説明

肝線維化抑制剤

【課題】 発癌性のリスクがない安全な肝線維化抑制剤を提供すること。
【解決手段】 本発明の肝線維化抑制剤は、血管内皮前駆細胞を有効成分とすることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な肝線維化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肝線維化は肝細胞の壊死や損傷に対する一般的な反応であり、慢性肝炎から肝硬変に進行する重要な徴候として捉えられる症状である。従って、肝線維化の抑制は、慢性肝炎や肝硬変などの慢性的な肝臓疾患の予防や治療に有効であることから、古くから肝線維化抑制作用を有する物質の探索が行われており、例えば、非特許文献1〜非特許文献3には肝細胞成長因子(HGF:hepatocyte growth factor)が肝線維化抑制作用を有することが記載されている。
【0003】
しかしながら、HGFは肝線維化抑制作用とともに、癌細胞の増殖促進作用を有する。従って、HGFの投与によって潜在的な癌が急速に増大する恐れがあることから、HGFが有するような発癌性のリスクがない安全な肝線維化抑制剤が望まれている。
【非特許文献1】Yasunobu Matsuda, Kunio Matsumoto, Akira Yamada, Takefumi Ichida, Hitoshi Asakura, Yasunobu Komoriya, Eiji Nishiyama, and Toshikazu Nakamura. Preventive and Therapeutic Effects in Rats of Hepatocyte Growth Factor Infushion on Liver Fibrosis/Cirrhosis. Hepatology Vol.26, No.1, 1997: 81-89.
【非特許文献2】Toshimi Kaido, Shin-ichi Seto, Shoji Yamaoka, Akira Yoshikawa, and Masayuki Imamura. Perioperative Continuous Hepatocyte Growth Factor Supply Prevents Postoperative Liver Failure in Rats with Liver Cirrhosis. Journal of Surgical Research 74, 173-178(1998)
【非特許文献3】Shishiro Oe, Yasunori Fukunaka, Tetsuro Hirose, Yoshio Yamaoka, Yasuhiko Tabata. A trial on regeneration therapy of rat liver cirrhosis by controlled release of hepatocyte growth factor. Journal of Controlled Release 88(2003)193-200
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、発癌性のリスクがない安全な肝線維化抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、血管内皮前駆細胞(EPC:endothelial progenitor cell)が優れた肝線維化抑制作用を有することを見出した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の肝線維化抑制剤は、請求項1記載の通り、血管内皮前駆細胞を有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発癌性のリスクがない安全な肝線維化抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における肝線維化抑制剤の有効成分とする血管内皮前駆細胞は、臍帯血や末梢血に存在し、血管新生に関与する骨髄由来の未分化細胞であって、近年、心筋梗塞や脳梗塞などの虚血性疾患に対する臨床的応用が期待されているものである。また、Eitaro Taniguchiらの文献(Gastroenterology 2006;130:521-531)では、血管内皮前駆細胞は急性肝障害において破壊された肝細胞の再生を促す作用を有することが報告されている。しかしながら、この文献には、血管内皮前駆細胞が肝細胞の繊維化を抑制する作用を有することは記載されておらず、また、慢性肝障害に位置付けられる肝細胞の繊維化を抑制する作用は、破壊された肝細胞の再生を促す作用とは全く異なる作用であることから、たとえ当業者といえども、血管内皮前駆細胞が肝細胞の繊維化を抑制する作用を有することをこの文献に基づいて予期することはできない。血管内皮前駆細胞は、細胞表面マーカーであるCD31およびCD105に陽性であって(さらにCD34,CD133,Flk-1,Flt-1に陽性であってもよい)CD45に陰性である細胞として定義され、臍帯血や末梢血から血球細胞を除く単核球を単離し、そこからフローサイトメトリーを用いて採取することができることや、ウシ胎児血清や線維芽細胞増殖因子などを添加したM199やIMDMなどの培地を用いて培養することができることが当業者によって知られている(必要であれば上記のEitaro Taniguchiらの文献やその参照文献などを参照のこと)。本発明における肝線維化抑制剤をヒト(患者)に対して投与する場合、血管内皮前駆細胞は患者本人のものを非経口的(例えば静脈内投与)に投与することが望ましい。その投与量は患者の年齢や体重や性別や症状などに応じて適宜決定することが望ましいが、一例を挙げれば、数週間〜数ヶ月にわたって毎週または隔週、1×107〜1×109個/日の割合で投与することにより、血管内皮前駆細胞が障害肝に持続的に集積した状態が維持されるようにすることが望ましい。
【実施例】
【0009】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって何ら限定して解釈されるものではない。
【0010】
実施例1:血管内皮前駆細胞(以下「EPC」と略称する)の肝線維化抑制作用(マウス肝線維化モデルを用いた検討)
(1)EPCの単離および培養
国立大学法人筑波大学倫理規則の厳守のもと、ヒト臍帯血より血球細胞を除く単核球を単離し、そこからフローサイトメトリーを用いてCD31およびCD105に陽性であってCD45に陰性である細胞として採取し、IMDMに10%FABSおよびbFGF10ng/mlを添加した培地を用い、37℃、5%CO2の培養条件下で培養することにより増殖させた(必要であれば前出の文献を参照のこと)。
【0011】
(2)EPCの肝線維化抑制作用の肝線維化面積比による評価
BALB/cヌードマウス(8週齢)に対し、四塩化炭素200μL/kgを週2回4週間にわたって腹腔内投与することで肝線維化モデル(慢性肝障害モデル)を作製した。このモデルに対し、EPCの生理食塩水懸濁液(1×105個/μL)を、四塩化炭素の投与開始時から週1回静脈内投与した。4週間後、このようにして肝線維化モデルにEPCを投与した群(EPC投与群)と生理食塩水のみを投与した群(対照群)、さらに、肝線維化もEPC投与も行わずに飼育したマウス(非線維化群)のそれぞれの肝組織をシリウス・レッド染色して組織中の線維化部位を染色し、肝線維化面積比(組織中に占める線維化部位の割合)を定量することで、EPCの肝線維化抑制作用を評価した(いずれもn=6)。結果を図1に示す。図1から明らかなように、EPC投与群の肝線維化面積比は対照群の肝線維化面積比よりも有意に小さいことから(p<0.05)、EPCの肝線維化抑制作用を確認することができた。
【0012】
(3)EPCの肝線維化抑制作用のヒドロキシプロリン量による評価
四塩化炭素投与開始から4週間後のEPC投与群と対照群、さらに、非線維化群のそれぞれの肝線維化の指標である肝組織中のヒドロキシプロリン量を比較することで、EPCの肝線維化抑制作用を評価した(いずれもn=6)。結果を図2に示す。図2から明らかなように、EPC投与群のヒドロキシプロリン量は対照群のヒドロキシプロリン量よりも有意に少ないことから(p<0.05)、EPCの肝線維化抑制作用を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明は、発癌性のリスクがない安全な肝線維化抑制剤を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1における血管内皮前駆細胞の肝線維化抑制作用の肝線維化面積比による評価を示すグラフである。
【図2】同、血管内皮前駆細胞の肝線維化抑制作用のヒドロキシプロリン量による評価を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内皮前駆細胞を有効成分とすることを特徴とする肝線維化抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−266220(P2008−266220A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112183(P2007−112183)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】