説明

耐糸錆性に優れたリン酸亜鉛化成下地処理用アルミニウム合金

【目的】 自動車、電車等のボディシート材、家電製品のケース類等の塗装製品に使用されるリン酸亜鉛化成下地処理用アルミ合金に発生する糸錆を防止したアルミニウム合金。
【構成】 重量%でMg0.5〜1.5%、Si0.5〜1.2%、Mn0.08〜1.5%、Fe0.05〜0.5%、Zr0.001〜0.3%を含み残部が実質的にAlからなる耐糸錆性に優れたリン酸亜鉛化成下地処理用アルミニウム合金。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は塗装用アルミニウム合金に係り、自動車ボディシート材等に使用される材料に関し、リン酸亜鉛合金化成下地処理を施することによって、厳しい腐食環境下においても、極めて優れた耐糸錆性を有する塗装用アルミニウム合金に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】自動車、電車等の車輛及び家電製品のケース類等の用途に使用される成形加工によって製造されるアルミニウム製品は、装飾性を向上させるため、成形加工後、所定の前処理としてリン酸亜鉛系化成処理等の表面処理を施したのち、焼付塗装を行うのが一般的である。このように焼付塗装を行った製品は、厳しい腐食環境下では、外傷や塗料のピンホール、多孔質な塗膜等を通じて浸入する水分や腐食促進成分により、素材であるアルミあるいはアルミ合金と塗装膜の界面において、いわゆる糸錆腐食を発生する。この糸錆腐食は、外観的にも好ましくなく、製品価値を著しく損なう。この糸錆腐食の発生は、素材の種類、塗装前の素材の下地処理方法、塗装の種類等に影響されるため、塗料の改良、塗装法の改善等塗装技術の向上、あるいは素材であるアルミの化学成分、組成、製造工程による改良等によって糸錆腐食の防止が図られているものの、充分な解決に至っていないのが現状である。ところで、従来、これらの焼付塗装用に用いられているアルミニウム合金としては、自動車パネル用では2036(Al−Cu系)、6009、6010(Al−Mg−Si系)、5182(Al−Mg系)などがあり、耐糸錆性用としては5182、6010などが比較的優れていると云われている。しかしながら上記のアルミニウム合金は、リン酸亜鉛化成処理において化成皮膜が付き難いため糸錆の発生を防止できない問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題について検討の結果、リン酸亜鉛系化成下地処理に適し、高品質の塗装用アルミ素材として、厳しい腐食環境においても優れた耐糸錆性を発揮し得るアルミニウム合金を開発したものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】前記の目的を達成し得る塗装面の耐糸錆性に優れたアルミニウム合金を開発するため、本発明者は従来のアルミニウム材料の耐糸錆性を改善するため、リン酸亜鉛系化成下地処理に適した材料として、アルミニウムの化学成分を種々調整した結果、ここに優れた耐糸錆性能を有し、自動車、電車等の車輛、家電製品のケース類等に使用できるアルミニウム合金を見出したものである。すなわち、本発明は重量%でMg0.5〜1.5%、Si0.5〜1.2%、Mn0.08〜1.5%、Fe0.05〜0.5%、Zr0.001〜0.3%を含み、残部が実質的にAlからなる耐糸錆性に優れたリン酸亜鉛化成下地処理用アルミニウム合金を要旨とするものである。
【0005】
【作用】本発明における化学成分の限定理由は以下の通りである。主添加元素であるMg、Mn、Si量については、成形加工性材料としての強度設計、成形性を配慮し、また、微量添加元素であるFe及びZr量については、リン酸亜鉛系化成下地処理における化成皮膜量及び化成皮膜の質の向上を図るため、含有量は最少限に抑えることを基本とし、更に、これらの添加により生じる成形加工性、強度、耐食性、耐糸錆性等の改善の為最少限の添加量により最大限の効果をあげるべく、成分範囲をせばめ最適量として調整するものである。MgはSiと共にMg2 Siの微細な析出物を室温および焼付塗装時に生じて強度を向上させるが0.5%未満では充分な機械的性能が得られず、他の添加元素量の性能設計上からMg量は0.5〜1.5%の範囲とする。Mnは強度と成形性を向上させる効果のある元素であるが、微量の添加量ではSi量と相殺するため0.08%未満では効果は小さい。またMnは局部腐食を防ぎ全面腐食性を高め、アルミ特有の糸錆の成長を抑制する効果があり、塗装面の耐糸錆性を改善する。Mnが1.5%を超えると成形性が劣化するので好ましくない。従って、Mn量は0.08〜1.5%の範囲とする。Siは強度と耐摩耗性に付与する元素であり、Mg2 Siを生じ強度を向上させると共に、Si単独でも固溶して強度を向上させる効果を有する。0.5%未満では充分な効果が得られず、また1.2%を超えると耐糸錆性が劣るようになるため好ましくない。従って、Si量は0.5〜1.2%の範囲とする。Feは強度と成形時の表面の荒れを防ぐ効果のある元素であり、0.05%未満では強度が小さい。しかし、添加量が大きくなるとむしろ耐糸錆性が劣化するので好ましくない、従ってFe量は0.05〜0.5%の範囲とする。Zrは強度と成形性、全面腐食性を向上させ、リン酸亜鉛皮膜を付き易くする効果のある元素であるが、0.001%未満ではそれらの効果が小さく、添加量が大きくなると、むしろ成形性を劣化させるため好ましくない。従って、Zr量は0.001〜0.3%の範囲とする。その他不純物元素としてCu、Cr、Ti、Zn、Beなどについては、夫々0.03%以下ならば耐糸錆性に影響を及ぼさないため含有してもよい。
【0006】
【実施例】以下に本発明の一実施例について説明する。表1に示す化学成分を有するAl合金の50mm厚の鋳塊に500℃で4時間の均質化処理を行ったのち、480〜280℃間で板厚5mmまで熱間圧延を行い、更に板厚1mmまで冷間圧延を行った。この1mm厚のアルミニウム合金板を520℃で急速加熱し、10秒間保持したのち、水中急冷したものを供試材とした。得られた供試材についての糸錆試験は、次の要領で実施した。
■ 試験片の作製70×150mmの試験片→脱脂→表面調整→リン酸亜鉛処理→カチオン電着塗装(170℃×30分焼付)→中塗(140℃×30分)→上塗(140℃×30分)
■ 腐食試験塗装面に鋭利な刃先を使用して図1に示すようにアルミ素地に達するような縦、横各2本平行に25mm長さの直線の人工傷(1) を入れた試験片を、塩水噴霧試験(JIS Z 2371に準拠)24時間→湿潤試験(40℃、60〜85%RH)240時間の繰返し試験を合計1344時間実施した。
■ 耐糸錆性の評価図1に示すように、人工傷(1) を付けた箇所から、糸錆(2) が発生した場合、糸錆・ふくれ等の発生数により、次の基準で評価を行った。
〔耐糸錆性試験の評価基準〕
○ 糸錆、ふくれ等全くなく良好□ 〃 1〜 6点発生△ 〃 7〜20 〃× 〃 20点を超える、又は最大糸錆長さ20mm以上
【0007】
【表1】


【0008】表1から明らかなとおり、本発明合金はいずれも優れた耐糸錆性を有する。一方、本発明範囲外の化学成分を有する比較例はいずれも耐糸錆性が劣っている。
【0009】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によればリン酸亜鉛系化成処理用として適用され耐糸錆性の優れたアルミニウム合金が得られるもので工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】糸錆試験法並びに糸錆発生状況を説明する図。
【符号の説明】
1 人工傷
2 糸錆

【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量%でMg0.5〜1.5%、Si0.5〜1.2%、Mn0.08〜1.5%、Fe0.05〜0.5%、Zr0.001〜0.3%を含み、残部が実質的にAlからなる耐糸錆性に優れたリン酸亜鉛化成下地処理用アルミニウム合金。

【図1】
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【公開番号】特開平5−9640
【公開日】平成5年(1993)1月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−185741
【出願日】平成3年(1991)6月28日
【出願人】(000165963)古河アルミニウム工業株式会社 (2)