説明

肉盛溶接方法及び金属部材の補修方法

【課題】肉盛溶接により補修した金属部材における、母材の硬度と肉盛溶接部分の硬度とを概略等しくして、金属部材の表面粗さのムラを抑制し得る属部材の補修方法を提供する。
【解決手段】表面に穴が生じている金属部材の当該穴を、母材である金属部材よりも硬度が低く、母材と同種の材料よりなる溶接材料を用いて肉盛溶接をする。肉盛溶接部分は固化時の急冷によって結晶粒が微細化するので結晶粒微細化硬化により母材の硬度と肉盛溶接部分の硬度とを概略等しくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉盛溶接方法及びそれを用いた金属部材の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属部材としての金型は、型部分の表面性状が重要である。そのため、型部分に不必要な穴等が生じている場合には、この穴を埋めるための補修が行われる。この補修は、一般に肉盛溶接によって行われている。
【0003】
最近は金属部材の補修技術について種々の改良が図られている。金属部材の内部に存在する欠陥を補修したり、組織不良を改善したりするために、回転するロッドにより摩擦発熱を生じさせて金属部材内部で塑性流動層を形成させ、この塑性流動層で金属部材内部を攪拌する補修方法がある(特許文献1)。この補修方法は、摩擦撹拌接合法(Friction Stirring Weld)を補修に適用した方法であって、金属部材の表面近傍の欠陥を、摩擦熱によって生じた塑性流動層の攪拌によって補修するものである。しかし、この方法は、金属部材の穴を肉盛によって補修する方法ではなく、また、押しつける回転体の先端部によって必然的に金属部材の表面に生じる凹みが、金属部材の型面に残らないように回転体を操作する必要がある。
【0004】
また、金属プレス等の金型耐圧面を現場で溶接補修する方法に関して、組成の異なる溶接棒により、肉盛溶接部分を母材と親和性の高いベース層、衝撃荷重、静荷重に耐えるクッション層としての中間層及び硬度が高く錆びない表面層で構成する方法がある(特許文献2)。
【0005】
更に、余盛が残された溶接継手における表層部の溶着金属部のビッカース硬度値を、母材のビッカース硬度値よりも小さくすることで、溶接余盛止端部における応力集中を低減した方法がある(特許文献3)。しかし、この文献は、溶接継手に関するものであるから、穴等の欠陥を補修する肉盛溶接方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−15426号公報
【特許文献2】特許第3954752号
【特許文献3】特開2004−337938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属部材の補修技術の改良は、溶接による組織改善、高強度化や長寿命化、歪極小化に関するものが多く、上掲特許文献1〜3も、溶接部位の組織の健全性や強度特性を向上させたり、溶接に起因する不具合を回避したりすることを主眼としたものである。
【0008】
しかしながら、肉盛溶接をした金属部材には、溶接部と母材との硬度差に起因する、表面粗度特性の面内変化という、別の問題があった。例えば、金型は、補修がされた後に金型表面を磨くことが行われるところ、補修部分と補修以外の部分とで磨きムラが生じることがあった。また、金型は、クリーニング等のためにブラスト処理をすることが行われるところ、このブラスト処理後の表面粗さが補修部分と補修部分以外の部分とで異なる場合があった。これらの磨きムラ、表面粗さの面内変化は、当該金型を用いて製造された成形品の色ムラや、光沢度ムラに直結していた。この問題に関する改善技術は、ほとんど存在しない。
【0009】
本発明は、このような状況下で発明されたものであり、その目的は、肉盛溶接後に、肉盛溶接部分の硬度を母材の硬度と概略等しくして、表面硬度の面内均一化を図ることのできる肉盛溶接方法及びこの肉盛溶接方法を用いた金属部材の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の肉盛溶接方法は、非焼入硬化型金属材料よりなる母材である金属部材に、この母材よりも硬度が低く、母材と同種の材料よりなる溶接材料を用いて肉盛溶接をすることを特徴とする。
【0011】
本発明の金属部材の補修方法は、表面に穴が生じている金属部材の当該穴を、母材である金属部材よりも硬度が低く、母材と同種の材料よりなる溶接材料を用いて肉盛溶接をする上記の肉盛溶接方法により補修することを特徴とする。
【0012】
本発明の金属部材の補修方法は、肉盛溶接の後、肉盛溶接部分を加工硬化させることができる。また、母材である金属部材がタイヤ成形用金型である場合に本発明の金属部材の補修方法を好適に適用することができる。更に、補修をした部分である肉盛溶接部分又はこの補修をした後に加工硬化させた部分である肉盛溶接部分のビッカース硬度と、母材のビッカース硬度との硬度の差は20以内であることが好ましく、10以内であることが、より好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非焼入硬化型金属材料よりなる母材である金属部材の肉盛溶接の際に、この母材よりも硬度が低く、母材と同種の材料よりなる溶接材料を用いることにより、溶接金属の硬度を、固化時の結晶粒微細化硬化によって、母材の硬度と概略等しくすることができ、ひいては金属部材の表面硬度の面内均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】タイヤ成形用金型の表面近傍の断面を示す模式図である。
【図2】タイヤ成形用金型における肉盛溶接部分の硬度の例を示すグラフである。
【図3】タイヤ成形用金型における肉盛溶接部分の硬度の例を示すグラフである。
【図4】タイヤ成形用金型における肉盛溶接部分の硬度の例を示すグラフである。
【図5】実施例の結果から硬度を多変量解析した結果を示すグラフである。
【図6】補修を行う金型の模式的な断面図である。
【図7】タイヤ成形用金型における肉盛溶接部分の硬度の例を示すグラフである。
【図8】タイヤ成形用金型における肉盛溶接部分の硬度の例を示すグラフである。
【図9】タイヤ成形用金型における肉盛溶接部分の硬度の例を示すグラフである。
【図10】実施例の結果から硬度を多変量解析した結果を示すグラフである。。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の肉盛溶接方法及び金属部材の補修方法を、より具体的に説明する。
本発明の肉盛溶接方法及び金属部材の補修方法は、肉盛溶接をする母材である金属部材として、非焼入硬化型金属材料よりなるものを対象とする。非焼入硬化型金属材料は、焼入れ硬化をしない金属材料のことをいう。焼入れ硬化をする金属材料は、金属材料のうち、フェライト鋼、鋳鋼、鋳鉄があるが、溶体化処理後の急冷によって時効硬化する金属材料は、焼入れ硬化をする金属材料には含まれないものとする。焼入れ硬化をする金属材料は、肉盛溶接の際に溶接部近傍で局部的に硬化するので、本発明で所期した金属部材の表面硬度の面内均一化を達成するのが難しい,また、焼入れ硬化をする金属材料としての鋼材は、使用する母材や溶接材料の硬度範囲が広い(ビッカース硬度Hvが100〜200)ので、金属部材の表面硬度の面内均一化を達成するための調整が難しい。更に、鋼材は非鉄金属材料よりも硬いので、後述するような加工硬化をさせるための加工に大きな応力を要する。
【0016】
したがって、本発明において焼入れ硬化をしない金属材料とは、金属材料のうちフェライト鋼、鋳鋼、鋳鉄を除外する意味である。焼入れ硬化をする金属材料は、具体的には、非鉄金属のアルミニウム合金及び銅合金がある。アルミニウム合金のビッカース硬度Hvは50〜100程度であり、硬度範囲が鋼材よりも狭い。これらのアルミニウム合金、銅合金は、タイヤ成形用金型等の金型の材料として用いられる。
【0017】
上記非焼入硬化型金属材料よりなる母材である金属部材を肉盛溶接により補修をする際に、この母材よりも硬度が低く、母材と同種の材料よりなる溶接材料を用いる。母材と同種の材料とは、母材と主成分を同じくする材料をいい、いわゆる共材、共金である。例えば母材がアルミニウム合金である場合には、溶接材料は主成分がアルミニウムであるところの、純アルミニウム又はアルミニウム合金である。
【0018】
溶接材料に母材よりも硬度が低い溶接材料を用いて、金型等の金属部材に生じている穴の補修を肉盛溶接によって行う場合、補修される金属部材の全体の大きさに対して、補修する部分の大きさは極めて小さい。そのため、肉盛溶接の際に溶接金属は、母材によって急冷されて固化する。急冷された溶接金属は、結晶粒径が小さい、すなわち微細化された結晶組織を有している。結晶組織の結晶粒径と硬度との関係は、ホール−ペッチ則に示されるように結晶粒径が小さいほど硬度が高くなる。したがって、急冷された溶接金属の硬度は、溶接材料の硬度よりも高くなることから、補修部分である肉盛溶接部分の硬度を母材の硬度と概略等しいものとすることができる。
【0019】
肉盛溶接部分の硬度上昇の程度は、単位時間当たりの溶接入熱、溶接量、溶接材料としての溶接棒の基本硬度の関数となる。したがって、肉盛溶接部分の硬度と母材の硬度とを概略等しくするために、これらの関係式を求め、その関係式に基づいて補修後の肉盛溶接部分の硬度が、母材の硬度と同等になるような、又は所定内の硬度差となるような溶接条件で肉盛溶接をする。これにより、金属部材の表面硬度の面内均一化を図ることができ、ひいては金属部材の表面粗度の均一化を図ることができる。したがって、上述のような肉盛溶接法を金属部材の補修に適用することにより、金属部材に生じた穴を効果的に補修することができる。
【0020】
肉盛溶接部分の硬度上昇が母材の硬度にまで達しない場合には、肉盛溶接後に肉盛溶接部分を加工して塑性歪を導入して加工硬化させ、これにより肉盛溶接部分の硬度を、母材の硬度と同等とすることができる。加工の具体例は、肉盛溶接部分をハンマーやポンチ等により叩くことがある。また、肉盛溶接部分をハンマーやポンチ等により叩くことは、肉盛溶接部分の溶接金属が何らかの衝撃や圧力により欠落するのを防止するという効果も有する。もっとも、肉盛溶接部分を加工硬化させるための加工手段はこれに限定されない。金型の型面の補修では、補修部分である肉盛溶接部分以外の部分に、不要な塑性歪が導入されないような加工をする。
【0021】
加工硬化による肉盛溶接部分の硬度上昇は、肉盛溶接部分の硬度、溶接材質(加工硬化指数、加工硬化径数)、加えた塑性歪の量の関数となる。したがって、これらの関係式を求め、その関係式に基づいて加工後の肉盛溶接部分の硬度が、母材の硬度と同等になるように肉盛溶接部分の加工をする。
【0022】
本発明の補修方法は、タイヤ成形用金型の補修に用いて好適である。タイヤ成形用金型は、アルミニウム合金が使われるのが一般的である。また、タイヤ成形用金型は、タイヤの踏面部のサイプを形成するためにブレードが金型に埋め込まれるところ、このブレードを固定するピンの打ち込み穴を埋めるように、金型の型面を補修する必要がある。更に、不要なブレード穴を埋めるように金型の型面を補修する場合がある。更に、タイヤ成形用金型を鋳造によって製造する場合、引け巣や介在物等による穴が型面に形成される場合がある。これらの場合の補修に本発明の補修方法を適用するのは好適である。本発明の補修方法を適用することにより、タイヤ成形用金型全体の大きさよりも補修する穴の大きさが格段に小さいので、肉盛溶接時に溶接金属はタイヤ成形用金型で急冷されて硬度が上昇する。また、タイヤ成形用金型は、補修後に金型表面を磨く必要があり、また、クリーニング等のために型面をブラスト処理するので、補修部分とそれ以外の部分とで硬度が異なると、成形品としてのタイヤの色ムラや光沢度ムラを招くという問題がある。本発明は、この問題を解決することができる。
【0023】
本発明の補修方法において、肉盛溶接部分の硬度と、母材の硬度とのビッカース硬度の差は、20以内であることが好ましい。この肉盛溶接部分の硬度とは、上述の加工硬化をさせない場合は肉盛溶接後の硬度であり、加工硬化させた場合はその加工硬化後の硬度である。ビッカース硬度で20以内の硬度とすることにより、金属部材が金型である場合に、表面粗度の面内分布を均一化することができる。硬度の差は、母材の硬度が肉盛溶接部分の硬度よりも高い場合及び低い場合の両方があり、硬度の差の絶対値が20以内とするのが好ましい。より好ましくはビッカース硬度で10以内である。
【実施例】
【0024】
母材である金属部材としてタイヤ成形用金型を用いた。使用したタイヤ成形用金型の材料は、AC2B(Al−Cu−Si系合金)、AC4C(Al−Si−Mg系合金)及びAC7A(Al−Mg系合金)の3種とした。また、使用した溶接材料としての溶接棒は、A−1100BY(純Al系)、A−4043BY(Al−Si系)及びA−5356(Al−Mg系)の3種とした。これらの母材の表面にφ1mm、深さ1mmの穴を形成して、そのタイヤ成形用金型の表面に生じている穴を補修する肉盛溶接を行った。
【0025】
溶接機は、テクノコート株式会社のスパークデポ(モデル300)を使用した。この溶接機は、溶接棒をチャックで把持して回転させながら、高電圧をかけることにより、狭い領域に肉盛溶接をすることができる装置である。
【0026】
肉盛溶接後、肉盛溶接部分及びその周囲を表面から深さ方向に切り出してその断面における溶接部表面、溶接部中心及び溶接部界面のそれぞれでビッカース硬度を測定した。硬度測定時の荷重は200gとした。図1に、タイヤ成形用金型1の溶接部1aにおける硬度測定箇所を溶接部表面p1、溶接部中心p2及び溶接部界面p3として図示した。また、これらの金型を用いてタイヤを成形した後のタイヤ表面の色ムラを官能評価した。この官能評価は、色ムラがなかった場合を◎印、色ムラがほとんどなく、製品として市場性ある場合を○印、色ムラが中程度あり、あまり良くない評価の場合を△印、色ムラが大きく、全く良くない評価の場合を×印とした。
【0027】
図2に、金型の材料がAC2Bである場合の肉盛溶接部の硬度をグラフで示す。また、このAC2Bの金型を用いてタイヤを成形した当該タイヤ表面の色ムラの評価結果を、肉盛溶接部表面の硬度差と共に表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
図2及び表1から、金型の材料がAC2Bである場合は溶接棒にA−4043又はA−5356を用いることにより、溶接部表面の硬度と母材硬度との硬度の差が10以内であった。そのため、タイヤに色ムラがない、良好な結果が得られた。これに対して、溶接棒にA−1100を用いたときには硬度差が20を超えており、タイヤの色ムラの評価は悪かった。
【0030】
図3に、金型の材料がAC4Cである場合の肉盛溶接部の硬度をグラフで示す。また、このAC4Cの金型を用いてタイヤを成形した当該タイヤ表面の色ムラの評価結果を、肉盛溶接部表面の硬度差と共に表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
図3及び表2から、金型の材料がAC4Cである場合は溶接棒にA−4043を用いることにより、溶接部表面の硬度と母材硬度との硬度の差が10以内であった。そのため、タイヤに色ムラがない、良好な結果が得られた。また、溶接棒にA−1100又はA−5356を用いたときには硬度差が20以内であり、色ムラはほとんどなかった。
【0033】
図4に、金型の材料がAC7Aである場合の肉盛溶接部の硬度をグラフで示す。また、このAC7Aの金型を用いてタイヤを成形した当該タイヤ表面の色ムラの評価結果を、肉盛溶接部表面の硬度差と共に表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
図4及び表3から、金型の材料がAC7Aである場合は溶接棒にA−4043を用いることにより、溶接部表面の硬度と母材硬度との硬度の差が10以内であった。そのため、タイヤに色ムラがない、良好な結果が得られた。また、溶接棒にA−1100を用いたときには硬度差が20以内であり、色ムラはほとんどなかった。更に、溶接棒にA−5356を用いたときには、硬度差が20を超えており、色ムラが中程度生じていた。
【0036】
また、溶接秒数、肉盛量、溶接材料の硬さを説明変数、金属表面の硬さを目的変数にした場合の多変量解析を実施した。決定係数0.70で各回帰係数は図5及び表4のようになった。
【0037】
【表4】

【0038】
実際に適用する場合は、各条件を変化させることで目的の金属表面の硬さを得ることができる。
【0039】
以下に述べる実施例では、タイヤ成形用金型の型面の補修を肉盛溶接でした後、この肉盛溶接部分に加工硬化を行って当該肉盛溶接部の硬度を上昇させた。使用したタイヤ成形用金型の材料は、上述した実施例と同様に、AC2B、AC4C及びAC7Aの3種とした。また、使用した溶接棒は、上述した実施例と同様に、A−1100BY、A−4043BY及びA−5356の3種とした。
【0040】
図6に示すように、これらの母材2における厚さが10mmである部分の表面に、ボンチングによる浅穴h1(深さ0.8mm)、穴あけ加工による直径が1mmで深さが1mmの穴h2及び直径が1mmで深さが2mmの穴h3の3種の穴を形成して、その穴を補修する肉盛溶接を行った。溶接機は、上述の実施例と同じテクノコート株式会社のスパークデポ(モデル300)を使用した。
【0041】
肉盛溶接後に、肉盛溶接部分をエアハンマーによって5秒間叩き、この肉盛溶接部分を加工硬化させた。その後、肉盛溶接部分及びその周囲を表面から深さ方向に切り出して、その断面における溶接部表面、溶接部中心及び溶接部界面のそれぞれでビッカース硬度を測定した。硬度測定時の荷重は200gとした。
【0042】
硬度測定の結果を、溶接部分の平均硬度により溶接棒の種類ごとに図7〜9にグラフで示す。図7は、溶接棒がA−1100BYの場合の例であった。図8は、溶接棒がA−4043BYの場合の例であった。図9は、溶接棒がA−5356BYの場合の例であった。これらの図面から、肉盛溶接後に肉盛溶接部分を叩くことにより、当該肉盛溶接部分を加工硬化させることができることが分かる。したがって、肉盛溶接部分が結晶粒微細化により溶接棒の硬度よりも硬度が上昇していても、母材の硬度に足りない場合には、当該肉盛溶接部分を加工硬化させることが有効であることが分かる。
【0043】
補修による肉盛溶接部分を加工硬化させた後の金型を用いてタイヤを成形した後のタイヤ表面の色ムラを官能評価した。この官能評価基準は、上述の実施例と同じである。
【0044】
表5は、金型材料がAC2Bである場合について、表6は、金型材料がAC4Cである場合について、表7は、金型材料がAC7Aである場合について、それぞれタイヤ表面の色ムラの評価結果を、金型の肉盛溶接部分の表面と母材との硬度差と共に示したものである。
【0045】
【表5】

【0046】
【表6】

【0047】
【表7】

【0048】
表5〜7の結果から、金型の材料及び補修する穴の深さに応じて適切に溶接棒の材料及び加工硬化の有無と加工硬化の程度を調整することにより、肉盛溶接部分は母材との硬度差を小さくし、この金型により成形されたタイヤ表面の色ムラを抑制することができた。
【0049】
また、加工硬化指数、歪印加量を説明変数、金属表面の硬さを目的変数にした場合の多変量解析を実施した。決定係数0.70で各回帰係数は図10及び表8のようになった。
【0050】
【表8】

【0051】
実際に適用する場合は、各条件を変化させることで目的の金属表面の硬さを得ることができる。
【0052】
以上の説明では、金属部材の材料がアルミニウム合金である例について説明したが、本発明は、実施例の記載に限定されず、金属部材が非焼入硬化型金属材料からなり、溶接材料がこの非焼入硬化型金属材料と同種の材料によって実施し得る材料であれば適用することができる。例えば、金属部材が銅合金である場合であっても、本発明の肉盛溶接方法及び補修方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1:タイヤ成形用金型
2:母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非焼入硬化型金属材料よりなる母材である金属部材に、この母材よりも硬度が低く、母材と同種の材料よりなる溶接材料を用いて肉盛溶接をすることを特徴とする肉盛溶接方法。
【請求項2】
表面に穴が生じている金属部材の当該穴を、請求項1記載の肉盛溶接方法により補修することを特徴とする金属部材の補修方法。
【請求項3】
肉盛溶接の後、肉盛溶接部分を加工硬化させる請求項2記載の金属部材の補修方法。
【請求項4】
金属部材が、タイヤ成形用金型である請求項2又は3に記載の金属部材の補修方法。
【請求項5】
母材と肉盛溶接部分とのビッカース硬度の差が20以内である請求項2〜4のいずれか1項に記載の金属部材の補修方法。
【請求項6】
母材と肉盛溶接部分とのビッカース硬度の差が10以内である請求項2〜5のいずれか1項に記載の金属部材の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−34997(P2013−34997A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170358(P2011−170358)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)