説明

織機における耳糸開口方法及び装置

【課題】織機停止後の耳糸にかかる張力の増大を最小限に抑え、耳糸開口装置の駆動モータへの負荷を軽減し、織耳組織の損傷を解消することに有る。
【解決手段】織機停止後、インチング信号発生部59からインチング信号が発信されると、演算処理部53はモータ駆動回路63にインチング運転の指令、第2耳糸開口パターンへの変更指令及び第2耳糸開口パターンの駆動信号を発信する。モータ駆動回路63は織機の運転停止直前に近接スイッチ50から発信され、記憶されているサーボモータ7の回転方向と同方向への回転指令と第2耳糸開口パターンに基づく駆動を指令する。従って、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2は緯入れ毎に閉口位置に駆動されるため、各耳糸群が緯入れ2回以上開口状態に維持されることは無く、サーボモータ7に耳糸張力による大きな負荷がかからない。また、緯糸端の長時間に亘る開放が防止され、織耳組織の損傷を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、織布の織端に配設した第1耳糸群と第2耳糸群を専用モータによって相反する方向に駆動するように構成した耳糸開口装置の耳糸開口方法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2本の耳織成糸8、9を専用の駆動モータ12によって上下に駆動する耳織製装置が開示されている。
特許文献1の耳織成装置は制御装置18、19によって駆動モータ12を制御することにより、緯入れ1回毎に耳糸を相反する方向に駆動する耳糸開口パターン(以下1×1織りという)、緯入れ1回で耳糸を相反する方向に駆動し、続く2回の緯入れ期間の間開口状態を維持する耳糸開口パターン(以下1×2織りという)、緯入れ2回毎に耳糸を相反する方向に駆動し、2回の緯入れ期間の間は耳糸の開口を維持する耳糸開口パターン(以下2×2織りという)等の種々の織耳組織を形成できることが記載されている。
【特許文献1】特表平10−503563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示された耳糸開口装置において、前記した1×2織りや2×2織り等の耳糸開口パターンが設定されている場合、複数回の緯入れ期間中、耳糸は開口状態を継続しているため、耳糸張力の増大により耳糸開口装置の駆動モータが大きな負荷を受けることになる。しかし、織機の運転中は比較的早い織製速度で耳糸が進行しているため、特に問題が発生することは無い。
【0004】
織機が自動又は手動操作により停止した時、必要に応じて停止状態が一定時間継続されたり、所定の作業を行うために正転方向あるいは逆転方向のインチング運転が頻繁に行われたりする。インチング運転は織機運転時に比して非常に低い速度で行われるが、耳糸開口装置も織機の運転に同期して作動し、耳糸開口運動が低速で行われる。
【0005】
前記1×2織りあるいは2×2織り等の耳糸開口パターンが設定されている耳糸開口装置は、織機停止後のインチング運転においても同じ耳糸開口パターンによって低速の耳糸開口運動を行うことになる。このため、耳糸の開口継続時間が通常の織機運転時よりも長くなり、耳糸開口装置の駆動モータは開口により増大した耳糸張力による大きな負荷を長時間に亘って受けることになり、駆動モータには多くの電流が流れ、電力消費量が増大する。
【0006】
また、低速のインチング運転中に耳糸の開口状態が継続されるため、織耳組織に織り込まれている緯糸端が長時間自由状態となり、緯糸縮みによる織耳組織の損傷が発生する。特に、緯糸端を次の緯入れタイミングで開口内に引き込むタックイン耳の仕様の場合は緯糸端が織耳組織から完全に抜けたり、一部がひげ状に織耳組織外へ飛び出すなどの織耳組織の損傷が発生する。
さらに、耳糸は自身の過大な張力により伸張したり、筬との間で強くこすられ、糸切れを発生する恐れ等が増大する。
【0007】
一方、織機停止時は、耳糸を開口位置に維持するタイミングである場合が多い。従って、織機の停止期間中、耳糸は開口状態を継続することになる。このため、耳糸開口装置の駆動モータには長時間に亘って耳糸張力による負荷がかかり、前記したインチング運転時以上に多くの電流が流れ、電力消費量の増大につながる。また、前記インチング運転時と同様の原因により、織耳組織の損傷や耳糸の損傷が発生する恐れが増大する。
【0008】
本願発明の目的は、織機停止後の耳糸にかかる張力の増大を最小限に抑え、耳糸開口装置の駆動モータへの負荷を軽減し、織耳組織の損傷を解消することに有る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載した本願発明は、専用の駆動モータに連結され、織機の運転中、織端に配置された第1耳糸群と第2耳糸群が2回以上の緯入れ期間の間開口位置に維持される第1耳糸開口パターンによって駆動される耳糸開口装置において、織機停止後のインチング運転時に、織機の経糸開口運動と同期して1回の緯入れ期間毎に前記第1耳糸群と第2耳糸群の閉口状態を形成する第2耳糸開口パターンに変更して耳糸開口運動を行い、織機の再起動時には前記第1耳糸開口パターンに復元して耳糸開口運動を行うことを特徴とする。
【0010】
従って、請求項1に記載した本願発明は、インチング運転中、織機の運転中と異なる耳糸開口パターンによって耳糸開口運動を行い、耳糸開口状態を最小限に抑えることにより耳糸張力の増大を最小限に抑えることができるので、耳糸開口装置の駆動モータへの負荷を軽減し、また織耳組織の損傷を解消することができる。
【0011】
請求項2に記載した本願発明は、前記織機停止後、インチング運転時以外は前記第1耳糸群と第2耳糸群を閉口位置に維持することを特徴とする。
従って、インチング運転中に加えて、停止中においても耳糸張力の増大を抑えることができ、耳糸開口装置の駆動モータへの負荷を軽減し、また織耳組織の損傷を解消することができる。
請求項3に記載した本願発明は、前記第2耳糸開口パターンは前記第1耳糸群及び第2耳糸群の開口方向を織機運転中のの前記第1耳糸開口パターンの耳糸開口方向と同一にし、かつ1回の緯入れ期間毎に閉口状態を形成するパターンであることを特徴とする。
従って、インチング中の耳糸開口方向は織機運転中の第1耳糸開口パターンと同一方向であるため、緯糸端は各緯入れ期間毎に開放され、インチング運転に伴う緯糸除去が順次行われる。
【0012】
請求項4に記載した本願発明は、専用の駆動モータに連結され、織機の運転中、織端に配置された第1耳糸群と第2耳糸群が2回以上の緯入れ期間の間開口位置に維持される第1耳糸開口パターンによって駆動される耳糸開口装置において、前記専用モータに備えたモータ駆動回路と、前記第1耳糸開口パターン及び1回の緯入れ期間毎に第1耳糸群と第2耳糸群の閉口状態を形成する第2耳糸開口パターンを記憶する記憶部、織機の起動時に前記第1耳糸開口パターンを選択し、織機停止後のインチング運転時に前記第2耳糸開口パターンを選択するプログラムを記憶した記憶部及び選択された前記第1耳糸開口パターンあるいは第2耳糸開口パターンに基づく耳糸開口運動を指令する演算処理部を備えた制御装置とを設け、前記制御装置を前記モータ駆動回路に接続したことを特徴とする。
【0013】
従って、請求項4に記載した本願発明は、複数の異なる耳糸開口パターンと特定の耳糸開口パターンの選択プログラムを記憶させた制御装置を備えるという簡素な構成により、耳糸開口装置の駆動モータへの負荷を軽減し、また織耳組織の損傷を解消することができる。
【0014】
請求項5に記載した本願発明は、前記制御装置に、織機の停止中は前記第1耳糸群と第2耳糸群を閉口位置に維持する第3耳糸開口パターンを記憶する記憶部を備えたことを特徴とする。
従って、簡素な構成により、織機停止中の耳糸張力の増大を抑えることができ、耳糸開口装置の駆動モータへの負荷を軽減し、また織耳組織の損傷を解消することができる。
請求項6に記載した本願発明は、前記第2耳糸開口パターンは前記第1耳糸群及び第2耳糸群の開口方向を織機運転中のの前記第1耳糸開口パターンの耳糸開口方向と同一にし、かつ1回の緯入れ期間毎に閉口状態を形成するパターンであることを特徴とする。
従って、インチング中の耳糸開口方向は織機運転中の第1耳糸開口パターンと同一方向であるため、緯糸端は各緯入れ期間毎に開放され、インチング運転に伴う緯糸除去が順次行われる。
【発明の効果】
【0015】
本願発明は、織機運転中と織機停止後の耳糸開口装置における耳糸開口パターンを変更することにより、耳糸の張力増大を最小限に抑えることができ、耳糸開口装置の駆動モータへの負荷を軽減し、また織耳組織の損傷を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。
図1及び図2は、図示しない経糸開口用綜絖枠の端部側に位置し、かつ綜絖枠の織機前方側に配置された耳糸開口装置を示す。
織機のフレームの一部を形成するトップレール1にコの字状に形成された取付板2及び平板上の取付板3が織機後方側(図1の左側)に向けて重ねられ、上下に垂立した状態でボルト4により固定される。取付板3の前面(図1の右側に向く面)にはL字型の取付ブラケット5がボルト6によって固定されている。
【0017】
耳糸開口装置専用の駆動モータであるサーボモータ7は取付ブラケット5上にボルト8で固定され、サーボモータ7のモータ軸9は取付板3側に向けて突出され、その先端に小径のギヤ10を有する。サーボモータ7は所定角度で往復回転するように制御される。
取付板3の上部には大径のギヤ13を備えた軸11が取付板3の前面に固定された軸受12によって回転可能に支持されている。大径ギヤ13はモータ軸9に備えた小径ギヤ10と噛合し、減速ギヤ列を構成する。
【0018】
軸11は取付板3の背面(図1の左側に向く面)にも突出し、その先端にスリーブ14を介して直方体に形成したレバー形状の回転体15がボルト(図示せず)によって固定されている。回転体15は図2(a)に示すように、軸11を中心に一方に突出したアームに半径方向に位相の異なる2つの取付孔16を有し、他方のアームの対称位置にも同様の2つの取付孔16を有する。
また、回転体15の端面には磁石又は磁性体51(以下、単に磁性体51と呼称する)が埋設され、回転体15の回転軌跡の外方に磁性体51に対応して耳糸開口角度検出センサーとしての近接スイッチ50が配設されている。近接スイッチ50の配設位置は、図2(a)のように、回転体15が後述する第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2(図1参照)を閉口状態の位置に駆動した時に磁性体51を検出する位置である。
【0019】
取付板3の下方には軸19が取付板3の前面に固定された軸受20によって回転可能に支持されている。軸19は取付板3の背面に突出し、その先端にレバー形状の揺動部材21がボルト22によって固定されている。
揺動部材21の配設位置は回転体15と同一平面上となるように設定されている。この設定は例えば、スリーブ14の長さを選択することにより適正に行うことができる。
【0020】
回転体15の選択された取付孔16にはリンク17の一端がボルト18及び軸受(図示せず)により回転可能に取り付けられ、回転体15とリンク17によってクランクを構成する。また、リンク17の最大長は回転体15の回転軌跡の径よりも長く設定されている。なお、リンク17は取付孔16の選択によって移動量が設定される。
【0021】
リンク17の他端は揺動部材21にボルト23(図2(a)参照)によって回転可能に取り付けられる。リンク17の他端の取付位置は揺動部材21の回動支点となる軸19に近い位置が選択されている。軸19からリンク17を揺動部材21に取付ける位置までの距離はその選択によって、リンク17の回転体15側への取付位置と共に揺動部材21の揺動量を決定する要素となる。また、リンク17の取付位置を揺動部材21の揺動支点(軸19)に近づけることは負荷や振動、衝撃を回転体15側に伝えにくくする効果を期待できる。
【0022】
一方、取付板2の窪み部には下方に延びる案内体28の上端がボルト29によって固定される。案内体28の詳細は図2(a)のA−A線断面図である図2(b)に示す。案内体28はその背面に案内体28の長手方向全域に延びるT字型の第1案内溝30を刻設し、前面に同じく案内体28の長手方向全域に延びるT字型の第2案内溝31を刻設したものである。
【0023】
案内体28の第1案内溝30には所定の長さを有する第1摺動体32が装着されて上下方向の直線運動が可能なように案内され、また、第2案内溝31には同じく所定長さを有する第2摺動体33が装着されて上下方向の直線運動が可能なように案内される。
第1摺動体32及び第2摺動体33は共にカーボンテープで構成され、高強度及び無潤滑性能により高い耐久性を有する。
【0024】
揺動部材21と第1摺動体32を連結する第1ロッド24はその上端が揺動部材21の一方のアーム(図2(a)の左側)端部の背面側にボルト26及び軸受(図示せず)によって回転可能に取り付けられ、下端が第1摺動体32の上部背面側にピン34によって回転可能に取り付けられる。
【0025】
また、同様に揺動部材21と第2摺動体33を連結する第2ロッド25はその上端が揺動部材21の他方のアーム(図2(a)の右側)端部の前面側にボルト27及び軸受(図示せず)によって回転可能に取り付けられ、下端が第2摺動体33の上部前面側にピン35によって回転可能に取り付けられる。
【0026】
第1ロッド24及び第2ロッド25は揺動部材21と第1摺動体32、第2摺動体33とに連結された状態で取付板2の窪み部に収容された状態にある。また図1に示すように、第2ロッド25が案内体28の前面と取付板2の窪み部背面との間に収容されるように、案内体28は所定の厚みを有するブロック(図示せず)を介在して窪み部に固定されている。
【0027】
第1摺動体32の上端及び下端には横方向に延びる所定長さの第1上枠36及び第1下枠37の一端がそれぞれブロック38及び39(図1参照)を介在してボルト40及び41によって固定されている。第1上枠36及び第1下枠37は案内体28の背面側方に突出した状態にあり、その部分に糸通し孔43(図2(a)参照)を備えた複数本の綜絖42が上下に架設されている。
なお、図2では綜絖42を便宜上3本のみ示したが、実際には80本程度まで使用されており、多くは40本以上の綜絖が使用されている。
【0028】
同様に、第2摺動体33の上端及び下端には横方向に延びる所定長さの第2上枠44及び第2下枠45の一端がそれぞれブロック46及び47を介在してボルト48及び49によって固定されている。第2上枠44及び第2下枠45は案内体28の前面側方に突出した状態にあり、第1上枠36及び第1下枠37の場合と同数の綜絖(図示せず)が上下に架設されている。
【0029】
図2(b)から明らかなように、第1上枠36、第1下枠37及び第2上枠44、第2下枠45は薄い板を案内体28から側方に突出させた構成であるため、これらの枠のみを図示しない最前列の経糸用綜絖枠と筬との間に配置すればよく、織機前後方向の大きなスペースを必要としない利点がある。
【0030】
各綜絖42の糸通し孔43にはそれぞれ図1に示す第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2が挿通されており、第1上枠36及び第1下枠37側の綜絖42と第2上枠44及び第2下枠45側の綜絖が相反する方向に上下動することにより耳糸開口部が形成され、ここに図示しない緯糸が挿入されて織耳組織Wが織製される。
【0031】
次にサーボモータ7を駆動する制御装置52について、図1を参照し、説明する。
制御装置52は、演算処理部53、読み出し専用の記憶部54、書き込み可能な記憶部55、入力インターフェース56、出力インターフェース57及びデータ入力装置62を備えたコンピュータである。
【0032】
記憶部55には、データ入力装置62の入力操作により、1×1織り、1×2織り、2×2織り、3×3織り等、種々の耳糸開口パターンが記憶されている。また、記憶部54には耳糸開口パターンの選択操作、サーボモータ7の作動制御方法等各種のプログラムが記憶されている。各記憶部54、55は演算処理部53と接続する。
なお、本願発明の説明では、1×2織り、2×2織り等の第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2が2回以上の緯入れ期間の間開口状態を継続する耳糸開口パターンを第1耳糸開口パターンと総称し、1×1織りのように第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2が緯入れ毎に相反する方向に駆動されて開口する耳糸開口パターンを第2耳糸開口パターンと呼称する。
【0033】
入力インターフェース56には、織機の起動ボタン等の起動信号発生部58、織機停止中に操作する逆転あるいは正転インチングボタン等のインチング信号発生部59、織機の停止ボタン、緯糸切れ検出スイッチ、経糸切れ検出スイッチ等の停止信号発生部60、ロータリーエンコーダやアブソリュートエンコーダ等を用いた織機の回転角度検出センサー61及び耳糸の開口角度検出センサーである近接スイッチ50の信号線が接続されている。
【0034】
入力インターフェース56は演算処理部53に接続し、入力信号を伝達する。また、演算処理部53は出力インターフェース57を介してサーボモータ7のモータ駆動回路63に接続し、モータ駆動指令信号を伝達する。
【0035】
以上のように構成された第1の実施形態の作用を以下に説明する。
耳糸開口装置の制御装置52には、織耳組織の仕様として第1耳糸開口パターンである2×2織りが設定されているものとする。
織機の運転中は、織機の回転角度検出センサー61からの信号に基づき経糸開口運動との同期が取られ、演算処理部53から2×2織りの駆動指令信号が出力される。モータ駆動回路63は駆動指令信号を受けてサーボモータ7に、正転方向に所定量回転した後、2回の緯入れ期間の間その回転位置を維持し、次に逆転方向に所定量回転した後、続く2回の緯入れ期間の間その回転位置を維持するサイクルを繰り返すように回転指令信号を出力する。
【0036】
サーボモータ7が正転方向に回転すると、駆動ギヤ10から被動ギヤ13を介して回転体15を一方向へ回動する。この時、近接スイッチ50は磁性体51の通過を検出し、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2が正転方向で閉口したことを示す正転方向閉口タイミング信号を入力インターフェース56に入力する。
回転体15の回動は、リンク17を介して揺動部材21を軸19を揺動支点として揺動する。揺動部材21の図2(a)における反時計回りの揺動は第1ロッド24を介して第1摺動体32を下方に押し下げ、綜絖42とともに糸通し孔43に保持された第1耳糸群Y1を下方に駆動する。
一方、第2ロッド25を介して第2摺動体33が上方に引き上げられ、図示しない綜絖とともに第2耳糸群Y2を上方に駆動する。
第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2の開口位置は、サーボモータ7が前記したように正転方向の位置に維持されるため、2回の緯入れ期間N+1、N+2の間維持される(図3の運転中のN+1及びN+2参照)。
【0037】
2回の緯入れ期間が終了すると、サーボモータ7が逆転方向に回転し、回転体15が逆転方向に回動される。この時、近接スイッチ50は磁性体51の通過を検出し、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2が逆転方向で閉口したことを示す逆転方向閉口タイミング信号を入力インターフェース56に入力する。
回転体15の逆転は揺動部材21を反転し、第1耳糸群Y1を上方に駆動するとともに第2耳糸群Y2を下方に駆動する。この第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2の開口位置は、サーボモータ7が逆転方向の位置に維持されるため、続く2回の緯入れ期間N+3、N+4の間維持される(図3の運転中のN+3及びN+4参照)。
耳糸開口装置は以上の耳糸開口運動のサイクルを継続することにより、図示しない緯糸と共に2×2織りの織耳組織Wを織製する。
【0038】
織機の運転中に停止信号発生部60から入力インターフェース56に停止信号が入力されると、演算処理部53は、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2を閉口状態にする耳糸開口パターン(本願発明ではこの開口パターンを第3耳糸開口パターンと呼称する)を記憶部55から読み出すとともに、第3耳糸開口パターンに基づいた駆動信号をモータ駆動回路63に発信する。
【0039】
モータ駆動回路63は第3耳糸開口パターンの駆動指令を受けているため、停止信号の受信後もサーボモータ7を駆動し、近接スイッチ50からの検出信号が制御装置52に入力された時点でサーボモータ7を停止し、その停止位置を維持する。従って、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2は閉口状態に維持される。このため、サーボモータ7には耳糸張力による大きな負荷がかからない。また、緯糸端は各耳糸群によって把持された状態にあるので、織耳組織の損傷を防ぐことができる。なお、近接スイッチ50からの検出信号入力によってサーボモータ7を停止させるのではなく、耳糸開口パターンの閉口位置に対応するサーボモータ7の回転位置でサーボモータ7を停止させてもよい。この場合は近接スイッチ50の信号入力は不要となる。
【0040】
織機の停止後、インチング信号発生部59から入力インターフェース56に逆転方向のインチング信号が入力すると、演算処理部53は、記憶部55から第2耳糸開口パターンを読み出すとともに、モータ駆動回路63に第2耳糸開口パターンに基づき逆転方向のインチング運転を指令する。モータ駆動回路63は前記した織機の運転停止直前に近接スイッチ50が検出し、記憶部55に記憶されているサーボモータ7の回転方向と反対方向への回転を指令する。なお、正転方向のインチング信号が入力された場合、モータ駆動回路63は織機の運転停止直前に検出したサーボモータ7の回転方向と同方向への回転を指令する。インチング動作が更に継続される場合には、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2は第2耳糸開口パターンに基づいて緯入れ期間毎に相反する方向に駆動される。 従って、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2は織機のインチング運転に同期して緯入れ毎に相反する方向に駆動される(図3の逆転後のN+3、N+2、N+1参照)。このため、各耳糸群が開口状態に維持されることは無く、サーボモータ7に耳糸張力による大きな負荷がかからない。また、緯糸端の長時間開放状態の発生が防止されるので、織耳組織の損傷を防ぐことができる。
【0041】
インチング運転の停止後は前記織機運転停止時と同様に、演算制御部53は記憶部55から読み出された第3耳糸開口パターンに基づいて、サーボモータ7を所定の回転位置に維持するようにモータ駆動回路へ駆動指令を出力し、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2は閉口状態が維持される。
【0042】
起動信号発生部58から入力インターフェース56に再起動信号が入力されると、演算処理部53は第1耳糸開口パターンである2×2織りを読み出すとともに、モータ駆動回路63に第1耳糸開口パターンに基づく駆動指令を出力する。従って、耳糸開口装置は第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2に対して通常の織機運転中と同じ耳糸開口運動を行わせることができる(図3の再起動後のN+1、N+2参照)。
【0043】
(第2の実施形態)
図4は、第1の実施形態で説明した第2耳糸開口パターンの変形例を示す。
緯入れミスの発生や緯糸のループあるいは縮み等の発生により織布中に不良緯糸が織り込まれてしまった場合、不良緯糸が存在する位置まで織機を逆転方向にインチング運転しながら順次緯糸を除去する作業が行われる。この作業では、前記第1の実施形態に示した第2耳糸開口パターンでは第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2の開口方向が織機運転中の耳糸開口方向と異なる状態が発生するため、緯糸端が耳糸群から開放されず、緯糸の除去を行うことができない。
第2の実施形態における第2耳糸開口パターンは、耳糸張力の増大を最小限に抑えながら緯糸の除去も行えるように、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2の開口方向を織機運転中の耳糸開口方向と同一にし、かつ1回の緯入れ期間毎に閉口状態を形成するパターンである。
【0044】
不良緯糸の除去のために停止信号発生部60から入力インターフェース56に停止信号が入力されると、その後インチング信号発生部59から織機の逆転方向のインチング信号が入力インターフェース56に入力される。これに応答して演算処理部53は前記第2耳糸開口パターンを選択し、モータ駆動部63に第2耳糸開口パターンに基づく駆動指令を発信する。
【0045】
モータ駆動部63は、織機の停止直前における第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2の開口方向を記憶部55内の第2耳糸開口パターンから認識する。図4の例では2×2織りの2回目の開口状態であり、かつ第1耳糸群Y1が上方に開口し、第2耳糸群Y2が下方に開口した状態であることを認識する。
従って、モータ駆動部63は、逆転方向のインチング運転時の最初の緯入れ期間では第1耳糸群Y1を上方に駆動し、第2耳糸群Y2を下方に駆動するようサーボモータ7に指令を出す(図4の停止・逆転後のN+4参照)。最初の緯入れ期間が終了すると、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2は閉口位置まで駆動される。しかし、第2回目の緯入れ期間では再び第1耳糸群Y1を上方に駆動し、第2耳糸群Y2を下方に駆動するようサーボモータ7に指令が出される(図4の停止・逆転後のN+3参照)。第2回目の緯入れ期間が終了すると、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2は再び閉口位置まで駆動される。
【0046】
第3回目の緯入れ期間では、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2がクロスした後、第1耳糸群Y1を下方に駆動され、第2耳糸群Y2を上方に駆動されて耳糸が開口される(図4の停止・逆転後のN+2参照)。
第3回目の緯入れ期間が終了すると、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2は閉口状態に駆動されるが、第4回目の緯入れ期間では第3回目の緯入れ期間と同方向に駆動される(図4の停止・逆転後のN+1参照)。
【0047】
このように、第2の実施形態における第2耳糸開口パターンでは、第1耳糸群Y1及び第2耳糸群Y2が1回の緯入れ期間毎に閉口状態を形成する。しかし、開口方向は織機運転中の耳糸開口パターンである2×2織りと同一方向であるため、緯糸端は各緯入れ期間毎に開放され、インチング運転に伴う緯糸除去が順次行われる。
なお、再起動時の制御は第1の実施形態の場合と同じであるので、説明を省略する。
【0048】
以上第1の実施形態及び第2の実施形態で説明した織機停止後の耳糸開口パターンの変更順序は一例を示したもので、他の変更順序も有る。例えば、インチング運転を行うこと無く停止状態に維持される場合もある。
【0049】
本願発明は、前記した各実施形態の構成に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、次のように実施することができる。
【0050】
(1)耳糸開口角度検出センサーは近接スイッチ50に代えて、サーボモータ7の駆動系に設けたロータリーエンコーダあるいはアブソリュートエンコーダ等を用いることができる。
(2)駆動モータは、サーボモータ7に代えて、ステッピングモータや回転制御可能な他のモータを使用することができる。
【0051】
(3)サーボモータ7は、所定角度の往復回転に限らず、一定方向に連続回転するように制御することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】第1の実施形態を示す耳糸開口装置の側面図である。
【図2】(a)耳糸開口装置を示す背面図である。(b)図2(a)のA−A線断面図である。
【図3】耳糸開口パターンの変化を示す説明図である。
【図4】第2の実施形態における耳糸開口パターンの変化を示す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
7 サーボモータ
15 回転体
21 揺動部材
42 綜絖
50 近接スイッチ
51 磁性体
52 制御装置
53 演算処理部
54、55 記憶部
56 入力インターフェース
57 出力インターフェース
58 起動信号発生部
59 インチング信号発生部
60 停止信号発生部
61 織機の回転角度検出センサー
62 データ入力装置
63 モータ駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
専用の駆動モータに連結され、織機の運転中、織端に配置された第1耳糸群と第2耳糸群が2回以上の緯入れ期間の間開口位置に維持される第1耳糸開口パターンによって駆動される耳糸開口装置において、
織機停止後のインチング運転時に、織機の経糸開口運動と同期して1回の緯入れ期間毎に前記第1耳糸群と第2耳糸群の閉口状態を形成する第2耳糸開口パターンに変更して耳糸開口運動を行い、織機の再起動時には前記第1耳糸開口パターンに復元して耳糸開口運動を行うことを特徴とする織機における耳糸開口方法。
【請求項2】
前記織機停止後、インチング運転時以外は前記第1耳糸群と第2耳糸群を閉口位置に維持することを特徴とする請求項1に記載の織機における耳糸開口方法。
【請求項3】
前記第2耳糸開口パターンは前記第1耳糸群及び第2耳糸群の開口方向を織機運転中の前記第1耳糸開口パターンの耳糸開口方向と同一にし、かつ1回の緯入れ期間毎に閉口状態を形成するパターンであることを特徴とする請求項1及び2のいずれかに記載の織機における耳糸開口方法。
【請求項4】
専用の駆動モータに連結され、織機の運転中、織端に配置された第1耳糸群と第2耳糸群が2回以上の緯入れ期間の間開口位置に維持される第1耳糸開口パターンによって駆動される耳糸開口装置において、
前記専用モータに備えたモータ駆動回路と、
前記第1耳糸開口パターン及び1回の緯入れ期間毎に第1耳糸群と第2耳糸群の閉口状態を形成する第2耳糸開口パターンを記憶する記憶部、織機の起動時に前記第1耳糸開口パターンを選択し、織機停止後のインチング運転時に前記第2耳糸開口パターンを選択するプログラムを記憶した記憶部及び選択された前記第1耳糸開口パターンあるいは第2耳糸開口パターンに基づく耳糸開口運動を指令する演算処理部を備えた制御装置とを設け、
前記制御装置を前記モータ駆動回路に接続したことを特徴とする織機における耳糸開口装置。
【請求項5】
前記制御装置に、織機の停止中は前記第1耳糸群と第2耳糸群を閉口位置に維持する第3耳糸開口パターンを記憶する記憶部を備えたことを特徴とする請求項4に記載の織機における耳糸開口装置。
【請求項6】
前記第2耳糸開口パターンは前記第1耳糸群及び第2耳糸群の開口方向を織機運転中の前記第1耳糸開口パターンの耳糸開口方向と同一にし、かつ1回の緯入れ期間毎に閉口状態を形成するパターンであることを特徴とする請求項4及び5のいずれかに記載の織機における耳糸開口装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−146312(P2007−146312A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339313(P2005−339313)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)