繊維パネルの製造方法
【課題】開口セル格子と、連続的な平板と、フランジとが一体的に形成された構造の繊維パネルを安価にかつ容易に製造できる方法を提案すること。
【解決手段】多孔性キャリアの板面に複数のエラストマーパッドを幾何学的に配置固定した第1の成形型枠を用い、該第1の成形型枠上に繊維含有スラリーを打設し、該打設した繊維含有スラリーを、前記第1の成形型枠の上下方向からのプレスによって脱水して脱水ケーキとすると共に、開口セル格子と、連続的な平板と、フランジとを一体的に有する脱水ケーキの成形品に形成する脱水成形工程と、前記脱水ケーキの成形品を、前記第1の成形型枠から離型してキャリアの板面に複数のハードパッドを幾何学的に配置固定した第2の成形型枠に移し、該第2の成形型枠の上下方向からの加熱下におけるプレスによって乾燥硬化させる乾燥硬化工程とからなる繊維パネルの製造方法とした。
【解決手段】多孔性キャリアの板面に複数のエラストマーパッドを幾何学的に配置固定した第1の成形型枠を用い、該第1の成形型枠上に繊維含有スラリーを打設し、該打設した繊維含有スラリーを、前記第1の成形型枠の上下方向からのプレスによって脱水して脱水ケーキとすると共に、開口セル格子と、連続的な平板と、フランジとを一体的に有する脱水ケーキの成形品に形成する脱水成形工程と、前記脱水ケーキの成形品を、前記第1の成形型枠から離型してキャリアの板面に複数のハードパッドを幾何学的に配置固定した第2の成形型枠に移し、該第2の成形型枠の上下方向からの加熱下におけるプレスによって乾燥硬化させる乾燥硬化工程とからなる繊維パネルの製造方法とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維パネルの製造方法に関し、特に、複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとを含み、前記格子と前記平板と前記フランジとが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開平9−195440号公報に、開口セル格子を有する成形圧縮外皮構造繊維パネルの製造方法が開示されている。
かかる製造方法の概略は、図9に示したように、概ね次の如くである。
【0003】
先ず、例えば木材繊維、再生紙等の原料Aを強力な攪拌力によりパルプ化し、繊維含有スラリーSとする〔図9(a)参照〕。
続いて、該スラリーSを成形型枠50上に打設し、型枠の下面からの吸引及び/又は型枠の上下面からのプレス(プリプレス)により脱水し、繊維含有スラリーSの水分濃度を下げて脱水ケーキKとする〔図9(b)参照〕。
続いて、成形型枠50をそのままホットプレス60に搬送し、加熱下において型枠に対して垂直方向の圧力を加えることにより、脱水ケーキKを加熱圧縮成形する〔図9(c)参照〕。
成形が完了した後、成形型枠50とともに成形品Xをホットプレス60から取り出し、成形品Xを成形型枠50から脱型する〔図9(d)参照〕。
【0004】
ここで、上記開口セル格子を有する繊維パネルの製造に使用されている上記成形型枠50を詳細に説明すると、図10に示したように、ある程度の剛性を有する矩形の板体に複数の水抜き用の貫通孔51を形成した多孔性キャリア52と、該多孔性キャリア52の周囲板面に添設された多孔性キャリア52の補強を兼ねた帯状のプレスストッパー53と、前記多孔性キャリア52の板面に幾何学的に配置固定された横断面六角形の側面視台形形状の複数のエラストマーパッド54とから構成されたものである。
【0005】
そして、上記構造の成形型枠50を使用することにより、吸引或いは圧縮時等において原料中の水分は多孔性キャリア52の板面に穿設された上記貫通孔51を介して外部に流れ出すことができ、また図11に示したように、エラストマーパッド54がホットプレス60による加熱下におけるプレス時に縦方向に縮み、同時に横方向に広がることから、パッド54間に充填された原料繊維Kに垂直方向のみならず平行な方向にも圧力が加わり、図12に示したような、複数のリブ81により構成される開口セル格子82と、該開口セル格子82の一方の開口部を覆う連続的な平板83と、他方の開口部の一部を覆うフランジ84とが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネル80を成形することができる。
【0006】
かかる構造の繊維パネル80は、一体成形されたフランジ84の存在により、開口セル格子82を画成するリブ81が補強され、剛性の高いパネルとなるとともに、該パネルを単独で使用することも可能であるが、二枚以上を貼り合わせて多層の板体とする場合等には、両者の接着面積を増大させることができるなどの効果を奏し、軽量でかつ剛性の高いパネルとなる。
【0007】
【特許文献1】特開平9−195440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながらここで、上記構造の成形型枠50を使用した繊維パネルの製造方法にあっては、その繰り返し使用、特に、ホットプレス60による加熱圧縮成形工程における成形型枠50の繰り返し使用によって、多孔性キャリア52の板面に幾何学的に配置固定された上記エラストマーパッド54が多孔性キャリア52の板面から剥離することが生じ、成形型枠の寿命が短いと言う課題があった。
また、多孔性キャリア52の板面に穿設された水抜き用の貫通孔51に原料繊維が強固にこびりつき、成形型枠50の洗浄を頻繁にかつ長時間かけて強い水圧で行う必要があったとともに、その洗浄時における水圧によってエラストマーパッド54が多孔性キャリア52の板面から剥離することも度々生じていた。
更には、ゴム弾性を有するエラストマーパッド54は一般的に熱伝導率が低く、ホットプレス60による加熱圧縮成形工程において該エラストマーパッド54を介して原料繊維に熱が伝わり難く、効率的な加熱乾燥ができないと言う課題もあった。
上記のようなことから、従来の開口セル格子を有する繊維パネルは、その製造原価が高いものとなっていた。
【0009】
本発明は、上述した背景技術が有する課題に鑑み成されたものであって、その目的は、複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとが緻密な圧縮繊維により一体成形された構造の繊維パネルを、安価にかつ容易に製造できる新規な繊維パネルの製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ゴム弾性を有するエラストマーパッドを使用した成形型枠と、硬質で変形し難いハードパッドを使用した成形型枠とを工程に応じて使い分けることによって、成形型枠の寿命を飛躍的に向上でき、かつ強度的にも遜色のない開口セル格子を有する繊維パネルを製造し得ることを見い出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、次の〔1〕乃至〔11〕の繊維パネルの製造方法及び繊維パネルである。
〔1〕 複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネルを製造する方法であって、多孔性キャリアの板面に複数のエラストマーパッドを幾何学的に配置固定した第1の成形型枠を用い、該第1の成形型枠上に繊維含有スラリーを打設し、該打設した繊維含有スラリーを、前記第1の成形型枠の上下方向からのプレスによって脱水して脱水ケーキとするとともに、前記エラストマーパッドを扁平に変形させて複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとを一体的に有する脱水ケーキの成形品に形成する脱水成形工程と、該脱水成形工程に続いて、前記脱水ケーキの成形品を、前記第1の成形型枠から離型してキャリアの板面に複数のハードパッドを幾何学的に配置固定した第2の成形型枠に移し、該第2の成形型枠の上下方向からの加熱下におけるプレスによって前記脱水ケーキの成形品を乾燥硬化させる乾燥硬化工程とからなることを特徴とする、繊維パネルの製造方法。
〔2〕 上記第1の成形型枠を用いた脱水成形工程において、繊維含有スラリーを、水分濃度60%以下の脱水ケーキの成形品とすることを特徴とする、上記〔1〕に記載の繊維パネルの製造方法。
〔3〕 上記第2の成形型枠を用いた乾燥硬化工程において、脱水ケーキの成形品を、水分濃度10%以下の繊維パネルとすることを特徴とする、上記〔1〕又は〔2〕に記載の繊維パネルの製造方法。
〔4〕 上記繊維が、木繊維、セルロース繊維等の天然繊維と、プラスチック繊維、ロックウール、グラスファイバー等の合成繊維と、それらの混合物とからなる群より選ばれたものであることを特徴とする、上記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
〔5〕 上記エラストマーパッドが、シリコンゴムよりなることを特徴とする、上記〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
〔6〕 上記エラストマーパッドが、実質的に横断面六角形の側面視台形形状であることを特徴とする、上記〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
〔7〕 上記エラストマーパッドが、上下方向からプレスされた際に、該パッドの中間部は外側に弓なりに拡大するが、底部は外側に拡大しないように上記多孔性キャリアに固定されていることを特徴とする、上記〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
〔8〕 上記ハードパッドが、アルミニウムよりなることを特徴とする、上記〔1〕乃至〔7〕のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
〔9〕 上記ハードパッドが、実質的に横断面六角形の側面視台形形状であり、底面の形状寸法が上記エラストマーパッドの底面の形状寸法と略同一であり、高さが上記エラストマーパッドの扁平に変形させられた時の高さと略同一であることを特徴とする、上記〔6〕に記載の繊維パネルの製造方法。
〔10〕 上記ハードパッドの表面に、テフロン(登録商標)加工が施されていることを特徴とする、上記〔1〕乃至〔9〕のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
〔11〕 上記〔1〕乃至〔10〕のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする、複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネル。
【発明の効果】
【0012】
上記した本発明にかかる繊維パネルの製造方法によれば、エラストマーパッドを使用した第1の成形型枠は原料繊維の脱水成形工程において用い、過酷な条件となる乾燥硬化工程においてはハードパッドを使用した第2の成形型枠を用いることとしたため、成形型枠の寿命が飛躍的に向上するとともに、成形型枠の洗浄が容易なものとなり、乾燥硬化工程における加熱も効率的に行うことができるため、複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとが緻密な圧縮繊維により一体成形された構造の繊維パネルを、安価にかつ容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、上記した本発明にかかる繊維パネルの製造方法及び繊維パネルの実施の形態を、詳細に説明する。
【0014】
本発明で使用する第1の成形型枠は、従来と同様のものが使用できる。すなわち、図1に示したように、多孔性キャリア52と、その板面に幾何学的に配置固定された複数のエラストマーパッド54とから構成された型枠50を用いることができる。エラストマーパッド54と多孔性キャリア52との固定方法は、特には限定されないが、本実施例においては、型に入った未固化状態のエラストマーに、プライマーを塗布した多孔性キャリア52を押し当てて、固化した後に、多孔性キャリア52とエラストマーバッド54が一体となるようにしている。この型枠50のエラストマーパッド54の各々は、図1に鎖線で示したように、該パッドが上下方向からプレスされた際に、その中心が外方に膨出して扁平に変形し、パッド間に充填された繊維を圧縮すると同時に、パッドの上及び拡大したパッドの下に位置する繊維をも圧縮できるような所定のサイズ及び形状を呈している。
【0015】
上記多孔性キャリア52は、通常矩形の金属製板に、複数の貫通孔51を穿設した構造のもので、その周囲板面には、図10に示したように補強を兼ねて帯状のプレスストッパー53が添設されている。なお、この多孔性キャリア52は、一枚の板体により構成されていても、また複数枚の板体を重ね合わせて構成されていてもよい。また、上記エラストマーパッド54は、十分な弾性を有する材料で形成されており、例えばシリコンゴム、クロロプレンゴムなどを含む、各種の合成ゴムを用いて形成することができるが、中でもシリコンゴムが耐久性及び弾性を考慮した場合に特に優れている。そして、このエラストマーパッド54を、図10において拡大して示したように、横断面六角形の側面視台形形状とすることにより、製造される繊維パネル80の開口セル格子82を、図12に示したように六角形とすることが可能となる。
【0016】
一方、本発明で使用する第2の成形型枠は、図2に示したように、無孔のキャリア1と、その板面に幾何学的に配置固定された複数のハードパッド2とから構成された型枠10である。この型枠10のハードパッド2の各々は、その底面の形状寸法が上記エラストマーパッド54の底面の形状寸法と略同一に形成され、高さが上記エラストマーパッド54が扁平に変形させられた時の高さと略同一に形成されている。そして、該形状のハードパッド2が、キャリア1の板面に、上記エラストマーパッド54の配置と同一の幾何学的な配置によって固定されている。ハードパッド2とキャリア1との固定方法は、特には限定されないが、本実施例においては、図2及び図3に示したように構成されている。すなわち、ハードパッド2の底面に六角形の位置決め部2aが突設され、該位置決め部2aの中心に雌ねじ穴3が形成されている。一方、キャリア1のハードパッド2の取付け部位には、前記ハードパッド2の位置決め部2aより僅かに大きな六角形の位置決め穴1aが形成されている。そして、前記ハードパッド2の位置決め部2aをキャリア1の位置決め穴1aに挿通し、位置決め部2aの中心に形成された雌ねじ穴3に、皿ねじ4を座金5を介して螺合することによって、ハードパッド2とキャリア1とが固定されている。
【0017】
上記キャリア1は、通常矩形の金属製板により形成され、その周囲板面には、上記第1の成形型枠50と同様に、補強を兼ねて帯状のプレスストッパー(図示せず)が添設されている。また、上記ハードパッド2は、剛性を有する材料で形成されており、例えば合成樹脂、金属などを用いて形成することができるが、中でもアルミニウムで形成することが、加工性に優れるとともに軽量であり、熱伝導も良好であるために特に好ましく、その表面には、離型性を向上させるための表面加工、特にテフロン(登録商標)加工が施されていることが好ましい。そして、このハードパッド2を、図2及び図3に示したように、横断面六角形の側面視台形形状とすることにより、製造される繊維パネル80の開口セル格子82を、図12に示したように六角形とすることが可能となる。
【0018】
本発明にかかる製造方法においては、先ず上記第1の成形型枠50上に繊維含有スラリーSを打設する。この繊維含有スラリーSに使用される繊維としては、木材繊維、再生紙及び再生木材製品等のセルロース材料から得られる天然繊維、あるいは、種々のプラスチック、ファイバーグラス等の合成繊維及び鉱物繊維等を含む非セルロース材料からなるものが挙げられる。またセルロースであろうと非セルロースであろうと、様々な繊維の混合物を本パネルの製造方法に使用することができる。繊維含有スラリーSの打設工程は、例えば木材繊維、再生紙等の原料を強力な攬拌力によりパルプ化し、水分濃度99%程度の繊維含有スラリーSに調整した後、該繊維含有スラリーSを、重力の作用のみによって型枠50上に打設するものであってもよく、また、型枠50の下面から吸引しながら繊維含有スラリーSを型枠50上に打設する方法を採用してもよい。
【0019】
続いて、上記型枠50上に打設された繊維含有スラリーSを、脱水するとともに成形する。この脱水成形工程は、図4及び図5に示したように、打設した繊維含有スラリーSを、型枠50の上下方向からのプレスによって行う。図4は、図中の白抜き矢印で示されるように、可動上部プレス型20を用いるプレス工程の初期の段階を示している。この工程の際、エラストマーパッド54は、上部プレス型20が多孔性キャリア52に向かって移動するとき、それにより加えられる垂直圧力に応答して変形する。このエラストマーパッド54の変形は、次のようなメカニズムによる。先ず、多孔性キャリア52上に置かれたエラストマーパッド54に、上部プレス型20による垂直方向の圧力が堆積した繊維含有スラリーSを介して加えられる。すると、エラストマーパッド54は、もとの台形形状の縦断面形状から、図5に示すような扁平な縦断面形状に変形する。すなわち、エラストマーパッド54の底部は、多孔性キャリア52に固定されているのでその大きさはさほど変化しない。しかし、エラストマーパッド54の中程の部分は、上方から加えられる圧力によって水平方向に広がる。この拡張作用によって、堆積した繊維含有スラリーSは、上下方向のみではなく、水平方向にも圧密化されることとなる。また図5に見られるように、エラストマーパッド54の基部が中央部分ほど水平方向に広がらない結果、各パッド54の基部の周りの領域において多孔性キャリア52に向かう方向の圧密力が生じ、このパッド54の基部の周りの繊維が多孔性キャリア52との間で圧縮され固められる。この結果、打設した繊維含有スラリーSは、複数のリブ71により構成される開口セル格子72と、該開口セル格子72の一方の開口部を覆う連続的な平板73と、他方の開口部の一部を覆うフランジ74とを一体的に有する脱水ケーキKの成形品に形成される。
【0020】
また、図4及び図5に示されるプレス工程によって、繊維含有スラリーS中の余分な水分は除去され、除去された水分は矢印で示されたように多孔性キャリア52に穿設された貫通孔51を介して外部に排出される。この際、上部プレス型20も多孔性のものを用いた場合には、繊維含有スラリーS中の水分は多孔性キャリア52及び上部プレス型20の双方を介して外部に排出される。上記作用によって型枠50上に打設された繊維含有スラリーSは脱水され、脱水ケーキKとされる。この脱水ケーキKの水分濃度は、この工程において60%以下まで脱水されることが好ましい。これは、60%を越える水分濃度の脱水ケーキKである場合には、形状保持性に劣り、型枠50からの離型時、また搬送時に形状が崩れるおそれがあるために好ましくない。かかる観点及びこの工程における経済性をも考慮した場合、脱水ケーキKの水分濃度は、この工程において50〜55%まで脱水されることが特に好ましい。
【0021】
続いて、上記脱水ケーキKの成形品を、上記第1の成形型枠50から離型し、上記第2の成形型枠10に移す。この際、成形品を吸引機構を有するリフターによって持ち上げ、第1の成形型枠50から離型しようとする際、扁平に変形したエラストマーパッド54は復元し、図6の矢印で示されるように多孔性キャリア52から脱水ケーキKの成形品を分離するための持ち上げ力の一部として作用し、成形品の型枠50からの取外しを容易にする。
【0022】
第2の成形型枠10のハードパッド2は、上記したように、その底面の形状寸法が上記エラストマーパッド54の底面の形状寸法と略同一に形成され、高さが上記エラストマーパッド54が扁平に変形させられた時の高さと略同一に形成され、そして、該形状のハードパッド2が、キャリア1の板面に、上記エラストマーパッド54の配置と同一の幾何学的な配置によって固定されているため、図7に示したように、該第2の成形型枠10に移された脱水ケーキKの成形品は、その開口セル格子72内にハードパッド2が嵌まり込み、ハードパッド2の頂部が平板73に当接し、ハードパッド2の基部がフランジ74に当接する状態で該第2の成形型枠10上に載置される。この状態で、該成形型枠10の上下方向からの加熱下におけるプレスによって、脱水ケーキKの成形品は乾燥硬化される。この乾燥硬化工程は、図8に示したように、プレス用平盤30のプレス面を、ヒーター或いは加熱媒体31により加熱した状態とし、型枠10の上下方向からの伝導伝熱により脱水ケーキKを加熱する構成とするとができる。この乾燥硬化工程において、脱水ケーキKの成形品は、水分濃度10%以下の繊維パネルとされることが好ましい。これは、水分濃度10%以下まで乾燥硬化させれば、形状が安定したものとなり、強度的にも十分な繊維パネルが得られるために好ましい。
【0023】
上記のようにして製造された本発明にかかる繊維パネルは、図12に示したように、複数のリブ81により構成される開口セル格子82と、該開口セル格子82の一方の開口部を覆う連続的な平板83と、他方の開口部の一部を覆うフランジ84とが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネル80となる。
【0024】
かかる構造の繊維パネル80は、一体成形されたフランジ84の存在により、開口セル格子82を画成するリブ81が補強され、剛性の高いパネルとなるとともに、該パネルを単独で使用することも可能であるが、二枚以上を貼り合わせて多層の板体とする場合等には、両者の接着面積を増大させることができるなどの効果を奏し、軽量でかつ剛性の高いパネルとなる。
【0025】
以上、本発明にかかる繊維パネルの製造方法及び繊維パネルの実施の形態を説明したが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の技術的思想の範囲内において、種々の変形及び変更が可能であることは当然である。 例えば、上記実施の形態においては、第1の成形型枠50及び第2の成形型枠10としてバッチ式のものを使用したが、各型枠を構成するキャリアを、ベルト状或いはホイール状のものとすることにより、本発明にかかる各工程を連続的に受けるように可動させたものとしてもよい。
また、第1の成形型枠50を構成するエラストマーパッド54を、上下二層構造の形態で構成し、その場合、パッドの基部を比較的弾性の小さい材料で構成し、残りの部分を弾性がより大きい材料で構成する。このようなパッドの構成は、圧縮されたパッドの下で圧縮により固められる堆積繊維の量を増加させる効果をもたらし、開口セル格子82の一部を覆うフランジ84の厚さ及び強度を増加させることができ、より剛性の高いパネルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかる製造方法において使用する第1の成形型枠の一実施の形態を示した概念的な縦断面図である。
【図2】本発明にかかる製造方法において使用する第2の成形型枠の一実施の形態を示した概念的な縦断面図である。
【図3】図2に示した第2の成形型枠のハードパッドとキャリアとの固定構造を示した分解斜視図である。
【図4】本発明にかかる製造方法において、図1の第1の成形型枠を用いた脱水成形工程の初期の状態を示した概念的な縦断面図である。
【図5】本発明にかかる製造方法において、図1の第1の成形型枠を用いた脱水成形工程の終期の状態を示した概念的な縦断面図である。
【図6】本発明にかかる製造方法において、図1の第1の成形型枠から脱水ケーキの成形品を離型する状態を示した概念的な縦断面図である。
【図7】本発明にかかる製造方法において、図2の第2の成形型枠に脱水ケーキの成形品を移した状態を示した概念的な縦断面図である。
【図8】本発明にかかる製造方法において、図2の第2の成形型枠を用いた乾燥硬化工程の状態を示した概念的な縦断面図である。
【図9】従来の繊維パネルの製造方法を概念的に示した工程図である。
【図10】繊維パネルの製造に使用される型枠を示した概念的な斜視図である。
【図11】従来の加熱圧縮成形工程中におけるエラストマーパッドの状態を示した概念的な縦断面図である。
【図12】成形品である繊維パネルの一部を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 キャリア
1a 位置決め穴
2 ハードパット
2a 位置決め部
3 雌ねじ穴
4 皿ねじ
5 座金
10 第2の成形型枠
20 可動上部プレス型
30 プレス用平盤
31 ヒーター或いは加熱媒体
50 第1の成形型枠
51 貫通孔
52 多孔性キャリア
53 プレスストッパー
54 エラストマーパッド
60 ホットプレス
71,81 リブ
72,82 開口セル格子
73,83 平板
74,84 フランジ
80 繊維パネル
S 繊維含有スラリー
K 脱水ケーキ
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維パネルの製造方法に関し、特に、複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとを含み、前記格子と前記平板と前記フランジとが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開平9−195440号公報に、開口セル格子を有する成形圧縮外皮構造繊維パネルの製造方法が開示されている。
かかる製造方法の概略は、図9に示したように、概ね次の如くである。
【0003】
先ず、例えば木材繊維、再生紙等の原料Aを強力な攪拌力によりパルプ化し、繊維含有スラリーSとする〔図9(a)参照〕。
続いて、該スラリーSを成形型枠50上に打設し、型枠の下面からの吸引及び/又は型枠の上下面からのプレス(プリプレス)により脱水し、繊維含有スラリーSの水分濃度を下げて脱水ケーキKとする〔図9(b)参照〕。
続いて、成形型枠50をそのままホットプレス60に搬送し、加熱下において型枠に対して垂直方向の圧力を加えることにより、脱水ケーキKを加熱圧縮成形する〔図9(c)参照〕。
成形が完了した後、成形型枠50とともに成形品Xをホットプレス60から取り出し、成形品Xを成形型枠50から脱型する〔図9(d)参照〕。
【0004】
ここで、上記開口セル格子を有する繊維パネルの製造に使用されている上記成形型枠50を詳細に説明すると、図10に示したように、ある程度の剛性を有する矩形の板体に複数の水抜き用の貫通孔51を形成した多孔性キャリア52と、該多孔性キャリア52の周囲板面に添設された多孔性キャリア52の補強を兼ねた帯状のプレスストッパー53と、前記多孔性キャリア52の板面に幾何学的に配置固定された横断面六角形の側面視台形形状の複数のエラストマーパッド54とから構成されたものである。
【0005】
そして、上記構造の成形型枠50を使用することにより、吸引或いは圧縮時等において原料中の水分は多孔性キャリア52の板面に穿設された上記貫通孔51を介して外部に流れ出すことができ、また図11に示したように、エラストマーパッド54がホットプレス60による加熱下におけるプレス時に縦方向に縮み、同時に横方向に広がることから、パッド54間に充填された原料繊維Kに垂直方向のみならず平行な方向にも圧力が加わり、図12に示したような、複数のリブ81により構成される開口セル格子82と、該開口セル格子82の一方の開口部を覆う連続的な平板83と、他方の開口部の一部を覆うフランジ84とが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネル80を成形することができる。
【0006】
かかる構造の繊維パネル80は、一体成形されたフランジ84の存在により、開口セル格子82を画成するリブ81が補強され、剛性の高いパネルとなるとともに、該パネルを単独で使用することも可能であるが、二枚以上を貼り合わせて多層の板体とする場合等には、両者の接着面積を増大させることができるなどの効果を奏し、軽量でかつ剛性の高いパネルとなる。
【0007】
【特許文献1】特開平9−195440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながらここで、上記構造の成形型枠50を使用した繊維パネルの製造方法にあっては、その繰り返し使用、特に、ホットプレス60による加熱圧縮成形工程における成形型枠50の繰り返し使用によって、多孔性キャリア52の板面に幾何学的に配置固定された上記エラストマーパッド54が多孔性キャリア52の板面から剥離することが生じ、成形型枠の寿命が短いと言う課題があった。
また、多孔性キャリア52の板面に穿設された水抜き用の貫通孔51に原料繊維が強固にこびりつき、成形型枠50の洗浄を頻繁にかつ長時間かけて強い水圧で行う必要があったとともに、その洗浄時における水圧によってエラストマーパッド54が多孔性キャリア52の板面から剥離することも度々生じていた。
更には、ゴム弾性を有するエラストマーパッド54は一般的に熱伝導率が低く、ホットプレス60による加熱圧縮成形工程において該エラストマーパッド54を介して原料繊維に熱が伝わり難く、効率的な加熱乾燥ができないと言う課題もあった。
上記のようなことから、従来の開口セル格子を有する繊維パネルは、その製造原価が高いものとなっていた。
【0009】
本発明は、上述した背景技術が有する課題に鑑み成されたものであって、その目的は、複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとが緻密な圧縮繊維により一体成形された構造の繊維パネルを、安価にかつ容易に製造できる新規な繊維パネルの製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ゴム弾性を有するエラストマーパッドを使用した成形型枠と、硬質で変形し難いハードパッドを使用した成形型枠とを工程に応じて使い分けることによって、成形型枠の寿命を飛躍的に向上でき、かつ強度的にも遜色のない開口セル格子を有する繊維パネルを製造し得ることを見い出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、次の〔1〕乃至〔11〕の繊維パネルの製造方法及び繊維パネルである。
〔1〕 複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネルを製造する方法であって、多孔性キャリアの板面に複数のエラストマーパッドを幾何学的に配置固定した第1の成形型枠を用い、該第1の成形型枠上に繊維含有スラリーを打設し、該打設した繊維含有スラリーを、前記第1の成形型枠の上下方向からのプレスによって脱水して脱水ケーキとするとともに、前記エラストマーパッドを扁平に変形させて複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとを一体的に有する脱水ケーキの成形品に形成する脱水成形工程と、該脱水成形工程に続いて、前記脱水ケーキの成形品を、前記第1の成形型枠から離型してキャリアの板面に複数のハードパッドを幾何学的に配置固定した第2の成形型枠に移し、該第2の成形型枠の上下方向からの加熱下におけるプレスによって前記脱水ケーキの成形品を乾燥硬化させる乾燥硬化工程とからなることを特徴とする、繊維パネルの製造方法。
〔2〕 上記第1の成形型枠を用いた脱水成形工程において、繊維含有スラリーを、水分濃度60%以下の脱水ケーキの成形品とすることを特徴とする、上記〔1〕に記載の繊維パネルの製造方法。
〔3〕 上記第2の成形型枠を用いた乾燥硬化工程において、脱水ケーキの成形品を、水分濃度10%以下の繊維パネルとすることを特徴とする、上記〔1〕又は〔2〕に記載の繊維パネルの製造方法。
〔4〕 上記繊維が、木繊維、セルロース繊維等の天然繊維と、プラスチック繊維、ロックウール、グラスファイバー等の合成繊維と、それらの混合物とからなる群より選ばれたものであることを特徴とする、上記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
〔5〕 上記エラストマーパッドが、シリコンゴムよりなることを特徴とする、上記〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
〔6〕 上記エラストマーパッドが、実質的に横断面六角形の側面視台形形状であることを特徴とする、上記〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
〔7〕 上記エラストマーパッドが、上下方向からプレスされた際に、該パッドの中間部は外側に弓なりに拡大するが、底部は外側に拡大しないように上記多孔性キャリアに固定されていることを特徴とする、上記〔1〕乃至〔6〕のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
〔8〕 上記ハードパッドが、アルミニウムよりなることを特徴とする、上記〔1〕乃至〔7〕のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
〔9〕 上記ハードパッドが、実質的に横断面六角形の側面視台形形状であり、底面の形状寸法が上記エラストマーパッドの底面の形状寸法と略同一であり、高さが上記エラストマーパッドの扁平に変形させられた時の高さと略同一であることを特徴とする、上記〔6〕に記載の繊維パネルの製造方法。
〔10〕 上記ハードパッドの表面に、テフロン(登録商標)加工が施されていることを特徴とする、上記〔1〕乃至〔9〕のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
〔11〕 上記〔1〕乃至〔10〕のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする、複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネル。
【発明の効果】
【0012】
上記した本発明にかかる繊維パネルの製造方法によれば、エラストマーパッドを使用した第1の成形型枠は原料繊維の脱水成形工程において用い、過酷な条件となる乾燥硬化工程においてはハードパッドを使用した第2の成形型枠を用いることとしたため、成形型枠の寿命が飛躍的に向上するとともに、成形型枠の洗浄が容易なものとなり、乾燥硬化工程における加熱も効率的に行うことができるため、複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとが緻密な圧縮繊維により一体成形された構造の繊維パネルを、安価にかつ容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、上記した本発明にかかる繊維パネルの製造方法及び繊維パネルの実施の形態を、詳細に説明する。
【0014】
本発明で使用する第1の成形型枠は、従来と同様のものが使用できる。すなわち、図1に示したように、多孔性キャリア52と、その板面に幾何学的に配置固定された複数のエラストマーパッド54とから構成された型枠50を用いることができる。エラストマーパッド54と多孔性キャリア52との固定方法は、特には限定されないが、本実施例においては、型に入った未固化状態のエラストマーに、プライマーを塗布した多孔性キャリア52を押し当てて、固化した後に、多孔性キャリア52とエラストマーバッド54が一体となるようにしている。この型枠50のエラストマーパッド54の各々は、図1に鎖線で示したように、該パッドが上下方向からプレスされた際に、その中心が外方に膨出して扁平に変形し、パッド間に充填された繊維を圧縮すると同時に、パッドの上及び拡大したパッドの下に位置する繊維をも圧縮できるような所定のサイズ及び形状を呈している。
【0015】
上記多孔性キャリア52は、通常矩形の金属製板に、複数の貫通孔51を穿設した構造のもので、その周囲板面には、図10に示したように補強を兼ねて帯状のプレスストッパー53が添設されている。なお、この多孔性キャリア52は、一枚の板体により構成されていても、また複数枚の板体を重ね合わせて構成されていてもよい。また、上記エラストマーパッド54は、十分な弾性を有する材料で形成されており、例えばシリコンゴム、クロロプレンゴムなどを含む、各種の合成ゴムを用いて形成することができるが、中でもシリコンゴムが耐久性及び弾性を考慮した場合に特に優れている。そして、このエラストマーパッド54を、図10において拡大して示したように、横断面六角形の側面視台形形状とすることにより、製造される繊維パネル80の開口セル格子82を、図12に示したように六角形とすることが可能となる。
【0016】
一方、本発明で使用する第2の成形型枠は、図2に示したように、無孔のキャリア1と、その板面に幾何学的に配置固定された複数のハードパッド2とから構成された型枠10である。この型枠10のハードパッド2の各々は、その底面の形状寸法が上記エラストマーパッド54の底面の形状寸法と略同一に形成され、高さが上記エラストマーパッド54が扁平に変形させられた時の高さと略同一に形成されている。そして、該形状のハードパッド2が、キャリア1の板面に、上記エラストマーパッド54の配置と同一の幾何学的な配置によって固定されている。ハードパッド2とキャリア1との固定方法は、特には限定されないが、本実施例においては、図2及び図3に示したように構成されている。すなわち、ハードパッド2の底面に六角形の位置決め部2aが突設され、該位置決め部2aの中心に雌ねじ穴3が形成されている。一方、キャリア1のハードパッド2の取付け部位には、前記ハードパッド2の位置決め部2aより僅かに大きな六角形の位置決め穴1aが形成されている。そして、前記ハードパッド2の位置決め部2aをキャリア1の位置決め穴1aに挿通し、位置決め部2aの中心に形成された雌ねじ穴3に、皿ねじ4を座金5を介して螺合することによって、ハードパッド2とキャリア1とが固定されている。
【0017】
上記キャリア1は、通常矩形の金属製板により形成され、その周囲板面には、上記第1の成形型枠50と同様に、補強を兼ねて帯状のプレスストッパー(図示せず)が添設されている。また、上記ハードパッド2は、剛性を有する材料で形成されており、例えば合成樹脂、金属などを用いて形成することができるが、中でもアルミニウムで形成することが、加工性に優れるとともに軽量であり、熱伝導も良好であるために特に好ましく、その表面には、離型性を向上させるための表面加工、特にテフロン(登録商標)加工が施されていることが好ましい。そして、このハードパッド2を、図2及び図3に示したように、横断面六角形の側面視台形形状とすることにより、製造される繊維パネル80の開口セル格子82を、図12に示したように六角形とすることが可能となる。
【0018】
本発明にかかる製造方法においては、先ず上記第1の成形型枠50上に繊維含有スラリーSを打設する。この繊維含有スラリーSに使用される繊維としては、木材繊維、再生紙及び再生木材製品等のセルロース材料から得られる天然繊維、あるいは、種々のプラスチック、ファイバーグラス等の合成繊維及び鉱物繊維等を含む非セルロース材料からなるものが挙げられる。またセルロースであろうと非セルロースであろうと、様々な繊維の混合物を本パネルの製造方法に使用することができる。繊維含有スラリーSの打設工程は、例えば木材繊維、再生紙等の原料を強力な攬拌力によりパルプ化し、水分濃度99%程度の繊維含有スラリーSに調整した後、該繊維含有スラリーSを、重力の作用のみによって型枠50上に打設するものであってもよく、また、型枠50の下面から吸引しながら繊維含有スラリーSを型枠50上に打設する方法を採用してもよい。
【0019】
続いて、上記型枠50上に打設された繊維含有スラリーSを、脱水するとともに成形する。この脱水成形工程は、図4及び図5に示したように、打設した繊維含有スラリーSを、型枠50の上下方向からのプレスによって行う。図4は、図中の白抜き矢印で示されるように、可動上部プレス型20を用いるプレス工程の初期の段階を示している。この工程の際、エラストマーパッド54は、上部プレス型20が多孔性キャリア52に向かって移動するとき、それにより加えられる垂直圧力に応答して変形する。このエラストマーパッド54の変形は、次のようなメカニズムによる。先ず、多孔性キャリア52上に置かれたエラストマーパッド54に、上部プレス型20による垂直方向の圧力が堆積した繊維含有スラリーSを介して加えられる。すると、エラストマーパッド54は、もとの台形形状の縦断面形状から、図5に示すような扁平な縦断面形状に変形する。すなわち、エラストマーパッド54の底部は、多孔性キャリア52に固定されているのでその大きさはさほど変化しない。しかし、エラストマーパッド54の中程の部分は、上方から加えられる圧力によって水平方向に広がる。この拡張作用によって、堆積した繊維含有スラリーSは、上下方向のみではなく、水平方向にも圧密化されることとなる。また図5に見られるように、エラストマーパッド54の基部が中央部分ほど水平方向に広がらない結果、各パッド54の基部の周りの領域において多孔性キャリア52に向かう方向の圧密力が生じ、このパッド54の基部の周りの繊維が多孔性キャリア52との間で圧縮され固められる。この結果、打設した繊維含有スラリーSは、複数のリブ71により構成される開口セル格子72と、該開口セル格子72の一方の開口部を覆う連続的な平板73と、他方の開口部の一部を覆うフランジ74とを一体的に有する脱水ケーキKの成形品に形成される。
【0020】
また、図4及び図5に示されるプレス工程によって、繊維含有スラリーS中の余分な水分は除去され、除去された水分は矢印で示されたように多孔性キャリア52に穿設された貫通孔51を介して外部に排出される。この際、上部プレス型20も多孔性のものを用いた場合には、繊維含有スラリーS中の水分は多孔性キャリア52及び上部プレス型20の双方を介して外部に排出される。上記作用によって型枠50上に打設された繊維含有スラリーSは脱水され、脱水ケーキKとされる。この脱水ケーキKの水分濃度は、この工程において60%以下まで脱水されることが好ましい。これは、60%を越える水分濃度の脱水ケーキKである場合には、形状保持性に劣り、型枠50からの離型時、また搬送時に形状が崩れるおそれがあるために好ましくない。かかる観点及びこの工程における経済性をも考慮した場合、脱水ケーキKの水分濃度は、この工程において50〜55%まで脱水されることが特に好ましい。
【0021】
続いて、上記脱水ケーキKの成形品を、上記第1の成形型枠50から離型し、上記第2の成形型枠10に移す。この際、成形品を吸引機構を有するリフターによって持ち上げ、第1の成形型枠50から離型しようとする際、扁平に変形したエラストマーパッド54は復元し、図6の矢印で示されるように多孔性キャリア52から脱水ケーキKの成形品を分離するための持ち上げ力の一部として作用し、成形品の型枠50からの取外しを容易にする。
【0022】
第2の成形型枠10のハードパッド2は、上記したように、その底面の形状寸法が上記エラストマーパッド54の底面の形状寸法と略同一に形成され、高さが上記エラストマーパッド54が扁平に変形させられた時の高さと略同一に形成され、そして、該形状のハードパッド2が、キャリア1の板面に、上記エラストマーパッド54の配置と同一の幾何学的な配置によって固定されているため、図7に示したように、該第2の成形型枠10に移された脱水ケーキKの成形品は、その開口セル格子72内にハードパッド2が嵌まり込み、ハードパッド2の頂部が平板73に当接し、ハードパッド2の基部がフランジ74に当接する状態で該第2の成形型枠10上に載置される。この状態で、該成形型枠10の上下方向からの加熱下におけるプレスによって、脱水ケーキKの成形品は乾燥硬化される。この乾燥硬化工程は、図8に示したように、プレス用平盤30のプレス面を、ヒーター或いは加熱媒体31により加熱した状態とし、型枠10の上下方向からの伝導伝熱により脱水ケーキKを加熱する構成とするとができる。この乾燥硬化工程において、脱水ケーキKの成形品は、水分濃度10%以下の繊維パネルとされることが好ましい。これは、水分濃度10%以下まで乾燥硬化させれば、形状が安定したものとなり、強度的にも十分な繊維パネルが得られるために好ましい。
【0023】
上記のようにして製造された本発明にかかる繊維パネルは、図12に示したように、複数のリブ81により構成される開口セル格子82と、該開口セル格子82の一方の開口部を覆う連続的な平板83と、他方の開口部の一部を覆うフランジ84とが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネル80となる。
【0024】
かかる構造の繊維パネル80は、一体成形されたフランジ84の存在により、開口セル格子82を画成するリブ81が補強され、剛性の高いパネルとなるとともに、該パネルを単独で使用することも可能であるが、二枚以上を貼り合わせて多層の板体とする場合等には、両者の接着面積を増大させることができるなどの効果を奏し、軽量でかつ剛性の高いパネルとなる。
【0025】
以上、本発明にかかる繊維パネルの製造方法及び繊維パネルの実施の形態を説明したが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の技術的思想の範囲内において、種々の変形及び変更が可能であることは当然である。 例えば、上記実施の形態においては、第1の成形型枠50及び第2の成形型枠10としてバッチ式のものを使用したが、各型枠を構成するキャリアを、ベルト状或いはホイール状のものとすることにより、本発明にかかる各工程を連続的に受けるように可動させたものとしてもよい。
また、第1の成形型枠50を構成するエラストマーパッド54を、上下二層構造の形態で構成し、その場合、パッドの基部を比較的弾性の小さい材料で構成し、残りの部分を弾性がより大きい材料で構成する。このようなパッドの構成は、圧縮されたパッドの下で圧縮により固められる堆積繊維の量を増加させる効果をもたらし、開口セル格子82の一部を覆うフランジ84の厚さ及び強度を増加させることができ、より剛性の高いパネルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかる製造方法において使用する第1の成形型枠の一実施の形態を示した概念的な縦断面図である。
【図2】本発明にかかる製造方法において使用する第2の成形型枠の一実施の形態を示した概念的な縦断面図である。
【図3】図2に示した第2の成形型枠のハードパッドとキャリアとの固定構造を示した分解斜視図である。
【図4】本発明にかかる製造方法において、図1の第1の成形型枠を用いた脱水成形工程の初期の状態を示した概念的な縦断面図である。
【図5】本発明にかかる製造方法において、図1の第1の成形型枠を用いた脱水成形工程の終期の状態を示した概念的な縦断面図である。
【図6】本発明にかかる製造方法において、図1の第1の成形型枠から脱水ケーキの成形品を離型する状態を示した概念的な縦断面図である。
【図7】本発明にかかる製造方法において、図2の第2の成形型枠に脱水ケーキの成形品を移した状態を示した概念的な縦断面図である。
【図8】本発明にかかる製造方法において、図2の第2の成形型枠を用いた乾燥硬化工程の状態を示した概念的な縦断面図である。
【図9】従来の繊維パネルの製造方法を概念的に示した工程図である。
【図10】繊維パネルの製造に使用される型枠を示した概念的な斜視図である。
【図11】従来の加熱圧縮成形工程中におけるエラストマーパッドの状態を示した概念的な縦断面図である。
【図12】成形品である繊維パネルの一部を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 キャリア
1a 位置決め穴
2 ハードパット
2a 位置決め部
3 雌ねじ穴
4 皿ねじ
5 座金
10 第2の成形型枠
20 可動上部プレス型
30 プレス用平盤
31 ヒーター或いは加熱媒体
50 第1の成形型枠
51 貫通孔
52 多孔性キャリア
53 プレスストッパー
54 エラストマーパッド
60 ホットプレス
71,81 リブ
72,82 開口セル格子
73,83 平板
74,84 フランジ
80 繊維パネル
S 繊維含有スラリー
K 脱水ケーキ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネルを製造する方法であって、多孔性キャリアの板面に複数のエラストマーパッドを幾何学的に配置固定した第1の成形型枠を用い、該第1の成形型枠上に繊維含有スラリーを打設し、該打設した繊維含有スラリーを、前記第1の成形型枠の上下方向からのプレスによって脱水して脱水ケーキとするとともに、前記エラストマーパッドを扁平に変形させて複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとを一体的に有する脱水ケーキの成形品に形成する脱水成形工程と、該脱水成形工程に続いて、前記脱水ケーキの成形品を、前記第1の成形型枠から離型してキャリアの板面に複数のハードパッドを幾何学的に配置固定した第2の成形型枠に移し、該第2の成形型枠の上下方向からの加熱下におけるプレスによって前記脱水ケーキの成形品を乾燥硬化させる乾燥硬化工程とからなることを特徴とする、繊維パネルの製造方法。
【請求項2】
上記第1の成形型枠を用いた脱水成形工程において、繊維含有スラリーを、水分濃度60%以下の脱水ケーキの成形品とすることを特徴とする、請求項1に記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項3】
上記第2の成形型枠を用いた乾燥硬化工程において、脱水ケーキの成形品を、水分濃度10%以下の繊維パネルとすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項4】
上記繊維が、木繊維、セルロース繊維等の天然繊維と、プラスチック繊維、ロックウール、グラスファイバー等の合成繊維と、それらの混合物とからなる群より選ばれたものであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項5】
上記エラストマーパッドが、シリコンゴムよりなることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項6】
上記エラストマーパッドが、実質的に横断面六角形の側面視台形形状であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項7】
上記エラストマーパッドが、上下方向からプレスされた際に、該パッドの中間部は外側に弓なりに拡大するが、底部は外側に拡大しないように上記多孔性キャリアに固定されていることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項8】
上記ハードパッドが、アルミニウムよりなることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項9】
上記ハードパッドが、実質的に横断面六角形の側面視台形形状であり、底面の形状寸法が上記エラストマーパッドの底面の形状寸法と略同一であり、高さが上記エラストマーパッドの扁平に変形させられた時の高さと略同一であることを特徴とする、請求項6に記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項10】
上記ハードパッドの表面に、テフロン(登録商標)加工が施されていることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする、複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネル。
【請求項1】
複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネルを製造する方法であって、多孔性キャリアの板面に複数のエラストマーパッドを幾何学的に配置固定した第1の成形型枠を用い、該第1の成形型枠上に繊維含有スラリーを打設し、該打設した繊維含有スラリーを、前記第1の成形型枠の上下方向からのプレスによって脱水して脱水ケーキとするとともに、前記エラストマーパッドを扁平に変形させて複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとを一体的に有する脱水ケーキの成形品に形成する脱水成形工程と、該脱水成形工程に続いて、前記脱水ケーキの成形品を、前記第1の成形型枠から離型してキャリアの板面に複数のハードパッドを幾何学的に配置固定した第2の成形型枠に移し、該第2の成形型枠の上下方向からの加熱下におけるプレスによって前記脱水ケーキの成形品を乾燥硬化させる乾燥硬化工程とからなることを特徴とする、繊維パネルの製造方法。
【請求項2】
上記第1の成形型枠を用いた脱水成形工程において、繊維含有スラリーを、水分濃度60%以下の脱水ケーキの成形品とすることを特徴とする、請求項1に記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項3】
上記第2の成形型枠を用いた乾燥硬化工程において、脱水ケーキの成形品を、水分濃度10%以下の繊維パネルとすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項4】
上記繊維が、木繊維、セルロース繊維等の天然繊維と、プラスチック繊維、ロックウール、グラスファイバー等の合成繊維と、それらの混合物とからなる群より選ばれたものであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項5】
上記エラストマーパッドが、シリコンゴムよりなることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項6】
上記エラストマーパッドが、実質的に横断面六角形の側面視台形形状であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項7】
上記エラストマーパッドが、上下方向からプレスされた際に、該パッドの中間部は外側に弓なりに拡大するが、底部は外側に拡大しないように上記多孔性キャリアに固定されていることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項8】
上記ハードパッドが、アルミニウムよりなることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項9】
上記ハードパッドが、実質的に横断面六角形の側面視台形形状であり、底面の形状寸法が上記エラストマーパッドの底面の形状寸法と略同一であり、高さが上記エラストマーパッドの扁平に変形させられた時の高さと略同一であることを特徴とする、請求項6に記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項10】
上記ハードパッドの表面に、テフロン(登録商標)加工が施されていることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれかに記載の繊維パネルの製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする、複数のリブにより構成される開口セル格子と、該開口セル格子の一方の開口部を覆う連続的な平板と、他方の開口部の一部を覆うフランジとが緻密な圧縮繊維により一体的に形成された構造の繊維パネル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−155748(P2009−155748A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334088(P2007−334088)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【特許番号】特許第4273164号(P4273164)
【特許公報発行日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(390014074)前澤工業株式会社 (134)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【特許番号】特許第4273164号(P4273164)
【特許公報発行日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(390014074)前澤工業株式会社 (134)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]