説明

耐油紙及びその製造方法

【課題】本発明の目的は、耐油性があり、且つ、透気性が一般的な紙と同等でありながら、フッ素系耐油剤のみを浸透させた耐油紙と比較して、フッ素系耐油剤の浸透を抑えることで、フッ素系耐油剤の使用量が少なく、安価な耐油紙を得ることである。
【解決手段】本発明に係る耐油紙は、多孔質繊維を主成分とした基紙に、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールが混合状態で浸透されている耐油紙であって、前記フッ素系耐油剤と前記ポリビニルアルコールの固形分の質量比が、7:3〜3:7であることを特徴とする。また、本発明に係る耐油紙の製造方法は、多孔質繊維を主成分とした基紙の少なくとも片面側から、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールを含有した混合液を浸透させる工程と、前記混合液を浸透させた前記基紙を乾燥する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙皿や食品包装などに使用される耐油紙及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐油紙は、JIS P 0001:1998「紙・板紙及びパルプ用語」では「1)耐油性をもたせた紙の総称。参考:高度に叩解した化学パルプを用いて抄造した紙、及び油脂類に対して抵抗性をもつように化学処理及び/又は塗工した紙がある。2)グリース又は脂肪の浸透に対して極めて大きな抵抗力をもった紙又は板紙。参考:ある種の紙、例えばカーボン原紙は、これらの物質の浸透を完全に阻止する。」と定義されている。
【0003】
耐油紙としては、例えば、グラシン紙、ポリエチレン加工紙、塩化ビニリデン加工紙、防湿セロハン紙、アルミ箔ラミネート紙がある。
【0004】
耐油紙には、耐油性に加え透気性が要求されるものがあり、例えば、ハンバーガー等の包装用紙には、油脂分を通過させない耐油性と、水蒸気を通過させる透気性の両方が要求される。しかし、前記グラシン紙等は、基紙を高密度に仕上げることにより基紙の空隙を減らす機構、或いは、耐油剤の材料を塗工、含浸又は貼合により基紙の空隙を塞ぐ機構であり、良好な耐油性は得られるが、透気性が得られない。
【0005】
耐油性を付与しつつ透気性を得るためには、加工処理面の臨界表面張力を油性物質の表面張力より小さくする方法がある。このような機能を付与する薬品を耐油剤と称し、過フッ素炭化水素のアクリルレート又は過フッ素炭化水素のリン酸エステル等のフッ素系化合物を含有したフッ素系耐油剤を用いる方法が耐油紙の製造方法の主流となっている。フッ素系耐油剤を用いる方法では、紙の表面張力を下げて、油の濡れ性を低下させて油の浸透を防止する機構であり、基紙の空隙を減らす又は塞ぐ必要はないため、一般的な基紙と同等の透気性が維持される。さらに、フッ素系耐油剤を用いれば、耐油紙の使用時において、油は表面で十分に弾かれるため、気体が通過する空隙が油によって塞がれにくく、その結果、透気性の低下が生じにくい。これらの理由から、フッ素系耐油剤で処理した耐油剤が広く使用されている(例えば、特許文献1又は特許文献2を参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2000−169735号公報
【特許文献2】特開2001−98033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フッ素系耐油剤は、その耐油性を生じさせる機構から、基紙の表面に均一に存在すれば耐油性を生ずるが、実際には、基紙が、それ自身に多くの細孔を有する多孔質繊維を主成分とする為、フッ素系耐油剤は基紙内部及び多孔質繊維に浸透している。このことによって、フッ素系耐油剤で処理した耐油紙の製造においては、高価なフッ素系耐油剤を余剰に使用しなくてはならないというコストアップの問題が生じていた。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題点を解決すべく創案されたもので、その目的は、耐油性があり、且つ、透気性が一般的な紙と同等でありながら、フッ素系耐油剤のみを浸透させた耐油紙と比較して、フッ素系耐油剤の浸透を抑えることで、フッ素系耐油剤の使用量が少なく、安価な耐油紙を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、フッ素系耐油剤をポリビニルアルコールと混合状態となるように浸透させることにより、フッ素系耐油剤の浸透を抑えることができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係る耐油紙は、多孔質繊維を主成分とした基紙に、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールが混合状態で浸透されている耐油紙であって、前記フッ素系耐油剤と前記ポリビニルアルコールの固形分の質量比が、7:3〜3:7であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る耐油紙では、前記ポリビニルアルコールが、アニオン変性ポリビニルアルコールであることが好ましい。多孔質繊維の表面がアニオン性なので内部へ浸透しにくくなる。
【0011】
本発明に係る耐油紙では、前記多孔質繊維100質量部に対して、0.10質量部以上0.26質量部未満のフッ素系耐油剤が浸透されていることが好ましい。フッ素系耐油剤のみでは十分な耐油性が得られない量ではあるが、ポリビニルアルコールとの混合状態とすることで耐油性が安定して得られる。
【0012】
本発明に係る耐油紙では、TAPPI UM 557「Repellency of Paper and Board to Grease,Oil,and Waxes(Kit Test)」で規定される耐油度が5級以上であり、且つ、JIS P 8117:1998「紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法」で規定される透気度が50秒以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る耐油紙の製造方法は、多孔質繊維を主成分とした基紙の少なくとも片面側から、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールを含有した混合液を浸透させる工程と、前記混合液を浸透させた前記基紙を乾燥する工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る耐油紙の製造方法では、前記混合液を浸透させる工程において、抄紙機に付属する塗工機によって前記混合液を前記基紙に浸透させることが好ましい。耐油紙の生産効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐油紙は、耐油性があり、且つ、透気性が一般的な紙と同等でありながら、フッ素系耐油剤のみを浸透させた耐油紙と比較して、フッ素系耐油剤の浸透を抑えることで、フッ素系耐油剤の使用量が少なく、安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。
【0017】
本実施形態に係る耐油紙は、多孔質繊維を主成分とした基紙に、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールが混合状態で浸透されている耐油紙であって、前記フッ素系耐油剤と前記ポリビニルアルコールの固形分の質量比が、7:3〜3:7である。この耐油紙は、フッ素系耐油剤をポリビニルアルコールと混合状態となるように浸透させる工程、例えば、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールの混合液を基紙に浸透させる工程を含む製造方法により得られる。
【0018】
多孔質繊維は、入手の容易さ等から木材パルプ繊維を主成分とするが、それ以外の非木材パルプ繊維を使用しても良い。木材パルプには、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ、サルファイトパルプ等の化学パルプ、ストーングラインドパルプ、サーモメカニカルパルプ、リファイナーグラインドパルプの機械パルプ、又は、新聞、コート紙、上質紙等から得られる再生パルプを使用することができる。また、これらを適宜配合して使用することもできる。
【0019】
基紙は多孔質繊維を主成分とするが、それ以外に無機繊維や填料を混合しても良い。また、その他必要に応じて、染料、紙力剤、湿潤紙力増強剤等の公知の内添剤を添加することができる。
【0020】
基紙の抄造は、長網抄紙機、丸網抄紙機、トップワイヤーの付いた長網抄紙機、短網抄紙機あるいはそれらのコンビネーション抄紙機等で行われるが、これに限定されるものではない。
【0021】
フッ素系耐油剤として、ポリフルオロアルキル基を有するモノマの重合単位を含む重合体、又は、ポリフルオロアルキル基を有するリン酸エステル等のフッ素系化合物を使用することができる。
【0022】
ポリフルオロアルキル基を有するモノマの重合単位を含む重合体は、ポリフルオロアルキル基(Rf基)及び1個のみの重合性不飽和基を有するモノマ(Rf基含有モノマ)を重合することにより、又は、Rf基含有モノマと重合性不飽和基を1個以上有し且つRf基を含有しない重合性モノマ(共重合性モノマ)を重合することにより得られる。Rf基含有モノマは、例えば、Rf基含有(メタ)アクリレート類、Rf基含有スチレン類、Rf基含有ビニルエステル類、Rf基含有フマレート類である。浸透されている紙の柔軟性、繊維に対する接着性、汎用性、溶媒に対する溶解性及び乳化重合の容易さ等の観点から、Rf基含有(メタ)アクリレート類が好ましい。また、Rf基は、アルキル基の水素原子の全てがフッ素原子に置換されたパーフルオロアルキル基であることが好ましい。共重合性モノマとしては、例えば、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、フマレート類又はマレエート類が挙げられる。Rf基含有モノマを以下に挙げるが、これらに限定されない。
【0023】
CF(CFOCOCH=CH、CF(CF(CHOCOCH=CH、CF(CF(CHOCOCH=CH、CF(CF(CH OCOCH=CH 、CF(CF(CHOCOCH=CH、CF(CF(CH11OCOCH=CH、CF(CF(CF(CHOCOCH=CH、CF(CF13(CHOCOC(CH)=CH、CF(CFCHOCOC(CH)=CH、CF(CFCHOCOC(CH)=CH、CF(CFO(CHOCOC(CH)=CH、F(CF10(CHOCOC(CH)=CH、(CFCF(CF(CHOCOCH=CH、(CFCF(CF(CHOCOCH=CH、(CFCF(CF(CHOCOCH=CH、(CFCF(CF(CHOCOCH=CH、(CFCF(CF10(CHOCOCH=CH、CFCl(CF(CHOCOCH=CH、H(CF10CHOCOCH=CH、 H(CF10(CHOCOCH=CH、CFCl(CF10CHOCOC(CH)=CH、CF(CFSON(CH)(CHOCOCH=CH、CF(CFSON(C)(CHOCOCH=CH、CF(CFSON(C)(CHOCOCH=CH、CF(CFSON(C)(CHOCOCH=CH、CF(CFSON(CH)(CHOCOC(CH)=CH、CF(CFSON(C)(CHOCOC(CH)=CH、CF(CFSON(C)(CHOCOC(CH)=CH、CF(CFSON(C)(CHOCOC(CH)=CH、CF(CFCONH(CHCH=CH、CF(CFCONH(CHOCOCH=CH、CF(CFCONH(CHCH=CH、CF(CF(CHOCHPh(CHOCOCH=CH、(CFCF(CFCHCH(OCOCH)CHOCOC(CH)=CH、CF(CFCHCOOCH=CH、CF(CF(CHCOOCH=CH、CF(CF(CHOCH=CH、H(CF10CH=CH、CF(CF13SONH(CHCH=CH、CF(CFCONH(CHCH=CH、CF(CFCONH(CHCH=CH、CF(CF(CHOCHPhCH=CH
【0024】
また、ポリフルオロアルキル基を有するリン酸エステルとしては、以下に挙げるものが使用できるがこれらに限定されない。
【0025】
[C13CHCHO]PO、[C17CHCHO]PO、[C1021CHCHO]PO、[C1225CHCHO]PO、[C13CHCHO]PO(O)・[N(CHCHOH)]、[C17CHCHO]PO(O)・[N(CHCHOH)]、[C1021CHCHO]PO(O)・[N(CHCHOH)]、[C1225CHCHO]PO(O)・[N(CHCHOH)]、[C13CHCHO]PO(O・[N(CHCHOH)、[C17CHCHO]PO(O・[N(CHCHOH)、[C1021CHCHO]PO(O・[N(CHCHOH)、[C1225CHCHO]PO(O・[N(CHCHOH)、[C17CHCHO]PO(O)・[N]、[C17CHCHO]PO(O・[N、[C17CHCHO]PO(O)・[N(CHCHOH)]、[C17CHCHO]PO(O・[N(CHCHOH)]、[C17CHCHO]PO(O)・[NH(CHCHOH)]、[C17CHCHO]PO(O・[NH(CHCHOH)、[C17CHCHO]PO(OH)(O)[N(CHCHOH)]、[C17SON(C)CHCHO]PO(O)・[N(CHCHOH)]、[C17SON(C)CHCHO]PO(O・[N(CHCHOH)、[C17CHCHO]PO(O)・(Na)、[C17CHCHO]PO(O)・(K)、[C17CHCHOCHCHO]PO(O)・[N(CHCHOH)]、[C17CHCHOCO]PO(O)・[N(CHCHOH)]、[C17CHCHO(CHCHO)PO(O)・[N(CHCHOH)]。
【0026】
ポリビニルアルコールとして、ケン化度が95mol%を超える完全ケン化タイプといわれるポリビニルアルコールや、70〜90mol%の部分ケン化タイプといわれるポリビニルアルコールのいずれをも使用することができる。また、ポリビニルアルコールを変性した化合物、例えば、アセトアセチル化ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールと多価カルボン酸とのエステル化物、カルボキシ変性化ポリビニルアルコール、スルホン酸変性化ポリビニルアルコール、オレフィン変性化ポリビニルアルコール、ニトリル変性化ポリビニルアルコール、アミド変性化ポリビニルアルコール、ピロリドン変性化ポリビニルアルコール等の変性化ポリビニルアルコール化合物を使用することができる。ポリビニルアルコールは、多孔質繊維に存在する細孔や基紙内部への浸透性が低いものが好ましく、例えば、アニオン変性ポリビニルアルコールが好ましい。多孔質繊維の表面がアニオン性なので内部へ浸透しにくくなる。
【0027】
フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールが混合状態であるとは、基紙内部において、フッ素系耐油剤が分散している領域にポリビニルアルコールが分散している状態である。フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールの分散の程度は限定されないが、フッ素系耐油剤の分散の程度が高い状態ほど好ましい。フッ素系耐油剤がポリビニルアルコールと混合状態となることにより、フッ素系耐油剤の基紙内部への浸透が抑えられる。
【0028】
混合状態のフッ素系耐油剤とポリビニルアルコールの浸透は、表面から裏面までであっても良いが、表面から基紙内部の途中までであることが好ましい。すなわち、フッ素系耐油剤の浸透を表面から浅い地点までに抑えることが好ましい。フッ素系耐油剤を耐油性の発現に効果がある領域にだけ存在させることで、耐油性を低下させることなく、フッ素系耐油剤を低減できる。
【0029】
また、ポリビニルアルコールと混合状態のフッ素系耐油剤の濃度は、基紙表面において耐油性能が得られる濃度とする必要があり、基紙の深さ方向について、表面に近いほど濃度が高いことが好ましい。フッ素系耐油剤を、耐油性の発現に効果がある領域に多く存在させることで、耐油性を低下させることなく、フッ素系耐油剤を低減できる。
【0030】
基紙中でフッ素系耐油剤とポリビニルアルコールとを混合状態とする方法は、例えば、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールとの混合液を浸透させる方法、まずポリビニルアルコールの溶液を浸透させ、湿潤状態の間に、フッ素系耐油剤の溶液を浸透させる方法、まずポリビニルアルコールの溶液を浸透させ、乾燥状態とした後に、フッ素系耐油剤を浸透させる方法、又は、フッ素系耐油剤の溶液とポリビニルアルコールの溶液をスプレーで吹きつけて同時に浸透させる方法がある。
【0031】
上述したフッ素系耐油剤とポリビニルアルコールの混合液を浸透させる方法、すなわち、多孔質繊維を主成分とした基紙の少なくとも片面側から、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールを含有した混合液を浸透させる工程と、前記混合液を浸透させた前記基紙を乾燥する工程と、を有する製造方法では、フッ素系耐油剤の浸透が抑えられる効果が大きく、また、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールを1回の塗工で浸透させることができるため生産性が高い。
【0032】
フッ素系耐油剤の溶液は、ポリビニルアルコールの溶液と比較して浸透性が高く、多孔質繊維に存在する細孔や基紙内部へ容易に浸透する。そのため、耐油性を発現するに十分な量のフッ素系耐油剤を表面に存在させるためには、大量のフッ素系耐油剤を必要とする。
【0033】
これに対し、上述した混合液を浸透させる方法では、フッ素耐油剤のみを浸透させた耐油紙と比較して少ない量のフッ素系耐油剤でも耐油性が得られる。フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールとの混合液は、フッ素系耐油剤の溶液と比較して浸透性が低いため、フッ素系耐油剤が多孔質繊維に存在する細孔や基紙内部へ浸透しにくくなり、その結果、フッ素系耐油剤を表面近くに留めておくことが可能となったと考えられる。
【0034】
また、この製造方法による基紙では、基紙の内部に空隙を多く残しており、透気性が得られる。
【0035】
これに対し、フッ素系耐油剤を用いずにポリビニルアルコールのみを使用した場合は、耐油性を得るためにはポリビニルアルコールで基紙の表面の空隙を塞ぐ必要があり、透気性が得られない。
【0036】
本実施形態に係る耐油紙では、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールの固形分の質量比は、7:3〜3:7としている。好ましくは、6:4〜4:6である。フッ素系耐油剤の比率が7:3より大きくなるとポリビニルアルコールが少ないためフッ素系耐油剤の浸透を十分に抑えられない。フッ素系耐油剤の比率が3:7より小さくなるとポリビニルアルコールの影響で透気性が悪くなり品質上の問題を発生させる。
【0037】
本実施形態に係る耐油紙では、前記多孔質繊維100質量部に対して、0.10質量部以上0.26質量部未満のフッ素系耐油剤が浸透されていることが好ましい。より好ましくは、0.12質量部以上0.20質量部未満であり、さらに好ましくは、0.13質量部以上0.18質量部未満である。フッ素系耐油剤のみでは十分な耐油性が得られない量ではあるが、ポリビニルアルコールとの混合状態とすることで耐油性が安定して得られる。
【0038】
本実施形態に係る耐油紙では、前記ポリビニルアルコールの含有量が、多孔質繊維100質量部に対して、0.05質量部以上0.50質量部未満であることが好ましい。より好ましくは0.08質量部以上0.30質量部未満であり、さらに好ましくは0.10質量部以上0.25質量部未満である。透気性を低下させることなく、フッ素系耐油剤の浸透を抑える効果が安定して得られる。
【0039】
耐油性及び透気性は、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールを浸透させる量及びその固形分の質量比により調整することができる。例えば、透気性を落とさない範囲でポリビニルアルコールの量を増やすことで、フッ素系耐油剤の浸透がより抑えられ、フッ素系耐油剤の量を減らしても透気性と耐油性が得られる。本実施形態に係る耐油紙では、TAPPI UM 557「Repellency of Paper and Board to Grease,Oil,and Waxes(Kit Test)」で規定される耐油度が5級以上であり、且つ、JIS P 8117「紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法」で規定される透気度が50秒以下であることが好ましく、耐油度と透気度がこの範囲となるように調整することが好ましい。
【0040】
本実施形態に係る耐油紙は、耐油性と透気性が維持されれば、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールを浸透させた表面上にさらに塗工層が形成された形態であっても良い。また、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールを浸透させた基紙を複数枚重ね合わせた形態であっても良い。
【0041】
フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールの混合液、フッ素系耐油剤の溶液、及び、ポリビニルアルコールの溶液には、必要に応じて添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、分散剤、消泡剤、増粘剤、耐水化剤、可塑剤、蛍光増白剤、着色顔料、着色染料、還元剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、香料、脱臭剤がある。
【0042】
フッ素系耐油剤及びポリビニルアルコールの基紙への浸透は、抄紙機に付属する塗工機で行うオンマシン塗工によっても良いし、抄紙機と切り離された塗工機で行うオフマシン塗工によっても良いが、本実施形態に係る耐油紙の製造方法では、前記混合液を浸透させる工程において、抄紙機に付属する塗工機によって前記混合液を前記基紙に浸透させることが好ましい。耐油紙の生産効率が高まる。抄紙機に付属する塗工機としては、サイズプレス、ゲートロール、シムサイザー等一般的に抄紙機に付属する塗工機を使用することができる。
【0043】
フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールの混合液を浸透させた基紙の乾燥は、多筒式抄紙機やヤンキー抄紙機等一般的に抄紙機に付属するドライヤーを使用することができる。
【0044】
又、上記耐油紙は、通常の抄紙機で行われる、プレス圧、乾燥温度、カレンダー圧、抄造速度等を調節することによって、好ましい平滑度や脱水状態のものとすることができる。
【0045】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明の内容は実施例に限定されるものではない。なお、「%」及び「部」は固形分換算での「質量%」及び「質量部」を示す。
【0046】
(実施例1)
[塗料の調製]
フッ素系耐油剤(商品名:PT−5045、ソルベイソレクシス社製)とポリビニルアルコール(商品名:PVA−217、クラレ社製)を、固形分の質量比5:5で混合して塗料を調製した。
[基紙の抄造]
針葉樹パルプ(N−BKP)と広葉樹パルプ(L−BKP)を30%/70%に混合し、叩解機により、CFS400mlとなるように叩解処理した。これらのパルプスラリーに、全パルプ100部に対して、内添サイズ剤としてロジン系エマルジョン(商品名:AL−1200、星光PMC製)を0.4部、硫酸バンドを0.14部添加し、長網抄紙機で抄紙して坪量230g/mの基紙を得た。
[塗料の浸透]
そして上記基紙をそのまま長網抄紙機に設備されているサイズプレスにて、上記[塗料の調製]に示す塗料を全パルプ100部に対して、0.26部浸透させ、ドライヤーで乾燥して、実施例1の耐油紙を得た。
【0047】
(実施例2)
[塗料の調製]において、ポリビニルアルコール(商品名:PVA−217、クラレ社製)をアニオン変性ポリビニルアルコール(商品名:AP−17、日本酢ビ・ポバール社製)へ変更した以外は、実施例1と同じ方法で実施例2の耐油紙を得た。
【0048】
(実施例3)
[塗料の浸透]において、浸透させる塗料の量を0.26部から0.20部へ変更した以外は、実施例2と同じ方法で実施例3の耐油紙を得た。
【0049】
(実施例4)
[塗料の調製]において、フッ素系耐油剤とアニオン変性ポリビニルアルコールの固形分の質量比を5:5から7:3へ変更し、[塗料の浸透]において、浸透させる塗料の量を0.26部から0.18部へ変更した以外は、実施例2と同じ方法で実施例4の耐油紙を得た。
【0050】
(実施例5)
[塗料の調製]において、フッ素系耐油剤とアニオン変性ポリビニルアルコールの固形分の質量比を5:5から3:7へ変更し、[塗料の浸透]において、浸透させる塗料の量を0.26部から0.34部へ変更した以外は、実施例2と同じ方法で実施例5の耐油紙を得た。
【0051】
(実施例6)
[塗料の調製]において、フッ素系耐油剤とアニオン変性ポリビニルアルコールの固形分の質量比を5:5から3:7へ変更し、[塗料の浸透]において、浸透させる塗料の量を0.26部から0.43部へ変更した以外は、実施例2と同じ方法で実施例6の耐油紙を得た。
【0052】
(比較例1)
[塗料の調製]を以下に示す方法で行った以外は実施例2と同じ方法で比較例1の耐油紙を得た。
[塗料の調整]
フッ素系耐油剤(商品名:PT−5045、ソルベイソレクシス社製)で塗料を調製した。
【0053】
(比較例2)
[塗料の浸透]において、浸透させる塗料の量を0.26部から0.13部へ変更した以外は、比較例1と同じ方法で比較例2の耐油紙を得た。
【0054】
(比較例3)
[塗料の調製]において、フッ素系耐油剤とアニオン変性ポリビニルアルコールの固形分の質量比を5:5から8:2へ変更し、[塗料の浸透]において、浸透させる塗料の量を0.26部から0.16部へ変更した以外は、実施例2と同じ方法で比較例3の耐油紙を得た。
【0055】
(比較例4)
[塗料の調製]において、フッ素系耐油剤とアニオン変性ポリビニルアルコールの固形分の質量比を5:5から2:8へ変更し、[塗料の浸透]において、浸透させる塗料の量を0.26部から0.50部へ変更した以外は、実施例2と同じ方法で比較例4の耐油紙を得た。
【0056】
(比較例5)
[塗料の調製]において、フッ素系耐油剤とアニオン変性ポリビニルアルコールの固形分の質量比を5:5から2:8へ変更し、[塗料の浸透]において、浸透させる塗料の量を0.26部から0.45部へ変更した以外は、実施例2と同じ方法で比較例5の耐油紙を得た。
【0057】
(比較例6)
針葉樹パルプ(N−BKP)と広葉樹パルプ(L−BKP)を30%/70%に混合し、叩解機により、CFS400mlとなるように叩解処理した。これらのパルプスラリー100部に、内添サイズ剤としてロジン系エマルジョン(商品名:AL−1200、星光PMC製)を0.4部、硫酸バンドを0.14部、フッ素系耐油剤(商品名:PT−5045、ソルベイソレクシス社製)を0.13部、アニオン変性ポリビニルアルコール(商品名:AP−17、日本酢ビ・ポバール社製)を0.13部添加し、長網抄紙機で抄紙して、ドライヤーで乾燥して、坪量230g/mの比較例6の耐油紙を得た。
【0058】
上記の実施例1、2、3、4、5及び6並びに比較例1、2、3、4、5及び6の各試料について、耐油度及び透気度を測定した。これらの測定結果は、表1に示した。次に測定方法について説明する。
【0059】
(1)耐油度
TAPPI UM 557「Repellency of Paper and Board to Grease,Oil,and Waxes(Kit Test)」によって測定した。現在市販されているフッ素系耐油剤を用いた耐油紙の耐油度は5級以上であることから、一般的な使用において問題の発生しない耐油度が5級以上を実用レベルとした。
【0060】
(2)透気度
JIS P 8117:1998「紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法」によって測定した。透気度の値は、一定面積を空気100ミリリットルが通過する時間を示す。よって、透気度の値が大きいほど空気が通過し難いことを示す。透気度50秒以下を実用レベルとした。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1、2、3、4、5及び6では、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールの固形分の質量比を7:3〜3:7の範囲内とした混合液を基紙に浸透させており、いずれも耐油度と透気度は実用レベルであった。
【0063】
比較例1及び2では、ポリビニルアルコールを浸透させずに、フッ素系耐油剤のみを基紙に浸透させた。比較例1では耐油度と透気度のいずれも実用レベルであったが、フッ素系耐油剤の量を減らした比較例2では、透気度は実用レベルであったが、耐油度が実用レベルでなかった。ポリビニルアルコールを浸透させない場合は、フッ素系耐油剤の量を減らすと実用レベルの耐油性が得られなくなる。これに対し、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールを浸透させた実施例1、2、3、4、5及び6では耐油剤の量を減らしているにもかかわらず実用レベルの耐油性が得られる。
【0064】
比較例3、4及び5では、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールを浸透させているが、その固形分の質量比が7:3〜3:7の範囲外であった。比較例3では耐油度が実用レベルでなかった。ポリビニルアルコールの割合が少ないとフッ素系耐油剤の浸透を抑える効果が不十分である。比較例4では、耐油度は実用レベルであったが、透気度が実用レベルでなかった。フッ素系耐油剤の量が少なくても、ポリビニルアルコールの割合を多くすることで耐油度は実用レベルとなるが、透気度が実用レベルでなくなる。比較例5では、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールの割合は比較例4と同じでその量を減らした。耐油剤と透気度のいずれも実用レベルとはならなかった。フッ素系耐油剤を減らした場合、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールの固形分の質量比が所定の範囲内とすることで耐油性と透気性を両立できる。
【0065】
実施例1では変性していないポリビニルアルコールを使用し、実施例2ではアニオン変性ポリビニルアルコールを使用した。いずれも耐油度と透気度は実用レベルであったが、アニオン変性ポリビニルアルコールを使用した実施例2は耐油度がより良好となった。
【0066】
比較例6では、基紙を抄紙する段階でフッ素系耐油剤とポリビニルアルコールを内添させており、耐油性は実用レベルとはならなかった。フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールは混合状態になっていると考えられるが、それらを浸透させていない場合は、フッ素系耐油剤が少ないと所望の耐油度が得られない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質繊維を主成分とした基紙に、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールが混合状態で浸透されている耐油紙であって、
前記フッ素系耐油剤と前記ポリビニルアルコールの固形分の質量比が、7:3〜3:7であることを特徴とする耐油紙。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールが、アニオン変性ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の耐油紙。
【請求項3】
前記多孔質繊維100質量部に対して、0.10質量部以上0.26質量部未満のフッ素系耐油剤が浸透されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐油紙。
【請求項4】
TAPPI UM 557「Repellency of Paper and Board to Grease,Oil,and Waxes(Kit Test)」で規定される耐油度が5級以上であり、且つ、JIS P 8117:1998「紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法」で規定される透気度が50秒以下であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の耐油紙。
【請求項5】
多孔質繊維を主成分とした基紙の少なくとも片面側から、フッ素系耐油剤とポリビニルアルコールを含有した混合液を浸透させる工程と、
前記混合液を浸透させた前記基紙を乾燥する工程と、を有することを特徴とする耐油紙の製造方法。
【請求項6】
前記混合液を浸透させる工程において、抄紙機に付属する塗工機によって前記混合液を前記基紙に浸透させることを特徴とする請求項5に記載の耐油紙の製造方法。

【公開番号】特開2007−154369(P2007−154369A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352340(P2005−352340)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000241810)北越製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】