説明

繭糸による平面絹

【課題】 通常の蚕品種の煮熟繭から解離された繭糸を用いて得られる任意な形態の平面絹を提供すること。
【解決手段】 煮熟繭から解離された繭糸1本1本を分離した状態で乾燥しながら繰糸して巻き取った繭糸束から引き出された繭糸1本1本がランダムでしかも平面状になるように広げられて接着・固定された平面絹であって、プレス加工によって、水分又は蒸気により膨潤軟化した繭糸の保持する粘着性セリシンで繭糸が相互に接着され、形態が固定されたもの。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は、繭糸による平面絹に関する。この平面絹は、室内装飾品、文具類、工業用製品等を製造するために利用できる。
【0002】
【従来の技術】
多数の煮熟繭から解離された繭糸を1本1本分繊させ、相互に接着しないように緩速度で乾燥させながら引き上げて巻き取った繭糸束については、従来布団用の中綿として用いることが知られている。
【0003】
また、平面形状の繭を形成する特殊な蚕品種を用いて、上蔟時に多数の蚕を平板上に置いて吐糸させ、ランダムに吐かれる繭糸を累積することにより、フェルト状の平面絹をつくることも知られている。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
絹は、そのドレープ性や光沢、深みのある染色性など外観の美しさばかりでなく、吸・放湿性、保温性等のような絹繊維自身の有する機能性の面からアンダーウエア等への需要が増し、また、新たな分野へ絹を利用する機運も高まってきている。最近では、絹製品の抗菌特性やガス・煤塵等の吸着性が着目され、健康面からも新しい展開が試みられるようになってきている。そのため、簡易な方法で得られる平面形状の絹(すなわち、平面絹)の開発が求められていた。
【0005】
しかしながら、繭糸から簡易に得られる平面絹はいまだ開発されておらず、また、特殊な蚕品種に平面形状の絹製品を作らせる場合には、需要に応じて随時製造できるわけではなく、製造時期を蚕の営繭時期に合わせなければならず、さらには、営繭方法をコントロールして製品の厚薄を調整するという煩わしさがあり、任意な形態の平面絹を簡易に製造できないという問題点があった。
【0006】
本考案の課題は、通常の蚕品種の煮熟繭から解離された繭糸を用いて得られる任意な形態の平面絹を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本考案の平面絹は、煮熟繭から解離された繭糸1本1本を分離した状態で乾燥しながら繰糸して巻き取った繭糸束から引き出された繭糸1本1本がランダムでしかも平面状になるように広げられて接着・固定された平面絹であって、プレス加工によって、水分又は蒸気により膨潤軟化した繭糸の保持する粘着性セリシンで繭糸が相互に接着され、形態が固定されたものである。
【0008】
【考案の実施の形態】
本考案の実施の形態を以下説明する。
【0009】
本考案によれば、繭糸による平面絹を提供することができ、絹の持つ外観的な美しさを衣料以外の分野へも適用することができると共に、これまで存在しなかった風合いの絹製品が開発できることが期待される。さらに、絹の抗菌特性、吸着特性を生かすものとしてフィルター的機能を有効にもたせた平面絹による製品としての利用も可能になる。
【0010】
本考案の平面絹は、多数の煮熟繭から解離された繭糸1本1本を分離した状態で相互に接着しないように乾燥しながら繰糸して巻き取った繭糸束(シルクウェーブ)を原材料とし、この繭糸束から引き出された繭糸1本1本がランダムでしかも平面状になるように広げられて接着、固定されたものである。この接着、固定は、平面状に広げられた繭糸に供給された所定量の水分又は蒸気で繭糸の保持する粘着性セリシンを膨潤軟化せしめ、プレス加工によりこの軟化したセリシンで繭糸を相互に接着して、形態を固定するように行われる。得られた平面絹は、襖等の室内装飾品、文具類、フィルター等工業用製品として利用できる。
【0011】
上記繭糸束は、例えば特許公報第2939528号(特開平第10−144120号公報)記載の装置、方法を利用して作製することができる。また、プレス加工は、繭糸が変質したりしない温度、圧力条件であれば特に制限はなく、例えば約120〜130℃の温度、約0.1〜0.15kg/cm2の圧力で行うことができる。セリシンを膨潤軟化せしめるための水分量、蒸気量はセリシンを膨潤せしめるのに十分な量であればよく、例えば水分量としては繭糸量に対し約40〜50重量%である。40重量%未満であるとセリシンの膨潤が十分でなく、接着が不充分となる恐れがあり、また、50重量%を超えるとセリシンが解けすぎて型くずれする恐れがある。
【0012】
前記平面絹において、原料の繭糸として繭糸のみ、又は生糸を混在させた繭糸を用いて、任意の大きさ及び型にランダムでしかも平面状になるように広げてペーパー状に加工した平面絹としてもよい。この平面絹は、薄いものは障子・襖等に利用でき、厚いものはフィルター、靴中敷等として利用できる。
【0013】
また、前記平面絹において、原料の繭糸束に巻き取られた繭糸として、通常の白い色の繭や蚕品種により繭色に特徴のある黄繭、笹繭、紅繭等や天蚕・柞蚕等の野蚕や予め染色した繭を別々に繰製し、乾燥し、かくして得られたこれら繭糸を任意に混ぜ合わせたものを用いてもよい。これにより、天然の色素や人工の色素を組み合わせた平面絹を提供することができる。
【0014】
【実施例】
本考案の繭糸による平面絹は、上記した構成を有するものであり、次のようにして製造できる。
【0015】
図1に示すように、約2000粒の煮熟繭から繭糸1本1本分繊し、繭糸が相互に接着しないように乾燥させながら繰糸した繭糸束(シルクウェーブ)を原材料とし、この繭糸束から繭糸を引き出し、その1本1本の繭糸を型枠などに平面状にランダムに展開せしめ、対繭糸量の40〜50重量%の水分を供給して、各繭糸表面を覆っている粘着性タンパク質のセリシンを膨潤軟化させ、次いで高温(120〜130℃)、0.1〜0.15kg/cm2の圧力下でプレス加工し、繭糸相互を粘着性セリシンで接着せしめて平面状の形態に固定した。かくして、繭糸による平面絹を簡易に得ることができた。得られた平面絹は、襖等の室内装飾品、文具類、フィルター等工業用製品として利用できる。
【0016】
【考案の効果】
本考案では、蚕に作らせる代わりに、工業的に生産されるものであるので、蚕の営繭時期を問わず、また営繭方法をコントロールし厚薄を調整する煩わしさもなく、任意な形態の平面絹を容易に提供することができる利点を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本考案の平面絹を製造する方法を説明するためのフロー図。

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 煮熟繭から解離された繭糸1本1本を分離した状態で乾燥しながら繰糸して巻き取った繭糸束から引き出された繭糸1本1本がランダムでしかも平面状になるように広げられて接着・固定された平面絹であって、プレス加工によって、水分又は蒸気により膨潤軟化した繭糸の保持する粘着性セリシンで繭糸が相互に接着され、形態が固定されたものであることを特徴とする繭糸による平面絹。
【請求項2】 前記請求項1記載の繭糸による平面絹において、原料の繭糸として繭糸のみ、又は生糸を混在させた繭糸が用いられることを特徴とする繭糸による平面絹。
【請求項3】 前記請求項1又は2記載の繭糸による平面絹において、1本1本分繊させながら巻き取られる繭糸は、通常の白い色の繭や蚕品種により繭色に特徴のある黄繭、笹繭、紅繭等や天蚕・柞蚕等の野蚕や予め染色した繭を別々に繰製し、乾燥したものであって、それら繭糸を任意に混ぜ合わせたものであることを特徴とする繭糸による平面絹。

【図1】
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【登録番号】実用新案登録第3067661号(U3067661)
【登録日】平成12年1月19日(2000.1.19)
【発行日】平成12年4月7日(2000.4.7)
【考案の名称】繭糸による平面絹
【国際特許分類】
【評価書の請求】有
【出願番号】実願平11−7293
【出願日】平成11年9月24日(1999.9.24)
【出願人】(391030284)農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所長 (2)