説明

繊維の抗菌加工処理方法

【課題】 この発明は、白色の繊維または繊維製品に適用した場合においても変色やくすみを生じることのない、銀系抗菌剤の繊維への加工処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 乳清分離ホエイタンパク質1重量部に対し、水溶性銀化合物0.01〜0.1重量部とシステインおよびその誘導体0.001〜0.1重量部とを含有する繊維用抗菌剤を、0.5〜5重量%に希釈して加工液とし、pH8〜11で処理することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、繊維の抗菌加工処理方法に関する。さらに詳しくは、銀系抗菌剤を繊維に加工処理する際にみられる繊維の変色が軽減された、繊維の抗菌加工処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日常生活における抗菌に対する関心の高まりから、繊維製品に関して抗菌加工用の処理剤や加工技術についての試みが多くなされており、繊維素材への抗菌剤の練り込みや繊維製品の後加工によって、繊維製品に抗菌性を付与する処理が実際に行われている。
【0003】
一方で、安全性への要求も高まっており、繊維製品用の抗菌加工処理剤や抗菌加工技術についても安全性への配慮が必要となってきている。例えば、特許第3296813号公報(特許文献1)には、安全性が高いと言われている天然成分由来の抗菌成分であるキトサンを含有した繊維処理用組成物が提案されている。
【0004】
安全性と抗菌性を両立させた抗菌成分として、特開2000−344798号公報(特許文献2)には、蛋白質中の活性チオール基の含有割合が0.1〜200μモル/gである水可溶性の蛋白質と銀塩とを水中で接触させることにより得られる水不溶性の銀含有複合蛋白質が提案されている。
また、特開2002−308708号公報(特許文献3)には、銀系抗菌剤の優れた抗菌活性を低下させないで、銀系抗菌剤およびこれで処理した抗菌性付与対象物、特にシートの変色を防止し得る、チオール基を有する化合物からなる銀系抗菌剤用の変色防止剤が提案されているが、白色の繊維または繊維製品に適用した場合には、黄変またはくすみが生じるという問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特許第3296813号公報
【特許文献2】特開2000−344798号公報
【特許文献3】特開2002−308708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した銀含有複合蛋白質や、銀ゼオライト、銀コロイドなどの銀系抗菌剤を繊維に加工処理すると、銀系抗菌剤が繊維表面にのみ固着することから黄変やくすみが生じ、特に白色の繊維または繊維製品においては、品質および商品価値の低下につながってしまう。
この発明は、白色の繊維または繊維製品に適用した場合においても変色やくすみを生じることのない、銀系抗菌剤の繊維への加工処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、乳清分離ホエイタンパク質1重量部に対し、水溶性銀化合物0.01〜0.1重量部とシステインおよびその誘導体0.001〜0.1重量部とを含有する繊維用抗菌剤を、0.5〜5重量%に希釈して加工液とし、pH8〜11で処理することにより、白色の繊維または繊維製品に適用した場合おいても変色やくすみを生じることがなく、優れた抗菌効果を付与できる事実を見出した。さらに、バインダーを併用しなくても洗濯耐性が得られ、抗菌性が持続することを見出し、この発明を完成するに到った。
【0008】
かくしてこの発明によれば、乳清分離ホエイタンパク質1重量部に対し、水溶性銀化合物0.01〜0.1重量部とシステインおよびその誘導体0.001〜0.1重量部とを含有する繊維用抗菌剤で繊維を抗菌加工処理するにあたり、該繊維用抗菌剤を0.5〜5重量%に希釈した加工液を用いてpH8〜11で処理することを特徴とする繊維の抗菌加工処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
この発明の繊維の抗菌加工処理方法によれば、白色の繊維または繊維製品に適用した場合においても変色やくすみを生じることなく、優れた抗菌性を付与することができる。また、バインダーを併用しなくても洗濯耐性が得られ、抗菌性が持続することから、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明の方法は、特定の配合割合である乳清分離ホエイタンパク質、水溶性銀化合物、システインおよびその誘導体からなる繊維用抗菌剤を0.5〜5重量%に希釈した加工液を用いて、pH8〜11で繊維に加工処理する。
繊維用抗菌剤を希釈した加工液の濃度が0.5重量%未満であると、繊維への抗菌効果が不十分であることから好ましくなく、また、5重量%を超えると、繊維の変色やくすみが生じることから好ましくない。
【0011】
また、繊維用抗菌剤を希釈した加工液を繊維に加工処理する際のpHが8未満であるか、あるいは11を超えると、加工液の繊維への浸透性が悪くなり、繊維の変色やくすみが生じることから好ましくない。pHの調整には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ剤を用いることもできるが、繊維用柔軟仕上剤、帯電防止剤、ピリング防止剤、スリップ防止剤、風合い調整剤、可縫性向上仕上剤など、繊維に柔軟性や風合い、その他繊維の加工性や着用感を向上させる機能を付与することのできるアルカリ性薬剤を用いることが好ましい。
【0012】
繊維に加工処理する方法としては、繊維または繊維製品に均一に付着もしくは含有させることができる方法であれば特に限定されない。具体的には、繊維または繊維製品の表面への塗付、スプレーおよび浸漬などによる含浸などが、繊維の材質や形状に応じて、浸漬、吸尽、吹付け処理などの公知の方法から適宜選択して行なうことができる。また、付着させる繊維の形状は、ファイバー状、糸状、布(原反)状のいずれであっても問題ない。一般的に、布(原反)への付着もしくは含有は、パディング加工のような浸漬法やスプレーノズルからの吹付け処理、各種捺染や印刷などの方法により行なうことができる。また、最終製品としての形態を有した繊維製品への付着は、浸漬や吸尽などの方法により行なうことができる。
【0013】
この発明の方法で、繊維用抗菌剤に使用する乳清分離ホエイタンパク質としては、市販されているものを好適に用いることができる。乳清分離ホエイタンパク質(WPI)は、ホエイタンパク質(WPC)を分離・精製したものである。ホエイタンパク質は、元来、シスチンを比較的多量に含有するタンパク質であり、チーズ製造時に副生する乳清(ホエイ)中に多く存在しており、乳清分離ホエイタンパク質は、ホエイタンパク質よりもタンパク含有量が高い。
【0014】
また、この発明の方法で、繊維用抗菌剤に使用する水溶性銀化合物としては、硝酸銀、酢酸銀などを好適に用いることができる。
【0015】
さらに、この発明の方法で、繊維用抗菌剤に使用するシステインおよびその誘導体としては、システイン(L−システイン、D−システインとこれらの混合物)、N−アセチル−L−システインなどが挙げられ、繊維の変色やくすみを抑制する点から、N−アセチル−L−システインを用いるのが好ましい。
【0016】
一方、この発明の方法では、乳清分離ホエイタンパク質と水溶性銀化合物とシステインおよびその誘導体からなる繊維用抗菌剤に、さらにポリビニルアルコールを配合することが好ましい実施態様である。ポリビニルアルコールとしては、市販されているものを好適に用いることができるが、けん化度が約87〜89mol%であって、かつ、重合度が1700のものを用いるのが、繊維の変色やくすみを抑制する点から好ましい。
【0017】
この発明の方法において、繊維用抗菌剤の各構成成分の配合割合は、乳清分離ホエイタンパク質1重量部に対し、水溶性銀化合物が0.01〜0.1重量部、システインおよびその誘導体が0.001〜0.1重量部とするのが好ましい。また、さらにポリビニルアルコールを配合する場合には、乳清分離ホエイタンパク質1重量部に対し、ポリビニルアルコールを0.1〜1重量部とするのが好ましい。
【0018】
この発明の方法で抗菌加工処理される繊維としては、綿、絹、羊毛等の天然繊維、ビスコースレーヨン等の再生繊維、トリアセテート、ジアセテート等の半合成繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリルニトリル等の合成繊維及びこれらの混紡繊維などが挙げられ、フェルト状物、編物もしくは織物のいずれであってもよい。
【0019】
また、抗菌加工処理される繊維製品としては、上記繊維を加工して得られる製品、例えば、衣類、タオル、不織布、寝具類(ベッド、布団、シーツ、枕カバーなど)、室内用品(畳、カーテン、カーペット、絨毯など)、家具類(ソファー、布ばり椅子など)、車内用品(シート、チャイルドシートなど)、紙製品(襖紙、障子紙、壁紙など)、キッチン用品、ベビー用品、空気清浄機や空気洗浄機のフィルター類などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
(実施例)
この発明を調製例および試験例により詳細に説明するが、これら調製例および試験例によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
(調製例)
乳清分離ホエイタンパク質4g、硝酸銀0.18g、N−アセチル−L−システイン0.036gを秤量し、それぞれ別々にあらかじめ純水に溶解した。さらに、ポリビニルアルコール(けん化度:約87〜89mol%、重合度:1700)を水に溶解し95℃、2時間加熱溶解して、10%溶液を調製し、40gを秤量した。
それぞれの溶液をビーカーに入れ、ホモミキサーにて撹拌混合して、繊維用抗菌剤を調製した。
【0022】
(試験例)
調製例で得られた繊維用抗菌剤を、イオン交換水で濃度1%となるように希釈し、加工液とした。この加工液を水酸化カリウムでpH8.8に調整したものを用いて、綿ニット蛍光晒標準布をピックアップ率が100%となるようパディング加工した後、105℃にて20分間乾燥し、実施例加工布を得た。さらに、pHを調整しなかった繊維加工液(pH=6.8)を用いて、綿ニット蛍光晒標準布を同様に処理し比較例加工布を得た。
実施例加工布、比較例加工布および無加工布を、湿度70%、温度80℃の条件下で7日間静置した後、分光測色計(ミノルタ製、CM−2600d)にて生地の着色を評価した。また、JIS L 1902:2002繊維製品の抗菌性試験方法・抗菌効果(定量試験 菌液吸収法)に準拠して、実施例加工布、比較例加工布および無加工布の抗菌性の評価を実施した。これらの結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例加工布は比較例加工布に比べて着色が著しく軽減されていることがわかる。また、実施例加工布は無加工布に比べて優れた抗菌性が付与されており、洗濯耐性もあることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳清分離ホエイタンパク質1重量部に対し、水溶性銀化合物0.01〜0.1重量部とシステインおよびその誘導体0.001〜0.1重量部とを含有する繊維用抗菌剤で繊維を抗菌加工処理するにあたり、該繊維用抗菌剤を0.5〜5重量%に希釈した加工液を用いてpH8〜11で処理することを特徴とする繊維の抗菌加工処理方法。
【請求項2】
繊維用抗菌剤に、乳清分離ホエイタンパク質1重量部に対しポリビニルアルコール0.1〜1重量部がさらに含有されてなる請求項1記載の処理方法。
【請求項3】
システインおよびその誘導体がN−アセチル−L−システインである請求項1または2に記載の処理方法。

【公開番号】特開2007−46208(P2007−46208A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233839(P2005−233839)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Fターム(参考)】