説明

繊維製品処理剤及びその処理方法

【課題】 繊維製品に吸水性能を損なうことなく柔軟性を付与し、同時に防縮性、堅牢性及び速乾性を付与することのできる繊維製品処理剤、及び処理方法の提供。
【解決手段】 アルコキシシラン(1)、有機酸、シリコーン化合物、界面活性剤、及び水を配合してなり、20℃におけるpHが2〜5の繊維製品処理剤、アルコキシシラン(1)を含有する第1剤と、有機酸、シリコーン化合物、界面活性剤及び水を含有し、20℃におけるpHが2〜5である第2剤からなる繊維製品処理剤、並びにこの処理剤を用いる繊維製品の処理方法。
1pSi(OR2)4-p (1)
〔式中、R1及びR2は、炭素数1〜6のアルキル基等、pは0〜3の整数を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品に吸水性を損なうことなく柔軟性を付与したり、防縮性、堅牢性(傷み防止性)、及び速乾性を付与する繊維製品処理剤、及びその処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、柔軟性や防縮性、堅牢性、あるいは速乾性といった性能を付与するため、様々な基剤が提案されている。繊維製品に柔軟性を付与する目的には、カチオン性界面活性剤やシリコーン化合物を用いることは周知の技術である。しかしながら、これら基剤で繰り返し繊維製品を処理すると、次第に吸水性が低下し、タオルや肌着などに好ましくない感触を与えることが指摘されている。
【0003】
繊維製品に堅牢性を付与するために、例えば特許文献1や特許文献2には、セルロース誘導体を用いることが示されている。また、特許文献3や特許文献4には、繊維表面にケイ素化合物を硬化コートする技術が開示されているが、いずれも効果に乏しかったり、好ましくない風合いを繊維製品に与えるなど、満足できる性能には至っていない。
【0004】
またホルマリン系の反応性樹脂を用い、繊維のセルロース分子間に化学的な架橋結合を形成させ防縮性を付与する方法は、形態安定加工として広く周知の技術である。一方、ホルマリン系樹脂を使わない方法として、例えば特許文献5には、液体アンモニア加工と熱水処理を組み合わせることで、天然セルロース系繊維の結晶構造を変化させ、防縮性を付与する方法が開示されている。但し、これらはいずれも、大掛かりな処理装置を必要とし、一般家庭で容易に行える技術ではない。
【0005】
繊維の速乾性を高めるには、例えば特許文献6に、特定のシリコーン系モノマーからなる共重合体と有機溶媒とから構成される吸水速乾性付与組成物が開示されているが、シリコーン系共重合体を繊維表面に付着させるため、速乾性をより高めようとした場合、吸水性が著しく低下するなどの問題がある。
【0006】
いずれにせよ上述した個々の基剤は、それぞれの目的には適している場面もあるが、柔軟性や防縮性、堅牢性、あるいは速乾性といった性能を同時に満たすことはできない。
【0007】
アルコキシシランを用いて繊維処理する技術も開示されている。特許文献3や特許文献4には、繊維素材にアルコキシシランを用いて触媒の作用で硬化・固化させて、適度な強度と良好な光透過性及び撥水性を付与する技術が提案されている。しかしながら、これらは、アルコキシシランのオリゴマ―を出発材料として用いており、また触媒として有機金属化合物を使用しているため、繊維内部での硬化・固化は望めず、繊維表面をコートしているに過ぎない。特許文献7には、オルガノシラン化合物1種以上の混合物を主成分として含む改質剤が開示されているが、予め縮合反応させた溶液を用いて定着処理を行っているため、同様に繊維内部に浸透してから重合することは望めない。
【特許文献1】特表2001−516772号公報
【特許文献2】特表2001−507396号公報
【特許文献3】特開2002−61094号公報
【特許文献4】特開2002−1873号公報
【特許文献5】特開平10−37062号公報
【特許文献6】特開2005−89882号公報
【特許文献7】特開2001−181599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、繊維製品に吸水性能を損なうことなく柔軟性を付与し、同時に防縮性、堅牢性(傷み防止性)、及び速乾性といった性能を付与することのできる繊維製品処理剤、及び処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、アルコキシシランを加水分解する際に、有機酸を共存させることで、加水分解で生成したシラノール化合物の重合速度を適度に抑制できることを見出し、その結果、シラノール化合物を繊維内部で重合させることが可能となった。更にシリコーン化合物を混合することで、上述した柔軟性や防縮性、堅牢性や速乾性といった性能を更に大きく向上させることができ、その効果が繰り返し洗濯しても持続できることを見出した。
【0010】
即ち、本発明は、一般式(1)
1pSi(OR2)4-p (1)
〔式中、R1及びR2は、炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又は炭素数2〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基を示し、p個のR1及び(4−p)個のR2は同一でも異なってもよい。pは0〜3の整数を示す。〕
で表されるアルコキシシラン(以下アルコキシシラン(1)という)、有機酸、シリコーン化合物、界面活性剤、及び水を配合してなり、20℃におけるpHが2〜5の繊維製品処理剤、並びにアルコキシシラン(1)を含有する第1剤と、有機酸、シリコーン化合物、界面活性剤及び水を含有し、20℃におけるpHが2〜5である第2剤からなる繊維製品処理剤を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記繊維製品処理剤、又は上記第1剤と第2剤の混合液で繊維製品を処理する際、アルコキシシラン(1)の加水分解で生成する一般式(2)
1pSi(OH)n(OR2)4-p-n (2)
〔式中、R1、R2及びpは前記の意味を示し、nは1以上(4−p)以下の整数を示す。p個のR1及び(4−p−n)個のR2は同一でも異なってもよい。〕
で表されるシラノール化合物(以下シラノール化合物(2)という)を繊維内部に浸透させる繊維製品の処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の繊維製品処理剤及び処理方法は、繊維製品に吸水性能を損なうことなく柔軟性を付与し、同時に防縮性、堅牢性(傷み防止性)、及び速乾性といった性能を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[アルコキシシラン(1)]
アルコキシシラン(1)において、R1及びR2で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられ、アルケニル基としては、ビニル基、アリル基等が挙げられる。R1としては、繊維への浸透性の観点より、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましい。R2としては、加水分解により生じる副生成物の安全性、加水分解反応の反応性等の点から、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、炭素数1〜2のアルキル基がより好ましい。pは1〜2が好ましい。
【0014】
アルコキシシラン(1)としては、一般式(3)で表されるトリアルコシキシラン(以下トリアルコキシシラン(3)という)、一般式(4)で表されるジアルコシキシラン(以下ジアルコキシシラン(4)という)が好ましい。
【0015】
1Si(OR2)3 (3)
12Si(OR2)2 (4)
〔式中、R1及びR2は前記の意味を示す。〕
トリアルコキシシラン(3)としては、アルキル(炭素数1〜6)トリメトキシシラン、アルキル(炭素数1〜6)トリエトキシシランが好ましく、特にメチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシランがより好ましい。ジアルコキシシラン(4)としては、ジアルキル(炭素数1〜6)ジメトキシシラン、ジアルキル(炭素数1〜6)ジエトキシシラン等が好ましく、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシランがより好ましい。
【0016】
アルコキシシラン(1)としては、トリアルコキシシラン(3)又はジアルコキシシラン(4)をそれぞれ単独で用いてもよいが、トリアルコキシシラン(3)とジアルコキシシラン(4)の両方を含有することが好ましい。この場合繊維には速乾性のみならず、吸水性が付与され、使用上の感触が向上するという効果が奏される。
【0017】
トリアルコキシシラン(3)とジアルコキシシラン(4)の重量比(3)/(4)は、9/1〜3/7が好ましく、8/2〜4/6がより好ましく、7/3〜5/5がさらに好ましい。
【0018】
[有機酸]
本発明で用いられる有機酸としては、シュウ酸(pKa=1.04、3.82)、マレイン酸(pKa=1.75、5.83)、酒石酸(pKa=2.82、3.96)、フマル酸(pKa=2.85、4.10)、クエン酸(pKa=2.90、4.34)、リンゴ酸(pKa=3.24、4.71)、コハク酸(pKa=4.00、5.24)、ギ酸(pKa=3.55)、乳酸(pKa=3.66)、アジピン酸(pKa=4.26、5.03)、酢酸(pKa=4.56)、プロピオン酸(pKa=4.67)等を例示することができるが、pH調整が容易な点から、第1解離(pKa1)が2.9〜5.0の範囲にある有機酸が好ましく、3.5〜5.0の範囲にある有機酸が更に好ましい。これらの中ではアルコキシシラン(1)の加水分解反応と重合反応の制御が容易であるアジピン酸、酢酸及びプロピオン酸が好ましく、更には、臭気が少ないアジピン酸が特に好ましい。
【0019】
[シリコーン化合物]
本発明に用いられるシリコーン化合物としては、以下の(i)〜(v)に示すものが挙げられる。
(i)25℃における粘度が50〜100万mm2/sのジメチルポリシロキサン
(ii)25℃における粘度が50〜50000mm2/sであり、アミノ当量(窒素原子1つ当たりの分子量)が400〜10000のアミノ変性シリコーン
アミノ変性シリコーンとしては、一般式(5)で表される化合物が挙げられる。
【0020】
【化1】

【0021】
[式中、R5aは炭素数1〜3のアルキル基、ヒドロキシ基又は炭素数1〜3のアルコキシ基から選ばれる基であり、複数個のR5aは同一でも異なっていても良い。R5bはSiと直接結合する炭素数1〜5のアルキレン基である。x及びyは、それぞれの構成単位の平均重合度を示す数であり、該化合物の25℃における粘度が90〜20000mm2/s、アミノ当量が400〜8000になるように選ばれる。]
(iii)ポリオキシアルキレン鎖を側鎖、または主鎖に有するポリエーテル変性シリコーン
ポリエーテル変性シリコーンとしては、一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、Zは、それぞれ独立に−R6a、−O−R6a、−OH、−O−X−R6a、又は−O−X−Hであり、R6aは、それぞれ独立に飽和あるいは不飽和の直鎖又は分岐の炭素数1〜4の1価炭化水素基、Xはポリオキシアルキレン基(アルキレン基の炭素数2〜4)である。Yは、−R6b−O−X−R6c又は−O−X−R6cであり、R6bは炭素数1〜4の飽和あるいは不飽和の直鎖又は分岐の2価炭化水素基、R6cは水素原子又は炭素数1〜4の飽和あるいは不飽和の直鎖又は分岐の1価炭化水素基である。sは0〜50、tは1〜1000、uは10〜10000である。)
(iv)アルキル変性シリコーン
アルキル変性シリコーンとしては、一般式(7)で表される化合物が挙げられる。
【0024】
【化3】

【0025】
(式中、R7aは炭素数4〜30、好ましくは6〜20、より好ましくは8〜12のアルキル基である。)
(v)25℃における粘度が50〜30000mm2/sであり、変性基当量(COOH1つ当たりの分子量)が400〜10000のカルボキシ変性シリコーン
これらシリコーン化合物の中では、(i)、(ii)及び(iii)が好ましい。
【0026】
[界面活性剤]
本発明に用いられる界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤のいずれをも使用することができる。
【0027】
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、高級脂肪酸ショ糖エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、高級脂肪酸モノ又はジエタノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、アルキルサッカライド系界面活性剤、アルキルアミンオキサイド、アルキルアミドアミンオキサイド等が挙げられる。これらのうち、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが特に好ましい。
【0028】
アニオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル又はアルケニルエーテル硫酸塩、アルキル又はアルケニル硫酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、飽和又は不飽和脂肪酸塩、アルキル又はアルケニルエーテルカルボン酸塩、α−スルホン脂肪酸塩、N−アシルアミノ酸型界面活性剤、リン酸モノ又はジエステル型界面活性剤、スルホコハク酸エステル等が挙げられる。アニオン界面活性剤の対イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン;炭素数2又は3のアルカノール基を1〜3個有するアルカノールアミン(例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等)を挙げることができる。
【0029】
カチオン界面活性剤としては、一般式(8)で表される第4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0030】
【化4】

【0031】
〔式中、R8a及びR8bは各々独立して水素原子、炭素数1〜28のアルキル基又はベンジル基を示し、同時に水素原子又はベンジル基となる場合、及び、炭素数1〜3の低級アルキル基となる場合を除く。An-はアニオンを示す。〕
一般式(8)において、R8a及びR8bは、その一方が炭素数16〜24、更には22のアルキル基、特に直鎖アルキル基であるのが好ましく、また他方は炭素数1〜3の低級アルキル基、特にメチル基であるのが好ましい。アニオンAn-としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン;メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、炭酸メチルイオン、サッカリネートイオン等の有機アニオン等が挙げられ、ハロゲン化物イオン、特に塩化物イオンが好ましい。
【0032】
カチオン界面活性剤としては、モノ長鎖アルキル四級アンモニウム塩が好ましく、具体的には、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化アラキルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、特に塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウムが好ましい。
【0033】
両性界面活性剤としてはイミダゾリン系、カルボベタイン系、アミドベタイン系、スルホベタイン系、ヒドロキシスルホベタイン系、アミドスルホベタイン系等が挙げられる。
【0034】
これらの界面活性剤のうち、乳化能(アルコキシシラン(1)、有機酸、シリコーン化合物、水及び界面活性剤の混和性)の点から、HLB9〜15、特に11〜14の非イオン界面活性剤が好ましい。なお、ここでのHLBは、グリフィンの方法による計算値を示す。
界面活性剤は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0035】
[繊維製品処理剤]
本発明の繊維製品処理剤は、アルコキシシラン(1)、有機酸、シリコーン化合物、界面活性剤及び水を配合してなる。また、本発明の繊維製品処理剤が二剤式の場合、アルコキシシラン(1)を含有する第1剤と、有機酸、シリコーン化合物、界面活性剤及び水を含有する第2剤から構成される。
【0036】
本発明の繊維製品処理剤中のアルコキシシラン(1)の含有量は、架橋反応による反応性の点から、本発明の繊維製品処理剤中(二剤式の場合には第1剤と第2剤を合わせた全組成中;以下同じ)の4重量%以上、特に12重量%以上が好ましく、また82重量%以下、特に58重量%以下が好ましい。また、第1剤中のアルコキシシラン(1)の含有量は、保存安定性の点から、70〜100重量%、更には80〜100重量%、特に90〜100重量%が好ましい。
【0037】
本発明の繊維製品処理剤中の有機酸の含有量は、重合反応の抑制の点から、0.001〜5重量%が好ましく、0.001〜1重量%がより好ましい。有機酸は、本発明の繊維製品処理剤が二剤式の場合には、第1剤に配合されるアルコキシシラン(1)とは別個に第2剤に配合することが溶解性、保存安定性の点から好ましい。
【0038】
本発明の繊維製品処理剤中のシリコーン化合物の含有量は、性能発現の視点からアルコキシシラン(1)の配合量に対し、0.5〜50重量%が好ましく、1.0〜30重量%が更に好ましい。
【0039】
本発明の繊維製品処理剤中の界面活性剤の含有量は、混合時の乳化、加水分解の促進の点から、0.1〜20重量%が好ましく、0.5〜15重量%がより好ましく、1〜10重量%が更に好ましい。
【0040】
本発明の繊維製品処理剤中の水の含有量は、繊維を十分に膨潤させ、アルコキシシラン(1)の加水分解で生成するシラノール化合物(2)を繊維へ十分浸透させる観点から、30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上が更に好ましく、70重量%以上が特に好ましい。上限は、95重量%以下であることが好ましく、90重量%以下が更に好ましく、86重量%以下が特に好ましい。
【0041】
本発明の繊維製品処理剤中の水は、本発明の繊維製品処理剤が二剤式の場合には、第1剤に配合されるアルコキシシラン(1)とは別個に、第2剤に配合される。
【0042】
本発明の繊維製品処理剤には、その他、pH調整剤、油剤、カチオン性ポリマー、保湿剤、粘度調整剤、香料、色素、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤等を、目的に応じて適宜配合することができる。
【0043】
本発明の繊維製品処理剤は、アルコキシシラン(1)を加水分解させ、シラノール化合物(2)を生成させる必要性、及びシラノール化合物(2)を繊維内に浸透させて繊維内で重合反応を行わせるために、重合反応を遅らせる必要がある。このために20℃におけるpHは2〜5に調整され、3〜4が好ましい。なお、二剤式の場合には第2剤の20℃におけるpHが上記範囲に調整される。
【0044】
本発明の繊維製品処理剤の形態は、長期間の安定性を確保する点から、アルコキシシラン(1)を含有する第1剤と、有機酸、シリコーン化合物、界面活性剤及び水を含有し、20℃におけるpHが2〜5である第2剤から構成される二剤式が好ましい。
【0045】
また、使用直前にアルコキシシラン(1)、有機酸、シリコーン化合物、界面活性剤及び水、必要によりその他任意成分を混合し、pHを2〜5とすることによって調製されたものであってもよい。
【0046】
本発明の繊維製品処理剤を二剤式とする場合、界面活性剤は第2剤に含有させることが好ましいが、第1剤が水分を含有しない場合は第1剤に含有させることもできる。また、その他の任意成分も、第2剤に含有させることが好ましいが、非水系の液体成分や固体成分であれば、第1剤中に配合することもできる。
【0047】
[繊維製品の処理方法]
本発明の繊維製品の処理方法は、本発明に係わる繊維製品処理剤、又は本発明に係わる第1剤と第2剤の混合液で繊維製品を処理する際、アルコキシシラン(1)の加水分解で生成するシラノール化合物(2)を繊維内部に浸透させる方法である。
【0048】
本発明において処理に適する繊維製品を構成する繊維の種類は、木綿、麻、絹、獣毛等の天然繊維、レーヨン、アセテート、キュプラ等の再生セルロース繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン等の合成繊維、及びこれらの混紡繊維が挙げられる。これらの中でも特に、木綿、絹、獣毛等の天然繊維が処理に適する。
【0049】
本発明の繊維製品処理剤で繊維を処理するには、本発明の二剤式繊維製品処理剤の第1剤及び第2剤を使用前に混合後、又はアルコキシシラン(1)、有機酸、シリコーン化合物、界面活性剤及び水、必要によりその他任意成分を使用前に混合後、振とう等の手段により攪拌混合して得られた混合物を繊維に接触させるのが好ましい。繊維に処理剤を接触させる方法は、繊維を処理剤に浸漬する方法、繊維に処理剤を噴霧する方法等が挙げられる。
【0050】
本発明の繊維製品処理剤で繊維を処理して、繊維にシラノール化合物(2)を浸透させた後は、衣類乾燥機もしくは洗濯乾燥機で乾燥させるか、あるいはアイロン掛けを行うことによりシラノール化合物(2)の重合反応を促進させることができる。
【実施例】
【0051】
実施例1
(1)処理剤の調製
ビーカーにイオン交換水138.6重量部、、ポリエーテル変性シリコーン(商品名:KF352A 信越化学工業株式会社製 粘度1600mm2/s)5重量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王(株)製 エマルゲン10810重量部、アジピン酸1.5重量部を添加し、室温で攪拌して溶解させて第2剤(pH(20℃におけるpH、以下同じ)4.0)を製造し、次にメチルトリエトキシシラン35重量部及びジメチルジエトキシシラン15重量部からなる第1剤と混合した。この混合物を、40℃恒温水槽中で約1時間攪拌して処理剤1を得た。
【0052】
また、ポリエーテル変性シリコーンの代わりに、アミノ変性シリコーン(商品名:KF864 信越化学工業株式会社製 粘度1700mm2/s、アミノ当量3800)又はジメチルポリシロキサン(商品名:SH−200 東レ・ダウコーニング社製 粘度10000mm2/s)を用いる以外は同様にして処理剤2、3を得た。
【0053】
(2)繊維製品への処理、並びに柔軟性及び吸水性の評価
直径が約30cmのタライに、(1)で調製した処理剤1〜3の溶液200gと、水道水800gを加えよく攪拌したところに、木綿タオル3枚(約250g)を漬け込み、そのまま室温で約1時間処理した。脱水後、タオルをタンブル式乾燥機(National NH-D502)で加温しながら乾燥させた。その後、衣料用洗剤(商品名:アタック、花王株式会社製)で5回洗濯を繰り返した後、下記方法で柔軟性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
また、これらタオルを、JIS L1907(繊維製品の吸水性試験法)に基づき、吸水性能を評価した。結果を表2に示す。
【0055】
<柔軟性評価法>
上記の処理を行ったタオルについて、市販されている柔軟仕上げ剤(商品名:ハミング 1/3、花王株式会社製)を用い、全自動洗濯機で通常の柔軟化処理を施した木綿タオル、及び柔軟化処理後、衣料用洗剤で5回洗濯を繰り返した木綿タオルを対照として、柔軟性を専用パネラー5名によって下記基準で官能評価した。
【0056】
・評価基準
+2点:対照に比べ柔らかい
+1点:対照に比べやや柔らかい
0点:対照と比べ同等
−1点:対照に比べやや硬い
−2点:対照に比べ硬い
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表1から明らかなように、本発明の処理剤1〜3は、市販柔軟仕上げ剤と同等の性能を有し、且つ、その効果に持続性があることがわかる。また、表2に示すように、本発明の処理剤1〜3で処理したタオルは吸水性を損なわないことがわかる。
【0060】
実施例2
(1)処理剤の調製
実施例1の(1)と同様にして処理剤1〜3を調製した。
【0061】
(2)繊維製品への処理、及び堅牢性の評価
・ケース1:高濃度での1回処理
洗濯機(National MiniMini NA-35)に、(1)で調製した処理剤1〜3の溶液500gと、水道水3000gを加えよく攪拌したところに、木綿ポロシャツ(青色)3枚(約1000g)を入れ、30分間攪拌しながら浸漬した。脱水後、ポロシャツをタンブル式乾燥機(National NH-D502)で加温しながら乾燥させた。その後、洗濯してタンブル乾燥機で乾燥するという工程を20回繰り返した後、下記方法で堅牢性の評価を行った。
【0062】
・ケース2:低濃度で累積処理
洗濯機(National MiniMini NA-35)に、(1)で調製した処理剤1〜3の溶液25.4gと、水道水3450gを加えよく攪拌したところに、木綿ポロシャツ(青色)3枚(約1000g)を入れ、30分間攪拌しながら浸漬した。脱水後、ポロシャツをタンブル式乾燥機(National NH-D502)で加温しながら乾燥させた。その後、洗濯して、同じ条件で処理し、それをタンブル乾燥機で乾燥するという工程を20回繰り返した後、下記方法で堅牢性の評価を行った。
【0063】
<堅牢性評価法>
処理剤で処理をせず、洗濯してタンブル乾燥機で乾燥するという工程を20回繰り返したポロシャツを対照として、毛羽立ちやくたびれ感を専用パネラー5名によって下記基準で視覚判定した。結果を表3に示す。
【0064】
・評価基準
+2点:対照に比べ毛羽立ちやくたびれ感が少ない
+1点:対照に比べやや毛羽立ちやくたびれ感が少ない
0点:対照と比べ同等
−1点:対照に比べやや毛羽立ちやくたびれ感が多い
−2点:対照に比べ毛羽立ちやくたびれ感が多い
【0065】
【表3】

【0066】
実施例3
(1)処理剤の調製
ビーカーにイオン交換水138.6重量部、ポリエーテル変性シリコーン(商品名:KF352A 信越化学工業株式会社製 粘度1600mm2/s)5重量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王(株)製 エマルゲン10810重量部、アジピン酸1.5重量部を添加し、室温で攪拌して溶解させて第2剤(pH4.0)を製造し、次にメチルトリエトキシシラン50重量部からなる第1剤と混合した。この混合物を、40℃恒温水槽中で約1時間攪拌して処理剤を得た。
【0067】
(2)繊維製品への処理、及び防縮性の評価
直径が約30cmのタライに、(1)で調製した処理剤溶液200gと、水道水800gを加えよく攪拌したところに、ウールジャージ1枚(約250g)を漬け込み、そのまま室温で約1時間処理した。軽く脱水後、アイロン(National N1-R41)を用い、中温度設定で乾燥させた。次に一般に市販されている軽質洗剤(商品名:エマール、花王株式会社製)を用い、全自動洗濯機の手洗いコースで洗濯した後、平干し乾燥させた。更に、(1)で調製した処理剤溶液の添加量を、100g、及び20gと変え(水道水でバランスし、総量で1000gとした)、同様の処理を行った。
【0068】
次に衣料をウールジャージ1枚(約250g)から綿ニット肌着2枚(約250g)に変え、同様の処理を行った。
【0069】
図1に示すように、各衣料には、処理する前に予め衣料中央に四角形のマーキング1を施し、四角形の面積(S1)を算出しておく。次に、洗濯、平干し乾燥後の四角形の面積(S2)も同様に算出し、以下の式から防縮率を算出した。防縮率が高いほど、防縮性に優れることになる。結果を表4に示す。
【0070】
【数1】

【0071】
【表4】

【0072】
実施例4
(1)処理剤の調製
実施例3の(1)と同様にして処理剤を調製した。
【0073】
(2)繊維製品への処理、及び速乾性の評価
直径が約30cmのタライに、(1)で調製した処理剤溶液200gと、水道水800gを加えよく攪拌したところに、綿ニット肌着2枚(約250g)を漬け込み、そのまま室温で約1時間処理した。軽く脱水後、タンブル乾燥機で乾燥させた。次に一般に市販されている衣料用洗剤(商品名:アタック、花王株式会社製)を用い、全自動洗濯機で洗濯した。洗濯後、綿ニット肌着を20℃、65%RHの標準試験室に移し、吊り干し乾燥させた。このとき、経時の含水量の変化を測定した。また、本発明の処理剤で処理しない綿ニット肌着についても同様に洗濯及び吊り干し乾燥を行い、経時の含水量の変化を測定して、乾燥速度を比較した。結果を図2に示す。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例3の防縮性の評価に用いた衣料の正面図である。
【図2】実施例4の速乾性の評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 マーキング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
1pSi(OR2)4-p (1)
〔式中、R1及びR2は、炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又は炭素数2〜6の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基を示し、p個のR1及び(4−p)個のR2は同一でも異なってもよい。pは0〜3の整数を示す。〕
で表されるアルコキシシラン(以下アルコキシシラン(1)という)、有機酸、シリコーン化合物、界面活性剤、及び水を配合してなり、20℃におけるpHが2〜5の繊維製品処理剤。
【請求項2】
請求項1記載のアルコキシシラン(1)を含有する第1剤と、有機酸、シリコーン化合物、界面活性剤及び水を含有し、20℃におけるpHが2〜5である第2剤からなる繊維製品処理剤。
【請求項3】
請求項1記載の繊維製品処理剤、又は請求項2記載の第1剤と第2剤の混合液で繊維製品を処理する際、アルコキシシラン(1)の加水分解で生成する一般式(2)
1pSi(OH)n(OR2)4-p-n (2)
〔式中、R1、R2及びpは請求項1と同じ意味を示し、nは1以上(4−p)以下の整数を示す。p個のR1及び(4−p−n)個のR2は同一でも異なってもよい。〕
で表されるシラノール化合物(以下シラノール化合物(2)という)を繊維内部に浸透させる繊維製品の処理方法。
【請求項4】
繊維にシラノール化合物(2)を浸透させた後、シラノール化合物(2)の重合反応を衣類乾燥機もしくは洗濯乾燥機を用いて行う、請求項3記載の繊維製品の処理方法。
【請求項5】
繊維にシラノール化合物(2)を浸透させた後、シラノール化合物(2)の重合反応をアイロン掛けで行う、請求項3記載の繊維製品の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−284818(P2007−284818A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112900(P2006−112900)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】