説明

織機における耳糸開口装置

【課題】本願発明の目的は、耳糸開口時の駆動モータ側にかかる負荷を軽減した耳糸開口装置を提供するものである。
【解決手段】サーボモータ7の一方向連続回転は軸11上の回転体15を一方向へ連続回転する。回転体15の回転に伴いリンク17がクランク運動により上下動し、揺動部材21が上下方向に揺動される。揺動部材21が反時計方向に揺動されると、第1ロッド24を介して第1摺動体32及び綜絖42が下方に押し下げられ、糸通し孔43に保持された耳糸Yが下方に開口する。一方、第2摺動体33及び綜絖50は第2ロッド25を介して引き上げられ、糸通し孔51に保持された耳糸Yは上方に開口する。回転体15がさらに回転すると、揺動部材21は逆方向に揺動し、綜絖42と綜絖50が保持する耳糸Yは前記と逆方向に開口される。この耳糸開口運動を継続することにより織耳組織Wが織製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、織機の織耳あるいは捨て耳等に使用される耳糸の開口装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耳糸は経糸群に並列して配置され、緯糸端を処理する捨て耳の形成あるいは織布端部の織耳組織を形成するために使用され、耳糸開口装置としては種々の構成が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は以下の構成を備えた耳糸開口装置を開示している。即ち、特許文献1の図1〜図4に示された耳糸開口装置は、耳織成糸8、9を保持し、上下方向に直線運動する糸ガイド2、3を連結ロッド16、17を介してクランク14、15に連結し、クランク14、15を往復回転するステッピングモータ12のモータ軸13に固定した構成である。
【0004】
【特許文献1】特表平10−503563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した特許文献1の耳糸開口装置は、ステッピングモータ12に取り付けたクランク14、15の揺動運動を耳織成糸8、9の糸ガイド2、3に直接伝達する構成であるため、耳糸の張力及び糸ガイド等の重量や摺動抵抗による大きな負荷がモータ軸13に直接かかることになる。この結果、モータ軸受が損傷しやすくなり、耳糸開口装置の寿命が短縮されるという大きな問題があった。
【0006】
本願発明の目的は、耳糸開口時の駆動モータ側にかかる負荷を軽減するように構成した耳糸開口装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本願発明は、経糸の側方に駆動モータに連結して回転する回転体と揺動可能に支持された揺動部材とを配設し、前記回転体と前記揺動部材とをリンクにより連結して前記回転体の運動を前記揺動部材に往復揺動運動として伝達し、前記揺動部材を直線運動可能に配設された摺動体を含む連結機構によって綜絖に連結したことを特徴とする耳糸開口装置である。
【0008】
請求項1の発明では駆動モータによって回転される回転体と綜絖に往復運動を付与する揺動部材とを分離し、両者をリンクによって連結する構成をとることにより耳糸開口時の負荷を揺動部材で受けることができ、駆動モータ側の負荷を軽減することができる。
【0009】
請求項2に記載の本願発明は、前記回転体をレバー形状に構成したので、回転体も小型、軽量化できるため駆動モータ側の負荷軽減に寄与できる。
【0010】
請求項3に記載の本願発明は、前記回転体を前記駆動モータによって一方向に連続回転する構成とし、前記回転体の回転軌跡の径を前記リンクの最大長より短くしたことを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明では、駆動モータを往復回転する場合に比べて負荷が少なく、駆動モータの回転制御や耳糸開口運動のタイミング制御も容易である。また、回転体の小型化により、小スペースでのクランク運動の生成が可能なため耳糸開口装置をコンパクトに構成できると共に駆動モータ側の負荷軽減にも寄与する。
【0012】
請求項4に記載の本願発明は、前記駆動モータと前記回転体との間に減速ギヤ列を介在して連結したので、駆動モータに要求されるトルクが小さく、小型モータの使用が可能となる。
【0013】
請求項5に記載の本願発明は、前記回転体と前記揺動部材とを同一平面上に配設したので、耳糸開口装置の設置スペースが少なくて済む。
【0014】
請求項6に記載の本願発明は、前記リンクを前記揺動部材の揺動支点に近い位置で連結したので、耳糸開口時に生じる負荷や振動、衝撃の前記回転体側への伝達を緩和することができる。
【発明の効果】
【0015】
本願発明は、耳糸開口時の駆動モータ側にかかる負荷を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本願発明の最良の実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。
本実施形態における耳糸開口装置は図示しない経糸開口用綜絖枠の端部側に位置し、かつ綜絖枠の織機前方側に配置されており、織布端部の耳組織W(図2参照)を織製するために用いられる例を示す。
織機のフレームの一部を形成するトップレール1にコの字状に形成された取付板2及び平板上の取付板3が織機後方側に向けて重ねられ、上下に垂立した状態でボルト4により固定される。取付板3の前面(図2の右側に向く面)にはL字型の取付ブラケット5がボルト6によって固定されている。
【0017】
駆動モータであるサーボモータ7は取付ブラケット5上にボルト8で固定され、サーボモータ7のモータ軸9は取付板3側に向けて突出され、その先端に小径のギヤ10を有する。サーボモータ7は一方向に連続回転するように運転制御される。
取付板3の上部には大径のギヤ13を備えた軸11が取付板3の前面に固定された軸受12によって回転可能に支持されている。大径ギヤ13はモータ軸9に備えた小径ギヤ10と噛合し、減速ギヤ列を構成する。
【0018】
軸11は取付板3の背面(図2の左側に向く面)にも突出し、その先端にスリーブ14を介して直方体に形成したレバー形状の回転体15がボルト(図示せず)によって固定されている。回転体15は図1に示すように、軸11を中心に一方に突出したアームに半径方向に位相の異なる2つの取付孔16を有し、他方のアームの対称位置にも同様の2つの取付孔16を有する。
【0019】
取付板3の下方には軸19が取付板3の前面に固定された軸受20によって回転可能に支持されている。軸19は取付板3の背面に突出し、その先端にレバー形状の揺動部材21がボルト22によって固定されている。
揺動部材21の配設位置は回転体15と同一平面上となるように設定されている。この設定は例えば、スリーブ14の長さを選択することにより適正に行うことができる。
【0020】
回転体15の選択された取付孔16にはリンク17の一端がボルト18及び軸受(図示せず)により回転可能に取り付けられ、回転体15とリンク17によってクランクを構成する。また、リンク17の最大長は回転体15の回転軌跡の径よりも長く設定されている。なお、リンク17は取付孔16の選択によって移動量が設定される。
リンク17の他端は揺動部材21にボルト23によって回転可能に取り付けられる。リンク17の他端の取付位置は揺動部材21の回動支点となる軸19に近い位置が選択されている。軸19からリンク17を揺動部材21に取付ける位置までの距離はその選択によって、リンク17の回転体15側への取付位置と共に揺動部材21の揺動量を決定する要素となる。また、リンク17の取付位置を揺動部材21の揺動支点に近づけることは負荷や振動、衝撃を回転体15側に伝えにくくする効果を期待できる。
【0021】
一方、取付板2の窪み部には下方に延びる案内体28の上端がボルト29によって固定される。案内体28の詳細は図1(a)のA−A線断面図である図1(b)に示す。案内体28はその背面に案内体28の長手方向全域に延びるT字型の第1案内溝30を刻設し、前面に同じく案内体28の長手方向全域に延びるT字型の第2案内溝31を刻設したものである。
【0022】
案内体28の第1案内溝30には所定の長さを有する第1摺動体32が装着されて上下方向の直線運動が可能なように案内され、また、第2案内溝31には同じく所定長さを有する第2摺動体33が装着されて上下方向の直線運動が可能なように案内される。
第1摺動体32及び第2摺動体33は共にカーボンテープで構成され、高強度及び無潤滑性能により高い耐久性を有する。
【0023】
揺動部材21と第1摺動体32を連結する第1ロッド24はその上端が揺動部材21の一方のアーム(図1(a)の左側)端部の背面側にボルト26及び軸受(図示せず)によって回転可能に取り付けられ、下端が第1摺動体32の上部背面側にピン34によって回転可能に取り付けられる。
【0024】
また、同様に揺動部材21と第2摺動体33を連結する第2ロッド25はその上端が揺動部材21の他方のアーム(図1(a)の右側)端部の前面側にボルト27及び軸受(図示せず)によって回転可能に取り付けられ、下端が第2摺動体33の上部前面側にピン35によって回転可能に取り付けられる。
【0025】
第1ロッド24及び第2ロッド25は揺動部材21と第1摺動体32、第2摺動体33とに連結された状態で取付板2の窪み部に収容された状態にある。また図2に示すように、第2ロッド25が案内体28の前面と取付板2の窪み部背面との間に収容されるように案内体28は所定の厚みを有するブロック(図示せず)を介在して窪み部に固定されている。
【0026】
第1摺動体32の上端及び下端には横方向に延びる所定長さの第1上枠36及び第1下枠37の一端がそれぞれブロック38及び39を介在してボルト40及び41によって固定されている。第1上枠36及び第1下枠37は案内体28の背面側方に突出した状態にあり、その部分に糸通し孔43を備えた複数本の綜絖42(図1では3本のみを示す)が上下に架設されている。
【0027】
同様に、第2摺動体33の上端及び下端には横方向に延びる所定長さの第2上枠44及び第2下枠45の一端がそれぞれブロック46及び47を介在してボルト48及び49によって固定されている。第2上枠44及び第2下枠45は案内体28の前面側方に突出した状態にあり、その部分に糸通し孔51を備えた複数本の綜絖50(図1では3本のみを示す)が上下に架設されている。
【0028】
図1(b)から明らかなように、第1上枠36、第1下枠37及び第2上枠44、第2下枠45は薄い板を案内体28から側方に突出させた構成であるため、これらの枠のみを図示しない最前列に位置する経糸用綜絖枠と筬との間に配置すればよく、織機前後方向の大きなスペースを必要としない利点がある。
【0029】
各綜絖42、50の糸通し孔43、51にはそれぞれ図2に示す耳糸Yが挿通されており、各綜絖42、50が相反する方向に上下動することにより耳糸開口部が形成され、ここに図示しない緯糸が挿入されて織耳組織Wが織製される。
【0030】
以上のように構成した本実施形態の作用効果を以下に説明する。
図示しない制御盤の運転ボタンを押すことにより織機各部の駆動に同期して図2に示す耳糸開口装置のサーボモータ7が運転開始する。サーボモータ7の一方向連続回転は駆動ギヤ9から被動ギヤ13に減速して伝達され、軸11上の回転体15を一方向へ連続回転する。
【0031】
回転体15の回転に伴いリンク17がクランク運動により上下動し、さらに揺動部材21が上下方向に揺動される。例えば図3に示すように、揺動部材21が反時計方向に揺動されると第1ロッド24を介して第1摺動体32が下方に押し下げられるため、綜絖42が下方に位置し、糸通し孔43に保持された耳糸Yは下方に開口する。
【0032】
一方、第2摺動体33は第2ロッド25を介して上方に引き上げられるため、綜絖50が上方に位置し、糸通し孔51に保持された耳糸Yは上方に開口する。
回転体15がさらに回転すると、揺動部材21は図3の場合と逆に時計方向に揺動し、綜絖42と綜絖50が前記と逆方向に耳糸Yを開口する。この耳糸開口運動を継続することにより図示しない緯糸と共に織耳組織Wを織製する。
【0033】
本実施形態では、サーボモータ7は負荷の大きな揺動部材21を直接駆動するのでなく、比較的負荷の小さな回転体15を駆動するので、容量の小さなモータの採用が可能となる。その結果、耳糸開口装置全体を小型化することができ、織機の経糸開口用綜絖枠、筬及び織機のフレームに囲まれた非常に狭いスペースにおいても適切に配設することが可能となる。
【0034】
また、モータ7及び小径のギヤ10を含む全ての機構は1枚の取付板2及び3に取り付けることができる構成となっているため、耳糸開口装置をユニット化し、織機への取り付け取り外し作業等を容易化することが可能である。
また、第1摺動体32及び第2摺動体33はカーボンテープで構成したため、肉厚を薄くすることができ、耳糸開口装置の小型化にさらに寄与するものである。
【0035】
(第2の実施形態)
図4及び図5に示した第2の実施形態は前記最良の実施形態における揺動部材21の変形例である。第1実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0036】
揺動部材52は図4の水平な中間位置にあるとき上方に突出する突起部53を備えた三叉のレバー形状に構成されている。回転体15は図4の右方に配置され、その軸11が取付板3の前面側において、大径のギヤ13及び小径のギヤ10を介してサーボモータ7のモータ軸9に連結される。また、回転体15の取付孔16の1つにボルト18及び軸受(図示せず)によって回転可能に結合されたリンク17の他端は突起部53にピン54によって回転可能に結合される。
【0037】
従って、第2実施形態の揺動部材52は図4において左右方向から駆動力が伝達される構成であるが、耳糸開口運動は前記最良の実施形態における場合と同様に行われる。
第2の実施形態では回転体15を図示しない経糸開口用綜絖枠から離れる方向に配置することが可能となり、各構成部材の配置に自由度を持たせることができる。
【0038】
本願発明は、前記した各実施形態の構成に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、次のように実施することができる。
【0039】
(1)回転体15は直方体に限らず、円板で構成しても、他の形状の回転体で構成しても良い。
(2)揺動部材21はレバー形状の物に限らず、円板形状であっても良い。このようにすれば第2の実施形態のように突起部53を必要とせずにリンク17の連結位置を自由に設定することができる。
【0040】
(3)駆動モータ7は、ステッピングモータや回転制御可能な他のモータを使用することができる。
(4)駆動モータ7の回転制御は一方向の連続回転でなく、所定角度での往復回転によって実施することができる。
【0041】
(5)取付板2及び3は別部材で構成するのでなく、1枚の取付板で構成し、これに各構成部材を取り付け、ユニット化することが可能である。
(6)案内体28は第1案内溝30を刻設したプレートと第2案内溝31を刻設したプレートを貼り合わせて構成することが可能である。
【0042】
(7)第1摺動体32及び第2摺動体33はカーボンテープに代えて、樹脂テープあるいは繊維強化樹脂テープを使用することができる。
(8)モータ7の小径のギヤ10及び回転体15の大径のギヤ13からなる減速ギヤ列はタイミングベルトを使用する構成に置き換えて実施することができる。
【0043】
(9)小径のギヤ10及び大径のギヤ13を省略し、モータ7のモータ軸9を回転体15の軸11に直結する構成で実施することができる。このようにすれば耳糸開口装置をより簡素化することが可能である。
【0044】
(10)使用する耳糸本数は実施形態の6本に限らず、2〜80本程度まで使用することができ、組織に応じて適宜設定されるものである。
(11)前記各実施形態は織耳組織形成用として説明したが、織布の側方において緯入れ時に緯糸端を把持する捨て耳形成用の耳糸開口装置として実施することができる。
(12)耳糸開口装置は最後尾の経糸開口用綜絖枠より後方に配設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】(a)は、耳糸開口装置を示す正面図である。(b)は、(a)のA−A線断面図である。
【図2】図1(a)の側面図である。
【図3】耳糸開口装置の動作を示す正面図である。
【図4】第2の実施形態を示す耳糸開口装置の一部を省略した正面図である。
【図5】図4の側面図である。
【符号の説明】
【0046】
2、3 取付版
7 サーボモータ
10 駆動ギヤ
13 被動ギヤ
15 回転体
17 リンク
21、52 揺動部材
24 第1ロッド
25 第2ロッド
28 案内体
30 第1案内溝
31 第2案内溝
32 第1摺動体
33 第2摺動体
36 第1上枠
37 第1下枠
42、50 綜絖
43、51 糸通し孔
44 第2上枠
45 第2下枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸群の側方に配置された少なくとも2本の耳糸をそれぞれ保持する綜絖を設け、前記綜絖を駆動モータから伝達される駆動力によって相反する方向に往復移動し、耳糸開口を形成する耳糸開口装置において、
前記経糸の側方に前記駆動モータに連結して回転する回転体と揺動可能に支持された揺動部材とを配設し、前記回転体と前記揺動部材とをリンクにより連結して前記回転体の運動を前記揺動部材に往復揺動運動として伝達し、
前記揺動部材を直線運動可能に配設された摺動体を含む連結機構によって前記綜絖に連結したことを特徴とする織機における耳糸開口装置。
【請求項2】
前記回転体をレバー形状に構成したことを特徴とする請求項1に記載の織機における耳糸開口装置。
【請求項3】
前記回転体を前記駆動モータによって一方向に連続回転する構成とし、前記回転体の回転軌跡の径を前記リンクの最大長より短くしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の織機における耳糸開口装置。
【請求項4】
前記駆動モータと前記回転体との間に減速ギヤ列を介在して連結したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の織機における耳糸開口装置。
【請求項5】
前記回転体と前記揺動部材とを同一平面上に配設したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の織機における耳糸開口装置。
【請求項6】
前記リンクを前記揺動部材の揺動支点に近い位置で連結したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の織機における耳糸開口装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−107128(P2007−107128A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298257(P2005−298257)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)