説明

繊維束供給装置

【課題】繊維束が加速状態で引き出される際に繊維束とガイドローラとの滑りの発生を抑制することができる繊維束供給装置を提供する。
【解決手段】繊維束供給部14は、ボビン回転手段により積極回転されるボビンBから送り出される繊維束Fを案内するガイドローラ36a,36b,36c,46a,46bを備えている。各ガイドローラ36a,36b,36c,46a,46bは、繊維束Fの引き出される方向に駆動ローラ41a,41b,41c,48a,48bにより積極回転される。配列ヘッド30は、ボビンBから送り出されるとともに各ガイドローラ36a,36b,36c,46a,46bを経て案内される繊維束Fを、枠体15と相対移動することで、枠体15上にピンに係合させて折り返すように配列して積層繊維束群を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束供給装置に係り、詳しくはボビンから送り出される繊維束の配列に配列ヘッドを使用し、かつ前記配列ヘッドと繊維束被配列部材とを相対移動させて前記繊維束被配列部材上にピンに係合させて折り返すように配列して積層繊維束群を形成する繊維束配列装置の繊維束供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前記の繊維束供給装置として、図5に示すように、ボビンBから引き出される繊維束Fを、所定位置で回転する複数のガイドローラ71,72,73,74,75及び上下方向に移動して張力調整を行う可動ローラ76を介して配列ヘッド77に導き、配列ヘッド77と繊維束被配列部材78との相対移動により、繊維束Fを配列する装置がある。
【0003】
また、三次元織機における糸張力の制御方法として、糸の張力を検出し、この検出された値と予め定められた設定値とを比較し、この比較結果に応じて糸の張力を制御する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法は、図6に示すように、ボビン81から引き出した糸82を滑車83,84,85を介してレピア86に導き、レピア86の先端に取り付けられた図示しない滑車で折り返した後、その糸82の一端を滑車87を介して固定する。そして、レピア86の往動により糸82が引き出されるとともにボビン81がモータ88により糸82の送り出し方向に回転される。また、レピア86の復動時にはボビン81は糸82を巻き取る方向に回転される。制御部89は回転センサ90の出力を回転検出変換部91を介して滑車85の回転方向、回転速度、回転量に対応する信号として入力し、変位センサ92の出力を変位検出変換部93を介して滑車84の変位量を入力する。そして、制御部89は糸82の張力が所定の張力となるようにモータ制御部94を介してモータ88を制御する。
【特許文献1】特開昭63−227830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維束配列装置による繊維束の配列を効率良く(生産性良く)行うためには、繊維束に無理な張力が加わらない範囲において、繊維束の配列速度を速くする必要がある。しかし、前記の繊維束供給装置では、繊維束Fをピンに係合させて折り返すように配列するため、折り返しの際には相対速度が零になる。そして、再び相対移動を開始した場合、なるべく早く所定の速度に配列ヘッド77の相対速度を高める必要がある。ところが、繊維束Fを急激に引き出した場合、繊維束Fに毛羽の発生が多くなったり、繊維束Fの幅が狭くなったり、繊維束Fが係合するピンが倒れたりするという不具合が発生する。この原因を解析したところ、繊維束Fを急激に引き出した場合、繊維束Fに加わる張力が、図4に鎖線で示すように、引き出し速度の加速領域を過ぎてもしばらく上昇し、その後、低下して一定になることが分かった。そして、図4において破線で囲んだテンションが高くなった状態において繊維束Fに毛羽の発生が多くなったり、繊維束Fの幅が狭くなったり、繊維束Fが係合するピンが倒れたりするという不具合が発生することがわかった。
【0005】
特許文献1に記載の糸張力の制御方法では、制御部89は、回転センサ90の出力及び変位センサ92の出力に基づいて糸82の張力が所定の張力となるよう制御する。その際、回転センサ90は滑車85と糸82との間において滑りがないことを前提としており、前記不具合を解消することはできない。
【0006】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、繊維束が加速状態で引き出された後の繊維束とガイドローラとの間における滑りの発生を抑制することができる繊維束供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため請求項1に記載の発明は、ボビンから送り出される繊維束の配列に配列ヘッドを使用し、かつ前記配列ヘッドと繊維束被配列部材とを相対移動させて前記繊維束被配列部材上にピンに係合させて折り返すように配列して積層繊維束群を形成する繊維束配列装置の繊維束供給装置である。そして、前記ボビンを積極回転させるボビン回転手段と、前記ボビンから送り出される繊維束を案内するガイドローラと、前記ガイドローラを前記繊維束の引き出される方向に積極回転させる駆動手段とを備えている。
【0008】
この発明では、配列ヘッドと繊維束被配列部材との相対移動によって繊維束が繊維束被配列部材上に配列される際、繊維束を案内するガイドローラが繊維束の引き出される方向に駆動手段によって積極回転される。従って、繊維束をピンに係合させて折り返した後、繊維束の引き出し速度を加速して繊維束を配列しても、繊維束が加速状態で引き出された後の繊維束とガイドローラとの間における滑りの発生を抑制することができ、繊維束に過大な張力が加わることが防止される。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ガイドローラは複数設けられ、前記駆動手段は全てのガイドローラを駆動する。ガイドローラが複数存在する場合、ガイドローラの配置位置によって、繊維束とガイドローラとの間の滑りの状態が異なり、滑りが繊維束の張力に悪影響を及ぼす大きさのものと、滑りが発生しないか発生しても僅かなものとがある。従って、必ずしも全てのガイドローラを積極駆動する必要はないが、全てのガイドローラを積極駆動する構成であれば、各ガイドローラでの滑りの発生状態を調べる必要がない。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記駆動手段は、前記ガイドローラを逆転駆動可能に構成されている。
繊維束を配列する際、配列ヘッドが繊維束の折り返し地点に近づいて、配列ヘッドと繊維束被配列部材との相対速度が急激に小さくなると、繊維束に弛みが生じる。この発明では、繊維束に弛みが生じた場合、ガイドローラを逆転させることにより弛みを解消して繊維束を適正な張力状態で配列することが容易になる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記駆動手段は、前記配列ヘッドが繊維束の引き出し方向に相対移動される間は正転駆動を継続する。従って、この発明では、駆動手段の制御が簡単になる。繊維束を送り出すボビンは、繊維束の張力状態によっては繊維束を巻き取る方向に回転される場合もある。その際、ガイドローラが正転を継続すると、ガイドローラの位置によってはガイドローラが繊維束の移動方向と逆方向に回転される状態となる。しかし、ボビンが繊維束を巻き取る方向に回転される場合は、繊維束の張力が弱くなる状態であり、そのような場合にガイドローラと繊維束との間に滑りが多少生じても支障はない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、繊維束が加速状態で引き出された後の繊維束とガイドローラとの間における滑りの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した繊維束供給装置の一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。
図1(a)及び図2に示すように、繊維束配列装置11は、ベース部12、繊維束配列部13及び繊維束供給装置としての繊維束供給部14を備えている。ベース部12は繊維束被配列部材としての枠体15を支持する。枠体15は長方形状に形成され、ピン16が枠体15の上面に所定ピッチ(例えば、数mmピッチ)で配置されている。各ピン16は、枠体15の上方に向かって垂直に突出するように、枠体15に取外し可能に固定されている。
【0014】
繊維束配列部13及び繊維束供給部14は、ベース部12に対してX方向、Y方向及びZ方向に対して相対移動可能に設けられている。この実施形態では、X方向とはベース部12に固定された枠体15の長手方向と平行な方向を意味し、Y方向はベース部の上面と平行な面内でX方向と直交する方向を意味し、Z方向はX方向及びY方向に垂直な方向を意味する。
【0015】
ベース部12の長手方向に沿った両側にはリニアスライダ17がそれぞれX方向に延びるように設けられている。両リニアスライダ17上には、リニアスライダ17の移動体17a間に跨る状態でリニアスライダ18がY方向に延びるように設けられている。なお、リニアスライダとはリニアサーボモータ、リニアスケール及びリニアガイドが一体化されたものである。リニアスライダ18の移動体18aに支持フレーム19が固定されている。支持フレーム19の移動体18aと対向する側と反対側には、支持プレート20が昇降可能に設けられている。支持プレート20はボールねじ機構21及びモータ22により移動される。
【0016】
繊維束配列部13は支持プレート20に設けられている。支持プレート20にはモータ23が固定されている。モータ23はその出力軸23aがZ方向に延びるように設けられ、出力軸23aには支持ブラケット24が一体回動可能に固定されている。支持フレーム19の上部にはブラケット25が固定され、ブラケット25上には繊維束供給部14を構成するプレート26が、モータ23の出力軸23aと同軸上に設けられた回転軸25aを中心に水平状態で回動可能に支持されている。プレート26上にはボビンホルダ27が装備されている。プレート26には連結アーム26aが水平に突設されている。
【0017】
図1(a)に示すように、支持ブラケット24は、連結アーム26aの近くまで垂直に延びる垂直部24aを備え、垂直部24aの上端から水平に突設された部分に、連結アーム26aと作動連結されてプレート26を、即ちボビンホルダ27を支持ブラケット24と一体的に回動させる連結軸28が設けられている。連結軸28は連結アーム26aに形成された孔を貫通するように設けられ、支持プレート20が昇降しても常に連結軸28が連結アーム26aを貫通する長さに形成されている。
【0018】
支持ブラケット24の下部には、ブラケット29が固定されている。ブラケット29には、ボビンホルダ27に支持されたボビンBから繰り出される扁平な繊維束Fを扁平な状態で案内するとともに扁平な状態で出口から繰り出すガイドパイプ30aを備えた配列ヘッド30が固定されている。ガイドパイプ30aは、最大幅がピン16の間隔とほぼ等しく形成されている。そして、配列ヘッド30は、モータ23の出力軸23aとガイドパイプ30aの中心軸とが同軸となる位置においてブラケット29に固定されている。
【0019】
繊維束供給部14は、ボビンホルダ27に支持されたボビンBを回転駆動させるため、プレート26上にサーボモータ31を備えており、サーボモータ31の回転軸には歯車32が固定されている。図2に示すように、ボビンホルダ27には、歯車部33がボビンBの一端を支持した状態で一体回転可能に備えられており、歯車部33は歯車32と噛合している。
【0020】
図1(a)に示すように、連結アーム26aには支持プレート34が鉛直方向に延びる状態で固定されている。プレート26には支持ブラケット35が、鉛直方向に延びる状態で固定されている。支持プレート34にはボビンBから繰り出される繊維束Fをガイドするガイドローラ36a,36b,36cが、支持軸37a,37b,37cを介して回動可能に支持されている。ガイドローラ36a,36b,36cは、支持軸37a,37b,37cが水平に延びるほぼ一直線上に位置するように配置されている。支持軸37a,37b,37cはボビンBの軸方向と平行に配置されている。
【0021】
支持ブラケット35には、ボビンBから繰り出されてガイドパイプ30aに至る繊維束Fの張力調整機構38を構成する支持アーム39の基端が軸により回動可能に支持され、支持アーム39の先端にはローラ40が回転可能に支持されている。そして、ボビンBから繰り出された繊維束Fがガイドローラ36a、ローラ40、ガイドローラ36b、ガイドローラ36cを順に経て、下方に配置された配列ヘッド30側へ案内されるようになっている。張力調整機構38は、支持アーム39及びローラ40の自重により繊維束Fに張力を付与するようになっている。
【0022】
支持プレート34には、各ガイドローラ36a,36b,36cに接して各ガイドローラ36a,36b,36cを駆動する駆動ローラ41a,41b,41cが設けられている。図2に示すように、各駆動ローラ41a,41b,41cの回転軸42a,42b,42cは支持プレート34を貫通する状態で支持され、回転軸42a,42b,42cにはそれぞれ歯付きプーリ43a,43b,43cが一体回転可能に固定されている。また、支持プレート34にはモータ44が固定されその出力軸に歯付きプーリ44aが一体回転可能に固定されている。歯付きプーリ43a,43b,43c及び歯付きプーリ44aに歯付きベルト45が巻掛けられている。そして、モータ44の駆動により、駆動ローラ41a,41b,41cが駆動され、各ガイドローラ36a,36b,36cが繊維束Fの送り出し方向に積極回転されるようになっている。
【0023】
図1(a),(b)に示すように、支持プレート34の下方に設けられたブラケット29には、繊維束Fを案内するガイドローラ46a,46bが支持軸47a,47bを介して回動可能に支持されている。ガイドローラ46a,46bは、上方のガイドローラ36cから導かれる繊維束Fの走行経路を水平に変えた後、ガイドパイプ30aの入口に垂直に向かうように変更する位置に設けられている。支持軸47a,47bはボビンBの軸方向と平行に配置されている。
【0024】
ブラケット29には、各ガイドローラ46a,46bに接して各ガイドローラ46a,46bを駆動する駆動ローラ48a,48bが設けられている。図1(b)に示すように、各駆動ローラ48a,48bの回転軸49a,49bはブラケット29を貫通する状態で支持され、回転軸49aには歯付きプーリ50aが一体回転可能に固定され、回転軸49bには歯車50bが一体回転可能に固定されている。また、ブラケット29にはモータ51が固定されその出力軸に歯付きプーリ51aが一体回転可能に固定されている。ブラケット29には回転軸52が支持され、回転軸52には歯付きプーリ52a及び歯車50bと歯噛する歯車52bが一体回転可能に固定されている。歯付きプーリ50a,51a及び歯付きプーリ52aに歯付きベルト53が巻掛けられている。そして、モータ51の駆動により、駆動ローラ48a,48bが駆動され、各ガイドローラ46a,46bが繊維束Fの送り出し方向に積極回転されるようになっている。
【0025】
ガイドローラ36a,36b,36c,46a,46bは、例えば、セラミック製又は金属製である。
駆動ローラ41a〜41c,48a,48b、回転軸42a〜42c,49a,49b、歯付きプーリ43a〜43c,44a,50a〜52a、歯付きベルト45,53、モータ44,51及び歯車50b,52bによりガイドローラ36a〜36c,46a,46bを繊維束Fの引き出される方向に積極回転させる駆動手段が構成されている。
【0026】
リニアスライダ17,18のリニアモータ(図示せず)、モータ22,23、サーボモータ31、モータ44,51は、制御装置Cにより制御される。制御装置Cは、配列ヘッド30から繰り出される繊維束Fの扁平な部分の向きが繊維束Fの配列方向と対応する状態にモータ23を制御する。制御装置Cは、配列ヘッド30を枠体15に対して繊維束Fの配列方向に相対移動させるように、リニアスライダ17,18のリニアモータ(図示せず)を制御する。制御装置Cは、繊維束Fを所定の張力で送り出すように31を制御し、配列ヘッド30の移動に伴う繊維束の引き出し速度に合わせて各ガイドローラ36a,46a等を積極回転させるようにモータ44,51を制御する。
【0027】
次に前記のように構成された繊維束配列装置11及び繊維束供給部14の作用を説明する。なお、図3は作用を説明するためのガイドローラ36a,46a等、駆動ローラ41a,48a等の模式図である。なお、ガイドローラ36a,46a等、駆動ローラ41a,48a等の配置間隔は便宜上、図1(a)の場合と異なっている。
【0028】
繊維束Fの配列に先立ってガイドパイプ30aを配列開始位置に配置するように、リニアスライダ17,18及びモータ22が駆動される。そして、ガイドパイプ30aはベース部12に支持された枠体15のX方向の一端側における一つのコーナー部の外側に位置する状態となる。次に、ボビンBから送り出された繊維束Fをガイドローラ36a、ローラ40、ガイドローラ36b、36c、ガイドローラ46a,46bを経てガイドパイプ30aへ導き、ガイドパイプ30aに挿通して、繊維束Fの端部をガイドパイプ30aの出口(先端)から引き出す。そして、繊維束Fの先端を枠体15の外側の所定位置に固定する。繊維束Fの固定は、例えば、図示しない接着テープを使用して行う。
【0029】
その状態から繊維束配列装置11の作動が開始される。リニアスライダ17が駆動されて、リニアスライダ18が繊維束配列部13及び繊維束供給部14とともにX方向に移動される。繊維束配列部13の移動に伴ってサーボモータ31が駆動され、ボビンBが繊維束配列部13の移動速度、即ち配列ヘッド30の移動速度とほぼ同じ速度で繊維束Fを送り出すように回転される。そして、ボビンBから偏平な状態で送り出された繊維束Fは、張力調整機構38で適正な張力が付与された状態でガイドパイプ30aから引き出されて枠体15上のピン16で囲まれた範囲に、ピン16に係合して折り返す状態で配列される。
【0030】
繊維束配列装置11による繊維束Fの配列を効率良く(生産性良く)行うため、繊維束Fに無理な張力が加わらない状態において、繊維束の配列速度を速くする必要がある。しかし、繊維束配列装置11では、繊維束Fをピン16に係合させて折り返すように配列するため、折り返しの際には相対速度が零になる。そして、再び相対移動を開始した場合、なるべく早く所定の速度に配列ヘッド30の相対速度を高める必要がある。
【0031】
図4に繊維束Fを急激に引き出した場合の時間と繊維束Fに加わる張力との関係を示す。配列ヘッド30は、図4において、時間T0から時間T1までの間に加速された後、時間T1からは一定速度で移動される。ガイドローラ36a,36b,36c,46a,46bを積極回転させない従来装置では、繊維束Fに加わる張力が、図4に鎖線で示すように、引き出し速度の加速領域を過ぎてもしばらく上昇し、その後、低下して一定になる。そして、図4において破線で囲んだテンションが高くなった状態において繊維束Fに毛羽の発生が多くなったり、繊維束Fの幅が狭くなったり、繊維束Fが係合するピンが倒れたりするという不具合が発生する。張力が一端高くなった後、時間経過とともに再び低くなるのは、張力が大きくなることによりガイドローラ36a,36b,36c,46a,46bが回転を開始するためである。なお、加速開始から張力がピークに達するまでの時間は、条件にもよるが1秒未満であり、1秒程度で一定張力になる。
【0032】
この実施形態の繊維束供給部14は、各ガイドローラ36a,36b,36c,46a,46bがそれぞれ駆動ローラ41a,41b,41c,48a,48bにより繊維束Fの引き出される方向に積極回転される。そのため、配列ヘッド30が急激な加速状態で移動して繊維束Fが急激な加速状態で引き出されても、繊維束Fとガイドローラ36a等との間における滑りの発生が抑制される。張力の時間変化を調べた結果、図4に実線で示す状態となった。図4から明らかなように、各ガイドローラ36a,36b,36c,46a,46bを積極回転させない従来装置と異なり、加速終了後に繊維束Fの張力増加が殆ど見られずに、一定の張力に低下している。各ガイドローラ36a,46a等を積極回転させるこの構成では、張力の大きさは積極回転させない場合の1/2程度に低下した。また、繊維束Fに過大な張力が加わることによる不具合、即ち繊維束Fに毛羽の発生が多くなったり、繊維束Fの幅が狭くなったり、繊維束Fが係合するピンが倒れたりするという事態の発生は見られなかった。
【0033】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)繊維束供給部14は、繊維束Fを送り出すボビンBを積極回転させるボビン回転手段(サーボモータ31等)と、ボビンBから送り出される繊維束Fを案内するガイドローラ36a,36b,36c,46a,46bと、ガイドローラ36a等を繊維束Fの引き出される方向に積極回転させる駆動手段(モータ44,51等)とを備えている。従って、繊維束Fをピン16に係合させて折り返した後、繊維束Fの引き出し速度を加速して繊維束Fを配列しても、繊維束Fが加速状態で引き出された後の繊維束Fとガイドローラ36a,46a等との間における滑りの発生を抑制することができ、繊維束Fに過大な張力が加わることが防止される。そのため、繊維束Fに過大な張力が加わることによる不具合の発生を防止することができる。
【0034】
(2)ガイドローラ36a,46a等は複数設けられ、駆動手段(モータ44,51等)は全てのガイドローラ36a,46a等を積極回転させる。従って、繊維束Fとガイドローラ36a,46a等との間の滑りの発生が確実に抑制される。
【0035】
(3)駆動手段(モータ44,51等)は、配列ヘッド30が繊維束Fの引き出し方向に相対移動される間は正転駆動を継続する。従って、ボビンBから繊維束が送り出される状態と、ボビンBが繊維束Fを巻き取る状態の回転方向に合わせてガイドローラ36a,46a等の回転方向を変更する構成に比較して、制御が簡単になる。ボビンBは、繊維束Fの張力状態によっては繊維束Fを巻き取る方向に回転される場合もあり、その際、ガイドローラ36a,46a等が正転を継続すると、ガイドローラの位置によってはガイドローラが繊維束Fの移動方向と逆方向に回転される状態となる。しかし、ボビンBが繊維束Fを巻き取る方向に回転される場合は、繊維束Fの張力が弱くなる状態であり、そのような場合にガイドローラ36a,46a等と繊維束Fとの間に滑りが多少生じても支障はない。
【0036】
(4)ガイドローラ36a,46a等は、繊維束Fの引き出し速度に合わせた回転速度で回転される。従って、繊維束Fとガイドローラ36a,46a等との間における滑りが確実に防止される。
【0037】
(5)ガイドローラ36a,46a等を駆動する駆動手段は、各ガイドローラ36a,46a等の周面に接触して各ガイドローラ36a,46a等を回転させる駆動ローラ41a,48a等を備えている。従って、既設の繊維束供給部14を構成するガイドローラ36a,46a等の配置や支持軸37a,47a等を変更せずに駆動手段を後付けで設けることが容易になる。
【0038】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 前記実施形態では繊維束Fが引き戻される際もガイドローラ36a,46a等の繊維束Fの引き出し方向への積極回転が継続する構成であったが、繊維束Fが引き戻される際はガイドローラ36a,46a等の回転を停止させる構成としてもよい。
【0039】
○ ガイドローラ36a,46a等を回転させる駆動手段としての駆動ローラ41a,48a等は、繊維束Fの引き出し方向へのみ積極回転可能な構成に限らず、ガイドローラ36a,46a等を逆転駆動可能に構成されていてもよい。繊維束Fを配列する際、配列ヘッド30が繊維束Fの折り返し地点に近づいて、配列ヘッド30と繊維束被配列部材(枠体15)との相対速度が急激に小さくなると、繊維束Fに弛みが生じる。ガイドローラ36a,46a等を逆転駆動可能であれば、繊維束Fに弛みが生じた場合、ガイドローラ36a,46a等を逆転させることにより弛みを解消して繊維束Fを適正な張力状態で配列することが容易になる。
【0040】
○ ガイドローラ36a,46a等を回転させる際の速度は、必ずしも繊維束Fの引き出し速度に合わせた速度に限らない。回転速度が繊維束Fの引き出し速度に合ってなくとも、ガイドローラ36a,46a等を繊維束Fの引き出し方向に回転させることにより、滑りの発生が抑制される。
【0041】
○ ガイドローラ36a,46a等は必ずしも全てが積極回転される構成でなくてもよい。例えば、予めガイドローラ36a,46a等のうち滑りが発生し易いガイドローラを調べ、滑りが発生し易いガイドローラを積極回転駆動する構成としてもよい。
【0042】
○ ガイドローラ36a,46a等の数は前記実施形態の数に限らず、ボビンホルダ27と配列ヘッド30との配置関係に対応して適宜増減してもよい。また、ガイドローラの数は複数に限らず1個であってもよい。
【0043】
○ 駆動ローラ41a,48aを駆動する構成は、ベルトやチェーンを利用した巻き掛け伝動機構に限らず、歯車伝動機構のみで構成してもよい。
○ ガイドローラ36a,46a等を積極回転させる駆動手段は、ガイドローラ36a,46a等に接触する駆動ローラ41a,48aを備えた構成に限らず、モータの回転を巻き掛け伝動機構や歯車機構を介してガイドローラ36a,46a等の支持軸を回転させる構成としてもよい。
【0044】
○ 1個のモータ44,51で複数のガイドローラ36a,46a等を駆動する構成に限らず、ガイドローラ36a,46a等毎にモータを設けてもよい。
○ 張力調整機構38は支持アーム39とローラ40の組み合わせに限らない。例えば、ローラ40を一定荷重ばねで下方に付勢する構成としてもよい。
【0045】
○ 張力調整機構38を省略してもよい。
○ 繊維束Fは扁平な状態でボビンBに巻かれたものに限らない。
○ 繊維束Fは炭素繊維に限らず、例えば、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、ガラス繊維等の無機繊維やポリアラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の有機繊維を使用してもよい。
【0046】
○ 繊維束被配列部材(枠体15)を固定して、繊維束配列部13及び繊維束供給部14を移動させて配列ヘッド30と繊維束被配列部材(枠体15)とを相対移動させる構成として、スカラーロボットを使用してもよい。
【0047】
○ 繊維束被配列部材(枠体15)を固定して、繊維束配列部13及び繊維束供給部14を移動させて配列ヘッド30と繊維束被配列部材(枠体15)とを相対移動させる構成に代えて、繊維束配列部13及び繊維束供給部14を固定して繊維束被配列部材(枠体15)を移動する構成としてもよい。
【0048】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記駆動手段は前記ガイドローラを繊維束の引き出し速度に合わせて回転させる。
【0049】
(2)請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記駆動手段は、前記各ガイドローラの周面に接触して各ガイドローラを回転させる駆動ローラを備えている。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(a)は繊維束配列装置の模式側面図、(b)は繊維束供給部の下側部分の模式平面図。
【図2】繊維束配列装置の模式平面図。
【図3】繊維束供給部の模式図。
【図4】繊維束の引き出し開始からの張力の変化を示すグラフ。
【図5】従来技術を示す模式図。
【図6】別の従来技術を示す構成図。
【符号の説明】
【0051】
B…ボビン、F…繊維束、11…繊維束配列装置、14…繊維束供給装置としての繊維束供給部、15…繊維束被配列部材としての枠体、16…ピン、30…配列ヘッド、31…ボビン回転手段を構成するサーボモータ、36a,36b,36c,46a,46b…ガイドローラ、41a,41b,41c,48a,48b…駆動手段を構成する駆動ローラ、44,51…駆動手段を構成するモータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンから送り出される繊維束の配列に配列ヘッドを使用し、かつ前記配列ヘッドと繊維束被配列部材とを相対移動させて前記繊維束被配列部材上にピンに係合させて折り返すように配列して積層繊維束群を形成する繊維束配列装置の繊維束供給装置であって、
前記ボビンを積極回転させるボビン回転手段と、
前記ボビンから送り出される繊維束を案内するガイドローラと、
前記ガイドローラを前記繊維束の引き出される方向に積極回転させる駆動手段と
を備えた繊維束供給装置。
【請求項2】
前記ガイドローラは複数設けられ、前記駆動手段は全てのガイドローラを駆動する請求項1に記載の繊維束供給装置。
【請求項3】
前記駆動手段は、前記ガイドローラを逆転駆動可能に構成されている請求項1又は請求項2に記載の繊維束供給装置。
【請求項4】
前記駆動手段は、前記配列ヘッドが繊維束の引き出し方向に相対移動される間は正転駆動を継続する請求項1又は請求項2に記載の繊維束供給装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−332502(P2007−332502A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166320(P2006−166320)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】