説明

耐爆性容器

【課題】爆発衝撃や爆風(特に水素・酸素爆発)から収容されたものを保護することを目的とする。
【解決手段】爆発性物を収容する耐爆性容器であって、上面部、底面部および側面部で構成され、前記上面部、底面部および側面部の少なくとも一部がポリマーフォームである爆発緩衝材で覆われている耐爆性容器であり、特に水素・酸素爆発による、爆発衝撃や爆風にから収納されたものを保護し、長期の信頼性・耐久性を有する爆発緩衝用容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爆発の危険性を持った固体および気体を一時的または長期的に保存する容器に関する。特に、爆発が生じた際に、爆発威力を減少させ、爆発による被害を最小化させるための部品であり、より詳しくは部品材料の物性を最適化に関する。
【背景技術】
【0002】
外部からの引火だけでなく、化学反応により爆発する危険性をもった固体および気体を一時的または長期的に保存する容器は、爆発時に発生する威力に対応した容器強度を維持するために重量および体積を要することを考慮することが重要な航空機内(貨物室及び乗客キャビン内)等で、火薬及び爆発物(爆弾及び手榴弾など)の収納及び輸送装置として有用である。また、水素ガスなどの爆発性のガスの貯蔵・供給・使用のための設備に対して、爆発の脅威を最小限にするために有用である。
【0003】
従来技術として、これまでに、爆発衝撃や爆風から収納されたものを保護するための爆発緩衝用の容器および包囲装置に関して、容器及び包囲装置を爆発衝撃および爆風から保護するために、衝撃減衰式爆風緩衝材を容器の少なくとも一部に組み入れたり、包囲装置の衝撃減衰式爆風緩衝材に包み込むことなどが提案されている(例えば、特許文献1)。また、爆発物を収容する耐爆風コンテナアセンブリとして、爆発緩衝材を用いることなどが提案されている(例えば、特許文献2)。さらに、爆発物を収容し、爆発の際には損傷を防止し最小限にする耐爆発および耐爆風容器も提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−528928号公報
【特許文献2】特許第4502409号公報
【特許文献3】特開平11−512687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、特許文献2および特許文献3の技術を用いることにより、爆発緩衝用の挿入材料として粉末状のパーライトと珪酸とを用い、爆発が生じた際に、爆発威力を減少させることが可能となったが、長期の信頼性・耐久性がないという課題が生じた。また、爆発物を収容する耐爆風用コンテナは、その厳重な構造により、空間および空間の制約を受けて使用できない場合が生じていることがわかった。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためのものであって、爆発(特に水素・酸素爆発)による爆発衝撃や爆風から収納されたものを保護するものとして、長期の信頼性・耐久性を大幅に改善しつつ爆発からの保護特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、爆発性物を収容する耐爆性容器であって、上面部、底面部および側面部で構成され、前記上面部、底面部および側面部の少なくとも一部がポリマーフォームである爆発緩衝材で覆われている耐爆性容器である。
【0008】
さらに好ましくは、前記ポリマーフォームがエチレンを含み、例えば、エチレン−プロピレン−ジエンゴムや、エチレン−プロピレン−ゴムである耐爆性容器である。
【0009】
さらにいずれかの 前記ポリマーフォームが閉空孔を持つ。
【0010】
さらに好ましくは、前記閉空孔が球状であり、その大きさが直径200μm以上、400μm以下であり、隔壁の厚さが1μm以上、8μm以下である。
【0011】
さらに、前記ポリマーフォームの体積が対爆発ガス量(空間体積)との比で3.2%以上である。
【0012】
前記爆発緩衝材の耐爆発容器に接する接触面積は、容器壁面の面積との比で、4.5%以上である。
【0013】
さらに前記爆発緩衝材は、粘弾性特性を有する材料であって、加える力の周波数が、10(Hz)から1015(Hz)の領域で、貯蔵弾性率が、5×10以上、1×10以下である。
【0014】
前記爆発緩衝材は、粘弾性特性を有する材料であって、加える力の周波数が、10(Hz)から1015(Hz)の領域で、E’(弾性成分)とE’’(粘性成分)の比(E’’/E’)=tanδが、0.2以上、0.75以下である。
【0015】
前記爆発緩衝材は積層材であり、好ましくは、エチレン−プロピレン−ジエンゴムや、エチレン−プロピレン−ゴムとα―ゲルとで構成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の爆発性の物、ガスおよびガスを発生する物を収容するための耐爆性容器の材料であって、上面部、下面部及び側面部から成り、上面部,下面部,及び側面部の少なくとも一つが爆発緩衝材で完全に又は部分的に裏打ちされていることから成る耐爆発容器により、爆発、特に水素・酸素爆発による、爆発衝撃や爆風から収納されたものを保護するものとして、長期の信頼性・耐久性を大幅に改善しつつ爆発からの保護特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来技術における圧力の時間変化を示す図
【図2】本発明の一実施例における圧力の時間変化を示す図
【図3】粘弾性測定の装置構成図
【図4】本発明の一実施例の粘弾性測定データ(貯蔵弾性率−周波数)を示す図
【図5】本発明の一実施例の粘弾性測定データ(E’(弾性成分)とE’’(粘性成分)の比(E’’/E’)=tanδ―周波数)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい爆発の危険性を持った固体および気体を一時的あるいはまたは長期に保存する容器に付帯する部品は、前記容器の上面部、下面部及び側面部から成り、上面部、下面部及び側面部の少なくとも一つを完全に又は部分的に裏打ちしている材料の厚さが、裏打ちされる面に対して垂直な方向の長さを厚さ(C)とすると、厚さ(C)が5mm以上である。
【0019】
前記爆発緩衝材がポリマーフォームであり、エチレンを含み、好ましくは、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM、EPT)である。エチレンを含むポリマーフォームとして好ましい材料として、この限りではない、例えば、エチレン−プロピレン−ゴム(EP)である。
【0020】
前記EPDMは、閉空孔を持ち、好ましくはこの閉空間は、球状である。閉空孔の大きさは、直径200μm以上400μm以下であり、より好ましくは300μm以下である。閉空孔隔壁の厚さが、 1μm以上8μm以下であり、より好ましくは6μm以下である。
【0021】
ポリマーフォームの比重が 0.05g/cc以上0.13g/cc以下であり、ポリマーフォームの体積が、対爆発ガス量(空間体積)との比で、3.2%以上である。
【0022】
爆発緩衝材の耐爆発容器に接する接触面積は、容器壁面の面積との比で、4.5%以上である。
【0023】
ポリマーフォームの弾性率は、0.02N/mm以上、0.08N/mm以下であり、より好ましくは0.04N/mm2以下である。
【0024】
爆発緩衝材は、粘弾性特性を有する材料であって、加える力の周波数が、10(Hz)から1015(Hz)の領域で、貯蔵弾性率が、5×10以上1×10以下であり、E’(弾性成分)とE’’(粘性成分)の比(E’’/E’)=tanδが、0.2以上0.75以下であり、好ましくは、0.2から0.7である。
【0025】
爆発緩衝材は、積層材であり、好ましくはエチレン−プロピレン−ジエンゴムや、エチレン−プロピレン−ゴムとα―ゲルとで構成される
以下、本発明を実施するための形態について、図を用いて説明する。なお、以下に本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、この実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0026】
(耐圧冶具による水素・酸素爆発実験)
爆発の破壊威力の解析と抑制技術の開発のために、水素・酸素爆発を利用した基礎検討を実施した。基本反応式
+ 1/2O =HO + 68.3kcal
において生成されるエネルギーにおいても、耐破壊強度を有した耐圧冶具を作製した。
【0027】
耐圧冶具は、装置内部で生じた爆発威力を計測するために、圧力センサーを装備した。爆発の引火のために着火部を装備した。着火は、半田線に過電流を流し、熱断線することによりスパークを発生させる。端子間の電圧変動により、着火のトリガー出力を計測システムに導入した。
【0028】
実際の実験手順は、以下の通り
(1)耐圧冶具を水没させる。
(2)水素ガスおよび酸素ガスを体積比率で所望の値に水中置換する。
(3)圧力センサー端子と計測システムを結線する。
(4)着火部へ通電し、溶断による発火と電圧変動トリガー信号を受けて、計測をスタートさせる。
【0029】
(水素・酸素爆発威力の計測)
水素・酸素爆発の圧力の時間変化データがある。図1に従来の典型的な圧力の時間変化データを示す。
【0030】
爆発威力の定量化について、前記圧力センサーの測定信号を用いて、その時間積分を爆
発威力と関連づけた。圧力の時間積分は、力学的用語の「力積」に対応する。力積は、運動量の変化分と対応することから、発生した爆発威力に対して、比例関係にある。
【0031】
(実施例1〜実施例9、比較例1および比較例2)
耐圧冶具は、金属性の筺体であり、内体積は750mLである。圧力センサーは、壁面に埋め込む形式で設置する。センサー表面は、シリコングリースにより、熱的および物理的に隔離されており、圧迫による圧力を計測できるようにしている。今回、爆発による破壊エネルギー抑制のために、緩衝材を検討した。緩衝材は、圧力センサーと内空間との間に設置し、緩衝材の有無による、圧力計測の挙動を調べた。緩衝材の大きさを50mm×50mm×20mmの立方体とし、50mm×50mmの面に対して、圧力センサー前に設置した。この緩衝材の大きさは、対爆発ガス量(空間体積)との比で、6.6%であり、爆発緩衝材の耐爆発容器に接する接触面積は、容器壁面の面積との比で、4.5%である。各種緩衝材について、前記実験手順通りに、実験を実施した。緩衝材のある場合の典型的な例として、実施例8に関して、圧力の時間変化を図2に示す。緩衝材の存在により、圧力の変動が変化した。各種緩衝材について、圧力積分値を計算した結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
緩衝材なしの場合(比較例3)と比較する。実施例1〜実施例7は、いずれもポリマーフォームであることを特徴とする。一方、比較例1および比較例2のような材料を緩衝材として用いると、圧力積分値が緩衝材なしの場合よりも大きくなった。これは、爆発威力が、耐圧冶具内で、干渉・増幅された可能性を示唆している。更に、実施例1〜実施例7の材料は、材料内部の空間が開空間であることを特徴としている。実施例8および実施例9は、材料内部の空間が一部あるいは全部が閉空間である。圧力積分値の値がより低い方が爆発威力が低減されていると解釈すると、実施例1〜実施例7よりも実施例8および実施例9の方が、緩衝材としてより好ましいことが分かる。
【0034】
実施例8および実施例9の緩衝材内部のある閉空孔は、球状であり、その大きさが直径
200μm以上、400μm以下である。
【0035】
さらに、閉空孔の隔壁の厚さが1μm以上、8μm以下である。
【0036】
また、実施例8および実施例9の緩衝材ポリマーフォームの弾性率が0.02N/mm以上、0.08N/mm以下である。
【0037】
また、緩衝材と大きさについて、対爆発ガス量(空間体積)との比で、3.2%以上であれば、十分に圧力積分値が低減できることを確認した。
【0038】
さらに、爆発緩衝材の耐爆発容器に接する接触面積は、容器壁面の面積との比で、4.5%以上であれば、より好ましいことを確認した。
【0039】
緩衝材が、より効率良く加わるエネルギーを熱的エネルギーに変換し、消費できるかの評価として、粘弾性測定を実施した。測定装置は、セイコーアイテクノロジ―(株)の粘弾性スペクトロメータ(EXSTAR DMS6100)である。粘弾性測定は、振動荷重(または歪)に対する試料の力学的な性質を温度の関数として測定する技法である。測定装置の構成図を図3に示す。
【0040】
試料は、測定ヘッドにクランプされ、ヒーターにより加熱されるとともに、荷重発生部からプローブを介して試料に応力が与えられる。この応力は、測定条件の一つとして設定された周波数による正弦波力として、試料の歪振幅が一定となるように与えられる。この正弦波力により生じた試料の変形量(歪)は、変位検出部により検出され、試料に与えた応力と検出した歪から、貯蔵弾性率:E’、G’、損失弾性率:E”、G”、損失正接:tanδ(=E”/E’)等の温度依存性や周波数依存性を測定することができる。同じ位置エネルギーの高さから落としたときに、弾むボールと弾まないボールがあったとする。それは、E‘(弾性成分)とE“(粘性成分)とが異なることにより生じると考えて、そのE’とE”との比(tanδ)を測定する。その結果、材料の粘弾性が評価できる。例えば、粘弾性特性として、tanδが大きくなる結果は、粘性成分が大きいことを示す。すなわち、その材料に加わるエネルギーは、熱的に消費される成分が多くなると関連づけることができる。
【0041】
PPとEPT、さらにαゲルについて粘弾性特性を測定した結果を図4に示す。各種緩衝材は、異なる粘弾性特性を有していることが分かる。水素・酸素爆発により緩衝材を介した圧力測定結果は、振動していることが分かった。この振動に対してフーリエ変換による周波数解析を実施すると、10Hz〜10Hzの高周波の成分が含まれていることが分かった。図15のデータに関して、さらに周波数依存性を測定し、マスターカーブの変換により、加わる力の周波数に対する粘弾性特性データを得た(小野木重治 訳 「高分子と複合材料の力学的性質」 化学同人(1976))。結果を図5に示す。水素・酸素爆発で生成される高周波の力に対して、EPTの粘性成分が顕著に大きくなっていることがわかる。これは、EPTが、水素・酸素爆発に対して、他の材料よりも効率良くエネルギーを力学的エネルギーから熱的エネルギーに変換し、消費する効果があることを示している。
【0042】
(実施例10)
EPTの厚さ10mmとαゲルの厚さ2.5mmを積層して設置した以外は実施例1と同様にして作製し、実施例10とした。
【0043】
(実施例11)
EPTの厚さ10mmとαゲルの厚さ2.5mm、更にEPTの厚さ10mmを積層し
て設置した以外は実施例1と同様にして作製し、実施例11とした。
【0044】
(実施例12)
EPTの厚さ5mmとαゲルの厚さ2.5mm、更にEPTの厚さ2.5mmを積層して設置した以外は実施例1と同様にして作製し、実施例12とした。
【0045】
(実施例13)
EPTの厚さ2.5mmとαゲルの厚さ2.5mm、更にEPTの厚さ5mmを積層して設置した以外は実施例1と同様にして作製し、実施例13とした。
【0046】
各実施例について、圧力積分値を計算した結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2の結果から、EPTの厚さ20mm(実施例8)と比較して、同程度の圧力積分値の低下の効果が得られた。トータルの体積比率(厚み)では、積層することにより、緩衝材をより少なくすることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明を活用することにより、特に、外部からの引火だけでなく、化学反応により爆発する危険性をもった固体および気体を一時的あるいはまたは長期に保存する容器は、爆発時に発生する威力に対応した容器強度を維持するために、重量および体積を要することを考慮することが重要な航空機内、及びより特に航空機の貨物室及び乗客キャビン内で、火薬及び爆発物、例えば、爆弾及び手榴弾などの危険物の収納及び輸送装置として有用であり、また、水素ガスなどの爆発性のガスの貯蔵・供給・使用のための設備に対して、爆発の脅威を最小限にするために有用である。更に、筺体内部に多量の水素ガスを保有する、自動車用蓄電池として利用されている鉛蓄電池などにおいても、非正常使用の際に、発生する可能性のある水素・酸素爆発による筺体破壊と飛散防止に有用である。このような産業分野において多大な効果をもたらすことが期待できる。
【符号の説明】
【0050】
1 荷重発生部
2 変位検出部
3 プローブ
4 ヒ―タ
5 試料
6 温度測定センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
爆発性物を収容する耐爆性容器であって、
上面部、底面部および側面部で構成され、前記上面部、底面部および側面部の少なくとも一部がポリマーフォームである爆発緩衝材で覆われている耐爆性容器。
【請求項2】
前記ポリマーフォームがエチレンを含むことを特徴とする請求項1に記載の耐爆性容器。
【請求項3】
前記ポリマーフォームがエチレン−プロピレン−ジエンゴムであることを特徴とする請求項1に記載の耐爆性容器。
【請求項4】
前記ポリマーフォームがエチレン−プロピレン−ゴムであることを特徴とする請求項1に記載の耐爆性容器。
【請求項5】
前記ポリマーフォームが閉空孔を持つことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の耐爆性容器。
【請求項6】
前記爆発緩衝材は、粘弾性特性を有する材料であって、加える力の周波数が、10(Hz)から1015(Hz)の領域で、貯蔵弾性率が、5×10以上、1×10以下であることを特徴とする請求項1に記載の耐爆性容器。
【請求項7】
前記爆発緩衝材は、粘弾性特性を有する材料であって、加える力の周波数が、10(Hz)から1015(Hz)の領域で、E‘(弾性成分)とE“(粘性成分)の比(E“/E‘)=tanδが、0.2以上、0.75以下であることを特徴とする請求項1に記載の耐爆性容器。
【請求項8】
前記爆発緩衝材が積層材であることを特徴とする請求項1記載の耐爆性容器。
【請求項9】
前記積層材がエチレン−プロピレン−ジエンゴムや、エチレン−プロピレン−ゴムとα―ゲルとで構成されることを特徴とする請求項1記載の耐爆性容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113477(P2013−113477A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258963(P2011−258963)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】