説明

群管理制御装置及びこれを具えたエレベータシステム

【課題】 人手によらず自動的に最適なかご割当てプログラムを作成することが出来、然も、かご呼び操作に応じて適切なかごが割り当てられなかった場合に、そのような事態の発生に対処することが出来る群管理制御装置1を提供する。
【解決手段】 本発明に係る群管理制御装置1は、かご呼び操作が行なわれたとき、エレベータ群2の状態を表わす状態情報を作成する情報処理部112と、作成された状態情報を参照して実行を行なうかご割当てプログラムを動作させるGNPかご割当て部113とを具えている。該かご割当てプログラムは、進化的計算法によって作成され、所定の処理を実行する複数のノードを互いに接続することによってかご割当て規則が表現されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のかごの中から乗り場へ移動させるべき1つのかごを選択するかご割当て動作を行なう群管理制御装置及びこれを具えたエレベータシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ファジィルールに従ってかご割り当てを行なうエレベータシステムが知られている。この種のエレベータシステムによれば、ファジィルールは人が経験や知識に基づいて作成したものであるので、かご呼び操作に応じて適切なかごが割り当てられなかった場合に、規定されているファジィルールの内、何れのファジィルールが適用されて、そのような事態が発生するに至ったのかを究明することが出来、該ファジールールを改良することによって該事態の発生に対処することが出来る。
【0003】
又、近年、ニューラルネットワークの出力結果に基づいてかご割当てを行なうエレベータシステムの開発が進められており、出願人は、この種のエレベータシステムを多数提案している(特許文献1〜5)。ニューラルネットワークは、図8に示す如く入力層、中間層及び出力層から構成されており、各層は複数のニューロンから構成されている。乗り場にてかご呼び操作が行なわれたとき、エレベータシステムの状態を表わすシステム状態データがニューラルネットワークの入力層に入力されて中間層を経て出力層に伝わり、出力層を構成する複数のニューロンからそれぞれ割当て評価値が出力される。この様にして出力層から出力された割当て評価値に基づいて、複数のかごの中から1つのかごが選択される。
この種のエレベータシステムにおいては、ニューラルネットワークの重み係数を初期値に設定した状態で、学習用サンプルデータを用いて、例えばバックプロパゲーションと称される自律的学習アルゴリズムに従い該ニューラルネットワークの学習が行なわれ、これによって、ニューラルネットワークの重み係数が最適値に設定されることになる。該エレベータシステムによれば、人手によらず自動的に最適なニューラルネットワークを作成することが出来る。
【特許文献1】特公平7−5253号公報
【特許文献2】特公平7−64490号公報
【特許文献3】特許第2867849号公報
【特許文献4】特許第2500407号公報
【特許文献5】特許第3060879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ファジィルールに従ってかご割当てを行なうエレベータシステムを構築する際には、最適なかご割り当て動作の実行が可能な理想的なファジィルールを作成するために専門家の知識と多大な労力が必要である問題があった。
一方、ニューラルネットの出力結果に基づいてかご割当てを行なうエレベータシステムにおいては、図8に示す複数のニューロン間のつながりに意味がないので、かご呼び操作に応じて適切なかごが割り当てられなかった場合に、どのような処理が行なわれて、そのような事態が発生するに至ったのかを究明することが出来ず、該事態の発生に対処することが出来ない問題があった。
そこで本発明の目的は、人手によらず自動的に最適なかご割当てプログラムを作成することが出来、然も、かご呼び操作に応じて適切なかごが割り当てられなかった場合に、そのような事態の発生に対処することが出来る群管理制御装置及びこれを具えたエレベータシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る群管理制御装置は、複数のかごを具えたエレベータ群に接続され、乗り場にてかごを呼ぶためのかご呼び操作が行なわれたときに前記複数のかごの中から乗り場へ移動させるべき1つのかごを選択するかご割当て動作を行なうものである。そして、該群管理制御装置は、
前記かご呼び操作が行なわれたとき、エレベータ群の状態を表わす状態情報を作成する情報作成手段と、
進化的計算法によって作成され、所定の処理を実行する複数のノードを互いに接続することによってかご割当て規則が表現されており、前記情報作成手段によって作成された状態情報を参照して実行を行なうかご割当てプログラムを動作させるかご割当て手段
とを具えている。
【0006】
上記本発明に係る群管理制御装置においては、かご割当てプログラムとして遺伝的プログラミング(Genetic Programming)を用いたもの(以下、GPプログラムという)や遺伝的ネットワークプログラミング(Genetic Network Programming)を用いたもの(以下、GNPプログラムという)等が搭載されており、これらのプログラムは、進化的計算法によって人手によらず自動的に作成することが出来る。
又、GNPプログラムは、所定の処理を実行する複数のノードを互いに接続することによってかご割当て規則を表現しているので、かご呼び操作に応じて適切なかごが割り当てられなかった場合に、プログラムの構成を見れば、何れのノードによる処理が実行されて、そのような事態が発生するに至ったのかを究明することが出来、かご割当てプログラムの該ノードを含む部分を改良することによって該事態の発生に対処することが出来る。一般的ではないが、GPプログラムについても、同様にして、そのような事態の発生に対処することが出来る。
【0007】
具体的には、前記かご割当てプログラムは、前記複数のかごの中から1つのかごを選択するかご割当て処理を実行する複数の処理ノードとエレベータ群の状態に関する判定処理を行なう複数の判定ノードとをネットワーク状に互いに接続してなるGNPプログラムである。
【0008】
該具体的構成においては、かご割当てプログラムは、かご呼び操作が行なわれたとき、情報作成手段によって作成された状態情報に基づいて1或いは複数の判定ノードによる判定処理を実行した後、1つの処理ノードによるかご割当て処理を実行して前記複数のかごの中から1つのかごを選択する。その後、再びかご呼び操作が行なわれたとき、該処理ノードから該ノードに接続されている判定ノードに制御を渡して、情報処理手段によって作成された状態情報に基づいて、該判定ノードによる判定処理のみ、或いは該判定ノードによる判定処理と他の1或いは複数の判定ノードによる判定処理とを実行した後、1つの処理ノードによるかご割当て処理を実行して複数のかごの中から1つのかごを選択する。この様に、かご呼び操作が行なわれたとき、かご割当てプログラムは前回のかご割当て時にかご割当て処理を実行した処理ノードから起動されるので、該操作が行なわれた時点でのエレベータ群の状態のみならず、前回のかご呼び操作時におけるエレベータ群の動作をも加味して、かご呼び操作のあった乗り場に移動させるべきかごを決定することが出来る。
【0009】
又、具体的には、前記かご割当て手段は、かご呼び操作が行なわれた後、所定時間内に処理ノードによるかご割当て処理が実行されないときに、かご割当てプログラムを構成する複数の処理ノードの内、何れかの処理ノードによるかご割当て処理を強制的に実行させる。
【0010】
エレベータシステムにおいては、エレベータ利用者がかご呼び操作を行なってからかごが到着するまでの待ち時間を所定時間内に制限する必要がある。
そこで、上記具体的構成においては、かご呼び操作が行なわれた後、所定時間内に処理ノードによるかご割当て処理が実行されないときには、かご割当てプログラムを構成する複数の処理ノードの内、何れかの処理ノードによるかご割当て処理を強制的に実行させる。これによって、エレベータ利用者の待ち時間を所定時間内に制限することが出来る。
【0011】
又、具体的には、前記かご割当てプログラムを進化させて最適化する処理を繰り返す最適化処理手段を具えている。
【0012】
該具体的構成によれば、かご割当てプログラムを最適化する処理が繰り返されるので、常に最適な運行制御を行なうことが出来る。
【0013】
更に具体的には、前記最適化処理手段は、
複数のかご割当てプログラムを生成する手段と、
エレベータ群の利用状況を表わす交通情報を用いて、生成された複数のかご割当てプログラムをそれぞれ実行してエレベータ群の運行をシミュレートするシミュレーション手段と、
前記生成された複数のかご割当てプログラムについて夫々、シミュレーション結果に基づきエレベータ群の運行に関する1或いは複数種類の評価値を導出する評価値導出手段と、
導出された評価値に基づいて、前記生成された複数のかご割当てプログラムの中から最適なかご割当てプログラムを選択する選択手段
とを具えている。
【0014】
該具体的構成においては、最適化処理にて生成したかご割当てプログラムを評価する際、エレベータ群の運行をシミュレートして評価値を導出するので、該最適化処理が実際のエレベータ群の運行に支障をきたすことはない。
又、エレベータ群の利用状況を表わす交通情報を用いてシミュレーションを行ない、その結果に基づいて選択した最適なかご割当てプログラムによってかご割当てを行なうので、エレベータ群の利用状況に応じた最適な運行制御を行なうことが出来る。
【0015】
更に又、具体的には、前記シミュレーション手段は、シミュレーションの実行中にかご割当てプログラムが処理ノードに遷移しないループ状態に陥ったときに、該プログラムを構成する複数の処理ノードの内、何れかの処理ノードによるかご割当て処理を強制的に実行させる。
【0016】
かご割当てプログラムの生成処理においては、判定ノードのみからなるループを具えたかご割当てプログラムが生成される場合がある。この様なかご割当てプログラムを実行してシミュレーションを行なった場合、該プログラムが制御が処理ノードに遷移しないループ状態に陥ってシミュレーションが終了しない事態が発生する。
そこで、上記具体的構成においては、シミュレーションの実行中にかご割当てプログラムがループ状態に陥ったときには、該プログラムを構成する複数の処理ノードの内、何れかの処理ノードによるかご割当て処理を強制的に実行させる。かご割当てプログラムがループ状態に陥ったことを検知する方法としては、例えば、かご割当てプログラムの起動からの経過時間が所定のスレッショルド時間を超えたことをもって検知する方法や、かご割当てプログラムの起動後に処理が実行された判定ノードの数が所定数を超えたことをもって検知する方法を採用することが出来る。
上記具体的構成によれば、かご割当てプログラムがループ状態に陥った場合に、上述の如く処理ノードによるかご割当て処理を強制的に実行させることによってシミュレーションを強制的に終了させることが出来る。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る群管理制御装置及びこれを具えたエレベータシステムによれば、人手によらず自動的に最適なかご割当てプログラムを作成することが出来、然も、かご呼び操作に応じて適切なかごが割り当てられなかった場合に、そのような事態の発生に対処することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面に沿って具体的に説明する。尚、以下では、3台のエレベータ(2)(2)(2)を具えた図1に示すエレベータシステムについて説明するが、2台或いは4台以上のエレベータを具えたエレベータシステムについても同様に実施可能である。
本発明に係るエレベータシステムにおいては、図示の如く、3台のエレベータ(2)(2)(2)と、複数階の乗り場にそれぞれ設けられている複数の乗り場呼び装置(図示省略)とが、通信ネットワーク網(3)を介して、前記3台のエレベータの動作を制御する群管理制御装置(1)に繋がっている。
【0019】
群管理制御装置(1)は、乗り場呼び装置に対して操作があったときに、かご割当てプログラムの実行により前記3台のエレベータ(2)(2)(2)のかごの中から該操作のあった乗り場へ移動させるべき1つのかごを選択するかご割当て処理回路(11)と、最適なかご割当てプログラムを作成する最適化処理回路(12)とから構成されている。
【0020】
前記かご割当て処理回路(11)は、前記3台のエレベータ(2)(2)(2)及び乗り場呼び装置と通信を行なう通信管理部(111)と、通信管理部(111)から供給される信号からエレベータシステムの状態を表わす後述のシステム状態データ及びエレベータ群の運行状態を表わす運行データを作成すると共にエレベータ群の運行に関する評価値を導出する情報処理部(112)と、前記システム状態データに基づいてGNPプログラムからなるかご割当てプログラムを実行するGNPかご割当て部(113)と、前記通信管理部(111)からの信号に基づいてGNPかご割当て部(113)の動作を制御する割当て管理部(114)とを具えている。
【0021】
図2は、GNPかご割当て部(113)に設定されているGNPプログラムの構成例を表わしており、該GNPプログラムは、プログラムの初回起動時に実行される1つの起動ノード(113a)と、エレベータシステムの状態に関する判定処理を行なう複数の判定ノード(113b)と、3台のエレベータの中から1台のエレベータを選択するかごの割当て処理を行なう複数の処理ノード(113c)とから構成されている。ここで、起動ノードは、任意の判定ノードを指示するものであって、図2の例では、1番近いエレベータは何れであるかを判定する判定ノードを指示する。
【0022】
一方、図1に示す最適化処理回路(12)は、上述の如くかご割当て処理回路(11)の情報処理部(112)によって導出された評価値に基づいてGNPプログラムの性能を評価するGNP性能評価部(121)と、該評価部(121)による評価結果に基づいて複数のGNPプログラムを作成し、これらのGNPプログラムの中から最適なGNPプログラムを選択して前記GNPかご割当て部(113)に供給するGNP最適化処理部(122)とを具えている。
又、最適化処理回路(12)は、エレベータ群の運行中に前記情報処理部(112)から運行データを収集してエレベータシステムの利用状況を表わす交通データを作成する交通データ作成部(123)と、該交通データを用いて、前記GNP最適化処理部(122)から供給されるGNPプログラムを実行して前記3台のエレベータの昇降動作をシミュレートするエレベータシステムシミュレーション部(124)とを具えている。
【0023】
エレベータ群の運行
上記エレベータシステムにおいては、乗り場呼び装置に対し操作が行なわれたとき、該乗り場呼び装置から乗り場呼び情報信号が群管理制御装置(1)の通信管理部(111)に供給される。通信管理部(111)は、該信号を受けて、各エレベータ(2)から、かごの現在位置、かごの走行方向、ドアの開閉状態、荷重量、かご内で乗客に指定されている行き先階などを表わすかご状態情報信号を取得した後、前記乗り場呼び情報信号を割当て管理部(114)に供給する一方、前記かご状態情報信号を情報処理部(112)に供給する。
【0024】
割当て管理部(114)は、前記乗り場呼び情報信号を受けて、GNPかご割当て部(113)に対しかご割当て動作指令を発する。
一方、情報処理部(112)は、上述の如く供給されたかご状態情報信号からシステム状態データを作成する。システム状態データとしては、例えば後述の情報を表わすデータが作成される。
・乗り場呼び装置に対する操作のあった乗り場への到着予想時刻が最も近いエレベータ
・乗り場呼び装置に対する操作のあった乗り場への到着予想時刻が2番目に近いエレベータ
・かご内で登録されている行き先階ボタンの数(乗り場への到着予定回数)が最も少ないエレベータ
・かご内で登録されている行き先階ボタンの数(乗り場への到着予定回数)が2番目に少ないエレベータ
・乗客数が最も少ないエレベータ
・乗客数が2番目に少ないエレベータ
・待機時間が最も長いエレベータ
・何れかの乗り場への移動が既に指令されているエレベータの中で、乗り場呼び装置に対する操作のあった乗り場への到着予想時刻が最も近いエレベータ
・乗り場呼び装置に対する操作のあった乗り場への到着予想時刻が最も近いエレベータと2番目に近いエレベータとの間の時間差が所定時間以上であるか否か
【0025】
上述の如く作成されたシステム状態データは、GNPかご割当て部(113)に供給される。
GNPかご割当て部(113)は、割当て管理部(114)からの前記割当て動作指令を受けて、後述の如く、該システム状態データに基づいてGNPプログラムを実行する。
図3は、GNPかご割当て部(113)の内部の挙動を表わしている。尚、図3に示すGNPプログラムの構成は一例であり、以下の説明では、2つの判定ノードによる判定処理が実行された後、1つの処理ノードによるかご割当て処理が実行されるものとする。
割当て管理部(114)から前記割当て動作指令が発せられると、GNPプログラムは前回のかご割当て時にかご割当て処理を実行した処理ノードから起動され、先ず、該処理ノードに接続されている判定ノードが、情報処理部(112)から供給された複数のシステム状態データに含まれる1或いは複数のシステム状態データを参照して所定の判定処理を実行する。尚、エレベータ群の運行開始後、初回のかご割当て時においては、GNPプログラムは起動ノードから起動される。
その後、判定処理を実行した判定ノードに接続されている複数のノードの内、該判定結果に応じた他の判定ノードが、情報処理部(112)から供給された複数のシステム状態データに含まれる1或いは複数のシステム状態データを参照して所定の判定処理を実行する。最後に、該判定ノードに接続されている複数のノードの内、前記判定結果に応じた処理ノードが、所定のかご割当て処理を実行する。該かご割当て結果は、図1に示す割当て管理部(114)に出力される。
割当て管理部(114)は、該割当て結果に基づいて、3台のエレベータ(2)(2)(2)の内、1台のエレベータのかごを乗り場呼び装置に対し操作のあった乗り場へ移動させるべき旨のかご割当て信号を作成する。作成されたかご割当て信号は、通信管理部(111)を介して前記1台のエレベータ(2)に供給される。この結果、該エレベータ(2)のかごが乗り場呼び装置に対し操作のあった乗り場に移動することになる。
【0026】
又、上記エレベータシステムにおいては、エレベータ群の運行中、群管理制御装置(1)の情報処理部(112)は、上述の如く通信管理部(111)から供給されるかご状態情報信号に基づき運行データを作成して交通データ作成部(123)に供給する。
【0027】
図4は、上記群管理制御装置(1)によって実行されるかご割当て手続きを表わしている。
乗り場呼び装置に対し操作が行なわれると、先ずステップS1にて、その操作が該乗り場呼び装置に対する新規な操作であるか否かを判断し、ノーと判断された場合には、ステップS7に移行して、既に得られているかご割当て処理の結果に基づいてかご割当て信号を作成する。その後、該かご割当て信号がエレベータに供給されて、該エレベータのかごが乗り場呼び装置に対し操作のあった乗り場に移動することになる。
一方、ステップS1にてイエスと判断された場合には、ステップS2にて、3台のエレベータからかご状態情報信号を取得して、該信号に基づきシステム状態データを作成する。次にステップS3では、GNPプログラムを前回のかご割当て時にかご割当て処理を実行した処理ノードから起動し、ステップS4では、該処理ノードに接続されている判定ノードによる判定処理を実行した後、該判定ノードに接続されている複数のノードの中から該判定結果に応じたノードを選択する。
【0028】
続いてステップS5では、選択したノードが判定ノードであるか否かを判断し、イエスと判断された場合にはステップS4に戻って、判定ノードによる判定処理及び判定結果に応じたノードの選択を繰り返す。
その後、ステップS4にて処理ノードが選択されると、ステップS6に移行して、該処理ノードによるかご割当て処理を実行し、該割当て結果に基づいてかご割当て信号を作成する。その後、該かご割当て信号がエレベータに供給されて、該エレベータのかごが乗り場呼び装置に対し操作のあった乗り場に移動することになる。
但し、乗り場呼び装置に対して操作が行なわれた後、所定時間内に処理ノードによるかご割当て処理が実行されないときには、GNPプログラムを構成する複数の処理ノードの内、何れかの処理ノードによるかご割当て処理を強制的に実行させる。これによって、エレベータ利用者の待ち時間を所定時間内に制限することが出来る。
【0029】
最適なGNPプログラムの作成
上記エレベータシステムにおいては、エレベータ群の運行開始後、図1に示す群管理制御装置(1)のGNPかご割当て部(113)に設定されているGNPプログラムを最適なGNPプログラムに更新する処理が繰り返される。
GNPプログラムの更新時には、先ず、最適化処理回路(12)のGNP最適化処理部(122)は、予め内蔵メモリ(図示省略)に格納されている複数の判定ノード及び複数の処理ノードから複数のGNPプログラムを生成し、生成したGNPプログラムを順次、エレベータシステムシミュレーション部(124)に供給する。又、交通データ作成部(123)は、上述の如くエレベータ群の運行中に収集した運行データに対し統計処理などの周知のデータ加工処理を施して交通データを作成し、該交通データを前記エレベータシステムシミュレーション部(124)に供給する。
【0030】
エレベータシミュレーション部(124)は、GNP最適化処理部(122)から1つのGNPプログラムが供給されると、交通データ作成部(123)から供給された交通データを用いて、該GNPプログラムを実行して3台のエレベータの昇降動作をシミュレートし、その結果をかご割当て処理回路(11)の通信管理部(111)に供給する。
通信管理部(111)は、該シミュレーション結果を情報処理部(112)に供給し、情報処理部(112)は、該シミュレーション結果から評価値を導出して最適化処理回路(12)のGNP性能評価部(121)に供給する。評価値としては、例えば、乗客が乗り場呼び装置に対し操作を行なってからかごが到着するまでの平均待ち時間、乗客の最長待ち時間、乗客が乗り場呼び装置に対し操作を行なってから目的階に到着するまでの平均サービス完了時間、3台のエレベータの昇降動作の頻度のばらつき等が導出される。
GNP性能評価部(121)は、上述の如く最適化処理部(122)によって作成された全てのGNPプログラムについての評価値が供給されると、該評価値に基づいてそれらのGNPプログラムの性能をランク付けし、その結果をGNP最適化処理部(122)に供給する。
【0031】
GNP最適化処理部(122)は、GNP性能評価部(121)から供給された評価結果に基づいて、上述の如く作成した複数のGNPプログラムから性能の高い複数のGNPプログラムを選択し、選択したGNPプログラムを進化させて複数のGNPプログラムを作成すると共に、前記性能の高い複数のGNPプログラムから特に性能の高い複数のGNPプログラムを選択する。その後、新たに作成した複数のGNPプログラム及び選択した複数のGNPプログラムを順次、エレベータシステムシミュレーション部(124)に供給する。
【0032】
エレベータシステムシミュレーション部(124)は、GNP最適化処理部(122)から1つのGNPプログラムが供給される度に上述のシミュレーション動作を実行して、その結果を通信管理部(111)を介して情報処理部(112)に供給し、情報処理部(112)は、シミュレーション結果が供給される度に、該結果から評価値を導出してGNP性能評価部(121)に供給する。GNP性能評価部(121)は、上述の如く新たに作成された複数のGNPプログラム及び選択された複数のGNPプログラムについての評価値が供給されると、これらのGNPプログラムについて上述のランク付け処理を行ない、その結果をGNP最適化処理部(122)に供給する。GNP最適化処理部(122)は、その結果に基づいて上述のGNPプログラム作成処理及びGNPプログラム選択処理を行ない、これによって得られた複数のGNPプログラムを順次、エレベータシミュレーション部(124)に供給する。
この様にして、GNPプログラムの作成・選択処理、エレベータシステムのシミュレーション処理、GNPプログラムの評価値導出処理、及びGNPプログラムの性能評価処理からなる一連の処理が繰り返され、該処理が所定回数だけ繰り返された時点で、GNP最適化処理部(122)は、複数のGNPプログラムの中から最も性能の高いGNPプログラムを選択し、該GNPプログラムをかご割当て処理回路(11)のGNPかご割当て部(113)に供給する。この結果、該GNPかご割当て部(113)のGNPプログラムが最適なGNPプログラムに更新されることになる。
【0033】
図5及び図6は、上記群管理制御装置(1)によって実行されるGNPプログラム更新手続きを表わしている。尚、エレベータ群の運行開始後、該手続きは一定の周期で繰り返し実行される。
先ずステップS11にて、複数の初期個体として、予め準備されている複数の判定ノード及び複数の処理ノードからn個(例えば数十個)のGNPプログラムを生成し、ステップS12では、個体の世代を表わす世代変数iを1に設定した後、ステップS13にて、個体を表わす個体変数jを1に設定する。
続いてステップS14では、個体jのGNPプログラムをエレベータシステムシミュレーション部(124)に設定し、ステップS15では、交通データ作成部(123)から得られた交通データを用いて3台のエレベータの昇降動作をシミュレートし、その結果に基づいて評価値を導出する。但し、シミュレーションの実行中に、GNPプログラムが処理ノードに遷移しないループ状態に陥ったときには、該プログラムを構成する複数の処理ノードの内、何れかの処理ノードによるかご割当て処理を強制的に実行させると共に、導出した評価値に評価を低下させるための演算処理を施す。GNPプログラムがループ状態に陥ったことを検知する方法としては、例えば、かご割当てプログラムの起動後に処理が実行された判定ノードの数が所定数を超えたことをもって検知する方法が採用される。
【0034】
次にステップS16では、個体変数jを1だけカウントアップした後、ステップS17にて、該個体変数jに基づいて、n個の全ての個体について評価値が導出されたか否かを判断し、ノーと判断された場合はステップS14に戻って、GNPプログラムの設定、シミュレーション及び評価値の導出を繰り返す。
【0035】
その後、n個の全ての個体について評価値が導出されると、ステップS17にてイエスと判断されて図6のステップS18に移行し、上記ステップS15にて得られた評価値に基づいて、n個の個体のランク付けを行なう。次にステップS19では、ランク付けの結果に基づいて、n個の個体の中から性能の高い所定数(例えば、個体数nの1/5〜1/2)の個体を複数の親個体として選択し、ステップS20にて、突然変異操作により一部の親個体を異なる親個体に変化させた後、ステップS21にて、図7に示す如く交叉操作により複数の親個体から所定数の子個体を生成する。
【0036】
続いてステップS22では、前記ランク付けの結果に基づいて、図7に示す如く前記選択された複数の親個体の中から特に性能の高い所定数の親個体をエリート個体として選択して保存する。
次にステップS23では、前記生成した複数の子個体及び前記選択した複数のエリート個体を次世代のn個の個体として設定し、ステップS24にて前記世代変数iを1だけカウントアップする。続いてステップS25では、世代変数iが所定値(例えば数百)を上回るか否かを判断し、ノーと判断された場合は図5のステップS13に戻って、新世代のn個の個体についてシミュレーション、性能評価、及び次世代の個体の生成を繰り返す。
【0037】
その後、世代変数iが所定値を上回ると、図6のステップS25にてイエスと判断されてステップS26に移行し、最終世代のn個の個体の中から最適な個体を選択して、該個体のGNPプログラムを図1に示すGNPかご割当て部(113)に設定し、上記手続きを終了する。
上記手続きによって、GNPかご割当て部(113)に設定されているGNPプログラムが最適化されることになる。
【0038】
本発明に係るエレベータシステムにおいてGNPかご割当て部(113)に設定されているGNPプログラムは、進化的計算法によって人手によらず自動的に作成することが出来る。
又、GNPプログラムは、図2に示す如く所定の処理を実行する複数のノードを互いに接続することによってかご割当て規則を表現しているので、乗り場呼び装置に対する操作に応じて適切なかごが割り当てられなかった場合に、プログラムの構成を見れば、何れのノードによる処理が実行されて、そのような事態が発生するに至ったのかを究明することが出来、GNPプログラムの該ノードを含む部分を改良することによって該事態の発生に対処することが出来る。
又、GNPプログラムは一部の構成を固定して最適化することが出来るので、所望の運行規則を表わす構成をその時点でのGNPプログラムに追加し、該追加部分を固定して最適化処理を行なえば、容易に該運行規則をその時点でのかご割当て規則に追加することが出来る。
更に、GNPかご割当て部(113)に設定されているGNPプログラムの最適化処理が繰り返されるので、常に最適な運行制御を行なうことが出来る。
【0039】
尚、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
例えば上記実施の形態においては、図1に示すエレベータシステムシミュレーション部(124)によりエレベータシステムのシミュレーションを行なった結果に基づいて評価値を導出しているが、GNP最適化処理部(122)によって生成されたGNPプログラムをGNPかご割当て部(113)に設定して、実際にエレベータ(2)の運行を行なった結果に基づいて評価値を導出することも可能である。かかる構成によれば、エレベータシステムシミュレーション部が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係るエレベータシステムの全体構成を表わすブロック図である。
【図2】上記エレベータシステムの群管理制御装置によって作成されるGNPプログラムの構成例を表わす図である。
【図3】上記群管理制御装置のGNPかご割当て部の内部挙動を表わす模式図である。
【図4】上記群管理制御装置によって実行されるかご割当て手続きを表わすフローチャートである。
【図5】上記群管理制御装置によって実行されるGNPプログラム更新手続きの前半を表わすフローチャートである。
【図6】上記手続きの後半を表わすフローチャートである。
【図7】複数の親個体から次世代の個体を生成する方法を説明するための図である。
【図8】従来の群管理制御装置においてかご割当て動作を実行するニューラルネットワークの構成を表わす図である。
【符号の説明】
【0041】
(1) 群管理制御装置
(11) かご割当て処理回路
(111) 通信管理部
(112) 情報処理部
(113) GNPかご割当て部
(114) 割当て管理部
(12) 最適化処理回路
(121) GNP性能評価部
(122) GNP最適化処理部
(123) 交通データ作成部
(124) エレベータシステムシミュレーション部
(2) エレベータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のかごを具えたエレベータ群に接続され、乗り場にてかごを呼ぶためのかご呼び操作が行なわれたときに前記複数のかごの中から乗り場へ移動させるべき1つのかごを選択するかご割当て動作を行なう群管理制御装置において、
前記複数のかごの中から1つのかごを選択するかご割当て処理を実行する複数の処理ノードとエレベータ群の状態に関する判定処理を行なう複数の判定ノードとをネットワーク状に互いに接続してなるプログラムを動作させて、かごを選択するかご割当て手段
を具えていることを特徴とする群管理制御装置。
【請求項2】
複数のかごを具えたエレベータ群に接続され、乗り場にてかごを呼ぶためのかご呼び操作が行なわれたときに前記複数のかごの中から乗り場へ移動させるべき1つのかごを選択するかご割当て動作を行なう群管理制御装置において、
前記かご呼び操作が行なわれたとき、エレベータ群の状態を表わす状態情報を作成する情報作成手段と、
進化的計算法によって作成され、所定の処理を実行する複数のノードを互いに接続することによってかご割当て規則が表現されており、前記情報作成手段によって作成された状態情報を参照して実行を行なうかご割当てプログラムを動作させるかご割当て手段
とを具えていることを特徴とする群管理制御装置。
【請求項3】
前記かご割当てプログラムは、前記複数のかごの中から1つのかごを選択するかご割当て処理を実行する複数の処理ノードとエレベータ群の状態に関する判定処理を行なう複数の判定ノードとをネットワーク状に互いに接続してなるGNPプログラムである請求項2に記載の群管理制御装置。
【請求項4】
前記かご割当て手段は、かご呼び操作が行なわれた後、所定時間内に処理ノードによるかご割当て処理が実行されないときに、かご割当てプログラムを構成する複数の処理ノードの内、何れかの処理ノードによるかご割当て処理を強制的に実行させる請求項3に記載の群管理制御装置。
【請求項5】
前記かご割当てプログラムを進化させて最適化する処理を繰り返す最適化処理手段を具えている請求項3又は請求項4に記載の群管理制御装置。
【請求項6】
前記最適化処理手段は、
複数のかご割当てプログラムを生成する手段と、
エレベータ群の利用状況を表わす交通情報を用いて、生成された複数のかご割当てプログラムをそれぞれ実行してエレベータ群の運行をシミュレートするシミュレーション手段と、
前記生成された複数のかご割当てプログラムについて夫々、シミュレーション結果に基づきエレベータ群の運行に関する1或いは複数種類の評価値を導出する評価値導出手段と、
導出された評価値に基づいて、前記生成された複数のかご割当てプログラムの中から最適なかご割当てプログラムを選択する選択手段
とを具えている請求項5に記載の群管理制御装置。
【請求項7】
前記シミュレーション手段は、シミュレーションの実行中にかご割当てプログラムが処理ノードに遷移しないループ状態に陥ったときに、該プログラムを構成する複数の処理ノードの内、何れかの処理ノードによるかご割当て処理を強制的に実行させる請求項6に記載の群管理制御装置。
【請求項8】
複数のかごを具えたエレベータ群と、該エレベータ群に接続され、乗り場にてかごを呼ぶためのかご呼び操作が行なわれたときに前記複数のかごの中から乗り場へ移動させるべき1つのかごを選択するかご割当て動作を行なう群管理制御装置とを具えているエレベータシステムにおいて、該群管理制御装置は、
前記かご呼び操作が行なわれたとき、エレベータ群の状態を表わす状態情報を作成する情報作成手段と、
進化的計算法に従って作成され、所定の処理を実行する複数のノードを互いに接続することによってかご割当て規則が表現されており、前記情報作成手段によって作成された状態情報を参照して実行を行なうかご割当てプログラムを動作させるかご割当て手段
とを具えていることを特徴とするエレベータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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