説明

耐水蒸気性多孔質膜、耐水蒸気性多孔質複合体及びこれらの製造方法

【課題】耐熱性及び耐水蒸気性に優れた、多孔質膜及びその製造方法並びに多孔質複合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の多孔質膜は、平均細孔径が10nm以下の細孔を有し、Al元素と、Ce元素と、Zr元素とを含む酸化物固溶体からなる。上記酸化物固溶体を構成するAl元素、Ce元素及びZr元素の比は、これらの酸化物Al、CeO及びZrOを用いて換算したとき、これらの合計100mol%に対して、CeOが2〜40mol%、ZrOが2〜40mol%であることが好ましい。また、本発明の多孔質複合体3は、無機材料からなる多孔質基材1と、該多孔質基材1の表面に配設された、上記本発明の多孔質膜2と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜及びその製造方法並びに多孔質複合体及びその製造方法に関する。更に詳しくは、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた、多孔質膜及びその製造方法並びに多孔質複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細な孔を有する多孔材料は、触媒用担体、ガス分離膜、ガス分離材の中間層等に利用されている。使用環境の多様化により、化学的及び構造的に安定であり、いろいろな条件で安定性能が得られる多孔材料の検討が進められている。
従来、多孔材料としては、シリカ、アルミナ等からなる非晶質物質が多用されており、特に、機械的強度が要求される場合には、アルミナ(γ−Al)が好ましく用いられてきた(例えば、特許文献1、2等)。
また、他の材料としては、ジルコニア、チタニア等からなる多孔材料も開示されている(特許文献3)。
【0003】
【特許文献1】特開昭58−190823号公報
【特許文献2】特開昭60−54917号公報
【特許文献3】特開2001−170500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
触媒用担体、ガス分離膜、ガス分離材等に利用される多孔材料については、特に、孔径及びその分布が、特性に影響を与えることが知られている。多孔材料として汎用なアルミナ(γ−Al)の場合、800℃以上に加熱されると、相転移が起こり始め、1000℃以上になると結晶化する問題があった。また、メタンガスから水素ガスを製造し回収する際に、水蒸気の存在下、あるいは、水蒸気が混在した状態で、例えば、500℃等の高温で分離膜を介して分離が行われるが、水蒸気の存在によって、細孔径及びその分布が変化する問題があった。そのため、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた多孔材料が求められていた。
本発明の目的は、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた、多孔質膜及びその製造方法並びに多孔質複合体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、以下の通りである。
本発明の多孔質膜は、平均細孔径が10nm以下の細孔を有し、Al元素と、Ce元素と、Zr元素とを含む酸化物固溶体からなることを特徴とする。
上記酸化物固溶体を構成するAl元素、Ce元素及びZr元素の比は、これらの酸化物Al、CeO及びZrOを用いて換算したとき、これらの合計100mol%に対して、CeOが2〜40mol%であり、且つ、ZrOが2〜40mol%であることが好ましい。
本発明の多孔質膜の製造方法は、無機材料からなる基材の表面に、Al成分を含むゾルと、Ce化合物と、Zr化合物とを含む組成物からなる被膜を形成する被膜形成工程と、上記被膜を加熱する熱処理工程と、を備えることを特徴とする。
上記熱処理工程における加熱温度は、450〜950℃の範囲にあることが好ましい。
【0006】
本発明の多孔質複合体は、無機材料からなる多孔質基材と、該多孔質基材の表面に配設された、上記本発明の多孔質膜と、を備えることを特徴とする。即ち、多孔質基材及び多孔質膜により積層体を形成している。
上記多孔質基材の平均細孔径は、1〜200nmの範囲にあることが好ましい。
上記無機材料は、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
上記多孔質基材の平均細孔径は、上記多孔質膜の平均細孔径より大きいことが好ましい。
また、本発明の多孔質複合体の製造方法は、無機材料からなる多孔質基材の表面に、Al成分を含むゾルと、Ce化合物と、Zr化合物とを含む組成物からなる被膜を形成する被膜形成工程と、上記被膜を加熱する熱処理工程と、を備えることを特徴とする。
上記熱処理工程における加熱温度は、450〜950℃の範囲にあることが好ましい。
上記多孔質基材の平均細孔径は、1〜200nmの範囲にあることが好ましい。
上記無機材料は、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多孔質膜は、500℃以上の、好ましくは950℃までの高い温度において、化学的及び構造的に安定であり、耐熱性に優れる。また、水蒸気の存在下であっても、化学的及び構造的に安定であり、耐水蒸気性に優れる。従って、耐久性に優れ、触媒用担体、ガス分離膜、ガス分離材の中間層等に好適である。
また、本発明の多孔質膜の製造方法によると、上記性質を有し、細孔径が小さく、且つ、より狭い細孔分布を有する多孔質膜を容易に製造することができる。
【0008】
本発明の多孔質複合体は、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた多孔質膜を備えることから、耐久性に優れ、特に、多孔質基材及び多孔質膜の積層方向を利用したガス分離材又はその中間層、等に好適である。
また、本発明の多孔質複合体の製造方法によると、多孔質基材及び多孔質膜が強固に接合され、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた多孔質複合体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
1.多孔質膜
本発明の多孔質膜は、平均細孔径が10nm以下の細孔を有し、Al元素と、Ce元素と、Zr元素とを含む酸化物固溶体からなることを特徴とする。
上記酸化物固溶体を構成するAl元素、Ce元素及びZr元素の比は、これらの酸化物Al、CeO及びZrOを用いて換算したとき、これらの合計100mol%に対して、好ましくは、CeOが2〜40mol%であり、且つ、ZrOが2〜40mol%であり、より好ましくは、CeOが5〜20mol%であり、且つ、ZrOが5〜20mol%であり、更に好ましくは、CeOが8〜12mol%であり、且つ、ZrOが8〜12mol%である。換算したCeO及びZrOの量が少なすぎると、耐熱性及び耐水蒸気性の改良効果が発現しない場合がある。また、多すぎると、CeO及びZrOの単相が析出する場合がある。
【0010】
上記酸化物固溶体は、γ−Al非晶質相の中に、Zrが固溶したCeOが分散しており、即ち、γ−Alの結晶構造の中にCe及びZrが含まれた混合陽イオン状態となっている。
尚、本発明の多孔質膜が、上記酸化物固溶体からなるものであることは、X線回折(XRD)により確認することができる。
図10は、下記〔a〕〜〔d〕の構成の酸化物固溶体のX線回折像を示すが、特に、〔a〕、〔b〕及び〔c〕の構成の場合、〔a〕において、CeOの(111)面のパターン(2θ=約28.5度)が、ZrOの含有量が〔b〕及び〔c〕の順に増加するにつれて広角側にシフトしており、〔b〕及び〔c〕において、Ce元素及びZr元素の各酸化物が独立して存在するのではなく、固溶体を形成していることが分かる。
〔a〕Al/CeO(モル比90/10)
〔b〕Al/CeO/ZrO(モル比85/10/5)
〔c〕Al/CeO/ZrO(モル比80/10/10)
〔d〕Al/ZrO(モル比90/10)
【0011】
上記細孔は、一面から他面に連通しており、この細孔の平均細孔径は、10nm以下であり、好ましくは1〜8nm、より好ましくは1〜6nmである。
【0012】
本発明の多孔質膜は、単層でよいし、多層でもよい。また、後述する「多孔質膜の製造方法」における説明のように、通常、基材の表面に形成されるため、膜の形状は、上記基材の表面形状に依存する。
本発明の多孔質膜の膜厚は、通常、0.5〜10μm、好ましくは0.8〜8μm、より好ましくは1〜5μmである。上記膜厚が小さすぎると、膜に欠陥が生じている場合がある。
【0013】
本発明の多孔質膜が、上記酸化物固溶体からなることから、焼結の原動力となる陽イオンの拡散が抑制され、800℃以上に加熱されても、相転移することなく、また、更に加熱されて950℃程度であっても結晶化することもない。従って、800℃以上の温度においても、平均細孔径の肥大化及びその分布の拡大化は、非晶質γ−Al多孔体の場合に比べて抑制される。
【0014】
2.多孔質複合体
本発明の多孔質複合体は、無機材料からなる多孔質基材と、該多孔質基材の表面に配設された、上記本発明の多孔質膜と、を備えることを特徴とする。概略断面図(図1)を用いて説明すると、本発明の多孔質複合体3は、多孔質基材1及び多孔質膜2からなる積層体である。尚、上記多孔質膜は、単層でよいし、2以上の層からなる多層でもよく、2層の場合は、図2に示される。
また、本発明の多孔質複合体の表面層は、図3に示すように、多孔質基材1の表面のほとんどが、多孔質膜2に被覆されており、細孔の開口部に、多孔質膜2を有する場合(細孔4aの上方)と、多孔質膜2を有さず細孔4がそのまま残っている場合とがある。尚、図3は、一例であって、細孔径の小さい細孔の開口部のすべてが被覆される場合と、一部が被覆される場合とがある。また、多孔質基材1の細孔径、及び、多孔質膜2の細孔径が同じ場合(図3)もあれば、後者が狭径の場合(図示せず)もある。
【0015】
上記多孔質基材は、無機材料からなるものである。この無機材料としては、1面から他面へと線状又は網目状に貫通する細孔を有する多孔質構造を形成できるものであれば、特に限定されないが、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、シリカ、サイアロン、酸化チタン、セピオライト、モンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイト、バーミキュライト、カネマイト等が挙げられる。これらのうち、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素が好ましい。また、上記化合物は単独で又は組み合わせて用いてもよい。
【0016】
上記多孔質基材の平均細孔径は、好ましくは1〜200nmであり、より好ましくは40〜180nm、更に好ましくは60〜150nmである。但し、各種用途への実用性を考慮すると、本発明の多孔質複合体において、多孔質基材の平均細孔径は、多孔質膜の平均細孔径より大きいことが好ましい。
従って、例えば、本発明の多孔質複合体を、触媒用担体として用いる場合、多孔質基材及び多孔質膜の各平均細孔径の好ましい組み合わせは、60〜150nm及び1〜20nmである。
また、本発明の多孔質複合体を、水素ガスを対象としたガス分離材として用いる場合、多孔質基材及び多孔質膜の各平均細孔径の好ましい組み合わせは、60〜150nm及び1〜6nmである。
更に、本発明の多孔質複合体を、ガス分離材の中間層として用いる場合、多孔質基材及び多孔質膜の各平均細孔径の好ましい組み合わせは、60〜150nm及び1〜10nmである。
【0017】
上記多孔質基材の形状は、目的、用途等に応じて選択されるが、塊状(多面体、球等)、板状(平板、曲板等)、筒状(円筒、角筒等)、半筒状、棒状等とすることができる。
また、大きさも、目的、用途等に応じて選択され、特に、混合ガスの分離に関わる厚さとしては、好ましくは200〜3000μmである。
【0018】
3.多孔質膜の製造方法及び多孔質複合体の製造方法
本発明の多孔質膜の製造方法は、無機材料からなる基材の表面に、Al成分を含むゾルと、Ce化合物と、Zr化合物とを含む組成物(以下、「ゾル組成物」という。)からなる被膜を形成する被膜形成工程と、上記被膜を加熱する熱処理工程と、を備えることを特徴とする。
【0019】
上記被膜形成工程において用いる基材は、熱処理工程における加熱により変形、変質等しない無機材料からなるものであれば、特に限定されない。また、熱処理工程により形成される多孔質膜の構成材料の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有する無機材料が好ましい。この無機材料としては、通常、金属、合金、酸化物、窒化物及び炭化物から選択され、例えば、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、シリカ、サイアロン、酸化チタン、セピオライト、モンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイト、バーミキュライト、カネマイト等が挙げられる。これらのうち、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素が好ましい。また、上記化合物は、単独で又は組み合わせて用いてもよい。
尚、上記基材の形状は、塊状(多面体、球等)、板状(平板、曲板等)、筒状(円筒、角筒等)、半筒状、棒状等とすることができる。また、上記基材の形態は、中実体及び多孔体のいずれでもよいが、多孔体が好ましい。
【0020】
上記被膜形成工程において用いるゾル組成物は、Al成分を含むゾルと、Ce化合物と、Zr化合物とを含有する組成物である。このゾル組成物は、更に、分散性、粘度調整等を向上するために、高分子量成分、水等を含有してもよい。
上記ゾル組成物に含まれるAl成分、Ce成分及びZr成分の比は、これらの酸化物Al、CeO及びZrOを用いて換算したとき、これらの合計100mol%に対して、好ましくは、CeOが2〜40mol%、及び、ZrOが2〜40mol%であり、より好ましくはCeOが5〜20mol%、及び、ZrOが5〜20mol%である。
また、上記ゾル組成物の固形分濃度は、好ましくは5〜7質量%であり、pHは、好ましくは0.5〜3.5である。
【0021】
上記ゾル組成物は、通常、上記のAl成分を含むゾル、Ce化合物、Zr化合物等を用い、上記の各濃度なるように、これらを混合することにより調製される。
Al成分を含むゾルとしては、公知のアルミナゾル(コロイド粒子としてアルミナ水和物を含むゾル)、好ましくは、ベーマイトゾルが用いられる。このベーマイトゾルは、AlO(OH)の分子式で表される物質を含むゾルである。
上記ベーマイトゾルとしては、以下の方法で得られたゾルを用いることができる。即ち、まず、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムブトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド等のアルミニウムアルコキシドを、水に可溶な有機溶媒(イソプロパノール、エタノール、2−ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール等)に溶解させる。その後、この溶液を、塩酸、硝酸、過塩素酸、酢酸、プロピオン酸等の一価の酸により酸性とし、80℃以上、好ましくは80〜95℃の水中に、撹拌しながら添加し、加水分解する。通常、上記温度で1〜20時間、攪拌が継続される。尚、この熱水の温度が低いと、無定形の水和物が生成してしまうことがある。
次いで、加水分解によりアルミニウムアルコキシドから生じた(遊離した)アルコールを蒸発させ、除去することにより、ベーマイトと、水とを含む混合物が得られる。その後、この混合物に、更に、上記酸を添加することによりベーマイトゾルが調製される。尚、加水分解前のアルミニウムアルコキシドが、水と反応しないようにするため、予め、無水酢酸、無水マレイン酸等のカルボン酸無水物;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル等のアセト酢酸エステル;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジプロピル等のジカルボン酸エステル等を配合しておいてもよい。
【0022】
上記のCe化合物及びZr化合物としては、いずれも、Ce原子又はZr原子を含む水酸化物、硫酸塩、硝酸塩等を用いることができる。
また、上記高分子量成分としては、ポリビニルアルコール及びその変性物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、でんぷん及びその変性物等が挙げられる。
【0023】
上記ゾル組成物を、効率よく調製するためには、上記の方法により得られたベーマイトゾル、及び/又は、市販のベーマイトゾルと、Ce化合物と、Zr化合物と、を混合してもよいが、上記ベーマイトゾルとする直前の上記混合物と、上記Ce化合物として硝酸セリウム等の水に溶解して酸性を呈する化合物等と、上記Zr化合物として、オキシ硝酸ジルコニウム等の水に溶解して酸性を呈する化合物等と、を混合することが好ましい。このように、水に溶解して酸性を呈する化合物を用いる場合には、上記各成分の混合によって、酸性になるため、ベーマイトゾルと、Ce成分と、Zr成分とを含む組成物を得ることができる。従って、上記各成分の混合の後、酸を添加する必要がない。尚、このゾル組成物の調製の際には、上記高分子量成分を配合してもよい。
上記のCe化合物及びZr化合物は、それぞれ、固体で用いてよいし、いずれか一方を、又は、両方を、水、有機溶媒等に溶解させてなる溶液を用いてもよい。溶液を用いる場合は、調製されるゾル組成物のpHが、上記好ましい範囲になるように、酸等が用いられる。上記高分子量成分を配合する場合も同様に、好ましい含有量となるように、単独であるいは溶液として用いられる。この高分子量成分の含有量は、混合前のAl成分、Ce成分及びZr成分の固形分の合計量に対して、好ましくは8〜18質量%である。
【0024】
上記被膜形成工程において、ゾル組成物は、基材の表面に塗布され、基材の表面に沿って、被膜が形成される。塗布方法としては、ディッピング法、スプレー法、スピン法等が挙げられる。また、上記ゾル組成物を塗布する際の、ゾル組成物の温度は、好ましくは10〜35℃、より好ましくは15〜25℃であり、上記基材の温度は、好ましくは10〜35℃、より好ましくは15〜25℃である。
被膜の厚さは、用途に応じて選択され、通常、1〜6μmである。
尚、基材が多孔体である場合には、ゾル組成物が、細孔内部に侵入することがあるが、侵入しないように塗布し、被膜を形成することが好ましい。ゾル組成物が、一部の細孔内部に入った場合は、以下の熱処理工程によって生成される酸化物固溶体が充填した状態になる場合がある。
【0025】
上記熱処理工程における熱処理条件としては、大気、酸素ガス等の雰囲気中、大気圧下において、加熱温度が、好ましくは450〜950℃、より好ましくは550〜850℃、更に好ましくは600〜800℃である。熱処理は、この範囲の温度であれば、一定温度で熱処理を行ってよいし、温度を変化させながら熱処理を行ってもよい。尚、加熱温度が高すぎると、α−Alへの相転移が進行してしまう場合がある。
上記範囲の温度で熱処理することにより、組成が安定であり、均一である酸化物固溶体からなる多孔質膜を得ることができる。上記温度が低すぎると、ZrがCeOに固溶せず、細孔構造が熱的に不安定になる傾向がある。一方、温度が高すぎると、細孔径が大きくなる傾向がある。尚、加熱時間、昇温速度等は、基材の形状、大きさ等により、適宜、選択されるが、加熱時間は、通常、0.5〜10時間である。
上記熱処理工程の後、表面にクラックが生じないように、徐冷される。
【0026】
上記の被膜形成工程及び熱処理工程は、それぞれ、1回ずつ行って単層型の多孔質膜2としてよいし(図1)、繰り返し行って、積層型の多孔質膜2とすることもできる(図2)。
【0027】
上記ゾル組成物を用いて被膜を形成し、上記条件により熱処理を行うことにより、平均細孔径が10nm以下、好ましくは1〜6nmの細孔を有する多孔質膜を容易に形成することができる。
【0028】
また、本発明の多孔質複合体の製造方法は、無機材料からなる多孔質基材の表面に、Al成分を含むゾルと、Ce化合物と、Zr化合物とを含む組成物(以下、「ゾル組成物」という。)からなる被膜を形成する被膜形成工程と、上記被膜を加熱する熱処理工程と、を備えることを特徴とする。
【0029】
上記多孔質基材は、無機材料からなるものである。この無機材料としては、1面から他面へと線状又は網目状に貫通する細孔を有する多孔質構造を形成できるものであれば、特に限定されないが、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、シリカ、サイアロン、酸化チタン、セピオライト、モンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイト、バーミキュライト、カネマイト等が挙げられる。これらのうち、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素が好ましい。また、上記化合物は単独で又は組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記多孔質基材の平均細孔径は、好ましくは1〜200nm、より好ましくは40〜180nm、更に好ましくは60〜150nmである。
また、上記多孔質基材の形状は、塊状(多面体、球等)、板状(平板、曲板等)、筒状(円筒、角筒等)、半筒状、棒状等とすることができる。
【0031】
本発明の多孔質複合体の製造方法において、被膜形成工程及び熱処理工程については、上記本発明の多孔質膜の製造方法における被膜形成工程及び熱処理工程をそのまま適用することができる。
従って、本発明によって、図1及び図2に示す多孔質複合体3を得ることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0033】
比較例1
α−Alからなり、内壁及び外壁の間に網目状に連通する、開気孔率38%の細孔(平均細孔径60nm)を有する多孔質の管状体111(内径4mm、外径6mm及び長さ80mm)の両端面を、α−Alからなり、同じ内径及び外径を有する中実体の管112、及び、α−Alからなり、同じ内径及び外径を有し、底面が凹面である中実体の有底管113の各端面によりガラスシールし、複合基材11を得た(図4参照)。即ち、この複合基材11は、中実体の管112と、多孔質管状体111と、中実体の有底管113とをこの順に備え、各管の端面どうしを密着させるためのガラス封止部1111を備える。
一方、Arガス雰囲気のグローブボックスの中で、10.59gのアルミニウムsec−ブトキシドに、水溶性有機溶媒として、2ミリリットルのイソプロパノールを加え、十分混合した。その後、この混合液を、90℃に加熱した蒸留水160ミリリットルの攪拌下に、添加し、1N−硝酸を滴下してpH3とし、固形分濃度6.21質量%のベーマイトゾルを得た。
【0034】
次に、上記複合基材11を、図5のように縦置きにして、中実体の管112の開口部に栓をし、上記ベーマイトゾルが多孔質管状体111の細孔内に入らないようにして、上記ベーマイトゾル6内に10秒間浸漬した。その後、取り出して、12時間乾燥させ、大気雰囲気中、600℃で3時間熱処理し、上記複合基材11の全表面に、γ−Alからなる多孔質膜を形成させた。この操作を再度繰り返し、多孔質管状体111と、この管状体111の外表面を被覆している多孔質膜2(2層型)とを備える多孔質複合体3(図2参照)を含む複合構造体(図示せず)を得た。
上記多孔質膜2の膜厚は、2.6μmであった。また、西華産業株式会社製細孔径分布測定装置「ナノパームポロメーター」を用い、上記多孔質膜2の細孔径分布を測定したところ、図6において○印(白丸印)を結んでなる曲線が示す分布を得た。細孔径は1.5〜5.7nmの範囲で分布しており、ピークは約4nm、平均細孔径は3.7nmであった。
【0035】
上記で得られた複合構造体を、500℃に保持し、75%の水蒸気及び25%の窒素ガスからなる混合ガス(以下、「混合ガス」という。)中に20時間暴露する処理(以下、「水蒸気処理」という。)した後、上記装置により多孔質膜2の細孔径分布を測定したところ、図6において●印(黒丸印)を結んでなる曲線が示す分布を得た。細孔径は1.5〜6.9nmの範囲で分布しており、ピークは約5nmであった。図6から明らかなように、●印を結んでなる曲線が示す分布は、○印を結んでなる曲線が示す分布に比べて、大きく広がっていることが分かる。
【0036】
また、上記で得られた複合構造体を分離材とし、図9に示すガス透過試験装置により、定容積圧力変化法に基づき、500℃における水素ガス透過試験を行い、上記水蒸気処理を合計で2時間、4時間及び20時間行った後における水素ガスの透過率を、以下の要領で測定した。
まず、減圧にした透過側ラインに設置したバッファタンク内の圧力変化によってガス分子の流量を定量する。1〜2気圧の水素ガスを、上記分離材を保持した透過セル内に2000cc/分にて流し、真空ポンプによりバッファタンク内を30Torrに減圧した後に、真空ポンプとバッファタンクとの間に設置したストップバルブを閉じ、圧力計Pによってタンク内が60Torrに昇圧するまでの時間を計測した。単位面積及び単位圧力差のもとで透過する水素ガスについて、透過率(単位:mol/(m・s・Pa))を測定した。その結果を図7に示した。
【0037】
実施例1
まず、Arガス雰囲気のグローブボックスの中で、8.47gのアルミニウムsec−ブトキシドに、水溶性有機溶媒として、2ミリリットルのイソプロパノールを加え、十分混合した。その後、この混合液を、90℃に加熱した蒸留水160ミリリットルの攪拌下に、添加した。次いで、液温を60℃まで冷却し、1.87gのCe(NO・6HO、及び、1.15gのZrO(NO・2HOを、それぞれ、添加して撹拌し、固形分濃度67質量%のベーマイト系ゾル(Al、CeO及びZrO換算のモル比80:10:10)を得た。
その後、このベーマイト系ゾル16ミリリットルと、3.5質量%のポリビニルアルコール水溶液4ミリリットルとを混合し、ベーマイト系混合液(ゾル組成物)を調製した。
【0038】
次に、上記比較例1と同じ複合基材11を、図5のように縦置きにして、中実体の管112の開口部に栓をし、上記ベーマイト系混合液(ゾル組成物)が多孔質管状体111の細孔内に入らないようにして、上記ベーマイト系混合液(ゾル組成物)6内に10秒間浸漬した。その後、取り出して、12時間乾燥させ、大気雰囲気中、600℃で3時間熱処理し、上記複合基材11の全表面に、γ−Al、Ce及びZrを含む固溶体酸化物(X線回折図である図10の〔c〕により、固溶体であることを確認)からなる多孔質膜を形成させた。この操作を再度繰り返し、多孔質管状体111と、この管状体111の外表面を被覆している多孔質膜2(2層型)とを備える多孔質複合体3(図2参照)を含む複合構造体(図示せず)を得た。
上記多孔質膜2の膜厚は、2.4μmであった。また、比較例1と同様にして、水蒸気処理の前後における、上記多孔質膜2の細孔径分布を測定したところ、図8における○印及び●印の分布を得た。水蒸気処理前(○印)の細孔径は1.5〜4.8nmの範囲で分布しており、ピークは約3.7nm、平均細孔径は2.2nmであった。一方、水蒸気処理前(●印)の細孔径は1.5〜5.4nmの範囲で分布しており、ピークは約4.1nmであった。図8から明らかなように、○印の分布及び●印の分布の各曲線は、ほぼ同形であり、ほぼ等倍でわずかに細孔径が拡大していることが分かる。
【0039】
上記で得られた複合構造体を分離材とし、比較例1と同様にして、上記水蒸気処理を合計で2時間、4時間及び20時間行った後における水素ガスの透過率を測定した。その結果を、図7に併記した。
【0040】
実施例2
上記ベーマイト系ゾルを、Al、CeO及びZrO換算のモル比で90:6:4とした以外は、実施例1と同様にして、多孔質膜の平均細孔径が3.2nmである複合構造体を得た。この複合構造体を分離材とし、比較例1と同様にして、上記水蒸気処理を合計で2時間、4時間及び20時間行った後における水素ガスの透過率を測定した。その結果を、図7に併記した。
【0041】
実施例3
上記ベーマイト系ゾルを、Al、CeO及びZrO換算のモル比で90:5:5とした以外は、実施例1と同様にして、多孔質膜の平均細孔径が3.2nmである複合構造体を得た。この複合構造体を分離材とし、比較例1と同様にして、上記水蒸気処理を合計で2時間、4時間及び20時間行った後における水素ガスの透過率を測定した。その結果を、図7に併記した。
【0042】
実施例4
上記ベーマイト系ゾルを、Al、CeO及びZrO換算のモル比で60:20:20とした以外は、実施例1と同様にして、多孔質膜の平均細孔径が3.1nmである複合構造体を得た。この複合構造体を分離材とし、比較例1と同様にして、上記水蒸気処理を合計で2時間、4時間及び20時間行った後における水素ガスの透過率を測定した。その結果を、図7に併記した。
【0043】
実施例5
上記ベーマイト系ゾルを、Al、CeO及びZrO換算のモル比で30:35:35とした以外は、実施例1と同様にして、多孔質膜の平均細孔径が3.5nmである複合構造体を得た。この複合構造体を分離材とし、比較例1と同様にして、上記水蒸気処理を合計で2時間、4時間及び20時間行った後における水素ガスの透過率を測定した。その結果を、図7に併記した。
【0044】
比較例2
アルミニウムsec−ブトキシドと、Ce(NO・6HOとを用いて、固形分濃度6.65質量%のベーマイト系ゾル(Al及びCeO換算のモル比で90:10)を調製し、これを用いた以外は、実施例1と同様にして、多孔質膜の平均細孔径が2.8nmである複合構造体を得た。この複合構造体を分離材とし、比較例1と同様にして、上記水蒸気処理を合計で2時間、4時間及び20時間行った後における水素ガスの透過率を測定した。その結果を、図7に併記した。
【0045】
比較例3
アルミニウムsec−ブトキシドと、ZrO(NO・6HOとを用いて、固形分濃度6.25質量%のベーマイト系ゾル(Al及びZrO換算のモル比で90:10)を調製し、これを用いた以外は、実施例1と同様にして、多孔質膜の平均細孔径が2.9nmである複合構造体を得た。この複合構造体を分離材とし、比較例1と同様にして、上記水蒸気処理を合計で2時間、4時間及び20時間行った後における水素ガスの透過率を測定した。その結果を、図7に併記した。
【0046】
図7から明らかなように、比較例1〜3により作製した多孔質膜を含む複合構造体は、水蒸気処理を行った後に透過率が時間とともに上昇したことから、高温下に水蒸気が存在すると、多孔質膜の細孔径が大きくなり、水素ガスの透過速度が増加したものと考えられる。
一方、実施例1〜5により作製した多孔質膜を含む複合構造体は、透過率の上昇の程度が小さく、耐熱性及び耐水蒸気性に優れることが分かる。特に、実施例1の複合構造体は、経時による透過率の変化が微少であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の多孔質膜は、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた材料からなることから、水蒸気が存在する雰囲気において平均細孔径が大きく変化することがなく、長寿命を必要とするガス分離膜、及びガス分離材の中間層として好適である。また、多孔質膜の表面、及び/又は、細孔の内壁面に触媒成分を担持するための、触媒用担体としても好適である。
また、本発明の多孔質複合体は、多孔質膜が、耐熱性及び耐水蒸気性に優れた材料からなることから、水蒸気が存在する雰囲気において平均細孔径が大きく変化することがなく、長寿命を必要とするガス分離材又はその中間層として好適である。また、多孔質膜の表面及び細孔の内壁面、多孔質基材の表面及び細孔の内壁面、の少なくとも一部位に触媒成分を担持するための、触媒用担体としても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の多孔質膜2及び本発明の多孔質複合体3の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の多孔質複合体3の他の例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の多孔質複合体の一面側の表面層を示す概略断面図である。
【図4】実施例1等で用いた複合基材11を示す概略斜視図である。
【図5】実施例1等においてベーマイト系混合液(ゾル組成物)を、比較例1においてベーマイトゾルを塗布する操作を示す概略図である。
【図6】比較例1において、水蒸気処理の前後における多孔質膜の細孔径の分布を示すグラフであり、○印(白丸印)は処理前を、●印(黒丸印)は処理後を示すデータである。
【図7】実施例1等において、水蒸気処理を合計で2時間、4時間及び20時間行った後の水素ガスの透過量の変化を示すグラフである。
【図8】実施例1において、水蒸気処理の前後における多孔質膜の細孔径の分布を示すグラフであり、○印は処理前を、●印は処理後を示すデータである。
【図9】定容積圧力変化法を原理とするガス透過性能評価装置の模式図である。
【図10】酸化物固溶体のX線回折像である。
【符号の説明】
【0049】
1;(多孔質)基材
11;複合基材
111;α−Al多孔質管状体
112;α−Al
113;α−Al有底管
1111;ガラス封止部
2,21及び22;多孔質膜
3;多孔質複合体
4及び4a;細孔
6;ベーマイト系混合液(ゾル組成物)又はベーマイトゾル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均細孔径が10nm以下の細孔を有し、Al元素と、Ce元素と、Zr元素とを含む酸化物固溶体からなることを特徴とする多孔質膜。
【請求項2】
上記酸化物固溶体を構成するAl元素、Ce元素及びZr元素の比は、これらの酸化物Al、CeO及びZrOを用いて換算したとき、これらの合計100mol%に対して、CeOが2〜40mol%であり、且つ、ZrOが2〜40mol%である請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
無機材料からなる基材の表面に、Al成分を含むゾルと、Ce化合物と、Zr化合物とを含む組成物からなる被膜を形成する被膜形成工程と、上記被膜を加熱する熱処理工程と、を備えることを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
上記熱処理工程における加熱温度が、450〜950℃の範囲にある請求項3に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
無機材料からなる多孔質基材と、該多孔質基材の表面に配設された、請求項1又は2に記載の多孔質膜と、を備えることを特徴とする多孔質複合体。
【請求項6】
上記多孔質基材の平均細孔径が、1〜200nmの範囲にある請求項5に記載の多孔質複合体。
【請求項7】
上記無機材料が、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素から選ばれた少なくとも1種である請求項5又は6に記載の多孔質複合体。
【請求項8】
上記多孔質基材の平均細孔径が、上記多孔質膜の平均細孔径より大きい請求項5乃至7のいずれか1項に記載の多孔質複合体。
【請求項9】
無機材料からなる多孔質基材の表面に、Al成分を含むゾルと、Ce化合物と、Zr化合物とを含む組成物からなる被膜を形成する被膜形成工程と、上記被膜を加熱する熱処理工程と、を備えることを特徴とする多孔質複合体の製造方法。
【請求項10】
上記熱処理工程における加熱温度が、450〜950℃の範囲にある請求項9に記載の多孔質複合体の製造方法。
【請求項11】
上記多孔質基材の平均細孔径が、1〜200nmの範囲にある請求項9又は10に記載の多孔質複合体の製造方法。
【請求項12】
上記無機材料が、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化珪素及び炭化珪素から選ばれた少なくとも1種である請求項9乃至11のいずれか1項に記載の多孔質複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−1553(P2008−1553A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171895(P2006−171895)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【Fターム(参考)】