説明

耐生物膜形成性を備えた蒸発冷却器用の充填物成分

【課題】耐生体膜形成性を備えた蒸発冷却器用の充填材成分を提供すること。
【解決手段】開示されるのは蒸発冷却器用のポリ塩化ビニル充填材料であって、該充填材料は、該充填材料に配合された、生体膜形成を防止するのに有効量の、金属含有ゼオライト及び被担持金属からなる群から選ばれた1種以上の抗菌剤を有し、該金属含有ゼオライトの金属は銀、銅、亜鉛、水銀、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム又はこれら金属の2種以上のの組合せであり、そして該担持金属において金属は銀、銀化合物、銀錯体又は銀と銅、亜鉛若しくはジルコニウムとの組合わせであり、そして担持体はSiO2、TiO2又はガラスである、充填材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2006年10月19日に米国において出願された第60/852,826号特許仮出願の便益を請求するものであって、該仮出願の内容は参照により本明細書に組込まれる。
【0002】
本発明は蒸発冷却器、例えば水冷却塔、用のプラスチックポリ塩化ビニル充填物に関する。ポリ塩化ビニル充填物は極めて優れた耐生物膜形成性を示す。
【背景技術】
【0003】
種々様々の産業で熱伝導過程用の冷却液として水が使用される。有意量の冷却水が発電所及び製造業のいずれにも毎年使用される。典型的な水冷熱伝導過程はコンデンサ又はチラーを含む。一般的に、使用済みの水は熱伝導過程の経済的影響及び環境的影響を減らすために再利用される。この再利用には、通例冷却塔などによって使用済みの水を元の周囲温度又はそれよりわずかに下回る温度まで冷やすことが必要とされる。一般的に冷却塔は、開放式の塔へ使用済みの水を滝のように落とすことによって、使用済みの水が周囲空気へ熱を逃すことを可能とする。
【0004】
冷却塔に使用される充填材料は、それらを通過して流れるガス及び液体が接触するために可能な限り大きな表面積を提示するように配置された、適する不活性物質からなる。前記充填材料は、例えば、支持された不規則な又は規則的な形の断片の集合体で、容積率に対して大きな表面積を提供するものであって、その上及び間を通って、ガス及び液体が対流して流されるものである。充填物は、お互い間隔をあけて重ねあわせて配置された多くの硬い格子状構造の形態をとり得、該配置は、前記塔を通過して上方へ流れる気体との最大の接触が確立される様に、及び、最適な冷却が達成される様に、前記塔を通過して自由落下する水液体を分割し、及び分配させるために設計されている。
【0005】
充填物は、例えば金属、木又はポリ塩化ビニルの様なプラスチックからなる。
【0006】
充填物表面は微生物汚染によって汚れやすい。特に、該表面は生物膜形成として知られている種類の汚れをうけやすい。「生物膜」とは、例えば細菌、古細菌、真菌類、かび、藻または原生動物のような微生物(mocroorgainisms)の粘着性群落を意味する。
【0007】
蒸発冷却器充填物表面の生物膜形成は熱交換性能の低下又は該表面の腐食を生じ得る。生物膜形成はまた無機物が容易に沈着し得る粘着性の表面を提供する。
【0008】
依然として、耐生物膜形成性であるポリ塩化ビニル充填材料の必要性が残る。
【0009】
水冷却塔用の充填物は、例えば米国特許第4,762,650号明細書に開示されている。
【0010】
冷却塔用の充填物、又は接触充填物もまた米国特許第4,105,724号明細書に開示されている。
【0011】
米国特許第4,361,426号明細書は冷却塔用の充填物、又は充填物、を教示している。充填物は高表面積を有している。
【0012】
米国特許第6,071,542号明細書、米国特許第4,938,955号明細書、米国特許第4,775,585号明細書、米国特許第4,911,899号明細書及び米国特許第4,911,898号明細書は抗菌性金属含有ゼオライトを含有する樹脂を目的としている。
【0013】
米国特許第6,585,989号明細書はゼオライト含有の及び二酸化ケイ素、二酸化チタン又はガラスに担持された金属を教示している。
【0014】
米国特許出願公開第2004/0082492号明細書は気体加湿器、気体清浄器又は排気清浄器中の殺生物剤含有プラスチック内部要素を目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第4,762,650号明細書
【特許文献2】米国特許第4,105,724号明細書
【特許文献3】米国特許第4,361,426号明細書
【特許文献4】米国特許第6,071,542号明細書
【特許文献5】米国特許第4,938,955号明細書
【特許文献6】米国特許第4,775,585号明細書
【特許文献7】米国特許第4,911,899号明細書
【特許文献8】米国特許第4,911,898号明細書
【特許文献9】米国特許第6,585,989号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2004/0082492号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
抗菌性金属含有ゼオライトあるいは被担持銀化合物を配合するポリ塩化ビニル充填材が、殊に生物膜形成に対して抵抗性であることが見いだされた。前記ポリ塩化ビニル充填物は長期にわたって良好な外観及び良好な熱交換性能を示す。
【0017】
開示されるものは、蒸発冷却器用のポリ塩化ビニル充填材料であって、
該充填材料は該充填材料に配合された、生物膜形成を防止するのに有効な量の、金属含有ゼオライト及び被担持金属からなる群より選択された1種以上の抗菌剤を有し、
該金属含有ゼオライトにおいて金属は、銀、銅、亜鉛、水銀、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム又はこれら金属の2種以上の組合せであり、そして
該被担持金属において金属は、銀、銀化合物、銀錯体、又は銀と銅、亜鉛、又はジルコニウムとの組合せであり、そして
担持体はSiO2、TiO2又はガラスである、充填材料である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
蒸発冷却器は、例えば冷却剤として水などの液体を利用して空気などのガスを冷却するために、又は冷却剤としてガスを利用して液体を冷却するために、及び/又はガスを加湿するために使用され得る。含まれるものは、水冷却塔、排気清浄器、燃焼排ガス清浄器又は加工ガスの加湿器である。本発明に記載の各々のシステムはポリ塩化ビニル充填物を使用する。
【0019】
この様な冷却器は例えば、米国特許第4,762,650号明細書、米国特許第4,297,224号明細書、米国特許第4,361,426号明細書、米国特許第6,649,065号明細書及び米国特許出願公開第2004/0082492号明細書に開示され
ていて、これらの文献の開示内容は参照によって本明細書に組込まれる。本発明の冷却器は特に水冷却塔である。引用技術の水冷却塔が異なる充填材料、例えば木又は金属を使用する場合、本発明はポリ塩化ビニルで置き換える。
【0020】
ポリ塩化ビニル充填材料は、充填物(fill)としても知られているが、例えば、米国特許第4,105,724号明細書、米国特許第4,361,426号明細書及び米国特許第4,311,593号明細書に開示されており、これら文献の開示内容は参照によって本明細書に組込まれる。前記ポリ塩化ビニル(PVC)充填物は塊又は束、例えば自立モジュールに組立てられた波形PVC、の形態にあり得る。前記PVC充填物は気泡材料でもありえる。前記PVC充填物は生物膜が生じる可能性がある大きな表面積を有する。
【0021】
生物膜は、微生物が表面に付着し、そしてそれらを取囲む水和したポリマーマトリックスを分泌する場合に起こる種類の汚れである。生物膜内の微生物は、それらを抗菌剤から隔離する保護された環境内で成長する。生物膜は低級植物、例えば藻、細菌又は真菌から形成され得る。生物膜は蒸発冷却器内のPVC充填材料を損傷し得る。冷却水システムは、生物有機体の培養及び成長のために優れた場所であり、その理由として、該システムは空気からシステム中に引き寄せられた栄養物及び自然に水中に存在する有機材料からの栄養物が含まれるからである。さらにその上、水温が、理想的な培養環境であることを示すのに十分なほど暖かい。
【0022】
生物膜形成は水及び空気の流れ、油付着、鉱物沈着、ならびに/又は微生物付着の問題を引き起こし得る。
【0023】
生物膜に起因する損傷は米国特許4,279,224に開示されているように測定し得る。例えば、外観、微生物数、顕微鏡分析又は熱伝達によって測定し得る。冷却塔又は熱交換機の全域にわたる熱伝達、又は温度格差は、熱伝達の顕著な減少が観察される場合に付着物問題の存在をすばやく明示する。
【0024】
前記金属含有ゼオライトは、例えば米国特許第6,585,989号明細書、米国特許第6,071,542号明細書、米国特許第4,911,899号明細書、米国特許第4,775,585号明細書、米国特許第4,938,955号明細書及び米国特許第4,911,898号明細書に開示されており、これら文献の開示内容は参照により本明細書に組込まれる。
【0025】
ゼオライトは一般的に三次元状に成長した骨格構造を有するアルミノケイ酸塩であり、及び一般的に、Al23を主成分として書かれたxM2/nO・Al23・ySiO2・zH2Oで表され、式中のMはイオン交換可能な金属イオンを表し、該金属イオンは通常一価
又は二価の金属のイオンであり、nは金属の価数に対応し、xは金属酸化物の係数を表し、yはシリカの係数を表し、及びzは結晶水の数を表すものである。本発明のゼオライトは少なくとも150m2/gの比表面積を有する。
【0026】
金属含有ゼオライトに使用される抗菌剤金属は銀、銅、亜鉛、水銀、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム又はそれら金属の2種以上の組合せを含む。銀、銅、亜鉛及びジルコニウム又はそれらの組合せが好ましい。殊に好ましい金属は銀単体又は銀と銅、亜鉛若しくはジルコニウムとの組合せである。
【0027】
本願の金属含有ゼオライトは米国特許第6,071,542号明細書に記載の表面改質金属含有ゼオライトを含む。
【0028】
前記被担持金属はSiO2、TiO2又はガラス上に担持されている。この場合の金属は銀、銀化合物、銀錯体、又は銀と銅、亜鉛若しくはジルコニウムとの組合せである。銀化合物又は銀錯体に含まれるのはコロイド状銀、硝酸銀、硫酸銀及び塩化銀である。
【0029】
好ましい担持体はガラスである。
【0030】
本願の金属含有ゼオライト又は被担持金属の抗菌剤はPVC中に、PVCの質量に基づいて、約0.01質量%ないし約10質量%水準で存在する。実例として、本願の抗菌剤はPVCの質量に基づいて、約0.05質量%ないし約5質量%、又は約0.1質量%ないし約3質量%存在する。
【0031】
本願の金属含有ゼオライト又は被担持金属の抗菌剤はPVC充填物に、例えば溶融混合により、例えば最終品に形成されるより前に、配合される。前記抗菌性添加剤は、例えば溶融押出の間にPVCに配合される。
【0032】
前記抗菌剤は、粉末の形態でPVCと乾式混合され得るか、又は溶液若しくは懸濁液の形態で湿式混合し得る。前記抗菌剤は成型前若しくは成型後のPVC中に配合され得るか、又は、溶解若しくは分散した混合物をプラスチック材料へ適用することにより、その後の溶剤の蒸発を伴うか伴わずに、配合し得る。前記抗菌剤は、例えば約2質量%ないし約70質量%の濃度でこの添加剤を含むマスターバッチの形態でPVCに添加し得る。そのような場合、ポリマーは粉末、顆粒、溶液、懸濁液の形態又は格子の形態で使用され得る。前記抗菌剤は重合の前、間又は後に添加され得る。
【0033】
以下の実施例で本発明を説明する。
【実施例】
【0034】
実施例1、製油所冷却塔
冷却塔内容積:590,500リットル(156,000ガロン)、循環速度:15,142リットル/分(4,000gpm)、呼び冷却容量:12,700,000Kcal/時(4,200トン)、排出量:102リットル/分(27gpm)。
【0035】
この塔はPVC充填物を含んだ。充填物は本願の金属含有ゼオライト又は本願の被担持金属を含んだ。長期間の実施後、PVC充填物は視覚的に清浄で及び生物膜形成はなかった。
【0036】
実施例2、充填冷却塔
二つの充填冷却塔を、以下のシステムを用意するために並列につなげた。内容積:37,800リットル(10,000ガロン)、循環速度:7,600リットル/分(2,000gpm)、呼び冷却容積:2,420,000Kcal/時(800トン)、排出量:344リットル/分(91gpm)。
【0037】
本発明の抗菌性添加剤を有さない充填物は生物膜でひどく汚れた。前記塔の効率は著しく影響され、充填物の交換を必要とした。前記PVC充填物が本願の金属含有ゼオライト又は本願の被担持金属添加剤を含む場合、充填物は生物膜形成がないままであった。
【0038】
実施例3、PVC充填物
標準的なPVC充填物を準備した。対照試料は抗菌性添加剤を含んでいなかった。試験試料は1質量%のガラスに担持された銀及びゼオライトに担持された亜鉛の混合物を含んだ。前記抗菌剤混合物を前記PVCに溶融混合した。
【0039】
充填物の対照試料及び試験試料は標準的な水冷塔に隣合って配置した。毎月、充填材料の質量の増加を測定した。12ヵ月後、対照試料は20%質量が増加した。試験試料は12ヶ月後でも質量の増加は示さなかった。
【0040】
実施例4、抗菌効果
PVC試料を準備した。対照試料は抗菌性添加剤を含まなかった。試験試料はガラスに担持させた銀及びゼオライトに担持させた亜鉛の混合物を1質量%含んだ。前記抗菌剤混合物をPVCと溶融混合させた。
【0041】
試料をメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)で処理し、及びJISZ2801に従って試験をした。
【0042】
試料をレジオネラ(leigonella)ニューモフィラで処理し、及び同様にJISZ2801に従って試験をした。
【0043】
試料に細菌を植菌して、フィルムで覆い、そして35℃で24時間保持した。細菌の生存している細胞の数を数えた。抗菌活性はR=logB/Cに従って計算し、式中、Rは抗菌活性を表し、Bは24時間培養後の対照試料の細菌数の平均値を表し、及びCは24時間培養後の試験試料の細胞数の平均値を表す。
【0044】
結果を下に示す。2.0よりも大きい抗菌活性Rは効果があると判断される。
【0045】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MARS)に対する抗菌効果
【表1】

【0046】
レジオネラニューモフィラに対する抗菌効果
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発冷却器用のポリ塩化ビニル充填材料であって、
該充填材料は該充填材料に配合された、生物膜形成を防止するのに有効な量の、金属含有ゼオライト及び被担持金属からなる群より選択された1種以上の抗菌剤を有し、
該金属含有ゼオライトの金属は、銀、銅、亜鉛、水銀、錫、鉛、ビスマス、カドミウム、クロム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム又はこれら金属の2種以上の組合せであり、そして
該被担持金属において金属は、銀、銀化合物、銀錯体、又は銀と銅、亜鉛、又はジルコニウムとの組合せであり、そして
担持体はSiO2、TiO2又はガラスである、充填材料。
【請求項2】
前記抗菌剤がポリ塩化ビニルの質量に基づいて、約0.05質量%ないし約5質量%存在する請求項1に記載のポリ塩化ビニル充填材料。
【請求項3】
前記抗菌剤がポリ塩化ビニルの質量に基づいて、約0.1質量%ないし約3質量%存在する請求項1に記載のポリ塩化ビニル充填材料。
【請求項4】
前記抗菌剤が金属含有ゼオライトからなる群から選ばれる請求項1に記載のポリ塩化ビニル充填材料。
【請求項5】
前記金属が銀、銅、亜鉛、ジルコニウム又はそれらの組合せである請求項4に記載のポリ塩化ビニル充填材料。
【請求項6】
前記金属が銀であるか、又は銀と銅、亜鉛、若しくはジルコニウムとの組合せである請求項4に記載のポリ塩化ビニル充填材料。
【請求項7】
前記抗菌剤が被担持金属からなる群から選ばれる請求項1に記載のポリ塩化ビニル充填材料。
【請求項8】
前記金属が銀であるか、又は銀と銅、亜鉛若しくはジルコニウムとの組合せである請求項1に記載のポリ塩化ビニル充填材料。
【請求項9】
担持体がガラスである請求項7に記載のポリ塩化ビニル充填材料。


【公表番号】特表2010−506877(P2010−506877A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532772(P2009−532772)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060755
【国際公開番号】WO2008/046771
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(396023948)チバ ホールディング インコーポレーテッド (530)
【氏名又は名称原語表記】Ciba Holding Inc.
【Fターム(参考)】