説明

耐ジメチルエーテル性ゴム組成物

【課題】DME及びLPガスに対する耐性を有するゴム部材を形成するためのゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジメチルエーテルのガスまたは液体と接触する部位に使用されるゴム部材を形成するためのゴム組成物であって、エチレンと、α−オレフィンと、ジエン化合物との三元共重合体に、低分子量ポリエチレンを配合してなることを特徴とする耐ジメチルエーテル性ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメチルエーテル(以下、「DME」と略す)を製造・貯蔵・輸送・供給・使用する段階で、気体または液体のDMEと接触する装置・機器に使用されるゴム部材を形成するのに適したゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムOリングのように、合成ゴムを主材料とし、これに架橋剤・架橋助剤・充填材等のゴム薬品を配合して金型等によって加圧加熱成型したゴム系シール材は、適度の柔軟性を有し、接合面とのなじみが良く、シール性が優れているために、各種産業の装置・機器に幅広く使用されている。
【0003】
このうち、LPガス業界においては、一次基地・二次基地・充填所等の供給設備や外航船、沿岸船、タンクローリ等の輸送設備において、配管の接続部分やバルブ等の機器にゴム系シール材、特にLPガスに対する耐薬品性の良いNBRやフッ素ゴムが多く使われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
ここで、LPガスはプロパンとブタンを主成分とし、運搬・保管が容易なことから民生用のエネルギーとして、全国の総世帯の約55%、2,500万世帯で使用されており、運輸用としてもほぼすべてのタクシーで燃料として使用されている。また、産業用としても鉄鋼を始めとする工業用や電力用、石油化学原料等幅広く利用されており、国民生活ならびに産業経済においてなくてはならないエネルギーとなっている。
【0005】
ところが、このLPガスは輸入の約8割を中東に依存している上に、近年、中国・インド等のアジア諸国において所得水準の上昇に伴い、分散型燃料としてのLPガスの需要が急増しつつあり、需給の逼迫による価格の高値安定が恒常化しつつあるという問題が発生している。
【0006】
このような情勢を受けて、新たなエネルギー源を見つけようという動きが活発になっており、プラントの建設設備が低く、中小規模のガス田を有効に活用できることから、DMEが着目されている。このDMEはCHOCHという化学構造を有し、通常は天然ガス・随伴ガス・石炭等をガス化して得られる合成ガス(CO、H)を原料としてDME合成によって得られ、燃やした時に煤塵やSOxが発生せず、NOxも少ないというクリーンな特徴を有することから、発電用・ボイラー用・家庭用・自動車用等の燃料としての利用が検討されている。しかも、このDMEは蒸気圧のような物理的性状がLPガスに似ていることから、LPガスのインフラを活用することが可能で経済的であるという利点も備えている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「DME検討会」報告書、平成8年8月8日発行、資源エネルギー庁 資源・燃料部 石油流通課、財団法人エルピーガス振興センター 日本LPガス協会、p.5〜p.6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、DMEは化学的にはエーテルに分類され、パラフィン系炭化水素であるプロパンやブタンからなるLPガスとは化学的性質がまったく異なり、プラスチックやゴム等の有機化合物に対して、ガス透過性が高く、膨潤や溶解させやすいという特徴を有している。上記のように、LPガスの貯蔵タンクや配管にはシール材としてNBRやフッ素ゴムが使用されているが、これらのゴム材料はDMEに対する耐性が低く、比較的容易に侵蝕される。
【0009】
具体的には、本発明者らの実験によると、DMEとの接触によりNBRやフッ素ゴムは著しく膨潤し、DMEの透過性がLPGに比べて10倍以上となってしまい、シール材としての機能を十分果たせない恐れがあることが判明した。
【0010】
このように、DMEがLPガスの代替燃料として有力な候補として注目されているなかで、LPガスのインフラをそのまま使用できるようにするためには、DMEに対する耐性(耐DME性)が高いゴム材料の開発が急務となっている。そこで、本発明は、DME及びLPガスに対する耐性を有するゴム部材を形成するためのゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねたところ、エチレンと、α−オレフィンと、ジエン化合物との三元共重合体に、低分子量ポリエチレンを配合したゴム組成物が、優れた耐DME性を示し、更にはLPガスへの耐性も良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記の耐DME性ゴム組成物を提供する。
(1)ジメチルエーテルのガスまたは液体と接触する部位に使用されるゴム部材を形成するためのゴム組成物であって、エチレンと、α−オレフィンと、ジエン化合物との三元共重合体に、低分子量ポリエチレンを配合してなることを特徴とする耐DME性ゴム組成物。
(2)三元共重合体100重量部に対し、平均分子量が1000以上の低分子量ポリエチレンを10〜45重量部配合したことを特徴とする上記(1)記載の耐DME性ゴム組成物。
(3)三元共重合体におけるエチレン含量が60質量%以上であることを特徴とする上記(1)または(2)記載の耐ジメチルエーテル性ゴム組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の耐DME性ゴム組成物は、DME、更にはLPガスに対する耐性に優れ、DME及びLPガスと接触する装置・機器のOリング、ガスケット、パッキン、オイルシール、ダイヤフラム、ホース、ゴム栓等のゴム部材の形成材料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0014】
本発明の耐DME性ゴム組成物は、エチレンと、α−オレフィンと、ジエン化合物との三元共重合体に、低分子量ポリエチレンを配合したものである。
【0015】
三元共重合体におけるα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、セキセン−1、オクテン−1等が挙げられる。ジエン化合物としては、1,5−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネン等が挙げられる。中でも、α−オレフィンがプロピレンであるEPDMは、市場から容易に入手でき、好ましい。また、三元共重合体におけるエチレン含量は、55質量%以上であることが好ましく、60〜75質量%であることがより好ましい。
【0016】
低分子量ポリエチレンとは、平均分子量が500〜15000のものであり、中でも1000以上のものが好ましく、1000〜10000のものがより好ましい。平均分子量が500より低いポリエチレンを使用すると、DMEにポリエチレンが溶け出すため好ましくない。一方、平均分子量が15000より大きいポリエチレンでは、ゴム組成物が硬くなりすぎ、Oリング等のシール材に適用した場合にシール性能が十分ではなくなり好ましくない。
【0017】
低分子量ポリエチレンは、三元共重合体100重量部に対し、5〜50重量部、好ましくは10〜45重量部配合する。5重量部より少ないと、DMEによる膨潤が大きい。また、50重量部より多いと、ゴム組成物全体としてゴム弾性が無くなり樹脂的性質のみとなる。
【0018】
また、本発明の耐DME性ゴム組成物には、低分子量ポリエチレン以外の充填材及び可塑剤の少なくとも一方を添加することが好ましい。
【0019】
可塑剤の種類は、一般的なゴム組成物に用いられるプロセスオイル、合成可塑剤等を用いることができ、中でもフタル酸誘導体、アジピン酸誘導体等の合成可塑剤が好ましい。これら可塑剤は、三元共重合体100重量部に対して1〜80重量部、好ましくは5〜50重量部配合される。可塑剤の配合量が多いほど、ゴムの膨潤量は小さくなるが、一方でゴム表面にブリードしやすくなる。
【0020】
但し、可塑剤の配合量が多くなると、架橋成型により得られる成型体の強度が低くなるため、低分子量ポリエチレン以外の充填剤を三元共重合体100重量部に対して20〜200重量部、好ましくは25〜100重量部配合して、強度低下を補うのが好ましい。低分子量ポリエチレン以外の充填剤としては、従来からゴム組成物の特性を向上させるために使用されているカーボンブラック、ホワイトカーボン等が用いられる。中でも、FEFカーボン、SRFカーボン、FTカーボン、MTカーボンをブレンドして配合するのが好ましい。
【0021】
更に、本発明の耐DME性ゴム組成物には、架橋系薬剤を添加してもよい。架橋系薬剤としては、従来よりゴムを架橋させるために使用している硫黄系の架橋剤、架橋促進剤、架橋促進助剤、共架橋剤等が用いられる。また、過酸化物加硫の場合に用いる有機過酸化物等も使用可能である。
【0022】
また、従来よりゴム組成物に使用されている老化防止剤、スコーチ防止剤、素練り促進剤、発泡剤、粘着付与剤、着色剤等の各種添加剤を、目的とするゴム部材に要求される物性や特性に合わせて適量添加してもよい。
【0023】
本発明の耐DME性ゴム組成物は、通常のゴム製品の製造方法によって製造することができる。即ち、オープンロール、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等によって混練を行い、金型による熱プレス成型、押出成型、ブロー成型、トランスファー成型、射出成型等の方法によって所望の形状に成型することができる。
【0024】
成型条件は、一次架橋として130〜190℃で2〜30分加熱することが好ましい。130℃未満では硬化時間が長くなってしまうため工業的生産性に劣り、190℃を越えるとスコーチ発生や加硫戻りの危険性がある。より望ましくは、加熱温度を140〜180℃とする。
【0025】
また、特にシール材とする場合は、シール性質を向上させるために100〜200℃で1〜20時間程度熱処理して二次架橋させても良い。ここで、二次架橋条件は、成形後の形状を損なわないように可塑剤等の配合剤が揮発しない条件が望ましい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例と比較例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
表1に示すように、エチレン含量が67質量%であるEPDM(JSR製「EP51」)と、平均分子量4000の低分子量ポリエチレン(三井化学製「HW400P」)とを用い、EPDMと低分子量ポリエチレンとの合計量に対しEPDMが90質量%で低分子量ポリエチレンが10質量%となるように混合し、加圧ニーダーにより150℃で溶融混練した。その後、EPDMと低分子量ポリエチレンとの合計を100重量部とし、充填剤(MTカーボン)60重量部、加工助剤(ステアリン酸)1重量部、架橋剤(パーヘキサ25B-40)6重量部、共架橋剤(トリアリルイソシアヌレート)2重量部、老化防止剤(ノクセラーCD)を添加してミキシングロールを用いて室温で混合した。その後、架橋後の混練物を180℃で10分間架橋成形を行って、ゴムシートを得た。
【0028】
(実施例2)
表1に示すように、実施例1と同一の低分子量ポリエチレンの量を20質量%とし、他は実施例1と同様の操作を行ってゴムシートを作製した。
【0029】
(実施例3)
エチレン含量が62質量%であるEPDM(JSR製「EP107」)、実施例1と同一の低分子量ポリエチレンを用い、表1に示す配合にて実施例1と同様の操作を行ってゴムシートを作製した。
【0030】
(実施例4)
エチレン含量が67質量%であるEPDM(JSR製「EP51」)、平均分子量8000の低分子量ポリエチレン(三井化学製「HW800P」を用い、表1に示す配合にて実施例1と同様の操作を行ってゴムシートを作製した。
【0031】
(比較例1)
エチレン含量が67質量%であるEPDM(三井化学製「EP51」)、平均分子量900の低分子量ポリエチレン(三井化学製「HW 100P」)を用い、表1に示す配合にて実施例1と同様の操作を行ってゴムシートを作製した。
【0032】
(比較例2)
エチレン含量が53質量%(JSR製「EP33」)であるEPDMを用い、低分子量ポリエチレンを配合することなく、他は比較例1と同様の操作を行ってゴムシートを作製した。
【0033】
(DME浸漬試験)
各ゴムシートから試験片を切り出し、オートクレーブ中でDMEに23℃で48時間浸漬した後、オートクレーブから取り出し、浸漬前からの体積変化率及び重量減少率を求めた。結果を表1に示す。
【0034】
表1から判るように、本発明に係る実施例のゴムシートは、比較例のゴムシートに比べてDME浸漬後の膨潤が小さく、耐DME性に優れている。
【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルエーテルのガスまたは液体と接触する部位に使用されるゴム部材を形成するためのゴム組成物であって、エチレンと、α−オレフィンと、ジエン化合物との三元共重合体に、低分子量ポリエチレンを配合してなることを特徴とする耐ジメチルエーテル性ゴム組成物。
【請求項2】
三元共重合体100重量部に対し、平均分子量が1000以上の低分子量ポリエチレンを10〜45重量部配合したことを特徴とする請求項1記載の耐ジメチルエーテル性ゴム組成物。
【請求項3】
三元共重合体におけるエチレン含量が60質量%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の耐ジメチルエーテル性ゴム組成物。

【公開番号】特開2011−148879(P2011−148879A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10037(P2010−10037)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】