説明

耐熱性フィルム及びその製造方法

【課題】剛性、難燃性、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等の従来から有する特性は維持しつつ、耐屈曲疲労性に優れたポリエーテルエーテルケトンからなる耐熱性フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】密度法による結晶化度25%以下のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用いることを特徴とする耐熱性フィルムであって、かかる結晶化度のPEEKは加熱成形後に、急冷することにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルエーテルケトンからなる耐屈曲疲労性に優れた耐熱性フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、剛性、難燃性、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等に優れているため、フレキシブルプリント基板やICキャリヤテープなどの電子部品に利用されている。
【0003】
別の電子部品として、例えば、カラー画像形成装置には、感光体上に形成されるトナー像をいったん転写した後、さらにこの転写像を転写材に転写するのに用いられる中間転写ベルトや、感光体上に形成されるトナー像を転写材に直接転写するために用いられる転写搬送ベルトなどの半導電性ベルトが使用されている。
【0004】
これら画像形成装置に使用される半導電性ベルトは、高精度の画像を形成するために、初期弾性率等の機械的強度に優れていることが要求される。このような半導電性ベルトとして、上述のごとく、諸特性に優れたスーパーエンジニアリングプラスチックであるポリエーテルエーテルケトンを用い、これを押出成形装置によって円筒状に押し出した後、これをカットしたものが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平6−254941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリエーテルエーテルケトンは、その化学構造に起因する剛直な構造を有する結晶性樹脂であり、耐屈曲疲労性が低く、実際には半導電性ベルトやフレキシブルプリント基板として使用しづらいという問題があった。
【0006】
そこで、本願発明においては、剛性、難燃性、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等の従来から有する特性は維持しつつ、耐屈曲疲労性に優れたポリエーテルエーテルケトンからなる耐熱性フィルム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る耐熱性フィルムは、結晶化度25%以下のポリエーテルエーテルケトンからなることを特徴とするものである。
【0008】
すなわち、本発明者らは、ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKという)が結晶性樹脂であるものの、その結晶化度が耐屈曲疲労性と関係があることを見い出し、その結晶化度を制御することでPEEK製フィルムの耐屈曲疲労性を大幅に改善可能とした。なお、この耐熱性フィルムは、PEEK本来の剛性、難燃性、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等の特性は損なうことがない。
【0009】
本発明に係る耐熱性フィルムは、結晶化度25%以下のPEEKのみから構成するだけでなく、導電性フィラーを含有することにより、導電性を付与することが可能となる。特に、導電性フィラーを含有する上記耐熱性フィルムは、初期弾性率、難燃性、耐屈曲疲労性に優れるため、画像形成装置における中間転写ベルトや転写搬送ベルトなどの半導電性ベルトとして好適に使用することが可能となる。
【0010】
本発明に係る耐熱性フィルムは、PEEKからなる樹脂組成物を加熱してフィルム状に成形した後に急冷し、結晶化度を25%以下にすることで得ることができる。
【0011】
フィルム状のPEEKを急冷するには、気体状又は液体状の冷媒をPEEKに接触させたり、熱容量の大きい金属等の材質からなる冷却板をPEEKに接触させたりすることができ、これらの方法を単独で又は併用して実施することができる。
【0012】
また、上記樹脂組成物が導電性フィラーを含有するものであってもよく、この場合は、導電性を有する耐熱性フィルムを得ることが可能となる。これによって、上述のごとく、初期弾性率、難燃性、耐屈曲疲労性に優れた半導電性ベルトを得ることができる。
【0013】
本発明に係る耐熱性フィルムは、ロール間で圧延してフィルム状に成形することができるほかに、Tダイ等により押出成形することが可能である。また、半導電性ベルトを得る場合には、サーキュラーダイスを備えた押出成形装置から押し出された筒状の耐熱性フィルムをカットすることにより、シームレスベルトを得ることができる。
【0014】
本発明で使用されるPEEKに特に制限はないが、化1に示されるように、繰り返し単位にエーテル結合とカルボニル基とを有するものであればよい(ただし、式中、nは正の整数)。
【0015】
【化1】

【0016】
導電性フィラーとしては、半導電性ベルトに導電性を付与するために用い得るフィラーであれば特に限定されないが、カーボンブラック、グラファイト、鉄、銅、銅合金、ニッケル、アルミニウム等の金属若しくは合金、又は酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタン酸化錫−酸化インジウム若しくは酸化錫−酸化アンチモン複合酸化物等の金属酸化物の微粉末が例示される。これらの金属若しくは合金若しくは金属酸化物は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、安価で汎用性があることからカーボンブラックを用いるのが好ましい。
【0017】
そして、本発明における半導電性ベルトとは、上記導電性フィラーを配合することによって体積抵抗率(150μm厚)が、中間転写ベルトや、転写搬送ベルトに用いられる106Ω・cm〜1013Ω・cmの範囲に調整されたベルトを意味する。本発明に係る耐熱性フィルムは、数十μm〜数百μmの厚みのものであれば、電子部品としても半導電性ベルトとしても問題なく使用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、結晶化度25%以下のPEEKによってフィルムを構成したため、剛性、難燃性、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性等についてはPEEK本来の特性を維持しつつ、耐屈曲疲労性に優れた耐熱性フィルムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を基に本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明に係る耐熱性フィルムとして半導電性ベルトを製造する製造装置を示す概略図である。本実施形態では、樹脂成分としてPEEKを用い、これに導電性フィラーであるカーボンブラックを溶融混練した樹脂組成物1をダイヘッド2から押し出す押出装置3を備えている。ダイヘッド2は、サーキューラーダイスを有しており、樹脂組成物1を筒状に押し出すようになっている。
【0020】
ダイヘッド2から押し出された樹脂組成物1は、サイジングダイス4で冷却され、形を整えた上で、その下流側に配された引取機5によって引き取られ、所定の長さにカットされて筒状のシームレスの半導電性ベルトを得ることができる。
【0021】
本実施形態において、樹脂組成物1を急冷する手段としては、サイジングダイス4を用いることができる。すなわち、PEEKを溶融するにはダイスヘッド2内の温度を370℃程度に加熱することが必要とされ、通常、サイジングダイス4は、150℃〜300℃に設定される。ところが、本発明においては、サイジングダイス4の温度を0℃〜80℃に設定することにより、PEEKを急冷することができ、これによって結晶化度25%以下のPEEKからなる半導電性ベルトを得ることができる。
【0022】
なお、急冷手段としては、サイジングダイス4以外に、例えば、筒状に引出したPEEKの外周面に冷風を吹き付ける冷風供給手段を採用することも可能であり、また、サイジングダイス4と冷風供給手段を併用することもできる。
【0023】
半導電性ベルトを得る別の方法として、例えば、図2に示すように、上型6aと、下型6bとからなる金型6を用いることも可能である。この方法について詳述すると、先ず、PEEKと導電性フィラーであるカーボンブラックとを溶融混練してペレット状の樹脂組成物1を作製する。金型6の上型6a及び下型6bの合せ面には、それぞれ凹部が形成されており、金型6を閉型したときに、金型内に一定の隙間の空間が形成されるようになっている、
次に、上記ペレット状の樹脂組成物1を金型6内にセットし、上型6a及び下型6bを加熱しながら閉型するように加圧すると、樹脂組成物1は、金型6内でシート状に成形される。そして、金型6を閉じた状態で金型ごと樹脂組成物1を急冷することにより、結晶化度25%以下のPEEKからなる耐熱性フィルムを得ることができる。そして、得られたシート状の耐熱性フィルムを筒状に成形することにより、半導電性ベルトを得ることができる。
【実施例】
【0024】
[耐熱性フィルムの作製]
上記第1実施形態の図2で説明した金型6を使用して耐熱性フィルムを作製し、引張弾性率及び耐屈曲疲労性について評価を行った。以下にその試験条件を記す。
【0025】
耐熱性フィルムの原料としてビクトレックス社製450Gを使用し、このペレット状原料を、前述の金型6にセットし、370℃に加熱した状態で20MPaでプレス成形した後、金型6ごと水中に投入して急冷し、厚さ150μmの耐熱性フィルムを得た。本実施例においては、金型を投入する水温を変化させることによって実施例1〜3の3種類の試料を作製した。
【0026】
また、比較例としては、上記370℃における加熱プレス成形後に、直ちに熱盤温度50℃に設定したプレス機にて冷却プレス(20MPa)を行ない、これを比較例とした。上記計4種類の試料について下記評価試験を行なった。
【0027】
[評価試験]
(1)結晶化度
本発明におけるPEEKの結晶化度は、試料の樹脂密度から計算する密度法により算出した。すなわち、30℃の恒温槽内で試料よりも比重の大きい液体(四塩化炭素:1.60g/cm3 at30℃)と、試料より比重の小さい液体(ベンゼン:0.88g/cm3 at30℃)とを適当に混合し、試料が懸垂停止するまでいずれかの液体を加え、その混合液体の密度を試料の密度dとした。結晶化度は以下の式(1)によって計算した。
【0028】
1/d=(Xc/dc)+{(1−Xc)/da}
ここで、Xc:(重量分率)結晶化度
d :試料の樹脂密度
dc:上記樹脂中の結晶領域の密度(1.382g/cm3
da:上記樹脂中の非晶領域の密度(1.265g/cm3
∴Xc=dc(d−da)/d(dc−da)×100 ・・・式(1)
【0029】
なお、上記結晶化度Xcは、耐熱性フィルムがPEEKのみからなる場合の算出式であり、例えば、評価試料がPEEKにカーボンブラックが混合された半導電性ベルトの場合には、下記の手順によってPEEKの結晶化度を算出することができる。
【0030】
すなわち、導電性フィラーであるカーボンブラックの密度をA(g/cm3)とし、樹脂成分としてのPEEKにカーボンブラックを溶融混練して得られた樹脂組成物に対する導電性フィラーの重量分率をY、導電性フィラーを含有する樹脂組成物の密度をd´、樹脂成分のみの密度をdとすると、
d´=d(1−Y)+AYとなり、
d=(d´−AY)/(1−Y)となる。
【0031】
これを、式(1)に代入すると、樹脂組成物に含まれる樹脂成分PEEK中の結晶化度を算出することができる。なお、導電性フィラーの重量分率については、熱重量測定装置(TGA)等の分析機器を使用すれば、精度よく測定することが可能である。また、フィラーの種類も分析機器で検出可能であることから、フィラー密度も容易に得ることができる。ちなみに、導電性フィラーがカーボンブラックの場合、Aの値は、1.800(g/cm3)となる。
【0032】
(2)引張弾性率
引張弾性率は、JIS K7127に準拠して測定した。すなわち、10mm×150mmの短冊試験片を用い、試験スピード50mm/minにて測定した。
【0033】
(3)耐屈曲疲労性
耐屈曲疲労性は、JIS P8115に準拠して耐折回数を測定することにより評価を行なった。
【0034】
[評価結果]
上記評価試験結果を表1に記す。表1より、PEEKの結晶化度が25%以上である比較例(結晶化度40%)と、結晶化度が25%以下である実施例1〜3とでは、引張弾性率は同等レベルであるのに対して、耐屈曲疲労性については、実施例1〜3が比較例に比べて著しく向上しているのが確認された。
【0035】
なお、比較例と実施例2とでは冷却温度はともに50℃であるものの、実施例では金型ごと熱容量の大きい水の中に投入することによって一気に金型内の耐熱性フィルムを急冷することができるのに対して、比較例においては、50℃に設定した熱盤を通して徐々にしか金型が冷却されず、これにより金型内の耐熱性フィルムは徐冷されることになり、結晶化度に大きな差が生じることになった。
【0036】
急冷条件については、実施例のように金型ごと耐熱性フィルムを急冷する場合と、押出成形した耐熱性フィルムを直接冷却する場合とでは耐熱性フィルムに対する熱の伝わり方が異なるため、適宜決定すればよい。
【0037】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る耐熱性フィルムである半導電性ベルトを製造する製造装置を示す概略図
【図2】図1とは別の製造装置を示す概略断面図
【図3】図2における金型を閉型した状態を示す概略断面図
【符号の説明】
【0039】
1 樹脂組成物
2 ダイヘッド
3 押出装置
4 サイジングダイス
5 引取機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度法による結晶化度25%以下のポリエーテルエーテルケトンからなることを特徴とする耐熱性フィルム。
【請求項2】
導電性フィラーを含有することを特徴とする請求項1記載の耐熱性フィルム。
【請求項3】
請求項2記載の耐熱性フィルムを用いたことを特徴とする半導電性ベルト。
【請求項4】
ポリエーテルエーテルケトンからなる樹脂組成物を加熱してフィルム状に成形した後に急冷し、密度法による結晶化度を25%以下にすることを特徴とする耐熱性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、導電性フィラーを含有することを特徴とする請求項4記載の耐熱性フィルムの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−266429(P2008−266429A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−109902(P2007−109902)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】