繊維の脱色方法および退色方法
【課題】環境に配慮するとともに、より自然な脱色を行うことのできる繊維の脱色方法と、生成りの繊維の退色方法を提供する。
【解決手段】Xeエキシマランプ2をジーンズ6に対して所定の位置で走査させる。ジーンズ6のデニム生地が凸状部となっている部分では、Xeエキシマランプ2とデニム生地とが相対的に近づくことで、紫外線の強度が相対的に強くなり、脱色が促進されることになる。一方、デニム生地が凹状部となっている部分では、Xeエキシマランプ2とデニム生地とが相対的に遠ざかることで、紫外線の強度が相対的に弱くなり、脱色の促進の程度は弱められることになる。
【解決手段】Xeエキシマランプ2をジーンズ6に対して所定の位置で走査させる。ジーンズ6のデニム生地が凸状部となっている部分では、Xeエキシマランプ2とデニム生地とが相対的に近づくことで、紫外線の強度が相対的に強くなり、脱色が促進されることになる。一方、デニム生地が凹状部となっている部分では、Xeエキシマランプ2とデニム生地とが相対的に遠ざかることで、紫外線の強度が相対的に弱くなり、脱色の促進の程度は弱められることになる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維の脱色方法および退色方法に関し、特に、染色された繊維の脱色方法と、生成りの繊維の退色方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
染色された繊維製品の一つとして、ジーンズ等に代表されるデニム生地を使用した繊維製品がある。近年、そのようなジーンズ等においては、染色された状態のままであるよりは、むしろ、長年使用して着古した感覚(中古感)を有しているものが消費者に受け入れられている。ジーンズ等に中古感をもたせるために、あらかじめ、ジーンズ等には脱色処理が施される。より自然な中古感を醸し出すために、繊維製品に対して様々な脱色方法が提案されている。
【0003】
従来、ストーンウォッシュ法、サンドペーパおよびグラインド法、サンドブラスト法等と称される、脱色させたい繊維製品の部分を物理的に擦り取る手法がある。ところが、これらの物理的に繊維製品を脱色する手法では、脱色後に繊維に入り込んだ石等を除去するのに手間を要するという問題があった。
【0004】
そこで、そのような問題点を解消する脱色方法として、電解槽の所定の薬液にジーンズ等を浸漬することにより、繊維製品を化学的に脱色する手法が提案されている。なお、このような薬液による繊維製品の脱色方法を開示した文献の例として、特許文献1〜3がある。
【特許文献1】特開平11−36173号公報
【特許文献2】特開平10−226957号公報
【特許文献3】特開2003−306879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、薬液によって繊維製品を化学的に脱色する手法では、環境に配慮して使用した薬液の処理に手間を要するという問題があった。また、繊維製品をより自然な中古感にするのが難しいという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、一つの目的は、環境に配慮するとともに、より自然な脱色を行うことのできる繊維の脱色方法を提供することであり、他の目的は、生成りの繊維の退色方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る繊維の脱色方法は、染色された繊維に対して、紫外領域の所定の光を照射する工程を備えている。
【0008】
この繊維の脱色方法によれば、紫外線により色素が分解されて、環境に配慮した繊維の脱色を行うことができる。
【0009】
その染色された繊維としては、具体的には、染料としてインディゴにより染色されたデニム生地を含んでいることが好ましい。これにより、デニム生地を使用したジーンズに代表される繊維製品の脱色を容易に行うことができる。
【0010】
また、所定の光の光源として、具体的には、紫外線ランプまたは紫外線レーザ発振器を用いることが好ましい。
【0011】
特に、紫外線ランプを用いることで、脱色のグラデーションが容易に得られて、繊維のより自然な中古感を醸し出すことができる。
【0012】
また、光源として紫外線レーザ発振器を用いる場合には、紫外線レーザ発振器と繊維との間に、紫外線レーザ発振器から発せられるレーザ光線の光束を広げる所定の光学素子を配置することが好ましい。そのような光学素子を配置することで、脱色のグラデーションを容易に得ることができる。
【0013】
本発明に係る繊維の退色方法は、繊維に対して、紫外領域の所定の光を照射する工程を備えている。
【0014】
この繊維の退色方法によれば、紫外線により繊維の成分が分解されて、環境に配慮した繊維の退色を行うことができる。
【0015】
具体的には、繊維として、生成りの繊維を含むことが好ましい。生成りの繊維を退色することで、繊維製品を製造した時点で自然な中古感をもたせることができる。
【0016】
また、所定の光の光源として、具体的には、紫外線ランプまたは紫外線レーザ発振器を用いることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1
(基礎評価)
はじめに、紫外線を使用した繊維製品の脱色方法の基礎評価として、紫外線ランプによる繊維製品の試験片の脱色評価とその結果について説明する。
【0018】
図1に示すように、まず、繊維製品の試験片4として、大きさ約130mm×50mm程度の藍色のデニム生地を用意した。また、そのデニム生地として、未加工のもの(試験片A)、ワンウォッシュ加工を施したもの(試験片B)、ワンウォッシュ加工に中性バイオ加工を10分間施したもの(試験片C)、ワンウォッシュ加工にバイオストーン加工を5分間施したもの(試験片D)、ワンウォッシュ加工にバイオストーン加工を10分間施したもの(試験片E)をそれぞれ用意した。
【0019】
なお、ワンウォッシュ加工とは、所定の洗濯機にて、湯洗い(70℃×5分)および水洗(3分)を行って、乾燥を行う加工である。中性バイオ加工とは、所定の洗濯機にて、バイオ酵素洗い(50℃×10分)および水洗(2分)を行って、乾燥を行う加工である。バイオストーン加工とは、所定の洗濯機に石を入れて、バイオ酵素洗い(50℃×5分または50℃×10分)および水洗(2分)を行って、乾燥を行う加工である。
【0020】
そして、紫外線ランプとして、Xeエキシマランプ(波長172nm)2を用意し、試験片4のデニム生地に対して、5本のXeエキシマランプ2を所定の位置に配置した。Xeエキシマランプ2と試験片4との距離Hを約3mmとし、互いに隣接するXeエキシマランプ2とXeエキシマランプ2との隙間Lを約10mmとした。なお、Xeエキシマランプ2の幅Dは約17mmとされる。
【0021】
そのXeエキシマランプ2の電源をオンして、それぞれの試験片A〜Eに対して、Xeエキシマランプ2による紫外線の照射を開始した。紫外線の照射を始めてから30分経過後、1時間経過後および2時間経過後の試験片A〜Eのそれぞれの脱色の程度を評価した。その試験片A〜Eの結果を図2〜図6にそれぞれ示す。なお、図2〜図6では、比較のために、紫外線を照射する前の試験片の状態の写真も併せて示されている。
【0022】
図2〜図6に示すように、紫外線の照射を開始してから約30分が経過すると、試験片の脱色が始まることがわかった。そして、紫外線の照射を開始してから約2時間が経過すると、Xeエキシマランプ2の直下に位置する試験片4の部分では、藍色の青みがほとんどなくなって、脱色されていることが確認された。また、このとき、紫外線を照射する前の試験片と比べて、試験片の裏側(裏地)では、染色されていない生成りの糸が退色(褪色)しているのが認められた。つまり、デニム生地の裏地の色が、淡い黄色に若干変化しているのが認められた。
【0023】
(脱色のメカニズム)
紫外線を照射する時間とともに、試験片(デニム生地)の脱色が促進されるのは、次の有機物分解作用と酸化分解作用との2つの作用が考えられる。まず、試験片のデニム生地は、染色された縦糸と染色されていない生成りの横糸とを綾織にしたものであり、縦糸の染料として、インディゴが使用されている。そのインディゴは、次の構造式によって表される。
【0024】
【化1】
【0025】
一般に、炭素と炭素の二重結合(C=C)の結合エネルギーは約606kJ/mol(約145kcal/mol)であるのに対して、波長172nmの紫外線の有するエネルギーは約695kJ/mol(約166.2kcal/mol)であり、紫外線の有するエネルギーが炭素と炭素の二重結合の結合エネルギーよりも高い。そのため、デニム生地に紫外線が照射されると、紫外線の有するエネルギーによって、炭素と炭素の二重結合が切られることになる。その結果、インディゴが分解されて、脱色が促進される考えられる(有機物分解作用)。紫外線によって、インディゴでは上記構造式の中央の二重結合が切断されると考えられる。
【0026】
また、大気中で波長220nm以下の光を照射すると、光路中の空気に含まれる水蒸気がその光のエネルギーによって活性化されて、オゾンや活性酸素が発生する。そのため、デニム生地に紫外線を照射すると、デニム生地の近傍でオゾンや活性酸素が発生することになる。その結果、発生したオゾンや活性酸素によってインディゴが酸化分解されて、脱色が促進されると考えられる(酸化分解作用)。特に、デニム生地の近傍において、水蒸気、あるいは、霧をあらかじめ発生させておいた状態でデニム生地に紫外線を照射することで、より多くの水蒸気等が活性化されて、オゾンや活性酸素を効率的に発生さることができる。
【0027】
こうして、有機物分解作用あるいは酸化分解作用により分解されたインディゴは、炭素と炭素の二重結合が切れた状態で繊維製品に残ると考えられる。したがって、紫外線によって繊維製品の脱色では、薬液等によって繊維製品を脱色する場合と比べて、脱色を行った後の薬液(廃液)の処理等を行う必要がなくなり、環境に配慮した脱色を行うことができる。すなわち、環境に対してやさしい脱色を行うことができる。
【0028】
また、図7に示すように、1つのXeエキシマランプ2に注目すると、試験片4では、そのXeエキシマランプ2の直下に位置する試験片4の部分とXeエキシマランプ2との距離r0が最も短くなる。そして、その試験片4の直下の部分から離れるにしたがって、Xeエキシマランプ2と試験片4との距離ri(i=1,2,3…)は長くなる。そのため、試験片4に実際の照射される紫外線の強度は、Xeエキシマランプ2の直下に位置する試験片4の部分が最も強く(強度I0)、その試験片4の直下の部分から離れるにしたがって、紫外線の強度は徐々に弱くなる(強度Ii)。
【0029】
これにより、Xeエキシマランプ2の直下に位置する試験片4の部分が最も強く脱色されて、その試験片4の直下の部分から離れるにしたがって脱色の程度は弱くなる。その結果、試験片(繊維製品)に紫外線を1回だけ照射することによって、脱色の自然なグラデーションを醸し出すことができる。
【0030】
(実際の繊維製品の脱色)
次に、実際の繊維製品の一例としてジーンズを挙げて、その脱色方法について具体的に説明する。自然に使い古されたジーンズでは、よく擦れる部分が脱色しやすくなる。図8に示すように、ジーンズ6の前側では、大腿部の付け根部分の曲げ伸ばしによって皺ができる部分6aや、大腿部から膝にかけての部分6bが脱色しやすくなる。一方、図9に示すように、ジーンズ6の後側では、ヒップの部分6cや、膝の曲げ伸ばしによって皺ができる部分6dが脱色しやすくなる。
【0031】
そこで、まず、ジーンズの皺に対応した凹凸を有する型をジーンズに装着する。型を装着してジーンズに凹凸(皺)を生じさせた状態で、図10に示すように、Xeエキシマランプ2をジーンズ6に対して所定の位置(高さ)で走査させる。このとき、図11に示すように、ジーンズ6のデニム生地7が凸状部7aとなっている部分では、Xeエキシマランプ2とデニム生地7とが相対的に近づくことで、紫外線の強度が相対的に強くなり、脱色が促進されることになる。一方、デニム生地7が凹状部7bとなっている部分では、Xeエキシマランプ2とデニム生地7とが相対的に遠ざかることで、紫外線の強度が相対的に弱くなり、脱色の促進の程度は弱められることになる。
【0032】
また、デニム生地6の凸状部7aから凹状部7bにかけての部分(領域)では、Xeエキシマランプ2とデニム生地7との距離が徐々に変化することで、上述したように、脱色のグラデーションが得られることになる。こうして、ジーンズ6に対して実際の皺に対応した自然な脱色をXeエキシマランプ2の走査によって行うことができる。
【0033】
紫外線の照射条件としては、上述した基礎評価によって得られた結果等を踏まえ、そして、ユーザーのニーズに応じた所望の脱色が行われるように、Xeエキシマランプの配置、照射時間、強度等が決められることになる。
【0034】
なお、上述した脱色方法の他に、所定のマスキング部材を用いて紫外線を照射することによってジーンズを脱色してもよい。たとえば、図12に示すように、まず、皺の凸状部に対応した開口8aが形成されたマスキング部材8を用意する。次に、そのマスキング部材8をジーンズ6に対して皺に対応した所定の位置に配置する。そして、その状態でXeエキシマランプ2を走査させることにより、開口8aを通り抜けた紫外線によってジーンズ6の皺の凸状に対応する部分が脱色されることになる。
【0035】
さらに、図13に示すように、マスキング部材として、皺の凸状部に対応した開口10aに加えて、大腿部から膝にかけての部分に対応した開口10bが形成されたマスキング部材10を用意して、Xeエキシマランプ2を走査させてもよい。この場合には、開口10bを通り抜けた紫外線によって、ジーンズ6の大腿部から膝にかけての部分が脱色されることになる。
【0036】
(糸の脱色・退色)
基礎評価の項において、試験片のデニム生地の裏地では、染色されていない生成りの糸が退色しているのが認められたことを述べた。ここでは、糸自体の退色(褪色)方法について説明する。
【0037】
上述したように、デニム生地は、インディゴにより染色された縦糸と染色されていない生成りの横糸とを綾織にしたもので、素材は綿である。すなわち、デニム生地は植物性繊維の縦糸と横糸から形成されている。紫外線を照射することによって生成りの横糸が退色するのは、植物性繊維を構成する有機物が分解されるためであると考えられる。
【0038】
そこで、その知見に基づいて糸を退色させる手法の一例について説明する。図14に糸の退色装置11を示す。退色装置11では、所定の筐体12に、糸16が挿通される石英管14が設けられている。その石英管14の上方と下方とに、それぞれXeエキシマランプ2が複数取り付けられている。
【0039】
石英管14に糸16を挿通して、Xeエキシマランプ2を点灯し、一方から他方へ糸16を引っ張りながらXeエキシマランプ2から発せられる紫外線を所定の時間糸16に照射することで、糸16を構成する有機物が分解されて糸16が退色(褪色)する。照射条件は、糸16を構成する有機物の性質および退色の程度を考慮して適切な条件が設定される。
【0040】
こうして、生成りの糸を退色させ、その退色した糸を使用して繊維製品を製造することで、製造された時点で繊維製品に自然な中古感をもたせることができる。なお、上述した糸の退色装置11では、生成りの糸の他に、染色された糸の脱色や退色にも使用することができる。
【0041】
(顔料の脱色)
繊維製品では、顔料によって染色された繊維製品がある。顔料は、水に対して不溶で、繊維に対して親和性を有していない色素である。そのため、顔料は、繊維の内部には拡散せず、繊維の表面に物理的に付着した状態でバインダーと称される樹脂成分によって繊維の表面に固定されることになる。ここでは、そのような顔料によって染色された繊維製品の一つについて行った、Xeエキシマランプによる脱色評価とその結果について説明する。
【0042】
まず、顔料によって染色された試験片として、ピンクベージュに染色された生地を用意し、前述した基礎評価の場合とほぼ同じ条件のもとで、Xeエキシマランプにて紫外線を生地に照射した。その試験片の結果を図15に示す。なお、図15では、比較のために、紫外線を照射する前の試験片の状態の写真と、照射した後の試験片の状態の写真に基づいたイメージ図も併せて示されている。
【0043】
図15に示すように、紫外線を約5分間照射した後では、Xeエキシマランプの位置に対応して試験片が部分的に脱色していることが確認された。また、試験片として、ピンクベージュに染色された試験片の他に、グレーやベージュに染色された試験片について、同様の評価をそれぞれ行ったところ、紫外線が照射された部分では脱色が進んでいることが確認された。顔料の脱色も、染料の脱色と同様に、顔料を構成する物質の特定の化学結合が紫外線によって切られると考えられる。
【0044】
(反応染色の脱色)
また、繊維製品では、反応染色によって染色された繊維製品がある。反応染色とは、糸の繊維と染料とを化学反応させて、染料を繊維に化学結合させることにより、糸を発色させる染色法の一種である。ここでは、そのような反応染色によって染色された繊維製品の一つについて行った、Xeエキシマランプによる脱色評価とその結果について説明する。
【0045】
まず、反応染色によって染色された試験片として、ピンクに染色された生地を用意し、前述した基礎評価の場合とほぼ同じ条件のもとで、Xeエキシマランプにて紫外線を生地に照射した。特に、この場合、生地の下部約4分の1を他の生地でマスクした状態で照射した。その試験片の結果を図16に示す。なお、図16では、比較のために、紫外線を照射する前の試験片の状態の写真と、照射した後の試験片の状態の写真に基づいたイメージ図も併せて示されている。
【0046】
図16に示すように、紫外線を約5分間照射した後では、Xeエキシマランプの位置に対応して試験片が部分的に脱色していることが確認された。また、試験片として、ピンクに染色された試験片の他に、グリーンに染色された試験片について、同様の評価を行ったところ、紫外線が照射された部分では脱色が進んでいることが確認された。反応染色の脱色は、繊維と染料との化学結合が紫外線によって切られると考えられる。
【0047】
なお、上述した実施の形態では、紫外線ランプとして、波長172nmのXeエキシマランプを例に挙げて説明した。紫外線ランプとしては、波長約220nm以下の光を発すことができる光源が好ましい。すなわち、光源としては、色素をなす物質の化学結合エネルギーよりも高いエネルギーの波長の光、あるいは、水蒸気等を活性化させてオゾンや活性酸素を発生させるエネルギーよりも高いエネルギーの波長の光を発することができる光源であれば、Xeエキシマランプに限られない。
【0048】
実施の形態2
前述した実施の形態では、紫外線を発する光源としてXeエキシマランプ(紫外線ランプ)を例に挙げて説明した。ここでは、紫外線レーザ発振器による繊維製品の脱色方法について説明する。
【0049】
レーザ光線は、波長と位相の揃ったコヒーレント(coherent)な光である。そのため、レーザ光線を繊維製品に直接照射した場合には、レーザ光線を照射した部分と照射していない部分とで、脱色の程度の差がはっきりし過ぎて、自然な中古感に見られる脱色のグラデーションを得るのが困難になる。
【0050】
そこで、図17に示すように、光源として紫外線レーザ発振器を適用する場合には、紫外線レーザ発振器20と繊維製品(ジーンズ6)との間に、紫外線レーザ発信器から発せられるレーザ光線20の光束を広げる光学素子24を配設する。そのような光学素子24としては、たとえば、石英から形成されたレンズ態様の光学素子が考えられる。また、中心から外周へ向って紫外線の透過率が徐々に小さくなる光学素子が考えられる。
【0051】
そのような光学素子24をレーザ光線22の光路に配設してレーザ光線の光束を徐々に広げることで、繊維製品に照射されるレーザ光の強度に分布が生じ、脱色のより自然なグラデーションを得ることができる。
【0052】
今回開示された実施の形態は例示であってこれに制限されるものではない。本発明は上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態1に係る繊維製品の脱色方法において、基礎評価を説明するためのXeエキシマランプと試験片との配置関係を示す斜視図である。
【図2】同実施の形態において、基礎評価の結果を示す、試験片の写真を含む第1の図である。
【図3】同実施の形態において、基礎評価の結果を示す、試験片の写真を含む第2の図である。
【図4】同実施の形態において、基礎評価の結果を示す、試験片の写真を含む第3の図である。
【図5】同実施の形態において、基礎評価の結果を示す、試験片の写真を含む第4の図である。
【図6】同実施の形態において、基礎評価の結果を示す、試験片の写真を含む第5の図である。
【図7】同実施の形態において、脱色のグラデーションを説明するための、Xeエキシマランプとデニム生地との位置関係を示す図である。
【図8】同実施の形態において、実際のジーンズにおける脱色部分を示す第1の図である。
【図9】同実施の形態において、実際のジーンズにおける脱色部分を示す第2の図である。
【図10】同実施の形態において、実際のジーンズの脱色方法の一例を示す斜視図である。
【図11】同実施の形態において、ジーンズにおける皺の部分の脱色を説明するための部分側面図である。
【図12】同実施の形態において、実際のジーンズの脱色方法の他の例を示す斜視図である。
【図13】同実施の形態において、実際のジーンズの脱色方法のさらに他の例を示す斜視図である。
【図14】同実施の形態において、糸の退色方法の一例を示す斜視図である。
【図15】同実施の形態において、顔料によって染色された繊維の脱色評価の結果を示す図である。
【図16】同実施の形態において、反応染色によって染色された繊維の脱色評価の結果を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態2に係る、紫外線レーザによるジーンズの脱色方法の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0054】
2 Xeエキシマランプ、4 試験片、6 ジーンズ、6a〜6d 部分、7 デニム生地、7a 凸状部、7b 凹状部、8,9 マスキング部材、8a,10a 開口、11 糸退色装置、12 筐体、14 石英管、16 糸、20 レーザ発振器、22,26 レーザ光線、24 光学素子。
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維の脱色方法および退色方法に関し、特に、染色された繊維の脱色方法と、生成りの繊維の退色方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
染色された繊維製品の一つとして、ジーンズ等に代表されるデニム生地を使用した繊維製品がある。近年、そのようなジーンズ等においては、染色された状態のままであるよりは、むしろ、長年使用して着古した感覚(中古感)を有しているものが消費者に受け入れられている。ジーンズ等に中古感をもたせるために、あらかじめ、ジーンズ等には脱色処理が施される。より自然な中古感を醸し出すために、繊維製品に対して様々な脱色方法が提案されている。
【0003】
従来、ストーンウォッシュ法、サンドペーパおよびグラインド法、サンドブラスト法等と称される、脱色させたい繊維製品の部分を物理的に擦り取る手法がある。ところが、これらの物理的に繊維製品を脱色する手法では、脱色後に繊維に入り込んだ石等を除去するのに手間を要するという問題があった。
【0004】
そこで、そのような問題点を解消する脱色方法として、電解槽の所定の薬液にジーンズ等を浸漬することにより、繊維製品を化学的に脱色する手法が提案されている。なお、このような薬液による繊維製品の脱色方法を開示した文献の例として、特許文献1〜3がある。
【特許文献1】特開平11−36173号公報
【特許文献2】特開平10−226957号公報
【特許文献3】特開2003−306879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、薬液によって繊維製品を化学的に脱色する手法では、環境に配慮して使用した薬液の処理に手間を要するという問題があった。また、繊維製品をより自然な中古感にするのが難しいという問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、一つの目的は、環境に配慮するとともに、より自然な脱色を行うことのできる繊維の脱色方法を提供することであり、他の目的は、生成りの繊維の退色方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る繊維の脱色方法は、染色された繊維に対して、紫外領域の所定の光を照射する工程を備えている。
【0008】
この繊維の脱色方法によれば、紫外線により色素が分解されて、環境に配慮した繊維の脱色を行うことができる。
【0009】
その染色された繊維としては、具体的には、染料としてインディゴにより染色されたデニム生地を含んでいることが好ましい。これにより、デニム生地を使用したジーンズに代表される繊維製品の脱色を容易に行うことができる。
【0010】
また、所定の光の光源として、具体的には、紫外線ランプまたは紫外線レーザ発振器を用いることが好ましい。
【0011】
特に、紫外線ランプを用いることで、脱色のグラデーションが容易に得られて、繊維のより自然な中古感を醸し出すことができる。
【0012】
また、光源として紫外線レーザ発振器を用いる場合には、紫外線レーザ発振器と繊維との間に、紫外線レーザ発振器から発せられるレーザ光線の光束を広げる所定の光学素子を配置することが好ましい。そのような光学素子を配置することで、脱色のグラデーションを容易に得ることができる。
【0013】
本発明に係る繊維の退色方法は、繊維に対して、紫外領域の所定の光を照射する工程を備えている。
【0014】
この繊維の退色方法によれば、紫外線により繊維の成分が分解されて、環境に配慮した繊維の退色を行うことができる。
【0015】
具体的には、繊維として、生成りの繊維を含むことが好ましい。生成りの繊維を退色することで、繊維製品を製造した時点で自然な中古感をもたせることができる。
【0016】
また、所定の光の光源として、具体的には、紫外線ランプまたは紫外線レーザ発振器を用いることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施の形態1
(基礎評価)
はじめに、紫外線を使用した繊維製品の脱色方法の基礎評価として、紫外線ランプによる繊維製品の試験片の脱色評価とその結果について説明する。
【0018】
図1に示すように、まず、繊維製品の試験片4として、大きさ約130mm×50mm程度の藍色のデニム生地を用意した。また、そのデニム生地として、未加工のもの(試験片A)、ワンウォッシュ加工を施したもの(試験片B)、ワンウォッシュ加工に中性バイオ加工を10分間施したもの(試験片C)、ワンウォッシュ加工にバイオストーン加工を5分間施したもの(試験片D)、ワンウォッシュ加工にバイオストーン加工を10分間施したもの(試験片E)をそれぞれ用意した。
【0019】
なお、ワンウォッシュ加工とは、所定の洗濯機にて、湯洗い(70℃×5分)および水洗(3分)を行って、乾燥を行う加工である。中性バイオ加工とは、所定の洗濯機にて、バイオ酵素洗い(50℃×10分)および水洗(2分)を行って、乾燥を行う加工である。バイオストーン加工とは、所定の洗濯機に石を入れて、バイオ酵素洗い(50℃×5分または50℃×10分)および水洗(2分)を行って、乾燥を行う加工である。
【0020】
そして、紫外線ランプとして、Xeエキシマランプ(波長172nm)2を用意し、試験片4のデニム生地に対して、5本のXeエキシマランプ2を所定の位置に配置した。Xeエキシマランプ2と試験片4との距離Hを約3mmとし、互いに隣接するXeエキシマランプ2とXeエキシマランプ2との隙間Lを約10mmとした。なお、Xeエキシマランプ2の幅Dは約17mmとされる。
【0021】
そのXeエキシマランプ2の電源をオンして、それぞれの試験片A〜Eに対して、Xeエキシマランプ2による紫外線の照射を開始した。紫外線の照射を始めてから30分経過後、1時間経過後および2時間経過後の試験片A〜Eのそれぞれの脱色の程度を評価した。その試験片A〜Eの結果を図2〜図6にそれぞれ示す。なお、図2〜図6では、比較のために、紫外線を照射する前の試験片の状態の写真も併せて示されている。
【0022】
図2〜図6に示すように、紫外線の照射を開始してから約30分が経過すると、試験片の脱色が始まることがわかった。そして、紫外線の照射を開始してから約2時間が経過すると、Xeエキシマランプ2の直下に位置する試験片4の部分では、藍色の青みがほとんどなくなって、脱色されていることが確認された。また、このとき、紫外線を照射する前の試験片と比べて、試験片の裏側(裏地)では、染色されていない生成りの糸が退色(褪色)しているのが認められた。つまり、デニム生地の裏地の色が、淡い黄色に若干変化しているのが認められた。
【0023】
(脱色のメカニズム)
紫外線を照射する時間とともに、試験片(デニム生地)の脱色が促進されるのは、次の有機物分解作用と酸化分解作用との2つの作用が考えられる。まず、試験片のデニム生地は、染色された縦糸と染色されていない生成りの横糸とを綾織にしたものであり、縦糸の染料として、インディゴが使用されている。そのインディゴは、次の構造式によって表される。
【0024】
【化1】
【0025】
一般に、炭素と炭素の二重結合(C=C)の結合エネルギーは約606kJ/mol(約145kcal/mol)であるのに対して、波長172nmの紫外線の有するエネルギーは約695kJ/mol(約166.2kcal/mol)であり、紫外線の有するエネルギーが炭素と炭素の二重結合の結合エネルギーよりも高い。そのため、デニム生地に紫外線が照射されると、紫外線の有するエネルギーによって、炭素と炭素の二重結合が切られることになる。その結果、インディゴが分解されて、脱色が促進される考えられる(有機物分解作用)。紫外線によって、インディゴでは上記構造式の中央の二重結合が切断されると考えられる。
【0026】
また、大気中で波長220nm以下の光を照射すると、光路中の空気に含まれる水蒸気がその光のエネルギーによって活性化されて、オゾンや活性酸素が発生する。そのため、デニム生地に紫外線を照射すると、デニム生地の近傍でオゾンや活性酸素が発生することになる。その結果、発生したオゾンや活性酸素によってインディゴが酸化分解されて、脱色が促進されると考えられる(酸化分解作用)。特に、デニム生地の近傍において、水蒸気、あるいは、霧をあらかじめ発生させておいた状態でデニム生地に紫外線を照射することで、より多くの水蒸気等が活性化されて、オゾンや活性酸素を効率的に発生さることができる。
【0027】
こうして、有機物分解作用あるいは酸化分解作用により分解されたインディゴは、炭素と炭素の二重結合が切れた状態で繊維製品に残ると考えられる。したがって、紫外線によって繊維製品の脱色では、薬液等によって繊維製品を脱色する場合と比べて、脱色を行った後の薬液(廃液)の処理等を行う必要がなくなり、環境に配慮した脱色を行うことができる。すなわち、環境に対してやさしい脱色を行うことができる。
【0028】
また、図7に示すように、1つのXeエキシマランプ2に注目すると、試験片4では、そのXeエキシマランプ2の直下に位置する試験片4の部分とXeエキシマランプ2との距離r0が最も短くなる。そして、その試験片4の直下の部分から離れるにしたがって、Xeエキシマランプ2と試験片4との距離ri(i=1,2,3…)は長くなる。そのため、試験片4に実際の照射される紫外線の強度は、Xeエキシマランプ2の直下に位置する試験片4の部分が最も強く(強度I0)、その試験片4の直下の部分から離れるにしたがって、紫外線の強度は徐々に弱くなる(強度Ii)。
【0029】
これにより、Xeエキシマランプ2の直下に位置する試験片4の部分が最も強く脱色されて、その試験片4の直下の部分から離れるにしたがって脱色の程度は弱くなる。その結果、試験片(繊維製品)に紫外線を1回だけ照射することによって、脱色の自然なグラデーションを醸し出すことができる。
【0030】
(実際の繊維製品の脱色)
次に、実際の繊維製品の一例としてジーンズを挙げて、その脱色方法について具体的に説明する。自然に使い古されたジーンズでは、よく擦れる部分が脱色しやすくなる。図8に示すように、ジーンズ6の前側では、大腿部の付け根部分の曲げ伸ばしによって皺ができる部分6aや、大腿部から膝にかけての部分6bが脱色しやすくなる。一方、図9に示すように、ジーンズ6の後側では、ヒップの部分6cや、膝の曲げ伸ばしによって皺ができる部分6dが脱色しやすくなる。
【0031】
そこで、まず、ジーンズの皺に対応した凹凸を有する型をジーンズに装着する。型を装着してジーンズに凹凸(皺)を生じさせた状態で、図10に示すように、Xeエキシマランプ2をジーンズ6に対して所定の位置(高さ)で走査させる。このとき、図11に示すように、ジーンズ6のデニム生地7が凸状部7aとなっている部分では、Xeエキシマランプ2とデニム生地7とが相対的に近づくことで、紫外線の強度が相対的に強くなり、脱色が促進されることになる。一方、デニム生地7が凹状部7bとなっている部分では、Xeエキシマランプ2とデニム生地7とが相対的に遠ざかることで、紫外線の強度が相対的に弱くなり、脱色の促進の程度は弱められることになる。
【0032】
また、デニム生地6の凸状部7aから凹状部7bにかけての部分(領域)では、Xeエキシマランプ2とデニム生地7との距離が徐々に変化することで、上述したように、脱色のグラデーションが得られることになる。こうして、ジーンズ6に対して実際の皺に対応した自然な脱色をXeエキシマランプ2の走査によって行うことができる。
【0033】
紫外線の照射条件としては、上述した基礎評価によって得られた結果等を踏まえ、そして、ユーザーのニーズに応じた所望の脱色が行われるように、Xeエキシマランプの配置、照射時間、強度等が決められることになる。
【0034】
なお、上述した脱色方法の他に、所定のマスキング部材を用いて紫外線を照射することによってジーンズを脱色してもよい。たとえば、図12に示すように、まず、皺の凸状部に対応した開口8aが形成されたマスキング部材8を用意する。次に、そのマスキング部材8をジーンズ6に対して皺に対応した所定の位置に配置する。そして、その状態でXeエキシマランプ2を走査させることにより、開口8aを通り抜けた紫外線によってジーンズ6の皺の凸状に対応する部分が脱色されることになる。
【0035】
さらに、図13に示すように、マスキング部材として、皺の凸状部に対応した開口10aに加えて、大腿部から膝にかけての部分に対応した開口10bが形成されたマスキング部材10を用意して、Xeエキシマランプ2を走査させてもよい。この場合には、開口10bを通り抜けた紫外線によって、ジーンズ6の大腿部から膝にかけての部分が脱色されることになる。
【0036】
(糸の脱色・退色)
基礎評価の項において、試験片のデニム生地の裏地では、染色されていない生成りの糸が退色しているのが認められたことを述べた。ここでは、糸自体の退色(褪色)方法について説明する。
【0037】
上述したように、デニム生地は、インディゴにより染色された縦糸と染色されていない生成りの横糸とを綾織にしたもので、素材は綿である。すなわち、デニム生地は植物性繊維の縦糸と横糸から形成されている。紫外線を照射することによって生成りの横糸が退色するのは、植物性繊維を構成する有機物が分解されるためであると考えられる。
【0038】
そこで、その知見に基づいて糸を退色させる手法の一例について説明する。図14に糸の退色装置11を示す。退色装置11では、所定の筐体12に、糸16が挿通される石英管14が設けられている。その石英管14の上方と下方とに、それぞれXeエキシマランプ2が複数取り付けられている。
【0039】
石英管14に糸16を挿通して、Xeエキシマランプ2を点灯し、一方から他方へ糸16を引っ張りながらXeエキシマランプ2から発せられる紫外線を所定の時間糸16に照射することで、糸16を構成する有機物が分解されて糸16が退色(褪色)する。照射条件は、糸16を構成する有機物の性質および退色の程度を考慮して適切な条件が設定される。
【0040】
こうして、生成りの糸を退色させ、その退色した糸を使用して繊維製品を製造することで、製造された時点で繊維製品に自然な中古感をもたせることができる。なお、上述した糸の退色装置11では、生成りの糸の他に、染色された糸の脱色や退色にも使用することができる。
【0041】
(顔料の脱色)
繊維製品では、顔料によって染色された繊維製品がある。顔料は、水に対して不溶で、繊維に対して親和性を有していない色素である。そのため、顔料は、繊維の内部には拡散せず、繊維の表面に物理的に付着した状態でバインダーと称される樹脂成分によって繊維の表面に固定されることになる。ここでは、そのような顔料によって染色された繊維製品の一つについて行った、Xeエキシマランプによる脱色評価とその結果について説明する。
【0042】
まず、顔料によって染色された試験片として、ピンクベージュに染色された生地を用意し、前述した基礎評価の場合とほぼ同じ条件のもとで、Xeエキシマランプにて紫外線を生地に照射した。その試験片の結果を図15に示す。なお、図15では、比較のために、紫外線を照射する前の試験片の状態の写真と、照射した後の試験片の状態の写真に基づいたイメージ図も併せて示されている。
【0043】
図15に示すように、紫外線を約5分間照射した後では、Xeエキシマランプの位置に対応して試験片が部分的に脱色していることが確認された。また、試験片として、ピンクベージュに染色された試験片の他に、グレーやベージュに染色された試験片について、同様の評価をそれぞれ行ったところ、紫外線が照射された部分では脱色が進んでいることが確認された。顔料の脱色も、染料の脱色と同様に、顔料を構成する物質の特定の化学結合が紫外線によって切られると考えられる。
【0044】
(反応染色の脱色)
また、繊維製品では、反応染色によって染色された繊維製品がある。反応染色とは、糸の繊維と染料とを化学反応させて、染料を繊維に化学結合させることにより、糸を発色させる染色法の一種である。ここでは、そのような反応染色によって染色された繊維製品の一つについて行った、Xeエキシマランプによる脱色評価とその結果について説明する。
【0045】
まず、反応染色によって染色された試験片として、ピンクに染色された生地を用意し、前述した基礎評価の場合とほぼ同じ条件のもとで、Xeエキシマランプにて紫外線を生地に照射した。特に、この場合、生地の下部約4分の1を他の生地でマスクした状態で照射した。その試験片の結果を図16に示す。なお、図16では、比較のために、紫外線を照射する前の試験片の状態の写真と、照射した後の試験片の状態の写真に基づいたイメージ図も併せて示されている。
【0046】
図16に示すように、紫外線を約5分間照射した後では、Xeエキシマランプの位置に対応して試験片が部分的に脱色していることが確認された。また、試験片として、ピンクに染色された試験片の他に、グリーンに染色された試験片について、同様の評価を行ったところ、紫外線が照射された部分では脱色が進んでいることが確認された。反応染色の脱色は、繊維と染料との化学結合が紫外線によって切られると考えられる。
【0047】
なお、上述した実施の形態では、紫外線ランプとして、波長172nmのXeエキシマランプを例に挙げて説明した。紫外線ランプとしては、波長約220nm以下の光を発すことができる光源が好ましい。すなわち、光源としては、色素をなす物質の化学結合エネルギーよりも高いエネルギーの波長の光、あるいは、水蒸気等を活性化させてオゾンや活性酸素を発生させるエネルギーよりも高いエネルギーの波長の光を発することができる光源であれば、Xeエキシマランプに限られない。
【0048】
実施の形態2
前述した実施の形態では、紫外線を発する光源としてXeエキシマランプ(紫外線ランプ)を例に挙げて説明した。ここでは、紫外線レーザ発振器による繊維製品の脱色方法について説明する。
【0049】
レーザ光線は、波長と位相の揃ったコヒーレント(coherent)な光である。そのため、レーザ光線を繊維製品に直接照射した場合には、レーザ光線を照射した部分と照射していない部分とで、脱色の程度の差がはっきりし過ぎて、自然な中古感に見られる脱色のグラデーションを得るのが困難になる。
【0050】
そこで、図17に示すように、光源として紫外線レーザ発振器を適用する場合には、紫外線レーザ発振器20と繊維製品(ジーンズ6)との間に、紫外線レーザ発信器から発せられるレーザ光線20の光束を広げる光学素子24を配設する。そのような光学素子24としては、たとえば、石英から形成されたレンズ態様の光学素子が考えられる。また、中心から外周へ向って紫外線の透過率が徐々に小さくなる光学素子が考えられる。
【0051】
そのような光学素子24をレーザ光線22の光路に配設してレーザ光線の光束を徐々に広げることで、繊維製品に照射されるレーザ光の強度に分布が生じ、脱色のより自然なグラデーションを得ることができる。
【0052】
今回開示された実施の形態は例示であってこれに制限されるものではない。本発明は上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態1に係る繊維製品の脱色方法において、基礎評価を説明するためのXeエキシマランプと試験片との配置関係を示す斜視図である。
【図2】同実施の形態において、基礎評価の結果を示す、試験片の写真を含む第1の図である。
【図3】同実施の形態において、基礎評価の結果を示す、試験片の写真を含む第2の図である。
【図4】同実施の形態において、基礎評価の結果を示す、試験片の写真を含む第3の図である。
【図5】同実施の形態において、基礎評価の結果を示す、試験片の写真を含む第4の図である。
【図6】同実施の形態において、基礎評価の結果を示す、試験片の写真を含む第5の図である。
【図7】同実施の形態において、脱色のグラデーションを説明するための、Xeエキシマランプとデニム生地との位置関係を示す図である。
【図8】同実施の形態において、実際のジーンズにおける脱色部分を示す第1の図である。
【図9】同実施の形態において、実際のジーンズにおける脱色部分を示す第2の図である。
【図10】同実施の形態において、実際のジーンズの脱色方法の一例を示す斜視図である。
【図11】同実施の形態において、ジーンズにおける皺の部分の脱色を説明するための部分側面図である。
【図12】同実施の形態において、実際のジーンズの脱色方法の他の例を示す斜視図である。
【図13】同実施の形態において、実際のジーンズの脱色方法のさらに他の例を示す斜視図である。
【図14】同実施の形態において、糸の退色方法の一例を示す斜視図である。
【図15】同実施の形態において、顔料によって染色された繊維の脱色評価の結果を示す図である。
【図16】同実施の形態において、反応染色によって染色された繊維の脱色評価の結果を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態2に係る、紫外線レーザによるジーンズの脱色方法の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0054】
2 Xeエキシマランプ、4 試験片、6 ジーンズ、6a〜6d 部分、7 デニム生地、7a 凸状部、7b 凹状部、8,9 マスキング部材、8a,10a 開口、11 糸退色装置、12 筐体、14 石英管、16 糸、20 レーザ発振器、22,26 レーザ光線、24 光学素子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色された繊維に対して、紫外領域の所定の光を照射する工程を備えた、繊維の脱色方法。
【請求項2】
前記染色された繊維は、前記染料としてインディゴにより染色されたデニム生地を含む、請求項1記載の繊維の脱色方法。
【請求項3】
前記所定の光の光源として、紫外線ランプまたは紫外線レーザ発振器を用いる、請求項1または2に記載の繊維の脱色方法。
【請求項4】
前記光源として紫外線レーザ発振器を用い、
前記紫外線レーザ発振器と前記繊維との間に、前記紫外線レーザ発振器から発せられるレーザ光線の光束を広げる所定の光学素子を配置した、請求項3記載の繊維の脱色方法。
【請求項5】
繊維に対して、紫外領域の所定の光を照射する工程を備えた、繊維の退色方法。
【請求項6】
前記繊維は生成りの繊維を含む、請求項5記載の繊維の退色方法。
【請求項7】
前記所定の光の光源として、紫外線ランプまたは紫外線レーザ発振器を用いる、請求項5または6に記載の繊維の退色方法。
【請求項1】
染色された繊維に対して、紫外領域の所定の光を照射する工程を備えた、繊維の脱色方法。
【請求項2】
前記染色された繊維は、前記染料としてインディゴにより染色されたデニム生地を含む、請求項1記載の繊維の脱色方法。
【請求項3】
前記所定の光の光源として、紫外線ランプまたは紫外線レーザ発振器を用いる、請求項1または2に記載の繊維の脱色方法。
【請求項4】
前記光源として紫外線レーザ発振器を用い、
前記紫外線レーザ発振器と前記繊維との間に、前記紫外線レーザ発振器から発せられるレーザ光線の光束を広げる所定の光学素子を配置した、請求項3記載の繊維の脱色方法。
【請求項5】
繊維に対して、紫外領域の所定の光を照射する工程を備えた、繊維の退色方法。
【請求項6】
前記繊維は生成りの繊維を含む、請求項5記載の繊維の退色方法。
【請求項7】
前記所定の光の光源として、紫外線ランプまたは紫外線レーザ発振器を用いる、請求項5または6に記載の繊維の退色方法。
【図1】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図15】
【図16】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−91701(P2009−91701A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265469(P2007−265469)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(596140900)株式会社仁多産業 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(596140900)株式会社仁多産業 (2)
【Fターム(参考)】
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