説明

耐熱化チロシン依存性酸化還元酵素の設計方法及び耐熱化チロシン依存性酸化還元酵素

【課題】耐熱性の程度が所定レベル以上の変異型チロシン依存性酸化還元酵素の設計方法の提供。
【解決手段】チロシン依存性酸化還元酵素において、野生型酵素のアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸を欠失、置換、付加、若しくは挿入して、タンパク質立体構造中におけるα4へリックスとα6へリックスとの間の距離を、野生型酵素に比べて小さくすることを特徴とする耐熱化変異型酵素の設計方法を提供する。この耐熱化変異型酵素の設計方法において、チロシン依存性酸化還元酵素は、特にグルコン酸脱水素酵素とできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱化チロシン依存性酸化還元酵素の設計方法及び耐熱化チロシン依存性酸化還元酵素に関する。より詳しくは、タンパク質構造の改変により、耐熱化された変異型チロシン依存性酸化還元酵素を得る方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素は、生命の維持に係わる多くの反応を生体内の温和な条件下で円滑に進める生体内触媒である。この酵素は、生体内で代謝回転し、生体内で必要に応じて生産されて、その触媒機能を発揮する。
【0003】
現在、この酵素を生体外で利用する技術が、既に実用化されたり、あるいは実用化に向けた検討が行われたりしている。例えば、有用物質の生産、エネルギー関連物質の生産、測定又は分析、環境保全、医療などの様々な技術分野において、酵素の利用技術が進展している。比較的近年では、燃料電池の一種である酵素電池(例えば、特許文献1参照)、酵素電極、酵素センサー(酵素反応を利用して化学物質を計測するセンサー)などの技術も提案されている。
【0004】
燃料電池の技術では、従来のメタノールや水素などの可燃性物質を燃料とする燃料電池から、より安全性が高いグルコースなどの化合物を燃料とする燃料電池へ開発が進められている。しかし、メタノールや水素などの比較的単純な構造を有する反応性の高い化合物については、白金などの金属触媒が有効に作用するものの、グルコースなど危険性や毒性が少なく、反応性が低い化合物については、金属触媒による触媒効率が極めて低い。そのため、上述のように、触媒に酵素を用いた酵素電池が提案されてきている。酵素は触媒能が高く、基質特異性や立体選択性に優れるため、グルコースのような反応性の低い化合物の反応であっても効率良く触媒できるため、酵素を燃料電池の電極に組み込むことで、安全な燃料電池を実現することが可能となる。
【0005】
酵素を生体外で利用する場合には、酵素の活性が高く、酵素反応速度が高いことが重要である。また、環境の変化に対する安定性が高く、活性の持続性が高いことも必要となる。しかし、酵素は、その化学的本体がタンパク質であるため、熱やpH等によって変性し易く、金属触媒などの他の化学的触媒に比べて生体外での安定性が低いという問題がある。この問題を解決するため、特許文献2及び特許文献3には、タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を人工的に改変し、変異型タンパク質を作製することよって、活性や耐熱性の程度を所定レベル以上とした変異型酵素(ジアホラーゼ)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−71559号公報
【特許文献2】特開2007−143493号公報
【特許文献3】特開2008−48703号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】"Short-chain dehydrogenases/reductases (SDR)." Biochemistry. 1995 May 9;34(18):6003-13.
【非特許文献2】"Structure-function relationships of SDR hydroxysteroid dehydrogenases." Adv Exp Med Biol. 1997;414:403-15.
【非特許文献3】"The refined three-dimensional structure of 3 alpha,20 beta-hydroxysteroid dehydrogenase and possible roles of the residues conserved in short-chain dehydrogenases." Structure. 1994 Jul 15;2(7):629-40.
【非特許文献4】"Three-dimensional structure of holo 3 alpha,20 beta-hydroxysteroid dehydrogenase: a member of a short-chain dehydrogenase family." Proc Natl Acad Sci U S A. 1991 Nov 15;88(22):10064-8.
【非特許文献5】"Molecular mechanisms of estrogen recognition and 17-keto reduction by human 17beta-hydroxysteroid dehydrogenase 1." Chem Biol Interact. 2001 Jan 30;130-132(1-3):637-50.
【非特許文献6】"A structural account of substrate and inhibitor specificity differences between two naphthol reductases." Biochemistry. 2001 Jul 31;40(30):8696-704.
【非特許文献7】"Structure-function relationships of SDR hydroxysteroid dehydrogenases." Adv Exp Med Biol. 1997;414:403-15.
【非特許文献8】"Crystal structure of the ternary complex of mouse lung carbonyl reductase at 1.8 A resolution: the structural origin of coenzyme specificity in the short-chain dehydrogenase/reductase family." Structure. 1996 Jan 15;4(1):33-45.
【非特許文献9】"Crystal structures of the binary and ternary complexes of 7 alpha-hydroxysteroid dehydrogenase from Escherichia coli." Biochemistry. 1996 Jun 18;35(24):7715-30.
【非特許文献10】"Crystal structure of rat liver dihydropteridine reductase." Proc Natl Acad Sci U S A. 1992 Jul 1;89(13):6080-4.
【非特許文献11】"Structural role of conserved Asn179 in the short-chain dehydrogenase/reductase scaffold." Biochem Biophys Res Commun. 2001 Dec 7;289(3):712-7.
【非特許文献12】"A mechanism of drug action revealed by structural studies of enoyl reductase." Science. 1996 Dec 20;274(5295):2107-10.
【非特許文献13】"Dramatic differences in the binding of UDP-galactose and UDP-glucose to UDP-galactose 4-epimerase from Escherichia coli." Biochemistry. 1998 Aug 18;37(33):11469-77.
【非特許文献14】"The catalytic reaction and inhibition mechanism of Drosophila alcohol dehydrogenase: observation of an enzyme-bound NAD-ketone adduct at 1.4 A resolution by X-ray crystallography." J Mol Biol. 1999 Jun 4;289(2):335-55.
【非特許文献15】"Critical residues for structure and catalysis in short-chain dehydrogenases/reductases." J Biol Chem. 2002 Jul 12;277(28):25677-84. Epub 2002 Apr 25.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
「チロシン依存性酸化還元酵素(Tyrosine-dependent short-chain dehydrogenase/reductase)」は、NAD(P)(H)依存的な酸化還元酵素であり、その触媒活性においてチロシン残基が重要な役割を果たしている(非特許文献1〜3参照)。本酵素群は、酸化還元酵素やリアーゼ、そしてイソメラーゼまで複数のECクラスにまたがっており、このクラスには、ステロイドやプロスタグランジン、脂肪族アルコールおよび生体異物に作用する様々な酵素が存在する。また本酵素群に含まれる種々の酵素間の配列の一致度は10-30%と低いが、その三次元構造は非常によく似ている(非特許文献4〜12参照)。
【0009】
「グルコン酸脱水素酵素(gluconate 5-dehydrogenase: Gn5DH)」は、上記のチロシン依存性酸化還元酵素ファミリーに属する酵素である。Gn5DHは、グルコン酸から電子を奪ってNADへ与え、NADHを生成する反応を触媒する酵素である。酵素電池において、Gn5DHは、グルコース脱水素酵素によってグルコースが酸化されて生成するグルコン酸から電子を奪ってNADへ与え、NADHを生成する反応を触媒する。
【0010】
本発明は、チロシン依存性酸化還元酵素及びグルコン酸脱水素酵素の生体外での広範な利用可能性を視野に入れ、耐熱性の程度が所定レベル以上の変異型酵素の設計方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題解決のため、本発明は、チロシン依存性酸化還元酵素において、野生型酵素のアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸を欠失、置換、付加、若しくは挿入して、タンパク質立体構造中におけるα4へリックスとα6へリックスとの間の距離を、野生型酵素に比べて小さくすることを特徴とする耐熱化変異型酵素の設計方法を提供する。
この耐熱化変異型酵素の設計方法において、前記チロシン依存性酸化還元酵素は、特にグルコン酸脱水素酵素とできる。
本発明は、また、タンパク質立体構造中におけるα4へリックスとα6へリックスとの間の距離が、野生型チロシン依存性酸化還元酵素に比べて小さいことを特徴とする耐熱化変異型チロシン依存性酸化還元酵素を提供する。
この耐熱化変異型チロシン依存性酸化還元酵素は、特にグルコン酸脱水素酵素とでき、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、若しくは挿入されたアミノ酸配列からなり、タンパク質立体構造中におけるα4へリックスとα6へリックスとの間の距離が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる野生型グルコン酸脱水素酵素に比べて小さいことを特徴とする耐熱化変異型グルコン酸脱水素酵素とできる。この耐熱化変異型グルコン酸脱水素酵素として、具体的には、配列番号2,11,23,70のいずれかに示されるアミノ酸配列を有する変異型グルコン酸脱水素酵素が挙げられる。これらの耐熱化変異型グルコン酸脱水素酵素は、47.5℃、10分間の加熱処理後の残存酵素活性が、加熱処理前の酵素活性の20%以上である。
本発明は、さらに、酵素を用いる電気化学装置において、前記酵素は、タンパク質構造中におけるα4へリックスとα6へリックスとの間の距離が、野生型チロシン依存性酸化還元酵素に比べて小さい耐熱化変異型チロシン依存性酸化還元酵素であることを特徴とする電気化学装置をも提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、耐熱性の程度が所定レベル以上の変異型チロシン依存性酸化還元酵素の設計方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】野生型Gn5DHの二次構造ステレオ図である。
【図2】野生型及び変異型Gn5DHの立体構造を重ね合わせて示す図である。
【図3】変異型Gn5DHに対する各変異型Gn5DHのR.m.s.d Cαを、アミノ酸残基単位で示す図である。
【図4】α4へリックスとα6へリックス間の距離の定義を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、グルコン酸脱水素酵素(Gn5DH)について、遺伝子工学的手法を用いて多数の耐熱化変異体を作成し、X線による結晶構造解析を行った。その結果、変異型Gn5DHでは、タンパク質立体構造中におけるα4へリックスとα6へリックスとの間の距離が野生型Gn5DHに比べて小さくなることによって耐熱性が向上していることを新規に見出した。
【0015】
この知見に基づき、本発明は、Gn5DHにおいて、タンパク質構造中におけるα4へリックスとα6へリックスとの間の距離を、野生型酵素に比べて小さくすることを特徴とする耐熱化変異型酵素の設計方法を提供する。
【0016】
この設計方法は、汎用の分子設計プログラムを用い、野生型Gn5DHのアミノ酸配列(配列番号1参照)の1若しくは数個のアミノ酸を欠失、置換、付加、若しくは挿入した場合のα4へリックス−α6へリックス間距離を計算することにより実施可能である。
【0017】
Gn5DHは、チロシン依存性酸化還元酵素ファミリーに属する他の酵素と類似した構造をもち、それらと同様に補欠分子族NAD(P)H依存的に基質の酸化還元反応を触媒する(非特許文献9、13〜15参照)。従って、本発明に係る耐熱化変異型酵素の設計方法は、Gn5DHのみならず、チロシン依存性酸化還元酵素ファミリーに属する酵素群に対して広く適用可能である。
【0018】
これらの酵素群として、以下が挙げられる。酵素名の後にProtein Data Bank登録ID(立体構造座標データ)を示す。
Putative gluconate-5-dehydrogenase [1vl8], 3-Oxoacyl-(Acyl carrier protein) reductase [2uvd, 2pnf], β-Ketoacyl-(Acyl carrier protein) reductase [1q7b], Fatty acid synthase [1edo, 2cdh], α-Hydroxysteroid dehydrogenase [1ahi, 1ahh, 1fmc], D-3-Hydroxybutyrate dehydrogenase [2q2q, 2q2v, 2q2w], Glucose dehydrogenase [1gco, 1spx], Xylitol dehydrogenase [1zem], Sorbitol dehydrogenase [1k2w], (S)-specific 1-Phenylethanol dehydrogenase [2ew8], Xylulose reductase [1wnt], Tropinone reductase [1ae1], Mannitol dehydrogenase [1h5q], Haloalocohol dehydrogenase [1pwx, 1pwz, 1pxo, 1zmt, 1zo8]。
【0019】
本発明に係る耐熱化変異型酵素の設計方法により得られる変異型酵素は、高い耐熱性を備えている。従って、この変異型酵素を利用することで、有用物質の生産、エネルギー関連物質の生産、測定又は分析、環境保全、医療、電気化学装置などの技術において、高い酵素反応速度と活性持続性を得ることができる。特に、変異型酵素を、酵素電池の燃料極に組み込むことで、高出力を持続して発揮する酵素電池を得ることが可能となる。
【実施例】
【0020】
<実施例1>
1.大腸菌K-12株(Escherichia coli K12)由来のグルコン酸脱水素酵素(Gn5DH)遺伝子のクローニングと発現及び精製
(1-1)Escherichia coli K12からゲノムDNAの単離・精製
大腸菌K-12株は、組換えDNA実験の宿主として広く使用されている大腸菌の一系統である。大腸菌K-12株については、生物界で最も詳しい染色体地図が明らかにされている。定法に従って大腸菌K-12株を培養した後、遠心分離によって集菌し、Wizard Genomic DNA Purification Kit (Promega社)を使用して、ゲノムDNAを単離した(方法の詳細は製品添付の取扱説明書)。
【0021】
(1-2)Gn5DHのクローニング
得られたゲノムDNAからPCRによりGn5DH遺伝子を増幅した。大腸菌K-12株のGn5DH遺伝子は、NCBIのNucleotideデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=nuccore&itool=toolbar)にAccession Number NC_000913 [REGION: complement(4490610..4491374)]として登録されている(配列番号67参照)。
【0022】
DNA polymeraseにはPfu DNA polymerase (Stratagene社)を使用し、プライマーとしては、以下の「表1」の配列のものを使用した。なお、下線部は、Nde I配列(Forward primer)、BamH I配列(Reverse primer)を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
Gn5DH遺伝子のPCR産物をPCR Cleanup Kit(Qiagen社)を使って精製し、アガロース電気泳動により確認した。また、DNAシーケンサーにより塩基配列の確認を行った。
【0025】
(1-3)Gn5DH遺伝子のベクターへの導入
Gn5DH遺伝子の増幅断片をBamHIとNdeIにより処理し、PCR Cleanup Kit(Qiagen社)を使って精製した。また、ベクターpET12a (Novagen社)をBamHIとNdeIにより処理し、同様に精製した。これら2種類の断片をT4 ligaseによりligationし、産物によってXL1-blue electrocompetent cell (Stratagene社)を形質転換してLB-amp培地で培養を行い、増産した。
【0026】
得られたプラスミドは、BssHIIで処理し、アガロース電気泳動でGn5DH遺伝子の挿入を確認し、塩基配列を解析した。
【0027】
(1-4)大腸菌の形質転換
プラスミドをE. coli BL21 (DE3) (Novagen社)にヒートショック法により導入、形質転換を行った。SOC中で1hr、37℃で前培養後、LB-amp寒天培地に展開、コロニーの一部を液体培養し、Gn5DHの発現をSDS-PAGEで確認した。形質転換体培養液3mLを遠心分離し、大腸菌ペレットに2×YT培地を加えて分散させて-80℃で保存した。
【0028】
(1-5)大量培養とタンパク質精製
形質転換体の凍結サンプルから、LB-amp agar培地に展開し、コロニーをピックアップして100mL LB-ampでOD600が1程度になるまで前培養し、これを18LのLB-ampに展開して、37℃でOD600が2程度で飽和するまでしんとう培養した。この培養液から菌体を遠心分離(5kG)により回収した(ウェットで収量20 g)。菌体ペレットを-80℃で凍結した後溶解し、0℃で200mLの50mM Tris-HCl, pH8.0, 1mM EDTA, 1mM DTT, 1mM PMSF溶液中で超音波処理して溶菌し、遠心分離(9.5 kG)により溶液画分を回収した。
【0029】
この溶液を陰イオン交換カラム(Sepharose Q FastFlow, Amersham Bioscience)にかけ、Gn5DH含有画分を回収して限外濾過法で濃縮した(溶液量20 mL、Centriplus 遠心式フィルターユニット YM-30、Millipore)。次いで、このサンプルをゲル濾過カラム(Sephacryl S-200, Amersham Bioscience)にかけ、Gn5DH含有画分を集めた。
【0030】
<実施例2>
2.Gn5DH遺伝子のランダムミューテーションによる変異体ライブラリーの作成と高活性・耐熱性変異体のスクリーニング(第1世代)
(2-1)GeneMorph(登録商標)によるError-Prone PCR
Error-prone PCRによるGn5DHミュータントの遺伝子ライブラリー作成を行い、この遺伝子をベクターDNAに導入して大腸菌中で発現させた。「Error-prone PCR法」とは、PCRによるDNA断片複製反応の際に、DNA polymeraseが塩基配列の読み間違いを起こすことを利用して、複製されたDNA断片に変異をランダムに起こす方法である。種々の方法が報告されているが、ここでは製品化されているものの中から、Stratagene社のGeneMorph(登録商標)を選択した。Template DNAは、大腸菌K-12株のGn5DH遺伝子を組み込んだ上記のプラスミドを用いた。プライマーもこの遺伝子のクローニングに用いたものを使用した。PCRは、GeneMorph(登録商標)のマニュアルに従って行った。
【0031】
(2-2)ベクターへのGn5DH遺伝子の導入
Error-prone PCR産物をNde IとBamH Iによる制限酵素処理した。37℃で2時間反応を行ったのち、反応生成物をQiaquick PCR purification Kit(Qiagen社)により精製した。一方、ベクターはpET12aをPCR産物同様、Nde IとBamH Iによる制限酵素処理した(37℃で
2時間)。
【0032】
これら制限酵素処理反応産物を低融点アガロースゲル電気泳動により分離し、対応する開環状態のベクターDNAをQiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen)を使用して精製した。次いで、精製したベクターの制限酵素処理産物をアルカリフォスファターゼで処理することにより、5’末端を脱リン酸化した。反応生成物をQiaquick PCR purification Kit(Qiagen社)により精製した。このようにして得られたerror-prone PCR産物(即ち、Gn5DH変異体遺伝子ライブラリー)を制限酵素・脱リン酸化処理されたベクターにライゲーションした。ライゲーション反応はLigation Kit Mighty Mix(タカラバイオ社)を使用した。反応生成物は、エタノール沈殿法により精製した。
【0033】
(2-3)Competent Cellの作成と形質転換
Competent Cellは自前で調製したBL21(DE3)のelectrocompetent cellを用いた。40 μLのcompetent cell凍結サンプルを氷上にて融解し、1μg/μL程度の濃度のDNAサンプルを0.5μL混合し、0.1 cmギャップのelelctroporation cuvetteに全量をセットし、1800 kVの電圧を印加することにより形質転換した。これに960μLのSOC培地を加え、1時間37℃でしんとうして前培養を行い、この培養液を5〜50μL LB-amp寒天培地へ植菌し、37℃で一晩インキュベーションを行った。
【0034】
(2-4)スクリーニング
寒天培地上のシングルコロニーをそれぞれ96ウェルプレートのLB-amp液体培地(150μL)に爪楊枝を使って植菌した。2ウェルを、野生型を産生する大腸菌株に当てた。ウェルプレート上面をガスパーマブル粘着シート(ABgene)でシールし、さらに付属のふたをして37℃で一晩(〜14時間)しんとう培養を行った。この培養液50μLずつを新しいウェルプレートで15μLのBugBuster(Novagen)とピペッティングによりよく混合した後プレートにふたをし、25℃で30分インキュベーションすることにより溶菌した。次に室温で75μLの0.1 M Tris-HCl, pH 8.0および10μLの0.1 M NADを加えた。このとき非加熱のコントロールサンプルとして野生型のサンプル2つのうち1つをマイクロチューブに取り分けて室温でとりおいた。プレートを市販のOPPテープでシールし、50℃で35分加熱処理を行い(恒温器)、室温に静置して冷まして取り分けておいた野生型のサンプルをプレートに戻した。各サンプルに10μLの0.5 M グルコン酸ナトリウム溶液および1μL の10g/Lのジアホラーゼ溶液を加え、さらに5μL の20mM anthraquinone sulfonic acid(AQS) 20% DMSO溶液を順次加え、プレートをOPPテープでシールしてvortex mixerで5秒攪拌した。顕色する様子をカメラで記録し、野生型サンプルと比較して前記AQSの還元による発色が強いものを耐熱性候補として選択した。スクリーニングをくぐり抜けた検体については、96ウェルプレートに残っている培養液の一部を4.5mLのLB培地に植菌して1晩培養しプラスミドを精製し冷凍庫で保存した。また、別途4mLのLB培地に植菌してO.D.600が0.4程度にまで培養し、遠心分離により集菌し、2mLの2xYT培地に懸濁させて液体窒素により凍結して-80℃で保存した。
【0035】
(2-5)Gn5DH変異体の大量発現と精製
96ウェルプレートの各検体を、実施例1で説明した方法によって大量培養し、Gn5DH変異体を精製した。
【0036】
(2-6)酵素活性評価試験
精製されたGn5DHの酵素活性は、25℃においてgluconateとNADの反応により生成するNADHを340 nmの吸光度(ε340 = 6.3 x 103 M-1cm-1を用いて検出することにより評価した。UVセル(光路長10 cm、容積1 mL)に100 mM Tris-HCl, pH 8.0, 2 mM NAD, 10 mM gluconate水溶液を1 mL入れ、ここにGn5DHを加えることにより反応を開始した。開始直後の吸光度変化が直線的に変化する領域の傾きをもとに、活性を決定した。ここでGn5DHの濃度はBradford法により牛血清アルブミンを標準として作成した検量線を元に決定した。
【0037】
(2-7)耐熱性試験
酵素溶液を加熱処理した後、上記の酵素活性評価試験を行って、加熱処理後に残存している酵素活性(「残存酵素活性」)を測定した。加熱処理は、酵素溶液をアルミブロックヒーターで47.5℃・10分間又は53℃・10分間、あるいは57.5℃・10分間加熱することにより行った。
【0038】
(2-8)結果
酵素活性評価試験及び耐熱性試験(47.5℃・10分間処理)の結果、野生型Gn5DHに比べて、高い活性又は高い耐熱性を示したGn5DH変異体を「表2」に示す。表中、「酵素活性残存率」は、加熱処理の前後において、同一条件で活性評価試験を行い、加熱処理後の活性が処理前に比べてどれだけ存在したかを百分率で表す。
【0039】
【表2】

【0040】
(A)高活性・耐熱性変異型Gn5DH
配列番号2〜10のアミノ酸配列からなる変異型Gn5DHでは、配列番号1の野生型(WT)と比較して、酵素活性及び酵素活性残存率(耐熱性)が向上した。
【0041】
配列番号2に示される変異型Gn5DHは、配列番号1の野生型アミノ酸配列のN末端から155番目のイソロイシンがスレオニンに置換されている(略記号「I155T」で示す)。同様に、配列番号3に示される変異型Gn5DHは、63番目のアラニンがバリンに、124番目のバリンがイソロイシン置換されており(「A63V/V124I」)、配列番号4に示される変異型Gn5DHは、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「V254L」)、配列番号5に示される変異型Gn5DHは、154番目のスレオニンがセリンに置換されており(「T154S」)、配列番号6に示される変異型Gn5DHは、144番目のシステインがグリシンに置換されており(「C144G」)、配列番号7に示される変異型Gn5DHは、154番目のスレオニンがアスパラギンに置換されており(「T154N」)、配列番号8に示される変異型Gn5DHは、191番目のフェニルアラニンがイソロイシンに置換されており(「F191I」)、配列番号9に示される変異型Gn5DHは、61番目のバリンがロイシンに置換されており(「V61L」)、配列番号10に示される変異型Gn5DHは、80番目のイソロイシンがフェニルアラニンに、146番目のメチオニンがイソロイシン置換されている(「I80F/M146I」)。
【0042】
(B)耐熱性変異型Gn5DH
また、配列番号11〜18のアミノ酸配列からなる変異型Gn5DHでは、野生型(WT)と比較して、酵素活性残存率(耐熱性)が向上した。
【0043】
配列番号11に示される変異型Gn5DHは、配列番号1の野生型アミノ酸配列のN末端から146番目のメチオニンがイソロイシンに置換されている(「M146I」)。同様に、配列番号12に示される変異型Gn5DHは、85番目のグリシンがシステインに、120番目のアラニンがグリシン置換されており、140番目のバリンがイソロイシンに置換されており(「G85C/A120G/V140I」)、配列番号13に示される変異型Gn5DHは、237番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換されており(「D237E」)、配列番号14に示される変異型Gn5DHは、191番目のフェニルアラニンがイソロイシンに、220番目のアスパラギン酸がグルタミン酸置換されており(「F191I/D220E」)、配列番号15に示される変異型Gn5DHは、109番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換されており(「E109D」)、配列番号16に示される変異型Gn5DHは、228番目のアラニンがグリシンに置換されており(「A228G」)、配列番号17に示される変異型Gn5DHは、30番目のグリシンがセリンに、131番目のヒスチジンがアルギニンに置換されており(「G30S/H131R」)、配列番号18に示される変異型Gn5DHは、142番目のアスパラギンがイソロイシンに、191番目のフェニルアラニンがロイシンに置換されている(「N142I/F191L」)。
【0044】
(C)高活性変異型Gn5DH
さらに、配列番号19又は20の変異型Gn5DHでは、野生型(WT)と比較して、酵素活性が向上した。
【0045】
配列番号19に示される変異型Gn5DHは、配列番号1の野生型アミノ酸配列のN末端から82番目のリシンがスレオニンに、86番目のプロリンがスレオニン置換されており、95番目のグリシンがアラニンに置換されている(「K82T/P86T/G95A」)。同様に、配列番号20に示される変異型Gn5DHは、95番目のグリシンがアラニンに置換されている(「G95A」)。
【0046】
<実施例3>
3.Gn5DH遺伝子のランダムミューテーションによる変異体ライブラリーの作成と高活性・耐熱性変異体のスクリーニング(第2世代)
実施例2において、特に優れた酵素活性及び酵素活性残存率を示した配列番号2〜6、11、19、20の変異型Gn5DH遺伝子をTemplate DNAとして、再度Error-prone PCRによるミュータント遺伝子ライブラリーの作成、変異体ライブラリーの調製を行い、温度58℃45分間熱処理によりスクリーニングを行って、スクリーニングをくぐり抜けた変異体を第2世代変異体とした。実施例2と同様にして、第2世代のGn5DH変異体を精製し、酵素活性評価試験及び耐熱性試験を行った。
【0047】
酵素活性評価試験及び耐熱性試験(53℃・10分間処理)の結果、野生型Gn5DHに比べて、高い活性又は高い耐熱性を示したGn5DH変異体を「表3」に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
(D)高活性・超耐熱性変異型Gn5DH
配列番号1の野生型(WT)Gn5DHでは、53℃・10分間の加熱処理後の残存酵素活性は0であった。これに対して、配列番号22〜50のアミノ酸配列からなる変異型Gn5DHでは、加熱処理後も酵素活性を示し、かつ、加熱処理前においても野生型Gn5DHに比べて高い酵素活性を示した。これらの変異型Gn5DHは、Templateとした第1世代のGn5DH変異体に比べてさらに高い耐熱性(超耐熱性)を有するものである。
【0050】
配列番号22に示される変異型Gn5DHは、配列番号1の野生型アミノ酸配列のN末端から95番目のグリシンがアラニンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに置換されている(「G95A/M146I」)。同様に、配列番号23に示される変異型Gn5DHは、69番目のヒスチジンがアルギニンに、82番目のリシンがスレオニンに、86番目のプロリンがスレオニンに、95番目のグリシンがアラニンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに置換されており(「H69R/K82T/P86T/G95A/M146I」)、配列番号24に示される変異型Gn5DHは、63番目のアラニンがバリンに、82番目のリシンがスレオニンに、86番目のプロリンがスレオニンに、95番目のグリシンがアラニンに、154番目のスレオニンがセリンに置換されており、237番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換されており(「A63V/K82T/P86T/G95A/T154S/D237E」)、配列番号25に示される変異型Gn5DHは、82番目のリシンがスレオニンに、86番目のプロリンがスレオニンに、95番目のグリシンがアラニンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに、200番目のバリンがアラニンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「K82T/P86T/G95A/M146I/V200A/V254L」)、配列番号26に示される変異型Gn5DHは、82番目のリシンがスレオニンに、86番目のプロリンがスレオニンに、95番目のグリシンがアラニンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに置換されており(「K82T/P86T/G95A/M146I」)、配列番号27に示される変異型Gn5DHは、51番目のグルタミン酸がリシンに、95番目のグリシンがアラニンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに置換されており(「E51K/G95A/M146I」)、配列番号28に示される変異型Gn5DHは、154番目のスレオニンがセリンに254番目のバリンがロイシンに置換されており(「T154S/V254L」)、配列番号29に示される変異型Gn5DHは、154番目のスレオニンがセリンに、237番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「T154S/D237E/V254L」)、配列番号30に示される変異型Gn5DHは、83番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、95番目のグリシンがアラニンに、200番目のバリンがアラニンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「D83E/G95A/V200A/V254L」)、配列番号31に示される変異型Gn5DHは、144番目のシステインがグリシンに、227番目のアラニンがスレオニンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「C144G/A227T/V254L」)、配列番号32に示される変異型Gn5DHは、144番目のシステインがグリシンに、254番目のバリンがロイシンに置換されている(「C144G/V254L」)。
【0051】
また、配列番号33に示される変異型Gn5DHは、23番目のフェニルアラニンがロイシンに、144番目のシステインがグリシンに、201番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「F23L/C144G/E201D/V254L」)、配列番号34に示される変異型Gn5DHは、5番目のフェニルアラニンがチロシンに、51番目のグルタミン酸がリシンに、144番目のシステインがグリシンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「F5Y/E51K/C144G/V254L」)、配列番号35に示される変異型Gn5DHは、80番目のイソロイシンがフェニルアラニンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「I80F/M146I/V254L」)、配列番号36に示される変異型Gn5DHは、63番目のアラニンがバリンに、124番目のバリンがイソロイシンに、222番目のグルタミンがヒスチジンに置換されており(「A63V/V124I/Q222H」)、配列番号37に示される変異型Gn5DHは、136番目のリシンがメチオニンに、144番目のシステインがグリシンに、175番目のグルタミン酸がリシンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「K136M/C144G/E175K/V254L」)、配列番号38に示される変異型Gn5DHは、131番目のヒスチジンがアルギニンに、144番目のシステインがグリシンに、148番目のセリンがグリシンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「H131R/C144G/S148G/V254L」)、配列番号39に示される変異型Gn5DHは、63番目のアラニンがバリンに、99番目のアルギニンがシステインに置換されており(「A63V/R99C」)、配列番号40に示される変異型Gn5DHは、24番目のロイシンがイソロイシンに、80番目のイソロイシンがフェニルアラニンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに置換されており(「L24I/I80F/M146I」)、配列番号41に示される変異型Gn5DHは、54番目のヒスチジンがアルギニンに、63番目のアラニンがバリンに、201番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「H54R/A63V/E201V/V254L」)、配列番号42に示される変異型Gn5DHは、54番目のヒスチジンがロイシンに、100番目のヒスチジンがチロシンに、144番目のセリンがグリシンに、254番目のバリンがロイシンに置換されている(「H54L/H100Y/C144G/V254L」)。
【0052】
さらに、配列番号43に示される変異型Gn5DHは、59番目のグルタミンがグルタミン酸に、82番目のリシンがスレオニンに、86番目のプロリンがスレオニンに、95番目のグリシンがアラニンに、154番目のスレオニンがセリンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「Q59E/K82T/P86T/G95A/T154S/V254L」)、配列番号44に示される変異型Gn5DHは、72番目のグルタミン酸がバリンに、155番目のイソロイシンがスレオニンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「E72V/I155T」)、配列番号45に示される変異型Gn5DHは、63番目のアラニンがバリンに、155番目のイソロイシンがスレオニンに置換されており(「A63V/I155T」)、配列番号46に示される変異型Gn5DHは、82番目のリシンがスレオニンに、86番目のプロリンがスレオニンに、95番目のグリシンがアラニンに、155番目のイソロイシンがスレオニンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「K82T/P86T/G95A/I155T/V254L」)、配列番号47に示される変異型Gn5DHは、5番目のフェニルアラニンがチロシンに、51番目のグルタミン酸がリシンに、155番目のイソロイシンがスレオニンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「F5Y/E51K/I155T/V254L」)、配列番号48に示される変異型Gn5DHは、51番目のグルタミン酸がリシンに、155番目のイソロイシンがスレオニンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「E51K/I155T/V254L」)、配列番号49に示される変異型Gn5DHは、155番目のイソロイシンがスレオニンに、194番目のグルタミン酸がグリシンに置換されており(「I155T/E194G」)、配列番号50に示される変異型Gn5DHは、63番目のアラニンがバリンに、124番目のバリンがイソロイシンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに、置換されている(「A63V/V124I/M146I」)。
【0053】
(E)超耐熱性変異型Gn5DH
また、配列番号51〜66のアミノ酸配列からなる変異型Gn5DHでは、加熱処理後も酵素活性を示し、野生型(WT)と比較して酵素活性残存率(耐熱性)が向上した。これらの変異型Gn5DHは、Templateとした第1世代のGn5DH変異体に比べてさらに高い耐熱性(超耐熱性)を有するものである。
【0054】
配列番号51に示される変異型Gn5DHは、配列番号1の野生型アミノ酸配列のN末端から3番目のアスパラギン酸がヒスチジンに、57番目のグリシンがアスパラギン酸に、146番目のメチオニンがイソロイシンに、254番目のバリンがロイシンに置換されている(「D3H/G57D/M146I/V254L」)。同様に、配列番号52に示される変異型Gn5DHは、95番目のグリシンがアラニンに、155番目のイソロイシンがスレオニンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「G95A/I155T/V254L」)、配列番号53に示される変異型Gn5DHは、155番目のイソロイシンがスレオニンに、230番目のフェニルアラニンがロイシンに置換されており(「I155T/F230L」)、配列番号54に示される変異型Gn5DHは、155番目のイソロイシンがスレオニンに、225番目のイソロイシンがスレオニンに置換されており、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「I155T/I225T/V254L」)、配列番号55に示される変異型Gn5DHは、103番目のスレオニンがイソロイシンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに置換されており(「T103I/M146I」)、配列番号56に示される変異型Gn5DHは、28番目のグリシンがアスパラギン酸に、69番目のヒスチジンがアラニンに、95番目のグリシンがアラニンに、194番目のグルタミン酸がグルタミンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「G28D/H69A/G95A/E194G/V254L」)、配列番号57に示される変異型Gn5DHは、24番目のロイシンがイソロイシンに、47番目のグルタミン酸がリシンに、51番目のグルタミン酸がリシンに、155番目のイソロイシンがスレオニンに、190番目のチロシンがフェニルアラニンに、203番目のグルタミン酸がリシンに置換されており(「L24I/E47K/E51K/I155T/Y190F/E203K」)、配列番号58に示される変異型Gn5DHは、58番目のイソロイシンがフェニルアラニンに、144番目のシステインがグリシンに、194番目のグルタミン酸がグリシンに置換されている(「I58F/C144G/E194G」)。
【0055】
また、配列番号59に示される変異型Gn5DHは、65番目のフェニルアラニンがチロシンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに、155番目のイソロイシンがスレオニンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「F65Y/M146I/I155T/V254L」)、配列番号60に示される変異型Gn5DHは、63番目のアラニンがバリンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに置換されており(「A63V/M146I」)、配列番号61に示される変異型Gn5DHは、9番目のグリシンがアルギニンに、56番目のグルタミン酸がグリシンに、63番目のアラニンがバリンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに、237番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換されており(「G9R/E56G/A63V/M146I/D237N」)、配列番号62に示される変異型Gn5DHは、61番目のバリンがイソロイシンに、69番目のヒスチジンがアルギニンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに置換されており(「V61I/H69R/M146I」)、配列番号63に示される変異型Gn5DHは80番目のイソロイシンがフェニルアラニンに、146番目のメチオニンがイソロイシンに、155番目のイソロイシンがロイシンに置換されており(「I80F/M146I/I155L」)、配列番号64に示される変異型Gn5DHは、95番目のグリシンがアラニンに、144番目のシステインがグリシンに、254番目のバリンがロイシンに置換されており(「G95A/C144G/V254L」)、配列番号65に示される変異型Gn5DHは、63番目のアラニンがスレオニンに、155番目のイソロイシンがスレオニンに置換されており(「A63T/I155T」)、配列番号66に示される変異型Gn5DHは、63番目のアラニンがバリンに、124番目のバリンがイソロイシンに、147番目のグルタミンがヒスチジンに置換されている(「A63V/V124I/Q147H」)。
【0056】
<実施例4>
4.Gn5DH遺伝子のランダムミューテーションによる変異体ライブラリーの作成と高活性・耐熱性変異体のスクリーニング(第3世代)
実施例3において、特に優れた酵素活性及び酵素活性残存率を示した変異型Gn5DH遺伝子をTemplate DNAとして、再度Error-prone PCRによるミュータント遺伝子ライブラリーの作成、変異体ライブラリーの調製を行い、第3世代変異体のスクリーニングを行った。実施例3と同様にして、第3世代のGn5DH変異体を精製し、酵素活性評価試験及び耐熱性試験を行った。
【0057】
酵素活性評価試験及び耐熱性試験(57.5℃・10分間処理)の結果、野生型Gn5DHに比べて、高い活性又は高い耐熱性を示したGn5DH変異体を「表4」に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
(F)高活性・超々耐熱性変異型Gn5DH
配列番号1の野生型(WT)Gn5DHでは、57.5℃・10分間の加熱処理後の残存酵素活性は0であった。これに対して、配列番号70〜76のアミノ酸配列からなる変異型Gn5DHでは、加熱処理後も酵素活性を示し、かつ、加熱処理前においても野生型Gn5DHに比べて高い酵素活性を示した。これらの変異型Gn5DHは、Templateとした第2世代のGn5DH変異体に比べてさらに高い耐熱性(超々耐熱性)を有するものである。
【0060】
(G)超々耐熱性変異型Gn5DH
また、配列番号77〜106のアミノ酸配列からなる変異型Gn5DHでは、加熱処理後も酵素活性を示し、野生型(WT)と比較して酵素活性残存率(耐熱性)が向上した。これらの変異型Gn5DHは、Templateとした第2世代のGn5DH変異体に比べてさらに高い耐熱性(超々耐熱性)を有するものである。
【0061】
<実施例5>
5.野生型及び変異型Gn5DHのX線結晶構造解析
(5−1)結晶構造の決定
野生型Gn5DHと、実施例2〜4において特に優れた酵素活性及び酵素活性残存率を示した変異型Gn5DHについて、X線による結晶構造解析を行った。
【0062】
実施例1中、「(1-5)大量培養とタンパク質精製」で説明した方法に従って、野生型及び変異型Gn5DHを精製した。変異型Gn5DHは、配列番号2、4に示される「高活性・耐熱性変異体」、配列番号11に示される「耐熱性変異体」、配列番号20に示される「高活性変異体」、配列番号23に示される「高活性・超耐熱性変異体」、配列番号70で示される「高活性・超々耐熱性変異体」を用いた(表5参照)。
【0063】
【表5】


(表中、「T」は、変性中点温度(10分加熱処理後、測定した酵素活性が、加熱処理前の酵素活性の半分になる温度)を示す。また、「ΔT」は、野生型(WT)と比べた変性中点温度の上昇幅を示す。)
【0064】
野生型及び変異型Gn5DH溶液(25 mg/mL in 20 mM Tris-HCl, pH 8.0, 1.0 mM NAD)と、市販の結晶化スクリーニングキット(Cryo I & II、Crystal Screen 1&2、Wizard I & II、Cryo I & II、PEG-ION/Foot Print ScreenまたはCrystal Screen Cryo/Wizard III(Emerald BioSystems))を等量混ぜた。混合溶液を、シッティングドロップ蒸気拡散法及びハンギングドロップ蒸気拡散法により20℃で静置したところ、六方晶の結晶を得た。
【0065】
イメージングプレートX線検出器R-AXIS IV++(RIGAKU Corporation)とCrystal Clear ver.1.3.5を用いて、各結晶のX線回折斑点データを取得した。続いて、タンパク質結晶構造のモデリング用ソフトウェアccp4及びcootにて構造精密化を行った。大腸菌由来のGn5DHと同じTyrosine-dependent short-chain dehydrogenase/reductase familyに属するThermotoga maritima由来のGn5DH座標(PDB ID: 1VL8)をサーチモデルとし、野生型Gn5DHの構造を決定した。各変異型Gn5DHの構造に関しても、野生型Gn5DHの構造をテンプレートにして同様に決定した。
【0066】
図1に、野生型Gn5DHの二次構造ステレオ図を示す。図中、α1〜7は、N末端側から順にαへリックス構造の位置を示す。また、β1〜7は、N末端側から順にβシート構造の位置を示す。
【0067】
(5−2)結晶構造の比較
野生型及び変異型Gn5DHの構造間の主鎖の配置の差異を、α炭素(Cα)最小二乗フィッティングにより評価した。評価には、CootのLSQ Superimposeを用いた。
【0068】
図2に、野生型及び変異型Gn5DHの立体構造を、野生型Gn5DHに対して各変異型Gn5DHを重ね合わせた状態で示す。(a)〜(d)は、それぞれ配列番号2,11,23,70に示される変異型Gn5DHと野生型Gn5DHとを重ね合わせた図である。図中、白が野生型Gn5DH、黒が変異型Gn5DHを示す。また、「RMSD」は、α炭素平均二乗偏差(Cα Root Mean Square Deviation:R.m.s.d Cα)の値を示す。
【0069】
また、図3に、変異型Gn5DHに対する各変異型Gn5DHのR.m.s.d Cαを、アミノ酸残基単位で示す。(a)〜(d)は、それぞれ配列番号2,11,23,70に示される変異型Gn5DHのR.m.s.d Cαを示す。図中、横軸はアミノ酸残基番号、縦軸はR.m.s.d Cαを示す。
【0070】
図2に示すように、変異型Gn5DHのR.m.s.d Cαは、配列番号2,11,23,70の順で大きくなっており、野生型Gn5DHからの構造変化が大きいほど、耐熱性が向上していることが分かった(表5参照)。
【0071】
また、図3(a)に示すように、配列番号2の変異型Gn5DHでは、α4,5,6へリックスで野生型Gn5DHに対する構造変化が大きかった。さらに、配列番号11の変異型Gn5DHではα4,6へリックス、配列番号23の変異型Gn5DHではα5,6へリックス、配列番号70の変異型Gn5DHではα6へリックスで野生型Gn5DHに対する構造変化が大きかった(図3(b)〜(d)参照)。これらのことから、変異型Gn5DHにおいては、α4〜6へリックスの構造が耐熱性に寄与しているものと考えられた。
【0072】
<実施例6>
6.変異型Gn5DHにおける構造変化の解析
変異型Gn5DHにおける野生型Gn5DHからの構造変化について、α4へリックスとα6へリックス間の距離を指標として、さらに解析を行った。
【0073】
α4へリックスとα6へリックス間の距離の指標として、最も離れているスレオニン103(Thr103)とグルタミン酸203(Glu203)のCα間の距離(図4、破線矢印参照)を定義した。
【0074】
「表6」に、野生型Gn5DH及び配列番号2,11,23,70に示される変異型Gn5DHにおけるα4へリックスとα6へリックス間距離を示す。
【0075】
【表6】

【0076】
表に示されるように、各変異型Gn5DHにおけるα4へリックスとα6へリックス間距離は、野生型Gn5DHに比べて小さくなっていた。この結果から、変異型Gn5DHにおいては、α4へリックスとα6へリックスの距離が縮まることにより、耐熱性が向上していることが明らかとなった。
【0077】
α4へリックスとα6へリックス間距離が小さくなることにより、分子構造がコンパクトになり、耐熱性が向上するものと考えられる。より具体的には、アミノ酸置換により、立体構造内部のアミノ酸残基の体積が減少したり、α4,5,6へリックス間に水素結合が形成されたりすることで、分子構造がコンパクトなり、耐熱性が高められているものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る耐熱化変異型酵素の設計方法により得られる変異型酵素は、有用物質の生産、エネルギー関連物質の生産、測定又は分析、環境保全、医療などの技術に利用することができる。また電気化学装置、特にバイオセンサーや酵素電池への利用が見込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チロシン依存性酸化還元酵素において、野生型酵素のアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸を欠失、置換、付加、若しくは挿入して、タンパク質立体構造中におけるα4へリックスとα6へリックスとの間の距離を、野生型酵素に比べて小さくすることを特徴とする耐熱化変異型酵素の設計方法。
【請求項2】
前記チロシン依存性酸化還元酵素が、グルコン酸脱水素酵素である請求項1記載の耐熱化変異型酵素の設計方法。
【請求項3】
タンパク質立体構造中におけるα4へリックスとα6へリックスとの間の距離が、野生型チロシン依存性酸化還元酵素に比べて小さいことを特徴とする耐熱化変異型チロシン依存性酸化還元酵素。
【請求項4】
配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、付加、若しくは挿入されたアミノ酸配列からなり、
タンパク質立体構造中におけるα4へリックスとα6へリックスとの間の距離が、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる野生型グルコン酸脱水素酵素に比べて小さいことを特徴とする耐熱化変異型グルコン酸脱水素酵素。
【請求項5】
配列番号2,11,23,70のいずれかに示されるアミノ酸配列を有する請求項4記載の耐熱化変異型グルコン酸脱水素酵素。
【請求項6】
47.5℃、10分間の加熱処理後の残存酵素活性が、加熱処理前の酵素活性の20%以上である請求項5記載の耐熱化変異型グルコン酸脱水素酵素。
【請求項7】
酵素を用いる電気化学装置において、
前記酵素は、タンパク質構造中におけるα4へリックスとα6へリックスとの間の距離が、野生型チロシン依存性酸化還元酵素に比べて小さい耐熱化変異型チロシン依存性酸化還元酵素であることを特徴とする電気化学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−152094(P2011−152094A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16675(P2010−16675)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】