説明

耐薬品性と低温衝撃に優れた熱可塑性樹脂からなる成形体

【課題】耐薬品性が求められる用途において耐衝撃性、剛性、および難燃性のバランスが高い樹脂組成物を成形して得られる成形体を提供すること。
【解決手段】本発明の成形体は、樹脂組成物を成形して得られる成形体であって、前記成形体における−40℃の低温ダート衝撃強度が3J以上であり、前記樹脂組成物が、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂を70〜90質量部、(B)水添ブロック共重合体を10〜30質量部含有し、さらに(A)および(B)の合計100質量部に対して(C)難燃剤を9〜30質量部含有し、前記樹脂組成物において、(B)水添ブロック共重合体が分散相粒子として存在し、該分散相粒子についての分散相粒子係数が2.0以上3.1以下であり、前記樹脂組成物の(シャルピー衝撃強度/曲げ弾性率)が8以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を成形して得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂はその易加工性で様々な用途で採用されている。熱可塑性樹脂のうち、一般に非晶性樹脂は、寸法精度に優れ、その特徴を生かし、組み立て精度等を必要とするハウジングやシャーシ部品等で多く使用される。しかしながら、非晶性樹脂構造は一方で、芳香族炭化水素等に対する耐溶剤性、すなわち耐薬品性に劣り、鉱物油にも侵されやすいという欠点を有している。
【0003】
たとえば、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂は、ガラス転移温度が高く、非晶性熱可塑性樹脂において高い耐熱性と良好な難燃特性とを有する代表的な樹脂である。また、同じく非晶性樹脂であるハイインパクトポリスチレン樹脂と相溶化させたポリフェニレンエーテル樹脂(一般にPPE/PSと記される)は、流動性と耐熱性とのバランスがよく、自動車用部材や電気・電子部材などで広く用いられている。しかしながら、このPPE/PS樹脂は非晶性樹脂であるがゆえに薬品に対する耐性が十分ではなく、薬品との接触によってクレーズやクラックが引き起され破損を招くことがある。そのため、例えばグリス、切削オイル・エンジンオイル、防錆剤、食用油、接着剤、シンナー、可塑剤、フラックスなどの薬品が付着する恐れのある自動車部品、産業用機器、キッチン周辺機器等の電気・電子部品用途では、PPE/PS樹脂の適用が避けられている。これは、非晶性樹脂であることに起因する本質的な問題である。
【0004】
こうした問題に対し、特許文献1および2では、ポリフェニレンエーテルやポリカーボネートといった非晶性樹脂に結晶構造を持つシンジオタックポリスチレンを加えることで耐薬品性を向上させる検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−158366号公報
【特許文献2】特表2008−544062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に記載の技術では、電気・電子部品で求められる難燃性や衝撃強度の向上までは至っていない。
【0007】
一方、ポリアミドやポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートに代表される結晶性樹脂は、耐薬品性に優れ、オイル、有機溶媒等の触れる用途に使用されているが、成形時の収縮が大きく、成形寸法精度が低く、そりやヒケも生じ易い欠点がある。
【0008】
これらの欠点解消のためフィラーを配合することが一般的であるが、フィラー配合量に相対して衝撃強度が低下するという課題がある。
【0009】
以上のように、高い寸法精度および耐薬品性に加え、衝撃強度も併せ持つ非晶性樹脂組成物からなる成形品の開発がさまざまな用途で期待されている。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、従来の非晶性樹脂ではこれまで得られなかった耐薬品性と衝撃強度とを併せ持つだけでなく、難燃性を維持しつつ、意匠性や省スペース化のニーズに応えるべく、剛性と耐衝撃性とのバランスをも向上させた、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含む樹脂組成物を成形して得られる成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明をなすに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下に関する。
【0013】
[1]
樹脂組成物を成形して得られる成形体であって、
前記成形体における−40℃の低温ダート衝撃強度が3J以上であり、
前記樹脂組成物が、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂を70〜90質量部、(B)水添ブロック共重合体を10〜30質量部含有し、さらに(A)および(B)の合計100質量部に対して(C)難燃剤を9〜30質量部含有し、
前記樹脂組成物において、(B)水添ブロック共重合体が分散相粒子として存在し、該分散相粒子についての下記式(i)により算出される分散相粒子係数が2.0以上3.1以下であり、
前記樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率が1.5GPa以上20GPa以下であり、
前記樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度(kJ/m2)を前記樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率(GPa)で除した値(シャルピー衝撃強度/曲げ弾性率)が8以上である、成形体;
分散相粒子係数=L/2D (i)
(L:分散相粒子の平均円周長(μm)、D:分散相粒子の平均最大粒子径(μm))
[2]
前記樹脂組成物がハイインパクトポリスチレンを含まない、[1]に記載の成形体。
【0014】
[3]
前記樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率が1.8GPa以上10GPa以下であり、
前記樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度(kJ/m2)を前記樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率(GPa)で除した値(シャルピー衝撃強度/曲げ弾性率)が10以上である、[1]または[2]に記載の成形体。
【0015】
[4]
肉厚が2.0mmの前記成形体において、−40℃の低温ダート衝撃強度が6J以上であり、かつ前記樹脂組成物(厚さ2.0mm)のUL94ランクが5Vである、[1]〜[3]のいずれかに記載の成形体。
【0016】
[5]
前記樹脂組成物の成形方法が多色成形である、[1]〜[4]のいずれかに記載の成形体。
【0017】
[6]
前記樹脂組成物の成形方法が金属インサート成形である、[1]〜[4]のいずれかに記載の成形体。
【0018】
[7]
太陽電池モジュール用絶縁部品として用いられる、[1]〜[6]のいずれかに記載の成形体。
【0019】
[8]
自動車用もしくは据置用の二次電池、自動車用もしくは据置用の燃料電池、またはスマートメーター部品として用いられる、[1]〜[6]のいずれかに記載の成形体。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来のポリフェニレンエーテル系難燃樹脂の持つ難燃性を維持しつつ、耐薬品性に優れ、剛性と耐衝撃性とのバランスを向上させた、樹脂組成物を成形して得られる成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施の形態」という)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0022】
≪成形体≫
本実施の形態の成形体は、樹脂組成物を成形して得られる成形体であって、
前記成形体における−40℃の低温ダート衝撃強度が3J以上であり、
前記樹脂組成物が、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂を70〜90質量部、(B)水添ブロック共重合体を10〜30質量部含有し、さらに(A)および(B)の合計100質量部に対して(C)難燃剤を9〜30質量部含有し、
前記樹脂組成物において、(B)水添ブロック共重合体が分散相粒子として存在し、該分散相粒子についての下記式(i)により算出される分散相粒子係数が2.0以上3.1以下であり、
前記樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率が1.5GPa以上20GPa以下であり、
前記樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度(kJ/m2)を前記樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率(GPa)で除した値(シャルピー衝撃強度/曲げ弾性率)が8以上である。
【0023】
分散相粒子係数=L/2D (i)
(L:分散相粒子の平均円周長(μm)、D:分散相粒子の平均最大粒子径(μm))
本実施の形態の成形体は、特定の樹脂組成物を成形して得られる。当該樹脂組成物の成形方法としては、射出成形(インサート成形、中空成形、多色成形等を含む)、ブロー成形、圧縮成形、押出し成形、熱成形、厚板からの切削加工等が挙げられる。中でも、量産性の観点から射出成形が好ましく、多色成形や金属インサート成形がより好ましい。
【0024】
本実施の形態の成形体は、難燃性が求められる用途に好適であり、例えば、自動車、電気・電子、住設、エネルギー産業における電気・力・熱・光伝達部品や絶縁部品、およびこうした部品を収納あるいは保持するための筐体や躯体として好適に用いることができる。中でも、本実施の形態の成形体は、太陽電池モジュール用絶縁部品として用いられることが好ましく、また、自動車用もしくは据置用の二次電池、自動車用もしくは据置用の燃料電池、またはスマートメーター部品として用いられることが好ましい。
【0025】
一部のこのような用途に用いられる成形体としては、過酷な使用条件下に晒され、耐衝撃性や耐薬品性が求められるケースがある。繰り返し衝撃、電気衝撃、落下や衝突といった外的要因に耐えることが求められる。たとえば屋外で使用される筐体の場合は低温時のダート衝撃強度が重要になる。
【0026】
本実施の形態の成形体は、−40℃の低温ダート衝撃強度が3J以上であり、上述のような使用条件下での用途においても好適に用いることができる。また、本実施の形態の成形体は、肉厚が1.0mmで、−40℃の低温ダート衝撃強度が3J以上であることが好ましく、より好ましくは肉厚が2.0mmで、−40℃の低温ダート衝撃強度が6J以上である。前記範囲の低温ダート衝撃強度であると、例えば、筐体に雹がぶつかった場合でも破損し難く、内部の電気部品が露出する可能性が低くなり好ましい。当該−40℃の低温ダート衝撃強度の上限は、特に限定されないが、例えば、肉厚2.0mmで100J以下である。
【0027】
なお、本実施の形態において、−40℃の低温ダート衝撃強度は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0028】
この成形体の−40℃の低温ダート衝撃強度を発現するためには成形体の形状もさることながら、構成する樹脂組成物自体の低温衝撃強度が重要である。本実施の形態に用いる樹脂組成物の−40℃におけるシャルピー衝撃強度は、10kJ/m2以上であることが好ましく、より好ましくは15kJ/m2以上である。成形体における−40℃の低温ダート衝撃強度を発現するためには、−40℃におけるシャルピー衝撃強度が上記範囲内の樹脂組成物を用いることが好ましい。
【0029】
−40℃におけるシャルピー衝撃強度が10kJ/m2未満の樹脂組成物では、成形体の肉厚を厚くしたり、補強構造を設けたりした場合に成形体における−40℃の低温ダート衝撃強度を発現できる可能性があるが、薄肉(例えば2mm以下)の成形体の場合には補強デザインの制約が厳しくなり現実的に−40℃の低温ダート衝撃強度を発現することが難しくなる。
【0030】
(B)成分の含有量と分散粒径とを特定量確保することにより、−40℃におけるシャルピー衝撃強度が上記範囲内の樹脂組成物を得ることができる。
【0031】
なお、本実施の形態において、−40℃におけるシャルピー衝撃強度は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0032】
本実施の形態の成形体は、単に柔軟性の付与で衝撃強度を高めるだけでよいわけではなく、筐体や躯体として例えばスナップフィット特性を使った勘合や金属部品のネジによる取り付けや、内部部品の発熱に対する耐熱変形防止も重要であり、剛性と衝撃特性とのバランスが求められる。
【0033】
本実施の形態の成形体は、驚くべきことに、単に高い低温衝撃強度を有するだけでなく、十分な材料剛性も有していることである。一般に剛性と衝撃特性とは相反する関係にあるが、本実施の形態の成形体は、以下の特性を有する樹脂組成物を用いることによって、剛性と衝撃特性とをバランス良く向上させている。本実施の形態の成形体において、樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m2)を樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率(単位:GPa)で除した値(シャルピー衝撃強度/曲げ弾性率)が、8以上であり、好ましくは10以上である。この関係において、シャルピー衝撃強度の上限は特に限定されないが、曲げ弾性率の下限は1.5GPa以上であり、好ましくは1.8GPa以上である。曲げ弾性率の下限が1.5GPaより低くなると、成形体としての耐熱剛性が得られ難くなる。一方、曲げ弾性率が高すぎると、例えば、スナップフィット勘合時の嵌めこみに大きな力が必要となり作業性が劣るほか、2色成形時に片方の樹脂との密着にばらつきを生じて密閉性が低下し水分の浸入を招いた入り、金属インサート成形では収縮時の内部歪みが高くなり、クラックを生じやすくなるため、曲げ弾性率の上限は20GPa以下であり、好ましくは10GPa以下である。
【0034】
シャルピー衝撃強度/曲げ弾性率の上限は、特に限定されないが、例えば、40以下である。
【0035】
(A)成分と(B)成分との含有量を適切な範囲とし、例えば、後述の製造方法で樹脂組成物を得ることにより、樹脂組成物の23℃における、シャルピー衝撃強度/曲げ弾性率を上記範囲内に制御することができる。
【0036】
なお、本実施の形態において、23℃におけるシャルピー衝撃強度および23℃における曲げ弾性率は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0037】
また、本実施の形態に用いる樹脂組成物は、例えば切削加工油、食用オイル、エンジンオイル、グリース、防錆剤、可塑剤、接着剤、封止剤、酸・アルカリ、有機溶剤等の薬品が接触する恐れのある環境を踏まえ、0.3%の歪み条件で行った耐薬品性クラック試験において、有機溶剤、切削加工油、酸・アルカリ溶液から選ばれる物質に1時間以上さらされても亀裂破壊を生じないものが好ましい。
【0038】
特に本実施の形態に用いる樹脂組成物は、金属をインサートして成形する場合には、金属切削時の加工油との接触が考えられるため良好な耐油性が求められ、多色成形技術を用いて成形するには、例えばポリオレフィン系エラストマー等のオーバーモールドされる樹脂からのブリード成分に対する耐性が求められる。
【0039】
さらには本実施の形態に用いる樹脂組成物のUL−94垂直燃焼試験に基づき測定した燃焼レベルがV−0であることが好ましく、特に1.5mm以下の薄肉における燃焼レベルがV−0であることがより好ましい。
【0040】
また、本実施の形態に用いる樹脂組成物は、厚さ2.0mmの場合において、UL94ランクが5Vであることが好ましい。このような樹脂組成物を成形して得られる成形体は、難燃性に優れる。
【0041】
樹脂組成物中に特定量の(C)難燃剤を含有させることにより、樹脂組成物(厚さ2.0mm)のUL94ランクを5Vとすることができる。
【0042】
なお、本実施の形態において、UL94ランクは後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0043】
〈樹脂組成物〉
本実施の形態に用いる樹脂組成物は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂を70〜90質量部、(B)水添ブロック共重合体を10〜30質量部含有し、さらに(A)および(B)の合計100質量部に対して(C)難燃剤を9〜30質量部含有する。
【0044】
以下、樹脂組成物を構成する各成分について詳細に説明する。
【0045】
[(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂]
本実施の形態で用いられる(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、下記一般式(1)および/または一般式(2)で表される繰り返し単位を有するポリフェニレンエーテルの単独重合体、あるいは共重合体であることが好ましい。
【0046】
【化1】

【0047】
【化2】

(一般式(1)および(2)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6は各々独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜9のアリール基またはハロゲン原子を表す。但し、R5、R6は同時に水素ではない。)
ポリフェニレンエーテルの単独重合体の代表例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−14−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられる。
【0048】
ポリフェニレンエーテル共重合体とは、一般式(1)および/または一般式(2)で表される繰り返し単位を主たる繰返し単位とする共重合体である。その例としては、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、2,6−ジメチルフェノールとo−クレゾールとの共重合体、あるいは2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールおよびo−クレゾールとの共重合体等が挙げられる。ポリフェニレンエーテルの中で、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが好ましい。日本国特開昭63−301222号公報等に記載されている、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニットや2−(N−アルキル−N−フェニルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニット等を部分構造として含んでいるポリフェニレンエーテルは特に好ましい。
【0049】
ポリフェニレンエーテルの還元粘度(単位dl/g、クロロホルム溶液、30℃測定)は、好ましくは0.25〜0.6の範囲、より好ましくは0.35〜0.55の範囲である。
【0050】
本実施の形態においてはポリフェニレンエーテルの一部または全部が不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性された変性ポリフェニレンエーテルを用いることができる。この変性ポリフェニレンエーテルは、日本国特開平2−276823号公報(米国特許5159027号、35695号)、日本国特開昭63−108059号公報(米国特許5214109号、5216089号)、日本国特開昭59−59724号公報等に記載されている。変性ポリフェニレンエーテルは、例えばラジカル開始剤の存在下または非存在下において、ポリフェニレンエーテルに不飽和カルボン酸やその誘導体を溶融混練して反応させることによって製造される。あるいは、ポリフェニレンエーテルと、不飽和カルボン酸やその誘導体とをラジカル開始剤存在下または非存在下で有機溶剤に溶かし、溶液下で反応させることによって製造される。
【0051】
不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ハロゲン化マレイン酸、シス−4−シクロヘキセン1,2−ジカルボン酸、エンド−シス−ビシクロ(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸などや、これらジカルボン酸の酸無水物、エステル、アミド、イミドなど、さらにはアクリル酸、メタクリル酸などや、これらモノカルボン酸のエステル、アミドなどが挙げられる。また、飽和カルボン酸であるが、変性ポリフェニレンエーテルを製造する際の反応温度でそれ自身が熱分解し、本実施の形態で用いる誘導体となり得る化合物も用いることができる。具体的にはリンゴ酸、クエン酸などが挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
(A)ポリフェニレンエーテル樹脂は一般に粉体として入手でき、その好ましい粒子サイズは平均粒子径1〜1000μmであり、より好ましくは10〜700μm、特に好ましくは100〜500μmである。加工時の取り扱い性の観点から(A)ポリフェニレンエーテル樹脂の平均粒子径は1μm以上が好ましく、溶融混練における未溶融物の発生を抑制するためには1000μm以下が好ましい。
【0053】
なお、(A)ポリフェニレンエーテル樹脂の平均粒子径は、例えばレーザー粒度計により測定することができる。
【0054】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂にはスチレン系樹脂を含むことが可能である。
【0055】
スチレン系樹脂とは、スチレン系化合物、またはスチレン系化合物とスチレン系化合物に共重合可能な化合物とをゴム質重合体存在下または非存在下に重合して得られる重合体をいう。
【0056】
スチレン系化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられ、特に好ましいのはスチレンである。
【0057】
また、スチレン系化合物と共重合可能な化合物としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物類;無水マレイン酸等の酸無水物等が挙げられ、スチレン系化合物とともに使用される。スチレン系化合物と共重合可能な化合物の使用量は、スチレン系化合物との合計量に対して20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下である。
【0058】
また、ゴム質重合体としては共役ジエン系ゴムあるいは共役ジエンと芳香族ビニル化合物との共重合体あるいはエチレン−プロピレン共重合体ゴム等が挙げられる。具体的には、ポリブタジエンおよびスチレン−ブタジエン共重合体が好ましい。また、ゴム質重合体としては、部分的に水素添加された不飽和度80〜20%のポリブタジエン、または1,4−シス結合を90%以上含有するポリブタジエンを用いることが特に好ましい。
【0059】
スチレン系樹脂の具体例としては、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、ゴム補強スチレン−アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)、その他のスチレン系共重合体等が挙げられる。特にポリスチレンおよび部分的に水素添加された不飽和度80〜20%のポリブタジエンを用いたゴム補強ポリスチレンの組合せが好ましい。
【0060】
本実施の形態において、好ましいスチレン系樹脂はホモポリスチレンであり、アタクチックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレンのどちらも使用できる。本実施の形態に用いる樹脂組成物は、低温衝撃性と耐薬品性との観点から、ハイインパクトポリスチレンを含まないことが好ましい。
【0061】
スチレン系樹脂の含有量は、(A)および(B)の合計100質量部において、好ましくは0〜20質量部の範囲、より好ましくは0〜10質量部の範囲である。
【0062】
ここで、スチレン系樹脂は、ポリフェニレンエーテル樹脂の一部を置き換える形で用いられ、スチレン系樹脂の含有量分だけポリフェニレンエーテル樹脂は減じられることになる。
【0063】
スチレン系樹脂の含有量に応じて流動性は向上し、20質量部以下で耐熱性および難燃性に優れ、無添加の場合は特に耐熱性および耐熱エージング性に優れる。
【0064】
本実施の形態に用いる樹脂組成物において、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量は他の成分によって任意に変動するが、(A)および(B)の合計100質量部において、70〜90質量部の範囲が好ましい。より好ましくは、70〜85質量部である。(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が70質量部以上であると、耐熱温度が高く、耐熱エージング特性が優れる。また、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量が90質量部以下であると、必然的に(B)成分の含有量が多くなるため、耐衝撃性が優れる。
【0065】
[(B)水添ブロック共重合体]
本実施の形態に用いる(B)水添ブロック共重合体は、スチレンと共役ジエン化合物とのブロック共重合体すなわちポリスチレンブロックと共役ジエン化合物重合体ブロックからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体である。(B)成分として、数平均分子量150,000〜350,000の水添ブロック共重合体を少なくとも1種を選択して用いることが好ましい。
【0066】
水素添加による共役ジエン化合物由来の不飽和結合の水添率は60%以上が好ましく、より好ましくは80%以上、更に好ましくは95%以上である。水素添加前のブロック共重合体の構造は、スチレンブロック鎖をS、ジエン化合物ブロック鎖をBと表すと、S−B−S、S−B−S−B、(S−B−)4−Si、S−B−S−B−S等を有する構造が挙げられる。また、ジエン化合物重合体ブロックのミクロ構造は任意に選ぶことができる。ビニル結合量(1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合との合計)は、ジエン化合物重合体の結合全体に対し好ましくは2〜60%、より好ましくは8〜40%の範囲である。
【0067】
(B)水添ブロック共重合体の数平均分子量は、好ましくは150,000〜350,000であり、より好ましくは200,000〜300,000である。(B)水添ブロック共重合体の数平均分子量が150,000以上であると、樹脂組成物の耐衝撃性が優れる傾向にある。(B)水添ブロック共重合体の数平均分子量に比例して、樹脂組成物の耐衝撃性は向上し、(B)水添ブロック共重合体の数平均分子量が350,000以下で、樹脂組成物の耐衝撃性は十分であり、350,000以下で、樹脂組成物の溶融押出し時の負荷が低く加工流動性に優れ、樹脂組成物中への(B)成分の分散性にも優れる。
【0068】
本実施の形態で用いられる(B)水添ブロック共重合体は、少なくとも1個のスチレン重合体ブロック鎖が数平均分子量15,000以上であることが好ましく、より好ましくは20,000以上50,000以下である。特に好ましくは全てのスチレン重合体ブロック鎖の数平均分子量が15,000以上である。
【0069】
なお、本実施の形態において、数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)により測定することができる。
【0070】
(B)水添ブロック共重合体におけるスチレン重合体ブロックが全共重合体に占める範囲は、スチレン重合体ブロック鎖の数平均分子量が上記の範囲であれば特に制限されないが、好ましくは10〜70質量%、より好ましくは20〜50質量%の範囲である。
【0071】
(B)水添ブロック共重合体は、組成や構造の異なる2種以上の水添ブロック共重合体を併用することもできる。例えば、結合スチレン重合体ブロック含有量50%以上の水添ブロック共重合体と結合スチレン重合体ブロック含有量30%以下の水添ブロック共重合体との併用や分子量の異なる水添ブロック共重合体の併用、あるいはスチレンと共役ジエンのランダム共重合体ブロックを含有するブロック共重合体を水添して得られる水添ランダムブロック共重合体を併用することも可能である。
【0072】
本実施の形態に用いる樹脂組成物において、(B)水添ブロック共重合体の含有量は、(A)および(B)の合計100質量部に対して、10〜30質量部の範囲である。好ましくは15〜30質量部である。(B)水添ブロック共重合体の含有量が10質量部以上で、樹脂組成物の衝撃強度が優れ、30質量部以下で、樹脂組成物の耐衝撃性が高く、且つ曲げ弾性率や曲げ強度などの剛性が優れる。また、(B)水添ブロック共重合体の含有量が30質量部以下であると、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)水添ブロック共重合体との相溶性が良好であり、成形体が層状に剥離を起こすことを抑制できる。
【0073】
[(C)難燃剤]
本実施の形態で用いられる(C)難燃剤としては、無機難燃剤、シリコーン化合物および有機リン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0074】
無機難燃剤としては、合成樹脂の難燃剤として一般的に用いられている結晶水を含有する水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物、ホウ酸亜鉛化合物、スズ酸亜鉛化合物を挙げることができる。
【0075】
シリコーン化合物としては、オルガノポリシロキサンまたはオルガノポリシロキサンを含む変性物が挙げられ、常温で液状或いは固体状を問わない。オルガノポリシロキサンの骨格構造は、線状構造、分岐構造どちらでもよいが、分子中に三官能性や四官能性構造を有することによる分岐構造さらには3次元構造を含むことが好ましい。主鎖や分岐した側鎖の結合基としては、水素または炭化水素基が挙げられ、好ましくはフェニル基、メチル基、エチル基およびプロピル基であるが、その他の炭化水素基が使用されても構わない。末端結合基としては、−OHまたはアルコキシ基、または炭化水素基のいずれも使用される。
【0076】
一般に難燃剤として用いられるシリコーン化合物としては、4種のシロキサン単位(M単位:R3SiO0.5、D単位:R2SiO1.0、T単位:RSiO1.5、Q単位:SiO2.0)のいずれかが重合してなるポリマーが挙げられる。本実施の形態において使用される好ましいオルガノポリシロキサンは、4種のシロキサン単位の合計量の中、式RSiO1.5で示されるシロキサン単位(T単位)を60モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは100モル%有し、使用する全シリコーン化合物において、前記Rで示される全シロキサン単位中の結合炭化水素基は少なくとも60モル%、さらに好ましくは80モル%以上がフェニル基を有するものである。これらのオルガノポリシロキサンは、結合基がアミノ基、エポキシ基、メルカプト基その他の変性基で置換された変性シリコーンも使用される。また、オルガノポリシロキサンをシリカや炭酸カルシウム等の無機充填剤に化学吸着或いは物理吸着させた変性物も使用できる。
【0077】
有機リン化合物としては、リン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物などが挙げられる。リン酸エステル化合物は、難燃性を向上するのに添加されるものであり、難燃剤として一般的に用いられる有機リン酸エステルであればいずれも用いることができる。
【0078】
リン酸エステル化合物の具体例としては、トリフェニルフォスフェート、トリスノニルフェニルフォスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルフォスフェート)、レゾルシノールビス[ジ(2,6−ジメチルフェニル)フォスフェート]、2,2−ビス{4−[ビス(フェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン、2,2−ビス{4−[ビス(メチルフェノキシ)ホスホリルオキシ]フェニル}プロパン等が挙げられるがこれらに制限されることはない。さらに上記以外にリン系難燃剤としては、例えばトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェートなどのリン酸エステル系難燃剤、ジフェニル−4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラブロモベンジルホスフォネート、ジメチル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、ジフェニル−4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモベンジルホスフォネート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2、3−ジブロモプロピル)−2、3−ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、およびビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート、ハイドロキノニルジフェニルホスフェート、フェニルノニルフェニルハイドロキノニルホスフェート、フェニルジノニルフェニルホスフェートなどのモノリン酸エステル化合物、および芳香族縮合リン酸エステル化合物などが挙げられる。
【0079】
これらの中、加工時のガス発生が少なく、熱安定性などに優れることから芳香族縮合リン酸エステル化合物が好適に用いられる。
【0080】
これらの芳香族縮合リン酸エステル化合物は、一般に市販されており、例えば、大八化学工業(株)のCR741、CR733S、PX200、(株)ADEKAのFP600、FP700、FP800などが知られている。
【0081】
特に好ましいのは、次式(I)または次式(II)で示される縮合リン酸エステルである。
【0082】
【化3】

【0083】
【化4】

(一般式(I)および(II)中、Q1、Q2、Q3およびQ4は、各々置換基であって各々独立に炭素数1から6のアルキル基を表し、R11およびR12は各々メチル基を表し、R13およびR14は各々独立に水素原子またはメチル基を表す。nは1以上の整数であり、n1およびn2は各々独立に0から2の整数を示し、m1、m2、m3およびm4は各々独立に0から3の整数を示す。)
上記式(I)および(II)で示される縮合リン酸エステルは、それぞれの分子が、nは1以上の整数、好ましくは1から3の整数である。
【0084】
この中で、好ましい縮合リン酸エステルは、式(I)におけるm1、m2、m3、m4、n1およびn2がゼロであって、R13およびR14がメチル基である縮合リン酸エステル、および式(I)におけるQ1、Q2、Q3、Q4、R13およびR14がメチル基であり、n1およびn2がゼロであり、m1、m2、m3およびm4が1から3の整数の縮合リン酸エステルであって、nの範囲は1から3、特にnが1であるリン酸エステルを50質量%以上含有するものが好ましい。
【0085】
これらの芳香族縮合リン酸エステル化合物で特に好ましいのは、耐熱エージング性の観点から酸価が0.1以下(JIS K2501に準拠して得られた値)の芳香族縮合リン酸エステル化合物である。
【0086】
また、ホスファゼン化合物としては、フェノキシホスファゼンおよびその架橋体が好ましく、特に好ましいのは、耐熱エージング性の観点から酸価が0.1以下(JIS K2501に準拠して得られた値)のフェノキシホスファゼン化合物である。
【0087】
本実施の形態に用いる樹脂組成物において、(C)難燃剤の含有量は、必要な難燃性レベルにより異なるが、(A)および(B)の合計100質量部に対して、9〜30質量部の範囲であり、好ましくは10〜25質量部の範囲である。(C)難燃剤の含有量が、9質量部以上で、成形体の難燃性が優れ、30質量部以下で成形体の難燃性が十分であり、耐熱性も維持できる。
【0088】
[(B)水添ブロック共重合体の粒子形状]
本実施の形態に用いる樹脂組成物において、(B)水添ブロック共重合体は、通常、分散相を形成して粒子(以下「分散相粒子」とも記す。)として存在する。
【0089】
本発明を達成する上で、(B)水添ブロック共重合体の粒子形状がコントロールされていることが好ましい。(B)水添ブロック共重合体の粒子形状が適切なサイズにあることで、樹脂組成物の耐衝撃特性、剛性、耐薬品性が好適にバランスする。
【0090】
具体的には、本実施の形態に用いる樹脂組成物において、(B)水添ブロック共重合体は分散相粒子として存在し、該分散相粒子についての下記式(i)により算出される分散相粒子係数が2.0以上3.1以下である。該分散相粒子係数は2.5以上であることが好ましい。該分散相粒子係数が前記範囲内であると、(B)水添ブロック共重合体の偏平が適切な大きさになり、安定した耐衝撃性が得られる。ちなみに分散相粒子が完全な円の場合、分散相粒子係数はπとなる。
【0091】
分散相粒子係数=L/2D (i)
(L:分散相粒子の平均円周長(μm)、D:分散相粒子の平均最大粒子径(μm))
分散相粒子係数を上記範囲内に制御する方法としては、(A)成分、(B)成分および(C)成分を特定の含有量とし、例えば、後述の製造方法を用いることが挙げられる。
【0092】
なお、分散相粒子の平均円周長および平均最大粒子径は、以下のとおり求めることができる。まず、樹脂組成物からISOダンベル片を成形し、射出要因の少ない流動末端から10mmのところから薄片を切削する。得られた薄片について、透過型電子顕微鏡(TEM)にて倍率2〜3万倍で観察写真を撮影する。得られた観察写真において、長径が0.3μm以上となる任意の分散相粒子30個を選択し、各々の分散相粒子の円周長および最大粒径を測定し、平均値を求める。
【0093】
さらに、(B)水添ブロック共重合体の粒子形状は平均円周長Lが好ましくは3.0μm以下であり、より好ましくは2.8μm以下である。平均円周長Lの下限値に特に制約はないが、例えば、1μmである。この範囲の粒子形状の(B)水添ブロック共重合体のであれば、樹脂組成物の耐衝撃性と剛性とのバランスがよく、耐薬品性の面でも好ましい。
【0094】
平均円周長Lを上記範囲内に制御する方法としては、(A)成分、(B)成分および(C)成分を特定の含有量とし、後述する製造方法を用いることが挙げられる。
【0095】
[(D)ポリオレフィン]
本実施の形態に用いる樹脂組成物は、更に(D)ポリオレフィンを含有することが好ましい。(D)ポリオレフィンを含有することにより、樹脂組成物の成形時の離型性が改良され、耐衝撃性も向上する。
【0096】
本実施の形態に用いられる(D)ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体あるいはエチレン−アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。中でも好ましいのは、低密度ポリエチレンおよびエチレン−プロピレン共重合体である。エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体あるいはエチレン−アクリル酸エステル共重合体は、一般に非晶性もしくは低結晶性の共重合体である。これらの共重合体には、さらに性能に影響を与えない範囲でその他のモノマーが共重合されていてもよい。エチレンと、プロピレン、ブテンあるいはオクテンとの成分比率は、特に限定するものではないが、プロピレン、ブテンあるいはオクテンの成分は5〜50モル%の範囲が好ましい。これらのポリオレフィンは、2種以上を併用することもできる。
【0097】
(D)ポリオレフィンのメルトフローレイト(MFR)は、ASTM D−1238準じ、シリンダー温度230℃で測定した値が0.1〜50g/10分が好ましく、より好ましくは0.2〜20g/10分である。
【0098】
(D)ポリオレフィンの含有量は、(A)および(B)の合計100質量部に対して、0.05〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量部、更に好ましくは0.5〜2質量部の範囲である。(D)ポリオレフィンの含有量が、0.05質量部以上で離型効果を発揮し、5質量部以下で剥離の問題もなく機械特性に優れる。
【0099】
[(E)熱安定剤]
本実施の形態に用いる樹脂組成物は、更に(E)熱安定剤を含有することが好ましい。(E)熱安定剤を含有することにより、樹脂組成物の熱劣化を抑制し、耐衝撃性だけでなく、耐熱エージング性も向上する。
【0100】
(E)熱安定剤は、例えば、樹脂組成物の製造、成形加工および使用時の熱または光暴露により生成したハイドロパーオキシラジカル等の過酸化物ラジカルを安定化したり、生成したハイドロパーオキサイド等の過酸化物を分解するための成分である。(E)熱安定剤の例としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤や過酸化物分解剤が挙げられる。前者は、ラジカル連鎖禁止剤として、後者は系中に生成した過酸化物をさらに安定なアルコール類に分解して自動酸化を防止する。
【0101】
前記熱安定剤としてのヒンダードフェノール系熱安定剤(酸化防止剤)の具体例は、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、アルキレイテッドビスフェノール、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニロキシ〕−1, 1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキシスピロ〔5・5〕ウンデカン等である。
【0102】
前記熱安定剤としての過酸化物分解剤の具体例は、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト等のホスファイト系熱安定剤(過酸化物分解剤)またはジラウリル−3,3'−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3'−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3'−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル−3,3'−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンズイミダゾール等の有機イオウ系熱安定剤(過酸化物分解剤)である。
【0103】
本実施の形態においては、酸化防止剤としてのヒンダードフェノール系熱安定剤と過酸化物分解剤としてのホスファイト系や有機イオウ系熱安定剤とを併用することが効果的である。
【0104】
また、他の熱安定剤として、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、硫化亜鉛などの金属酸化物または硫化物を上記熱安定剤と併用して用いることも可能である。
【0105】
(E)熱安定剤の含有量は、(A)および(B)の合計100質量部に対して、0.1〜3質量部が好ましく、より好ましくは0.2〜2質量部、更に好ましくは0.3〜2質量部の範囲である。(E)熱安定剤の含有量が、0.1質量部以上で熱安定性効果を発揮し、3質量部で効果は飽和するため3質量部以下であると経済的に好ましい。
【0106】
[(F)紫外線吸収剤および/または光安定剤]
本実施の形態に用いる樹脂組成物は、更に(F)紫外線吸収剤および/または光安定剤を含有することが好ましい。これらの(F)成分を含有することにより、樹脂組成物の耐光性を向上できるだけでなく、耐熱エージング性も向上する。
【0107】
本実施の形態で用いられる(F)紫外線吸収剤は、一般に市販されているものを使用でき、好ましいのはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である。具体例としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミノフェニル)ベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル}ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス{4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール}、6−(2−ベンゾトリアゾリル)−4−t−オクチル−6’−t−ブチル−4’−メチル−2,2’−メチレンビスフェノール等が挙げられる。
【0108】
本実施の形態で用いられる(F)光安定剤は、一般に市販されているものを使用でき、好ましいのはヒンダードアミン系光安定剤である。具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)セバケート、ビス(1−オクチロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)セバケート、コハク酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルペピリジンとの重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)イミノ}]、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンと2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジンとの縮合物、1,2,3,4−テトラ(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)−ブタンテトラカルボキシレート、1,4−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)−2,3−ブタンジオン、トリス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ペピリジル)トリメリテート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジル―n−オクトエート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジルステアレート、4−ヒドロキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルペピリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジニル)セバケート、2−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ペピリジル)等が挙げられる。これらは単独または2種以上を併用することができる。
【0109】
本実施の形態においては、(F)光安定剤と紫外線吸収剤とを併用することにより、樹脂組成物の耐光変色性が一段と向上し、更にまた耐熱エージング性が改善される。
【0110】
光安定剤と紫外線吸収剤との質量比率(光安定剤/紫外線吸収剤)は、好ましくは1/99〜99/1の範囲、より好ましくは95/5〜95/5、更に好ましくは50/50〜90/10である。
【0111】
また、(F)成分としての合計含有量は、(A)および(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜3質量部の範囲である。(F)成分としての合計含有量が、0.05質量部以上で耐光性効果を発揮し、5質量部で効果は飽和するため5質量部以下であると経済的に好ましい。
【0112】
[エポキシ化合物]
本実施の形態に用いる樹脂組成物は、更にエポキシ化合物を含有することができる。エポキシ化合物を含有することによって、樹脂組成物の耐光変色性が一段と向上し、更にまた耐熱エージング性が改善される。エポキシ化合物としては、エポキシ基を有する化合物であればよいが、好ましいのはオキシラン酸素を3%以上有するエポキシ化油脂やエポキシ化脂肪酸エステルなどの一般に熱可塑性合成樹脂の可塑剤として用いられる脂肪族エポキシ化合物であり、より好ましくはエポキシ化油脂であり、特に好ましいエポキシ化合物はオキシラン酸素を6%以上有するエポキシ化大豆油である。エポキシ化合物の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して好ましくは0.01〜3質量部、より好ましくは0.1〜2質量部の範囲である。
【0113】
[他の添加剤]
本実施の形態に用いる樹脂組成物には、更に他の特性を付与するため、あるいは本発明の効果を損なわない範囲で他の添加剤を加えることができる。他の添加剤としては、例えば、可塑剤、酸化防止剤、各種安定剤、帯電防止剤、離型剤、染顔料、その他の樹脂等が挙げられる。また、従来公知の、他の難燃剤および難燃助剤を配合することで、難燃性をさらに向上させることもできる。他の難燃剤および難燃助剤としては、例えば、カオリンクレー、タルク等の無機ケイ素化合物等が挙げられる。そのほか、ガラス繊維、ガラスフレーク等の無機充填剤、その他の繊維状補強剤等を配合することで、寸法精度や耐熱性がさらに優れた樹脂組成物とすることができる。また、本実施の形態に用いる樹脂組成物には、更に他のポリマーやオリゴマーを添加できる。例えば、流動性改良剤としての石油樹脂、テルペン樹脂およびその水添樹脂、クマロン樹脂、クマロンインデン樹脂、あるいは難燃性を改善するためのシリコーン樹脂やフェノール樹脂などが挙げられる。
【0114】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施の形態に用いる樹脂組成物は、例えば、上述した各成分を押出機で溶融混練することにより得ることができる。押出機としては、二軸押出機が好適である。また、溶融混練時の樹脂温度は、290〜350℃の範囲であることが好ましい。具体的には、押出機の前段温度を150〜250℃の範囲とすることが好ましく、後段温度を250〜330℃の範囲とすることが好ましく、ダイ出口樹脂温度は特に限定されないが290〜350℃の範囲とすることが好ましい。押出機のスクリュー回転数は、150〜600rpmの範囲であることが好ましい。
【0115】
押出機のスクリュー構成は、未溶融混合ゾーンを、全バレル長を100%としたとき、バレルの上流側から45〜75%とすることが好ましく、60〜70%とすることがより好ましく、70%とすることが特に好ましい。溶融混練する際に、例えば、(A)成分、(B)成分、(E)成分、ならびに(D)成分を、押出機の流れ方向に対して上流側供給口より供給し(C)成分を下流側にある供給口より注入してストランドを押出す方法が好ましい。
【0116】
未溶融混合ゾーンの押出スクリューにおいては、紛体成分の搬送効率が良いスクリュー構成が好ましく、スクリュー直径(D)に対するスクリューエレメントの長さ(L)の比率(L/D)が1.0〜3.0である、一条の正ネジスクリューエレメント、又は二条の正ネジスクリューエレメントを用いることが好ましい。
【0117】
溶融混練ゾーンのスクリューにおいては、例えばニーディングディスクR(3〜7枚のディスクを捻れ角度15〜75度で組み合わせた、L/Dが0.5〜2.0である正ネジスクリューエレメント)、ニーディングディスクN(3〜7枚のディスクを捻れ角度90度で組み合わせた、L/Dが0.5〜2.0であるニュートラルスクリューエレメント)、ニーディングディスクL(3〜7枚のディスクを捻れ角度15〜75度で組み合わせた、L/Dが0.5〜1.0である逆ネジスクリューエレメント)、等を適宜組み合わせたスクリュー構成が好ましく、逆ネジスクリュー(L/Dが0.5〜1.0である二条の逆ネジスクリューエレメント)、SMEスクリュー(正ネジスクリューに切り欠きをつけて混練性を良くした、L/Dが0.5〜1.5であるスクリューエレメント)、ZMEスクリュー(逆ネジスクリューに切り欠きをつけて混練性を向上させた、L/Dが0.5〜1.5であるスクリューエレメント)等のスクリューエレメントを、スクリュー構成中に適宜組み入れて混練を行ってもよい。
【0118】
このような製造方法により、上述した特性を有する樹脂組成物を得ることができる。
【実施例】
【0119】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。各実施例および各比較例で用いた成分は以下のとおりである。
【0120】
〔(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂〕
(PPE)
ポリ−2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル:旭化成ケミカルズ(株)製、商品名「ザイロン S201A」。
【0121】
(PS)
ホモポリスチレン:PSジャパン(株)製、商品名「PSJ−ポリスチレン 685」。
【0122】
〔その他の樹脂〕
(HIPS)
ハイインパクトポリスチレン:PSジャパン(株)製、商品名「PSJ−ポリスチレンH9302 」。
【0123】
〔(B)水添ブロック共重合体〕
スチレン−ブタジエンブロック共重合体(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンの結合構造)を水素添加して得られた以下の水添ブロック共重合体(ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブチレン)−ポリスチレンの結合構造)を用いた。
【0124】
(SEBS−1)
数平均分子量約250,000、スチレン重合体ブロック約33質量%、ブタジエンユニットの水素添加率98%以上の水添ブロック共重合体:Kraton Polymers LLC製、商品名「クレイトン G1651」。
【0125】
(SEBS−2)
数平均分子量約80,000、スチレン重合体ブロック約60質量%、ブタジエンユニットの水素添加率98%以上の水添ブロック共重合体:クラレ(株)製、商品名「セプトン 8104」。
【0126】
(SEBS−3)
数平均分子量約80,000、スチレン重合体ブロック約30質量%、ブタジエンユニットの水素添加率98%以上の水添ブロック共重合体:Kraton Polymers LLC製、登録商標「クレイトン G1650」。
【0127】
なお、本実施例において、数平均分子量は、例えばゲル・パーミッション・クロマトグラフ(GPC)により測定し、スチレン重合体ブロック量は、例えば四酸化オスミウム分解法により測定し、ブタジエンユニットの水素添加率は、例えば赤外線分光分析や核磁気共鳴分析により測定した。
【0128】
〔(C)難燃剤〕
以下のリン酸エステル難燃剤を用いた。
【0129】
(FR−1)
ビスフェノールA系縮合リン酸エステル:大八化学(株)製、商品名「CR−741」。
【0130】
〔(D)ポリオレフィン〕
(LDPE)
低密度ポリエチレン:旭化成ケミカルズ(株)製、商品名「サンテックLD M2004」を用いた。
【0131】
〔(E)熱安定剤〕
(STB−1)
酸化亜鉛/硫化亜鉛を1/1の質量比率でブレンドしたものを用いた。
【0132】
[実施例1]
[樹脂組成物の製造]
表1に示したとおり上記の成分を配合して樹脂組成物を以下の製造条件にて作製した。
【0133】
スクリュー直径58mm、バレル数13、減圧ベント口付二軸押出機(TEM58SS:東芝機械社製)を用いて、各成分を溶融混練した。溶融混練する際に(A)PPEおよびPS、(B)SEBS−1、(E)STB−1、ならびに(D)LDPEを、押出機の流れ方向に対して上流側のバレル1にある第1供給口より供給した。その後、(C)FR−1を、第1供給口より下流側にある第2(液体)供給口よりギアポンプを使って押出機のサイドに注入ノズルからフィードして、ストランドを押出した。押出されたストランドを冷却裁断して樹脂組成物ペレットを得た。
【0134】
押出機のスクリュー構成は未溶融混合ゾーンを全バレル長の70%とした。溶融ゾーンには、位相45度のニーディングエレメント(Rと表示)、位相90度のニーディングエレメント(Nと表示)、負位相45度のニーディングエレメント(Lと表示)を使用した。更に未溶融ゾーンには(C)FR−1を第2供給口よりフィードした後に位相45度のニーディングエレメント(Rと表示)を使用した。
【0135】
真空脱気ゾーンをバレル11に設け、−900hPaで減圧脱気した。(C)FR−1を供給する第2供給口をバレル5に設けた。バレル設定温度をバレル1:水冷、バレル2:100℃、バレル3〜6:200℃、バレル7:250℃、バレル8:270℃、バレル9〜13:280℃、ダイス:290℃とした。スクリュー回転数350rpm、吐出量400kg/hrの条件で押出をした。
【0136】
[樹脂組成物の特性評価方法等]
得られた樹脂組成物の特性評価を、以下の方法および条件で行った。結果を表1に示す。
【0137】
(試験片の作成)
得られた樹脂組成物ペレットを100℃で2時間乾燥した後、東芝機械(株)製IS−100GN型射出成形機(シリンダー温度を280℃、金型温度を80℃に設定)を用いて、ISO−15103に準じて試験片を作成した。
【0138】
(シャルピー衝撃強度)
シャルピー衝撃試験規格であるISO179/1eAに準拠して、樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度を測定した。
【0139】
樹脂組成物の低温におけるシャルピー衝撃強度は、安田精機社製、シャルピー衝撃試験機「258−PLA」を用いて、−40℃環境下で測定した。
【0140】
(耐薬品性)
得られた樹脂組成物ペレットを射出成形して得られた150mm×150mm×3mmの平板から10mm×50mmの短冊を長手方向が流動と直角になるような形に切出した。この短冊をベンディングバーに取り付け、0.3%のひずみを与えたのち、短冊の表面に下記(ア)〜(ウ)の薬品をしみ込ませた布を接触させ、1時間後の短冊の表面におけるクラックの発生状況を観察し、以下のとおり樹脂組成物の耐薬品性を評価した。
【0141】
〈耐薬品性の評価基準〉
1時間後に短冊が完全に破断した場合:×。
【0142】
1時間後の短冊の表面に微細のクラックが発生した場合:△。
【0143】
1時間後の短冊の表面にクラックが発生しなかった場合:○。
【0144】
〈薬品〉
(ア)ダフニパンチオイル:出光興産社製。
【0145】
(イ)シクロヘキサン(純度99.9%) 和光純薬工業株式会社製。
【0146】
(ウ)アンモニア水(25%濃度水溶液) 和光純薬工業株式会社製。
【0147】
(曲げ弾性率)
上記作成したISO試験片(4mm)を用いてISO178に準拠し、23℃の条件で樹脂組成物の曲げ弾性率を測定した。
【0148】
(難燃性)
UL94燃焼試験に基づき、上記作成した試験片(1.5mm試験片および2.0mm試験片)を用いて燃焼試験を行った。
【0149】
1.5mm試験片については、UL94−V試験に準じ、5サンプルに対し接炎を各2回、合計10回行い、消炎時間の平均秒数および最大秒数を測定し、ランク付けした。
【0150】
2.0mm試験片については、UL94−5VB試験に準じ、5サンプルに対し5秒間接炎を5回行い、消炎までの時間が平均60秒以下であるか否かを確認した。
【0151】
(分散相の粒径)
分散相粒子係数は、下記式(i)より算出した。
【0152】
分散相粒子係数=L/2D・・・・(i)
(L:分散相粒子の平均円周長(μm)、D:分散相粒子の平均最大粒子径(μm))
分散相粒子の平均円周長および平均最大粒子径は、以下のとおり求めた。まず、上記得られた樹脂組成物ペレットからISOダンベル片を成形し、射出要因の少ない流動末端から10mmのところから薄片を切削した。得られた薄片について、透過型電子顕微鏡(TEM)にて倍率2〜3万倍で観察写真を撮影した。得られた観察写真において、長径が0.3μm以上となる任意の分散相粒子30個を選択し、各々の分散相粒子の円周長および最大粒径を測定し、平均値を求めた。
【0153】
[成形体の製造]
得られた樹脂組成物ペレットを、東芝機械(株)製IS−100GN型射出成形機(シリンダー温度を280℃、金型温度を80℃に設定)を用いて成形することにより、一点のタブゲートから充填された格子状のリブを有する筐体の蓋の射出成形体(縦100mm×横70mm×厚み2mmで、10mm間隔で高さ2mmのリブを有する)を得た。
【0154】
[成形体の特性評価方法]
得られた成形体の特性評価を、以下の方法および条件で行った。結果を表1に示す。
【0155】
(低温ダート衝撃試験)
JIS K7211−2に準じて、成形体の低温ダート衝撃強度を以下のとおり測定した。
【0156】
上記得られた射出成形体を、−40℃の恒温槽に5時間静置した。その後、島津HYDORO SHOT HITS−P10(島津製作所製)を用い、前記射出成形体を内径40mmの円筒に挟みこんで固定し、直径20mmのストライカーを5m/secの速度で平板中央に垂直に落下させ、その破壊エネルギーを測定した。該測定値を成形体の低温ダート衝撃強度とした。
【0157】
[実施例2〜11、比較例1〜7]
表1に示す配合とした点以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを作製し、該樹脂組成物の特性を評価した。結果を表1に示す。また、得られた樹脂組成物ペレットを用いた以外は、実施例1と同様にして成形体を作製し、該成形体の特性を評価した。結果を表1に示す。
【0158】
[比較例8]
以下に示す樹脂組成物の製造条件とした点以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを作製し、該樹脂組成物の特性を評価した。結果を表1に示す。また、得られた樹脂組成物ペレットを用いた以外は、実施例1と同様にして成形体を作製し、該成形体の特性を評価した。結果を表1に示す。
【0159】
(樹脂組成物の製造条件)
押出機のスクリュー構成は、未溶融混合ゾーンを全バレル長の35%とした。溶融ゾーンには、位相45度のニーディングエレメント(Rと表示)、位相90度のニーディングエレメント(Nと表示)、負位相45度のニーディングエレメント(Lと表示)を使用した。更に溶融ゾーンには(C)FR−1を第2供給口よりフィードした後に位相45度のニーディングエレメント(Rと表示)、位相90度のニーディングエレメント(Nと表示)、負位相45度のニーディングエレメント(Lと表示)を使用した。
【0160】
真空脱気ゾーンをバレル11に設け、−900hPaで減圧脱気した。(C)FR−1を供給する第2供給口をバレル9に設けた。バレル設定温度をバレル1:水冷、バレル2:200℃、バレル3:250℃、バレル4〜13:280℃、ダイス:290℃とした。スクリュー回転数350rpm、吐出量400kg/hrの条件で押出をした。
【0161】
【表1】

以上より、本実施例で得られた成形体は、剛性、耐衝撃性、耐薬品性および難燃性のバランスに優れることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明の成形体は、産業用機器である事務機の外装、シャーシ、内部パーツ部品、その他防爆構造を必要とする容器、搬送機器、搬送容器、家電関連機器などのアダプター、記録媒体やそのドライブ、センサー機器、端子台、エネルギー・環境分野における太陽熱機器や濾過、浄化のための水処理部品、農業用灌漑機器・栽培機器や二次電池、燃料電池や太陽電池、地熱発電、風力発電等に使用される電気電子機器、および自動車部品、特にハイブリッド自動車・電気自動車用部品において耐衝撃性、剛性、難燃性と耐薬品性のバランスが求められる部品として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物を成形して得られる成形体であって、
前記成形体における−40℃の低温ダート衝撃強度が3J以上であり、
前記樹脂組成物が、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂を70〜90質量部、(B)水添ブロック共重合体を10〜30質量部含有し、さらに(A)および(B)の合計100質量部に対して(C)難燃剤を9〜30質量部含有し、
前記樹脂組成物において、(B)水添ブロック共重合体が分散相粒子として存在し、該分散相粒子についての下記式(i)により算出される分散相粒子係数が2.0以上3.1以下であり、
前記樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率が1.5GPa以上20GPa以下であり、
前記樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度(kJ/m2)を前記樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率(GPa)で除した値(シャルピー衝撃強度/曲げ弾性率)が8以上である、成形体;
分散相粒子係数=L/2D (i)
(L:分散相粒子の平均円周長(μm)、D:分散相粒子の平均最大粒子径(μm))
【請求項2】
前記樹脂組成物がハイインパクトポリスチレンを含まない、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率が1.8GPa以上10GPa以下であり、
前記樹脂組成物の23℃におけるシャルピー衝撃強度(kJ/m2)を前記樹脂組成物の23℃における曲げ弾性率(GPa)で除した値(シャルピー衝撃強度/曲げ弾性率)が10以上である、請求項1または2に記載の成形体。
【請求項4】
肉厚が2.0mmの前記成形体において、−40℃の低温ダート衝撃強度が6J以上であり、かつ前記樹脂組成物(厚さ2.0mm)のUL94ランクが5Vである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項5】
前記樹脂組成物の成形方法が多色成形である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項6】
前記樹脂組成物の成形方法が金属インサート成形である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項7】
太陽電池モジュール用絶縁部品として用いられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項8】
自動車用もしくは据置用の二次電池、自動車用もしくは据置用の燃料電池、またはスマートメーター部品として用いられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の成形体。

【公開番号】特開2013−40288(P2013−40288A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178492(P2011−178492)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】