、図示の縫製手袋では、縫合部5は内側に位置するが、説明の便宜上表側の手掌部材1と手甲部材2の接合箇所にも同じ符号を付して示している。
【0043】
手掌部材1は、ナイロン糸をメリヤス編成して得られたシームレスの手袋基体11表面にNBRの樹脂皮膜3が形成された手袋の手甲側には、少なくとも爪の先端を含む各五指の先端部をそれぞれ挿入する袋状部10をそれぞれの指先に残して切除して形成された切除部4を有する(図5参照)。
【0044】
手甲部材2は、少なくとも切除部4を補填すべく形成され、切除部4に配置されている。
手掌部材1と手甲部材2の縫合によって形成される縫合部5のうち指先部分の縫合部51は、袋状部10の手甲側の端縁側に形成されている。また、指先部分の縫合部51を含む指部分の縫合部53は、手甲側に位置している。指先部分の縫合部51を含む指部分の縫合部53を除いた他の縫合部5は、手の側面あるいはその近傍に形成されている。
【0045】
この実施例では、手掌部材1を手甲部材2より軟らかい素材を使用しているので、縫い合わせたときに縫合部5の先端側12が手掌部材1側に傾き、隆起を小さくしている。
また、手袋の挿入口には、面ファスナーによって手袋を手首部分に固定する緊締部材6が縫合されている。
【0046】
実施例1に係る手袋の手掌部材1は、切除前には以下のようにして製造する。
(1)手袋型に手袋基体11を被せて型温調整を行い、凝固剤に浸漬後、引き上げて乾燥させる。
(2)樹脂皮膜3を構成するNBR配合液(ニトリルゴムラテックス、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ)、硫黄、架橋促進剤、亜鉛華、増粘剤を添加し、撹拌して得られる。)に浸漬し、引き上げる。
【0047】
(3)その後、NBR配合液が固化する前に付着体である塩化ナトリウム粒子32をその一部又は全部が表面に食い込んだ状態で付着させる。
(4)乾燥工程を経てNBR配合液を固化させた後、樹脂皮膜3に付着した塩化ナトリウム粒子32を水洗除去し、除去した付着体の付着痕(痕跡)である凹状部31を形成する。
(5)乾燥及び架橋を行ない、手袋型から手袋を離型する。なお、使用する樹脂によっては、架橋工程を省略することもできる。
【0048】
以上のようにして得られた手袋の樹脂皮膜3(図6参照)表面には、除去した塩化ナトリウム粒子32の付着痕(痕跡)によって凹状部31が多数形成される。
【0049】
そして、樹脂皮膜3表面には、凹状部31の形成に伴う作用ないしは効果として表面側に突出した部分が相対的に形成される。凹状部31の形成に伴い、凸状部3aが形成される。
【0050】
本実施例では、凹状部31の直径が約300μm、樹脂層の厚みが約0.5〜0.6mmになるように調整した。その後前記のように手甲側を切除する。
【0051】
図7は実施例2に係る手袋の手甲側から見た斜視説明図である。
本実施例では手掌部材1aと手甲部材2aの縫合によって形成される縫合部5のうち指部分の縫合部55は、指側の中手指節関節近傍に位置している。従って袋状部101は指の大部分を覆うように形成されている。また、手甲部材2aには通気性の良好な素材が使用されている。
その他は実施例1に係る手袋と大体同じである。
【0052】
図8は実施例3に係る手袋の手甲側から見た斜視説明図である。
本実施例では実施例1に係る手袋の手掌部材1の手甲中央部分を円形状またはおおよそ円形状に切除した形状の手掌部材1bと、その切除部分に手甲部材2bを配置して縫合している。従って手掌部材1bと手甲部材2bの縫合によって形成される縫合部56は、手甲中央部分に位置しており、このため袋状部102は指全部を覆うように形成されている。
また、手甲部材2には通気性の良好な素材が使用されている。
なお、本実施例に係る手袋は、大部分が手掌部材1bからなっているので手袋には実施例1および実施例2のような緊締部材はない。その他は実施例1に係る手袋と大体同じである。
【0053】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】縫製手袋の手甲側から見た斜視説明図。
【図2】縫製手袋を手掌側から見た斜視説明図。
【図3】縫製手袋を図1のA−A線の箇所で切断した端面説明図。
【図4】縫製手袋を図1のA−A線の箇所で切断した断面説明図。
【図5】縫製手袋を構成する手掌部材と手甲部材および緊締部材を分離した状態を手甲側からみた分解斜視説明図。
【図6】手掌部材の一部を断面し拡大した一部拡大断面説明図。
【図7】実施例2に係る手袋の手甲側から見た斜視説明図。
【図8】実施例3に係る手袋の手甲側から見た斜視説明図。
【符号の説明】
【0055】
1 手掌部材
10 袋状部
11 手袋基体
12 先端側
2 手甲部材
3 樹脂皮膜
3a 凸状部
31 凹状部
32 塩化ナトリウム粒子
4 切除部
5 縫合部
51 指先部分の縫合部
53 指部分の縫合部
6 緊締部材
1a 手掌部材
2a 手甲部材
55 指部分の縫合部
101 袋状部
1b 手掌部材
2b 手甲部材
56 縫合部
102 袋状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手掌部材(1)と手甲部材(2)を縫い合わせて作られている手袋であって、
シームレスの手袋基体(11)表面に樹脂皮膜(3)が形成されている手袋の手甲側に、欠除部または切除部(4)を有する手掌部材(1)と、
少なくとも当該欠除部または切除部(4)を補填すべく前記欠除部または切除部(4)に配置されている手甲部材(2)と、
を備え、
前記手掌部材(1)の指先部分には、挿入される五指の指先の形状に合わせた袋状部(10)を有しており、
前記手掌部材(1)と手甲部材(2)の縫い合わせによって形成される縫合部(5)のうち指先部分の縫合部(51)は、爪の先端よりも手甲側に位置している、
縫製手袋。
【請求項2】
手掌部材(1)と手甲部材(2)を縫い合わせて作られている手袋であって、
シームレスの手袋基体(11)表面に樹脂皮膜(3)が形成されている手袋の手甲側に、欠除部または切除部(4)を有する手掌部材(1)と、
少なくとも当該欠除部または切除部(4)を補填すべく前記欠除部または切除部(4)に配置されている手甲部材(2)と、
を備え、
前記手掌部材(1)の指先部分には、挿入される五指の指先の形状に合わせた袋状部(10)を有しており、
前記手掌部材(1)と手甲部材(2)の縫い合わせによって形成される縫合部(5)のうち少なくとも指部分の縫合部は、指先部分の縫合部(51)を含めて手甲側に位置している、
縫製手袋。
【請求項3】
全ての縫合部(5)が手甲側に位置している、請求項2記載の縫製手袋。
【請求項4】
縫合部(5)が裏面にある請求項1,2または3記載の縫製手袋。
【請求項5】
樹脂皮膜(3)の表面に、同一の凹状部(31)を有するか又は異なる大きさの凹状部が混在しており、前記凹状部(31)は、樹脂皮膜(3)表面に一部又は全部が食い込むようにして付着していた粒状又は/及び粉末状の付着体を除いた後の痕跡によって形成されている、請求項1、2、3または4記載の縫製手袋。
【請求項6】
手掌部材(1)と手甲部材(2)を縫い合わせて作られる手袋の製造方法であって、
シームレスの手袋基体(11)表面に樹脂皮膜(3)が形成されている手袋の手甲側を切除して手甲側に切除部(4)を有する手掌部材(1)を形成し、
該切除部(4)を補填する形状に形成された手甲部材(2)を切除部(4)に配置して手掌部材(1)と手甲部材(2)を縫い合わせ、
手掌部材(1)と手甲部材(2)の縫い合わせによって形成される縫合部(5)のうち少なくとも指部分の縫合部(5)は、指先部分の縫合部(51)を含めて手甲側に位置するよう形成される、
縫製手袋の製造方法。
【請求項7】
手掌部材(1)と手甲部材(2)を縫い合わせて作られる手袋の製造方法であって、
シームレスの手袋基体(11)表面に樹脂皮膜(3)が形成された手袋の手甲側を、爪の先端を含む五指の指先をそれぞれ挿入する袋状部(10)が残るように切除して手甲側に切除部(4)を有する手掌部材(1)を形成し、
該切除部(4)を補填する形状に形成された手甲部材(2)を切除部(4)に配置して手掌部材(1)と手甲部材(2)を縫い合わせ、
手掌部材(1)と手甲部材(2)の縫い合わせによって形成される縫合部(5)のうち少なくとも指先部分の縫合部(51)は、爪の先端よりも手甲側に位置するよう形成される、
縫製手袋の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−108443(P2009−108443A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282969(P2007−282969)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【特許番号】特許第4257380号(P4257380)
【特許公報発行日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(591009369)株式会社東和コーポレーション (14)
【Fターム(参考)】