説明

耐消化性カルシア系クリンカーおよびその製造方法

【課題】幅広い粒度範囲で炭素材料の被覆層を有する耐消化性カルシア系クリンカー、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】耐消化性カルシア系クリンカーは、炭素材料を加熱して気化させ、クリンカー表面に凝縮させて形成した表面被覆層を有し、又、耐消化性カルシア質クリンカの製造方法は、炭素材料を加熱し気化させ、クリンカー表面に凝縮させて表面被覆層を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐消化性に優れるカルシア系クリンカーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシアは高融点(2570℃)であり、高温度下での解離酸素圧も低く、炭素共存下や真空中でも比較的安定である等、耐火物原料として優れた性質を有すると共に、出発原料の炭酸カルシウムが日本国内に多量に存在しており、鉱物資源に乏しいわが国において唯一の例外とも言える程恵まれた資源である。このようにカルシアは耐火物原料として極めて有望であると考えられているが、一方で水と容易に反応する、いわゆる耐消化性に劣るために耐火物原料としての適用分野が限定されているのが現状である。
一方で、炭素材料には高熱伝導、低熱膨張の性質により耐熱スポーリング性や耐スラグ浸潤性に優れるなどの長所があるため、マグネシアやアルミナなどの酸化物と組み合わせて耐火物に使用されている。カルシアにおいても、炭素材料と組み合わせて使用することにより、優れた機能を発揮すると期待されている。
【0003】
炭素材料によるカルシアの耐消化性の改善方法として、例えば[特許文献1]には、黒鉛、タール、ピッチなどの被覆材をメカノケミカル反応によりカルシアクリンカー表面に堆積させるマイクロカプセル化法が開示されている。また、[特許文献2]には、カルシアクリンカーを加熱軟化した状態のピッチ、タールに浸漬してクリンカー表面に皮膜を形成する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】 特開平6−247767号公報
【特許文献2】 特開昭54−54113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[特許文献1]で開示されているマイクロカプセル化法では、被覆材の粒径がカルシアクリンカーよりも十分に小さい必要があるため、微粒のカルシアクリンカーを完全に被覆するのは難しいという問題点を有している。また、[特許文献2]には、クリンカーの粒度に関する情報が示されていないことから、微粒のカルシアクリンカーに均一な厚さの皮膜を形成させるための技術が開示されているとは言えない。
以上に示した例のとおり、炭素材料の被覆層を有するカルシアクリンカーでは、幅広い粒度における被覆層の均一性や耐消化性に関する検討が十分になされているとは言えず、耐火物への適用の要求に応えられるだけの耐消化性カルシアクリンカーは未だ得られていない。
【0006】
また、溶融スラグの作用を受け、著しい温度変動にさらされる耐火物にとって耐食性と耐熱スポーリング性に優れることが必要条件である。耐食性を強くするためには、適正な材質の選定と緻密な組織が必要であり、一方、耐熱スポーリング性は密度が低く気孔の多い組織が有利である。この相反する諸特性をバランス良く保有するために、粗粒(>1mm)、中粒(0.1〜1mm)、微粒(<0.1mm)の粒度を組み合わせて配合する、粒度調整が行われている。このため、カルシアクリンカーを耐火材料として適用するためには、幅広い粒度範囲で耐消化性を改善する必要がある。一方、カルシア・カーボン系れんがへの適用をめざした炭素材料の被覆層を有する従来のカルシアクリンカーでは、微粒における被覆層の均一性や耐消化性に関する検討が十分になされていないという課題がある。
【0007】
本発明は、これらの課題を解決することを意図し、特に、幅広い粒度範囲で炭素材料の被覆層を有するカルシア系クリンカーについて検討した結果、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の耐消化性カルシア系クリンカーは、炭素材料を加熱して気化させ、クリンカー表面に凝縮させて形成した表面被覆層を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る耐消化性カルシア系クリンカーの製造方法は、炭素材料を加熱して気化させ、クリンカー表面に凝縮させて表面被覆層を形成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の耐消化性カルシア系クリンカーは、幅広い粒度範囲において均一な炭素材料の被覆層を有することを特徴とし、これにより、幅広い粒度範囲においてカルシア系クリンカーの耐消化性は改善され、粒度配合による耐火物の特性改善が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の作用効果と実施の形態について説明する。
【0012】
本発明の耐消化性カルシア系クリンカーは、表面に炭素材料の被覆層を有するものである。クリンカー表面に形成される被覆層は、有機高分子の加熱に伴う熱分解により発生する分解ガスをカルシア系クリンカー表面に再凝縮させることにより形成される。その結果、均一な厚みを有する被覆層が形成される。これにより、困難とされてきた1mm以下の微粒のクリンカーに対しても均一な厚さの被覆層を形成することができるため、本発明を用いることにより幅広い粒度範囲において、炭素材料の被覆層を有するカルシア系クリンカーを得ることができる。
【0013】
本発明で用いる炭素材料は、結晶や高分子の骨格が炭素により形成される物質を意味し、[0010]の効果が得られるものであれば特に限定されない。例えば黒鉛、カーボンブラック、フェノール樹脂、タール、ピッチなどである。これらの中でも、熱分解時に高分子の有機ガスを発生するフェノール樹脂、タール、ピッチなどが望ましく、最適な炭素材料としては、熱分解時にHOを発生しないタールやピッチなどである。
【0014】
本発明の加熱方法は、[0012]の表面被覆層を得ることができる方法であれば特に限定されない。望ましい加熱方法は、分解ガスが十分にカルシア系クリンカーに接触する方法であり、ロータリーキルンによる加熱やクリンカーと炭素材料を設置した容器を密閉状態にして、ジュール熱やマイクロ波により加熱する方法などである。これらの中でも最適な加熱方法としては、揮発した炭素材料のカルシア系クリンカー表面への凝縮を促すため炭素材料とカルシア系クリンカーの間に温度差を生じさせる方法であり、マイクロ波による選択加熱法である。
【0015】
加熱条件としては、炭素材料から熱分解により分解ガスが発生し、かつ凝縮した炭素材料が酸化しない温度であり、200〜800℃の温度範囲による加熱が好適である。
【0016】
本発明のカルシア系クリンカーは、CaOと他の酸化物の化合物は含まず、遊離のCaOを主成分として含むものであり、例えば、焼結カルシアクリンカー、電融カルシアクリンカー、天然ドロマイトクリンカー、焼結ドロマイトクリンカー、電融ドロマイトクリンカー、焼結マグネシアカルシアクリンカーなどである。
【実施例】
【0017】
次に、本発明の実施例を挙げ、本発明について具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0018】
マイクロ波による炭素材料の加熱を促すために、マイクロ波の吸収特性が良好な黒鉛をピッチと重量比で1:1に混合した粉末から成形体を作製した。図1に示すように電融カルシアクリンカーと作製した成形体をアルミナるつぼに設置した。アルミナるつぼには、断熱材で蓋をした。
【0019】
次に、炭素材料の成形体とカルシアクリンカーを入れたアルミナるつぼをマイクロ波加熱装置に設置し、2.45GHzのマイクロ波を照射することにより炭素材料を加熱し気化させ、クリンカー表面に凝縮させて表面被覆層を形成させた。
【0020】
成形体の温度が600℃に到達した後、速やかにマイクロ波の照射を終了し、冷却を行った。加熱後のカルシアクリンカーを、▲1▼500μm以下、▲2▼500μm以上1mm以下、▲3▼1mm以上3mm以下、の3種類の粒度にふるい分けした後、それぞれの粒度のカルシアクリンカーに対して耐消化性試験を行った。
【0021】
クリンカーの耐消化性の評価は、恒温恒湿槽中で温度70℃、湿度90%の条件下で実施した。消化試験後のクリンカー重量を測定し、次式により重量増加率Iを計算した。
I=((W2−W1)/W1)×100
但し、W1は消化試験前の重量、W2は消化試験後の重量である。得られた結果を表1に示す。比較として、未処理の電融カルシアクリンカーの結果も記載する。
【0022】
炭素材料の被覆層形成により、いずれの粒度範囲においてもカルシアクリンカーの耐消化性が改善されており、本発明の耐消化性カルシア系クリンカーは、全ての粒度範囲で耐消化性に優れていることが明らかである。
【0023】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の耐消化性カルシア系クリンカーは、耐火物の原料としての利用の可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】マイクロ波による被覆層形成におけるカルシア系クリンカーと炭素材料の設置方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料を加熱し気化させ、クリンカー表面に凝縮させて形成した表面被覆層を有する耐消化性カルシア系クリンカー。
【請求項2】
炭素材料を加熱し気化させ、クリンカー表面に凝縮させて表面被覆層を形成させることを特徴とする耐消化性カルシア系クリンカーの製造方法。

【図1】
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