説明

繊維の紫外線遮蔽加工処理方法

【課題】 この発明は、安全性が高く簡易な操作で、繊維または繊維製品に紫外線遮蔽効果を保持させることができる、繊維の紫外線遮蔽加工処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 この発明では、タンパク質1重量部に対し水溶性銀化合物を0.01〜0.1重量部含有する繊維用紫外線吸収剤を繊維または繊維製品に付着または含有させることにより、当該繊維または繊維製品に優れた紫外線遮蔽効果を保持させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、繊維の紫外線遮蔽加工処理方法に関する。さらに詳しくは、有害な紫外線から人体を保護することのできる繊維や繊維製品を得るための繊維の紫外線遮蔽加工処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線が人体に及ぼす影響が大きく取り上げられており、紫外線の遮蔽に関心が高まっている。太陽光中の紫外線は、A波(320〜400nm)、B波(290〜320nm)、およびC波(200〜290nm)の3種類が存在する。このうち、A波は皮膚への透過力が高く、シミやそばかすの原因となる。また、B波は皮膚に炎症を引き起こし、一種の火傷状態にするなど人体に大きな影響を及ぼすが、C波は大気中のオゾン層に吸収され地上にほとんど到達しない。そのため、A波とB波を効果的に遮蔽することにより、人体への影響を軽減させることができる。
【0003】
一般に、衣類を着用していれば、衣類が紫外線を遮蔽するので、衣類の下の皮膚は影響を受けないと考えられがちであるが、特に紫外線が強い夏場に着用する薄くて通気性のよい衣類は、紫外線を十分に遮蔽することができない。
そこで、繊維類に紫外線遮蔽効果を保持させる技術として、例えば、特開平3−206102号公報(特許文献1)には、p−アミノ安息香酸誘導体、アンスラニル酸誘導体、サリチル酸誘導体、桂皮酸誘導体、ベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤入りマイクロカプセルをストッキング編み地全面に付着させた日焼け止めストッキング及びその製造方法が提案されている。
【0004】
また、特開2003−227034号公報(特許文献2)には、酸化チタンと紫外線吸収域を持つ酸化亜鉛とを一定量含有し、アミノ末端基量を特定量とすることにより紫外線遮蔽性に良好な衣料用ポリアミド繊維が提案されている。
しかしながら、上記のような化学物質を紫外線吸収剤として、直接人体に触れる衣類等に適用することは、安全性の面で問題がある。
【0005】
一方、安全性と抗菌性を両立させた抗菌成分として、特開2000−344798号公報(特許文献3)には、蛋白質中の活性チオール基の含有割合が0.1〜200μモル/gである水可溶性の蛋白質と銀塩とを水中で接触させることにより得られる水不溶性の銀含有複合蛋白質が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平3−206102号公報
【特許文献2】特開2003−227034号公報
【特許文献3】特開2000−344798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、安全性が高く簡易な操作で、繊維または繊維製品に紫外線遮蔽効果を保持させることができる、繊維の紫外線遮蔽加工処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、タンパク質1重量部に対し水溶性銀化合物を0.01〜0.1重量部含有する繊維用紫外線吸収剤を繊維または繊維製品に付着または含有させることにより、当該繊維または繊維製品に優れた紫外線遮蔽効果を保持させることができることを見出し、この発明を完成するに到った。
【0009】
かくしてこの発明によれば、タンパク質1重量部に対し水溶性銀化合物を0.01〜0.1重量部含有する繊維用紫外線吸収剤を、繊維に付着または含有させることを特徴とする繊維の紫外線遮蔽加工処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
この発明の繊維の紫外線遮蔽加工処理方法によれば、安全性が高く簡易な操作で、繊維または繊維製品に優れた紫外線遮蔽効果を保持させることができる。さらに、繊維または繊維製品に抗菌効果も併せて付与することができ、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の方法では、タンパク質1重量部に対し水溶性銀化合物を0.01〜0.1重量部含有する繊維用紫外線吸収剤を、繊維に付着または含有させることにより、繊維に紫外線遮蔽効果を付与する。タンパク質1重量部に対し水溶性銀化合物が0.01重量部未満であると、洗濯耐性が得られなくなるので好ましくない。また、ホエイタンパク質1重量部に対し水溶性銀化合物が0.1重量部を超えても、紫外線遮蔽効果および洗濯耐性の増強は見られず、経済的なデメリットとなるため好ましくない。
【0012】
また、この発明の方法では、繊維用紫外線吸収剤を0.5〜5.0重量%に希釈して繊維に付着または含有させるとよい。繊維用紫外線吸収剤の希釈濃度が0.5重量%未満であると、洗濯等により紫外線遮蔽効果が顕著に低下することから好ましくなく、また、5.0重量%を超えると、繊維の柔軟性を損ねたり、変色が生じることから好ましくない。
【0013】
この発明の方法において、繊維用紫外線吸収剤として用いるタンパク質は、水溶性タンパク質、水不溶性タンパク質のいずれであってもよいが、繊維用紫外線吸収剤を製剤する際の容易性から水溶性タンパク質を用いるのが好ましい。さらに、水溶性タンパク質の中でも乳清分離ホエイタンパク質(WPI)を用いると、優れた洗濯耐性が得られるとともに、繊維または繊維製品の変色やくすみが防止されることから、特に白色や淡色の繊維または繊維製品の加工処理に適している。
【0014】
さらに、乳清分離ホエイタンパク質(WPI)と銀からなる繊維用紫外線吸収剤を0.5〜5重量%に希釈した加工液を用いて、pH8〜11で繊維に加工処理すると、加工液の繊維への浸透性がよく、繊維の変色やくすみ防止効果がより一層増強されることから、白色の繊維または繊維製品における好ましい実施態様である。pHの調整には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ剤を用いることもできるが、繊維用柔軟仕上剤、帯電防止剤、ピリング防止剤、スリップ防止剤、風合い調整剤、可縫性向上仕上剤など、繊維に柔軟性や風合い、その他繊維の加工性や着用感を向上させる機能を付与することのできるアルカリ性薬剤を用いることが好ましい。
【0015】
乳清分離ホエイタンパク質(WPI)は、ホエイタンパク質(WPC)を分離・精製して得られるタンパク含有量の高い水溶性タンパク質である。ホエイタンパク質(WPC)は、元来、シスチンを比較的多量に含有するタンパク質であって、チーズ製造時に副生する乳清(ホエイ)中に多く存在している。
【0016】
また、この発明の方法で、繊維用紫外線吸収剤に使用する水溶性銀化合物としては、硝酸銀、酢酸銀などを好適に用いることができる。
【0017】
一方、この発明の方法で紫外線遮蔽加工処理される繊維としては、綿、絹等の天然繊維、ビスコースレーヨン等の再生繊維、トリアセテート、ジアセテート等の半合成繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリルニトリル等の合成繊維及びこれらの混紡繊維などが挙げられ、フェルト状物、編物もしくは織物のいずれであってもよい。
【0018】
また、紫外線遮蔽加工処理される繊維製品としては、上記繊維を加工して得られる製品、例えば、衣類やカーテンなどの直射日光にさらされる繊維製品が挙げられる。また、光による製品の退色を抑制する目的で、タオル、不織布、寝具類(ベッド、布団、シーツ、枕カバーなど)、室内用品(畳、カーペット、絨毯など)、家具類(ソファー、布ばり椅子など)、車内用品(シート、チャイルドシートなど)、紙製品(襖紙、障子紙、壁紙など)、キッチン用品、ベビー用品などに紫外線遮蔽加工処理をすることもできるが、これらに限定されない。
【0019】
この発明において、繊維用紫外線吸収剤を繊維または繊維製品に付着または含有させる方法は、均一に付着または含有させることができる方法であれば特に限定されない。具体的には、繊維または繊維製品の表面への塗付、スプレーおよび浸漬などによる含浸などが、繊維の材質や形状に応じて、浸漬、吸尽、吹付け処理などの公知の方法から適宜選択して行なうことができる。また、付着させる繊維の形状は、ファイバー状、糸状、布(原反)状のいずれであっても問題ない。一般的に、布(原反)への付着もしくは含有は、パディング加工のような浸漬法やスプレーノズルからの吹付け処理、各種捺染や印刷などの方法により行なうことができる。また、最終製品としての形態を有した繊維製品への付着は、浸漬や吸尽などの方法により行なうことができる。
【0020】
この発明の方法では、この発明の効果を阻害しない限りにおいて、システインおよびその誘導体、ポリビニルアルコール、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、アクリル・シリコン系樹脂などの各種機能を有する素材を適宜併用して、繊維に付着または含有させることができる。
【0021】
(実施例)
この発明を調製例および試験例により詳細に説明するが、これら調製例および試験例によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
(調製例)
乳清分離ホエイタンパク質4gをイオン交換水に溶解し、ホモミキサー処理しながら、あらかじめイオン交換水に硝酸銀0.18gを溶解した水溶液を添加し、さらにポリビニルアルコール4gとキサンタンガム0.15gとを添加して、繊維用紫外線吸収剤を調製した。
【0023】
(試験例)
調製例で得られた繊維用紫外線吸収剤を、イオン交換水で濃度2%となるように希釈し、加工液とした。この加工液で、綿ニット蛍光晒標準布をピックアップ率が100%となるようパディング加工した後、105℃にて20分間乾燥し、実施例加工布を得た。
紫外線を検知すると変色する紫外線インジケーター「UVラベル 品種H」(日油技研工業株式会社製)を実施例加工布1枚あるいは無加工布1枚で覆い、それぞれに500mJ/cmの紫外線を「医療用殺菌線保管庫NB−2型」(日鈑工業株式会社製)で20分間照射し、紫外線インジケーターのラベルの変色から紫外線量を測定した。
【0024】
(試験結果)
実施例加工布1枚で覆った場合の紫外線量は0以上50mJ/cm、無加工布1枚で覆った場合の紫外線量は50mJ/cmであった。
このことから、実施例加工布は無加工布に比べて優れた紫外線遮蔽効果を有していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質1重量部に対し水溶性銀化合物を0.01〜0.1重量部含有する繊維用紫外線吸収剤を、繊維に付着または含有させることを特徴とする繊維の紫外線遮蔽加工処理方法。
【請求項2】
タンパク質が水溶性タンパク質である請求項1記載の処理方法。
【請求項3】
水溶性タンパク質が乳清分離ホエイタンパク質である請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】
繊維用紫外線吸収剤を0.5〜5.0重量%に希釈して繊維に付着または含有させる請求項1から3のいずれかに記載の処理方法。

【公開番号】特開2007−113124(P2007−113124A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303087(P2005−303087)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Fターム(参考)】