説明

繊維構造物の処理方法

【課題】
改質効果の高い、繊維構造物の大気圧プラズマ処理方法を提供する。
【解決手段】
繊維構造物を含水処理した後、大気圧プラズマ雰囲気で処理することを特徴とする繊維構造物の処理方法。含水量は繊維重量に対し、5〜150wt%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造物をプラズマで表面処理し、優れた吸水性、防汚性、接着性を付与する機能付与加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維は、その優れた物理的性質により、衣料用または産業用に広範に使用されている。しかし、繊維表面の活性が低いため、吸水性、防汚性等に劣るという本質的欠点を有する。そこで、これらの欠点を改良するために、種々の改質が行われている。改質の方法としては、一般的には、要求される機能を発揮せしめる化合物を繊維表面に付着させる方法が広く採用されているが、繊維の風合い、染色堅牢度を低下させる場合が多く、かつ洗濯耐久性に問題があるものである。化合物を使用しないで繊維表面を改質する方法としては、プラズマ放電雰囲気で処理し、繊維表面に官能基を生成させる方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
かかる放電処理には、減圧下でプラズマを発生させる低圧プラズマ処理と大気圧近傍でプラズマを発生させる大気圧プラズマ処理がある。前者は、繊維表面の改質効果が高いものであるが、減圧容器や減圧装置を必要とするので、多額の装置費用がかかる問題がある。後者は、減圧容器等を必要としないのでコスト面で有利であるが、前者に比べ表面改質能力が低いという問題を抱えている。近年は、大気圧雰囲気で減圧雰囲気なみの効果を得るための開発が装置を中心に検討されているが(例えば特許文献2〜4参照。)、低圧プラズマ処理の改質効果にまでは至っていないのが現状である。
【特許文献1】特開平5−9314号公報(第2頁)
【特許文献2】特開平6−119994号公報(第2頁)
【特許文献3】特開平6−182195号公報(第2頁)
【特許文献4】特開2001−316976号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術に鑑み、改質効果の高い、繊維構造物の大気圧プラズマ処理方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の繊維構造物の処理方法は、繊維表面に水分を含有させて、大気圧プラズマ雰囲気で処理することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高度な吸水性、防汚性、接着性を有する繊維構造物を安定に、かつ低コストで供給することができる。本発明の機能性を有する繊維構造物は、特に一般衣料用途はもとより、産業資材にも好適に使用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、前記課題、つまり大気圧プラズマ処理で表面改質効果を向上させるための処理について鋭意検討した結果、繊維表面に含水させた後、大気圧プラズマで処理する技術を採用することにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0008】
本発明において、繊維構造物を構成する繊維としては、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリエチレン系系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、などの合成繊維、アセテート、レーヨンなどの半合成繊維、また、木綿、羊毛、麻、絹などの天然繊維であり、これらを単独あるいは二種以上混合して使用することができる。なかでも、合成繊維に効果的で、特にポリエステル系繊維やポリアミド系繊維に有効である。かかる繊維は、長繊維でも短繊維でもよく、これらを混合して使用してもよい。
【0009】
本発明における繊維構造物としては、前記繊維からなる編物、織物、不織布、ロープ、紐などを使用することができる。
【0010】
本発明は繊維表面に水を含有させるものであり、含水量は繊維重量すなわち、繊維構造物の乾燥重量に対して好ましくは5〜150wt%であり、さらに好ましくは10〜100wt%、より好ましくは30〜80wt%である。含水量をこれらの範囲とすることでより大きな改質効果を得ることができる。なお、含水量は後述する測定方法によって測定した値をいう。
【0011】
本発明において、繊維構造物への含水処理方法は、特に限定されるものではないが、例えば10〜60℃の水に繊維構造物を浸積した後、目標とする含水量になるようにマングル等で絞ったり、脱水機で脱水したりする方法や、スプレーで布帛の片面あるいは両面に水を散布する方法などを採用することができる。
【0012】
本発明に使用する水は特に制約されないが、水道水、地下水、工業用水または蒸留水などを使用することができる。
【0013】
本発明の大気圧プラズマ雰囲気のでの処理とは、700〜800Torrの圧力下で高電圧を印可することにより発生するプラズマ放電処理を意味するものであり、かかる高電圧印可電源は交流でも直流でもよいが放電の安定性からは交流が好ましく、放電周波数は好ましくは60Hz〜1000KHz、より好ましくは5〜100KHzである。本発明において放電雰囲気に使用するガスとしては、アルゴン、ヘリウム、酸素、窒素、空気、一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気、アンモニア、パーフルオロメタンなどの非重合性ガスが好ましく、これらを単独あるいは二種以上の混合物として使用することができる。なかでも、空気を使用することが処理コスト面で好ましい。本発明においては放電用ガス雰囲気に、本発明の効果を阻害しない範囲で、重合性ガス、例えば、エチレン、8フッ化シクロブタン、6フッ化炭素などが混合されていてもよい。
【0014】
本発明における放電処理装置としては、公知の放電処理装置を用いることができるが、対向した電極を設置するのがよい。電極の形状としては、例えば、平板状、棒状、ワイヤー状、ロール状、ナイフエッジ状などが使用でき、これらを組み合わせて使用してもかまわない。かかる電極は、誘電体で被覆されていることが放電の均一性から好ましく、誘電体としてはセラミックスをコーティングしたり、ガラス、シリコンゴムあるいはフッ素系樹脂からなるフィルムで被覆してもよい。放電電極間の距離は、通常は0.1〜5cmであり、好ましくは0.2〜0.4cmの範囲で使用すれば均一な放電を形成することができる。また、両電極は必要に応じて水などで冷却するのが好ましい。本発明の放電電力としては、放電印可電力を放電電極の面積で割った値で0.2〜25w/cm2の範囲が好ましい。0.2w/cm2より小さいと処理に時間がかかりすぎる傾向があり、25/cm2を越えると放電が不安定になったり、熱により被処理物が損傷したりする傾向がある。処理時間は、数秒から数分の範囲で目的とする効果に応じて設定する。本発明においてプラズマ放電処理は、大気圧プラズマ雰囲気で直接処理することが効果的であるが、放電部分に直接曝さないで、放電部の下流で処理するリモートプラズマ処理あるいはアフターグロー処理とすることができる。
【0015】
なお、本発明は、大気圧プラズマで処理した後、繊維構造物を80〜180℃の温度で熱処理を行うことが好ましい。
【0016】
本発明は、繊維表面に水を介在させることで、効率的に、繊維表面に官能基を生成することができ、高度な吸水性、防汚性、接着性を有する繊維構造物を製造することができる。
【実施例】
【0017】
次に実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0018】
なお、実施例中における各種性能は、下記の方法で評価した。
【0019】
<含水量>
繊維構造物をピンテンターで170℃で1分間処理した直後の重量を乾燥状態の基準重量とし、含水処理による重量増加量を求めて含水量を計算した。
【0020】
<吸水性>
JIS L 1096(滴下法)により測定した。
【0021】
<防汚性>
JIS L 0821に規定されている汚染液150mlと直径6.4mmのステンレス鋼球10個をラウンダーメーター型洗濯試験機付属の450cc試験ビンに入れ、40±2℃に予熱した後、試料(白:5cm×10cm)を入れ、試験機に取り付け、40±2℃にて20分間回転した後、試料を取り出し、水洗した後風乾した。該汚染布の汚染の程度をJIS L 0805に規定された染色堅牢度試験用グレースケールで級判定し洗濯時における汚染のしにくさの程度を求めた。
【0022】
<耐洗濯性>
自動反転渦巻き電気洗濯機に、JIS K 337に規定される弱アルカリ合成洗剤を0.2%の濃度になるように溶解し、浴比1:50で40±2℃の温度で、強条件で10分間洗濯し、次いで排水し水洗を5分とする工程を1回としてこれを10回繰り返した後、風乾した。
【0023】
洗濯後、上記と同様に吸水性、防汚性を測定し、耐洗濯性とした。
【0024】
<接着性>
30μmのポリウレタン樹脂フィルムをポリウレタン系接着剤/イソシアネート/触媒からなる溶剤系接着剤で繊維構造物に接着し、JIS K 6328に規定される方法で剥離強力(N/2cm幅)を測定した。
【0025】
実施例1〜12、比較例1〜3
ポリエチレンテレフタレートからなる84dtex、72フィラメントの仮撚り加工糸をタテ糸、ヨコ糸に使用して平織物を製織したのち、常法により95℃の温度で非イオン界面活性剤とソーダ灰を含む浴中で連続精練し、湯洗、水洗し、次いで130℃の温度で乾燥し、180℃の温度でピンテンターセットして、タテ/ヨコ密度145/91本/2.54cmの織物とした。該織物を次に示す方法で処理し、性能を評価した結果を表1に示した。
【0026】
[含水処理]
水道水を使用して、浸積・マングル絞り法とスプレーで織物の両面に塗布する方法で含水量を変えて処理した。
【0027】
[大気圧プラズマ処理]
雰囲気ガスに空気または窒素を使用した。
【0028】
セラミックスを1mmの厚さでその表面に焼結した15cm×15cmのステンレス板2枚を1.5mmの間隔でセットし、一方の電極に周波数8KHzの電源を使用して印可電力(W/cm2)を変更して7秒間の処理を行った。処理物はもう一方の電極の上に設置した。
【0029】
【表1】

【0030】
表1から、本発明によるものは、耐久性に優れた吸水性、防汚性、接着性を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造物を含水処理した後、大気圧プラズマ雰囲気で処理することを特徴とする繊維構造物の処理方法。
【請求項2】
繊維構造物の含水処理後の含水量が、繊維重量に対し5〜150wt%であることを特徴とする請求項1記載の繊維構造物の処理方法。
【請求項3】
繊維構造物が合成繊維からなるものであることを特徴とする請求項1または2記載の繊維構造物の処理方法。
【請求項4】
プラズマを発生させるガスが空気であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の繊維構造物の処理方法。