説明

肌状態評価方法

【課題】アトピー性皮膚炎の指標としてのTARCのように、健常人の肌状態の指標を探索する。アトピー性皮膚炎の客観的指標として、血清中のTARC濃度は、再現性よく定量可能であり、かつアトピー性皮膚炎症状の重症化に伴い比較的大きな変化を伴う上昇を示し、病態を反映することが知られている。アトピー性皮膚炎でない健常人においても、荒れ性肌、敏感肌、アトピー的な肌トラブルが起きやすい人が多数存するようになっている。TARCがアトピー性皮膚炎以外にも肌状態の指標となるかは知られていない。健常人の皮膚状態知ることができる指標を提供する。
【解決手段】血中のTARC濃度が健常人の肌の指標となることがわかり、採取されたサンプル中のTARC濃度を測定することで健常人の肌状態の評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健常人の肌状態を目常的な臨床現場環境下にて評価する方法に関する。より詳しくは、本発明は、対象の血液中に存在するTARC(Thymus and activation-regulated chemokine)濃度を測定し、TARC濃度から健常人の肌状態を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎は、強いかゆみのある湿疹の症状が継続し、あるいはよくなったり悪くなったりを繰り返すために、副作用の強いステロイド剤の適切な投与やアトピー性皮膚炎の症状の客観的な診断など、各種の重要な課題が存している。
【0003】
アトピー性皮膚炎の客観的な指標として、血清中のTARC濃度は、再現性良く定量可能であり、かつアトピー性皮膚炎症状の重症化に伴い比較的大きな変化を伴う上昇を示し、病態を反映することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。さらには、角層細胞中のTARC発現量を指標に、アトピー性皮膚炎の局所病態を評価する非侵襲的な方法も開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、アトピー性皮膚炎でない、所謂健常人においても、荒れ性肌、敏感肌、アトピー的な肌等、肌荒れや肌トラブルが起きやすい人が多数存するようになっている。即ち、その肌状態は、アトピー性皮膚炎に比して、乾燥度は弱く、肉眼観察上は正常な形態を維持している。肌の乾燥感や痒みを自覚する場合であっても、その程度は、アトピー性皮膚炎と比して極めて緩和である。かようなアトピー性皮膚炎でない健常人にとっても、TARCのような客観的な指標が切望されている。しかし、TARCはアトピー性皮膚炎の指標であるが、健常人においては肌状態の指標となることは全く知られていなかった。
【0005】
かような状況下に於いて、本発明者らは健常人を対象に、TARCと肌状態、即ち、血中TARC濃度と皮膚自覚症状、皮膚生理及び皮膚形態との関連性について鋭意研究探索を行ってきた。その結果、かような肌状態の各指標と血中TARC濃度との間に相関関係が存することに気がついた。即ち、かような関係を利用すれば、血中TARC濃度を指標に肌状態を推定できることである。しかし、かような健常人においてTARC濃度と肌状態とに相関関係が存することはこれまで全く知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−115813号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】玉置ら、目皮会誌:116巻(1),27−39,2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、健常人おいて、血中TARC濃度を利用して肌状態を精度良く推定する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような状況を鑑みて、本発明者らは、健常人の肌状態の評価方法の指標としてTARCに着目し、鋭意研究努力を重ねた結果、血中TARC濃度を指標に健常人の肌状態を精度良く推定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下の技術である。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に関する。
(1)採取されたサンプル中のTARC濃度を測定することを含む、健常人の肌状態の評価方法。
(2)前記肌状態を、経皮水分蒸散量、角層水分量、皮膚自覚症状及び角層形態からなる群より選択される一つ以上を用いて評価する、(1)に記載の健常人の肌状態の評価方法。
(3)前記サンプルが、血清である、(1)又は(2)に記載の健常人の肌状態の評価方法。
(4)前記健常人の年齢が、20歳以上60歳未満である、(1)〜(3)のいずれかに記載の健常人の肌状態の評価方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明方法によれば、血中TARC濃度を用いて、健常人の肌状態を精度良く推定する技術を提供することができる。更に、血中TARCのサンプルは、通常の臨床現場にて採取されたものを利用できるので、肌状態の測定が不要となり、被験者拘束や計測環境室設置などコスト・時間の大きなメリットが存する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、健常な女性の血清TARC濃度と経皮水分蒸散量との相関関係を示す。
【図2】図2は、健常な女性の血清TARC濃度と角層水分量との相関関係を示す。
【図3】図3は、健常な男女の血清TARC濃度と経費水分蒸散量との相関関係を示す。
【図4】図4は、健常な男女の血清TARC濃度と角層水分量との相関関係を示す。
【図5】図5は、健常な男女の血清TARC濃度と角層の剥がれ具合との相関関係を示す。
【図6】図6は、健常な男女の痒み自覚の有無と血清TARC濃度の相関関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明は、健常人において、血中TARC濃度と肌状態とが相関関係にあることを利用して、その相関関係を利用して血中TARC濃度から、肌状態を計測評価することなく、肌状態を精度良く推定することを特徴とする。以下に更に詳細に説明を加える。
【0014】
前記健常人とは、皮膚科医による問診や診断によりアトピー性皮膚炎症ではないと判断された人をいう。対象とする年齢は特段に制限を受けないが、血中TARC濃度と肌状態との相関関係を利用する際に、十分な推定精度を確保できる為には、20〜60歳の年齢範囲がより好ましい。
【0015】
前記サンプルとは、好ましくはヒトに由来する生物学的サンプルであり、例えば採取された血漿及び血清などの血液を意味する。
【0016】
前記TARCとは、特定の白血球を遊走化させるケモカイン群(白血球走化因子)の一つで、71個のアミノ酸より構成されるタンパク質であり、ケモカイン(CCモチーフ)リガンド17(CCL17)としても知られる。アトピー性皮膚炎では、病変部の表皮角化細胞により産生されたTARCがリンパ球(CCR4を発現するTh2細胞)を局所に遊走させ、Th2優位の免疫応答により、IgE産生や好酸球の浸潤・活発化が惹起されてアレルギー症状が出現すると考えられている。従ってアトピー性皮膚炎の診断や治療において、血清中のTARC濃度は重要な指標であることが分かっているが、アトピー患者以外である健常者において、TARCの意義は全く明らかになっていない。血清TARC濃度の測定は、例えば、(株)SRLなどの臨床検査会社に委託するか、あるいは塩野義製薬(株)社製のアラポート(登録商標)TARCなどの市販の体外診断用医薬品を利用すればよい。
【0017】
前記肌状態とは、経皮水分蒸散量、角層水分量、皮膚自覚症状及び角層形態等をいう。経皮水分蒸散量及び角層水分量の皮膚生理指標は、一般的に使用されている指標であり、市販の計測機器を利用して測定でき、例えば、CK社製のTewameter(登録商標)TM300、Corneometer(登録商標)CM825などが好ましく例示できる。
【0018】
前記皮膚自覚症状とは、主に乾燥感、ハリ感、ツッパリ感、ヒリヒリ感、痒み等の質問によって得られた指標である。より定量的かつ客観的指標とするには、これらの質問項目に対して、SD法的に3〜7段階の定量的基準を設定して評価を行なえばよい。更には専門医師の所見や基準写真を利用すれば、定量性や客観性が向上でき、より望ましい。
【0019】
前記角層形態とは、角層細胞に関する性状値をいい、例えば、角層細胞の面積、配列規則性、剥がれ具合、扁平度、体積等が例示できる。これらは定法によって、粘着テープを用いて皮膚より角層細胞を剥離し、染色又は非染色条件下、拡大ビデオや顕微鏡などを用いて剥離された角層細胞を観察・測定すればよい。かような指標の評価方法や評価基準はすでに多く特許公報として開示されており、それに従って利用することもできる。また、これらの性状値は、前記経皮水分蒸散量や角層水分量とも密接な関係があるので、経皮水分蒸散量、角層水分量、皮膚自覚症状或いは角層形態の指標の中から複数組み合わせて用いることも好ましく、血中TARC濃度との関係が高くなる所以による。
【0020】
実施例にて、血清TARC濃度と肌状態との相関関係を示すが、かような有意な相関関係があれば、推定式などを作製して、血清TARC濃度より肌状態を精度良く推定できる。相関関係解析や推定式の作製は、統計解析・多変量解析において予測式の作成可能な回帰分析や数量化一類などのSPSS社製やSAS社製の市販ソフトウェア或いはフリーソフトを利用できる。また、血清TARC濃度と肌状態とに関する十分な数の健常人のデータベース(DB)を作製しておき、該DBを利用すれば、ある被験者の血清TARC濃度を指標に、その被験者の各種の肌状態を精度良く推定することができるのでより好ましい。
【0021】
以下に実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がこれら実施例にのみ限定を受けないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0022】
<健常人女性の血清TARC濃度と肌状態の関係性>
健常人女性における、血清TARC濃度と肌状態の関連性を調べた。即ち、20歳〜60歳の範囲の健常者の168名の女性を対象に、血清TARC濃度と、肌状態として、角層水分量、経皮水分蒸散量、角層細胞面積、角層細胞の配列規則性、角層細胞の剥がれ具合及び皮膚自覚症状等について、定法に従って計測及び評価を行った。結果を図1及び図2に示す。
【0023】
〈健常人男女の血清TARC濃度と肌状態の関係性〉
健常人男女における、血清TARC濃度と肌状態の関連性を調べた。即ち、20歳〜60歳の範囲の健常者223名の男女を対象に、血清TARC濃度と、肌状態として、角層水分量、経皮水分蒸散量、角層細胞面積、角層細胞の配列規則性、角層細胞の剥がれ具合及び皮膚自覚症状等について、定法に従って計測及び評価を行った。結果を図3及び図4、図5、図6に示す。
【0024】
<計測方法と条件>
・血清TARC濃度:腕の静脈より血液を採取し、塩野義製薬(株)製のアラポート(登録商標)TARCを用いて分析した。
・肌状態測定条件:頬と前腕内側を対象部位に、洗浄後20分後、室温20℃、湿度50%の環境室で測定した。
・計測機器:経皮水分蒸散量は、CK社製のTewameter(登録商標)TM210、角層水分量は、IBS社製のSKICON200EXを用いて測定した。
・角層形態:定法により、テープストリッピングにより採取された角層細胞を染色後顕微鏡観察した。面積は、自動画像解析で平均面積として算出した。剥がれ具合及び配列規則性は、専門の評価者が評価基準写真を用いて、5段階及び4段階で算出した。
・統計検定:Speamanの順位和相関分析を用いた。
【0025】
図1及び図2から、健常な女性の血清TARC濃度と頬の経皮水分蒸散量及び頬角層細胞水分量との間には、各々有意な相関関係を認めた(p<0.01及びp<0.05)。
図3及び図4、図5、図6から、健常な男女の血清TARC濃度と頬の経皮水分蒸散量及び頬角層細胞水分量、角層細胞の剥がれ具合、男女の痒み自覚有無等との間には、各々有意な相関関係を認めた(p<0.01及びp<0.01、p<0.01、p<0.05)。
これより、健常人において、血清TARC濃度と経皮水分蒸散量及び角層細胞水分量、角層細胞の剥がれ具合、痒み自覚等の肌状態との相関関係を利用して、経皮水分蒸散量及び角層細胞水分量、角層細胞の剥がれ具合、痒み自覚等の肌状態を精度良く推定することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
DBを用いればTARC濃度が既知の健常者の肌状態を計測することなく精度良く推定することができ、その結果を用いれば、顧客と接する店頭などにおいて、肌状態のアドバイスや化粧品や健康食品等のアドバイス、あるいは化粧品や健康食品等効果の評価に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取されたサンプル中のTARC濃度を測定することを含む、健常人の肌状態の評価方法。
【請求項2】
記肌状態を、経皮水分蒸散量、角層水分量、皮膚自覚症状及び角層形態からなる群より選択される一つ以上を用いて評価する、請求項1に記載の健常人の肌状態の評価方法。
【請求項3】
前記サンプルが、血清である、請求項1又は2に記載の健常人の肌状態の評価方法。
【請求項4】
前記健常人の年齢が、20歳以上60歳未満である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の健常人の肌状態の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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