説明

耐熱性フィルム及びその製造方法

【課題】原料としてポリエーテルエーテルケトンのほかに比較的安価な非晶性樹脂であるポリエーテルサルホンを併用することにより、コスト及び性能のバランスのとれた耐熱性フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトンと、ポリエーテルサルホンとを含有し、樹脂成分中のポリエーテルエーテルケトンの含有量が70重量%以上である樹脂組成物1を加熱してフィルム状に成形した後に急冷したため、PEEKとPESの併用系であるにもかかわらず、JIS K7127に規定する引張弾性率が1500MPa以上であり、かつJIS P8115に規定する耐折回数が2000回以上である特性を備えた耐熱性フィルムを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルエーテルケトン及びポリエーテルサルホンを混合してなる樹脂組成物からなる耐屈曲疲労性に優れた耐熱性フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、剛性、難燃性、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等に優れているため、フレキシブルプリント基板やICキャリヤテープなどの電子部品に利用されている。
【0003】
別の電子部品として、例えば、カラー画像形成装置には、感光体上に形成されるトナー像をいったん転写した後、さらにこの転写像を転写材に転写するのに用いられる中間転写ベルトや、感光体上に形成されるトナー像を転写材に直接転写するために用いられる転写搬送ベルトなどの半導電性ベルトが使用されている。
【0004】
これら画像形成装置に使用される半導電性ベルトは、高精度の画像を形成するために、初期弾性率等の機械的強度に優れていることが要求される。このような半導電性ベルトとして、上述のごとく、諸特性に優れたスーパーエンジニアリングプラスチックであるポリエーテルエーテルケトンを用い、これを押出成形装置によって円筒状に押し出した後、これをカットしたものが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平6−254941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリエーテルエーテルケトンは、剛性等の特性に優れているものの、結晶性樹脂であることから剛直な構造を有しており、これによって耐屈曲疲労性の改善効果は充分ではなく、半導電性ベルトやフレキシブルプリント基板として使用しづらいという問題があった。
【0006】
そこで、本願発明においては、原料としてポリエーテルエーテルケトンのほかに比較的安価な非晶性樹脂であるポリエーテルサルホンを併用することにより、コスト及び性能のバランスのとれた耐熱性フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKという)を加熱してフィルム状に成形した後に急冷すると、PEEKの結晶化度が低下して耐屈曲疲労性が飛躍的に向上することを見いだした。さらに、PEEKにポリエーテルサルホン(以下、PESという)を混合した樹脂組成物を急冷すると、樹脂組成物中のPEEKの含有量が70重量%以上であれば、良好な耐屈曲疲労性を維持可能であることを見いだして本発明を完成させるに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明に係る耐熱性フィルムは、樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトンと、ポリエーテルサルホンとを含有する樹脂組成物からなり、前記樹脂成分中のポリエーテルエーテルケトンの含有量が70重量%以上とされ、JIS K7127に規定する引張弾性率が1500MPa以上であり、かつJIS P8115に規定する耐折回数が2000回以上であることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、高価なPEEKと比較的安価なPESとを併用してアロイ化することで、耐屈曲疲労性(耐折回数)に関しては、従来のPEEK単独使用のフィルムよりも大幅に性能が向上した、コスト及び性能のバランスのとれた耐熱性フィルムを提供することができる。
【0010】
上記樹脂組成物は、導電性フィラーを含有したものであってもよく、これにより導電性の耐熱性フィルムを得ることができる。また、導電性フィラーの配合量を調整することにより、上記耐熱性フィルムを用いて半導電性ベルトを得ることも可能である。
【0011】
本発明に係る耐熱性フィルムは、樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトンと、ポリエーテルサルホンとを含有し、前記樹脂成分中のポリエーテルエーテルケトンの含有量が70重量%以上である樹脂組成物を加熱してフィルム状に成形した後に急冷することで得ることができる。
【0012】
上記急冷条件としては、樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトン100重量%のものを加熱してフィルム状に成形した後に冷却したときに、密度法によるポリエーテルエーテルケトンの結晶化度が25%以下になる条件とすることができる。
【0013】
すなわち、樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトン100重量%の樹脂組成物をフィルム状に成形した後に徐冷すると結晶化度は40%程度になるところ、該樹脂組成物をフィルム状に成形した後に急冷すると結晶化度は25%以下となる。そして、結晶化度を25%以下にすることで耐屈曲疲労性(耐折回数)を大幅に向上させることができる。
【0014】
したがって、急冷条件を上記条件に設定した上で、樹脂組成物のうち30重量%までをPEEKからPESに置き換えると、従来のPEEK100%フィルムに比べ、良好な引張弾性率を維持しながら、原料コストを低減することができ、かつ耐屈曲疲労性を大幅に向上させることが可能となる。
【0015】
また、上記樹脂組成物が導電性フィラーを含有するものであってもよく、この場合は、導電性を有する耐熱性フィルムを得ることが可能となる。これによって、上述のごとく、初期弾性率、難燃性、耐屈曲疲労性に優れた半導電性ベルトを得ることができる。
【0016】
フィルム状の樹脂組成物を急冷するには、気体状又は液体状の冷媒をPEEKに接触させたり、熱容量の大きい金属等の材質からなる冷却板をPEEKに接触させたりすることができ、これらの方法を単独で又は併用して実施することができる。
【0017】
本発明に係る耐熱性フィルムは、ロール間で圧延してフィルム状に成形することができるほかに、Tダイ等により押出成形することが可能である。また、半導電性ベルトを得る場合には、サーキュラーダイスを備えた押出成形装置から押し出された筒状の耐熱性フィルムをカットすることにより、シームレスベルトを得ることができる。
【0018】
本発明で使用されるPEEKに特に制限はないが、化1に示されるように、繰り返し単位にエーテル結合とカルボニル基とを有するものであればよい(ただし、式中、nは正の整数)。
【0019】
【化1】

【0020】
導電性フィラーとしては、半導電性ベルトに導電性を付与するために用い得るフィラーであれば特に限定されないが、カーボンブラック、グラファイト、鉄、銅、銅合金、ニッケル、アルミニウム等の金属若しくは合金、又は酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタン酸化錫−酸化インジウム若しくは酸化錫−酸化アンチモン複合酸化物等の金属酸化物の微粉末が例示される。これらの金属若しくは合金若しくは金属酸化物は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、安価で汎用性があることからカーボンブラックを用いるのが好ましい。
【0021】
そして、本発明における半導電性ベルトとは、上記導電性フィラーを配合することによって体積抵抗率(150μm厚)が、中間転写ベルトや、転写搬送ベルトに用いられる106Ω・cm〜1013Ω・cmの範囲に調整されたベルトを意味する。本発明に係る耐熱性フィルムは、数十μm〜数百μmの厚みのものであれば、電子部品としても半導電性ベルトとしても問題なく使用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトンと、ポリエーテルサルホンとを含有し、樹脂成分中のポリエーテルエーテルケトンの含有量が70重量%以上である樹脂組成物を加熱してフィルム状に成形した後に急冷したため、PEEKとPESの併用系であるにもかかわらず、JIS K7127に規定する引張弾性率が1500MPa以上であり、かつJIS P8115に規定する耐折回数が2000回以上である特性を備えた耐熱性フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を基に本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明に係る耐熱性フィルムとして半導電性ベルトを製造する製造装置を示す概略図である。本実施形態では、樹脂成分としてPEEK及びPESを含有し、そこにさらに導電性フィラーであるカーボンブラックを溶融混練した樹脂組成物1をダイヘッド2から押し出す押出装置3を備えている。ダイヘッド2は、サーキューラーダイスを有しており、樹脂組成物1を筒状に押し出すようになっている。
【0024】
樹脂成分中のPEEKの配合割合は、70重量%以上であればよいが、原料コストを勘案すれば70重量%〜95重量%とし、少なくとも5重量%はPESを配合するのが好ましい。
【0025】
ダイヘッド2から押し出された樹脂組成物1は、サイジングダイス4で冷却され、形を整えた上で、その下流側に配された引取機5によって引き取られ、所定の長さにカットされて筒状のシームレスの半導電性ベルトを得ることができる。
【0026】
本実施形態において、樹脂組成物1を急冷する手段としては、サイジングダイス4を用いることができる。すなわち、PEEKを含む樹脂組成物を溶融するにはダイスヘッド2内の温度を370℃程度に加熱することが必要とされ、通常、サイジングダイス4は、150℃〜300℃に設定されるところ、本発明においては、サイジングダイス4の温度を0℃〜80℃に設定することにより、樹脂組成物を急冷することができる。
【0027】
なお、急冷手段としては、サイジングダイス4以外に、例えば、筒状に引出したPEEKの外周面に冷風を吹き付ける冷風供給手段を採用することも可能であり、また、サイジングダイス4と冷風供給手段を併用することもできる。
【0028】
半導電性ベルトを得る別の方法として、例えば、図2に示すように、上型6aと、下型6bとからなる金型6を用いることも可能である。この方法について詳述すると、先ず、PEEK、PES及びカーボンブラックを溶融混練してペレット状の樹脂組成物1を作製する。金型6の上型6aおよび下型6bの合せ面には、それぞれ凹部が形成されており、金型6を閉型したときに、金型内に一定の隙間の空間が形成されるようになっている。
【0029】
次に、上記ペレット状の樹脂組成物1を金型6内にセットし、上型6a及び下型6bを加熱しながら閉型するように加圧すると、樹脂組成物1は、金型6内でシート状に成形される。そして、金型6を閉じた状態で金型ごと樹脂組成物1を急冷することにより、耐熱性フィルムを得ることができる。そして、得られたシート状の耐熱性フィルムを筒状に成形することにより、半導電性ベルトを得ることができる。
【実施例】
【0030】
[耐熱性フィルムの作製]
(1)急冷条件の設定
上記第1実施形態の図2で説明した金型6を使用し、先ず、樹脂組成物としてPEEK(ビクトレックス社製450G)100%を使用し、このペレット状原料を、前述の金型6にセットし、370℃に加熱した状態で20MPaでプレス成形した後、金型6ごと水中に投入して急冷し、厚さ150μmのフィルムを得た。
【0031】
そして、水温を変化させたときの上記フィルムのPEEK結晶化度を測定した。なお、別の冷却方法としては、上記370℃における加熱プレス成形後に、直ちに熱盤温度50℃に設定したプレス機にて冷却プレス(20MPa)する方法を実施した。結晶化度の測定に際しては、下記式(1)を基に算出した。
【0032】
すなわち、本発明におけるPEEKの結晶化度は、試料密度から計算する密度法により算出した。具体的には、30℃の恒温槽内で試料よりも比重の大きい液体(四塩化炭素:1.60g/cm3 at30℃)と、試料より比重の小さい液体(ベンゼン:0.88g/cm3 at30℃)とを適当に混合し、試料が懸垂停止するまでいずれかの液体を加え、その混合液体の密度を試料の密度dとした。すると、下記式が成立する。
【0033】
1/d=(Xc/dc)+{(1−Xc)/da}
ここで、Xc:(重量分率)結晶化度
d :試料密度
dc:結晶領域の密度(1.382g/cm3
da:非晶領域の密度(1.265g/cm3
∴Xc=dc(d−da)/d(dc−da)×100 ・・・式(1)
【0034】
また、その他の評価試験としては、後述する引張弾性率及び耐屈曲疲労性試験を行なった。結果を表1に示す。表1より、水中で金型を冷却する方法においては、水温3℃〜70℃の範囲でいずれも結晶化度が25%以下であることが判明した。一方、冷却プレスによる冷却では、耐熱性フィルムが徐冷されることで、結果的に結晶化度は40%と高い値となった。そして、PEEKの結晶化度が25%以下のものと、結晶化度40%のものとでは、前者の方が耐屈曲疲労性(耐折回数)が大幅に向上しているのが確認された。
【0035】
【表1】

【0036】
(2)耐熱性フィルムの作製
上記金型6を使用して耐熱性フィルムを作製し、引張弾性率及び耐屈曲疲労性について評価を行なった。以下にその試験条件を記す。
【0037】
樹脂成分としてPEEK(ビクトレックス社製450P)と、PES(住友化学社製スミカエクセル4100P)とを使用し、これらを種々の割合で混合した。また、本実施例においては、樹脂成分100重量部にカーボンブラック(アセチレンブラック:電気化学工業社製「デンカブラック粒状」)を12重量部添加し、プラストミルにより溶融混練してコンパウンド状の樹脂組成物1を作製した。
【0038】
このコンパウンド状の樹脂組成物1を370℃、20MPaでプレス成形によりフィルム状に成形した後、金型6ごと水中に投入して急冷し、厚み150μmの耐熱性フィルム(半導電性フィルム)を作製した。なお、耐熱性フィルムの急冷条件としては、上記項目(1)より、3℃の水中に金型を投入して冷却することとした。以上のようにして得られた4種類の試料について下記評価試験を行なった。
【0039】
[評価試験]
(1)引張弾性率
引張弾性率は、JIS K7127に準拠して測定した。すなわち、10mm×150mmの短冊試験片を用い、試験スピード50mm/minにて測定した。
【0040】
(2)耐屈曲疲労性
耐屈曲疲労性は、JIS P8115に準拠して耐折回数を測定することにより評価を行なった。
【0041】
[評価結果]
上記評価試験結果を表2に記す。表2より、今回の急冷条件において、樹脂成分中のPEEKの含有量が70重量%以上である試料1においては、引張弾性率が2000MPa以上で、耐折回数が6000回以上と優れた耐屈曲疲労性を発揮しているのが分かる。一方、樹脂成分中のPEEKの含有量が70重量%未満である試料2および試料3については、耐折回数が急激に低下している。すなわち、耐屈曲疲労性は、PEEKの含有量に応じて徐々に低下するのではなく、急激に変化することが確認された。
【0042】
また、樹脂成分としてPEEK100%を使用したフィルムの結晶化度が25%以上になるような冷却条件にて冷却した試料4(結晶化度40%)については、樹脂成分の組成が試料1と同じであるにもかかわらず、耐折回数(耐屈曲疲労性)は全試料中で最低値を示した。これによって、耐熱性フィルムの冷却条件が耐屈曲疲労性に大きな影響を与えていることが分かる。
【0043】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る耐熱性フィルムである半導電性ベルトを製造する製造装置を示す概略図
【図2】図1とは別の製造装置を示す概略断面図
【図3】図2における金型を閉型した状態を示す概略断面図
【符号の説明】
【0045】
1 樹脂組成物
2 ダイヘッド
3 押出装置
4 サイジングダイス
5 引取機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトンと、ポリエーテルサルホンとを含有する樹脂組成物からなり、前記樹脂成分中の前記ポリエーテルエーテルケトンの含有量が70重量%以上とされ、JIS K7127に規定する引張弾性率が1500MPa以上であり、かつJIS P8115に規定する耐折回数が2000回以上であることを特徴とする耐熱性フィルム。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、導電性フィラーを含有することを特徴とする請求項1記載の耐熱性フィルム。
【請求項3】
請求項2記載の耐熱性フィルムを用いたことを特徴とする半導電性ベルト。
【請求項4】
樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトンと、ポリエーテルサルホンとを含有し、前記樹脂成分中の前記ポリエーテルエーテルケトンの含有量が70重量%以上である樹脂組成物を加熱してフィルム状に成形した後に急冷することを特徴とする耐熱性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記急冷条件が、樹脂成分としてポリエーテルエーテルケトン100重量%のものを加熱してフィルム状に成形した後に冷却したときに、密度法によるポリエーテルエーテルケトンの結晶化度が25%以下になる条件としたことを特徴とする請求項4記載の耐熱性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂組成物が、導電性フィラーを含有することを特徴とする請求項4記載の耐熱性フィルムの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−266428(P2008−266428A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109901(P2007−109901)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】